「キャリアアップのための発想の心理学」 培風館より
物語化 なんでも物語にして楽しむ
ポイント***************************************
1)人生を物語として楽しむ。
2)物語にすると思惟世界の活動が促進される。
3)物語化は、身の丈にあった知識を揺り動かす。 *************************************************
●人生は物語なり
「人生至るところ物語。人は物語の主役であったり、脇役であったりしながら、物語を楽しむ」ようなところがある。自分を襲った悲劇さえも楽しみに変える力が物語りにはある。
そこに着目した心理療法として、ナラティブ(narrative)セラピーさえある。 あるいは、目の前にある一枚の紙にも物語をみつけることができる。
たとえば、あなたが技術者なら、どんな素材で誰がどれくらいのコストで作ったのか、そして製作者の苦労にまで思いをはせられるならば、立派な物語の語り部といってよい。 思惟の世界でも、この物語化は大事になってくる。それが、ここでのテーマである。
●物語化するとよく記憶できる
たとえば、体験コーナーで、まずは記憶における物語効果を体験してみてほしい。こんな覚え方によって、円周率を数万桁まで記憶してしまった人もいるほどである。
記憶術にはいろいろあるが、すべてに共通しているのが、この物語化である。
物語を作ると、頭の中にある知識を使うことによって、覚えるべき事がその知識に結びつけられる。これが覚えるのにも、思い出すのも効果的に働くのである。
記憶術では、その知識をあらかじめ記憶してもらうことになるのである。
●考えるにも、物語は役立つ
思考においても、物語化は有効である。
「A ならB」が正しいとすると、「BでないならAでない」(対偶)は正しいかと問われても答えにくい。
しかし、「人間なら死ぬ」が正しいとすると、「死なないのは人間ではない」は正しいかと問われれば、答えるのはたやすい。
これは、思考における具体性効果であるが、「具体」の中にある物語化のための手がかりの豊富さが、思考を容易にしているである。 算数や数学の文章題にも、こうした物語効果をねらっているようなところがある。
●物語は人を感動させたり納得させたりすることもできる
映画や芝居は人を感動させる。言うまでもなく、そこに物語があるからである。 プレゼンテーションや講演など人に語りかける場面でも、事実と意見・主張だけよりも、物語があるほうが、感動までは無理としても、納得してもらいやすい。
あるいは、広告・宣伝の世界では、物語化はすでに一般化した手法として採用されている。たとえば、
・農作物の宣伝でも、生産者の顔や現場を見せる
・家の広告でも、山田家として見せる
・宿の宣伝でも、旅物語の一部にする
●物語は自分の身のたけにあった思惟活動を促す
記憶術にしても思考の具体性効果にしても、物語化は、既有の知識を使って行われる。知識なしには、物語は作れない。
既有の知識であるから、背伸びをする必要はない。これが物語化の優れたところである。
もう一つ、物語化の優れたところは、記憶術ではやや不自然な形での運用であるが、頭の中の知識を使うことによって、その活性化とさらには更新・再構造化をはかれるところにある。 それまで関係のリンクが張られていなかった知識要素間に、新たなリンクが構築されることになる。
物語化のもう一つの優れたところは、思惟活動に感情の味付けをすることである。 ともすると、無味乾燥なシンボル操作だけの思考になりがち、したがって、現実離れした思考になりがちなところに、「温かさ」が醸し出される。高度の思考活動には、この「温かさ」は無用の長物だが、現実とかかわる思考活動では、それが適応的な思考へと穏やかにガイドしてくれる。 (K)
実習「自己紹介を起承転結でやってみる」****************左の作品(俗謡)は、起承転結の話には必ずでてくる。これにならって、自分の紹介をやるとするとどうなるか、考えてみてほしい。 京の五条の糸屋の娘(起) 姉は十七 妹は十五(承) 諸国諸大名は弓矢で殺す(転) 糸屋の娘は目で殺す(結) 「解説」 物語にも、それなりの型がある。その一つとしてよく知られているのが、起承転結である。型にはまりながら、そこにいかに自分や人を感心させる物語を作り出すことができるかが、一つの能力、つまり物語作成力になる。 たとえば、自己紹介をこれにならってやるとすると、「筑波大学の海保です(起)。認知心理学を研究しています(承)。世間では、男が子どもを認知します(転)。 認知心理学では、知識が世界を認知します(結)。」 実習「物語にして覚える---記憶術」********************* 次の言葉を物語にしておぼえてみてほしい。 たとえば、「りんご」と「机」なら、「りんごを机の上におく」のように。 A群 「計算機 鉛筆 カード コピー機 本 紙 辞書 コップ」 では、次の言葉は、とく物語にしないで覚えてみてほしい。 B群 「テーブル 茶碗 空 銀行 車 木 テープ 箸」 「解説」 一通り覚えたら、しばらくしてから、2つの言葉群を思い出してみて、どちらのほうがよく思い出せたかをチェクしてみるとA群のほうが多く思い出せるはずである。 引用「物語を作るとは」**************** その1 「人間は、一つ一つの出来事を心の中のシナリオとしてまとめ上げ、そのシ ナリオにあてはまるように、行動や説明、反応をもっとらしく選んでいるのである。」 「物語には、形式的な解決手段が置き去りにしてしまう要素を、的確に捉えてくれるすばらしい能力がある。----物語は文脈を捉え、感情を捉える。」D.A.Norman(佐伯ら訳「人を賢くする道具」新曜社より) その2 ■ 遊びを活性化する「場」のストーリー性 ■ 仙田満:子どもの遊びを活性化させるもう一つの要素として、古い建物や古い 樹木、社(やしろ)などにまつわる歴史なり、ストーリーの存在があ ると 思います。 佐伯胖:ストーリー性ですね。 仙田満:ええ、そうしたストーリーがその場所に埋め込まれていると、子ども たち の遊びは活性化していくのではないでしょうか。私たちの子どもの頃は、 神社や境内、お墓にある種の怖さ、神聖な部分がありましたね。 そういう部分がニュータウンや新しく作られた町にはほとんどありませ ん。 そして、木一本にしろ、ただ木があるという形でしかないわけです。 「そこのほら穴には、すごいアオダイショウがいる」というようなスト ーリーがないんですね。 (メールマガジン;光村チャンネル「学びについて語ろう」より)