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『サキ短編集』⑤「話上手」:子供たちは「嘘」でない「真実」の話なら、「くだらねえ」と言わない!狼は「よい子」であっても、「よい子」でなくても食べる!

2020-08-10 16:03:32 | Weblog
※サキ(Saki)、本名ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)(1870-1916)、『サキ短編集』新潮文庫、1958年。

(5)「話上手」
(a)列車のある車室に大きい女の子、小さい女の子、男の子、付き添いの伯母の一団と独身男が乗っていた。伯母の発言の大部分は「いけません」に始まり、子どもたちは次々と色々「なぜ」「なぜ」「なぜ」と質問した。まるで、追えども去らぬ蠅のようなうるささだった。
(b)独身男が苛立っているようだったので、子供たちを静かにさせるため、伯母は「お話をしてあげましょう」と子供たちに言った。だが伯母の話はつまらなかった。それは「善良で、そのため誰からも好かれ、結局、彼女の善良さに感じていた多くの人々の手によって、猛り狂う牛から救われた少女」の話だった。男の子は「くだらねえ」と言った。
(c)その時、独身男が突然言った。「この子たちにお話をしてあげましょう!」大きい女の子が「お話してよ」と言った。「昔ある所に」と彼は話し始めた。「バアサというとてもいい女の子がいました。」一時燃え上がった子供たちの興味が消えかかった。だが「《とんでもない》よい子だったのです」と彼が言うと、子供たちは《とんでもない》という言葉に伯母の話にない「真実の響き」を感じた。(※普通の言い方なら《とんでもない》悪い子だ。)
(d)「よい子」のバアサはご褒美に3つの金属のメダルを貰った。「言いつけをよく守った」メダル、「きちんと約束を守った」メダル、「よい行いをした」メダルだ。彼女は、それらを着物の胸にピンでとめたので、歩くと触れ合ってチリンチリンと鳴った。
(e)「よい子」の噂は、王子さまの耳にも届き、「よい子」のバアサは王子さまから、「お庭に入ってよい」というお許しをもらった。それは美しいお庭で、これまで許されて入った子供が一人もいなかった。大変な名誉だった。お庭には小さな豚が沢山いて、池には金色や青や緑のお魚が泳いでいた。綺麗なしゃべるオウムもいた。女の子はお庭を楽しんだ。
(f)その時、「晩の御飯に豚の一匹でも捕まえよう」と大きな狼が庭に入ってきた。狼はバアサを見つけ、追いかけてきた。バアサは、藪の深い茂みに身を隠した。藪が深くて狼は、バアサを見つけられない。狼は思った。「もういい、子豚でも捕まえた方がましだろう。」その時、「よい子」のメダルがぶつかってチリンチリンと鳴った。
(g)狼はバアサを見つけ、骨まで食ってしまった。残ったのは、靴と着物の切れ端と「よい子」の御褒美の三つのメダルだけだった。
(h)独身者のお話を聞いてた小さい女の子が言った。「初めは面白くなかったけど、おしまいは素敵だったわ。」大きい女の子が言った。「こんな面白いお話って、聞いたことがないわ。」男の子が言った。「今まで聞いたお話のなかで、面白かったのはこれだけだ。」
(i)伯母が不同意をとなえた。「こんな不適当な話はありません。あなたのせいで、注意深い教育が滅茶苦茶になりましたわ。」独身男が言った。「いずれにしろ、子供たちを十分間は。おとなしくさせておきましたからね!」列車が駅に着き、彼は降りた。

《感想1》子供3人の付き添いとは、伯母さんも大変だ。Cf. 日本には「年子(トシゴ)三人いたら乞食もできない」という諺があった。
《感想2》伯母の教育的な話は、子供には面白くない。子どもは「真実」を知っている。「真実の響き」を聞きわける。
《感想3》「よい子」《だから》狼に食べられたのか?違う。子どもにとって面白かったのは「よい子」《なのに》狼に食べられたからだ。(これは「真実」の可能性があり「嘘」でない。)
《感想3-2》教育者(Ex. 伯母さん)は「よい子」《なら》狼に食べられないと言う。これは「真実」でない。「嘘」だ。「よい子」《でも》狼に食べられるの「真実」だ。子供たちは「嘘」でない「真実」の話なら、「くだらねえ」と言わない。
《感想3-3》狼は「よい子」であっても、「よい子」でなくても食べる。すなわち「よい子」も「悪い子」も「普通の子」も等しく狼に食べられる。
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