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全地球凍結と生命進化

2010-10-05 22:49:49 | 学問

10/2に杉並区立科学館で東京大学の田近英一先生の特別講演「全地球凍結と生命進化」を聴講しました。内容の重要性に鑑みて、以下に報告することにしました。

 地球が誕生した46億年前から現在に至るまでの地球史は、冥王代、太古代、原生代、顕生代の4つの時代に分けられるということですが、その原生代には3回の全地球凍結があったというのが、全球凍結仮説です。これらの全球凍結は、6億5000万年前のマリノアン氷河時代、7億年前のスターチアン氷河時代、22億年前のヒューロニアン氷河時代と呼ばれています。この仮説は、いくつか挙げられている証拠からみて、かなり信憑性が高いものとみなされています。

 地球環境は、その氷床(大陸氷河)が存在する状態から、寒冷期、温暖期、超寒冷期の3つの安定状態に分けられるということです。寒冷期は両極地方にのみ氷床が残る現在の状態、温暖期は地球上に氷床が全く存在しない恐竜が反映していた時代のように非常に温暖な状態、超寒冷期は全球凍結となった状態です。寒冷期と温暖期は、通常の気候変動によって繰り返されます。全球凍結状態では、赤道附近を含めて地球上の大陸全体と海洋表層の全体が凍結状態にあったとされています。

 寒冷期の地球が、温室効果の極端な低下の環境となると、超寒冷期の地球に移ります。全球凍結状態の地球が約1000万年続いた後、温室効果の極端な増加によって、地球は超寒冷期の環境から温暖期の環境に移ると考えられています。

 温室効果の極端な低下は、火山活動が停滞したために地球環境への二酸化炭素(CO2)の供給がとだえるとともに、生物の光合成活動や大陸と海洋へのCO2の固定作用が進み、CO2濃度が極端に低下した状態とされています。また、温室効果の極端な増加は、1000万年の全球凍結状態の間に復活した火山活動によって供給されたCO2が地球の大気や海洋に蓄積された結果、生じる状態とされています。全球凍結状態の地球では、生命活動はほとんど停止に近い状態にあり、また雨も降らないためにCO2が大陸や海洋に固定化されず、火山活動によって排出されたCO2は、ほとんど消費されずに蓄積される一方になるのでしょう。全球凍結状態の地球の海洋は、その表層1000mがすべて凍結した状態にあったということです。海洋は、その表面から凍結していくが、海底からわき出る地熱のおかげで表層から1000m位凍結すると、熱平衡に達し、それ以下の海水層は凍結しない状態になるということです。

 このように、地球史をみていくと、火山活動に伴って大気や海洋に排出されるCO2が、地球環境にとっていかに決定的な役割を果たしているかということが理解できます。そうであれば、人間の生活や生産活動に伴って排出されるCO2が地球温暖化の元凶のように言われているが、長い眼で見れば、人間の活動に伴って排出されるCO2など火山活動によって排出されるCO2の変動に比べたら小さいものではないかという疑問が生じます。将来に向かって火山活動が排出するCO2量の時間に関する微分を考慮するとき、人間活動が排出するCO2量が地球全体のCO2の収支に関してどの程度のウェイトをもつのでしょうか。このような観点からみて、人間活動が排出するCO2量の地球全体のCO2に対する寄与について疑問をもち、人間活動による地球温暖化に対してあまり神経質になる必要はないではないか、と議論する人々もいると思われます。しかし、CO2の収支に関するデータが充分確実でないためか、このような人々の議論は説得力が弱く、少数派に属するのでしょう。火山活動が排出するCO2量よりも、さらに広範囲に及んで自然体である地球が行うCO2の収支よりも、人間活動が排出するCO2量の方が確度の高いデータがそろっているために、後者による地球温暖化の議論の方が説得力が強く、こちらの支持者が多数派を占めているのではないか、という感じもします。

 ところで、地球が全球凍結の状態にあったとき、生物はどうしていたのでしょうか。生命体は、38億年前に地球上に誕生したと言われています。6億5000万年前の全球凍結期より前には、大陸には細菌のような単細胞生物しか生息していなかったのですが、それらの生物が大量絶滅したことは、容易に想像できることです。同様に、海洋の表層近くに生息していた生物も、光合成のような生命活動もかなわず、おそらく大量絶滅に追い込まれたのでしょう。そうすると、大陸では地熱によって融けた氷から水たまりができたところ、および海洋では1000mより深い海水層に、生き残った生物が細々と生存していたのではないか、と推定されます。

 原生代の22億年前の超寒冷期の直後には、地球上の酸素濃度が急激に増大するとともに、約21億年前には真核生物が誕生したことが知られています。この超寒冷期の直後には、生命活動、特にシアノバクテリアなど光合成を行う生物の生命活動が非常に活発になったことを示しています。また、6億5000万年前の超寒冷期の直後にも、地球の酸素濃度が急激に増大するとともに、約6億年前には多細胞生物が誕生したことが知られています。5億4000万年前には、カンブリアの生物大爆発が起こり、海洋で大量の生物種が生まれました。おそらく、酸素濃度の高い地球環境下で、多細胞生物が誕生して間もない時期でまだ遺伝的に突然変異が成功するという自由度が大きかった時期に、比較的短期間で大量の生物種が生まれる環境が整っていたためでしょう。

 全球凍結中には、海底火山からの噴出物からPO4などの栄養塩が海洋に蓄積され、全球融解直後には、この栄養塩が海洋の表層近くに湧昇し、蓄積されていたCO2の供給を受けて、生物の爆発的な光合成活動が起こり、その結果として、地球の酸素濃度が急激に上昇したものと考えられています。

 それまで原核生物しかいなかった世界に、真核生物が誕生したことは、生物の進化上画期的な事件とみなされています。真核の単細胞が多細胞生物のベースとなったことは、疑いのないことと見られています。何故、酸素濃度の増大とともに真核生物が生まれたかは謎ですが、もっと不思議なのは、何故、真核細胞が誕生してから多細胞生物が誕生するまで15億年も要し、次の全球凍結まで、従って次の酸素濃度の急激な増大まで待たねばならなかったか、ということです。真核生物はもちろんのこと、多細胞生物が生まれなければ、人間も存在していなかったでしょう。全球凍結の結果として、その全球融解直後に光合成生物の爆発的な繁栄が起こり、その混乱に乗じて真核生物や多細胞生物が誕生したとしたら、全球凍結があったからこそ多細胞生物の誕生を介してそれが人間にまで進化したという何とも皮肉な結果と言わざるを得ません。酸素濃度の急激な上昇は、生物にとって大きなリスクとなるものですが、そのリスクを乗り越えた先には、生物進化上の大展開が待っていたということになるのでしょう。

 以上説明した「全地球凍結と生命進化」は、全球凍結を中心にすえた地球史と言えるものですが、何か教訓めいたものを示唆しているように見えてなりません。人間の各個人の一生は、地球史に比べて無視できるほどに短いものですが、単なる安定指向だけでは、人間の歴史に何も残さないことは確かでしょう。将来を見据えて敢えてリスクをとることが、結果として成功となるか失敗となるかは分からないが、少なくともリスクを伴うようなことに挑戦しなければ何も始まらないと言えるのではないでしょうか。