震災から一ヶ月が過ぎ、そろそろ放射能汚染に対してひぐらし農園の姿勢を明確にしなければなりません。
震災、さらに原発事故で日本は大きな転機を迎えました。少なくとも今までの拡大路線、経済優先主義のままでは許されないはず。その方向はひぐらし農園が始まった15年前からボクの願いでもあります。しかし同時に避けて通れない、とてつもない大きな障壁にもぶち当たってしまいました。正直言えば、こんな事態になるなんて想像もしていませんでした。これを乗り越えて前に進むべきなのか、それともあきらめて別の道を選ぶべきなのか・・・。必要と思われる情報を集め、選択し、理解し、どうすべきか考える。そんな日々を経て現在思うことをまとめてみました。以下を読んで頂き、認識が甘い! 理解が浅い! 自己保身的?などの批判も歓迎です。それを受け入れて今後もひぐらし農園の姿勢を精査し、よりよい方向にしていきたいと考えております。
ひぐらし農園は今までも自らの農産物が「安全である」と断言することはなるべく避けてきました。もちろん栽培において安全性に極力配慮してきたつもりです。しかし生産した農産物を出荷前に一つ一つ化学的に検査していたわけではありませんし、たとえ有機JASに準じて生産したとしても、外的な要因、例えば水質や大気の状態に影響を受ける可能性もあります。(もっともひぐらし農園のロケーションは水質、大気とも国内でも最も美しい場所にあると自負していました。)また何をもって安全とするかの基準も個々によって違います。安全性を広く主張するためには明確な科学的根拠とこまめなデータ採取が必要であり、それをせずに安全ですと言うことは無責任な気がしていたのです。
「安全」よりも、ひぐらし農園では「安心であること」を重要視してきました。安心とは生産者・消費者双方の信頼関係が礎となります。安心してもらうためにひぐらし農園が取り組んできたこと。ひぐらし農園の日頃の農作業や取り組みをこまめに知らせる。田畑に直接来て見て体験してもらう。直接農産物をお届けする。こうして生まれる人間関係が安心につながると考えていました。「安全」よりも「安心」を。この考え方は今後もひぐらし農園の基本姿勢としていきます。
では過去に例のない目の前で起こっている(が、見えない)事態にどう対処していくべきか。
残念ながら放射能による環境汚染については時間(=半減期)以外に根本的な解決策はなく、現実とどう向き合い、影響を最小限に抑えていくしかなさそうです。そこでひぐらし農園としては次のように考えています。
①大気や土壌中の放射線量などのデータの把握
②規制値についての自主的な基準つくり
③あらたな挑戦
①大気や土壌中の放射線量などのデータの把握
放射能汚染は目で確認することができません。よって線量計での計測が必要になります。理想では自分の田畑全てをつねにモニタリングできること。しかし残念ながら個人での環境放射線量の把握は金銭的な問題もあり難しいのが現状です。そこで行政が定期的に発表する近隣の放射線量や土壌検査のモニタリング値を参考にしていくしかありません。いつでも確認頂けるようにブログにもリンクさせます。
<参考>現在喜多方市の農地土壌検査は
県が実施した2箇所、
国が実施した2箇所の合計4箇所あります。国で調査したうち一箇所でセシウム134,137の合計値が1977ベクレル/kgとかなり高濃度の結果の出たところがありますが、その具体的な場所を問い合わせても教えてもらえません。ちなみに調査箇所が明確でひぐらし農園からもっとも近いのは熱塩加納町加納(ひぐらし農園から東に約10キロ)で合計値が139ベクレル/kg(4月6日現在)です。
ひぐらし農園としては現況をより正確に把握するために、モニタリングポイントを増やしていくように行政に働きかけていきます。また放射能値に関する情報をつねに収集し、このブログにもアップして情報を消費者の方と共有していきます。
②規制値についての自主的な基準つくり
国では農産物の暫定規制値として
ヨウ素⇒飲料水、牛乳300ベクレル/kg、野菜類2000ベクレル/kg
セシウム(134と137の合計)⇒飲料水、牛乳200ベクレル/kg、野菜、肉類500ベクレル/kg
となっています。一方でドイツ放射線防護協会では「乳児、子ども、青少年に対しては、1kgあたり4 ベクレル以上のセシウム137 を含む飲食物を与えないよう推奨されるべきである。成人は、1kg あたり8Bq 以上のセシウム137 を含む飲食物を摂取しないことが推奨される。」と発表しています。
双方の数値の隔たりはあまりに大きい。どちらも科学的根拠の下に示された数値であるならば、
安心を楚とするひぐらし農園とすれば当然より厳しいドイツの基準を目安にすべきでしょう。が、ここが一番重要なところとは重々判っていますが、現時点では自主規制値の決定を保留させて頂きたい。というのも参照とすべき喜多方市内の農産物モニタリング検査の数が雪解け直後ということもありまだ少ないため、現状がどのレベルにあるか把握できないためです。
4月20日発行「喜多方市からの緊急情報 第5報」より。県内全域の検査結果(4月20日公表)はこちら。
現状を見てからという姿勢は「安心」を最優先とせず、日和見的と批判されるかもしれません。が、これからも会津で農をなりわいとしたいという想いからと理解してほしいと思います。しかしだからといって東電のような自己保身的隠蔽体質になってはならないとしっかりと肝に銘じておきます。
<参考>放射能の土壌から作物への移行係数について
・稲は過去の研究データが多く、政府の示す移行係数0.1(セシウムが1000ベクレル/kgの土壌で栽培した米の放射能値は100ベクレル/kg程度)は概ね信頼できる。
・野菜の移行係数は種類が多く、さらに研究データも少ないために全く不明。(ともに4月15日福島県農業総合センターでの会議にてヒヤリング)
③あらたな挑戦
ひぐらし農園は震災前から原子力政策については疑問を持っていましたし、原発の廃止を望んでいました。今回の事故を機にその思いはますます強くなりました。と同時に例え小さなことでもひぐらし農園でできることを実践しなければ意味がありません。幸い山間地は自然エネルギーの宝庫です。ひぐらし農園では食の自給だけでなく、エネルギーの自給についてもこれからは真剣に取り組んでいきたいと思います。
今後のひぐらし農園の姿勢をまとめるにあたって、仲間から伝わってくる原発事故や放射能汚染についての情報や考え方、さらに福島県内で実践する有機農家の覚悟の姿勢や苦悩、決意が参考になりました。
ひぐらし農園は今後もさらに近隣・県内農家や研究者と協力して、山都町で有機農業を続けるための方法を科学的根拠と消費者との信頼を機軸に模索していきます。これからもよろしくお願いします。