弥勒講談社このアイテムの詳細を見る |
今回、機内の持ち込んだ本は三冊でした。
・「弥勒」篠田節子著・講談社文庫。 「空中庭園」角田光代著・文春文庫。 「ソクラテスよ、哲学は悪妻に訊け」池田昌子著・新潮文庫。でした。
ほぼ、完読できましたから、量的には丁度・良かったです。
「弥勒」は650ページ余りの大作ですが、一気に読むことができました。
篠田さんの作品は、以前・山本周五郎賞を受賞した「ゴタインサンー神の座」がとっても衝撃的で印象に残っていたんで、この「弥勒」も読んでみようという気になりました。
永岡というジャーナリストが、インドと中国に国境を接する「パスキム王国」を再訪するところから物語りは急転回していきます。
温和で知性溢れる・国王サーカルが統治する架空の王国ですが、仏教美術に彩られた寺院建築・ゆるやかなカースト制度、豊かな自然に恵まれています。
まさに桃源郷が描かれます。
これは、政変以前のカンボジャがモデルだな、っとピンと来ます。あのポルポトによる150万人とも言われる大虐殺があった国です。まだ、30年しか経っていない時代です。
サロットサル(ポルポト)は1949年パリに留学します。マルクスからスターリンに繋がる共産主義に心酔し、カンボジャに帰国し12年間の迫害・地下生活を経験しながら、ベトナム戦争が終結し、大国の新しいバランス・アメリカもタイも中国も、ヘンサムリン政権よりも統治のポルポトを支援してしまいます。
首都プノンペンに住む住民を全員・山岳農地開墾に移住させて、原始共産主義・農作による平等社会建設に驀進していきます。
理想社会の構築を実践する中で、噴出してくる、矛盾点・問題点。すべてをスターリン主義、反動分子の粛清で進んでしまったのが、ポルポトの大虐殺です。
この物語でも、パスキム王国が、クーデターにより覆され、都民は農地に移民させられます。強制労働と、強制教育。少年将校。
ヒットラーユーゲント・毛沢東の紅衛兵・韓国の新興宗教の要素も物語に編みこまれて進みます。
粛清の仕方もポルポトそっくりです「上腹の皮をナイフで切り裂き、そこから手をいれ、肺に穴を開ける。その時、苦しんで舌を出すので、末期の水をその舌にかけてやる。チベットなので家畜を屠るときの作法のようだ。」116ページ。
物語の中では、理想国家構築を目指すゲルツェンは、血に飢えた独裁者として描かれていない。静かな禁欲的な理想主義者として表現されています。
その理想国家の実態が崩れ始める過程も細かく理解できます。主人公永岡はゲリツイン一派の埋設した地雷にやられ、片足を失い「弥勒」の救いに目覚めていくのですが、恐怖政治の現実と、生き延びようとする意志が、火花を散らしぶつかり合う、迫力溢れる物語です。
理想国家とは何か??旧政権にも搾取は存在していて、すべて良かったわけでもないことも解説されますし、納得性の高いストーリーです。
その国に生きる生活者は、幸せなのか・・・?体制のありかたをも考えさせてくれる作品です。
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