序章 「男」:牧本加奈殺害事件後、性犯罪前歴者・内藤信雄を殺害
内藤信雄、50歳過ぎ、中年男。内藤は29年前、少女2人を暴行、殺害。
2日前、女児殺害事件があった。被害者は牧本加奈、小2.暴行され殺害された。全裸で発見された。
内藤の出所後、すぐに佐田優子(女児・小学生)の暴行・殺害事件が起こる。
男が内藤の喉下を包丁で切り、殺す。
男の体を流れる忌まわしい血。「自分の娘、紗耶(サヤ)を守る」と男。「紗耶、狂おしいほど君を愛している」と男。
第1章
1 日高署刑事・長瀬:昔、小4の時、妹絵美(小1)を暴行殺害される
日高署の刑事、長瀬一樹。長瀬は昔、小4の時、妹(小1)の絵美が暴行、殺害された。その悔しさから警察官となった。
アメリカでは1996年メーガン法で、性犯罪前歴者の情報をインターネットで公開。
2 埼玉県警本部捜査1課刑事・村上
埼玉県警本部捜査1課、村上。妻久美子、娘比奈子3歳。世の中がおかしいと村上は、思う。結婚して家庭を持っていて幼女に性衝動を持つ犯罪者。人間の心がわからなくなる。
2-2 木村正次生首切断事件
坂戸中央公園のゴミ箱に生首。被害者、木村正次の保険証あり。木村の首なし死体が木村のマンションのユニットバスで発見される。
3 男:紗耶を守るのが自分の崇高な使命
男は思う。娘、紗耶(サヤ)はかわいい。妻も若く美しい。孤独な生活を救ってくれた妻と紗耶を守るのが自分の崇高な使命だと男は思う。
男は自宅でコンピューター・プログラム作成の仕事をする。
3-2 男:性犯罪前歴者に底知れない恐怖を植え付けてやる
3日前、牧本加奈の事件。ペドフィリア(幼児性欲)、性倒錯(パラフィリア)の一種。
性犯罪者は常習性が高く何度でも繰り返す。彼らに底知れない恐怖を植え付けてやると男は決意する。自分は地獄に落ちてもいい。
白髪も目立ち始めたみすぼらしい中年男。薄暗い人生に輝く光を与えてくれた妻と娘。
狂おしいほど愛する紗耶を守ると男は思う。
3-3 男:牧本加奈事件後、内藤と木村を殺す
性犯罪前歴者の手帳を男は持つ。
牧本加奈の事件で男は行動を開始。内藤信雄を殺した。(⇒序章)
次に木村正次を殺した。
4 性犯罪前歴者の秋山拓郎
日高署村上・長瀬:牧本加奈事件の捜査で性犯罪前歴者の秋山拓郎から事情聴取。秋山は8年前に4人の小学生を暴行し、懲役7年で出所した。
秋山はへらへら笑い、疑うなら証拠をもってこいと言う。
4-2 日高署・長瀬:妹・絵美暴行殺害事件後の父と母
日高署の長瀬:妹(小1)の絵美を暴行殺害された後、母は発狂。父は、母と離婚。父は刑事事件を扱う弁護士で人権派。被告人の弁護に奔走。
父は離婚後、民事を扱うようになり、やがて若い女性と結婚した。
5 木村の首なし死体の腹にSの文字
埼玉県警本部に木村正次殺害事件捜査本部、設置。
被害者、木村正次の保険証あり。木村の首なし死体の腹にSの文字の傷。犯人の目的は何かと捜査1課刑事、村上が思う。
6 男=サンソン:木村の首切断のDVDを埼玉県警本部等に送付
男は、木村の生首事件の新聞記事が小さすぎる。性犯罪前歴者への警告にならないと思う。男は内藤を殺し、木村も殺した。
男はサンソンを名乗り、木村の首切断の様子を映したDVDを埼玉県警本部、新聞社、雑誌社に送る。
7 日高署・長瀬:妹・絵美の死を考え、妻・春香との間に子供を作らない
日高署・長瀬は女性の暴行を連絡してきた、その友人の女性と結婚した。妻、春香。
長瀬は暴行の現場に踏み込み、こんなクズを拳銃で撃ち殺したいと思った。
妹・絵美の事件のあと発狂した母は通夜の席で棺桶を空けようとし「絵美ちゃん起きて」と叫んだ。
長瀬は、妹・絵美の死のことを考えると、妻・春香との間に子供を作りたくないと思う。
8 生首事件の木村正次:28年前に町田律子(9歳)を強姦・扼殺
生首事件の木村正次は28年前に町田律子(9歳)を強姦・扼殺。裁判で無期懲役。
8-2 サンソンからの犯行声明文
木村正次・首切断事件の犯人から犯行声文が埼玉県警本部に届く。
性犯罪前歴者の殺害は神から与えられた使命、犯罪の抑止、腐った社会の浄化のための生贄。
サンソンと名乗る。サンソン家はパリの死刑執行人の家系。4代目サンソンはギロチンの発明者。シャルル・アンリ・サンソン。ルイ14世、マリー・アントワネットを処刑。フランス革命期に2000人、生涯に3000人を処刑。
8-3 サンソンは警察への挑戦:法治国家ではリンチは許されない
埼玉県警本部刑事・村上:法治国家ではリンチは許されない。警察への挑戦。
犯人サンソンの真意として考えられること。(1)子どもの犠牲拡大の阻止。(2)単なる捜査の撹乱。(3)自己顕示欲に基づく劇場型犯罪。
佐田優子(女児・小学生)の暴行・殺害事件の直後、内藤信雄が殺される。
牧本加奈事件の直後、木村正次・首切断事件が起きる。
サンソンは、子どもが暴行・殺される事件が起きると、その直後、任意の性犯罪前歴者を殺す。
8-4 世論をサンソンの味方にさせてはならない:埼玉県警本部・藤川管理官
埼玉県警本部・藤川管理官:木村正次首切断事件=サンソン事件を担当。第2、第3の模倣範を防がねならない。殺し(私刑)を肯定しかねない犯罪。世論をサンソンの味方にさせてはならない。司法の理念を守らねばならない。
9 男=サンソン:自分を闇から救ってくれた妻そして娘・紗耶
男:かつて性犯罪を起こし、出所した。その暗鬱な日々、紫苑という風俗店の女性と出会う。男は性的に不能だったが紫苑のもとに通う。紫苑は裏切りにあって今の仕事についていた。
男は紫苑にプロポーズした。それが今の妻。自分を闇から救ってくれた妻。そして娘・紗耶が生まれた。
9-2 男=サンソンを脅迫:性犯罪前歴者・伊東昇
男のもとに伊東昇が現れる。伊東は12年前に12人の小・中学生を暴行。妻と子どもがいる。伊東昇が、男を脅迫。男の過去を男の妻と娘・紗耶にバラスと脅迫。
10 伊東昇(性犯罪前歴者)の事件
日高署刑事・長瀬:牧本加奈事件の犯人の可能性がある伊東昇のアパートへ行き事情聴取。伊東昇は宅配便を装って侵入、12人の小・中学生を暴行。両親が共稼ぎ、片親などと調べ、少女たちがひとりでいるのを予め確認。言ったら「殺す」「家を焼く」とナイフで脅す。暴行した少女たちを撮影。懲役15年だが、すでに仮出所。
第2章
1 長瀬(日高署刑事):サンソン事件担当へ
日高署刑事・長瀬(牧本加奈事件担当)、藤川管理官の指示で埼玉県警本部(坂戸署)へ配置換え。木村正次首切断事件=サンソン事件担当へ。
1-2 性犯罪前歴者(内藤、木村)の情報:サンソンはどうやって得たか?
サンソンはどうやって性犯罪前歴者(内藤、木村)の情報を得たのか?
13歳未満の子どもへの性犯罪前歴者の出所情報、法務省が警察庁に提供。昨年度から。警察から性犯罪前歴者の情報が漏れる可能性あり。
2 男=サンソン:伊東昇(性犯罪前歴者)に脅迫され20万円を渡す
男=サンソン:伊東昇に脅迫され20万円を渡し、さらに80万円渡す予定。
3 サンソンがつかまらないことを願う:木村正次に殺された町田律子の兄
日高署:牧本加奈事件の容疑者としてレンタルビデオ店の伊東昇に注目。
木村正次に殺された町田律子の兄、信也(38歳):「サンソンがつかまらないことを願う」と長瀬刑事に言う。
4 村上刑事の懸念:長瀬刑事がサンソンに感情移入してしまうかもしれない
長瀬刑事は木村正次の首が切断されるDVDを見て笑っているように見える。彼はサンソンになりたい。妹・絵美を暴行・殺害した犯人を殺したい。村上刑事の懸念。長瀬刑事がサンソンに感情移入してしまう心配。
埼玉県警本部:村上刑事が藤川管理官に、長瀬をサンソン事件の担当から外せと要求。
5 男=サンソン:伊東昇の首を切り落としSと腹に刻む
八王子市、10歳女児暴行殺害:北沢真由美事件発生。
男=サンソンが思う。「北沢事件の犯人にサンソンの脅威は通じなかった。思い知らせてやる。」
男は残りの金80万円を渡すと性犯罪前歴者・伊東昇のマンションに行く。伊東をウィスキーのビンで殴り殺す。男は伊東の首を絞めるが、ボールペンを肩に差し込まれ肉をえぐられる。伊東の首を切り落としSと腹に刻む。
男は、首を切り落とした直後、自分のペニスがそそり立つことを知る。
愛する紗耶を思い浮かべて欲情を自分で処理する。
6 木村正次の交友関係を調べる:サンソンとの接点はどこか?
サンソンはどのように性犯罪前歴者の氏名・住所を知ったのか?生首事件の木村正次の交友関係を調べるため村上刑事が保護司を訪問する。
7「自分の中にもサンソンがいます」:長瀬刑事
自ら性犯罪被害者の家族でありながら、サンソン事件の捜査に尽力している刑事、長瀬。
サンソンが殺した伊東昇は、牧本加奈事件でマークされていたレンタルビデオ店員。
伊東昇殺害事件=サンソン事件について、長瀬、報道陣から質問される。
「自分の中にもサンソンがいます」と長瀬刑事が答える。
藤川管理官は怒る:私刑は許されない。犯罪は司法が罰する。人を殺し、英雄気取りの犯人。
8 男=サンソン:すでに内藤、木村、伊東を殺す
男=サンソンは神経がすさんでいく。すでに内藤、木村、伊東を殺す。
男は肩の激痛で、抱きついてきた紗耶を突き飛ばしてしまう。
8-2 長瀬絵美(長瀬刑事の妹)を暴行・殺害した小坂浩美:サンソン
男=サンソンは、実は24年前、長瀬絵美(小1、長瀬刑事の妹)を暴行・殺害した男、小坂浩美。懲役17年。すでに出所。
長瀬絵美(小1)はマーガレットの花が好きだった。
9 更生保護施設『ともしびの里』
伊東昇は、牧本加奈事件とは無関係と分かる。
内藤、木村、伊東は更生保護施設『ともしびの里』でかつて出会っている。
長瀬刑事、父・長瀬正樹と絵美の墓参りの日に出会うが、よそよそしい。
10~12 長瀬刑事にサンソンから手紙が来る
「自分の中にもサンソンがいます」と言った長瀬刑事にサンソンから手紙が来る。携帯の番号を知らせれば連絡するとのこと。
13 長瀬正樹:内藤信雄を弁護し無期懲役とする
長瀬刑事の父、長瀬正樹は30年前、2人の幼女を暴行・殺害した内藤信雄を弁護。求刑は死刑だったが、長瀬正樹の弁護で無期懲役(心神耗弱のため)となる。神様にも勝ると内藤はこの弁護士に感謝。
その6年後、弁護士・長瀬正樹の娘絵美(小1)が暴行・殺害された。
14 牧本加奈殺害事件の容疑者:逮捕
牧本加奈殺害事件の容疑者が捕まる。19歳の学生。
14-2~18 静岡で女児(小3)の暴行・殺人事件
静岡で女児(小3)の暴行・殺人事件が新たに起きる。
更生保護施設『ともしびの里』関係の性犯罪前歴者がサンソンの攻撃の的になるので埼玉県警本部が警護。
長瀬絵美(小1)暴行・殺害事件の小坂浩美も警護の対象となる。
新たな女児(小3)の暴行・殺人事件が静岡で起きたので、明日、小坂浩美を抹殺するとサンソン。サンソンは実は小坂浩美自身。そして長瀬刑事の願いもかなえるとサンソン。
19~22 サンソンからのメール
長瀬刑事の携帯にサンソンから小坂浩美を拉致したとのメールが入る。
23 サンソンは死なない
長瀬刑事が小坂浩美を発見する。
小坂浩美が、自分がサンソンだという。そして長瀬刑事が自分を殺し、首を切断し、腹にSと刻めば、サンソンが小坂浩美を殺したことになる。
長瀬刑事が疑われることはない。サンソンから小坂浩美を拉致したとのメールが長瀬刑事の携帯にあるから。
小坂浩美の妻と紗耶が世間から非難されることはない。小坂浩美はサンソンに殺された被害者なのだから。
長瀬刑事は小坂浩美を殺し復讐が完成する。
サンソンはどこかに姿を消す。しかし生き残ることとなる。永遠に性犯罪前歴者を威嚇し続ける。
「サンソンは死なない、サンソンはいつまでもお前たちを見ている」と小坂浩美が言う。
23-2 長瀬刑事がサンソン=小坂浩美を殺す
長瀬刑事は迷う。本部に連絡しサンソン=小坂浩美を司法の場で裁くべきだと。
ところがサンソン=小坂浩美が言う。「5歳になる紗耶を見るとペニスが勃起する。絵美ちゃんの首を絞めたときの柔らかな感触を思い出しながら自分の手で射精する」と。
長瀬は、サンソン=小坂浩美の提案に従う。彼をロープで絞め殺し、首を切断し、腹にSと刻む。
終章
長瀬刑事から本部に、殺害された小坂浩美を発見したと連絡。
サンソンによる小坂浩美(長瀬絵美暴行・殺害犯)首切断事件の後、長瀬刑事は警察を辞めた。防犯機器を扱う小さな会社に勤める。
《評者の感想》
ペドフィリア(幼児性欲)、性倒錯(パラフィリア)はすさまじい。小坂浩美は殺人するときに勃起する。娘・紗耶に勃起する。狂おしいほど紗耶を愛する。
小坂浩美は殺人後の勃起したペニスを、娘・紗耶を思い出しながら、自分の手で射精させる。
彼は妻にも娘にも、今の幸せを感謝する。自分が破滅に向かう衝動を持つことを彼は知っている。
彼は自分を殺させる。
しかも紗耶を守るためには、サンソンとして永遠に生き続けねばならない。
その協力者が長瀬刑事だった。長瀬刑事が自分に報復し殺したいと思う情念を、サンソン=小坂浩美は利用する。
一方で狂気・衝動、他方で冷徹な計算=合理性。
サンソンの勝利。狂気・衝動に仕える合理性の勝利。合理性そのものはニヒリズムである。
狂気・衝動が目的を定立する。定立された目的が合理的に実現される。合理性そのものはいかなる目的にも仕える。ニヒルな理性。
内藤信雄、50歳過ぎ、中年男。内藤は29年前、少女2人を暴行、殺害。
2日前、女児殺害事件があった。被害者は牧本加奈、小2.暴行され殺害された。全裸で発見された。
内藤の出所後、すぐに佐田優子(女児・小学生)の暴行・殺害事件が起こる。
男が内藤の喉下を包丁で切り、殺す。
男の体を流れる忌まわしい血。「自分の娘、紗耶(サヤ)を守る」と男。「紗耶、狂おしいほど君を愛している」と男。
第1章
1 日高署刑事・長瀬:昔、小4の時、妹絵美(小1)を暴行殺害される
日高署の刑事、長瀬一樹。長瀬は昔、小4の時、妹(小1)の絵美が暴行、殺害された。その悔しさから警察官となった。
アメリカでは1996年メーガン法で、性犯罪前歴者の情報をインターネットで公開。
2 埼玉県警本部捜査1課刑事・村上
埼玉県警本部捜査1課、村上。妻久美子、娘比奈子3歳。世の中がおかしいと村上は、思う。結婚して家庭を持っていて幼女に性衝動を持つ犯罪者。人間の心がわからなくなる。
2-2 木村正次生首切断事件
坂戸中央公園のゴミ箱に生首。被害者、木村正次の保険証あり。木村の首なし死体が木村のマンションのユニットバスで発見される。
3 男:紗耶を守るのが自分の崇高な使命
男は思う。娘、紗耶(サヤ)はかわいい。妻も若く美しい。孤独な生活を救ってくれた妻と紗耶を守るのが自分の崇高な使命だと男は思う。
男は自宅でコンピューター・プログラム作成の仕事をする。
3-2 男:性犯罪前歴者に底知れない恐怖を植え付けてやる
3日前、牧本加奈の事件。ペドフィリア(幼児性欲)、性倒錯(パラフィリア)の一種。
性犯罪者は常習性が高く何度でも繰り返す。彼らに底知れない恐怖を植え付けてやると男は決意する。自分は地獄に落ちてもいい。
白髪も目立ち始めたみすぼらしい中年男。薄暗い人生に輝く光を与えてくれた妻と娘。
狂おしいほど愛する紗耶を守ると男は思う。
3-3 男:牧本加奈事件後、内藤と木村を殺す
性犯罪前歴者の手帳を男は持つ。
牧本加奈の事件で男は行動を開始。内藤信雄を殺した。(⇒序章)
次に木村正次を殺した。
4 性犯罪前歴者の秋山拓郎
日高署村上・長瀬:牧本加奈事件の捜査で性犯罪前歴者の秋山拓郎から事情聴取。秋山は8年前に4人の小学生を暴行し、懲役7年で出所した。
秋山はへらへら笑い、疑うなら証拠をもってこいと言う。
4-2 日高署・長瀬:妹・絵美暴行殺害事件後の父と母
日高署の長瀬:妹(小1)の絵美を暴行殺害された後、母は発狂。父は、母と離婚。父は刑事事件を扱う弁護士で人権派。被告人の弁護に奔走。
父は離婚後、民事を扱うようになり、やがて若い女性と結婚した。
5 木村の首なし死体の腹にSの文字
埼玉県警本部に木村正次殺害事件捜査本部、設置。
被害者、木村正次の保険証あり。木村の首なし死体の腹にSの文字の傷。犯人の目的は何かと捜査1課刑事、村上が思う。
6 男=サンソン:木村の首切断のDVDを埼玉県警本部等に送付
男は、木村の生首事件の新聞記事が小さすぎる。性犯罪前歴者への警告にならないと思う。男は内藤を殺し、木村も殺した。
男はサンソンを名乗り、木村の首切断の様子を映したDVDを埼玉県警本部、新聞社、雑誌社に送る。
7 日高署・長瀬:妹・絵美の死を考え、妻・春香との間に子供を作らない
日高署・長瀬は女性の暴行を連絡してきた、その友人の女性と結婚した。妻、春香。
長瀬は暴行の現場に踏み込み、こんなクズを拳銃で撃ち殺したいと思った。
妹・絵美の事件のあと発狂した母は通夜の席で棺桶を空けようとし「絵美ちゃん起きて」と叫んだ。
長瀬は、妹・絵美の死のことを考えると、妻・春香との間に子供を作りたくないと思う。
8 生首事件の木村正次:28年前に町田律子(9歳)を強姦・扼殺
生首事件の木村正次は28年前に町田律子(9歳)を強姦・扼殺。裁判で無期懲役。
8-2 サンソンからの犯行声明文
木村正次・首切断事件の犯人から犯行声文が埼玉県警本部に届く。
性犯罪前歴者の殺害は神から与えられた使命、犯罪の抑止、腐った社会の浄化のための生贄。
サンソンと名乗る。サンソン家はパリの死刑執行人の家系。4代目サンソンはギロチンの発明者。シャルル・アンリ・サンソン。ルイ14世、マリー・アントワネットを処刑。フランス革命期に2000人、生涯に3000人を処刑。
8-3 サンソンは警察への挑戦:法治国家ではリンチは許されない
埼玉県警本部刑事・村上:法治国家ではリンチは許されない。警察への挑戦。
犯人サンソンの真意として考えられること。(1)子どもの犠牲拡大の阻止。(2)単なる捜査の撹乱。(3)自己顕示欲に基づく劇場型犯罪。
佐田優子(女児・小学生)の暴行・殺害事件の直後、内藤信雄が殺される。
牧本加奈事件の直後、木村正次・首切断事件が起きる。
サンソンは、子どもが暴行・殺される事件が起きると、その直後、任意の性犯罪前歴者を殺す。
8-4 世論をサンソンの味方にさせてはならない:埼玉県警本部・藤川管理官
埼玉県警本部・藤川管理官:木村正次首切断事件=サンソン事件を担当。第2、第3の模倣範を防がねならない。殺し(私刑)を肯定しかねない犯罪。世論をサンソンの味方にさせてはならない。司法の理念を守らねばならない。
9 男=サンソン:自分を闇から救ってくれた妻そして娘・紗耶
男:かつて性犯罪を起こし、出所した。その暗鬱な日々、紫苑という風俗店の女性と出会う。男は性的に不能だったが紫苑のもとに通う。紫苑は裏切りにあって今の仕事についていた。
男は紫苑にプロポーズした。それが今の妻。自分を闇から救ってくれた妻。そして娘・紗耶が生まれた。
9-2 男=サンソンを脅迫:性犯罪前歴者・伊東昇
男のもとに伊東昇が現れる。伊東は12年前に12人の小・中学生を暴行。妻と子どもがいる。伊東昇が、男を脅迫。男の過去を男の妻と娘・紗耶にバラスと脅迫。
10 伊東昇(性犯罪前歴者)の事件
日高署刑事・長瀬:牧本加奈事件の犯人の可能性がある伊東昇のアパートへ行き事情聴取。伊東昇は宅配便を装って侵入、12人の小・中学生を暴行。両親が共稼ぎ、片親などと調べ、少女たちがひとりでいるのを予め確認。言ったら「殺す」「家を焼く」とナイフで脅す。暴行した少女たちを撮影。懲役15年だが、すでに仮出所。
第2章
1 長瀬(日高署刑事):サンソン事件担当へ
日高署刑事・長瀬(牧本加奈事件担当)、藤川管理官の指示で埼玉県警本部(坂戸署)へ配置換え。木村正次首切断事件=サンソン事件担当へ。
1-2 性犯罪前歴者(内藤、木村)の情報:サンソンはどうやって得たか?
サンソンはどうやって性犯罪前歴者(内藤、木村)の情報を得たのか?
13歳未満の子どもへの性犯罪前歴者の出所情報、法務省が警察庁に提供。昨年度から。警察から性犯罪前歴者の情報が漏れる可能性あり。
2 男=サンソン:伊東昇(性犯罪前歴者)に脅迫され20万円を渡す
男=サンソン:伊東昇に脅迫され20万円を渡し、さらに80万円渡す予定。
3 サンソンがつかまらないことを願う:木村正次に殺された町田律子の兄
日高署:牧本加奈事件の容疑者としてレンタルビデオ店の伊東昇に注目。
木村正次に殺された町田律子の兄、信也(38歳):「サンソンがつかまらないことを願う」と長瀬刑事に言う。
4 村上刑事の懸念:長瀬刑事がサンソンに感情移入してしまうかもしれない
長瀬刑事は木村正次の首が切断されるDVDを見て笑っているように見える。彼はサンソンになりたい。妹・絵美を暴行・殺害した犯人を殺したい。村上刑事の懸念。長瀬刑事がサンソンに感情移入してしまう心配。
埼玉県警本部:村上刑事が藤川管理官に、長瀬をサンソン事件の担当から外せと要求。
5 男=サンソン:伊東昇の首を切り落としSと腹に刻む
八王子市、10歳女児暴行殺害:北沢真由美事件発生。
男=サンソンが思う。「北沢事件の犯人にサンソンの脅威は通じなかった。思い知らせてやる。」
男は残りの金80万円を渡すと性犯罪前歴者・伊東昇のマンションに行く。伊東をウィスキーのビンで殴り殺す。男は伊東の首を絞めるが、ボールペンを肩に差し込まれ肉をえぐられる。伊東の首を切り落としSと腹に刻む。
男は、首を切り落とした直後、自分のペニスがそそり立つことを知る。
愛する紗耶を思い浮かべて欲情を自分で処理する。
6 木村正次の交友関係を調べる:サンソンとの接点はどこか?
サンソンはどのように性犯罪前歴者の氏名・住所を知ったのか?生首事件の木村正次の交友関係を調べるため村上刑事が保護司を訪問する。
7「自分の中にもサンソンがいます」:長瀬刑事
自ら性犯罪被害者の家族でありながら、サンソン事件の捜査に尽力している刑事、長瀬。
サンソンが殺した伊東昇は、牧本加奈事件でマークされていたレンタルビデオ店員。
伊東昇殺害事件=サンソン事件について、長瀬、報道陣から質問される。
「自分の中にもサンソンがいます」と長瀬刑事が答える。
藤川管理官は怒る:私刑は許されない。犯罪は司法が罰する。人を殺し、英雄気取りの犯人。
8 男=サンソン:すでに内藤、木村、伊東を殺す
男=サンソンは神経がすさんでいく。すでに内藤、木村、伊東を殺す。
男は肩の激痛で、抱きついてきた紗耶を突き飛ばしてしまう。
8-2 長瀬絵美(長瀬刑事の妹)を暴行・殺害した小坂浩美:サンソン
男=サンソンは、実は24年前、長瀬絵美(小1、長瀬刑事の妹)を暴行・殺害した男、小坂浩美。懲役17年。すでに出所。
長瀬絵美(小1)はマーガレットの花が好きだった。
9 更生保護施設『ともしびの里』
伊東昇は、牧本加奈事件とは無関係と分かる。
内藤、木村、伊東は更生保護施設『ともしびの里』でかつて出会っている。
長瀬刑事、父・長瀬正樹と絵美の墓参りの日に出会うが、よそよそしい。
10~12 長瀬刑事にサンソンから手紙が来る
「自分の中にもサンソンがいます」と言った長瀬刑事にサンソンから手紙が来る。携帯の番号を知らせれば連絡するとのこと。
13 長瀬正樹:内藤信雄を弁護し無期懲役とする
長瀬刑事の父、長瀬正樹は30年前、2人の幼女を暴行・殺害した内藤信雄を弁護。求刑は死刑だったが、長瀬正樹の弁護で無期懲役(心神耗弱のため)となる。神様にも勝ると内藤はこの弁護士に感謝。
その6年後、弁護士・長瀬正樹の娘絵美(小1)が暴行・殺害された。
14 牧本加奈殺害事件の容疑者:逮捕
牧本加奈殺害事件の容疑者が捕まる。19歳の学生。
14-2~18 静岡で女児(小3)の暴行・殺人事件
静岡で女児(小3)の暴行・殺人事件が新たに起きる。
更生保護施設『ともしびの里』関係の性犯罪前歴者がサンソンの攻撃の的になるので埼玉県警本部が警護。
長瀬絵美(小1)暴行・殺害事件の小坂浩美も警護の対象となる。
新たな女児(小3)の暴行・殺人事件が静岡で起きたので、明日、小坂浩美を抹殺するとサンソン。サンソンは実は小坂浩美自身。そして長瀬刑事の願いもかなえるとサンソン。
19~22 サンソンからのメール
長瀬刑事の携帯にサンソンから小坂浩美を拉致したとのメールが入る。
23 サンソンは死なない
長瀬刑事が小坂浩美を発見する。
小坂浩美が、自分がサンソンだという。そして長瀬刑事が自分を殺し、首を切断し、腹にSと刻めば、サンソンが小坂浩美を殺したことになる。
長瀬刑事が疑われることはない。サンソンから小坂浩美を拉致したとのメールが長瀬刑事の携帯にあるから。
小坂浩美の妻と紗耶が世間から非難されることはない。小坂浩美はサンソンに殺された被害者なのだから。
長瀬刑事は小坂浩美を殺し復讐が完成する。
サンソンはどこかに姿を消す。しかし生き残ることとなる。永遠に性犯罪前歴者を威嚇し続ける。
「サンソンは死なない、サンソンはいつまでもお前たちを見ている」と小坂浩美が言う。
23-2 長瀬刑事がサンソン=小坂浩美を殺す
長瀬刑事は迷う。本部に連絡しサンソン=小坂浩美を司法の場で裁くべきだと。
ところがサンソン=小坂浩美が言う。「5歳になる紗耶を見るとペニスが勃起する。絵美ちゃんの首を絞めたときの柔らかな感触を思い出しながら自分の手で射精する」と。
長瀬は、サンソン=小坂浩美の提案に従う。彼をロープで絞め殺し、首を切断し、腹にSと刻む。
終章
長瀬刑事から本部に、殺害された小坂浩美を発見したと連絡。
サンソンによる小坂浩美(長瀬絵美暴行・殺害犯)首切断事件の後、長瀬刑事は警察を辞めた。防犯機器を扱う小さな会社に勤める。
《評者の感想》
ペドフィリア(幼児性欲)、性倒錯(パラフィリア)はすさまじい。小坂浩美は殺人するときに勃起する。娘・紗耶に勃起する。狂おしいほど紗耶を愛する。
小坂浩美は殺人後の勃起したペニスを、娘・紗耶を思い出しながら、自分の手で射精させる。
彼は妻にも娘にも、今の幸せを感謝する。自分が破滅に向かう衝動を持つことを彼は知っている。
彼は自分を殺させる。
しかも紗耶を守るためには、サンソンとして永遠に生き続けねばならない。
その協力者が長瀬刑事だった。長瀬刑事が自分に報復し殺したいと思う情念を、サンソン=小坂浩美は利用する。
一方で狂気・衝動、他方で冷徹な計算=合理性。
サンソンの勝利。狂気・衝動に仕える合理性の勝利。合理性そのものはニヒリズムである。
狂気・衝動が目的を定立する。定立された目的が合理的に実現される。合理性そのものはいかなる目的にも仕える。ニヒルな理性。