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学生の知的生活のパワーアップ術

2019-08-31 | 認知心理学




02/11/5 @大学 学術講演 02/12/5       

学生の知的生活のパワーアップ術 ---認知心理学からの提言---        

概要**************************************************************  

情報化社会での知的生活をパワーアップするには、頭の中にある内的資源と、頭の外にある外的資源とのバランスのとれた活用が鍵となる。インターネットの活用に見られるように、外的資源の爆発的な増加はこのバランスを著しく破壊し、そのために知的生活の混乱がみられるのが現状である。  本講演では、情報化社会における知的生活の中核になっている情報収集力、情報編集力、情報表現力の3つの力をつけるために、内的、外的な知的資源をどのように活用すればよいかを軸に認知心理学の立場から考えてみる。 *****************************************************************

序 コンピュータが引き起こした知的革命をめぐって

●有史以来、外部の知的資源を爆発的に増加させたことが、3度あった。
1)1度目は、文字の考案。紀元前3千年頃,「楔(くさび)型文字」である。備忘官(王家の家系や業績を記憶する人)が不要になり、情報の固定化、記録ができるようになった。
2)2度目は、活版印刷の発明。15世紀中頃、グーテンベルクの発明した活版印刷である。情報(当時は聖書)の共有範囲が爆発的に拡大した。
3)3度目は、1937年、コンピュータ・ABCマシーンの開発である。それ以来ほぼ半世紀、知的環境を革命的に激変させた。

●コンピュータがもたらした現在の知的環境の3つの変化 
1)誰もが情報発信者に   小学生でもインターネット上のHPで不特定多数に発信
2)仮想世界の肥大化   
仮想世界の4つの特徴    
・現実世界の一部を拡大・強調する--編集機能の高度化       見せたい現実だけを劇的に見せられる    
・思惟世界を見えるようにする--情報のビジュアル化       星の動きもシミュレーションできる    
・多彩かつ臨場感のある間接経験を提供する--間接経験の豊潤化       けんかも仮想世界で    
・時間的・空間的な制約が緩い--制約の緩和化       いつでもどこでも
3)情報の保存、流通の大規模・低コスト化   「ギガ」(10億)単位での情報保存と流通がお茶の間に

●コンピュータの3つの知的支援機能が誰でもいつでも使える環境になった
1)情報収集・蓄積支援  例 ネット検索・256MBのフラッシュ・メモり
2)情報編集支援  例 コピー&ペースト
3)情報表現支援  例 パワーポイント

●こうした知的状況を踏まえて、本講演では、3つのことを基本原則とした、知的生活のパワーアップ術について提言してみる。

基本原則1「頭の内と外の往復を活発に」        

内的資源と外的資源、内化と外化のバランスのあるやりとり        実習 円周率の記憶---頭だけを使った記憶術            3.14159265358973238---

基本原則2「心の身体性にも配慮を」        シンボル操作に加えて身体に作り込まれた知も大事        実習 空書--からだ(外化/内化機関)の記憶           ・カタカナの「イ」と「ニ」でできている漢字は?           ・「イ」と「ロ」と「ホ」でできている漢字は?        例 宮大工・西岡常一氏の箴言 

基本原則3「強靱な心より”しなやかな心”作りを」        心のくせ(法則性)にかなった科学的なパワーアップ術を        洗脳やエセ宗教や精神改造とは一線を画す        ・自分で自分を知りコントロールする力(メタ認知力)を          ・心についての知識を豊かに        ・自分の心を知り、そこからちょっと踏み出す          「現在の自分」と「こうありたい自分」           とが適度に重なるくらいのところで

第1 情報表現力(編集した情報を外に向かって発信する)

情報表現力には、 ・自分の頭の中で、自分の気持ちと思いを表現する力(自己表現力) ・その表現を外に向かってわかりやすく表現する力(外部表現力) の2つがある。両者は一体である。 そのために、情報をいかに収集し、いかに加工するかを考えることになる。 「先に情報表現ありき」である。情報爆発の時代に情報に流されないためには、このことの認識は重要である。

●提言1「感性と信念に磨きをかける」ーーー内部表現力を高める

自己表現が求められる時代になった。ということは、自己作りが大事ということになる。豊潤な自己作りには、感性磨きと信念磨きがポイント。 ○感性を磨く 感性とは、気持ちを知性化したもの(感情を、イメージや言葉でシンボル化すること)。感性は、状況との直感的・即応的なかかわりをガイドする。 感性を磨くには ・あいまいさ耐性をつける ・知的好奇心を旺盛に ・言葉、イメージを豊富に   ○信念を磨く 信念とは、状況とかかわるための自分なりに構築した認識のためのモデル。このモデルは、状況の心理的な複雑さを減少させる。 信念を磨くには ・哲学、教養に裏打ちされたものにする   俗流

信念(例「誰からも好かれるべし」など)は人生を暗くするので要注意 ・何にでも自分なりのものを ・異質の信念にふれる

●提言2「わかりやすく表現する」ーー外部表現力を高める

表現の受け手が誰で、どんな目的で、どんな状況なのかをきちんと認識した上で、次のようなことに配慮することによって、わかりやすい表現にする。
○全体概要、意味、目標を先に  実習「目標を言わないと、わけがわらない」
○専門用語の使い方に注意する  実習「専門用語は100の説明を一つの言葉で済ますことができる」    「スクイズ場面」を「スクイズ」という言葉を使わないで説明する
○メリハリをつける ・見た目のまとまりと意味のまとまりを一致させる(区別化)  実習 「kaneokuretanomu」を漢字かな混じり文で書くと ・大事なものに目がいくようにする(階層化)  例 「文字サイズ、項番、書き出しをうまく使う」  ○ビジュアル化する  例「文書にもメリハリが必要」

第2 情報収集力(目的にあった情報を収集する)
情報爆発の今、漫然とした情報収集は情報の海に溺れてしまうだけに終わってしまう。大事なことは、 ・なんのための情報収集かをはっきりさせること   ここで、「自己」が問われる ・頭の中にある知識からの情報収集も充分にすること

●提言3「外の情報に負けない」---外部情報の活用のコツ

web情報空間には、膨大な情報が蓄積され、誰もがそれに簡単にアクセスできるようになった。無目的に、この情報空間に入り込むと情報の海の中で埋もれてしまう。目的意識をもった情報空間との付き合いが必須である。  例「”海保”をインターネットで検索すると」

●提言4「頭の中の知識を活性化する」---内部情報の活用のコツ

生まれてからこれまで、膨大な知識を頭の中に貯蔵してきている。この知識にも、情報収集の網をかけてみることが、”自己”表現につながる。そのためには、記憶の底に埋もれてしまっている知識を目覚めさせる(活性化)させることが必要。 ○知識の活性化とは 実習「”どうきょう”を10回繰り返して言う」   「日本で一番人口の多い市はどこ?」 ○知識を活性化するための方策のいくつか ・連想マップを作る  実習「情報から連想することを絵にすると」 ・人と一緒に  例「ブレーンストーミング(brain storming)5つの原則」    「批判厳禁」「質より量」「自由奔放」     「人のアイディアとの結合」「論理性無視」 ・読んだ本、記録したノートのぱらぱらめくり


第3 情報編集力(情報を目的に応じて加工する)

目的に応じて自分なりの情報空間を作りだすのが編集力である。 料理で言うなら、素材(情報)をいかに料理(加工)するかである。素材の選別にも、料理にも、レシピに従いながらも自分なりのものを出せること、これが編集力である。

提言5「具体と抽象の往復をする」
現実(具体)に縛られると大局が見えなくなる。抽象に行き過ぎると、現実が見えなくなる。そこで、具体と抽象の間の往復をすることになる。これは、収束的思考と発散的思考をうながし、情報の編集を豊潤なものにし、さらに、創造的なものにさえする。
例1「コンセプト・ワークとプロトタイプを同時に---物作り」
例2「抽象的な話になるときは、”たとえば(例)”を随所に---説明」 例3「無理なら、適度に抽象的な世界を見せる--視覚表現」 

提言6「物語を作る」
人生至るところ物語である。レポート一つにも、自分なりのシナリオ(物語)を作り込むことで、はじめて発信するに値する情報になる。
例1 「起承転結」の作り込み  京の五条の糸屋の娘(起)  姉は十七 妹は十五(承)      諸国諸大名は弓矢で殺す(転)糸屋の娘は目で殺す(結)

例2 夏目漱石の「坊っちゃん」が内館牧子脚色でドラマになると    そこには、同じ原作でも、内館氏なりの物語性がある。

おわりに  

コンピュータのユビキタス化(ubiquitous;いつでもどこでも)は今後ますます進む。情報も知的活動もどんどん外部へと移転しつつある。だからこそ、自分の知的生活を豊潤なものにするには、自己作りを心がけ、自分の内なる知識を豊かにし、内外のバランスのとれた知的活動をすることが必要となる。  本講演ではそのために有効と思われるいくつかの提言をしてみた。


本講演に関連する海保の参考書 「連想活用術」中公新書 「説得と説明のためのプレゼンテーション」共立出版 「一目でわかる表現の心理技法」共立出版 「くたばれ、マニュアル! 書き手の錯覚、読み手の癇癪」新曜社 「自己表現力をつける」日本経済新聞社 「認知研究の技法」福村出版

形式的操作(formal operations>学生が解説すると

2019-08-31 | 心理学辞典

形式的操作(formal operations>
ピアジェという心理学者は、知能が発達していく段階を6つに分けて考えました。その6番目の段階で、およそ11~12歳になった子どもが、大人の思考形態に達した状態を形式的操作段階といいます。形式的操作とは、「複数の命題の関係理解」のことです。例えば、形式的操作の思考をみる検査に、次のようなものがあります。子どもには振り子が与えられ、何が振り子が前後する時間の変化を決めるのかを発見するよう指示されます。つるす重りを変えてみたり、ヒモの長さを変えてみたり、子どもは色々と試すでしょう。形式的操作段階にある子どもは、重さが変化を決めていると推理したならば、重り以外の条件は一定にし、重りだけを変えて調べてみて、その変化が影響を与えないと分かれば、また別の条件だけを変えて調べてみようとします。そのように、すべての可能性を考えながら、仮説、結果を導いて肯定や否定をする思考を、形式的操作というのです。(AN)
  

  「ほンわかあ」一日10回運動

2019-08-31 | ポジティブ心理学

「ほンわかあ」一日10回
――あなたも周りも元気になれる心の習慣――

      海保 博之
はじめに
第1部 「ほンわかあ」ってどんなもの p2
第1章 ほめる p4
第2章 わらう p14
第3章 かんしゃする p22
第4章 あいさつする p27

第2部 「ほンわかあ」を支える心
 (別冊子)


はじめに
「ポジティブ・コミュニケーション;自分も周りも元気に」

●不機嫌な職場
 不況の影響もあってか、日本の職場、不機嫌に満ち満ちているらしいですね。「不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか」 (講談社現代新書):という本で知りました。自分の職場である教室も、不況とは関係なく、実に不機嫌な顔をした学生諸君で満ち満ちています。
 日本の社会、どうしてこれほど不機嫌がまんえんしてしまったのでしょうか。
 忙しすぎる仕事、高度の集中力を要求するIT依存の仕事、厳しい能力主義と競争、リストラ不安など、個人的な背景に加えて、少子高齢化の現実に発する将来不安、グローバル化に伴う国際的な政情不安、情報の超高度化活用によるプライバシー侵害懸念などなどの社会的な背景も影響していると思います。
 しかし、不機嫌は、不機嫌な本人にとってはもとより、その周りにいる人々にとっても、なんの得にもなりません。お互いにストレスを溜め込むばかりです。
ドンキホーテになるかもしれませんが、個人的な努力で少しは自分も周りを元気に明るくしてみませんかということから本書を書いてみました。
 「ほンわかあ」(「ほ」める、ン、「わ」らう、「か」んしゃする、「あ」いさつする)が鍵になります。

●コミュニケーションの2つの役割
 コミュニケーションの基本は、情報の伝達です。過不足なく正確に、かつわかりやすく情報を相手に伝えることです。
 しかし、コミュニケーションには、時にはそれと同時に、あるいは、別途に、喜怒哀楽を伝える役割もあります。
 ポジティブ・コミュニケーションは、こちらのほう、しかも、「喜怒哀楽」のうちの「喜」と「楽」の気持ちを伝えるコミュニケーションです。これによって、情報の共有だけでなく、ポジティブな気持ちの共有をはかります。

●ポジティブ・コミュニケーションのコツ
1) 自分が元気になる
これは言うまでもないことですが、一番大事なことです。頭も気持ちも元気に保っていれば、それが周りに自然に伝染するからです。元気の感染源なら、誰も文句は言いません。

2) それを体全体で表現する
そして、心の元気はからだに無意識に反映されますから、あまり、これは意識することはないのですが、それでも、顔の緊張をゆるめ、姿勢を正し、顔をあげてゆったりとくらいの気持ちはあったほうがいいですね。
 一番は、笑顔です。笑顔つくりを毎朝、鏡でやってみてください。それだけで、元気になれます。

3) それを言葉で表現する
これは、かなり意識的な努力、そして、習慣化が必要です。
周りを元気にする3つの言葉、「挨拶言葉」「ほめ言葉」「感謝言葉」を豊かにして、TPOに応じて口に出す習慣をつけることです。
さらに、次の2つを克服ができるようにしておく必要があります。
・ 照れくささ 
特に、家族となると、これが邪魔になります。
・ ネガティブ認知優先 
  特に、出来上がりに高い完成度をもとめる場合は、「まだ」「もっと」のほうについ目がいってしまいがちになります。

4) 周りの元気を積極的に受け入れる
いつもいつも元気というわけにはいきません。そんなときこそ、
周りの元気に自分が感染するようにしておくのです。周りから元気をもらうのです。
誰かがユーモアを発したら、即座に率先して笑う。ありがとうと感謝されたら即座に「ありがとう」を返すのです。
自分を周りに敏感に応答できるようにしておいて、周りの「喜」「楽」だけでなく、「怒」「哀」をさえも共有し、それに巻き込まれてしまうくらいの気持ちがあってもよいと思います。
これは共感性を高めることにつながりなります。
 最後に、あのニーチェの言葉を引用しておきます。味わってみてください。
「今日からは、日に十回は周囲の人々を喜ばせるようにしようではないか。
そうすると、自分の魂が治療されるばかりではなく、
周囲の人々の心と状況を、確実に好転していくのだ。」
(ニーチャの言葉」(Discover)より)

第1章 ほめる(「ほ」ンわかあ)

1-1)ほめるの心理学

●あめとむち
人を手っ取り早く動かすには、あめ(賞)とむち(罰)を使います。
信賞必罰という言葉があるくらい、賞罰は、人を動かす手段としては、非常に有効です。  
あなたの毎日を考えてみてください。いかに、賞罰の仕掛けがあちこちに、しかも巧みに用意されているかを発見してびっくりするはずです。
たとえば、
「賞」
・一月働いたら月給がもらえる
・業績を上げたら昇進
「罰」
・失敗したら叱られた
・目標が達成できなくて叱られた
いくらでも挙げることができるはずです。何が賞で何が罰か、おわかりですね。そしてまた、それがどのように次のやる気の程度に影響してくるかも、おわかりですね。

●ほめる叱るは難しい
ほめる叱るはとても難しいのですが、それにもかかわらず、かなり無雑作にほめたり、叱ったりしています。
それは、相手に変わってほしいという気持ちから発する利他的な行為なのですから、無意識で無雑作でもよさそうなものですが、相手に対するインパクトが大きいだけに、やはり、それなりの心理技術が必要です。とりわけ、叱る場合には。
人を見て法を説けと同じで、ほめる叱るも人を見る必要があります。ほめて舞い上がってしまう人もいますし、叱るとめげて立ち上がるのに苦労する人もいます。
たとえば、おおむね、学力の高いほうには、叩いても(叱っても)大丈夫。なぜなら、勉強のなかで、チャレンジ体験をして、成功体験もあるが、多くの挫折の克服体験しているからはいあがれます。
一方、学力の低いほうは、叩けば叩くほど、萎縮しがちです。勉強での成功体験が乏しく、挫折したままきてしまうからです。ほら、まただめだっただろう ということになります。

ほめる叱るについては、心理学の長い、ほぼ1世紀にわたる、動機づけ研究の蓄積があるのですが、残念ながら、その多くは、動物を使ったごく限定的な理論の中でのもので実用性に乏しいようなところがあります。残念ですが、むしろ、育児経験のある親や教師の知恵のほうが、はるかに進んでいて役立つのですが、それでも、動機づけの研究の知見は無視できません。そのエッセンスを次に紹介することにします。

●動機づけの心理学
 まず、動機づけには大きく、外発的動機づけと内発的動機づけの2種類あることから。
 ほめる叱るのように、親や教師が子ども達の行動を、外からあれこれ言ったり、さまざまな褒美や罰によって、コントロールするのが外発的動機づけになります。
 これに対して、内発的動機づけとは、子ども自身の内面から湧き出る、例えば、知的好奇心や向上心になる自発的な行動変容を考えるものです。
 いずれの動機づけが有効かは、目標、行動の内容、行動の当事者の性格などでことなります。
 さらに面倒なのは、内発的に動機づけられているときに、外発的な動機づけが与えられると逆効果になってしまう、アンダーマイング現象なるものが発生してしまうことです。
 つまり、自分から勉強しようと心がけるようになった子どもに、ご褒美や叱責はマイナスの効果を与えてしまうというのです。

 ほめる叱るは、動機づけ心理学では、強化に深くかかわります。強化には3つの局面があります。
 第1局面は、行動を開始させることです(行動喚起機能)。目標を示して、それを目指して行動を起こさせます。これはほめる叱るには直接関係しません。
 ほめる叱るにかかわるのは、次の2局面です。
目標達成にふさわしい行動が持続するようにする(行動志向性機能)第2局面と、目標達成にふさわしい行動の頻度を高めるために、行動を評価する(行動評価機能)とです。
勉強を例にとれば、勉強の結果、テストの点数が上がればほめる(正の強化)、下がれば叱る(負の強化)ことで、勉強する行動の頻度を高めることになります。

あと一つだけ、動機づけ心理学の話をしておきます。それは、強化の質と頻度です。
動物が対象ですと、強化は、もっぱらあめ(餌)と鞭になりますが、人間では、それに加えて、言葉(ほめ言葉、叱責言葉)もあります。これについては、次節で考えてみます。
強化の頻度(スケジュール)に関しては、目標行動にふさわしい行動のときは正の強化、ふさわしくないときは負の強化をするのが原則ですが、それをいつもやるか、それとも何回かに一度やるかという問題があります。それによって、望ましい行動の形成の速度やレベルが異なったりするからです。

動機づけの心理学にあまり深入りすると、本筋からはずれそうですので、これくらいにしますが、こうしたアカデミックな知見は、現実の人間の行動をみるときの一つの有効な枠組みになりますので、紹介させていただきました。

1-2)ほめる

●ほめ言葉
 ほめるのに使われるものは、言葉だけに限りませんが、私たちは人間ですから、動物とは違って、賞罰に言葉も使うことができますので、以下、ほめ言葉を想定した話になります。
ほめ言葉と叱責言葉。これが、あまりに有効なので、つい動物にも使ってしまうくらいです。
 さて、そのほめ言葉。どうしてそれほど有効なのでしょうか。どう使えばよいのでしょうか。
 その前に、あまりに有名なのでご存知かと思いますが、山本五十六連合艦隊司令長官1節を紹介しておきます。
 「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」
 さらに、
「せじ食わぬ馬鹿はおらん」
なんてものあるそうです。

● 言葉の働きは多彩
さらに、本題に入る前に、もう一つ。言葉の4つの働きを確認しておきます。
言葉には大きく、認識の道具としての役割と、コミュニケーションの道具としての役割があることを確認しておきます。
認識の道具としての言葉にも、自分の外の世界を知るためのものと、自分の心や
振る舞いを知るためのものとがあります。
 外の世界を知るための道具としての言葉とは、たとえば、初めて行った外国旅行。第一日目に、その日、目にした事柄を日記に書くことを考えてみてください。
たいていのことは言葉で表現できるはずです。
それがその世界を知ることに他ならないのですが、しかし、よくよく考えると、言葉にならない世界も見聞したはずです。ほとんどの場合は、言葉にならない世界は無視されたまま(認識されないまま)にされてしまっていることにも気が付くはずです。
言葉が認識の道具として使われるというのは、こういうことです。言葉がないと見える世界も見えなくなってしまうこともあることは知っておいていいことです。 
このことは、自分の心や振る舞いを知るための道具としての言葉でも同じです。
 心や振る舞いの複雑かつ微妙な動きのすべてをあなたは言葉で表現できるでしょうか。
たとえば、青年期まっただ中くらいの年頃になると、表現できない心や行動の世界が急速に拡大します。そのもやもや、不愉快さが青年期特有の心や振る舞いの混乱をもたらします。
もうひとつ、コミュニケーションの道具としての言葉の役割については、項をあらためて考えてみます。

● ほめ言葉が威力を発揮するのはなぜ
 コミュニケーションを、何をねらってコミュニケーションするのか、という観点から分けてみると、次の3つになります。
①カウンセリング場面でのそれのように、気持ちに対して働きかけるもの、
②説明場面でのそれのように、頭の中の知識に対して働きかけるもの、
③指示場面でのそれのように、相手の振る舞いに対して働きかけるもの
 ほめ言葉が威力を発揮するのは、言うまでもなく、この中で、気持ちと振る舞いに対して働きかけるコミュニケーションの場合です。
 どうしてこうした場合に、ほめ言葉は威力を発揮するのでしょうか。
これに適切に答えるのは、なかなか難しいのですが、こんな説明ではどうでしょうか。
たとえば、営業の成果を上司に報告したとします。
上司から「すばらしい」「よくやった」「さすが」などなどほめ言葉があなたに投げかけられとき、そのときその場にあるもの、あるいは心の動き、状態を考えみてください。
上司がいます。
上司の笑顔があります。
営業の成果があります。
ほめられてうれしいあなたの気持ちもあります。
周囲の仲間の賞賛の笑顔もあります。
ほめ言葉がこうした多彩な場と結びついているはずです。こうした結びつきをこれまでたくさん経験してきているはずです。これが、ほめ言葉の学習になります。
ほめ言葉の意味がわかるのは、そして、ほめ言葉が、うれしい気持ち、心の元気と結びついて威力を発揮するのは、こうした学習の賜物なのです。
 ほめ言葉の威力が発揮されるのは、当然、過去にこうした学習をどれだけしているかにかかってきます。
不幸にして、こうした学習をする機会のなかった人、少なかった人には、ほめ言葉の威力はあまりないことになります。
ほめられ体験なしで育った人はほめられてもその威力はあまり感じないことになってしまいます。
なお、乳幼児期の親からのほめられ体験の効果は、これ以外にも、主体性や思いやりなど社会適応力の高い子に育つことも最近の筑波大学教授・安梅勅江氏の大規模な調査でわかっています。

● ほめ言葉のさまざま
 今、手元に、本間正人ら著の「すぐに使える! ほめ言葉ハンドブック」(PHP)という本があります。その末尾には、ほめ言葉の一覧が次のような3つのカテゴリー別に6ページにわたって360個ほど挙げられています。
・見た目、外見をほめる言葉 例「愛想がいいね」「挨拶がハキハキしているね」
・内面、性格をほめる言葉 例「アクティブだね」「アグレッシブだね」
・能力、成果をほめる言葉 例「アイディアが豊富だね」「相手の立場にたてる人だね
その豊富さ、多彩さには驚かされます。これほどの語彙を身につけないと、ほめ上手になれないのかと自信を失ってしまうほどです。
 でも、心配はいりません。ほとんどの語彙は、すでにあなたの頭の中にあるものばかりだからです。ただ、それがタイミングよく使えないだけだからです。
 なお、蛇足になりますが、一つだけ付け加えておきたいことがあります。 
それは、ほめ言葉には、ポジティブな評価を伝える役割と同時にポジティブ感情を伝染させる役割もあるということです。
  「――がすばらしい」「―――は良いことだ」「―――は美しい」「――が上手」「よくがんばった」「うまい」などなどのほめ言葉を分析してみてください。
 一生懸命にやっている、あるいはやり終えたことに対するポジティブな評価がそこにありますね。それに加えて、その結果として、ほめた人のポジティブな気持ちがほめれた人にも伝わって(伝染して)共に、良好な関係が作り出せます。
 
● 効果的なほめ言葉の使い方のコツ
1)ほめるタイミングが大事
一番大事なことは、ほめ言葉をどんな場でどんなタイミングで発するかです。
これは、自分の過去のほめられ体験を思い出しながら、さらなる体験を積み重ねていくしかありません。でもこの経験の積み重ねは、それほど難しいことではありません。
 なぜなら、ほめ言葉の効果は、その言葉を発したとたん、相手が反応してきますから、効果のほどを実感できますし、伝染して自分もうれしい気持ちになりますから、学習も気持ちよくできるからです。
 それでも、いくつか、ほめる場とタイミングについておすすめをしておきます。
 まず、場ですが、皆のいるところでほめることです。これは、ほめられた人の自尊心を一層高めることになりますし、周りの人への模範を示すことになります。
 なお、叱るときも、人々がいるところでやれば、そんなことはいけないのだということを周りにも同時に知らせる効果はありますが、叱られている人に自尊心へのダメージが大きいので慎重にしたいものです。
 ほめるタイミングは、その時その場で、が原則です。とりわけ、新人、若い人など学びの途中の人々には、この原則は極めて大事です。なぜなら、ほめられたその場で経験したことが強化されるからです。そうした一つ一つの積み重ねで成長していくからです。
 もっとも、この原則は、叱責のタイミングについても言えます。

2)ほめ言葉を言葉単独で無雑作に使わない
言葉ですから、いくらでも使うことができますが、場とタイミング、とりわけ相手や自分の気持ちを無視してしまうと、空虚なものになってしまいます。相手の心をまったく動かすことのできないほめ言葉ほどむなしいものはありません。
小さい子どもにさえ、嘘を見ぬく力があります。無理に笑顔をつくり、心のこもらないほめ言葉を発してもたちどころに見破られてしみます。
 ちなみに、gooニュース(2013年2月14日)に、異性からほめられて素直に喜べない言葉の調査結果(社会人608人対象)が紹介されていましたので、参考までに。
1位 いい人だね 27%
2位 個性的だね 20%
3位 今日はキレイ(かっこいい)だね 18%
4位 健康的だね 12%
5位 いいパパ・ママになれそう 9%

3)いつもいつもほめ言葉はだめ
 子育ての場で言われているのが、「7つほめて、3つ叱る」です。
3つ叱るからこそ7つのほめ言葉が対比的に効果を持つことになります。
 ほめ言葉には、前に述べたように、評価が含まれています。
いつもほめ言葉ばかりだと、その言葉の信ぴょう性が疑われてしまうということもあります。「本当にほめてくれているの?」となってしまっては、効果も半減してしまいます。
「3つ叱る」中に、まっとうな評価をした上でのほめ言葉なのだ、という暗黙のメッセージがあります。
 さらに、「7つほめて、3つ叱る」にこめられている大事なことがあります。
 それは、叱られ耐性、つまり叱られても大丈夫という心の強さにかかわることです。
 最近の若者の特徴の一つとして、「叱るとすぐにめげてしまう」ということが挙げられます。
ほめて育てることの良さはもちろん言うまでもないのですが、同時に、3つくらいの真剣な叱責によって育つ心の仕掛けが貧弱になってしまったようです。
 このことは、またほめすぎの危険性をも暗示しています。
 ほめられると舞い上がってしまいます。心をきちんと働かせて事態を認識するよりも、舞い上がった気持ちのほうに気をとられてしまいます。こいうことが続くと、どうでしょうか。
厳しさが欠けた甘い人間になってしまいます。
 話のバランスをとるために、老婆心から追加しておきました。

4)ほめ言葉よりもほめる心が大事
これは、対人関係で言うなら、相手の言動や特性のポジティブな面のほうにバイアスをかけてみるということです。
・勉強ができなくとも人柄が良い
・口下手だが、言う内容は凄い
あるいは、ちょっと難しいところもありますが、現実のもろもろを一見するとネガティブではあっても、それをあえてポジティブにみてみるということでもあります。
・あと5分しかないではなく、まだ5分ある
・これしかないではなく、これがまだあった

5)ほめ言葉のシャワーを浴びせよう/浴びよう
 最後に、今日の朝日新聞の夕刊(2010年3月13日づけ)で、小学校教諭・菊池省三先生のこんな試みが紹介されていました。
 1人の子どもを教室の前にたたせて、級友がその子を次々とほめるのだそうです。あまり仲のよくない友達もほめることで多面的な人間観を持たせることもできるし、クラスの絆も深まるようです。
 会社などの朝礼でも活用すると効果がありそうですね。
 ついでにもう一つ。ほめ上手になるための検定試験、称して「ほめ達」も紹介しておきます。短所を長所に言い換える、失敗をプラスに考えるなどができるかどうかが試されるようです。
関連して?、ほめられサロンというサイトhttp://homeraresalon.com/ を紹介しておきます。
アクセスした人を徹底的にほめてくれます。ただし、こちらのほうは、まったくあなたは関係のないほめ言葉ばかりです。それでも、ほめ言葉の語彙を増やすには少しは役立ちますし、不思議にそれでも心がちょっぴり元気になります。
 さらにさらに、林寧彦氏のすすめ。
 気持ちが落ち込んだ時、心の中で、ともかくみるもの聞くものすべてをほめてしまうのだそうです。だんだん自分が元気になってくるそうです。
 
1-3)ほめるトレーニング

●「7つほめて、3つ叱れ」の教育的な意義について考えてみよう
①ほめることの良いところと悪いところ
「良いところ」


「悪いところ」


②叱ることの良いところと悪いところ
「良いところ」


「悪いところ」


③あなたなら、ほめると叱るの割合をどうするかを考えてみよう。

●ポジティブな表現に言い直してみよう(リフレーミング)
例: いいかげん>おおまか
① 石頭>
② のろま>
③ 短気>
④ けち>

⑤ あつかましい>
⑥ うぬぼれ>
⑦細かすぎる>
⑧神経質>
⑨不気味>
⑩がんこ>

●自分ほめをしてみる
「自分のいいところを、領域別にできるだけたくさん挙げてみよう」
(例は私の場合)

「性格」のいいところ
  >例 明るい
「頭の働き」のいいところ
  >例 視野が広い
「気持ち(感情)」のいいところ
  >例 楽観的
「人との関係」のいいところ
 >例 サービス精神が旺盛
「そのほか」
 >書くことを楽しめる




2章 笑う(ほン「わ」かあ)

2-1)感情表現

●多彩な感情を分類する
 感情は、多彩です。それを類型化する試みがいくつかなされてきました。
そのうちの一つで、わかりやすいのは、ラッセルの円環モデルです。
「興奮vs沈静」と「快vs不快」の軸を設定して、その円環に感情を分類するものです。

「快対不快」は、解説はいりませんね。
「活性対不活性」はイメージの沸きにくい用語ですね。むしろ、「激しさ/舞い上がった対静かさ/落ち着いた」とでも言ったほうがいいかもしれません。感情には、強弱があることを、分類の観点として入れたものです。
この2つの軸を組み合わせて、感情を4つのゾーン(領域)に分けます。
「快適・活性」 機敏な、上機嫌 幸せ>「元気ゾーン」
「快適・不活性」平和 満ち足りた くつろいだ>「リラックスゾーン」
「不快・活性」 緊張 心配 いらいら>「攻撃ソーン」
「不快・不活性」悲しみ 抑うつ 無力な>「沈みゾーン」
ポジティブ感情というくくりは、この分類で言うなら、「元気ゾーン」になります。

 ポジティブ感情は、この分類でいうと、「快領域」である第1象限と第4象限になります。
第1象限は、「幸福な」「大得意な」「熱中した」「興奮した」「機敏な」といった形容詞で表現される感情です。
第4象限は、「おだやか」「落ち着いた」「穏やかな」「満足した」といった形容詞で表現される感情です。

 こんな感情状態でいられる時って、どれくらいあるのでしょうか。
ほとんどの時間が、ほんのちょっと感情のさざ波がたつくらいの状態。そして、何か「良い事」「うれしい事」が起こるとポジティブ感情を実感する状態になるのだと思います。
「良い事」「うれしい事」はさまざま、しかも、表面的には同じ事でも受け止め方で感情が異なる場合もあります。
いずれにしても、ポジティブ感情をもたらす「良い事」「うれしい事」のベースには、人の生存を強化する、やや大げさな言い方をするなら、それを受け入れることで自分がより良く生きることができるというところがあります。 

●感情表現
 この多彩な感情におおまかに対応して顔面表情があります。
エックマンによると、怒り、嫌悪、恐れ、幸福感、悲しみ、驚き
の6種類の感情表現がある、しかも、それはバンコク共通だととされています。
笑顔は、幸福感、すなわちラッセルの円環で言うなら、第1象限と第4象限の気持ちを背景に、ポジティブな対人関係を創り出すために創り出されます。
 ところで、感情に対応する顔面表情があるのは、なぜなにでしょうか。
 それは、人間が社会的動物であり、自らの心を周りに伝える必要があるからです。
 認知状態は、言語とイメージ(映像)によって、周りに伝えることができます。それと同じで、感情も表情によって、周りに伝えるのです。
 笑顔で、自分の快感情、幸福感情を相手に伝えます。
 怒りで、自分の不快感情、不幸感情を相手に伝えます。
 感情表現は、感情伝達のための有力な手段なのです。

2-2)わらう

● 笑いってどんなもの
 笑うから元気なのか、元気だから笑うのか。いずれであるかはともかくとしてーー実は、これは、感情心理学の大問題の一つなのですがーー、笑いと心身の健康(元気)とは関係があることは間違いありません。
 ただ、「笑い」には実にさまざまなものがあります。苦笑、嘲笑、冷笑、せせら笑いなどのようにネガティブな感情の表出としての「笑い」から、笑顔、爆笑、微笑のようにポジティブな感情に伴う「笑い」まであります。さらに、照れ笑いなんてのもあります。
まさに、人間その笑う存在です。
ここでは、言うまでもなく、後者のような笑いを取り上げることになります。

さて、その笑いってどんなものなのでしょうか。
 笑いに限りませんが、気持ちの喜怒哀楽は、顔の表情として表出します。笑いもその一つ、しかも、人に固有の表出です。
怒りなどのネガティブ感情に伴う表出は、犬猫でもあるのになぜでしょうか。(もっとも、動物愛好家なら、犬猫も笑うというかもしれせんが。)
 それは、笑いの2つ目の特徴になります。つまり、笑いは、社会生活の中で、かなり大事なメッセージを伝えているのです。
・私はあなたのことを全面的に受け入れます
・私は今ポジティブです
・あなたは私の予想を外れた行為をしています
 社会的動物である人にとっては、このように、笑いは、欠かすことのできないコミュニケーションの道具なのです。
 笑いをあえて、3部の「仲間を元気にするためのキーワード」に入れたのも、このためです。

● どういう時に笑うのか
まずは、お互いがポジティブな感情を共有しているときに、笑います。
やや余談になりますが、大学で40年余り講義をしてきましたが、どう考えてみても、講義中に学生が笑ってくれたという思い出が一度もありません。
何度も冗談やダジャレのようなことも言ってみたこともありましたが、学生のほうは、ぽかーんとしていました。そんなことが続くため、いつからかもう、学生を笑わせるような努力をしなくなってしまったようです。
笑わせようとして努力したのに笑ってくれないときほど、ばつの悪いことはありませんから。
 それに対して、落語や漫才の寄席中継。
笑いの渦ですね。なんでそんなことがおかしいの、というところでも笑いが起こります。
 つまり、講義室とは違って、寄席では演ずる人も観客も、笑って楽しむという目的を共有しているのですね。笑わにゃー損々、というわけです。
ですから、笑いの閾値が低いのです。
 大学の講義以外にセミナーや講演などでも、笑いをとるのは、日本ではかなり難しいです。聴衆のほうが、まじめすぎるのです。お勉強するのに、笑いなんて不謹慎とさえ考えているふしがあります。
 でも、ポジティブな感情を共有しているだけでは笑いはおこりません。
 笑いを起こすのは、相手の言動が、こちらの解釈のための図式(スキーマ)とずれている必要があります。
 最近のお笑いタレントは、奇妙な動作で笑いを取るのが流行のようです。
「奇妙」に見えるのは、そんな動作は「普通は」しないからです。この「普通は」を支えるのは、あなたの頭の中にある知識のまとまり、すなわちスキーマなのです。
 スキーマからのズレがはなはだしくなると、笑いより驚きになってしまいますので、微妙なずれ具合をとるのが聴衆を笑わせるコツになります。
そのあたりのうまい下手が、お笑いタレントのタレントということになります。
 
● 笑いの効果はこんなにある
笑いの効果の第一は、善人宣言効果です。
「私は悪い人間ではありません」
 「あなたを全面的に受け入れます」
「自分はいま、ポジティブです」
といったメッセージを相手に言わずもがなに伝えることは、笑いの一つの効用です。
 この「言わずもがな」が大事ですね。何も言わなくとも、笑いは、これだけのことをわかってもらえるメッセージなのです。使わない手はありません。

笑いの2つ目の効用は、相手の気持ちを元気にする効用もあります。
笑いだけではありませんが、笑いには、感染効果があります。ある人の笑いが回りの笑いを誘うのです。この効果は場の雰囲気を変えます。周囲を元気にしてくれます。
 こんなブログを見つけました(「スリーイーグループ社長日記」より)
  
顔施(がんせ)とは、にこやかな表情で人に接するということで、和顔施(わがんせ・わげんせ)ともいう。
 これなら誰にでもできる。
 出家して以来、私はつとめてこれを心がけてきた。
 和やかな表情に会い怒る人は、まず、いまい。
 あらゆる職業の人にこの行を心がけてほしい。
 生まれつき器量が悪くても、笑顔は人をチャーミングにも美人にも見せる。
 私はそういって特に女性に和顔施をすすめている。
──瀬戸内寂聴

笑顔を振りまくこと、それ自体がひとつのお布施になるのです。いつもなご
やかで穏やかな顔つきで人や物に接することです。
さらに関連した名言を一つ。
「泣くときは一人だが、笑えば世界も一緒に笑う」(W.ウイルコックス)

笑いの効果については、さらに2つあります。上の2つとは違った笑いの効用になります。
一つは、笑いの病気の防止と治療効果です。
笑は「内臓のジョジング」とうまい表現をした人がいますが、笑う人のほうが病気にかからない、病気になっても回復が早いということを示すデータがあれこれ報告されているのです。筑波大学の名誉教授で遺伝学の研究で著名な村上和雄先生によると、笑いは、病気の発症や治療にかかわる遺伝子のオンオフに関係しているらしいのです。
もう一つは、先輩の市村教授から仕込んだ話です。笑いの行動的促進効果です。引用しておきます。
「野球のピッチングの練習を、笑顔でやるのと苦しそうな顔でやるのとでは、笑顔のほうが球速を持続させられる、というスポーツ心理学の実験研究もある。心理学の有名な実験に、氷水の中に手を入れておく時間を、笑顔の人と苦しい顔の人が競争すると、笑顔の人が勝つ確率が高い、というものもある。」

●効果的に笑う、笑わせるコツ
 いずれの場合でも、気持ちがポジティブでないとどうにもなりませんね。無理な作り笑いになってしまいますから。その上でまず、自分から効果的に笑うほうから。
1)ともかく笑う
 先ほど、講義や講演では、学生諸君や聴衆がまじめで笑ってくれないという話をしました。まじめなのは良いのですが、でも、相手が笑わせようとしているときには、場の雰囲気がありますから大声で笑う必要はありませんが、せめて顔の緊張をほぐして微笑くらいはするように心がけることです。
確かに、お笑いタレントと違って、笑いのきっかけになる思考のズレは、もっぱら知識のズレですので、きちんと話を聞いていないと笑うタイミングがとれません。それだけに、笑うということは、あなたの話をきちんと聞いている、話が私に伝わっているというメッセージを相手に送り返すことになります。
もう一つは、かなり強引な笑いになりますが、ともかく笑う、もっと言うと爆笑することです。さらに言うなら、気持ちに関係なく笑ってしまうことです。
冒頭で、「笑うから元気なのか、元気だから笑うのか」は、感情心理学の大問題と言いました。それは、
笑う(身体の末梢反応)――>元気(ポジティブ感情)
という因果を想定するのか、あるいはこの逆なのかということなのですが、ジェームズ・ランゲ説として古くからあったのが、「笑うから元気」という因果関係なのです。
それが最近、少し装いを新たに再登場してきたのです。ちょっとだけ説明します。
笑うーー>「自分は、なぜ笑うのだろう、と推論する」ーー>おもしろいからだ
「身体反応」と「感情」との間に、身体反応を推論する過程が入って、その解釈に従って感情が発生する、というのです。「笑っているから、自分はおもしろいと思っているのだ」というわけです。
 決着はついていませんが、でも、ともかく笑ってみる。そうすれば、元気になるのですから、試してみる価値はありますね。

 ここで、面白い試みをしているNPO法人「笑み筋肉体操ハッピーネット」(会長;林啓子)を紹介しておきます(「常陽リビング」より)。
 林氏は、笑いの健康向効果を引き出すために、笑い体操を考案しました。
・唇を左右に広げて、さらに上にあげる
・顔の筋肉(表情筋)のあちこちをつまむ
なお、私は、車のなかで、思いつくと、あるいは眠くなると、舌出したり、笑い顔をつくったり、目を最大にあけたりして、表情筋を動かすようにしています。
筋肉ですから、鍛えれば(使えば)強くなります。笑い顔も含めて表情が豊かになります。
 
2)相手を効果的に笑わせる
 お笑いタレントの真似をして、「冗談、ユーモアを言う」「ぼけたり」「突っ込んでみたり」「ダジャレを言ったり」「からかってみたり」は、場面によってはあってもよいかもしれませんが、普段は、そんなハイテンションは不要です。というより、疲れてしましますね。
 相手を効果的に笑わせるには、結局はここでも、あなたが笑えば良いのです。あなたの元気を見せればいいのです。笑顔の感染力にはすごいところがあります。
あまりにも簡単なことですが、これがすべてです。

2-3)笑いトレーニング

●丸い円の中に、目と鼻と口の3つで、いろいろの表情を描いてみよう
その中で笑顔があったら、その特徴を箇条書きにしてみてください。




●今日一日、あるいは、昨日・今日で、笑った経験を書き出してみよう
どうすれば、もっと笑う機会を増やせるかも考えてみよう

例;TVでのお笑い芸人の奇妙な動作に吹き出してしまった。





 

第3章 かんしゃする(ほンわ「か」あ)

3-1)感謝の心理学
 スポーツ選手の試合後、あるいは表彰後のインタビューで、必ずといっていいほど出てくる言葉の一つが「感謝」である。
 ・ファンのみなさまの応援に感謝
 ・これまで支えてくれた家族に感謝
 ・一緒にがんばってくれた仲間に感謝
という具合である。
 ここには、自分の達成したことの自分なりの満足感、あるいは幸福感の承認がまずあり、それを周りの誰か、何かのおかげであるとの認識があります。
 たかが感謝ですが、意外に面倒な心の働きなのです。
 自己承認が過剰であったり、逆にまったくなったりすると、感謝心は生まれません。また、自分のまわりへの感度が鋭すぎのも、逆に鈍すぎるのも、感謝心を産みません。
 なお、感謝の対象には、ファンや社会、さらには神仏のように不特定の場合と、家族、仲間などのように特定されている場合とがありますが、ここでは後者に限定した話になります。
 
3-2) 感謝する
● 内観療法
 非行少年の更生施設などで活用されている心理療法の一つに内観療法というものがあります。
 過去を振り返って、「何をしてもらったか」、それに対して「どんなお返しをしたか」を内観させるものです。
 かわいがられた経験の少ない非行少年でも、あらためてこういう振り返りをする機会を得ると、さまざまな感謝体験が回想されるようです。それが非行少年たちを変えるきっかけになるようです。
 実は、自分もあまりかわいがられた経験がないと思っていました。
 しかし、内観というより回想をしてみました。
 ありました。ありました。実にたくさん、口では言わねど、自分のためにしてもらっていたこと、そして感謝すべきことがふつふつと思い出されてきました。
・ からだが弱いから、自分だけ牛乳をとってもらい、さらに養命酒まで飲ませてくれた。
・ 通信簿で良い点をとると、天ぷらかカレーを作ってくれた。
・ 大学受験できる家庭の経済状況ではなかったにもかかわらず、何も言わずに受験勉強させてくれた
などなど。

● 感謝マインドが生まれる
 普通に感謝マインドが生まれるためには、まずは、今の自分が何事かをやり終えた満足感、幸福感の自覚が必要です。
たとえば、「今こうしておいしい食事できる幸せ」「よき伴侶が得られた幸せ」などなど。そして、その今現在の満足、幸せが、何からくるのかを考えることになります。
その際に、自分の努力や才能によるとすることもありえます。
あそこでのあのがんばりがあったればこそというわけです。その場合は、自信、あるいは、自分は有能である、という感覚の強化になります。これはこれで結構なのですが、感謝とはほど遠い方向になります。
若いときは、これでよいのだと思いますが、これが極端になると、いわゆる自己チュー、つまり自分中心にしか物事が考えられない人なってしまいますので、要注意です。
感謝の気持ちが沸いてくるためには、今現在の幸せ、満足は、自分のまわりにいた人々、あるいは組織(家族、学校など)や神仏などのおかげ、という認識が必要です。
・小学校の担任の先生が、貧乏で払えなかった給食費をこっそり立て替えてくれた。
・母親が内職をして学費を出してくれた
・ 高校の先生方は、勉強嫌いの自分を勉強好きにしてくれた
・ 何か大きな力が自分を押してくれた
こうした認識は、それが本当であったかどうかはあまり問題ではありません。そのように自分が思い込めればそれで十分です。場合によっては、相手がまったくそんな意識がなかったとか、極端な場合、まったく反対のことをしていたなんてことがあってもよいのです。
今現在の幸福感、満足感とそれをもたらしてくれた過去の原因の認識。
これが自分の心の中でつながったとき、はじめて感謝マインドが生まれます。
なお、冒頭の内観療法では、この逆をやっていることになりますね。まずは感謝の対象を見つけさせるのですから。でもそれを見つけたら、結果として、今現在の自分の気持ちをそれなりの満足感、達成感で満たすことができるということだと思います。

●感謝マインドを作れない人
ところで、どうしても、感謝マインドが作れないという不幸な人がいることが知られています。ガバードという研究者によると、「自己愛性人格障害の人」です。
両極端があります。
「周囲を気にかけない自己愛的な人」
・他の人々の反応に気づくことがない。
・傲慢で攻撃的である。
・自己に夢中である。
・注目の中心にいたい
・送信者であるが、受信者ではない
・明らかに他の人々によって傷つけられたと感じることに鈍感である。
「過剰に周囲を気にかけすぎる自己愛的な人」
・他の人びとの反応に敏感である。
・抑制的で、内気で、あるいは自己消去的でさえある。
・自己よりも、他の人々に注意を向ける。
・注目の的になることを避ける。
・侮辱や批判の証拠が無いかどうか、注意深く、他の人々に耳を傾ける。
・容易に傷つけられたという盛情を持つ。差恥や屈辱を感じやすい。

●感謝を表現するコツ
1)感謝状を書く
いま 心理学の授業の冒頭の時間を使って、ポジティブ・マインドづくりの実習をしています。その最初が「感謝マインドづくり」です。
ねらい2つあります。
一つは、ここまで述べてきたように、過去を振り返っての感謝の表明です。いわゆる感謝状書きですね。人でも組織(学校や地域など)に対して、「あなたが自分に??してくれた陰で、今こうして幸せです」ということを文章に書くことです。
自分でもやってみました。
ひとつは、受講学生に対して、「よくぞ、本学に入学してくれた。ありがとう」。
もう一つは、定番ですが「家族への長年の労苦に対する感謝状」です。
やってみて気が付きました。
学生への気持ちが穏やかなものになりました。妻への思いも深いものになりました。
感謝状効果、馬鹿になりません。

2)感謝言葉を口癖にする
感謝マインドづくりのもう一つは、「ありがとう」「お陰さまで、助かりました」を口癖にする習慣づくりです。
過去を振り返ることで感謝マインドを作り出せたら、それ毎日の生活の場で活かすのです。
生活の場では、心の中ではそう思っていても(感謝していても)、ついそれを言葉に出せないということが結構ありますね。
口癖になっていないということに加えて、もう一つ、やっかいなことに、感謝すると、そのお返しをしないという「追い目意識」が生まれます。これがいや、面倒ということで、つい感謝言葉を発しないということもあります。
これは、いずれは、自分が感謝されるようなことをしよう、ということで済ませばよいのです。あまり気にする必要はないと思います。あなたの感謝言葉だけで十分に相手はうれしいのです。お返しなんて考えてもいないかもしれません。
というわけで、気楽に感謝言葉を出せるようにしたいものです。
・朝、お弁当をつめてくれた母親に「いつもありがとう」が自然に出るようにするのです。
・エレベータでドアを開けて待ってくれた人に、「ありがとう」を言えるようすることです。
なお、こういう時って、どちらかと言うとネガティブな表現である「すみません」のほうをよく使ってしまいがちですが、ポジティブ表現の「ありがとう」の方が格段にいいですね。
いずれにしても、感謝マインドが少しでも芽生えたら、口に出せるように習慣にしてしまうのです。そうすれば、感謝された人にも感謝マインドが伝染します。そして、自分のしたことが相手に感謝されたことがはっきりとわかることで、自信になります。
さらに、相手も、自分のした行為が人の役に立ったという有能感に浸ることができます。それがやりがいにつながります。そのきっかけを与えてくれたあなたへの感謝にもつながります。
ポジティブ・スパイラルがあなたの周りで巻き起こることになります。
最後に、天童荒太「悼む人」(文藝春秋)の奇妙な感謝をめぐる本を紹介しておきます。
新聞記事から見つけた縁もゆかりもない死者のゆかりの地を訪ね、「その人は、誰を愛したか。誰に愛されたか。どんなことで人に感謝されたことがあったか」を聞きまわり、それをもとに死者を悼むのです。それが次第に周囲に感謝の波紋を投げかけていくのです。
たまたま目に触れて読んだ本ですが、感謝物語にこんな世界もあり、ということで紹介してみました。
ついでに名言を3つ。
「働く意味は、他人から‘ありがとう’を集めることにあると思います」(渡邊美樹)
「自分を幸せにしてくれる人たちに感謝しよう。彼らは魂を花開かせてくれる素敵な庭師である。」(プルースト)
 「十のサービスを受けたら十一を返す。その余分の一のプラスがなけ
れば、社会は繁栄していかない。」(松下幸之助)

3-3)感謝トレーニング

●感謝する/される体験を思い出してみよう
1)自分について、感謝する体験、感謝される体験の内容を列挙してみてください。
「感謝する体験」
 例 バスを降りるとき、運転手にありがとうを言う。
 ・
 ・
 「感謝される体験」
 例 頼まれごとをしてあげたとき
 ・
 ・
2)感謝する体験とされる体験とはどちらのほうが多いですか
 



●小学校の先生を一人思い出して、その先生に感謝状を書いてみよう


第4章 あいさつする(ほンわか「あ」)

4-1)あいさつの3つの役割
 挨拶に理屈は不用なのですが、それでもひとつだけ、挨拶の役割については、ここでまず確認しておきたいと思います。
 まず一つは、対人関係の開始と終わりのシグナルとしての挨拶の役割です。「これからあなたと一緒に〇×をします」「では、これでお別れです」ということになります。対人関係に、いわばメリハリをつける役割です。
 2つ目は、あなたと同じ仲間です/仲間になりたいというシグナルの役割です。同じ組織、共同体のなかにいる人々どうしが使います。
 3つ目の役割は、親密さのシグナルとしての役割です。最近の厳しい国際情勢のなかで首脳どうしの会談が行われると、あいさつの身体表現の一つである握手をしたか/しなかったが注目されることがあります。 

4-2)あいさつする

●あいさつ実験
今日こそ、散歩をしながら、行き交う人々に挨拶しようと、出かける前に決心します。近隣には、自分とおなじくらいの高齢の方々がたくさん散歩しているし、あちこちに最近はられるようになった防犯ポスターの一つ「挨拶こそ 地域の絆づくりの第一歩」を実行せねばと思うからです。
ところが、これができないのです。つい、目をそらし、頭をたれて、通り過ぎてしまいます。
相手もその気持ちのほどはわかりませんが、先方から挨拶してくる人もまずいません。
でも、時折、思い切って挨拶すると、相手からも挨拶が返ってきます。これもおもしろいですね。しかも、うれしいですね。
まれですが、挨拶しても無視されることもあります。これは気持ちがちょっぴり傷つきますね。それがいやで、あるいは怖くて、率先挨拶をしたくないということもあります。
散歩している人も、「挨拶することはよいこと、必要なこと」は知っているはずです。ある人はそれができにくい、ある人は、それがいとも簡単にできてしまうのです。この認識と振舞いのギャップの違いはどこからくるのでしょうか。

●あいさつしたい、でもーーー
まずは、挨拶する人どうしの関係がありますね。
雑踏の中で誰かれとなく挨拶することは絶対にありません。
先生に学生が挨拶するのは、面識こそないもののーーー実は、大学では、
学生は先生を知っていて、先生は学生を知らない、という非対称性がありますーーー同じ組織に所属しているものどうしという前提があります。
組織に関連して、もう一つ、挨拶の普及には、それなりの雰囲気づくりがあると思います。
「ではお隣同士挨拶してください」から会議をはじめる議長役の人もいました。それくらい、挨拶を大事にしているのです。これがわが大学の挨拶文化を作り出すのに大きく貢献しているはずです。
そして、いったん、こういう文化ができてしまえば、あとから入学してくる学生、教員は、なんの抵抗もなく、これを受け入れます。
ところで、昔、生まれてはじめて富士山に登ったときのことを思い出しました。苦労して登っていくと降りてくる人が挨拶をするのです。ちょっとびっくりしました。その後も何度か山登りをしましたが、同じように挨拶されました。
これはなんなのでしょう。たんなる山登りのマナーなのでしょうか。だとしても、どういう経緯でこういうマナーができたのでしょうか。
もう一つ余談ですが、ちっと気になる話。それは、子どもには、むやみに知らない人と挨拶をしないようにとの指導がなされているとの話です。安全上の配慮からですが、これもまたややさみしいし、行き過ぎの感じがあります。

● 挨拶はあれこれ
 挨拶は地球上のどこでも交わされる親しみのための儀式です。
儀式ですから、まず、するべき時と場所では必ずしなければなりません。そして、挨拶の仕方(マナー)もそれぞれの文化による違いはありますが、必ず決まっています。
外国訪問した際の要人どうしの挨拶がその典型ですね。聞いたところによると、外国訪問の際、まずは、要人へのレクチャーは挨拶マナーだそうです。
 こうしたいわば「公式的」な挨拶は、双方がして当たり前、しかも、その場のマナーに従ってして当たり前となります。できなかったら、恥知らずとなります。時には、国際問題にもなりかねません。
 ここで問題にしたい挨拶は、いわば「非公式の」挨拶です。これには、明確な決まりがない、しかし、強い「暗黙の」決まりがあるだけで前に紹介したような面倒が起ることになります。
ところで、こうした挨拶は何のためにやるのでしょうか。
感情表現は、自分の気持ちを伝えるシグナルなり、という考えがあります。それを敷衍すると、挨拶、それに伴う表情(笑顔)は、あなたの親しみの気持ちを相手に伝えるシグナルと言えます。
なんのために親しみを見せるかというと、
はじめての場では、
「攻撃しません、皆様の仲間です、あるいは、仲間にいれてください」
というメッセージを伝えるためですし、
親しい場では、
「これから、自分もその場にいれてください」
というメッセージを伝えるためです。
だとすると、親しい人の場合は違和感なくお互いに挨拶できますし、しなければ不自然になります。そして、相手が見知らぬ人だと、挨拶すると、予想外のことなのでびっくりされたり、なんでなれなれしくしてくるの、という警戒心を抱かせてしまうことになります。それが、無視、反発となります。
となると、見知らぬ人への挨拶が気持ちのよい挨拶返しをもたらすのは、予想や警戒心とは無縁な状況の場合だと思います。登山道の1本道でのすれ違いの挨拶交換がその例かもしれません。
近隣の散歩道でのすれ違いでの挨拶はどうでしょうか。
警戒する必要のない人、たとえば、犬をつれた人や高齢者には、自然に挨拶をしている自分に今気がつきました。
挨拶は、相互的なものです。
お互いが同じような状況認識ができれば、挨拶をめぐっての緊張関係や無視、反発は発生しないのですが、状況認識がずれると、挨拶したほうからすると無視がしゃくにさわる、挨拶されたほうは、びっくりしたり、警戒心を持ってしまった自分に罪悪感をちょっぴり抱いてしまうようなことになります。
この微妙な心の動き、たかが挨拶、されど挨拶ですね。
 
● 挨拶で相手を元気にするコツ
やや長い余談から入ってしまいました。仲間を元気する挨拶の話に入ります。
見知らぬ人からのいきなりの挨拶には身構えてしまいますが、仲間ならおおかたの挨拶には誰しもポジティブに反応するはずです。それはひるがえってあなたを元気にします。
自分のポジティブな気持ちが相手をポジティブな気持ちにして、それがまた自分をよりポジティブにしてくれる、こうしたコミュニケーションをポジティブ・コミュニケーションと言います。
挨拶は、ポジティブ・コミュニケーションの入口で大事な役割を果たしていることになります。
入口ですから、まずは入ることが大事、そして、できるだけすんなりと入りたいものですね。そのためには、どうしたらよいのでしょうか。
●相手も自分も元気にするための効果的な挨拶のコツ
ここでも、たかが挨拶、されど挨拶です。
結構、身につけるまでは、面倒な配慮と努力とが必要です。大事と思われるものを5つ挙げてみます。
1)挨拶の頻度をやや多めに
ある小さい牛丼のお店に入ったときのことです。
ドアを開けると「いらっしゃいませ」席に着くと「いらっしゃいませ」、丼を持ってくると「お待ちどうさま」、レジでは「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしてます。」
これを一組のお客に言うのですから、お客が5組もくると、しかも、店員さんが全員で言うわけですから、その凄さ、まさに挨拶騒音でした。
いくら挨拶の頻度を多めにといっても、ここまでやるのは行き過ぎです。
ただ、一般にはやや挨拶が少ないのではないでしょうか。あなたの身の回りではいかがですか。そして、全体が、やや不機嫌な雰囲気がありませんか。それは、よくないですね、挨拶の頻度を少し多めにしてみることをすすめます。

2)挨拶返しがなくとも、ひたすら挨拶
インターネットで素敵な話を見つけましたので、紹介させてもらいます。
よくすれ違う人に挨拶をしたら、無視された。しゃくなので、すれ違うたび
に大声で挨拶することを繰り返した。何度かそうしたことが続いた。
あるとき、その人が待っていた。手紙とお菓子を黙って手渡してくれた。手紙には、「自分は、言語障害のため、あなたの挨拶に答えることができなかった。申し訳ない」と書かれてあった。
 挨拶の無視は気分が悪い、だから自分からは挨拶しない、いうのも痛いほどその気持ちは、わかります。でも、こういうこともあります。嫌味にならない程度に率先挨拶の方針でいきたいものです。
 挨拶しないー>気持ちが伝わらないー>不気味―>挨拶しない――――
というネガティブ・コミュニケーションに入り込んでしまったら、お互いに不幸ですね。

3)心をこめる
ポジティブな気持ちがあれば、その表現は自然に表情に現れます。
いつもより大きな声、直立した姿勢、相手の顔に向けた安定した視線、そして、笑顔となって表出されます。
 したがって、心のこもっていない挨拶は、ただちに相手に見破られてしまいます。
挨拶にも儀礼的なものがありますから、いつもいつも「心をこめて」である必要はないのですが、やはり、こうした感情表現にも配慮したほうがよいと思います。

4)タイミングを見計らう
 散歩していて一番厄介なのが、1本道で先方から同じように散歩をしている人が近づいてくるときです。
視線配りがなかなか面倒なのです。
じろじろ見るわけにもいかないし、かといって、見ないわけにもいかないし。ましてや、さて、挨拶はどうしようと考えたりすると、逃げ帰りたいような気持ちになってしまいます。そんな経験、ありませんか。
 原則は、相手との距離120~360センチ、そして、視線があった瞬間。これが挨拶するタイミングだと思います。
 120~360センチ。これは、「社会的距離ゾーン」と呼ばれており、見知らぬ相手との距離の取り方として適当とされています。ちなみに、パーソナル・スペース論によると、これより接近するゾーンは、「個人的距離ゾーン」と呼ばれています。
 見知らぬ人がこの空間に入ってきたときは、瞬間的ですが、お互いに仲間になるのです。ですから、挨拶をしよう、しなければ、となるのです。そこを狙って、勇気をもって?先にあいさつしてしまうことです。

5)多様な挨拶のレパートリを
 挨拶は、声に出してするのが原則ですが、たとえば、エレベータに乗り込むときに見知らぬ先客がいる。こんなときに、いつものように大声で笑顔の挨拶というのはおかしいですね。
目礼、会釈くらいが適当です。これなら、一緒に乗っていて無言でもそれほど気まずい思いはしないはずです。 
 TPO(time.place,occasion)に応じた挨拶の仕方もありますから、言葉の使い方も含めて挨拶のレパートリーを増やすことも必要です。

6)挨拶の次も大事
挨拶は、ポジティブ・コミュニケーションの入口にすぎません。だから大事なのですが、しかし、入口にとどまったまま、というわけには普通はいきません。
「おはようございます」、相手も「おはようございます」。
これで双方だんまりでは、行きずりならともかく、知り合いどうしでは、まずい状況になります。
さらに中へとはいっていく、それもできれば、ポジティブ・コミュニケーションの方向へもっていくための手立ても必要です。
定番は時候の挨拶です。
あまりに定番になっているため、かつて失敗しまったことがあります。外は雨なのに、何気なしに「今日は天気がいいので」と定番挨拶をしてしまいました(笑)。
これはご愛嬌ですが、いきなり用件とはいきませんので、入口の挨拶と用件までの間をつなぐ、話題のレパートリーも豊かにしておきたいものです。
 ・誰もが知っている、関心のある時事ネタ
 ・共通の友人の楽しい話題
 ・自分の失敗談
 などなど

7)別れのあいさつには、感謝心もこめて
あなたと一緒できて、楽しかった、うれしかった、ためになったなど
など感謝の気持ちを「さよなら」とともに追加しておくと、次からは、よりポジティブな人間関係になります。

4-3)あいさつトレーニング

●見知らぬ人には、どんなときにあいさつしているかを列挙してみてください
例 会合などで隣に座った人に、自己紹介も兼ねて。


●これまで挨拶したことのない場面で、率先あいさつをしてみよう
例 同じ団地内であった人には、必ずあいさつする。


●言葉が遊びをしてみよう
「ほンわかあ」と同じように、「あいさつ」の4つのことばを枕にした言葉を探してみてください。
「あ」 かるく 
「い」 
「さ」 
「つ」 

●次のそれぞれについて、あなたのよく使う言葉を2つずつ挙げてみよう。
①ほめ言葉


②感謝言葉


③挨拶言葉



   






映画「孤独なハレ体験を楽しむ」

2019-08-30 | ポジティブ心理学


映画「孤独なハレ体験を楽しむ」

●小説と映画
 最近は時間があることもあり、さらに、シニア割引(1000円)もあり、近くにがらがらのシネマ館ができたこともありと、ありありで、よく映画を見ます。
直近では、といっても2,3か月前になりますが、「海賊と呼ばれた男」が印象に残っています。その前は、と思って思い出そうとしましたが、出てきません。これが映画の特徴の一つですね。見た、面白かった、でも忘れたとなりがちです。小説なら本棚に残っていますから、こういうことはないですね。はからずも、小説と映画の比較をしてしまいました。
 小説も映画も、仮想世界に導いてくれる古くからある2大仕掛けです。誰もがそれになり楽しめる仕掛けです。これにIT技術によるものが加わって、今や、仮想世界は、百家争鳴状態です。というような話は、小説のところでしました。
 今回は、映画。
小説と比較しながら、心の元気づくりとの関係を考えてみます。

●映画は感情移入が容易
 文字表現の小説と映像表現の映画とには、読む者、見る者の心に訴えるものに違いがあります。
 映画は、映像で直接的に訴えます。文字なら百万言費やしても表現できないことをたちどころに直接見せてくれます。
 そして、かわいそうなマッチ売りの少女の立ち居振る舞いを直接見せられれば、ただちに感情を揺さぶられます。そして、感情移入してしまいます。
 小説よりもはるかに簡単に感情移入してしまいます。小説だと文字表現の知的理解というステップが間に入りますので、その分、感情移入の敷居が高くなります。
 
●映画で気持ちを元気にするコツ
①映画は内容が大事
 映画は見てすぐ感情移入をさせられますから、小説とは違って、気持ちを元気にするには、はやりポジティブな内容の映画を見る必要があります。
 となると、喜劇仕立てのものなら無難ですが、物語性、現実性がないと退屈してしまいます。
 やはり、はらはらどきどき、最後は、ハッピーエンドものですね。
 熱中して映画を見る体験だけでも気持ち元気になれますし、終わりよければ、気持ちよく映画館を出ることができます。

②ひとりこっそり楽しむ
 映画の元気づけ効果は、お酒によるそれと似たところがあります。
 一時の一人ハレ体験ですね。その意味では、茶の間でよりも、真っ暗な映画館で一人こっそりがふさわしいと思います。

③頻度はほどほどに
むしょうに物語が欲しくなることはありませんか。そして、気がつくと、かなり長い間、映画も小説もごぶさたしているというようなことがありませんか。人間には、物語欲求のようなものがあるように思います。
今は、TVでも簡単に物語をみることができます。ですから、その気になれば、容易に物語を楽しむことができます。ありがたい環境です。
だからといって、四六時中、物語に浸っているのは不健全です。感情エネルギーが枯渇してしまいます。ほどほどが一番です。「映画でもみたいなー」という気持ちが自然に湧いてきたときに、やおら映画館にいくくらいが適当ではないでしょうか。




捨てる、すてない??」10年前の今日の記事

2019-08-29 | 心の体験的日記
先日の会合
かなり年配の先生のあいさつ

もうこの背広、
着る機会もないだろうと思って処分しようと思った

そうなんです。
自分はそれほどの衣装持ちではないのだが、
それでも、この夏、クリーニングに昨年だしてまだ
きていない背広が
それも、ダブルで高価(だったはず)なものばかり
そういう背広を着ていくところが減った証拠

お年寄りが、ときには、場にふさわしくないほど立派な格好をしているのを
見かけることがあるが、
たぶん、もう一回きて、もう一回きて ではないかと思う

一度きればクリーニングにだすことになる
着なければ、かびが生えるかも

あれこれつまらない悩みで今、苦しんでいる(嘘)

逆行抑制(retroactive interference>学生が解説すると

2019-08-29 | 心理学辞典
 
逆行干渉(retroactive interference>
 逆向抑制とも言います。これは「忘却」つまり「忘れること」の主な原因の1つです。例えば、社会の勉強をしてせっかく覚えたことが、次に理科の勉強をした後には忘れてしまうことがあるでしょう。これは後の勉強(ここでは理科)で覚えたことが、先の勉強(社会)で覚えたことを忘れさせてしまっているからです。すなわち、逆向干渉とは後続の勉強(理科)によって、先の勉強(社会)が干渉、つまり妨害されることを言います。この妨害は、2つの学習の間が短かったり、覚えることが似ていたりすると大きくなります。また特に後の勉強の方が覚えることが多ければ、先の勉強は大きく妨害されます。ちなみに、この反対に先の学習が、後の学習を妨害することを「順向干渉」といいます。(HH)
  
逆行抑制(retroactive interference>
逆行抑制とはある事柄についての記憶がその後に経験した事柄の記憶によって干渉、邪魔を受けることです。例えば友達Aさんが引越しをして電話番号が変わったします。そしてあなたは新しい電話番号を覚えました。するとあなたは古いほうの電話番号をなかなか思い出せなくなるでしょう。これはどうしてでしょうか。それは「友達Aさんの電話番号」という手がかりを使って古い電話番号を思い出そうとしてもこの手がかりは新しい方を先に思い出させてしまい、その結果、古いほうの電話番号を思い出すことを邪魔してしまうのです。もう一つ、実験を例にあげましょう。二人の学生に同じ内容の複数の単語を暗記してもらい、一人は睡眠をとり、もう一人はずっと起きていてもらいました。その結果、起きていた人のほうが睡眠をとった人よりも多くの単語を忘れていました。これは起きているときのほうが寝ているときよりも刺激をたくさん受け記憶が増えるために、暗記した記憶に、より多くの邪魔が生じた結果だといえます。このように後からの記憶によって前の記憶が薄れてしまうことを逆行抑制といいます。(KH)
****
 「逆向抑制」とは、人の忘却のしくみに関係する言葉です。日々の生活の中で、ちゃんと暗記したつもりでも、忘れてしまうことがありますね。これは、前々からあった記憶が新しい記憶を妨害するためか、新しい記憶がそれまでの記憶を妨害しているために起こります。このように記憶同士が互いに妨害しあう現象を「干渉説」といいます。中でも、新しい記憶によって古い記憶が妨害されることを「逆向抑制」といいます。例えば、いくつかの単語を覚えた後、意味のない数字を復唱するという作業をしてみると、意味のない数字を覚える作業をしなかったときよりも、覚えている単語の量が少なくなるでしょう。これは「逆向抑制」の働きによるものです。この反対に「順向抑制」というものもあります。これは、以前に記憶した情報が、その後に提示した情報に干渉をしてその情報の記憶を妨害するというもので、逆向抑制とは反対の働きを言います。逆向抑制をわかりやすく表すと【前の記憶←じゃま(干渉)←新しい記憶】となり、順向抑制を同じように表すと【前の記憶→じゃま(干渉)→新しい記憶】というようになります。私たちの記憶、忘却のシステムにも様々な働きがあることがわかります。(YN)
  

身体全体がひどく疲れる

2019-08-28 | 心の体験的日記
右手不如意をカバーするために、
無意識のうちに、別の普段は使わない部位をいつもよりも倍以上の力でうごかすためではないかと思うが、
全身ぐったり、ごろごろの毎日が続く。

これも慣れることができるのかなー

困った!!

2019-08-27 | 健康・スポーツ心理学
かかり付け医に、「接骨院にいっている」
といったら、
即座に、だめだめ、と言われた。
うーん、迷うな―

1時間ちかくもあれこれやってくれる熱心さにあと2回だけかけてみる。
痛みや腕の動き、ほんのちょっとよくなっている感触があるので。

庭」10年前の今日の記事

2019-08-27 | 心の体験的日記
芝生がみえないくらいに雑草が生えてしまった
昔は、すこしずつ手で取るのが楽しみだったが
最近は、とてもおっくう
たぐちさんに頼んでいる

テニス友達の家にいったら、芝生があまりに見事
草一本ない
どうやって手入れしているのですか とたずねた
「丸ごととっかえちゃうのです」だと
すごいなー

実家は、庭全体をコンクリートで固めてしまった

石をしくのもいいという

ところで、最近、どういうわけか、
まったく庭におりたことがない

amazonから自著本の購入のすすめ」

2019-08-27 | 心の体験的日記

あっはっは!!
究極のターゲット広告だな!!
@@@@@


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精神科領域で運動が推奨されるのはなぜか?」旅心ブログhttps://www.ntan.work/より

2019-08-27 | 健康・スポーツ心理学
精神科領域で運動が推奨されるのはなぜか?
・神経伝達物質が増える
・体力がつく
・夜に眠れるようになる
・人とのコミュニケーション手段となる
・ストレス発散になる

なぜ、人は、マニュアルがわかりにくいと言うのか」20年前の原稿

2019-08-26 | わかりやすい表現
00/11/3海保 00/11/18 わかりやすいマニュアルを考える会 講演要旨

   なぜ、人は、マニュアルがわかりにくいと言うのか

   

概要*************************************************************** マニュアルがわかりにくいという声は、至る所で耳にする。ときには、「くたばれ、マニュアル」という怨嗟の声さえ聞くこともある。なぜ、こんなことになったのであろうか。コンピュータに、書き手に、表現に、教育に、ユーザ・状況に、そして文化のどこに問題があるのかを考えてみる。
********************************************************************

第1 コンピュータが問題
 
●コンピュータの次の4つの特性がわかりにくさを構造的に作り出している。
OHP
1)直接性の欠如   操作がただちに仕事の変化とはならない。
           操作が正しいのが間違っているがわからない。
2)同型性の欠如 操作することと仕事との間の関係が同型でない。
3)先取り性  ユーザがするであろうことをあらかじめ取り込んで手順         化しておく。何がどのように取り込まれているかがわからない。
4)多機能性  どんな人でも多彩な仕事ができるように、また、仕事のや        り方の多様性に対応できるようにしてある。結局、太郎に        は、選択可能性がわけがわからない。OHP

●システムの制作過程で操作デザインが軽視されている

1)システム・デザインと操作デザイン(インタフェース・デザイン)と販売にかかわる人のねらいの間の葛藤が未解決のまま出荷されている。(クーパー*による)OHP
    プログラマは、「what's capable」
 操作デザイナーは,「what's desirable」
 企画マンは,「what's viable(現実的)」
2)操作デザインの軽視
3)操作デザインが製作の下流工程に押しやられる

*アラン・クーパー著 1999 「コンピュータは、むずかしすぎて使えない!」 翔泳(しょうえい)社

●システムの製作後の品質検査が十分ではない

1)ユーザビリティ(使い勝手)のチェックが不十分
・ユーザは異義申し立てて者としては有能。しかし、それだけであってそれ以上ではない。    
2)ハードの品質と違って、ソフトの品質は、チェック規準が不分明。
・ISO13407でも、チェックした、という記録だけでよい。OHP


第2 書き手が問題

●説明力がない 

1)技術の理解力、文や絵による表現力だけでは十分ではない。読み手の状況や知識や読み方に配慮した説明ができる力が必要。OHP
 ・設計者は、論理志向。ユーザはわかりやすさ志向
 ・心理学的素養が説明力のベースに必要
    知識として  
    知的共感能力の開発のため OHP
2)よく知っている人が、必ずしもよく説明できるわけではない
 ・機械・システムの設計者(技術者)は、表現のタレントがないことが多  い。 OHP
 ・知りすぎていると、正確さが気になり、書くことが多くなりがち。
  多く書かれると、読み手にとっては、大事なところが見えなくなり、
  わかりにくいとなりがち。

●TWが育っていない

1)設計者とユーザとをつなぐTWが必要
2)TC技能検定が4年度目をむかえ順調。しかし、TWの人材プールの形成にはまだまだ。
 ・現在、3級合格者が約1000名
 ・2級も2月頃には始まる
3)育てる制度がない
 ・大学でのコースも日本では皆無
   例 カーネギーメロン大学では
       認知科学 レトリック 言語学 人間工学
       グラフィックデザインの分野を組み込んだカリキュラムで
       教育されている。 OHP
 ・木下是雄氏の言語技術研究会の試み OHP

第3 表現が問題
-----------------------------
クイズ 次の表現は何を問題にしている表現か?
1.1 「ヒルキモをピラッコしてください」
1.2 「紙の右隅をちぎってください」
1.3 「絵に示す黒い部分を折ってください」 
1.4 「レバーを引いて椅子を前に倒してドアを外に押してください」
1.5 「フロッピーをセットしてください」
1.6 「機械を落とすと壊れます」
1.7 「エレガントでコンパクト、プロフェッショナルソリューション」
-------------------------------------

●言葉や絵で操作を表現することには、構造的な難しさがある

1)実際の操作には自由度に幅がある
  ・操作デザインで解決できないところがマニュアルに押しつけられる。
  ・理屈/意味のない決まりに従わせるのがマニュアル??
2)現実の操作はアナログ的だが、表現はデジタルなため、齟齬がでてくる
  ・ビジュアル表現を多用しても限界がある
  ・VTRマニュアルが有効だが、参照性や伝達力に問題がある。

●日本語表現の中に、わかりにくい表現を作り出す原因の一端がある

1)用語に馴染みのないものが安易に使われる。
  ・機能名称が不適切。OHP
  ・初心者には、カタカナ用語、漢語が理解のバリアーになる。
    例「クリアーする」「起動する」「領域指定をする」といった表現      ができてしまうことが問題
2)日本語文章技法が守られていない。OHP

●わかりやすくする工夫がなされていない。

1)技術の民主化により、ターゲット層が絞りにくくなった。
  ・誰にもわかりやすくが、誰にもわかりにくく OHP
  ・山田太郎さんをターゲットとして表現することのリスクが大きい
1)内容の精選と取捨選択が不十分
  ・ユーザの知識とマニュアルを読む状況への配慮がなされていない
  ・正確さ志向から過剰な情報提供になりがち
2)表現にわかりやすさの作り込みが不十分 
  ・操作の手順説明のみに限定
  ・機能の記述ばかりで、仕事の目標達成の記述をしない
    例 機能の記述 「ストップ」は-----ときに使う
      仕事の記述 テープを止めたいときは、「ストップ」を押す
  ・解説的要素が少ない
  ・減り張り表現をしない
     
第4 義務教育が問題

●情報活用能力の育成が教育目標の一つになっているが、教育界でのインフラ整備が遅れている。

1)学校教育がまだまだ不十分
 ・情報基礎の単元が、中学「技術科」に用意された。
 ・情報活用能力の育成が教育目標として登場してきた。OHP
2)インフラ整備がやっと緒についた

●理系、文系の早期分離教育が技術との付き合い方に2極分解を起こさせてしまった。
 ・ユーザ教育という点でも、技術者教育という点でも問題。
 ・現実社会は、文系も理系もない。
 ・ただ、性格特性としての理系的性格-文系的性格はありそう。ただし、
  役割性格か、社会化された性格かもしれない。

●国語教育は、「文系」教師が独占

1)作家、詩人養成がねらいのごときカリキュラム
2)説明文教育が手薄 
第5 ユーザ・状況が問題

●コンピュータ技術の民主化の速度がはやく、新規参入のユーザが急速に増えてきた。

1)関連知識がない
  ・操作(手続き的知識)もまったく新しいものが必要
     例 タイピング クリック&ペースト
2)複雑化隠しのインタフェース技術である、コンピュータ内部への関心を削いでしまった。
  例 ブラックボックス化、グラス・ボックス化 OHP

●わからない自分が悪いと思いがちな日本人心性がマニュアルから遠ざける。
 ・わからない事態に直面すると
    逃避---状況から逃げてしまう
    認知志向---頭が悪い
    状況志向---状況のほうが悪い
    攻撃---状況を攻撃する(クレーム)

●マニュアルを読む状況が悪い
1)機械を早く使いたいのに、あれこれ事前準備を要求される。
2)わからないことだけを知りたいという切迫した状況でマニュアルを読まざるをえない。
3)読み物としておもしろくない。

第7 マニュアル文化が問題 

●ドキュメントとしてのマニュアルの背景にはマニュアル文化が必要
1)決まり通りに動くことの大切さの認識
2)したがって、決まりを明示したドキュメントはきちんと読む

●日本の組織は、暗黙知とハイ・コンテキスト(状況規定性が高い)で動くのでマニュアル不要 
1)長期間のOJTで学べ
2)明示的な知識の典型であるドキュメントとしてのマニュアルが育たない

●マクドナルドにみられるマニュアル文化の浸透
1)即戦力が必要になり、仕事のマニュアル化が必須
2)「マニュアル通りに」が一義的な重要性を持つようになってきつつある

第8 まとめとこれからの展望

●マニュアル問題を広い射程でとらえることで、社会的なインパクトのあるパワーが発揮できる。

●「わかりやすさ工学」の構築をめざすことで、ノウハウの蓄積と普及をはかる。