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Webb宇宙望遠鏡による原始銀河の観測

2017-07-23 08:22:54 | ブログ
 タイム誌に、2018年10月に打ち上げ予定のWebb宇宙望遠鏡に関する記事が載っていたので、Webbの運動について力学的な計算をしてみたくなった。

 Webbの主鏡は、直径6.3mほどあり、各々が6角形をした鏡のセグメント18個より構成される。Webbは、ハッブル宇宙望遠鏡の7倍の受光スペースをもつ。

 Webbは、主として138億年前のビッグバンから2億年しか経過していない136億年前の天体を観測するため、赤外線域の信号を受光する。この年代の宇宙では、原始銀河とも呼べる初期の銀河を観測でき、星に光がともる様子を観測できるだろう。

 Webbは、太陽を中心とする地球の公転軌道より外側であって、地球から1Mマイル(1.6Mkm)離れた地点に設置される。月は地球から0.38Mkm離れているので、月よりも遠い場所である。この地点は、ラグランジュ点の1つとして知られ、後述するように、太陽と地球からの引力が消去されて、Webbに及ぶ外力が0になる。

 Webbは、太陽、地球、月から放射される可視光や赤外線を防ぐために、そのバックに直径21mの太陽光シールドを備える。このシールドは、各々が真空ギャップをもつ5つのフォイル層から成る。最も太陽側に近いフォイル層の表面は85度cにもなるが、Webb側の層の表面は-223度cにも下がる。赤外線域の信号にノイズが重畳しないためには、Webbに伝わる外部からの輻射熱をここまで遮断しなければならないようだ。

 こうしてみると、Webbを地球の公転軌道より内側ではなく外側にあるラグランジュ点に設置する意味が理解できる。Webbは、太陽、地球、月に背を向け、ひたすら外の宇宙の果てにだけ目を向けるのである。

 Webbの鏡面は外に対してむきだしになっており、ハッブルのように囲いの中に収容しない。そのため、多くのマイクロ隕石が鏡面に衝突して小孔をつくる。もしセグメントが変形したら、その背後のアクチュエータが稼働してセグメントの位置を調整する。ここでは、ハッブルの経験が生かされているのだろう。

 以下、ラグランジュ点に関する力学的な計算をして、その正当性を確認する。

 太陽と地球を連星とみるなら、この連星系には5つのラグランジュ点があることが知られている。これらの地点では物体に働く外力は0になる。これらのうち3つは、地球の公転面上であって太陽と地球とを結ぶ直線上にある。

 地球の公転軌道より内側には、物体に働く太陽による引力と地球による引力とが釣り合って0になる地点がありそうな気がする。しかし、なぜ地球の公転軌道より外側にラグランジュ点があるのか。

 太陽を中心軸として地球の公転運動に従って回転する運動座標系を考える。そうすると、この運動座標系に乗っている物体には、太陽と地球による引力のほかに物体の回転に伴う外向きの遠心力が働く。

 そこで、地球の公転軌道より外側にあって地球から1.6Mkm離れたラグランジュ点では、物体に働く外力が0になることを確かめる。

 Webb施設の質量を500kgとしてみる(実は計算結果から、それが何kgであっても結果は同じであることが分かる)。太陽から地球までの平均距離は149.6Mkmであるから、太陽からこの施設までの距離は、それに1.6Mkmを足して151.2Mkmとなる。そうすると、Webb施設が太陽から受ける引力は2.9ニュートンと計算できる。

 地球からWebb施設までの距離は1.6Mkmであるから、施設が地球から受ける引力は0.08ニュートンと計算される。

 月からWebb施設までの平均距離は1.6Mkmとみなしてよいから、施設が月から受ける平均引力は0.001ニュートンとなり、無視できる値である。従って、施設が太陽・地球・月から受ける内向きの引力の総量は2.98ニュートンとなる。

 一方、公転するWebb施設にかかる外向きの遠心力は、500kg×151.2Mkm×(公転の角速度)^2の式に基づいて計算できる。公転周期を365日とすると、遠心力の大きさは2.99ニュートンとなる。

 このようにして、Webb施設が受ける引力と遠心力とが釣り合い、受ける外力はほぼ0になることが確かめられる。両者にわずかの差があるのは、地球と施設との距離1Mマイルが概略値のためだろう。

 Webb施設が位置するラグランジュ点は、L2と名付けられ、物体に働く外力が釣り合う点の1つであるが、地球の公転面上にある他のラグランジュ点L1,L3とともに不安定な地点とされる(地球の公転面から離れたラグランジュ点L4,L5は安定な地点とされる)。

 運動座標系に乗っている太陽と地球は、ほぼ静止に近い状態とみなせる。月は、地球のまわりを周回しているが、その角運動量は一定と考えてよいであろう。

 そうすると、最初にL2のまわりを周回するように小さな角運動量を与えられたWebb施設は、それが保存するようにL2のまわりを安定して周回すると考えてよい。地球や月の角運動量が保存されるのであれば、同様にWebb施設の角運動量も保存されるためである。

 参考文献
 鈴木敬信著「天文学通論」(地人書館)

おもちゃの電動マウスから学ぶこと

2017-07-09 07:56:55 | ブログ
 猫用のおもちゃとして、ワイルドマウスとかクレイジーマウスと呼ばれている電動のデバイスがある。

 入手したおもちゃは、左右に6本ずつのプラスチックの足を備え、バイブレータの振動のエネルギーが両足に伝わって、床の上をマウスのように走り回る。

 このマウスがひっくり返っても起き上がる様子を見て、ポテンシャル関数の壁を乗り越えて起き上がるためのエネルギーは振動エネルギーそのものか、エネルギーのゆらぎによるものなのかに興味をもった。

 そこで、ポテンシャル関数の安定点がいくつあって、各々の安定点の安定性はどのように異なるのかについて調べてみることにした。

 安定点が3つあることはすぐ分かる。最も安定性が高いと思われる状態は、正規に直立した状態Fである。次に、マウスがひっくり返った状態Bがある。マウスの背中は突起状になっているので、この状態は完全にひっくり返った状態(直立から180度の変異)よりも約20度傾いた状態となる。3番目は、横倒しの状態(直立から90度の変異)Sである。

 まず、畳の上でB状態から出発してどうなるかを10回観測した。10回のうち5回は0~45秒でS状態となった。残りの5回は1分を過ぎてもB状態のままであった。畳の上は、起き上がりに不向きなことが分かる。

 次に、板の床上でB状態から出発してどうなるかを観測した。10回のうち6回は3~10秒後には直接F状態に遷移し、走り出した。残りの4回はBからS状態になり、1分を過ぎてもSかB状態のままであった。B状態のまま1分経過のケースはなかった。

 この結果から見て、B状態のマウスは振動によって床から飛び上がり、床との反発作用によってS状態を経ずに直立するか、反発力不足のためにS状態に移るかのいずれかとなることが分かる。これは振動エネルギーのゆらぎとは考えられない。

 次に、板の床上でS状態から出発してどうなるか観測した。10回のうち6回はS状態からB状態になったので、そこでマウスの振動を止めた。残りの4回はS状態から直接F状態になったので、マウスの走行を停止させた。

 最後に、板の床上でF状態から出発してマウスを自由に走行させてみた。各々1分間の試行を10回繰り返したが、マウスは走行を続け、転倒するようなことはなかった。特に、マウスが何回壁に衝突しても反発作用によって向きを変えるだけで、転倒することはない。

 以上の観測結果から言えることは、F状態が最も安定性が高いこと、B状態が最も不安定であること、S状態が両者の中間程度の安定性をもつということである。ポテンシャル関数は3つの谷をもち、各々の極小点の高さはB-S-Fの順に低くなる。

 特に、B状態は20度の傾きをつけてFかS状態に遷移しやすい不安定な構造になっていることが読み取れる。

 以上の現象は、マウスのおもちゃに特有のものではなく、広く自然界に見られる抽象的モデルの一つの事例を示していることに注意したい。

 例えば、金属加工技術で知られているアニーリング(焼きなまし法)の事例がある。金属分子の中に余分な力(応力)が溜まっていると、金属は硬くなるが、脆く壊れやすくなる。この余計な力が溜まっている状態は、金属を構成する原子や分子のエネルギーが高くて不安定な状態でもある。そこにアニーリングにより軽く熱を加えると、歪んだ状態が解消される。この方法によって、金属はエネルギーの高い(不安定な)状態からエネルギーの低い(安定な)状態へ移行して落ち着くことになる。