宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『生き地獄天国 雨宮処凛自伝』雨宮処凛(カリン)(1975生)、ちくま文庫、2000年、2007年加筆

2015-06-30 11:35:14 | Weblog
第1部 イジメ、ビジュアル系バンド、KATAN DOLL、サブカル少女
(1)イジメ
A 中学生の頃、毎日、いじめにあっていた。パシリ、殴られ蹴られ、給食には消しゴムのかす、埃(ホコリ)、雑巾の水。
A-2 原因は、アトピー性皮膚炎。1歳の頃から病気。
A-3 両親は、クラスで3番以内を要求。イジメを親には言わない。
A-4 小学生の3年から、いじめられるのが辛くて、もっと弱い子や小さい子を殴ったり蹴ったりした。
A-5 中学校で、みんなの前で裸にされるいじめを受けたとき、自分が分裂。裸にされた肉体が自分と思えなくなる。
A-6 病院へ行くようになる。


(2)追っかけ
B 14歳の私を、ビジュアル系のバンドだけが救ってくれた。
B-2 彼らの音楽を聴くと、生きててもいいんだって、優しく言われている気がした。
B-3 マキという女の子と友達になる。黒ずくめ、トランク、網タイツ、ケバイ化粧、ブレスレットをゴテゴテにつける。
B-4 ライブに行く&初めて私の存在を認めてくれた、私と同じような女の子たち。
B-5 死ななくて良かったと私は思った。

C 私は初めて家出した後、父は「学校へも行かずこんな髪をして!」と私を殴り、CDを割り、ポスター・写真を破り、「ライブに二度と行くな」「マキたちと会うな」と命じた。

D 学校へ行かず、私は、家でぶらぶらしていた。
D-2 母は私をごみのように見る。「勉強をしていい学校に入れ」としか言わない。母を私は、殴りつけた。

E 高校生となり、マキと私は「追っかけ少女」となる。家出ばかりし、カツアゲする、万引きもプロ級。
E-2 でも「こんなことしてていいのかな」と楽しくなかった。現実逃避に過ぎないと思った。


(3)ファック隊
F 追っかけをしていたら、なぜか大好きなミュージシャンの部屋に呼ばれた。ビジュアル系ミュージシャンとセックスする。ファック隊のメンバーに突然なる。
F-2 いじめた同級生たちと、「あんたなんか相手にされるワケない」と言った母、みんなを見返す。
F-3 マキたちからは、離れる。友達を失う。ファック隊は、ミュージシャンとのセックスしか話題にしなかった。
F-4 ファック隊になって、何か得られると思ったが何も得られない。結局、通じ合えていた友達を失っただけ。そして私を理解していたはずのミュージシャンたちへの幻滅。
F-5 私は再び手首を切るようになる。


(4)治療
G いつも私のことを怯えた目で見る弟に耐えられず、私は弟に包丁を突き付け、部屋に立てこもる。
G-2 この事件のあと、東京へカウンセリングを受けに行く。
G-3 母は、この日から別人になる。学校へ行かなくてぶらぶらしていても、家出しても、ライブに行っても、なにも言わなくなった。
G-4 少しずつ落ち着いた空気へ。母が、「登校拒否や非行の原因は、子供への親の接し方が原因」との“子供の更生のためのマニュアル本”を私に見せた。
G-5 わざわざ私に手の内をみせた母がおかしくて、笑った。少し気が楽になった。


(5)KATAN DOLL
H 母の“子供更生マニュアル”で私は結構、更生された。
H-2 寺山修司の本などを学校で読み続ける。また激動の時代にあこがれる。戦争、60-70年代の学生運動など。

I 天野可淡『KATAN DOLL』という写真集が気に入る。彼女は「精神に棲む者」を形にした。
I-2 何もせずに本ばかり読んでいた自分に焦る。
I-3 人形を作りたくて美大を志望する。高3の時。美大の受験に落ち、東京の予備校へ。


(6)無言電話
J 美大に行っても、人形が作れるわけでないとわかり、予備校にいかなくなる。私は、夜、ランダムに無言電話をかけ続ける。
J-2 私は、勉強のために、ファック隊の人やな曲なったミュージシャンが下宿に来るのを断るようになっていた。
J-3 今や、目標も友達も失った。無言電話。そしてリストカット。
J-4 幸せそうな奴は、皆殺しにしたい。世界を燃やしてしまいたい。結局、憎しみが最後は自分に向かう。


(7)胃洗浄
K 救急車で運ばれる。みんなが優しくしてくれた。
K-2 薬を大量に服用し自殺未遂。急に怖くなり、タクシーでヒデ君の所に行く。ヒデ君が救急車を呼んでくれた。
K-3 地獄のような胃洗浄。終わった時の幸福感。リストカットや自殺未遂が、私を生かしているすべてだった。


(8)弟子入り
L 天野可淡の元旦那の吉田良一氏に、弟子入りする。予備校の先生が、紹介してくれた。
L-2 球体関節人形を作る。私の人形ふぶきを半年かけて作る。私と人形だけの楽園を作りたいと思う。
L-3 マリスミゼルのメンバーが人形の展覧会を見に来てくれた。“セックスの対象”でなく“人形を作る人”として対等に扱ってくれた。マリスミゼルの舞台にも出してもらえた。


(9)世界を呪え
M 毎日、年度に触れているためアトピーが劇的にひどくなる。手から常に膿がでる。人形制作は3体で中止。私は自分の身体を呪う。
M-2 ヒデ君を口説き、またピアニストの伊藤竜太さんに参加してもらい、バンドを作る。しかしバンドは失敗。私はまた手首を切り始めた。
M-3 私はしょっちゅうバイトを首になり、落ち込み、社会を恨んだ。お前なんていらないと世界中から言われている気がした。世界を呪った。

N 1995年(著者20歳)、オウム事件が起き、私の代わりにこんな世界を消すため、サリンを撒いてくれた気がした。
N-2 私は何でもいいから必要とされたかった。自分の存在を認めてほしかった。
N-3 私は世の中や社会の事を一人であれこれ考えるようになる。こんなに生きていくのが難しいのは社会と関係があるかもしれない。
N-4 豊かな世界なのに、生きづらい日常の地獄。
N-5 『ゴーマニズム宣言』を全巻、そろえる。


(10)サブカル街道まっしぐら
O 『ガロ』のイベント告知欄で、とうじ魔とうじさん“ジャンル撲滅キャンぺーン”を知る。
O-2 どうでもいいことを一生懸命やっている人を見て、生きる勇気がわいてきた。
O-3 AKIRAさんが、「一揆、革命が30年のサイクルで起こる」と言う。“明るい未来”のウソ。私は感動に打ち震える。
O-4 新右翼団体一水会代表、鈴木邦男と会う。
O-5 誰かに会える、共通のムカツキを持っている人と会える。私は自分の居場所を見つけた。私は“サブカル少女”となる。


(11)オナニストの憂鬱
P “雨宮処凛の一日個展と姫処凛ミニ・ライブ”の開催。イベント名は“オナニストの憂鬱”。1996・8・31。参加者7人。
P-2 後半の交流会が盛り上がる。こんな世の中、しらふで生きられない。みんなが自殺未遂話を独白し合う。
P-3 私は一人じゃない。
P-4 でも何から始めていいのかわからない。


(12)オウム信者との出会い
Q サリン事件後、オウムをやめた猪瀬正人氏と加納秀一さんと話した。→結局もうこの社会に私たちをつなぎとめておく力なんてないと、結論。自分が嫌いだし、今の社会も嫌い。
Q-2 世の中を変えたいが、その術(スベ)を知らない。
Q-3 元オウム信者のY君は、尊師(麻原)は、お父さんのようだと言う。(2か月もたたずに、またオウムに戻る。)


《評者の感想》
()アトピー性皮膚炎が、彼女へのいじめを引き起こした。現在、雨宮氏は大丈夫なのだろうか?
()中学生の時のいじめがひどすぎる。「美しい国日本」は美しくない。
()その時のいじめによる症状は、人格の分裂、いわゆる多重人格化の初期に見える。
()「生きててもいいんだ」と自己肯定されることが、どんなに大事かわかる。
()「母の“子供更生マニュアル”で私は結構、更生された」と雨宮氏は率直だと思う。
()人形制作の道が、アトピーのためふさがれたことは、本当に不幸だったと思う。
()「誰かに会える、共通のムカツキを持っている人と会える。私は自分の居場所を見つけた。私は“サブカル少女”となる。」雨宮氏、1996年、21歳。
()そして、「生きる意味・目的と壮大なドラマ」を求めて、雨宮氏は右翼となる。「(13) Let’s右翼」から「(22)維新赤誠塾」まで、雨宮氏の右翼としての奇跡。


第2部 超国家主義『民族の意志』同盟(突撃隊)&パンクバンド「維新赤誠塾」
(13)Let’s右翼
A 見沢知廉(ミサワチレン)氏に誘われ、右翼の集会に参加。
A-2 60-70年代の学生運動がうらやましいと雨宮。
A-3 右翼と左翼の違いはおぼろげにしかわからないが、すごいスピードで惹かれている。
A-4 生きる意味・目的と壮大なドラマが欲しい。

B 超国家主義『民族の意志』同盟(突撃隊):国会議事堂閉鎖、戦後民主主義者殺せ、東京裁判史観打倒。
B-2 委員長の演説:この国には、若者をつなぎとめるだけの価値観が存在しない。時代の閉塞感。腐りきった戦後日本。
B-3 未来に希望を失ってさ迷う魂の死刑囚!
B-4 私は間違っていない。間違っているのは時代の方だ。

C 「フーン?で、大和民族って何?」と私。


(14)初めての街宣
D 御茶ノ水駅前での突撃隊の定期街宣をヒデ君たちと一緒に見る。
D-2 委員長の演説:お前らは、アメリカの家畜だ!自由・民主・平和・平等の金縛り。ボケ平和。物質主義と拝金主義。腐りきった戦後日本。
D-3 私は感動した。神聖な気持ちになった。
D-4 「なんかすごくいい人たちだったね。ためになったね!」と私たち5人。


(15)Let’s世直し
E 世界のからくりが見え始めた。
E-2 出会えるかもしれない:命を賭けるに値するもの、やり場のない憤りのはけ口、普遍的で高尚なもの、自分の魂を少しづつ汚していく日常から脱出させるものに。

F ヒデ君、猪瀬さん、加納さん、ジャス子さんたちと第1回“世直し会議”。
F-2 けだるい日本をぶっつぶせ。世直し一揆で“ええじゃないか”をやる!
F-3 イベント名“平成のええじゃないか・世紀末意識革命前夜”→元オウム信者とか右翼と書いたのでライブハウスが借りられない。


(16)平成のええじゃないか:1997/4/11
G ダミーの企画書で、イベントをやるライブハウスが見つかる。夜はキャバクラで働き、会場費16万円を私が出す。
G-2 世直しや革命を語る私の資格:私は自分を殺そうとする負のパワーを外に向けたい。80人の前で私は5枚の原稿を読んで思いを伝えた。AKIRAさんも、マリスミゼルも、突撃隊も来てくれた。
G-3  ゲストに一水会の鈴木さんが来てくれた。
G-4 反省会で、みんな、喜んだ。主催者は雨宮と元ビジュアル系のヒデ君。
G-4 突撃隊は機関誌を挙げて、ほめてくれた。“戦後民主主義に毒された現代日本”に「否!」と言った。
G-5 しかし“戦後民主主義”って何だろう?


(17)突撃隊入会
H 元オウム信者の猪瀬さんが突撃隊に入会。命を賭けるものを探し続けた。日本の現実は醜く吐き気を催す。日本の伝統に根ざさないヨーガやチベット仏教(オウム真理教)では世直しは出来ない。
H-2 N君:悠久の歴史と伝統を誇る日本の歴史的使命、大ロマンに覚醒せよ!何の意味もなく生き延びるより、この国のため潔く命を捨てる人間になる。
H-3 猪瀬さん:僕は生きる場所を見つけた。元オウムの僕を受け入れる委員長の懐の深さ。
H-4 私も、あんなふうに輝きたい。

I 突撃隊の下部組織“意志の会”に入会。同盟の指示命令には絶対的に服従する。
I-2 突撃隊は、企業の恐喝はしない。私が一番信じるところ。
I-3 研修&維新のための猛勉強:自由・民主主義・平和は、豚のように食べ、自分の事しか考えない一億総白痴の日本人をもたらした。
I-4 靖国神社:神風特攻隊員の遺書を読んで涙が止まらなかった。
I-5 私は自分の使命を見つけた。

J 必死に叫んで街宣しても、女も男も、無関心、一瞥し笑うだけ。
J-2 「最優秀最強民族」、その名にふさわしくない日本人は、一人残らず殺してしまえばいいと私は思った。「死ねー!」と言った私を突撃隊員が羽交い絞めにした。


(18)突撃隊強化合宿:理論武装のため1泊2日
K 委員長に会って、みんな変わった。
K-2 私たちは、この国を変えたいという明確な意思を持つ。毛沢東語録にあるように「若く、貧しく、名もないものだけが、革命家たる資格を持っている。」
K-3 委員長を含め5人しかいなかった突撃隊が、今は10人以上。元自衛官、元ヤンキー、元オウム、ハードコア、元パンクス、元ビジュアル系など。


(19)右翼でさわやかな青春
L 元オウムの猪瀬さんの発案で、突撃隊の軍事訓練。修行に近い。
L-2 最近の私は、体育会系の部活のマネージャーのよう。
L-3 私たちが入って、演説が、政治ネタばかりでなく、みんな好き勝手なことを言う。
L-4  私の命は、天皇陛下と委員長、そして突撃隊と共にある。熱い血が流れている。


(20)“平成のええじゃないか2”:約80名参加
M 突撃隊のほか、在日コリアンのシンガーソングライター、川西杏(キョウ)さんも出演。M-2 “平成のええじゃないか2”は、立場、主義主張、年齢、性別、国籍を問わず、何か世の中に物申したい人に開かれた場所にする。

N 私の出番で叫ぶ!:私は今一つの疑問にぶち当たっている。私は自分の価値を、まるで新興宗教のように、その団体に委ねているんじゃないか?この国を変えるという大義名分のもとに、私は自分の弱さから逃げているだけではないか?
N-2 突撃隊員から「雨宮さんは、立派な維新の志士なんだから、自分の迷いなんかあまり出さないほうがいい」と言われる。
N-3 私は組織の一員だから、個人的な感情をはさんではいけないのに、私は忘れていた。


(21)事件
O 突撃隊も委員長も天皇陛下も、私は、日常の苦しさを紛らわす道具にしている。
O-2 でも私が行く場所は、ほかにない。
O-3 突撃隊の街宣の場所からどかない白人のオルゴール親父を、「白ブタを殺せ!」と突撃隊が襲う。
O-4 血を流し倒れている外人。でも私たちの目的は、外人を殴ったりすることじゃない。私はもしかしたら、日の丸も『君が代』も天皇陛下も、自分を強く見せるための道具として使っているんじゃないかと思った。そんなことを隊員たちと話した。
O-5 猪瀬さんが綱領の問題で悩む:規制緩和やグローバリズムで全体に自由な方向に世界が向かっているとき、民族派でいいのかという問題。→猪瀬さんは突撃隊をやめる。新しい恋愛へ。
O-6 N君も突撃隊をやめる。民族主義にすがり、右翼という看板が嬉しくて粋がっていただけだった。→再びオウムへ。

P 突撃隊を辞めたら私に行く場所はない。恋愛・宗教・資本主義では私は救われない。消費と性の欲望にまみれ堕落した戦後日本。猪瀬さんやN君のことなどもう考えない。
P-2 私だけは、天皇陛下と英霊と共に生きる。


(22)維新赤誠塾
Q 若者に言葉が届く運動のため、「突撃隊がバンドになったようなものをやろう」と私とヒデ君で決める。突撃隊員の横井君も誘う。集会が音楽になったようなパンクバンド!
Q-2 維新への期待と天皇陛下への赤誠を示し、バンド名は維新赤誠塾。
Q-3 維新赤誠塾の第一次決起集会には、鈴木邦男さん、元赤軍派議長の塩見孝也さん、漫画家山田花子のお父さんなどが来る。
Q-4 私は高尚な魂の高ぶりの中で『君が代』を歌い終えた時、「天皇陛下万歳」と叫ぶ。
Q-5 突撃隊に参加しなくなり維新赤誠塾の方が面白くなってきた私とヒデ君が、委員長と対立。→維新赤誠塾第2回ライブには突撃隊は参加せず。


第3部 私は、生まれて初めて自分を好きだとちょっとだけ思った
(23)平和ボケ日本に捧ぐ
R 小林よしのりの漫画『戦争論』を読んで感動した。戦争で亡くなった人への素直な感謝。犬死に呼ばわりする論調にうんざりしていたから。

S 漫画『戦争論』の素晴らしさをイベントで熱弁していたが、平和の上に胡坐をかいての議論や演説はいやだ。私は民族主義にすがりついている。
S-2 「右翼に入ることと自己啓発セミナーに行くこと、いったいどこが違うんだー!」と私は叫んだ。
S-3 平和ボケ:何か生きている実感が得られそうな場所として、運動を選んだだけかもしれない。社会を論じたり否定したりしていないと自分の存在が確かめられない。

T 『あなたは天皇の戦争責任についてどう思いますか?』という映画の監督土屋さん。終戦記念日に靖国神社を参拝に訪れた人たちに、その質問を繰返す。
T-2 「戦争を知っている人の生の声を聞こうとするだけで、またそれに一生懸命なので、信頼できると思った」と、雨宮氏。


(24)Let’s北朝鮮
A 塩見孝也さん。左翼の人だけど、民族と反米で私たちとつながっている。“日本のレーニン”と言われ赤軍派を作った。1970年に逮捕され、獄中20年。
A-2 「反米の姿勢を学びに行く」と言われ、雨宮氏は北朝鮮に行く。また本で読むだけじゃなく、実際、この目で確かめたい。
A-3 ハイジャックして北朝鮮に渡ったよど号グループのかっこよさに、しびれまくった。彼らと北朝鮮で会える。それぞれが日本人と結婚し、生まれた子どもが20人位いる。

B 北朝鮮では、熱烈な歓迎を受け、よど号グループと彼らの奥さんたちの家族は心地よかった。
B-2 「帰りの飛行機の中で、私は混乱した」と雨宮氏。大がかりに騙されたのか?北朝鮮は、本当にいい国なのか?
B-3 「殺される」「食われる」「人肉市場で売られる」ことはなかった。
B-4 北朝鮮には、個人の薄汚い欲望を垂れ流しにするような資本主義のプロパガンダなんてなかった。「自力更生」「殉死愛国」「自爆精神」「肉弾精神」「全人民武装化」など、誇り高き国家としてのスローガンだけ!
B-5 みんなと常に価値観が共有できたら、私は今より寂しくないだろう。自分が思い切り国家に必要とされたら、私は何も迷うことなんてない。
B-6 私にとって個人主義はしんどいし、資本主義はつらい。私はいつも蹴落とされ、そして自分を支えるものがないことに戸惑ってきた。
B-6 だけど民族は私を裏切らない。日本人だってことだけで私は肯定される。
B-7 また、よど号グループと、彼らの子供たちの素朴で純粋で素直な人格。心が洗われる気がした。主体思想はすごいのかもしれない。

C この話をヒデ君と土屋さん(映画監督)にすると、二人は私の洗脳されやすさに呆れ果てていた。


(25)映画『新しい神様』土屋監督:雨宮処凛主演
D 私の部屋にビデオカメラが常駐。毎日、思ったことなんかを、ビデオカメラに言う。土屋監督が、私の映画を撮る。
D-2 「私は、今の社会が大キライで自分も大キライだった。そのことを、ずっと自分が悪いからだ思っていた。でも突撃隊が悪いのは、社会、戦後民主主義、アメリカと明言してくれた。私は、その言葉に救われた。」

E でも、本当にこの居心地の悪い社会を変えたいとも思ってもいる。
E-2 ライブハウスでマイクを握って「オマエら、今すぐに立ち上がれ!立ち上がらなくてはならない!」って言う時、人に言うっていうより、自分に言い聞かせているのだと思う。
E-3 ビデオカメラの前で、毎日自問自答しながら、ちょっと前進してる気がした。
E-4 わたしは「突撃隊」を辞めた。
E-5 私は、少しだけ、“自由”になってしまった。
E-6 私たちの世代にとって、右や左は二の次。あるのは、この腐った平和への嫌悪感。
E-7 この国の息苦しさ。選挙権をいくら行使しても、自分の一票ではなんも変わらないほど肥大化した間接民主主義と議院内閣制。
E-8 自分で作り上げた幻の祖国という、何か大きくて絶対のものに、帰属したい、すがりたい、繋がりたいという個人的な願望だけがあった。

F 4/26、維新赤報塾第4次ヤルタ・ポツダム体制打倒決起集会の日、私は人に言うのでなく、自分に言い聞かせるって自覚しながら叫ぶと、本当に素直に言葉が出てきた。借り物の言葉でカラ回りするのでなく、初めて自分の言葉で言えた気がした。

G 映画『新しい神様』:一本の映画で、生きている価値もないと思っていた私が肯定された。私は悪あがきしながらも、必死で前に進もうとしていた。
G-2 私は、生まれて初めて自分を好きだとちょっとだけ思った。


(26)Let’sイラク
H 一水会書記長・木村三浩さんに誘われイラクへ。総勢10人。イラク政府の“公賓”。木村氏は、イラク政府と10年来の付き合い。湾岸戦争で、反米を掲げ、イラク支援したのがきっかけ。
H-2 イラクの音楽祭“バビロン・フェスティバル”に日本代表として参加。「イラク万歳!日本万歳!とにかくもう、全部バンザーイ!」と叫ぶ。
H-3 みんな大きな拍手で包んでくれた。
H-4 私は歌いながら泣いた。こんな心の動きにしか、私は正直にならない。私の心を揺さぶるもののためにしか、私は動かない。
H-5 私はもう、イデオロギーでは動かない。自分が見たものしか信じない。自分の心を動かされたことしか、やらない。
H-6 人は、ナントカ主義者になった途端に、間違った方向に行きやすい。


(27)天皇陛下バイバイ
I “天皇陛下御即位10年をお祝いする国民式典”に行く。ここ何年か、私の心の支えであり続けてくれた天皇陛下。3年間追い続け幻。
I-2 5万人集まるが、その能天気ぶり。「いやー、今日は天皇陛下見れてよかったねえ。」「安室ちゃんも見れたしね。」
I-3 みんな、私と同じ気持ちで、支持してると思った。日本の天皇制は、この国と自分の在り方の問題を考えた末に、民族への帰属意識としてそれぞれが求めてやまないものだと思っていた。
I-4 あんな無責任な人たちが支持していた。
I-5 私は、右翼の人が叫ぶ「天皇陛下万歳」の方が好きだ。ビジュアル系ファンの女の子が叫ぶミュージシャンへの声援の方が好きだ。

J 「私はもう、一人で生きていけるだろう。天皇陛下に幻を押しつけなくても、ちゃんと生きていけるだろう。別に本当の自由なんて、怖くない気がする。」


(28)エピローグ:世界の輪郭
K 私は世界がどこにあるのかわからなかった。私だけが世界の仲間外れだと思っていた。
K-2 依存を繰り返し、思い切り遠回りして、今私は世界の輪郭を掴むことができた。
K-3 個人的な欲望と得体の知れない正義感をごちゃ混ぜにした、私の自分探し格安ツアーは、現在も続行中である。(以上、2000年、25歳)

《評者の感想》
()雨宮氏は、右翼を去る。理由は、次の1文で明らかである。「私はもう、一人で生きていけるだろう。天皇陛下に幻を押しつけなくても、ちゃんと生きていけるだろう。別に本当の自由なんて、怖くない気がする。」((23)から(28)参照。)


第4部 最終章:7年後(2007年、文庫版のためのあとがき、32歳)
A 2003年、開戦1か月前、私を含む総勢30人以上が、「人間の盾」となるためバグダッドへ反戦デモに行く。
A-2 帰国後、イラク戦争が勃発。バグダッドで出会った人たちの上に降り注ぐ爆弾の映像を見ながら、何度も自分の無力さをかみしめた。

B 2005年、マイ師匠・見沢知廉さんが8階からダイブして亡くなる。 
C この本を読んで、ひきこもりから脱出した若者がいる。
D 7年後の私は、プレカリアート(不安定なプロレタリアート)運動にはまっている。競争原理や経済至上主義に歯向かい「生きさせろ!」と叫ぶ「生存権」運動。現代の百姓一揆!
D-2 敵はグローバリズム、ネオリベラリズム、資本主義。
D-3 こんな無力な自分でも、世界をほんの少しだけ変えられると、錯覚でもいいから思っていたい。

《評者の感想》
()雨宮氏は、①自分を捉える目が、客観的である。②ひどいいじめに耐え、死を選ぼうとしたこともあって、覚悟ができていると思う。③エネルギーがある。④状況の分析力、総合判断力が、すぐれている。
(ⅺ)倫理的に見れば、「社会が要求する法・規則の順守」と、「正しいと思う感情のエネルギー」が衝突した時は、雨宮氏は、後者を優先するようである。

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『夏を殺す少女』アンドレアス・グル―バー(1968生)、創元推理文庫、2011年

2015-06-25 19:38:57 | Weblog
プロローグ
A エドワード・ホキンスン(フリートベルク号の船主)。
A-2 《「リザ」という名の青いドレスの娘》と会う。
A-3 ホキンスン、自動車事故死。長いショールがオープンカーの後輪に巻き付き、首が締まり事故死。


3日後、2008年9/15以降
B エヴェリーン・マイヤース(ウィーンの弁護士):クラーガー法律事務所
B-2 クラーガー:エヴェリーンのボス
B-3 パトリック:クラーガーの息子、私立探偵。エヴェリーンに気がある。

C キースリンガー小児科医:マンホールに落ちた鍵を拾おうとして、《女=娘(20歳ぐらい)》(リザorジュビル)に後ろから蹴飛ばされ溺死!
C-2 マンホールで死んだキースリンガー小児科医。
C-3 《女=娘》は、キースリンガー小児科医を自分から探し出し、誘惑し、殺した。

D ヴァルター・プラスキー:ライプツィヒ刑事警察刑事。ナターシャ・ゾマー事件を捜査。

E ナターシャ・ゾマー:最初、自ら薬物を注射し、自殺したとされた。孤児。10代後半の少女。マルククレーベルク州立精神病院に入院中だった。
E-2 「あいつらは繰り返しやって来る」「この苦痛」「私は娼婦」とナターシャの遺書。(しかし偽物の遺書だった。)
E-3 激しい虐待を受け、精神病院に入院後、言葉を一度も発さない。
E-4 検察官は、一度、自殺と決定するが、後に殺人と認め捜査再開を指示。
E-5 殺人犯と思われる白髪の初老の男が、病院の塀を乗り越えるヴィデオあり。

E ミュンヘンのハインツ・プランゲ市会議員:エアバッグが暴発し死亡。この時も《若い娘》がいた。キースリンガー溺死事件の時にいたのと、同じ娘。
E-2 エアバッグで死んだハインツ・プランゲ市会議員は、この《若い娘》(リザorジュビル)に殺されたと,
後に判明。

F ゾ-ニャ・ヴィルヘルム:殺されたナターシャの心理療法士。ヴァルター・プラスキー刑事に情報提供などで協力する。

G ペーター・ホロベック弁護士:クラーガーの共同経営者。ミュンヘン市会議員ハインツ・プランゲのエアバック事故死訴訟を担当するが、鳥籠と一緒にベランダから転落事故死。(→あの《若い娘》が殺したと後に判明。)
G-2 エヴェリーンの先輩弁護士。同性愛者。
G-3 ホロベックが残した携帯電話にエヴェリーンが電話。女が出て「リザ?」と言う。

H マルティン・ホルナー:19歳の少年。マルククレーベルク州立精神病院に入院中だったが3日前に死ぬ。(殺されたと後に判明。)ナターシャと同じ孤児。
H-2 マルティンとナターシャは10年前、数日違いで病院に搬送される。同じ医師フォベルスキーが治療。二人とも虐待を受け集中治療室へ。ともに同一性障害(=多重人格)に陥る。

I 《若い娘》=《サマードレスを着たロングヘアの娘》が、プランゲ市会議員とキースリンガー小児科医を殺した。
I-2 プランゲとキースリンガーの二人とも、児童ポルノがらみで訴えられたが起訴されず。
I-3 二人とも3か月に一度、1000ユーロを送金。二人の送金先は同一。恐喝されていた。送金は10年前に始まる。ハンブルク信金の口座へ。

J 弁護士エヴェリーンは10歳の時、拉致され、性的暴行を受けた。妹も拉致され、殺された。暴行した男は逮捕された10年服役して出所。
J-2 絶望したエヴェリーンの両親は列車に、飛び込み自殺した。

K エドワード・ホキンスンのフリートベルク号のクルーズに、1998年、プランゲ市会議員とキースリンガー小児科医は参加している。

L セバスティアン・ゼンメルシュレーガー自殺(19歳の少年)。ゲッテインゲンの精神病院にて。しかし自殺でなく、殺されたと後に判明。

M 1998年の夏、ブレーマーハーフェン病院で同じ医師から治療を受け、同じゲッテインゲンの精神病院に移送された少女、レーシャ・プロコポヴィッチ。
M-2 レーシャはいくつもの交代人格があり、その統合の治療中。10年前、レーシャは激しい虐待を受け、解離性同一性障害となった。
M-3 レーシャ、病室で襲われ大量失血。救急車で搬送され、命が助かる。
M-4 ヴァルター・プラスキー刑事が、逃げる男を追いかけ、男の脚を撃つ。弾は当たるが負傷したまま男は逃走。


9/18以降
M 弁護士エヴェリーンがハンブルグのエドワード・ホキンスンを訪問。
M-2 「父は死んだわ」と娘のグレータ・ホキンスンが言う。
M-3 10年前、フリートベルク号のクルーズを、エドワード・ホキンスンが計画。

N 弁護士エヴェリーンが、グレータ・ホキンスン邸で、1998年のフリートベルク号の乗船名簿13人分を発見。ランゲ市会議員とキースリンガー小児科医含む。
N-2 先輩のペーター・ホロベック弁護士も乗船していた。エヴェリーンは愕然とする。

O グレータ・ホキンスンが「誰かが、あのことを明るみに出そうとしている」と、シュモレにひそかに電話した。
O-2 パウル・シュモレは1998年のフリートベルク号のクルーズの時の船長。
O-3 エヴェリーンが、シュモレを訪問した時、彼は自殺しようとしていた。
O-4 1998年、フリートベルク号の乗客は13人。クルーズは9日間。子どもは6人で、孤児やストリート・チルドレン。阿鼻叫喚の地獄。子どもが暴力のはけ口にされる。
O-5 マヌエルという少年が死ぬ。姉リザに事故死の責任をなすり付ける。子どもたちはドラッグ漬けにされ、各地の浜辺に一人ずつ置き去りにされた:ナターシャ、マルティン、セバスティアン、レーシャ、リザ。死んだマヌエルは、途中の浜辺に埋められた。
O-6 ブレーマーハーフェン病院に収容された5人の子供は、LSD漬けで、体中傷だらけ、死ぬ寸前までの苦痛を受けた:当時の担当医の証言。
O-7 「20歳になったリザが、先日ここに来た!」とシュモレ。リザは、乗客13人の名前を聞き出す。(実は、来たのはリザでなく、ジュビル・ヴォスカだった。)
O-8 なお、シュモレは結局、自殺する。

P この2カ月の間に、船主ホキンスンと、1人を除くフリートベルク号の乗客11人が殺された。(犯人は「リザ」でなく「ジュビル」と、後に分かる。)

Q リザ・グルジエフ(当時10歳)は10年前、オックセンツォル精神病院(ハンブルク)に、虐待で搬送されてきた。
Q-2 リザが殺される可能性があるので、ヴァルター・プラスキー刑事が連絡し、警察の保護下に置く。
Q-3 弁護士エヴェリーンは、「リザが、ホキンスンの名簿をもとに11人と、船主ホキンスンを連続殺人した」と推理。
Q-4 ところが「リザは、この10年間、一度もこの病院を出ていない」とヴァルター・プラスキー刑事。(実は、やがて判明するが連続殺人犯は、リザでなく、ジュビル・ヴォスカ!)

R エヴェリーンとヴァルターがリザと面会。フリートベルク号の名前を告げると、リザは悲鳴を上げた。
R-2 一方に、虐待された子供の連続殺人事件。ナターシャ、マルティン、セバスティアンは殺され、レーシャは未遂で命は取り留め、リザは警察の保護下。
R-3 他方で、フリートベルク号の乗客13人のうち11人と船主ホキンスンの連続殺人。
R-4 リザのグループ・セラピーのヴィデオから明らかになったこと:フリートベルク号の記憶の再現の中で、リザは初めマヌエルが毎日連れていかれ、ひどい状態で戻ってくるのに号泣するが、途中から、激しい復讐心に変化する。

S リザと《青いワンピースの娘》は別人。
S-2 2006年、ジュビル・ヴォスカが、オックセンツォル精神病院(ハンブルク)に搬送されてくる。ストリート・チルドレン。リザより1-2歳年長。リザと友情を結ぶ。リザを真似し、リザと同じ服装。
S-3 リザの攻撃性が、ジュビルに伝染する。
S-4 ジュビルは、4か月前、介護付きグループ・ホームに引っ越す。
S-5 3か月前、ジュビルは、100ユーロを盗み、介護付きグループ・ホームから姿を消す。

P フリートベルク号の乗客のうち殺された11人は、マヌエルが死んだことで強請られ、1998年からハンブルグ信金に金を入れていた。

Q ジュビルは、自分をリザだと思い込んでいる。弟マヌエルの無念を晴らそうとする。
Q-2 ジュビルは、2か月前、当時のフリートベルク号の船長シュモレを訪ねた。フリートベルク号で、彼だけが。食事を運んでくれるなど、子どもたちに優しかった。
Q-3 フリートベルク号のクルーズが、船主エドワード・ホキンソンの企画と、ジュビルが知る。(このような企画は何年も続けられていたが、マヌエル死亡事件以後中止。)
Q-4 ジュビルは、ホキンソン邸に忍び込み、乗船者名簿を写す。その後、エドワード・ホキンソンを殺し、また乗客11人を殺す。

R ジュビルは、乗船者名簿順に殺していった。名簿の最後の消されている一人の手前、12人目が、元少年裁判官アルフォンス・ボルテン。
R-2 ボルテンは乗船者名簿順の死を知って、復讐と気づき、ナターシャ、マルティン、セバスティアン、レーシャを次々と襲う。(レーシャは殺害失敗。)
R-3 ナターシャ殺害の時、逃げた白髪の初老の男、レーシャ殺害未遂で逃げヴァルターに撃たれた男は、ボルテン。

S エヴェリーンとヴァルター刑事、ボルテン邸を訪れる。
S-2 ボルテンに、襲われ、ヴァルター刑事は筋肉弛緩剤ボトックスを、注射され殺されるが、殺されず助かる。
S-3 エドワード・ホキンスン(フリートベルク号船主)は、マヌエルの死亡事件のあと、クルーズをやめる。
S-4 グレータ・ホキンスン(船主の娘)とボルテンが、事件を種に、乗客11人を恐喝。
S-5 孤児やストリート・チルドレンなどを手配していたのは、グレータ・ホキンスン。

T ジュビルが、ボルテンを焼き殺す。

U 乗客名簿の13人目はグレータ・ホキンスン。
U-2 ジュビルは、グレータ殺害のため、ホキンスン邸に侵入。
U-3 ジュビルは、自分がリザだと思いこんでいる。
U-4 エヴェリーンが、ジュビルと話し、過去を思い出させる。ジュビルは自分を取り戻し、自分の殺人のせいで、ボルテンによる子どもたちの殺害が起きたと知りショックを受ける。
U-5 実は、ジュビルも、リザの2年前、フリートベルク号に載せられひどい虐待を受けた。
U-6 エヴェリーンが、ジュビルに、グレータ殺害を思いとどまらせる。

V グレータが、クロスボーで、エヴェリーンとヴァルター刑事を襲う。
V-2 しかし、結局、ヴァルター刑事が負傷しながらも、グレータを逮捕する。

W エヴェリーンは、クラーガー法律事務所から独立し、刑事弁護人となる。
W-2 フリートベルク号船主エドワード・ホキンソン、および乗客12人を殺害したジュビル・ヴォスカの弁護が、エヴェリーンの最初の仕事となった。



《評者の感想》
① 人間の金持ちによる児童虐待。凄まじさに愕然とする。人間の心のどう猛さ、攻撃性。
② この人間の欲望を金儲けのタネにする人間の抜け目のなさ、つまり計算された残虐性。これを、動物は持たない。人間のみが持つ。
③ 弱いものを苛め抜く快感。人間に特有の邪悪な快楽。ヘイトスピーチにも通ずる。悲観的な人間観。人間は滅び去った方がいいのかもしれない。

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『漢詩にみる日本人の心』宇野直人(1954生)、NHKラジオテキスト、2015年

2015-06-22 09:23:20 | Weblog
第1回 儒臣の本懐:菅原道真(845-903)
 菅原道真の死の年(903年)、59歳の七言絶句「謫居(タッキョ)春雪」。その第4句「烏頭点著思帰家」(烏頭にさしつきて家に帰らんことを思ふ)。
 頭の白い烏は「不可能」を示す成句で、悲痛な望郷の念の表現。
 と同時に、頭の白い烏は不祥の鳥であり、これが現れると反乱がおこるとの伝承がある。都の凶事の予感。「主上(宇多上皇)をお助けしなくては!」との儒臣の気概を詠む。


第2回 五山の詩魂:富士山を詠む
 室町時代初期の五山の僧、中厳円月(チュウガンエンゲツ)(1300-1375)の七言絶句「富士山」。その後半二句「士山影落茶盃底 呑却天辺雪一団」(士山影は落つ茶盃の底(ウチ) 呑却す天辺雪一団)。
 “茶わんに写った富士を一気に飲んだ”という豪快さ。軽み、遊び心+あり。


第3回 風狂の彼方に:一休宗純(1394-1481)
 一休禅師の父は北朝の後小松天皇、母は南朝系の貴族の娘。南北朝の対立のため、母は宮中を出る。一休の人格形成への深い影響。
 七言絶句「自賛」で彼は「風狂狂客起狂風」(風狂の狂客(キョウカク)、狂風を起こす)と詠む。何ものにもとらわれず、理想に突き進む私は、激しい風を巻き起こす。「狂」は“理想に向かって突き進む”の意。
 彼は幕政を批判する。一休67歳(1460年)、「大風洪水万民憂」と無策の室町幕府を攻撃。京には『羅生門』のような世界が広がる。
 晩年、一休の心に平安をもたらしたのは盲目の芸能者森女との出会い。文明2年(1470)、一休77歳、冬のこと。「愛看森也美風流」(愛看(アイカン)す 森(シン)也(ヤ) 美にして風流)と彼は詠う。


第4回 博学無比の人:林羅山(1583-1657)
 林羅山は、まさしく博学無比の人。詩作が好きで『羅山詩集』はなんと4639首を収める。
 羅山先生の詩は、多岐にわたるが、優雅な詠みぶりの佳作を一首。
 七言絶句「月前見花」(月前に花を見る)。春の夜の暖かさ、なまめかしさを詠う。
 「淡月映欄(オバシマ)花気濃 春宵好景勝秋中 不明不暗朦朧影 于色于香剪剪風」
 (淡月欄(オバシマ)に映じて花気濃(コマ)やかなり 春宵の好景 秋中に勝る 明ならず暗ならず朦朧の(花の)影 色に香に剪剪の風) 
 剪剪(センセン)はうすら寒い風のさま。その風が花をゆらし香りを送る。


第5回 儒教再審:荻生徂徠(1666-1728)
 荻生徂徠は、31歳の時、5代将軍徳川綱吉の側近、柳沢吉保に抜擢され、以後重用される。綱吉の逝去後、徂徠は隠居。日本橋茅場町に家塾を開く。蘐園(ケンエン)学派。(蘐園は茅場の意味。)
 徂徠は、古文辞学派と呼ばれ、古人の心に沿って古典を理解することを重視。
 また哲学は、人の性情に基づくものであるとし、性情の研究のため人間社会のあらゆる面に目を向けた。徂徠以後、儒学者の研究対象が広がり、国文学から芸術、芸能に及ぶ。儒学者は、求道精神一筋から、文人・風流人となった。
 七言絶句「東都四時楽」(東都四時(シイジ)の楽(ガク))は、“江戸の四季の音楽”。音楽に乗せて歌うための作品。四季折々を詠んだ4首の連作。「其の一」は上野のお花見の情景。
 「東叡山頭花似氛 東叡山下雪紛紛 笙歌千隊斉声唱 那得暫時停白雲」
 (東叡山頭 花 氛(フン)に似たり 東叡山下 雪 紛紛(フンプン) 笙歌 千隊 声を斉しうして唱ふ 那(ナンゾ) 暫時(ザンジ) 白雲を停(トド)むるを得んや)
 上野の山は花が雲のよう。山のふもとは花吹雪。笛に合わせあちこちで歌を唄うが、調子はずれで、「白雲を停むる」ような美声ではない。庶民的雰囲気!


第6回 和漢交響:与謝蕪村(1716-83)
 蕪村は〈俳詩〉の分野を開拓し、和文脈と漢文脈の連結による新しい表現を試みた。
 1777年、蕪村62歳、「春風 馬堤の曲」は、発句体・漢詩体・漢文訓読体の3詩型、全18首をつないで1篇を構成。空前絶後の野心作。自分の追憶と望郷の思いを様々な角度から吐露。一部を以下、紹介。
 発句体:「春風(ハルカゼ)や 堤長うして 家遠し」。
 漢詩体:「呼雛籬外鶏 籬外草満地 雛飛欲越籬 籬高堕三四」(雛を呼ぶ 籬外(リガイ)の鶏(トリ) 籬外 草 地に満つ 雛飛んで 籬(カキ)を越えんと欲し 籬高くして堕つること三四)。
 漢文訓読体:「故郷(コキョウ) 春深し 行々て 又 行々(ユキユク) 楊柳 長堤 道 漸(ヨウヤ)くくだれり」。


第7回 やがてかなしき:狂詩の世界
 〈狂詩〉は日本の漢詩の一つの発展形態。平仄・押韻など作法上の規則を守りつつ、漢字表記による和語を交え、軽妙に身近な事柄を詠む。
 狂詩は天明年間(1781-88)以降、急速に流行。
 寝惚(ネボケ)先生(大田南畝)の七言古詩「貧鈍行」は俗諺(ゾクゲン)・成語を並べ貧乏暮らしを笑い飛ばそうとした。
 「為貧為鈍奈世何 食也不食吾口過 君不聞地獄沙汰金次第 于挊追付貧乏多」
 (貧為(タ)り 鈍為り 世を奈何(イカン) 食(クラ)ふや 食はざるや 吾が口過ぎ 君聞かずや 地獄の沙汰も金次第 挊(カセ)ぐに追ひ付く 貧乏多し)
 貧乏だと頭も心もにぶり、どのように憂き世を渡ればよいのか?食うや食わずの暮らしで、地獄の沙汰も金次第だというのに、いくら働いても貧乏。
 狂詩は、流行の初期から「寛政の改革」(1787-93)で抑圧され、明治期には「脱亜入欧」の風潮ですたれるなど、悲しい運命を背負う。


第8回 涙の手まり歌:良寛(1758-1831)
 良寛は越後出雲崎の人。家は名主であったが、18歳の頃、出家。諸国を行脚して二十数年後に帰郷。すでに両親はなく、家は没落。47歳の時、国上山の五合庵に居を定める。良寛は生涯、寺を持たず、妻子もなく、時に托鉢し清貧の日々。越後を訪れる文化人と親交を結ぶ。
 五言古詩「雑詩」「其七十九」は五合庵にいた頃の作で、子どもたちとの手まりを詠む。その一部、「我打渠且歌 我歌彼打之 打去又打来 不知時刻移」(我 打てば 渠(カレ) 且つ歌ひ 我 歌へば 彼 之を打つ 打ち去り 又 打ち来りて 時刻の移るを知らず)。
 これは、良寛が単に子ども好きだったことを、示すだけではない。江戸時代の農村では「間引き」など、生計の負担を減らす風習があった。また女の子は、養蚕・製糸のため他国に引き取られたり、遊女に売られることも多かった。
 良寛は、「そういう子どもたちに、せめて今、楽しい思い出を残してやれたら」と手まりをしたのかもしれない。


第9回 燃ゆる心を:頼山陽(1780-1832)
 頼山陽は広島藩の藩儒の長男。20歳の時、突然やみくもに情熱にかられ、脱藩を決行。重罪であり、捜索・発見され、幽閉・廃嫡。3年間、座敷牢の中で読書と著述に専心。30歳半ばより、名声が高まる。
 40歳の頃より京都に居を定めた。47歳、『日本外史』が完成し翌年、松平定信に献上。
 史書の編述を一生の仕事としたので、山陽は詠史詩に名作が多い。
 川中島の合戦を詠んだ七言絶句「題不識庵撃機山図」(不識庵(謙信)、機山(信玄)を撃つの図に題す)。
 「鞭声粛粛夜渡河 暁見千兵擁大牙 遺恨十年磨一剣 流星光底逸長蛇」(鞭声(鞭の音)粛粛夜渡を河る 暁に見る千兵の大牙(大将旗)を擁するを 遺恨なり十年一剣を磨き 流星光底(白刃がひらめいた次の一瞬)長蛇(大物)を逸す)。
 山陽39歳、七言古詩「泊天草洋」(天草洋(ナダ)に泊す)は、雄大!
 また、“花売り娘の声で、杏の花の季節になったことに気づく”の詩、“月が出ていないので、この白髪頭を母上に見られないですむ”と65歳の母への心遣いを示す詩など、山陽は、細やかな情愛を詠む。


第10回 この道ひとすじに:広瀬淡窓(1728-1856)
 病弱のため郷里、豊後・日田にとどまり、家塾・咸宜園を開設。門生が全国から集まる。高野長英、大村益次郎も門生だった。教歴50年、篤学で温厚な先生。
 教育課程は周到で、塾生活の規約、履修課程、成績評価の方法をマニュアル化する。
 情を豊かにするための修養として、詠みぶりの個性を尊重しつつも、〈詩文推敲〉を重視。
 淡窓の詩は、頼山陽より上とされた。
 ハインリッヒ・ハイネのローレライの詩が、ドイツで、1827年刊『歌の本』に載る。淡窓の在世中のことで、その影響を受けたと思われる彼の漢詩がある。
 七言絶句「隈川(クマガワ)雑詠五首」其の二:「遊人停棹聴清唱 不省軽舟流下灘(カタン)」(遊人棹を停めて清唱を聴く 省みず軽舟の下灘に流るるを)。娘の美しい歌声を聴いて、自分の船が危険な浅瀬(下灘)に向かっているのに気付かない。 


第11回 士族の誇り:西郷隆盛(1827-1877)
 西郷隆盛は、討幕勢力を統括し、明治維新の原動力を形づくったが、西南戦争のため悲劇的な最後を迎える。
 彼の漢詩は、内省的である。折々の心情告白と言える。
 「沖永良部島謫居(タッキョ)中作」は流罪中の作。その第七・八句。
 「生死何疑天付与 願留魂魄護皇城」(生死 何ぞ疑はん 天の付与なるを 願はくは魂魄(コンパク)を留めて皇城を護らん)。
 明治6年、西郷が明治新政府の職を辞した直後の作、「失題」の第七・八句。
 「独会平生事 蕭然酒数斟」(独り会す 平生の事 蕭然として 酒 数(シバシバ) 斟(ク)む)。独り、来しかたの様々の事を心に納得させ さびしい心境で 杯を何度も傾けてしまう。


第12回 安らぎを求めて:夏目漱石(1867-1916)
 漱石は、漢詩の中に超俗的な世界を求めた。
 五言古詩「菜花黄(サイカコウ) 明治三十一年三月」は、黄色い菜の花について詠う。その最後の二句。「恨未化為鳥 啼尽菜花黄」(恨むらくは未だ化して鳥と為り 菜花の黄(コウ)を啼き尽さざるを)漱石は俗世間を去り、雲雀のように菜の花の黄色を喜び、魂全体で啼き尽すことに憧れる。
 漱石の中には、二つの側面がずっと併存していた。一方に俗世間の複雑な人間の心理、感情と向かいあう側面。他方で超俗的に、老荘の道、陶淵明の詩をめざす側面。
 七言古詩「無題 十一月十九日」は、亡くなる20日前の作品。その第三・四句。「観道無言只入静 拈詩有句独求清」(道を観んとして言無く 只静に入り 詩を拈(ヒネ)らんとして句有り 独り清を求む)。人生の道を見極めようとして、言葉に頼らずひたすら静けさに向かい、詩を工夫して気のきいた句をこしらえ、ひとえにすがすがしさを求めた。


第13回 祖国へのまなざし:徳富蘇峰(1863-1957)
 明治中期に民友社を設立し『国民の友』『国民新聞』を発刊。進歩的平民主義を唱える。日清戦争後の〈三国干渉〉に非常な衝撃を受け、その後、富国強兵・国権主義へ移行。桂太郎と親交を深める。“藩閥政治への屈服、変節”と批判された。
 昭和6年〈満州事変〉以降、皇室尊奉の立場から言論・思想界の中心となる。昭和17年、大日本言論報国会会長。
 昭和20年終戦時、戦時中の言論への責任から自決を考える。しかし戦争犯罪人として法廷に立つと予想。その折に日本の立場を米国に説くことを使命と考え、自決を思いとどまった。
 蘇峰は形だけの皇国史観の持ち主でない。戦後、大東亜戦争の昭和の帝の立場について「恐れながら、予は客観的に、歴史家として・・・・勤皇の歴史家水戸光圀や、頼襄(ノボル)(山陽)などが、当然使用したる同様の文筆を以て」大局的分析を行った。
 菅原道真をほめたたえ昭和17年に詠んだ五言古詩「無題」。
 第二・三段「一朝罹讒構 呑冤謫西涯 傷時仰蒼璧 愛君向日葵 祠堂遍天下 純忠百世師」(一朝 讒構(ザンコウ)に罹り 冤を呑んで西涯に謫(タク)せらる 時を傷んで蒼璧を仰(アフ)ぎ 君を愛すること 向日葵(コウジツキ) 祠堂 天下を遍く 純忠 百世の師)。  
 ある日 讒言のたくらみを受け 無実の訴えを胸に秘め 西の果てに流された。 時の流れをなげき 蒼い天空を仰ぎ 天子様を案じることは ひまわりの花さながらだった。いま天神様のおやしろは日本中に建てられ その純粋な真心によって いついつまでも師と仰がれるであろう。

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『日本に絶望している人のための政治入門』第Ⅳ部-2、三浦瑠麗(1980年生)、文春新書、2015年

2015-06-14 11:46:07 | Weblog
第Ⅳ部-2 日韓関係、沖縄 
第7章 日韓関係の未来:韓国のエリート層は圧倒的に知米派である
A 日韓関係を成熟させる。
A-2 2国間関係の特別な意味づけは、日韓だけではない。Ex. サッカーの仏独戦、Ex. ブラジル対アルゼンチン戦。
A-2 人間性への不信感を覚えるインターネットの書き込み。Ex. セウォル号事件の犠牲者を悼む韓国人を侮蔑、Ex. 東日本大震災に苦しむ日本人を嘲る。
A-3 日本:ヘイトスピーチ。韓国:日本への過去の発言についての魔女狩り的状況。

B 古代から近代まで朝鮮半島は、地政学的に重要。
B-2 日本人の戦略論:陸奥宗光『蹇蹇録』(ケンケンロク)。
B-3 陸奥の時代と異なる点:
① 朝鮮半島に今や成熟した民主主義国がある。
② 外交/安全保障政策の民主化/大衆化。プロへの信頼が揺らいでいる。
③ 東アジアにおける米の相対的影響力の低下。米国の能力及び意思。中国の存在感増大。

C 国民感情に会わない外交官、プロ同士での日韓関係の扱い。→日韓ともに民主主義の大衆化で、外交官が国民感情を無視できず「ガキの使い」化。
C-2 これはしかし、成熟のための必然的変化。

D 朝鮮戦争への日本の道義的因縁。
① 日本は米国が朝鮮半島を統一的に占領する形で降伏すべきだった。日本は戦後秩序への洞察を欠いた。Ex. それの中立を信じ、終戦工作に望みをつないだが、誤り!
② 日本は、他民族の悲劇から利を得て、復興を加速させた:朝鮮戦争。

E 日韓関係の構造Ⅰ:日本の優位と日韓基本条約
① 米国の強い影響下で、日韓が自由陣営の関係強化。
② 韓国側代表(=保守派)は、日本式教育を受けた旧植民地官僚。
E-2 日本は上から目線の交渉。今日まで、韓国保守派のアキレス腱。不正義!

F 日韓関係の構造Ⅱ:日本優位の構造が韓国の民主化で変化し、日本外交のクライアンテリズムへ
① 韓国側交渉者が、激しい世論にさらされ、日本はそれに気を遣う=日本外交のクライアンテリズム。→かくて保守派に気を使い、民主/リベラル派を必要以上に疎外する。
② 韓国のメインストリームであるエリートは、日本への親近感。
②-2 財閥企業・銀行幹部にとって、日本での駐在経験は出世コース。彼ら、知日派の韓国エリートは、戦後の日本に好感情。
②-3 彼らが、韓国内の反日勢力に足をすくわれないように、顔を立てるのが日本外交。

G 日韓関係の構造Ⅲ:2000年前後、アジア経済危機による混乱の頃以降の構造変化
① 日本統治時代の記憶を有し、日本の存在感が大きかった世代が、各界の一線を退く。
② 韓国のエリート層は圧倒的に知米派となる。
③ サムスン、LG(電機)、現代(ヒュンダイ)が独自のグローバル企業となり、経済的に日本の魅力低下。
④ “経済成長”を正当性の根源とした保守派の力が弱まる。金大中(キムデジュン)1998-2003、盧武鉉(ノ・ムヒョン)2003-08の民主/リベラル政権誕生。
④-2 北朝鮮に対し開明的。彼らの外交政策はバランスが取れていた。対北、対米日。
④-3 反米を掲げたはずのノ・ムヒョン政権が、安保分野では米を支援し、イラクに戦闘部隊を派遣。
④-4 ノ・ムヒョン政権は左派のはずなのに、経済分野では、世界でも有数のアグレッシブな経済交渉。

H 日本は、この韓国のこうした構造変化をとらえきれず。

I 日本で言うところの親日の韓国人は存在しない。誇りある韓国人からすれば、日本の植民地支配は、民族のプライドを深く傷つけたトラウマで、許せない。
I-2 韓国の親日派とは、幅広い問題群の優先順位からして、日本に対し妥協する利益がある場合だけ。Ex. 初期の李明博(イミョンバク)政権(保守派)。

J 李明博の「変心」は、おそらく、日本が妥協してくれるはずと甘えがあったためだろう。(著者)
J-2 日本も、妥協できないものは、妥協できない。
J-3 かくて今に至るまで、政治的に落としどころを見出せず。

K 朴槿恵(パク・クネ)大統領:日韓関係お構造は何も変わっていない。
K-2 日中関係と異なり、日韓で偶発的な事態が生じる懸念は、非常に小さいのでお互いに強硬姿勢。→国内政治上のリスクが小さい。
K-3 米国が、日韓関係の改善を望む。

L 今後の日韓関係
L-2 中国の一層の台頭→影響力増大。
(1) 韓国内で綱引き。一方で、中国に妥協し利を得る勢力。他方で、中国に毅然と対応&独立すべきとの勢力。
(2) 日本は、地政学的に韓国が「中国べったり」にならないよう努力すべき!

M 日米韓の戦略的利益と価値観(「自由・民主・人権」など日韓が共有)の強調が重要。
M-2 これら価値観は、リベラル系勢力との共通点を見出しやすいので、保守一辺倒の関係づくりから、リベラル系勢力との関係構築が鍵!

N 中国は効果的に「歴史認識」カードを切るだろう。歴史問題での中韓共闘は避けたい。
N-2 日本が、韓国に妥協的に対応しても、日本側の妥協に見合う形で、韓国内をまとめられる日本理解するリーダーは、もはや存在しない。Ex. 朴正煕大統領、 Ex. 金大中大統領。
N-3 歴史認識の問題はお互いに安易な妥協は無理。アイデンティティーや思想信条の問題。

O 日本文化を理解する層&韓国文化を理解する層が、両国関係の発展に不可欠。しかし彼らは、両国の指導層の主要な層ではない。
O-2 日韓関係の未来:利益に基づく問題について英語でビジネスライクに議論。クールな関係。単にお隣という特殊性によりかかるのでなく、オープンでグローバルな関係になる!
O-3 まず相互利益があって相互理解が生じる。
O-4 かくて日韓は成熟した関係となる。


第8章 日米と沖縄:「Xデー」(=米国の撤退)&沖縄をアジア連合本部(=「アジアのハブ」)とする
A 沖縄に基地を依存する形が、日本の安全保障、日米同盟にとって本当に良いのか?
A-2 普天間基地の移設先に、代替案がないわけでない。

B 冷戦後の日米同盟の3つのエポック
(1)「冷戦終結後も、日米同盟は必要なのか?」という疑問。→1996年「冷戦後も日米同盟は重要!」と橋本・クリントンの安保再定義。
(2)2003年小泉政権のイラク戦争支持→議論が色々あっても同盟国は、いざ決まったら支持する。
(3)鳩山政権の普天間移設先「最低でも県外」発言=「日米中正三角形論」→これに対し2011年東日本大震災での米のトモダチ作戦が、いざという時「頼りになる」米国を示す。
B-2 かくて日米同盟には、常に継続した支持取り付けが重要!

C 安倍総理は、反米的志向が強い「愛国者」であり、かつ「親米」と両立すると示した。
D 沖縄の基地のあり方に反対でも、親米でかつリアリストでありうる。

E 同盟の基盤は相互利益。
E-2 21世紀の成熟したデモクラシーの我々の同盟では、さらに国民同士の信頼感&意思。
E-3 ともに「血を流す」という盟約!
E-4 日米同盟を「必要悪」や「功利主義」で説明してきたが、これは国民の分断を防ぐための方便だった。ここから卒業する!

F 勢力均衡の時代は、同盟はプロ同士の取り決めだった。エリートによる管理。

G 民主主義国米国の同盟は、2大別できる。
① 国民の支持に基づく同盟。Ex. 米英同盟、対西欧、対イスラエル同盟。
② プロにより管理される同盟。Ex. 対パキスタン、エジプト、さらに韓国との同盟。日米同盟、比米同盟もこれに近い。

H 日米同盟は、日本では、国民の分断を恐れ「必要悪」、「功利主義」の文脈によりエリートが運営。

I 米国外交の二重構造:①米国外交を決めるのは政治的基盤を有する「素人」。②日常業務を管理する専門家=プロ。
I-2 オバマ政権1期目はクリントン国務長官がアジア重視を主導。
I-3 今は、専門家が日米同盟を管理。
I-4 米国の政策は、ある日突然「素人」が決める。日米同盟が、ある日突然、「素人」の権力によってひっくり返されることはある。
J 米国の撤退傾向は民主主義国として必然!
J-2 参考:第2次大戦後の大英帝国の撤退。①大英帝国の遠くの利益より、近くの例えば国民保健制度の「義足」の補償の方が問題となる。②英国は1967年、スエズ以東からの撤退宣言。
J-3 民主主義国では「普通の国民」が撤退を決める。
J-4 たぶん「アメリカの撤退」も同じようになるだろう。→「Xデー」!

K いつかやって来る「Xデー」=アメリカの撤退。
K-2 例えば、①国民健康保険制度&大型減税で、民主と共和が妥協。→②同時に国防予算の大幅な切込み合意。→③雇用減を恐れ議員は国内の基地に手を付けない。→④高価な核兵器と海外基地の削減。→⑤中国の脅威に対抗しアジア優先?or伝統や親近感に基づき欧米や中東優先?わからないが「Xデー」は必ずやって来る。

L 日本の4つの選択肢:米国はやがて東アジアでの権益維持や日本防衛のコミットメントから徐々に徹底していく=全体的な優先順位が低下していく。
① 「米国にすがりつく」:現行政策の延長。プロ主導。あまり未来はない・
② 「自主防衛」:端的に言って日本の財政がもたない。他の選択肢との組み合わせ必要。
③ 「中国にすり寄る」:中国が気に入らない識者やメディアがうんと言わない。
④ 「アジアの他の諸国とともに中国包囲網をきずく」:他のアジア諸国は乗ってこないor梯子を外されるのが落ち。

M かくて⑤「アジア統合への努力」のみが、日本が豊かで自由で安全安全であるための唯一の道。アジアの経済・政治・安全保障分野における協力と統合。
M-2 つまり日本は、アジアで生きていく覚悟をきめないといけない。

N 沖縄の希望:「アジア統合のハブ」になること!
N-2 沖縄が自由で安全であるため。
N-3 米軍の広大な基地の跡地を、アジア連合(仮称)本部とする。
N-4 アジア統合の重心は日中の和解。→沖縄をアジアの首都とする。Ex. EU本部はブリュッセル。
N-5 NYの国連本部は米国の主権制限。同様に、アジア連合本部は日本の主権制限。アジア多国籍軍・多国籍警察にアジア連合本部をゆだねる。
N-6 「沖縄をアジアのハブとする構想」は、与太話ではなく、過去に経済人から何度も提案された。

O 沖縄が「アジアのハブ」にふさわしい理由
① 沖縄は戦略的立地にすぐれる。上海・台北1時間圏、北京・香港・マニラ・ソウル3-4時間圏。
② Cf. かつて歴史的に中継貿易基地だった。
③ 米軍施設などインフラ&土地もある。
③-2 日本が整備した民間インフラも一流。
④ 地政学的に魅力的。米国はアジア統合が中国主導で進み、米国が排除されることに懸念。同盟国日本のイニシアチブを歓迎。
④-2 この場合、もちろん、米国のアジアからの撤退「不可避」が前提。
⑤ アジアに米国をコミットさせ、アジア連合に引き込むチャンス。
⑤-2 日本の国益の最大の危機。米中の間で無用の選択を迫られること。→沖縄をアジア統合のハブにすれば、そのリスクを最小にできる。
⑥ 主権を大幅に委譲しても、アジア連合本部の誘致のメリットは、計り知れない。
(a)アジアとのコネクションが強まり、入ってくる情報の質が断然違う。
(b)東京・霞が関に向く内向きのロジックが、開放的な方向に逆回転し、日本全体に波及。
(c)中国の沖縄に対する「興味」を牽制。

P 沖縄にとって「アジアのハブ」となるメリット
①基地負担軽減。 ②新たな経済的支柱を得る。 
③若者へのプラスの影響:アジアの平和と発展の礎、沖縄!

Q 沖縄「アジアのハブ」構想への各国の予想される反応。
(a)中国:自分の所に誘致したいので当初、反対するが、大局観のある国なので、米軍の撤退とセットなら賛成するだろう。
(b)韓国:バーター取引する。済州島の国際教育特区構想に本気で日本が資金拠出など協力。
(c)ASEAN:日米中がまとまれば反対せず。この種の機能を誘致したいシンガポールは反対。

R 沖縄「アジアのハブ」構想の弱点:上から目線の改革。
①基地の土地を所有する地主が望まない。
②アジアの首都になるより、美しい海を守る静かな暮らしを望む。
R-2 しかし挑戦する価値はある。人生をかけるに値する大義!

《評者の感想》:三浦氏はもちろん、沖縄「アジアのハブ」構想に、人生を賭けない。三浦氏の仕事は、「コンサルタント」あるいは「人生相談担当者」に相当する。


第9章 沖縄県知事選とアメリカとの付き合い方
A 沖縄問題の2つの次元
(1)日本という国のガバナンスの問題:他国との合意事項が実行できない。沖縄少女暴行事件から20年近く&普天間移転合意から10年。(2)アメリカとの同盟関係をどう考えるかの問題。

(1)国のガバナンスの問題:沖縄問題1
B 安全保障は国の領域の問題。
C 沖縄では、基地反対を抑えるため利権を生み、これがアイデンティティと対立。Cf, 原発では、利権が安全と対立する。
D 国家レベルの意思決定のリスクを、国の政治家が取らないので、沖縄の政治家がリスクをとってきた。
D-2 沖縄問題が解決できないのは、「先送り」の論理のため。
D-3 沖縄基地問題は、戦争&冷戦の負の遺産だが、冷戦終結の時、解決可能だったはず。その後の20年間は、日本政府の実行力のなさ。

(2)日米同盟をどう考えるかの問題:沖縄問題2
E 日米同盟は唯一の現実的な選択肢。冷戦時代の国内対立を乗り越え、今は、国民の多数の合意事項。
F 米軍基地が沖縄にある必然性は、もはやない。

G 成熟した民主主義国同士の同盟なのだから、お互い合意の上で結んだのだから、基地を負担の文脈のみでとらえてはいけない。米国だけのせいにできない。
G-2 戦う時に一緒に血を流す覚悟がないなら、どうせ危機の時に役立たない:日米同盟。
G-3 ごまかしの日米関係こそ、真に転換すべき「戦後レジーム」!

H 総理が本気で訴えれば、米大統領は話を聞く。Ex. 普天間の嘉手納への統合。
H-2 日本の切れるカードは、冷徹に考えておく。

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『山猫日記』2015年(3-5月)、三浦瑠麗(1980生)

2015-06-13 13:55:57 | Weblog
Ⅰ 政治家と官僚と軍人(2015/03/08):「文官統制」が外れた問題について
A 政軍関係:軍による安全(安全保障)と軍からの安全(民主主義)の問題。
A-2 軍が貴族の一部でなくなりプロの軍隊となり、軍の民主的統制(シビリアン・コントロール)が問題となった。
A-3 先進民主主義国においては、クーデターの懸念はなくなった。
《評者の感想》:本当に日本で、クーデターの懸念がないのか?

A-4 民主国家ではシビリアンの方がしばしば好戦的。米国のイラク戦争(2003年)では軍は、介入に反対した。

B 「文官統制」:制服組の行動を、背広組の文官が管理すること。(「文民統制」の1形態!)文民=シビリアン(総理大臣・防衛大臣)の「垂直統合型」コントロール。
B-2 「文官統制」が外れた方が、民主的統制(シビリアン・コントロール)は高まる。大臣に、制服組のA案と文官組のB案が提示される。「均衡型」コントロール。

Ⅰ-2 政官関係
C これまで&今も、政治家のリーダーシップを強化する方向にある(Ex. 副大臣・政務官設置など)。しかし政治家は本来「素人」。
C-2 政治家に、軍事政策を判断する力量がない。それなのに、政治家による政策のコントロールばかりが、強化されてよいのか?

Ⅰ-3 背広組と制服組の関係
D 背広組による制服組の統治(ある種、植民地支配)に対するルサンチマン(怨恨)。
D-2 安全保障政策の権限を、官僚(制服組)をおさえ集約したい官邸の思惑とも一致し、「文官統制」見直しへ。


Ⅱ 政治家と官僚と軍人(2)(2015/03/10)
A 日本の平和主義につて、三浦氏は「字句解釈に偏った安全保障政策」と言う。冷戦下、米軍に保障された安全の下で、気楽に「延々と字句解釈を続けられた」と侮蔑する。
A-2 他方で、三浦氏は「平和主義という原則が日本社会に広く共有されていることは、非常によいことです」とも言う。
《評者の感想》
(1)三浦氏は、平和主義に、反対なのか、賛成なのか?(後に出てくるが、三浦氏は、「国際的エリート軍人」が平和に欠かせないと言う。また平和の実現のために「徴兵制」が必要と述べる。)
(2)「安全保障の世界を憲法解釈という法律論で理解してきた」と三浦氏は述べる。しかし、この見解は違う。安全保障の世界は、当然にも一定の安全保障観の下で解釈された。その解釈を、憲法解釈として法律論に読み換えただけである。

B 無謀な作戦を考案して何百万の将兵を死に至らしめた戦前のエリート参謀への激しい嫌悪感が、戦後ずっと、あり続けた。そのため今、「真にエリートと呼ばれる軍人」が極端に少ない。控え目に、「現場で粛々と頑張ります」という文化が、今の自衛隊にはある。
《評者の感想》
(1)三浦氏は、「自衛隊」を、「軍」と言う。しかし、憲法の平和主義の下では、自衛隊は、「軍」でない。専守防衛で、個別的自衛権のみ行使し、海外派兵しない軍は、「軍」でなく「自衛隊」である。
(2)「軍」と呼ぶ場合は、憲法改正が必要である。三浦氏は憲法改正論者。

C 三浦氏は、「専門的な知識を持った国際的な軍人の存在が、平和に欠かせない」、国際的な「軍人ネットワークが国際社会の安全弁となる」と言う。
《評者の感想》
(1)これらエリート軍人は、十分な民主的統制がなければ、再び戦前のエリート参謀のように独善に陥るかもしれない。
(2)三浦氏自身は、自らをエリートであると規定する。正当な自己評価。三浦氏は、自らは公平・公正であると当然信じるが、その根拠は何なのだろう?

Ⅲ 日米同盟と抑止力―辺野古問題によせて(2015/04/05)
A 抑止力について:中国の宇宙戦やサイバー戦が、米軍に対してどのような影響を与えるか、誰にも確証がない。特に米国の指揮の根幹であるGPSをはじめとする衛星が狙われるが、どの程度防衛可能か不明。軍事的に抑止の概念が不透明感を増している。

B 日米関係は脆弱(ゼイジャク)化しつつある
①海兵隊移設、新基地建設の予算的制約から、普天間基地の辺野古移設には、米国内で、従来から疑問。嘉手納基地への統合、多国間でのローテーションも検討された。
②日本側の混乱で、辺野古移設、海兵隊の沖縄駐留を絶対視しない発言も続く。
③米国内には、米軍の東アジアでの前方展開に懐疑的な勢力もある。


Ⅳ 自民党の憲法改正草案について(2015/04/09)
A 民主主義とは、妥協していくプロセスである。
A-2 憲法は、違う立場のものが隣り合って生きていくための最低限のルール。これは、現行憲法に、自由主義と基本的人権として結晶化!
A-3 個人に保障された自由は、他人の自由を侵害しないという意味での「公共の福祉」以外には、制約されるべきでない。
《評者の感想》:三浦氏は、健全な民主主義者である。

B 自民党の改憲草案は、「気持ち悪い」。最低限のラインを明らかに踏み越えている。
B-2 改正案には、様々な価値観が入れ込まれている。価値観が国家から、他人から押し付けられるので、「暗澹たる気持ち」になる。

C 第3条、国旗・国家の尊重義務について:近現代史を学んだ者なら、国旗・国家に違和感を覚える者がいるのは周知の事実。嫌がる方がいることを承知で、憲法に書き込み尊重させようという感覚が、「気持ち悪い」。

D 改正案の日本語が、美しいとは思えない。「惨めな気分」になる。
D-2 ジェファーソン起草のアメリカ憲法や、(憲法と同じくらい重要な)ナポレオン法典は美しい英語やフランス語のお手本。
D-3 英文翻訳調の表現を、美しいやまとことばに書き換えるというのなら、もう少し頑張るべき。

E 憲法に、最低限を超えた価値観を入れ込むべきではないという原則に、自民党の改正草案は反する。
E-2 自民党の改正草案は、「言わぬが花」という日本文化の重要な原則にも反する。
E-3 より都会的な感覚を持つ人々や若者世代から、自民党の改憲草案に反発が寄せられて当然。

F 憲法本来の「政府を縛る」、「権力者を縛る」という原則を忘れてはならない。
F-2 国家の財政的健全性維持の項目は加えてもよい。

G 論争がある問題を憲法に入れ込み、憲法を過度に政治化するのは、民主主義の発想として、健全でない。

H 憲法改正の最大の目的は、安全保障関連の項目。
H-2 憲法9条の平和主義を継承しつつ、時代に合わなくなった部分を是正する必要はある。

I 改憲は、国民を分断するものでなく、統合するものであるべき。
I-2 憲法は、特定の価値観を押し付けるものであってはならない。
I-3 改正される憲法は、戦後70年の時代認識と、日本国民の歩みの中から沸きあがってくるコンセンサスを、「抑制的に」反映するものであるべき。


Ⅴ 総理の米国上下両院での演説について(2015/04/30)
A 「安倍政権には、歴史修正主義者とのレッテルが張られて」いる。
《評者の感想》:「レッテル」ではなく、安倍政権の本音は「歴史修正主義」である。

B 歴史認識で、安倍総理が使った“Deep Remorse”=「深い反省」、“Deep Repentance”=「深い悔悟」は、限りなく謝罪に近い概念!

C 国際社会の現実は、「経済が元気でない日本には関心がない」ということ。日本経済が強いことが、日米関係の重要性を米国の議員・国民に認識させる前提条件。

D 同盟関係は、集団的自衛権の相互行使が、当然の前提である。安保法制を夏までに法制化するとの国際公約は当然。
《評者の感想》:現行憲法化で集団的自衛権行使可能との閣議了解について、三浦氏は、憲法違反でないとの立場である。

E 米国の懸念は、尖閣諸島をめぐる有事に米軍が巻き込まれること。米国としては、国家の死活的利益のかかわらない領域で中国と敵対するのは外交上の悪夢。そのようなことを米国経済界は、受け入れない。


Ⅵ 安保法制について(1):情勢認識&「存立危機事態」(=「武力攻撃事態」)(2015/05/02)
A 米国は、安保法制の整備を、歴史的政策変更と理解する。
B 単に憲法違反だから「反対」という「法律論」でなく、「日本の安全保障環境をめぐる情勢認識」の議論を前面に押しだすべき。それを踏まえれば「集団的自衛権の行使容認が必要」である。

C 情勢認識
① 中国の継続的な軍拡。中国のGDPは、すでに日本の2倍以上。外洋艦隊配備、空軍力高度化、宇宙・サイバー空間への進出。
② 北朝鮮の核保有国化。核弾頭20発、小型化にも成功と言われる。
③ 米国の相対的国力低下。朝鮮半島有事、台湾海峡有事、南シナ海・東シナ海有事に、かつてのような強い意志をもってコミットしない。
④ 軍事技術の進化で、ハイテク装備は情報技術の塊、そして情報・指揮系統が一体化していない軍隊の連合は、実戦で役立たない。日本が集団的自衛権を行使しなければ、一体化できず日米同盟が抑止力にならない。

D 集団的自衛権の行使を可能とする新3要件:「存立危機事態」(=旧3要件の「武力攻撃事態」の拡張)
D-2 新3要件は、日本国憲法の「専守防衛」に基づき、抑制的である。
①「明白な危険」:自国の「明白な危険」で、他国の「明白な危険」は含まない。
②「代替手段が欠如」
③「必要最小限度」:国際法上、侵害に対する武力行使の「均衡性」の原則からすれば、半歩抑制的。

E 集団的自衛権行使の具体的な事例
E-2 ①日本人を乗せた米国艦船が攻撃を受けた場合:これはマイナーすぎる事例。
E-3 メインの想定すべき事例は、②東シナ海有事、③朝鮮半島有事、④台湾海峡有事。
E-3 近代的軍隊による攻撃でない事例:⑤テロと識別しがたい事例、⑥民間人を装った事実上の武装集団が、日本の領海・領土に大量に押し寄せる事例。
E-4 限界的な事例:⑦南シナ海の中国の攻勢に対し、対潜水艦の哨戒活動、また中国海軍が敷設した機雷の掃海活動をする。
E-5 ⑧安倍首相が例示するペルシャ湾における掃海は、「存立危機事態」でない。集団的自衛権行使の事例に含まれない。

F 「基地と防衛を均衡させてきた安保体制を、普通の同盟に近づけていくことは、安全保障環境の変化を踏まえた時宜を得た判断です」と三浦氏。さらに、「国民が疑義を感じるような、ごまかしの説明や事例は日本の民主主義にとって不健全なだけでなく、日本の安全保障にとっても良いことではない」と述べる。
《評者の感想》:安倍首相が「存立危機事態」、つまり集団的自衛権行使の事態として例示するものを明快に批判し、三浦氏の指摘は正しい。


Ⅶ 安保法制(2):「国際平和共同対処事態」(2015/05/05)
A 地域紛争が対象。これまでは特措法を制定。(※「国際平和共同対処事態」は、かつてのPKO協力法+特措法に相当)
A-2 特措法でなく、常設の基準として恒久法の制定。
A-3 冷戦後では、ソマリア、旧ユーゴ、ルワンダ、スーダン、アフガニスタン、イラク、シリア、リビア、ウクライナなど人道的危機を伴う地域紛争。

B 安倍首相の積極的平和主義は、「平和を作り出すために、時として、武力の行使が必要である」との発想。三浦氏は賛成。
《評者の感想》
(1)「国際紛争を解決する手段として武力行使しない」というのが、日本のスタンス。この本来の平和主義の立場から、国際的な地域紛争への介入は、個別に特措法で判断すればよい。
(2)そもそも日本国民・政治家にヘイトスピーチ容認の雰囲気がある中、「人道」について、外国で語る道義的資格があると言えるのか、疑問である。

C 「国際的な介入が、国連の正式な授権を経たものかどうかという外形的な基準を重視する」のは誤りだと、三浦氏。
C-2 「紛争に介入する」際は、「その介入が平和に資するものかどうか」だけを、判断基準とすると、三浦氏。
C-3 「大国の意向に振り回され、しばしば機能不全に陥る国連」の判断でなく、「日本の民主主義の結果として、日本政府だけが」判断すると、三浦氏。
《評者の感想》
(1)三浦氏は、国連を軽視する。しかし「国連中心主義」は、不十分なのは当然だが、歴史の達成地点であり一つの見識である。
(2)日本の民主主義を重視するなら、国際紛争への介入は、十分に議論がなされる特措法で行うべきである。

D 安全保障論議では「リアルな議論」が必要で、政策決定が「リアルな情報」に基づくべきだと、三浦氏は言う。
《評者の感想》
(1)三浦氏は「リアルな情報」と語り、「憲法解釈」・「歯止め」論偏重を批判する。
(2)しかし特定秘密保護法で、報道の自由・国民の知る権利が危機に瀕し、「リアルな情報」の獲得が阻害されている。三浦氏は、この点を語るべきである。


Ⅷ 5・17大阪都構想の住民投票について(2015/05/14)
A 全体として人口減少が進む日本において、すべての自治体が生き残るのは無理。
A-2 分権的に地方が競い合い、競争に負け、住民サービス劣化、経済の活力喪失の自治体が出るのも過渡期のことで許容される。
《評者の感想》
(1) 「小の虫を殺し大の虫を生かす」との昔からの発想。「すべてのコミュニティーを守る」ことは出来ないというのは、その通りだろう。
(2) しかし「すべての国民を守る」のが民主主義である。三浦氏が、“すべての国民を守ることは出来ない”と言わないことを望む。

B 大阪都構想が、分配に傾斜した発想(=東京や日本全国から富を引っ張ってこようという発想)でなく、大阪が自ら活力を取り戻し、富を作り出すという発想に立つのは、健全。自助・自立の発想。
B-2 道州制は、自助・自立の適切な規模の主体である。

C 維新には現状変更のエネルギーがある。維新は①「マイルドな新自由主義的な気分」の有権者の塊に支えられている。他に、②反エリート主義、③日本や地方の地盤沈下の閉塞感、③大阪ナショナリズムに立脚する。



Ⅸ 大阪都構想アフターノート:住民投票の僅差の否決(2015/05/18)
A 反対派:
①70代以上の有権者が反対。 ②女性が反対。 ③役所や地元産業界の既得権層が反対。
④左派・リベラル勢力:新自由主義的発想、橋下氏のトップダウンのスタイルに嫌悪感。
⑤マイルドな反対意見:橋下氏の手法への批判、漠然とした変化に対する否定的感情。
A-2 賛成派:
いわゆる無党派層の維新支持=マイルドな構造改革層(=新自由主義的気分!)

B 維新敗北の諸原因
①バラマキを行わなかった。都構想のH45年までの効果4500億円をばらまくべきだった。
②恐怖心を動機づけとしなかった。Ex. 大阪都構想がダメになるとひどいことが起こる!
②-2 スキャンダルやネガティヴ・キャンペーンを前面に出してもよかった。
②-3 タウンミーティングやメディアで維新幹部の訴えはクリーンすぎた。
③橋下氏の個人カリスマに頼りすぎた。メッセージの不一貫性など。

C 政権に選択肢がなければならない。
C-2 「統治者であることを観念できる」のは日本では、保守系の指導層・政治家・地方有力者・エリートのみ。
C-3 日本で可能なのは保守系2大政党制のみ。

D 自民党以外で、保守系2大政党の一翼を担いうるのは維新「的」な立場のみ。
D-2 「的」をつけるのは、民主党内の保守陣営を含むため。


Ⅹ 安保法制(3)(2015/05/25)
A 三浦氏は、今般の安保法制について基本的に賛成の立場。但し政府への白紙委任ではない。
《評者の感想》
① 「集団的自衛権の行使容認は、憲法違反である」との主張に対して、三浦氏はどう答えるのか?「憲法違反でない」と答える。
② しかし、今般の安保法制については、最高裁の判断が必要である。
③ それがすぐに無理なら、今般の安保法制が憲法違反かどうかを争点に、衆議院を解散し民意を問うべきである。
④ さらに、憲法9条改正の国民投票を行い、賛成多数で集団的自衛権の行使が容認されてから、今般の安保法制を実現すべきである。

A-2 三浦氏は、今般の安保法制は、日本の安全保障に関連した様々な「事態」を切れ目なく扱っている点が重要とする。現場の指揮官に超法規的判断を押し付けてはいけない。
A-3 「存立危機事態」では、自衛隊の米軍との一体運用が前提。集団的自衛権行使の事態が当然想定される。

B 日本の安全保障に、直接に影響しない「国際平和共同対処事態」は、法的に介入可能でも、政策的に介入すべでない場合の議論を深めるべき。

C 日本の安全保障で今、実質的に残っている歯止めは、非核3原則と、憲法9条第1項の平和主義くらい。
C-2 ①自衛隊を海外派遣しない、②防衛費GDP1%枠、③武器輸出を原則行わない、これらの制約の廃止は、時代の要請で正しい変化。


Ⅹ-2 南シナ海問題
D 南シナ海での公海上の警戒活動・監視活動は、日本のシーレーン防衛の観点から重要な地域なので、個別的自衛権行使の範囲内で活動可能。直ちに集団的自衛権云々の話にならない。
D-2 しかし中国とベトナム・比が具体的に係争する領域に、自衛隊が米軍と出ていけば、日米の艦船は、中国にとって敵となる。
① 人民解放軍は、現場まで必ずしも統制が効かない。日本の艦船に対し、冒険主義的行動に出ることはある。
② 中国指導部が、(a)民衆の「愛国無罪」の感情を押し戻す指導力を発揮するか、or(2)既成事実として利用するか、当の中国自身を含め、誰にもわからない。
③ かくて、最初は集団的自衛権をめぐる事態でなくても、あっという間に「存立危機事態」になりうる。

E 米国のコミットメントが、日本の安全保障の鍵である状態は、当分変わりそうもない。
E-2 内向きになる米国のコミットメントを引き出す代償は、高まる。
E-2 南シナ海において日本が行動に出ることは、今は慎重だが、5年後はわからない。


Ⅹ-3 邦人保護問題
F 考えられるケース
①尖閣諸島海域で、日本の漁船や抗議する市民が、中国船に拘束されたor攻撃・沈められたとすれば、これは「日本国民の生命が根底から覆される明白な危険がある事態」となりうる。
②中国国内の日系企業で、工場占拠され日本人が人質となる。
②-2 この場合、中国が「愛国無罪」の原則を優先したら、日本の選択肢はどうなるか?

F-2 現代の国際法は、外国人保護は領域国の責任とする。
F-3 自国民保護は、民主的に選ばれたリーダーにとって、強いプレッシャー。

G 過去の戦争の多くは、自国民保護の文脈の中で始まり、拡大した。自国民保護が、暴力の連鎖的拡大を通じて、自国民をより大きな危険にさらす結果となった。
G-2 戦前の日本も、大陸における自国民保護の文脈で、戦線を拡大した。


Ⅹ-4 諸変数の共通理解が必要
H 最新の軍事技術、現場の軍事オペレーション、戦争の歴史、国際機関や国際的な世論、各国の国内政治の理解などの変数の共通理解が必要。
H-2 政権の揚げ足を取るだけの野党では、政府や官僚機構は野党を侮り「寄らしむべし、知らしむべからず」となる。
H-3 平和を守り、国民を守るために、様々な事態を想定したリアルな議論が欠かせない。


Ⅺ(補足論稿) 三浦瑠璃「民主国家を好戦的にしないための徴兵制提案」(『文藝春秋SPECIAL 』2014年9月)
A 三浦氏は「国民の意思とは別に、法律家の解釈を守ることで政府の手を縛り、結果的に平和を達成するという発想」を攻撃する。
《評者の感想》
(1)三浦氏は“民主主義とは多数決に無条件に従うこと”で、多数者への批判は、「非民主的」で「国民の意思」に反するとする。安倍政権は一時的に「独裁」できるとの見解である。ありえない見解である。
(2)多数決は、民主主義における妥協の1形態であって、反対者が多数派の決定に問答無用に従うことではない。
(3)国民の「理性」の観点からすれば、永続的に「正しい」決定を求める過程、つまり異なる利害、信念、信仰などの間の共通善を探し続ける永遠の過程が、民主主義である。
(3)-2 その暫定決定が、多数派が提示する「共通善」への一時的信託である。多数派への批判は、民主主義そのものである。三浦氏が、この批判を「非民主的」で「国民の意思」に反すると述べるのは、民主主義の全くの誤解と言える。

B 「戦争に行くことを観念しえない国民」が「安易な戦争を繰返す」と、三浦氏は主張。そして「平和のために徴兵制が必要」と述べる。

《評者の感想》
(1)戦前、「徴兵制」があったのに無謀な「戦争」が起きたことは、「徴兵制が平和をもたらす」との三浦氏の主張を、反駁する。
(1)-2 実際、徴兵制は、国民を好戦的にする。戦前、徴兵制の下で、国民(=兵士)は愛国的・好戦的となった。
(1)-3 徴兵制の下で、300万人以上の軍民の血を流させた戦争が起きたのだから、「平和のために徴兵制が必要」と述べる三浦氏の論理は、“メチャクチャ”である。
(2)「戦争に行くことを観念しえない国民」とは、普通、権力者、国家の指導層(政治家、高級官僚、経済界トップなど主に老人たち)、今であれば多数派の安倍政権の政治家たちである。
(2)-2 前戦に行くのは一般国民(今の日本では現場の若い自衛官)であり、安倍政権の政治家たち(=権力者たち)は、血を流さず好戦的となる。

C 三浦氏は、「徴兵制」にしないと戦争の「コスト」が意識されないと、述べる。
《評者の感想》
(1)これは、国民の理性と、民主主義への愚弄である。国民の理性と民主主義は、戦争の「コスト」計算を当然、理解する。だから、例えば特定秘密保護法で、現実を隠そうとすることこそ、許されない。
(2)徴兵制は、人間の殺害を国家の「交戦権」の一部として、前提・肯定する制度である。徴兵制を、「平和的で、戦争に対し抑制的・自制的」と考える三浦氏の思考は、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の都合の良い推論連鎖である。

D 三浦氏は、志願兵制で、「兵士と市民の分断、共感の欠如が生じる」と指摘する。
《評者の感想》
 この指摘は適切である。しかし、このことと「民主国家を好戦的にしないための徴兵制提案」は、どう関係するのか?「兵士と市民の分断、共感の欠如」の問題は、重要だが、その解決策が直ちに「徴兵制提案」である必然性がない。

E 三浦氏は、次のような指摘もする。
①「兵役には市民を抑圧する部分や民族主義を強化してしまう側面がある。」
②「青年に共同体への奉仕として軍務を呼びかけ、国民教育の効果を狙った徴兵論も垣間見られる。」
③徴兵制は「兵舎での国民教育や軍人精神共有の場」、「ナショナリズムを煽るもの」であってはならない。

《評者の感想》
(1)三浦氏が、「責任をともなう平和」のために、つまり「平和的で、戦争に対し抑制的・自制的」となるために、徴兵制を導入すべきと主張する。しかし今の日本で、それは適切でない。
(1)-2 今の日本では、徴兵制は、①「市民の抑圧」、「民族主義の強化」、②「共同体への奉仕としての軍務」の奨励、「(少)国民教育」の推進、③「軍人精神」鼓舞を、もたらすだけである。

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『本当は怖い!世界名作童話』深層心理研究会、竹書房文庫、2006年、2015年加筆

2015-06-10 15:15:16 | Weblog
Ⅰ シンデレラ(仏、ペロー童話):《解説》
A 中世は継子が多かった。父母の早死にのため。
A-2 また占い師が指示することも多かった。→シンデレラが竈(カマド)の中で寝る。
B 「片靴の女」とは娼婦のこと。
C 王とシンデレラの隠れた性交と、継母殺し!

Ⅱ えんどう豆の上に寝たお姫さま(アンデルセン童話):《解説》
A 子を産ませるため、性感の良い姫を探す。
B 貧乏人の娘が、一芝居うって姫となった。
C 当時、王や王妃はセックスを人目にさらされた。
D みな真っ裸で、一緒に寝ていた。王、侍女、王妃、騎士etc.

Ⅲ 夏の庭と冬の庭(グリム童話)
A 薔薇の花と交換に、獣に娘を与える。
B 獣と娘の新婚生活は、うまく行く。
B-2 獣の庭は、半分が夏、半分が冬!
C 死んだ獣が生き返って、凛々しい騎士となる。
D しかし獣との性愛が、恋しい。
《解説》:異類婚姻譚=族外婚の話。

Ⅳ ジャックと豆の木(イギリス民話)
A 後家の母、妹、ジャックが住む。
A-2 貧乏で、妹を金貨5枚で売る。
A-3 ジャックは、その金貨で、変な爺さんから魔法の豆を買う。
B 生えた豆の木を登り、ジャックは、大男が寝ている間に、袋1杯の金貨を盗む。
C さらに、再び天上に行き、金の卵を産む鶏を盗む。
D ジャック、さらに黄金のハープを盗む。
E ジャックは、お姫様を、妻にもらう。
《解説》:① もともとは、他人の目を眩ます幻術で盗み、生活する者たちの話。Ex. 15C、パリでは「学生にまさる悪党はなし!」と言われた。
② 庶民は盗んで生活した。

Ⅴ おやゆび姫(アンデルセン童話)
A 結婚しないと決めた女が、魔法使いに「子どもがほしい」と頼む。麦から、「おやゆび姫」が生まれる。
A-2 過保護で、おやゆび姫は、ずっと家の中にいる。
B ヒキガエルが出現。おやゆび姫は、ヒキガエルと結婚したくない。
C おやゆび姫の婿選び:「金があるいい男を捕まえる!」と姫。
(1) 凍えたツバメを、おやゆび姫が助け、互いに愛し合うようになる。
(2) 姫を助けてくれたモグラと婚約する。しかし破棄。
D ツバメとおやゆび姫、南の国へ行く。
D-2 おやゆび姫、王に乗り換え、結婚する。ツバメが脅すのでツバメとも関係し続ける。
《解説》:財産相続のための決められた結婚でなく、自由な結婚を望む物語。

Ⅵ 青ひげ(ペロー&グリム童話)
A 領主の髭は青い苔のようで気持ち悪く、誰も結婚しようとしない。
B 二人の姉妹が、城に招待された。
B-2 青ひげは親切で、妹が結婚する。
B-3 しかし、これまで結婚した妃たちは皆、行方不明のうわさ。
C 青ひげの豪華な暮らし。ある日、「2週間出かける」と言う。
C-2 ただし「一番奥の部屋だけは見てはいけない」と言い置いて出る。
D 妹は見てしまう。部屋の壁一面につるされたかつての妃たちの死体。
D-2 青ひげに殺される前に塔に上り「助けて!」と叫ぶ。
D-3 兄二人が青ひげを殺す。
E 妹が青ひげの財産を継ぐ。しかし2度と男を愛することなく、子どもも持たなかった。
《解説》:現実に、仏の「救国の英雄」ジル・ド・レ元帥(15C)は100数十人の子供を性的に凌辱し殺した。

Ⅶ 長靴をはいた猫(ペロー童話)
A 父親が死に、三男が猫を相続。
A-2 猫は、突然、若者の姿に変身。靴がないと奴隷とみなされるので、猫は「長靴がほしい」と三男に頼み、手に入れる。
A-3 ずるがしこい猫で、人食い鬼で魔法使いの大金持ちの領主を、ネズミに化けさせ食べてしまう。
A-4 猫は、三男をネズミに変え、追い払う。
B 猫は、魔法使いの領主の城・領地を奪い、カラバ侯爵として隣国の姫と結婚。めでたし、めでたし。
《解説》:① ヨーロッパの猫信仰(エジプト起源)。
② ヨーロッパの猫は言葉をしゃべる。魔女の「使い魔」。

Ⅷ 赤ずきん(グリム童話):《解説》
A たった一人で森に住むおばあさん。それは「姥捨て」だった。
A-2 「森の民」が老人を殺し、内臓などを狼に食べさせ死体処理。
B 赤ずきんは「口減らし」で森にやられた。異教徒や狼が殺すことをねらい、わざと目立つ格好をさせた。
C 産業革命前、ヨーロッパは冷害&貧しさ。
C-2 16世紀以降、南米からのポテトで食糧事情改善。
D 森の狼とは、ケルト、ゲルマン、ガリアの末裔のドルイド教徒。その神々は、人の心臓、肝臓、大腸を好む。
D-2 腹を割かれ、内臓を取り出されるおばあさんと赤ずきんという別の話もある。
E 人肉食も当時、普通だった。おばあさんの肉を、騙して赤ずきんに食べさせる話もある。

Ⅸ 蜘蛛の糸(インド民話):《解説》
自分の責任は自分でとるという「因果応報」の教え!

Ⅹ 運のいいハンス(グリム童話)
A 7年間の奉公が終り、ハンスは金の塊をもらう。
B ハンスは、それを、毎回、自ら喜んで、自分は「運がいい」と思い、順番に、馬→雄牛→子豚→ガチョウ→砥石→その砥石を泉に落としてしまうが「軽く楽になった!運がいい!」とハンスは喜ぶ→結局ハンスは何も持たず家に帰る。
《解説》:① 騙されたのに「幸せ!」と思うハンス。「負け惜しみ」&「合理化」の物語。「酸っぱいブドウ」の心理。
② 自分のものは「甘いレモン!」と言い聞かせる。

Ⅺ ハーメルンの笛吹き男(ドイツ民話)
A 「ネズミがいなくなったら金貨100枚!」と村人たちが旅の楽士に約束する。
A-2 ネズミを川で溺れさせ退治するが、村人たちは金、払わず。
B 何か月かたち、再び、楽士が現れる。
B-2 笛を吹くと、子どもたちが皆、ついていく。そのまま帰ってこない。
《解説》:① 笛吹き男は、人さらい。子どもたちは奴隷として売られた。
② 当時、戦争が多く、未亡人、未婚の母が多く、女性が男性より多い。
②-2 極限状態の母子家庭の貧しさで飢餓のため、子どもを殺して食べる。
②-3 子どもを売り飛ばすのは、当時の処世術。
③ 子ども十字軍の話か?

Ⅻ 白雪姫(グリム童話)
A 王妃に針が刺さる。魔女の毒が塗られていた。白雪姫の出産後、王妃が死ぬ。
A-2 王が再婚した王妃は、魔女!
B 白雪姫が成長し「世界で一番美しい」と鏡が答える。
B-2 白雪姫は魔女から逃げる。
C 白雪姫は七人の小人の家に住む。
C-2 白雪姫の激しい性欲を満たすため、小人たちはヘトヘト!白雪姫のサディズム的性欲。
D 魔女の毒リンゴを食べ白雪姫は死ぬ。ガラスの棺に白雪姫を、小人たちが入れる。
D-2 王子が棺を城まで運ぶ途中、リンゴのかけらが白雪姫の口から出る。
E 王子と白雪姫の結婚式に招待した魔女を、拷問死させる。
E-2 白雪姫は、それを眺める。
《解説》:① もともとは実の母親が、妬んで白雪姫を殺そうとした。
①-2 実の娘による親殺し。
② ヨーロッパの15-16世紀の魔女狩り旋風!
②-2 魔女として数十万人が処刑された。
②-3 密告が、魔女裁判の発端。
②-4 魔女は、焼けた鉄の靴を履かされる。その後、足が靴から引き出され、焦げた肉が骨から剥がれ、足は白骨になる。

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『奴らを通すな!ヘイトスピーチへのクロスカウンター』山口祐二郎(1985生)、2013年

2015-06-06 22:11:07 | Weblog
A 「右翼VSウヨク」というイベントで、差別主義者たち(=レイシスト)は「右翼怖―い」とつぶやきながらパソコンを開く。目の前にいる人間に直接言わないで、ネット上で誹謗中傷をしているらしい。(62頁)
A-2 彼らは、ホンモノの右翼に対しても、「ゴキブリ左翼は叩き出せ!帰れ!」とののしる。わけが分からない。(64頁)

B 北朝鮮の政権を敵視しようが、授業中の子供たちを脅すやり方はあまりにもえげつない。「差別主義者がやっていることは、弱いものいじめ。右翼は、強い敵に立ち向かう。」(74-75頁)

C 黒い彗星チェ☆ゲバルト氏は「私はマイノリティに対するヘイトスピーチは許さない」と体を張った。(80頁)

D レイシストは、人殺しを煽りながら、自らは行動しない。
D-2 「周りを煽るが、自分ではやらない。安全圏の物言い」と言われると、彼らは「できないから、称える」と居直る。(90-91頁)(127頁)(144頁)
D-3 レイシストのデモは、警察に守られ、警察を利用し、安全を図る。(37頁)

E 2013年、レイシストのデモに「よい朝鮮人も悪い朝鮮人もどちらも殺せ」というプラカードが登場。
E-2 この日、野間易道氏が率いる「レイシストしばき隊」が差別主義者たちの「お散歩」を阻止。(100頁)

F 右翼のカリスマといわれた野村秋介先生も、差別を憎んだ。(104頁)
F-2 「愛国」とは何ら関係のない差別行動を、阻止する。(104頁)

G カウンター行動は「日本の恥!」、「同じ日本人として恥ずかしい!」と、差別主義者に対抗。(117頁)

H レイシストに対しては、「ヘイト豚」と横断幕でカウンター行動。(130頁)

I 在特会の桜井会長を、不動産会社社長伊藤大介氏が、「ヘイトやめろってんだアホ!」と怒鳴りまくる動画あり。(131頁)

J 「男組」若頭・山口祐二郎(2013年)(132頁)

K 在特会側は、反原発グループに対し「反日・左翼!人殺し!」、「蛆虫を叩き出せ!」、「反日勢力を逮捕しろ!」さらに「エッタヒニン!」とコールした。(84-85頁)

L 「日の丸が泣いている。こんな醜い差別デモに駆り出されるような旗ではない。」(150頁)

M 在日コリアンのヘイトスピーチの矛先を、俺たちカウンターに向けさせる。(153頁)

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『日本に絶望している人のための政治入門』第Ⅳ部-1、三浦瑠麗(1980年生)、文春新書、2015年

2015-06-04 10:58:04 | Weblog
第Ⅳ部-1 集団的自衛権行使容認、闘え左翼、Gゼロの世界、中東和平、ウクライナ問題
第1章 集団的自衛権論争の本質:民主主義の多数派安倍政権の憲法解釈変更は、日本の民主主義の不可避的変化の方向!
A 三つの領域:★(1)安全保障、★(2)憲法解釈と立憲主義、★(3)感情的化学反応。

★(1)安全保障論:民主主義国の同盟は相互主義と相互利益が前提!
B 田中均氏(元外務審議官2002)の記事が良い。しかし三浦氏は異なる意見。

C 日本の安全保障の根幹は、日米同盟。
C-2 民主主義国の同盟は相互主義と相互利益が前提。
C-3 戦後の「防衛と基地の交換」と言う立場は、とらない。
C-4 これは米下院軍事委員会の面々の認識。
C-5 軍事的に中国が台頭し、米国には、日本の集団的自衛権行使が必要。

《領域(1)-2海外での武力行使をどう捉えるか?》
D スーダンやシリアのようなむき出しの暴力とどう向き合うか?
D-2 冷戦後の世界の論調の構図:リベラルなタカ派(Liberal Hawk)は暴力には積極的な介入が必要と主張。これに対し伝統的な「国益」の立場から抵抗する保守派。

E 両者が避けてきたのは「誰が介入を行うのか?」「誰が犠牲を払うのか?」の問題。
E-2 自衛隊員の方々の生身の血が流れることについて、共感を持った議論が行われるべき。
E-3 2、3世代にわたって自衛隊員を出す「軍人」一家が多い。

★(2)憲法解釈・立憲主義と集団的自衛権行使
F 「堂々と憲法改正すべき」との主張には、立憲主義を方便とした現状維持がある。
《評者の意見》
「現状維持」のどこが悪いのか?立憲主義は「方便」でない。民主主義の「公理」である。

F-2 憲法を通じて政府を縛り国民の権利を保障する「立憲主義」は、「民主主義」と時に対立する。民主主義に基づく多数派の安倍政権の憲法解釈変更は、日本の民主主義の不可避的変化の方向性を示す。
《評者の意見》
「立憲主義」と「民主主義」が時に対立するなど、ありえない。立憲主義は、民主主義の公理であり、立憲主義の無視は、民主主義の破壊である。

G なお政治的敗者(少数者)にも一定の品位を保たせるというのは、日本政治の良き伝統。Ex. “グレーゾーン事態”解釈の新ガラス細工!

★(3)感情的化学反応
H 国内的には、左右両派の泥仕合。
I 集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更について、中韓が反対し気分が良くないので、日本で多くが賛成に回る。
J 米は、米英の同盟や、米欧の同盟のように本質的信頼関係にならないのかとの感慨あり。

★結論
K 冷戦中なら、非同盟諸国的立場もあり得たが、現在の東アジアでは、日米同盟以外選択肢がない。
《評者の感想》:日中同盟、日露同盟はないということだろう!

L 民主主義国間の同盟は「当たり前」に集団的自衛権の行使を、前提する。
《評者の感想》
(1)日本が独自の道として個別的自衛権の下で日米同盟を模索し、日中友好、日露友好、日韓友好で平和国家を目指すのは、現実的でないのか?
(2)三浦氏は、安倍政権の閣議決定での憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認に賛成である。

M 日本が進む平和国家の道:①国際的な問題の解決につながらない武力行使反対。②国内的不正義に支えられた武力行使反対。
《評者の感想》
(3)国際的紛争の解決のための日本の武力行使に、三浦氏は賛成する。つまり憲法9条改正の立場。
(4)国内的不正義とは、結局は「国会の承認が得られない」ことと同義だろう。


第2章 闘え左翼、ただし正しい戦場で:地方、女性、非正規!
A 2014年、集団的自衛権行使容認の解釈変更:安全保障の世界の常識からすると、同盟国が互いに集団的自衛権を行使することは一般的!
《評者の感想》:三浦氏は、安倍政権の見事な弁護人。内閣による憲法解釈の変更は、立憲主義の枠内であると、考える。

B 集団的自衛権行使容認問題をめぐる左右の泥仕合の原因:
①日本の安全保障環境の悪化への懸念:中国の軍事的台頭の問題。
②保守・右派として隅に追いやられてきたイデオロギー集団の執念。
③一生を捧げてきた運動とアイデンティティ(9条)を守るという左翼の執念。
④「この国のかたち」をめぐる巡る争いへと再定義され、争点の感情化!国賊、軍国主義、戦争、ファシストなど言い合い!
B-2 論点を、字句解釈へ矮小化させ、各勢力が勝利宣言できる手法へ。

C 集団的自衛権行使容認を、国際政治から見る:
①自衛隊はとうの昔から意味ある「戦力」!
②集団的自衛権行使は、日米同盟の当然の帰結。
③敗戦国の再軍備の完成へ至る一過程。当然、波風はある。(中韓)

D 「何事も話せばわかる」という思い込みが民主主義の成熟を妨げる。政治の本質は闘いであり、友敵概念。
D-2 今回の泥仕合は、民主主義の健全に機能した結果である。

E 民主主義を機能させる非民主的要素:
《評者の感想》
(1)ここで「非民主的」とは、「多数決にかかわらない」の意。三浦氏は「民主主義」とは、政治過程的には「多数決」しかありえないとして理解する。この点は確かに、その通りである。
(2)ここで三浦氏が「非民主的」要素と呼ぶものは、実は、原理的に「民主的」要素である。なぜなら民主主義とは、国民主権で、原理的には「全員の合意」でしかありえない、つまり「多数決」は、「全員の合意」の暫定的代替原理にすぎないからである。この点は、三浦氏はわかっていて、「非民主的要素」と呼ぶ。

要素① 「行政」のプロフェッショナリズム。「マスコミ」のプロフェッショナリズム。
要素② サイレントマジョリティーを説得する「多数派の謙虚さ」。
《評者の感想》:この要素②は、もちろん原理的には民主主義の、本質的な構成要素である。

要素③ 「浅薄な一体感信仰」の向こう側にある弱者への優しいまなざし。
《評者の感想》:「一体感」は、多数派が強制するもので、少数派の思想の自由への攻撃である。一体感の「強制」は、民主主義の破壊である。

要素④ 議論を成立させるための、お互いへの信頼感、リスペクト(敬意)、コンパッション(共感)。

要素⑤ 勝った側、つまり多数派は、殲滅戦をしてはならない。
《評者の感想》:これは最重要な原理的に民主主義的な要素である。しかし多数派が自由に法律を決定できるので、少数派への殲滅戦的仕返しは可能。しかし、これは民主主義の否定である。

要素⑥ 負けた側は、民主主義が出した結論を尊重する。

E-2 最後の最後に、平和や人権を守るのは、民主義の下で生きる我々の市民精神。「平和や人権がいかに危うい基盤の上にあるかの自覚」が民主主義を守る。
《評者の感想》:この三浦氏の主張には、心から賛同する。

F 日本は、友敵概念を隠すことに長けた社会。「分断」がない社会。その原因:
《評者の感想》:「分断」がないのは、非常に幸福なことと思う。

原因① 儒教的な「王道」の統治の伝統。
原因② 明治以後の政権による「恩恵」としての近代化。
原因③ 戦後は「西側」で、政治は基本的に「パイの分断」のみ。

G 左翼の戦場は、「歴史認識」、「観念論的な安全保障論」だけではない。
G-2 この国には大きな不正義がある。左翼の正しい戦場はそこ!
①地方:「地方」重視と言っても中央とのパイプを誇る人を潤すだけ。
②女性:女性への差別意識。薄ら笑いをして傍観するだけの男性たち。
③非正規労働者:彼らが老いたとき、大変。


第3章 Gゼロの世界:①局地的な軍事バランスの重要性、②紛争が想定されない環境を作る、③不要な象徴付与はしない
A 米国のリーダーシップの限界:Gゼロ論
A-2 オバマ政権の内政志向で加速。
A-3 ①シリアの武力介入の腰砕け、②中東和平の停滞、③中国の勢力伸長への表面的対応。

B 何もするつもりのない米国が、制裁の火遊びでロシアと敵対するのは、禍根を残す。
C 米国は、(a)国力の相対的衰退、(b)内向き志向加速で、日本やアジアでのコミットメントから手を引くだろう。

D 「Gゼロの世界」の現実からの教訓(ロシア情勢にひきつけて)
D-2教訓(1) 局地的な軍事バランスがものをいう。(Ex. ウクライナ&陸続きの中央アジア):局地紛争では局地的な軍事力が意味をもつ。核抑止は国家存亡の危機の時。
(1)-2 東シナ海において、米国とともに局地的優位を保持する。中国軍に対し、日米2国間の同盟が重要。
(1)-3 (日米)同盟では信頼関係が重要。「日米中“正三角形”論」などと言って、米の不信感を増幅してはいけない。
(1)-4 実質的に同盟を機能させるために、集団的自衛権行使可能の憲法解釈&特定秘密保護法は不可欠。
《評者の感想》:範囲が一般的な「特定秘密保護法」は知る権利を大幅に制限するから問題である。日米同盟に限定した「秘密保護法」にすべき。
(1)-5 米国から見ても「テロの脅威」を別にすると、東シナ海ほど危ない地域はない。

D-3 教訓(2) そもそも紛争が想定されないような環境をいかに作るかが重要。
(2)-2 欧米企業が、ロシアに持つ権益を失いたくないので、ウクライナ問題への欧米の制裁はたいしたものにならない。
(2)-3 グローバル経済下では、中国が日本に有する権益が有望なら、それをリスクにさらすことが出来ない。日中間の紛争リスクが下がる。

D-4 教訓(3) 不必要な象徴付与による事態の拡大を防ぐ。(Ex. 権威主義体制との闘い:米日vs中)
(3)-2 「ロシアのクリミア編入」には今のところ、全世界的な象徴性はない。
(3)-3 ウクライナもロシアも欧米も、クリミアをめぐって熱戦を戦う気はない。
(3)-4 冷戦思考の最大の問題点は、限定的な紛争で玉砕したこと。朝鮮、キューバ、ベトナム、アフガンは、本来、重要な場所でない。

E Gゼロの世界を生きるとは?
E-2 経済的な繁栄と平和のためには、国際社会の課題に取り組むための「枠組」と「リーダー」が必要。(Ex. G1、G2、G7、G8、G20など)
E-3 戦前、米英との協調から距離をとった日本は、自らの頭で考え、破滅した。
E-4 戦後、その反省と冷戦の現実から、日本は自分の頭で考えず、米国の世界観を受け入れ、内向きの論理に拘泥。(Ex. 武器輸出3原則、非核3原則、PKO5原則)

F リベラルな識者が持つ日本の民主主義への不信感&国民の判断への不信感。
《評者の感想》:①日本にクーデターの可能性はないのか?②特高・思想警察の復活の可能性はないのか?

G 「Gゼロの世界」では思考停止せず、他国の利益をふまえた論理の力を持つべき。
Cf. “米国の単純で力強い論理”、“欧州の巧妙な偽善”、“中国のすがすがしいまでの厚顔”
G-2 日本の財産
① 相手の利益を理解する洞察力。
② 相手と利益を共有する土台となる経済力。
③ 「言ったことは行う」、「約束は守る」という信頼感。
G-3 日本人は、米国衰退の今や、Gゼロの世界(=道標のない世界)で、「ナイーブさ」から卒業し、「大人になる」必要がある。(Cf. かつてマッカーサーが、「日本は12歳の少年!」と言った。)


第4章 ガザと中東和平について:イスラエルの民主主義勢力を国際社会は支援せよ
A イスラエルの建国は殺戮や隷属によったのでなく、民主主義の過程にもとづき行われた。
A-2 タカ派のシャロン首相の分離壁によって確かに、自爆テロは減った。
A-3 タカ派の危険は、実現不可能な幻想を抱くこと。

B イスラエルは90年代初頭のオスロ合意以来、撤退戦を戦っている。
B-2 親イスラエル政権をたてることは、レバノンでできなかったように、ファタハとハマスの対立があっても、パレスチナでも出来ない。

C ハマス幹部およびその家族の暗殺は中止すべきである。
D パレスチナの代表と言っても、部族の代表or私的軍団の代表。

E 民主主義国家イスラエルにおいて、パレスチナ人は機会均等をはく奪されている。その憎しみを糧とするテロ組織。
E-2 イスラエルにおける成熟した民主主義を奉じる勢力を、国際社会は支援せよ。


第5章 ロシア/ウクライナについて:仏のマリ介入、NATOのユーゴ介入と、今回のロシアのウクライナ介入は同質!
A 秩序の崩壊に伴うジェノサイドや民族浄化の危険があり、ロシアがウクライナ東部に介入したのは一定の説得力あり。米欧ともそれは理解しているはず。
A-2 プーチンは地域の安定のために働いている指導者。

B 西側の対応の誤り!
B-2 ウクライナ全体の安定と人々の安全が問題の核心であるべき!
B-3 仏オランド政権の旧宗主国としてのマリ介入、かつてのNATOのユーゴ介入と、今回のロシアのウクライナ介入は同質である。

C 外交・軍事の実務家の観点からして、米欧はロシアと戦うとの想定はない。
C-2 相手が自国を滅ぼしに総力戦でやってこない限り「万策尽きた」ということはない。
C-3 クリミア戦争は、①好戦的なナポレオン3世と、②「ロシア恐怖症」にあおられた英国の誤った参戦が、原因。

D ウクライナをめぐる問題は、クリミア戦争の状況に似ている。
D-2 大人になり切れない勢力が無いものねだりする米国現オバマ政権。
D-3 “自由の番人”と口先だけ言って、ロシアの失点を喜んだりするのはやめる。
D-4 政情不安のウクライナの諸民族のためにできる最善のことを探し、米国を諌めよ!


第6章 ロシアのG8追放は禍根を残す:ロシアとの協力の戦略的価値を過少に見積もってはならない
A プーチンは、より大きな悲劇を未然に防ぐというでは、部分的に正しく行動している。
A-2 クリミアの住民投票とロシアへの編入。

B 我々自身の無責任な「冷戦思考」はやめるべきである。
B-2 ロシアとの協力の戦略的価値を過少に見積もってはならない。①シリア、②ポーランド以東の東欧諸国、③中央アジア諸国、④ベトナム、モンゴル、北朝鮮。

C 戦略論のイロハのイ!:紛争のエンドゲームを熟考せずに、ことを起こしてはならない。

D オバマの対ロシア強硬姿勢は、メディアや共和党からの弱腰批判をかわしたいため。
D-2 コソボとクリミアの事例を明確に区別する事例はない。

E オバマはレトリックの人でイメージ戦略を重視するが、偽善主義とも言える。
E-2 確かにイラク戦争、金融危機から米国を救った。
E-3 しかし核軍縮、TPP、中東和平、アジア重視、すべて言葉であって、成果はない。

F 日本の現実主義の専門家の「冷戦ノスタルジー」は誤り。
F-2 安倍政権の毒にも薬にもならない大人の対応は、仕事師的手腕と言える。
F-3 ロシアとの間で、制裁の火遊び、そして敵を作り出してはならない。
F-4 耐え難きを耐え、ソ連との間に平和を結んだ先人への裏切りは、するな!

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