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情報をエネルギー源として利用する物理系

2020-08-16 08:10:27 | ブログ
 あらゆる情報は、数字や文字など記号やピクセルの並びで表現できる。すべての記号やピクセルは、1と0の並びからなる2進数によって表現できる。

 情報は、ディスク、紙、コンピュータのメモリなど物理的な記録媒体を介して伝達される。そうすると、情報は、物理的媒体とは独立した存在である。しかし、情報は、エネルギー、エントロピーといった物理系に関する物理量と無関係ではない。

 熱平衡状態にある物理系の温度をT、内部エネルギーの変化分をdE、エントロピーの変化分をdSとするとき、
   dE=TdS
が成り立つ。

 この式によると、何らかの仕事をするために外部から熱エネルギーをもらうとき物理系のエントロピーは増大する(dS>0)。物理系が熱平衡状態であれば温度Tの下でエントロピーは最大となっているから、dSに対応する内部エネルギーの増加分(dE>0)は、外部に散逸する熱損失となる。また、内部的にエントロピーを減少させるような動作をするとき(dS<0)、内部エネルギーは減少し(dE<0)、可逆過程ではその分外部に熱エネルギーを与えることになる。不可逆過程では外部の熱エネルギーを奪うことになるので、温度Tが低下することになる。

 熱力学の第二法則により、物理系の一部にエントロピーが小さくなっている部分があるとしても他にエントロピーが大きくなっている部分が存在し、物理系全体では、つねにエントロピーが増大する。たとえば、冷蔵庫の中のエントロピーは小さくなるが、冷蔵庫の背面からは熱が放出されて部屋の中のエントロピーは増大する。

 2進数によって表現される情報の量もエントロピーという量で表現することができる。ただ、情報の場合には、一般に負のエントロピーで表現する。1と0がランダムに並んでいるような情報のエントロピーが最も小さく、すべてのビット列が0であるような情報のエントロピーが最大となる。

 コンピュータのメモリ上の情報を消去し、すべてのビット列が0になるようにリセットすると、エントロピーの増大となるので、外部からもらう熱エネルギーが消去動作に使われるとともにその一部であるdEが外部に散逸する。

 情報0にリセットしたメモリをエネルギー源として利用することができる。「情報エンジン」と呼ばれる。情報エンジンを利用すると、何らかの仕事をするとともに、メモリ上の秩序あるビット列0を無秩序な(ランダムな)1と0からなるビット列に変換する。すなわち、情報のエントロピーが減少する。

 情報を加えた物理系においても、熱力学の第一法則(エネルギー保存則)とともに第二法則が成立している。ただ、物理系の熱力学に情報がエネルギーおよびエントロピーの形で関与してくると、頭が混乱しやすくなる。

 いくつかの研究グループがナノテクノロジーを用いて情報エンジンを作成し、情報エンジンが物理法則通りに動作することを確認している。このような情報エンジンを用いて「情報を動力とする冷蔵庫」をつくることも可能である。

 ここで、メモリ上の1ビットの情報を消去するのに必要なエントロピーの最小量は、dS=klog(2)2=kで与えられる。kはボルツマン定数、log(2)は2を底とする対数を表す。よって外部に散逸する熱エネルギーは、dE=TdS=kTの式によって計算できる。室温で1ビットの情報を消去すると、3×10^(-21)ジュールの熱が発生することになる。

 参考文献によれば、メモリ上の1ビットの0情報はkTに相当するエネルギーを有する。そうすると、メモリ上の情報を消去するという操作のエネルギー効率は、最大でも50%程度である。

 気体分子の運動論によれば、多くの分子の集団において、分子の運動エネルギーの平均値は3kT/2である。そうすると、1ビットの0情報がもつエネルギーは、分子1個がもつ運動エネルギーにほぼ等しい。1モルの気体分子の集団は、約10^23個の分子からなるから、1ビットの情報がもつエネルギーの微小さが推測できる。

 参考文献
 ポール・デイヴィス著「生物の中の悪魔」(SBクリエイティブ)