ひぐらし農園のその日暮らし

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技術革新と適正技術

2021-06-03 07:57:00 | ノンジャンル
菅総理が昨年10月に2050年にカーボンニュートラルを目指すと宣言したことに端を発し、農林水産省は今年の2月に「みどりの食料システム戦略」と言うものを発表しました。その内容は現状より農薬を50%、化学肥料を30%以下にすること。有機栽培の面積を100万ヘクタール、比率を25%まで上げる等と極めて野心的なものです。

しかしその内容を見てみると、AIやイノベーション、スマート技術などいわゆる「技術革新」的な華やかな言葉が羅列されていて、今までの50年間の有機農業の技術や知恵の蓄積、何がボトルネックになっているのかについて軽視されている節があります。(事実現在の日本の有機栽培面積はいまだに全体の0.5%ですから)

さらにこの5年ほどで日本の農業従事者は20%減・136万人まで減ったと言われています。このペースのままだといずれ一人当たり5ヘクタール以上の農地を耕作しなければいけないことになり、さらにその4分の1は高度な技術と手間の必要な有機農業でとなると、果たして可能なのか?と言う疑問も湧いてきます。

有機農業をやっていて思うのは、その土地や風土に合った「適正技術」と言うものが特に重要だと感じることです。

例えば稲作の場合、有機栽培の最大のハードルは除草技術です。

いかに雑草を抑えるか。

ある篤農家が確立した技術を、それを学び取り入れた有機農家が自身の地域の風土に合わせた工夫を加え、それぞれ独自の技術に進展します。それはまるでその人その地域独自のもののように見えますが、たくさんのヒントが隠されていて、実は汎用性が高い。

逆に企業などが開発したものは汎用性に欠けているものが多いのです。

例えば会津の有機農家で一時期広まったのは「紙マルチ栽培」でした。稲苗の間に専用の田植機で紙を敷いて雑草を抑えるというものですが、その構造上圃場は真四角かつ縦長であることが望ましい。また機械が重くバランスが悪いので急傾斜地の移動が不得意。つまり棚田の広がる山間部では全く使えない技術です。(ちなみに日本の耕地の半分は中山間地です)

またある農機具メーカーが開発した乗用タイプの除草機は、例えその効果が高くとも基本的には相当規模の農家でない限り、機械購入費用がペイすることはありません。

一方、今ボクも取り入れているチェーン除草(チェーン⛓をスダレ状にした器具を田んぼで引っ張る)は規模の大小、圃場の形は問いません。九州の農家さんが広めた合鴨農法も同様です。栃木県の民間稲作研究所が推奨する抑草技術も、風土に合わせたアレンジは必要ながら、汎用性は高いと思います。

まさにこれこそが適正技術といえるのではないでしょうか。そこを支援する体制をつくらない限り、せっかくの崇高な目標も到達することが難しいし、所詮は大企業頼りの高コスト農法しか生まれないと思います。

復興の中で見えた希望

2021-03-13 10:39:00 | ノンジャンル
震災で福島県内の有機農家は多くの顧客を失った。清らかな大地で化学物質に頼らぬ栽培で築き上げた消費者との関係が放射能漏れ事故により一瞬のうちに崩れてしまったからだ。それでもたくさんの人に食べてもらえる日が再び来ることを信じ、さらに自ら安全性を証明するために、種を播き耕し続けた。

 すると今までの消費者にとどまらず福島の農家を応援したいという声が聞こえてきた。野菜をトラックに積んで首都圏に行くと、食べて応援したい、販売をお手伝いしたい、農家の現況を聞きたいという人たちが集まり、輪は広がっていく。新たな繋がりが生まれた。

 2012年3月に郡山市で行われた福島視察・全国集会で「有機農業運動はたくましい農民を生んだが、たくましい消費者を生むことには失敗した」と明峯哲夫さんは述べた。まさにその通りだと思った。今までの安全・安心という価値だけでは、福島の有機農家は生き残れない。同時に有機農業運動が目指していた「提携」の根底に本来あるべき姿をいま一度考える機会だ。そう思えたのは震災後に新たに繋がった支援者のおかげだ。

 そんな折に有機農産物の購買層について研究している谷口葉子先生の講演を聞いた。4つの群に分類された購買層の分析に納得した。

①「安全・利他」 利他的であり、かつ安全を比較的強く重視する
➁「自立・利他」 利他的であり、且つ自己の裁量を比較的強く重視する
③「快楽・安全」 利己的な価値を比較的重視する
④「自己高揚」  際立って重視している価値はないが「権勢」「達成」を比較的重視する

有機農産物を一番購入するのが①「安全・利他」の群。すなわち震災以前の消費者の多くはこの群だが、安全を重視するあまりに一気に福島から離れた。代わりに震災後に繋がりが強まったのは➁「自立・利他」の群だ。もともと二番目に有機農産物を購入する層だが、震災後も変わらず福島を支えてくれた。さらに震災以前は関わりが少なくても、こうした思考を持つ人たちが自身の裁量で福島の復興を応援してくれた。彼らが持つ価値観こそが希望だと思った。

 この事例は福島だけでなく、いまだに全体の1%にも満たない日本の有機農業を伸ばす上でも重要になると考えている。「自立・利他」を重視する市民が増える。増やす。そして地域を越えて繋がる。我々福島の有機農家がその活動の先頭に立つことが、皆さんへの恩返しになると考えている。

※日本有機農業研究会 土と健康2021年3月号に掲載された文章です。

積極的な後退の技術や知恵を探る

2020-09-16 07:43:00 | ノンジャンル
人類の歴史は開拓の歴史でもある。
少しでも生産性の高い土地を求めて、あるいは生産性が低くても増える食い扶持を補うために人は常に新天地を求めて開拓をしてきました。

しかしながら、人口減少の時代を迎え、なおかつ生活様式が大きく変わった今、かつて豊かさを与えてくれた土地をずっと守り続けなければならない理由が減っていることも現実です。特に山間部は現代社会の価値観やシステムから大きく取り残され、結果的に過疎化や高齢化が進み現代社会の課題先進地となっています。

政府はその状況を打破すべく、様々な政策をとっていますが、その多くは、特に農業に関して言えば住み続けること、耕し続ける事を強要しています。すなわち疾病の根本を改善することなくカンフル剤を投与しているだけなのです。

しかしながらいくらお金を投入しても耕し続けることが難しくなってきた今、土地を自然に戻すことも念頭に入れる時代になってきたのではないかと思うようになりました。
つまり発想を転換して、むやみに抗うのではなく積極的に後退する。その時手離す地域は単に放棄するのではなく、常に何かしらの価値を生み出す(自然の恵みを享受する)よう施しながら徐々に自然に戻していく。

そんな抗わない技術を会得したいと思うこの頃です。

有機農業大全メモ②

2020-01-26 08:47:00 | ノンジャンル
土壌生態系の管理

不耕起草生栽培で土壌炭素濃度を上げ、豊かな土壌生態系を目指す!

【土づくりへの誤解】
・環境への負荷を抑制し、安全で安心な農作物を低コストで生産するには、土壌の有機物や養分、物理構造、生物多様性の保全など土壌が本来持つ機能を上手く利用する必要がある。
・ひたすら外部から堆肥や農業資材を投入し、物理的に耕耘することが土づくりではない。
・土壌の状態はゆっくり変化するため、農家は土壌の劣化を感知しずらい。
・土壌を一つの生きた生態系ととらえる

【土壌の持つ機能】
・物理的機能 植物を支える基盤、水分保持と排水、二酸化炭素やメタンなどのガス交換。植物を始め様々な生物の生息場所。
・化学的機能 栄養塩の吸着
・生物的機能 有機物の分解
・土壌有機物は陸上生態系における主要の炭素プール。地球全体では大気中の二酸化炭素の炭素量の2〜3倍の量が土壌に貯蔵されている。

【土壌生物の多様性】
・土壌生物は小型で乾燥に弱い。
・陸上動物の10倍の土壌動物、100倍の土壌微生物が生息。陸上生態系では土壌は最も多く多様な生物がぎっしりと生息している場所

【土壌生物の機能】
・微生物のほとんどは枯死した有機物を栄養源とし、酵素で有機物を分解。
・菌根菌は植物のへ感染共生し、植物から糖類などの炭素源をもらう替りに、リン、カリウムなどを土壌から植物に供給。
・病原性のもの、植物の生長を阻害するものもあり。
・土壌生物と植物の関係は、直接成長にえいきょうするものと間接的に栄養塩や土壌環境の改変を通じて関係するものがある。

【農作業が土壌生態系に与える影響】
・過度な土壌耕起は土壌団粒を破壊する。耕起は一般に土壌生物の個体数や現存量を減少させる。影響は体の大きな土壌生物の方が大きい。
・地上の植物群落は生態系の発達につれ生物相が豊かになる。同様に地下の生物相も豊かになる。
・除草は作物との競争を緩和するためには重要だが、土壌の劣化につながる。土壌中の植物の根の量が減少するので、土壌生物にとっては餌資源量が減少する。
・化学肥料は土壌のPHや土壌水の浸透圧を変えたりするので、土壌微生物や小型土壌動物に負の影響を与える。

【土壌生態系の機能を活かした農地の管理】
・FOAは保全農業として不耕起、省耕起、植生や有機物による地面の被覆、輪作や混植を提唱。
・不耕起栽培の採用で、土壌炭素の濃度は上昇する。カバークロップ、有機物の被覆で土壌生物量は増加する。
・不耕起草生栽培は日本独自。耕起と比較して土壌微生物の現存量は3〜5倍。土壌に炭素が集積。
・有機栽培であっても耕起することで土壌生物が少なく、こうした圃場に多量のたい肥を散布しても作物に必要な栄養は供給されない。
・土壌炭素濃度が高い土壌ほど収穫量は増える

有機農業大全

2020-01-24 08:15:00 | ノンジャンル
地球温暖化の影響が目に見えて大きくなる中、私たちの暮らしをどのように変えていくべきか悩ましい今こそ、この本を読んでいただきたい。

これまでの有機農業関連本は、栽培技術や生活圏周辺の環境や身体への影響など、有益ながらも断片的な情報にとどまっていましたが、この本はこうした研究や実践の蓄積を体系化し、農家や消費者のみならず、社会がこれからどうあるべきかを示してくれています。
オススメです!