宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『闇の底』薬丸岳(ヤクマルガク)(1969生)、2006年、講談社文庫

2011-10-25 13:44:40 | Weblog
  序章 「男」:牧本加奈殺害事件後、性犯罪前歴者・内藤信雄を殺害
 内藤信雄、50歳過ぎ、中年男。内藤は29年前、少女2人を暴行、殺害。
 2日前、女児殺害事件があった。被害者は牧本加奈、小2.暴行され殺害された。全裸で発見された。
 内藤の出所後、すぐに佐田優子(女児・小学生)の暴行・殺害事件が起こる。
 男が内藤の喉下を包丁で切り、殺す。
 男の体を流れる忌まわしい血。「自分の娘、紗耶(サヤ)を守る」と男。「紗耶、狂おしいほど君を愛している」と男。

  第1章
   1 日高署刑事・長瀬:昔、小4の時、妹絵美(小1)を暴行殺害される
 日高署の刑事、長瀬一樹。長瀬は昔、小4の時、妹(小1)の絵美が暴行、殺害された。その悔しさから警察官となった。
 アメリカでは1996年メーガン法で、性犯罪前歴者の情報をインターネットで公開。

   2 埼玉県警本部捜査1課刑事・村上
 埼玉県警本部捜査1課、村上。妻久美子、娘比奈子3歳。世の中がおかしいと村上は、思う。結婚して家庭を持っていて幼女に性衝動を持つ犯罪者。人間の心がわからなくなる。

   2-2 木村正次生首切断事件
 坂戸中央公園のゴミ箱に生首。被害者、木村正次の保険証あり。木村の首なし死体が木村のマンションのユニットバスで発見される。

   3 男:紗耶を守るのが自分の崇高な使命
 男は思う。娘、紗耶(サヤ)はかわいい。妻も若く美しい。孤独な生活を救ってくれた妻と紗耶を守るのが自分の崇高な使命だと男は思う。
 男は自宅でコンピューター・プログラム作成の仕事をする。

   3-2 男:性犯罪前歴者に底知れない恐怖を植え付けてやる
 3日前、牧本加奈の事件。ペドフィリア(幼児性欲)、性倒錯(パラフィリア)の一種。
 性犯罪者は常習性が高く何度でも繰り返す。彼らに底知れない恐怖を植え付けてやると男は決意する。自分は地獄に落ちてもいい。
 白髪も目立ち始めたみすぼらしい中年男。薄暗い人生に輝く光を与えてくれた妻と娘。
 狂おしいほど愛する紗耶を守ると男は思う。

   3-3 男:牧本加奈事件後、内藤と木村を殺す
 性犯罪前歴者の手帳を男は持つ。
 牧本加奈の事件で男は行動を開始。内藤信雄を殺した。(⇒序章)
 次に木村正次を殺した。

   4 性犯罪前歴者の秋山拓郎
 日高署村上・長瀬:牧本加奈事件の捜査で性犯罪前歴者の秋山拓郎から事情聴取。秋山は8年前に4人の小学生を暴行し、懲役7年で出所した。
 秋山はへらへら笑い、疑うなら証拠をもってこいと言う。

   4-2 日高署・長瀬:妹・絵美暴行殺害事件後の父と母
 日高署の長瀬:妹(小1)の絵美を暴行殺害された後、母は発狂。父は、母と離婚。父は刑事事件を扱う弁護士で人権派。被告人の弁護に奔走。
 父は離婚後、民事を扱うようになり、やがて若い女性と結婚した。

   5 木村の首なし死体の腹にSの文字
 埼玉県警本部に木村正次殺害事件捜査本部、設置。
 被害者、木村正次の保険証あり。木村の首なし死体の腹にSの文字の傷。犯人の目的は何かと捜査1課刑事、村上が思う。

   6 男=サンソン:木村の首切断のDVDを埼玉県警本部等に送付
 男は、木村の生首事件の新聞記事が小さすぎる。性犯罪前歴者への警告にならないと思う。男は内藤を殺し、木村も殺した。
 男はサンソンを名乗り、木村の首切断の様子を映したDVDを埼玉県警本部、新聞社、雑誌社に送る。

   7 日高署・長瀬:妹・絵美の死を考え、妻・春香との間に子供を作らない
 日高署・長瀬は女性の暴行を連絡してきた、その友人の女性と結婚した。妻、春香。
 長瀬は暴行の現場に踏み込み、こんなクズを拳銃で撃ち殺したいと思った。
 妹・絵美の事件のあと発狂した母は通夜の席で棺桶を空けようとし「絵美ちゃん起きて」と叫んだ。
 長瀬は、妹・絵美の死のことを考えると、妻・春香との間に子供を作りたくないと思う。

   8 生首事件の木村正次:28年前に町田律子(9歳)を強姦・扼殺
 生首事件の木村正次は28年前に町田律子(9歳)を強姦・扼殺。裁判で無期懲役。
  
   8-2 サンソンからの犯行声明文
 木村正次・首切断事件の犯人から犯行声文が埼玉県警本部に届く。
 性犯罪前歴者の殺害は神から与えられた使命、犯罪の抑止、腐った社会の浄化のための生贄。
 サンソンと名乗る。サンソン家はパリの死刑執行人の家系。4代目サンソンはギロチンの発明者。シャルル・アンリ・サンソン。ルイ14世、マリー・アントワネットを処刑。フランス革命期に2000人、生涯に3000人を処刑。

   8-3  サンソンは警察への挑戦:法治国家ではリンチは許されない
 埼玉県警本部刑事・村上:法治国家ではリンチは許されない。警察への挑戦。
 犯人サンソンの真意として考えられること。(1)子どもの犠牲拡大の阻止。(2)単なる捜査の撹乱。(3)自己顕示欲に基づく劇場型犯罪。
 佐田優子(女児・小学生)の暴行・殺害事件の直後、内藤信雄が殺される。
 牧本加奈事件の直後、木村正次・首切断事件が起きる。
 サンソンは、子どもが暴行・殺される事件が起きると、その直後、任意の性犯罪前歴者を殺す。

   8-4 世論をサンソンの味方にさせてはならない:埼玉県警本部・藤川管理官
 埼玉県警本部・藤川管理官:木村正次首切断事件=サンソン事件を担当。第2、第3の模倣範を防がねならない。殺し(私刑)を肯定しかねない犯罪。世論をサンソンの味方にさせてはならない。司法の理念を守らねばならない。

   9 男=サンソン:自分を闇から救ってくれた妻そして娘・紗耶
 男:かつて性犯罪を起こし、出所した。その暗鬱な日々、紫苑という風俗店の女性と出会う。男は性的に不能だったが紫苑のもとに通う。紫苑は裏切りにあって今の仕事についていた。
 男は紫苑にプロポーズした。それが今の妻。自分を闇から救ってくれた妻。そして娘・紗耶が生まれた。

   9-2 男=サンソンを脅迫:性犯罪前歴者・伊東昇
 男のもとに伊東昇が現れる。伊東は12年前に12人の小・中学生を暴行。妻と子どもがいる。伊東昇が、男を脅迫。男の過去を男の妻と娘・紗耶にバラスと脅迫。

   10 伊東昇(性犯罪前歴者)の事件
 日高署刑事・長瀬:牧本加奈事件の犯人の可能性がある伊東昇のアパートへ行き事情聴取。伊東昇は宅配便を装って侵入、12人の小・中学生を暴行。両親が共稼ぎ、片親などと調べ、少女たちがひとりでいるのを予め確認。言ったら「殺す」「家を焼く」とナイフで脅す。暴行した少女たちを撮影。懲役15年だが、すでに仮出所。

  第2章
   1 長瀬(日高署刑事):サンソン事件担当へ
 日高署刑事・長瀬(牧本加奈事件担当)、藤川管理官の指示で埼玉県警本部(坂戸署)へ配置換え。木村正次首切断事件=サンソン事件担当へ。

   1-2 性犯罪前歴者(内藤、木村)の情報:サンソンはどうやって得たか?
 サンソンはどうやって性犯罪前歴者(内藤、木村)の情報を得たのか?
 13歳未満の子どもへの性犯罪前歴者の出所情報、法務省が警察庁に提供。昨年度から。警察から性犯罪前歴者の情報が漏れる可能性あり。

   2 男=サンソン:伊東昇(性犯罪前歴者)に脅迫され20万円を渡す
 男=サンソン:伊東昇に脅迫され20万円を渡し、さらに80万円渡す予定。

   3 サンソンがつかまらないことを願う:木村正次に殺された町田律子の兄
 日高署:牧本加奈事件の容疑者としてレンタルビデオ店の伊東昇に注目。
 木村正次に殺された町田律子の兄、信也(38歳):「サンソンがつかまらないことを願う」と長瀬刑事に言う。

   4 村上刑事の懸念:長瀬刑事がサンソンに感情移入してしまうかもしれない
 長瀬刑事は木村正次の首が切断されるDVDを見て笑っているように見える。彼はサンソンになりたい。妹・絵美を暴行・殺害した犯人を殺したい。村上刑事の懸念。長瀬刑事がサンソンに感情移入してしまう心配。
 埼玉県警本部:村上刑事が藤川管理官に、長瀬をサンソン事件の担当から外せと要求。

   5 男=サンソン:伊東昇の首を切り落としSと腹に刻む
 八王子市、10歳女児暴行殺害:北沢真由美事件発生。
 男=サンソンが思う。「北沢事件の犯人にサンソンの脅威は通じなかった。思い知らせてやる。」
 男は残りの金80万円を渡すと性犯罪前歴者・伊東昇のマンションに行く。伊東をウィスキーのビンで殴り殺す。男は伊東の首を絞めるが、ボールペンを肩に差し込まれ肉をえぐられる。伊東の首を切り落としSと腹に刻む。
 男は、首を切り落とした直後、自分のペニスがそそり立つことを知る。
 愛する紗耶を思い浮かべて欲情を自分で処理する。

   6 木村正次の交友関係を調べる:サンソンとの接点はどこか?
 サンソンはどのように性犯罪前歴者の氏名・住所を知ったのか?生首事件の木村正次の交友関係を調べるため村上刑事が保護司を訪問する。
 
   7「自分の中にもサンソンがいます」:長瀬刑事
 自ら性犯罪被害者の家族でありながら、サンソン事件の捜査に尽力している刑事、長瀬。
 サンソンが殺した伊東昇は、牧本加奈事件でマークされていたレンタルビデオ店員。
 伊東昇殺害事件=サンソン事件について、長瀬、報道陣から質問される。
 「自分の中にもサンソンがいます」と長瀬刑事が答える。
 藤川管理官は怒る:私刑は許されない。犯罪は司法が罰する。人を殺し、英雄気取りの犯人。

   8 男=サンソン:すでに内藤、木村、伊東を殺す
 男=サンソンは神経がすさんでいく。すでに内藤、木村、伊東を殺す。
 男は肩の激痛で、抱きついてきた紗耶を突き飛ばしてしまう。

   8-2 長瀬絵美(長瀬刑事の妹)を暴行・殺害した小坂浩美:サンソン
 男=サンソンは、実は24年前、長瀬絵美(小1、長瀬刑事の妹)を暴行・殺害した男、小坂浩美。懲役17年。すでに出所。
 長瀬絵美(小1)はマーガレットの花が好きだった。

   9 更生保護施設『ともしびの里』
 伊東昇は、牧本加奈事件とは無関係と分かる。
 内藤、木村、伊東は更生保護施設『ともしびの里』でかつて出会っている。
 長瀬刑事、父・長瀬正樹と絵美の墓参りの日に出会うが、よそよそしい。

   10~12 長瀬刑事にサンソンから手紙が来る
 「自分の中にもサンソンがいます」と言った長瀬刑事にサンソンから手紙が来る。携帯の番号を知らせれば連絡するとのこと。

   13 長瀬正樹:内藤信雄を弁護し無期懲役とする
 長瀬刑事の父、長瀬正樹は30年前、2人の幼女を暴行・殺害した内藤信雄を弁護。求刑は死刑だったが、長瀬正樹の弁護で無期懲役(心神耗弱のため)となる。神様にも勝ると内藤はこの弁護士に感謝。
 その6年後、弁護士・長瀬正樹の娘絵美(小1)が暴行・殺害された。

   14 牧本加奈殺害事件の容疑者:逮捕
 牧本加奈殺害事件の容疑者が捕まる。19歳の学生。
   
   14-2~18 静岡で女児(小3)の暴行・殺人事件
 静岡で女児(小3)の暴行・殺人事件が新たに起きる。
 更生保護施設『ともしびの里』関係の性犯罪前歴者がサンソンの攻撃の的になるので埼玉県警本部が警護。
 長瀬絵美(小1)暴行・殺害事件の小坂浩美も警護の対象となる。
 新たな女児(小3)の暴行・殺人事件が静岡で起きたので、明日、小坂浩美を抹殺するとサンソン。サンソンは実は小坂浩美自身。そして長瀬刑事の願いもかなえるとサンソン。

   19~22 サンソンからのメール
 長瀬刑事の携帯にサンソンから小坂浩美を拉致したとのメールが入る。
 
   23 サンソンは死なない
 長瀬刑事が小坂浩美を発見する。
 小坂浩美が、自分がサンソンだという。そして長瀬刑事が自分を殺し、首を切断し、腹にSと刻めば、サンソンが小坂浩美を殺したことになる。
 長瀬刑事が疑われることはない。サンソンから小坂浩美を拉致したとのメールが長瀬刑事の携帯にあるから。
 小坂浩美の妻と紗耶が世間から非難されることはない。小坂浩美はサンソンに殺された被害者なのだから。
 長瀬刑事は小坂浩美を殺し復讐が完成する。
 サンソンはどこかに姿を消す。しかし生き残ることとなる。永遠に性犯罪前歴者を威嚇し続ける。
 「サンソンは死なない、サンソンはいつまでもお前たちを見ている」と小坂浩美が言う。

   23-2 長瀬刑事がサンソン=小坂浩美を殺す
 長瀬刑事は迷う。本部に連絡しサンソン=小坂浩美を司法の場で裁くべきだと。
 ところがサンソン=小坂浩美が言う。「5歳になる紗耶を見るとペニスが勃起する。絵美ちゃんの首を絞めたときの柔らかな感触を思い出しながら自分の手で射精する」と。
 長瀬は、サンソン=小坂浩美の提案に従う。彼をロープで絞め殺し、首を切断し、腹にSと刻む。

  終章
 長瀬刑事から本部に、殺害された小坂浩美を発見したと連絡。
 サンソンによる小坂浩美(長瀬絵美暴行・殺害犯)首切断事件の後、長瀬刑事は警察を辞めた。防犯機器を扱う小さな会社に勤める。
 
 《評者の感想》
 ペドフィリア(幼児性欲)、性倒錯(パラフィリア)はすさまじい。小坂浩美は殺人するときに勃起する。娘・紗耶に勃起する。狂おしいほど紗耶を愛する。
 小坂浩美は殺人後の勃起したペニスを、娘・紗耶を思い出しながら、自分の手で射精させる。
 彼は妻にも娘にも、今の幸せを感謝する。自分が破滅に向かう衝動を持つことを彼は知っている。
 彼は自分を殺させる。
 しかも紗耶を守るためには、サンソンとして永遠に生き続けねばならない。
 その協力者が長瀬刑事だった。長瀬刑事が自分に報復し殺したいと思う情念を、サンソン=小坂浩美は利用する。
 一方で狂気・衝動、他方で冷徹な計算=合理性。
 サンソンの勝利。狂気・衝動に仕える合理性の勝利。合理性そのものはニヒリズムである。
 狂気・衝動が目的を定立する。定立された目的が合理的に実現される。合理性そのものはいかなる目的にも仕える。ニヒルな理性。


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『テロリストのパラソル』藤原伊織(フジワライオリ)(1948-2007)、1995年、講談社文庫

2011-10-19 00:53:44 | Weblog
  1~3 新宿中央公園爆弾事件
新宿中央公園で爆弾が炸裂する。1993年。死者10人以上。
かつて1974年には三菱重工ビル爆破事件があった。
爆発の目的が何か不明。
私はアル中で中年のバーテン。
私の店、「吾兵衛」にヤクザ、興和商事の浅井と青のスーツの望月が現れる。
私は江口組の3人の暴漢に襲われ、爆弾事件について調べるなと警告される。
  
  4 警察庁幹部宮坂徹、園道優子が爆弾事件で死亡
警察庁公安第1課長宮坂徹が新宿中央公園爆弾事件の死者に含まれる。
「私」は、本名が菊地俊彦(44)、偽名が島村圭介。
園道優子の娘、松下塔子21歳が私の前に現れる。
菊地(私)と園道優子(44)は、かつて東大生の頃、3ヵ月一緒に暮らした
園道優子も新宿中央公園爆弾事件で死亡。
1971年の車爆弾事件で菊地(私)は指名手配される。現在も逃亡中。
  
  5 桑野と私(菊地):71年、車爆弾事件で指名手配中
園道(松下)優子は、衆議院議員の長女。
元東大生、桑野誠(44)も新宿中央公園爆弾事件で死亡。指が見つかった。
桑野は71年、車爆弾事件の殺人罪容疑で指名手配中。
桑野が死んだので、公安から私(菊地)が逃げた22年が無為となった。
  
  6 1969年:東大全共闘の遠藤優子、桑野、菊地(大学1年)
遠藤優子、桑野、菊地(ともに大学1年、19歳)は1969年1月、東大全共闘で八本(駒場第八本館)に篭城中だった。
同(1969)年1月19日には安田講堂がすでに落ちていた。
3人は1968年4月に東大仏文科に入学。
M同盟2000人が全共闘排除・無期限スト解除のため八本の1、2階を占拠。
桑野は理論派で重傷者を仲間・M同盟・官憲のいずれにも出したくないと、八本からの全面撤退主張。
菊地(私)は肉体派だった。
園道(松下)優子は極端な精神的前衛。
同(1969)年1月21日、八本を全共闘が全面撤退。M同盟が襲い掛かる。
無期限ストはなし崩しに崩れる。大学当局はレポート提出をテストに変える。
同(1969)年3月、京大入試阻止闘争は敗北。
  
  6-2 ゲームセット:桑野と私は留年し学校に行かず学校の誰とも会わない
「僕はもう抜けるよ!」と桑野。「自己否定しても巨大な悪意には無力。」「負けを分かっていて始めたゲームが自己否定!」と彼が言う。「悪意は、権力・スターリニズム・体制を超える!」
ゲームセット。桑野と私は留年。大学2年に進級せず、大学1年のまま。学校に行かず学校の誰とも会わない。
私はパン屋に勤め、ボクシングジムに通う。
桑野は洋装品企業に勤め、認められ責任者となる。
園藤優子が突然遣ってきて僕(菊地)との共同生活が始まる。
私はプロテストに受かり、新人戦にデヴューし勝利。優子が「殺せ!」と絶叫して声援。
3ヶ月で優子が突然姿を消し、共同生活が終わる。
  
  6-3 桑野がフランスに留学する
1971年、桑野がフランスに留学することとなる。
その前に捨てたいものがあると桑野がボストンバッグを持ってやってくる。
車のブレーキが壊れる。ボストンバッグには桑野が作った爆弾が入っていた。
  
  7 1971年の車爆弾事件
車が衝突し爆弾が爆発。たまたま居合わせた警官が死亡。
当時、70年に、よど号ハイジャック事件があり、70年後半から爆弾闘争が始まる。70年12月新宿クリスマスツリー事件。
桑野はフランスに逃亡。僕(菊地)は国内を逃げ回る。
  
  7-2 園藤優子と桑野を殺した人間を探したい:僕(菊地)
共同生活したただひとりの女性、園藤優子を殺し、大学時代のただひとりの友人桑野を殺した人間を探したいと僕(菊地)。
園道優子の娘、松下塔子21歳が、「母はあなたに会いたかったのよ。あなたの居場所も習慣も知っていたのに、偶然を装って出会いたかったのよ」と言う。
  
  8 ホームレスの友人たち
僕(菊地)にはホームレスの友人がいる。
タツ(辰村)。ハカセと呼ばれる老人(元大学教員で法医学が専門)。
ゲンさん(帰りそびれた出稼ぎの老人)が行方不明。
  
  9~13 江口組&コカイン
ヤクザの浅井は昔、新宿署のデカ、警部補、4係、マル暴担当。深入りし28歳の時、事件で依願退職。江口組に入る。
ヤクを扱いたくないので江口組から独立。
浅井は、71年の車爆弾事件で死んだ巡査の妻と再婚した。しかし妻はシャブ中毒になり死んだ。浅井は、以後、ヤクに手を出さない。
東証2部上場企業ファルテックから江口組に、僕(菊地)を痛めつけ、新宿中央公園爆弾事件について調べるなと警告依頼の電話がある。
茶髪の男はコカインの売人。
コカインは1ドル札に巻いて吸う。
  
  14~15  NYで園藤優子は短歌の会に加わる
園藤優子は僕(菊地)と別れた後、見合いで外務官僚と結婚。
夫の赴任先のNYで園藤優子は短歌の会に加わる。
NYの短歌仲間が、セントラルパークにちなみ新宿中央公園で、月の第3土曜日に例会。
そこが狙われた。園藤優子を含む短歌会の3人の女性が死ぬ。
新宿中央公園爆弾事件の爆弾は、軍用プラスチック爆弾。ペースト状で外国製。遠隔操作で爆発させた。
  
  16  優子のNY時代の短歌誌『メモリー・オブ・セントラルパーク』
中央公園爆弾事件の手がかりを得るために、NY時代の短歌誌『メモリー・オブ・セントラルパーク』1-7号を僕(菊地)は手に入れる。
  
  17~18 警察庁幹部宮坂徹は園藤優子に恋をした
新宿中央公園爆弾事件で死んだ警察庁幹部宮坂徹は、新宿中央公園で偶然出会った園藤優子に恋をした。彼は短歌の例会に出席する園藤優子を待っていた。
  
  19 ファルテック日本支社のカネーフ専務:桑野誠(44)
東証2部上場企業ファルテックの日本支社の責任者カネーフ専務(日本移民の末裔)は、実は元東大生、桑野誠(44)だった。僕(菊地)の親友。
彼は中央公園爆弾事件で死んでいなかった。
ファルテックは昔、桑野が勤めたアパレル会社が発展し社名を変えたもの。
桑野は防腐処理して保存しておいた自分の片腕を、爆弾事件の現場で吹き飛ばし、指紋から自分が死んだと思わせた。
体は、ホームレスのゲンさんを身代わりに使った。
  
  19-2 人間は金で動く
「人間は金で動く。沸点のようなものがあり、或る金額を超えれば金に従う。例外はない。」と桑野が言う。
  
  19-3 警察庁幹部宮坂徹と園藤優子の殺害:中央公園爆弾事件
桑野は中央公園爆弾事件で警察庁幹部宮坂徹と園藤優子を殺した。
  
  19-4 テロリストのとなった桑野&「電気箱」による拷問
パリに71年に渡った桑野は、再び政治闘争に参加。
桑野は75年、チェ・ゲバラの正統な後継者を名乗る「大地の怒り」のメンバーとなる。
桑野、南米に逃亡。
軍事訓練を受け、テロリストとして軍幹部などを襲う。
予防拘禁で桑野、捕まる。
当時、日本領事館の一等書記官だった警察庁の宮坂徹が桑野の引き渡し要求。
ところが引き渡されないと分かり、逆に桑野を71年の車爆弾事件の容疑者として厳罰に処することを要求した。
桑野は政治犯収容所で、看守たちの娯楽のため3日に1度、10時間ずつ、「電気箱」で拷問された。さらに男たちに犯され続けた。
このままでは2年もたず、発狂すると思い、最も狂暴な男の恋人となり、男をそそのかし脱獄。脱獄後、男を桑野が射殺。
  
  19-5 桑野:麻薬ファミリーの大物となる
有力者の娘が、桑野に恋し結婚。
有力者はコカの栽培・精製・販売をする。
桑野はファミリーの一員となり頭角を現し大物となる。
反政府でファミリーと左翼ゲリラはつながりがあった。
麻薬ファミリーの対抗組織の爆弾に桑野がやられ、片腕がちぎれるがそれをホルマリン保存させた。
  
  19-6 桑野:ファルテック日本支社のカネーフ専務として来日
桑野は、ファルテックの日本支社の責任者カネーフ専務として来日。
目的は①日本はコカイン販売の処女地である。コカイン販売がビジネス。江口組と組む。
②投資を通してのマネーロンダリングのため。日本はマネーロンダリング対策では幼児に等しい。
③有能だった俺を、こんな風にした国に復讐する。「日本を麻薬で腐らせる」と桑野が言う。
敵は、世界の「悪意」だったはずが、国家のレベルに引き下げられたと僕(菊地)は思う。
  
  19-7 優子の夫の外務官僚:NYで桑野に殺される
優子の夫の外務官僚はNYで桑野に殺された。
マネーロンダリングのための投資会社の責任者として桑野はNYへ行く。
桑野が偶然、優子と路上で会う。
桑野は優子としばしば会う。
桑野は幸福だった。
園藤優子の歌:〈殺むる(アヤムル)ときもかくなすらむかテロリスト蒼きパラソルくるくる回すよ〉。
桑野は殺しのプロであり、優子を独占したくて夫の外務官僚を車のブレーキに細工して殺す。
  
  19-8 桑野:学生時代に優子を暴行
昔、学生時代、共同生活を優子が中断したのは、桑野が優子を暴行したため。
園藤優子の娘、松下塔子は桑野の子ども。
桑野が爆弾を作ったのも、僕(菊地)に対抗するためだった。「最も危険なものを所有すればお前に勝てると思った」と桑野。
「しかし優子はどんなときも最後は、お前の話になった。」「もう決して取りもどせないものは破壊する。」これが桑野の結論。
  
  19-9 南米では巻き添えなど、普通のこと:中央公園爆弾事件
中央公園で月例の短歌会の日に爆弾を破裂させれば、優子を殺し、同時に警察庁の宮坂徹をも殺し復讐できる。
南米では巻き添えなど、普通のこと。
  
  20 ぼくらの「世代」の宿命:ウソ!
「変わっちまったおまえに会いたくなかった。人でなしには会いたくなかった。」と菊地(僕)。
「あの闘争を闘ったぼくらの世代の宿命だった」と桑野。
「世代で生きてきたんじゃない。個人で生きてきたんだ。」と菊地(僕)。
桑野は銃で自殺する。園藤優子との一種の無理心中。
  
  20-2 松下塔子
松下塔子は菊地(僕)に惚れている。

  《評者の感想》
「世代」で生きてきたのではないが、「時代」に影響されたことは確か。
「時代」を受け止めるしかない。
あの闘争を闘ったぼくらの「世代」でなく、僕らの「時代」が問題なのだ。
評者は1949年生まれで、著者と1歳違い。あの「時代」がどういうものだったか分かる。
桑野のような軌跡は、十分ありうる。
と同時に菊地(僕)のような軌跡も、十分ありうる。
それぞれの「個人」が「時代」に対峙する。
「時代」が同一でも、「個人」の軌跡が異なる。
同一の「時代」に生きた点で共通性を持つ「世代」は、確かにある。しかし「世代」だけで説明することはできない。

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『GO』金城一紀(カネシロカズキ)(1968生)、2000年、角川文庫

2011-10-10 21:20:17 | Weblog
 1 オヤジ:朝鮮籍から韓国籍へと「転んだ」
 僕は中2(14歳)だった。朝鮮籍。オヤジは1928年生まれ。在日朝鮮人。ソ連が崩壊した(1991年)後の話。
 オヤジは「転んだ」。ハワイに行くために朝鮮籍から韓国籍になる。
 昔はオヤジは「総連」のバリバリの活動家だった。しかし総連の目がいつも北朝鮮に向いていて在日朝鮮人に向いていないことに、オヤジはやがて気づく。
 「民団」の幹部に大金を払い、親父は韓国の国籍をとる。
 オヤジには1950年代終わりの「帰国運動」で北朝鮮に帰った2歳年下の弟がいる。3トン・トラックを弟に送る。
 僕が中3(15歳)の時、オヤジとオフクロがハワイに行く。
 
 1-2 僕:「転んで」韓国籍をとり民族学校をやめ日本の高校に入学
 僕は小1で、朝鮮学校に入る。アメリカは敵と教えられ、また「わけの分からない環境」だったので僕は「ヒネクレ者の悪ガキ」になる。
 オヤジはライト級のもとボクサー。オヤジは昔、《日本人》だったが日本の敗戦後、《日本人》でなくなる。オヤジは貧乏人に優しいと称するマルクス主義を信じ朝鮮籍をえらぶ。
 韓国籍になったオヤジは中2(14歳)の僕に「広い世界を見ろよ」「後は自分で決めろ」と言った。
 僕は「転んで」韓国籍をとった。そして日本の高校に行くと決める。民族学校をやめて「広い世界」を目指す。それは厳しい選択でもあった。
 僕は結構、裕福な家庭で育った。

 2 日本の高校では襲われ挑戦され続ける
 日本の高校に入学後、襲われ挑戦され続けたが、高3(18歳)の僕は、「23戦無敗」だった。マルコムXは「自衛のための暴力は暴力でなく知性だ」と言う。
 日本の高校に進学すると言うと、民族学校で教師から「民族反逆者」と言われ、ひどいイジメにあう。
 日本の次元の低い高校では、「空手道場」のような民族学校の「朝鮮人」を倒せば、日本の不良は仲間にいい顔ができるので、僕に挑戦してくる。
 高1のときの初陣の相手が、父親が組の幹部の加藤だった。僕は勝ち、喧嘩のあと加藤と友達になる。加藤の父親が僕を気に入る。

 2-2 パチンコの景品交換所を奪われる:オヤジ
 父親が持つパチンコの景品交換所4軒。このうち2軒が警察に奪われる。景品交換所を経営するオヤジがヤクザと付き合ってると、警察がパチンコ店を脅し取引をさせなくする。その後、警察OBが景品交換所を開く。
 ハワイ事件とこの景品交換所事件のあと、男を敬う朝鮮・韓国の儒教は敗北し、オフクロはオヤジに反抗するようになり、強くなる。オフクロは僕が高1(16歳)のときまだ30代だった。オフクロはオヤジと喧嘩すると焼肉屋の友人のところに家出した。

 2-3 桜井という女の子
 高3(18歳)のとき、加藤の誕生パーティーで僕は、桜井という女の子と出会う。二人はキスをする。

 3 民族学校は「教団」のようなもの
 僕は小中一貫教育の民族学校に入った。「偉大な首領様」金日成をたたえる。彼は宗教の教祖様のようなもの。民族学校は「教団」のようなもの。
 ミニパトが朝鮮学校の生徒に対し「あんたらみたいな社会のクズ」は道の端を歩けと指示。僕たちは色水の爆弾で反撃した。

 3-2 小3:金日成を信じない、共産主義を認めない
 小3の僕は、金日成が子どものとき日本の官憲をパチンコで攻撃したという話を聞き、がっかりして信じなくなった。いっそ金日成が水の上を歩いたと言われたほうが、信じた。
 朝鮮学校の1日の終わりの「総括」と「自己批判」は、密告の会。僕はこれがある限り共産主義を認めない。
 僕は小3のとき以来、勉強することをやめた。「朝鮮学校開校以来のバカ」と僕は呼ばれる。
 
 3-3 小4:僕は民族学校を休む、小6:僕は反抗期に入る
 小4から軍隊行進の練習が始まる。金日成のために戦うため。統制された学校生活が嫌いで僕は、小4からあまり民族学校に行かなくなる。学校を休んでビデオばかり家で見ていた。
 オヤジにボクシングを教えてほしいと頼む。
 小6、僕は反抗期に入る。オヤジが初めて景品交換所を奪われた直後。

 3-4 「差別」に対し団結する:民族学校(中1~中3)
 民族学校は合宿生活のよう。また「差別」に対し団結する。「朝鮮人狩り」と言って日本の学校の体育会系・民族系の連中がイジメに来る。
 どうせ、ろくな大人になれないから学校で遊んでおこうと思う。カーニバルとしての学校。
 中3のタワケ先輩と中1の僕はいつも苛立っていた。街に出てはガンをつけたといっては喧嘩をした。
 僕が中2のときタワケ先輩(高1)は朝鮮籍から韓国籍に変え、民族学校もやめ、いなくなった。タワケ先輩はJリーグで活躍してもよいほどだったが朝鮮籍(外国人)の障害にぶつかった。
 朝鮮籍だと、将来はパチンコ屋・焼肉屋・金融屋で働くしかない。国籍を問わない医者・弁護士になるというのはおとぎ話。

 3-5 韓国籍の父と日本人の母を持つ正一:民族学校に進学
 中2(14歳)の僕が日本の高校を受けると決め、韓国籍になると、教師からイジメを受ける。「自己批判」しろと正座させられ、ビンタされ鼓膜が破れる。また太ももを爪先蹴りされる。
 韓国籍の父と日本人の母を持つ正一は、民族学校に進学。「売国奴」と呼ばれた僕に対し、正一が「僕たちは国なんてものを持ったことがありません」と発言しビンタされる。
 日本の高校に僕が入学しても、民族学校の正一との関係は続いた。本を貸しあった。Ex. スティーブン・J・グールド『人間の測りまちがい:差別の科学史』

 3-6 弱い者は「教団」(民族学校)がないとやっていけない
 高1の僕:国籍のせいで社長になれないから、サラリーマンにならない。
 弱い者のためには「教団」(民族学校)がないとやっていけない。民族学校に入っていじめられなくなった。だから勉強して民族学校の教師になると正一(高1)。
 金日成が死んで(1994年)、「教団」も変わり始めた。やがて「互助会」になると正一。
 後輩が広い世界に行けるよう教えてやりたいと正一。

 3-7 済州島
 僕が高1の秋、父が約50年ぶりに済州島へ墓参り。
 
 3-8 国籍はマンションの部屋のようなもの
 ミトコンドリアDNAによると本州の日本人50%のルーツは、韓国&中国。5%のルーツが日本人。
 国籍はマンションの部屋のようなもので、嫌になったら出て行けばいい。
 ジミー・ヘンドリクス:チェロキー・インディアンと黒人のハーフ。
 お前は最近、「理屈っぽくなってる」とオヤジ。
 「奈落を長く覗き込むと、奈落もまたこちらを覗き込むものだ。」(ニーチェ)

 4 本、CD、映画:僕と桜井は「カッコいいもの」を探した
 僕と桜井(高3)は「カッコいいもの」を探した:本、CD、映画。発掘のため二人で選ぶ。打率は3割程度。
 桜井も変で、カッコ良かった。桜井はたくさん本を読んでいた。僕の読む本は、人類学・考古学・生物学・歴史学・哲学。
 桜井のお父さんは東大出。学生運動(60年安保闘争)の元闘士。高級住宅街に住む。エリート商社マン。
 桜井の家で日本人の家族に囲まれご飯を食べるのが初めてで緊張。

 4-2 「肝試し」
 昔、僕は、電車が来たときホームから線路に飛び降り、電車に追いかけられて線路上を走る「肝試し」に挑戦し成功。

 4-3 「チョン公は尻尾を巻いて国に帰れ」
 日本人の加藤(高3)が、僕に「共同経営者にならないか?」と尋ねた。「この社会でのして行くには正攻法じゃだめだ」言う。組幹部の彼の父親が資金を出す。
 加藤のパーティーで「チョン公は尻尾を巻いて国に帰れ」と、日本の高校の小林(高3)が喧嘩を売る。僕は小林を倒す。

 5 「あんなチョーセンに振られたらパシリにしてやる」
 正一が死んだ。真面目な日本人高校生が毎朝会うチョーセン高校の女の子に惚れた。「彼」の仲間が「告白しろ」と煽る。気合を入れるためとバタフライナイフを「彼」のポケットに入れる。「あんなチョーセンに振られたらパシリにしてやる」と「彼」は言われる。仲間が周りからはやし立てる。
 怖がるチマ・チョゴリの女の子を通りかかった正一が助けようとする。怖がった「彼」がバタフライナイフで正一を殺す。「彼」は飛び降りて自殺。

 5-2 「煽った奴らを狩に行く」:元秀(ウォンス)
 「正一を殺った奴を、煽った奴らを狩に行く」と元秀(ウォンス)。僕は断る。
 民族学校のバスケット全国大会決勝で負け泣いたとき、コーチが「お前たちは敵に囲まれているんだ。人前で泣くな!」と怒った。

 5-3 「韓国と中国の人は血が汚い」:桜井(高3)
 僕と桜井(高3)がホテルに泊まる。桜井が拒否する。「お父さんが韓国と中国の人は血が汚いんだって言ってた」と桜井。
 「昔、モンゴロイドは全員、お酒が飲めた。中国北部でお酒が飲めない突然変異が生まれる。彼らが弥生人として日本に渡来し、お酒が飲めない。」と僕。桜井の父はお酒が飲めない。
 「何か恐い!」と桜井に言われ、僕は帰る。
 正一の死と桜井の出来事で僕は泣いた。

 6 韓国・北朝鮮の区別をなくした「在日」の組織
 「警察にパクラれ、学校はクビ。自分のことを真面目だと思っていたオヤジ(組幹部)がカンカン」と日本人の加藤(高3)。また「オマエとタメはれるようになるまで、お前と会わないと決めた」と言う。
 在日韓国人の宮本(高3)が、「韓国・北朝鮮の区別をなくした『在日』の組織を作りたい。参加してほしい」と僕に言う。

 6-2 オヤジの北朝鮮の弟が死ぬ
 オヤジはクレジットカードが持てない。審査で落とされる。
 オヤジの景品交換所がまたなくなる(3つ目)。
 オヤジの北朝鮮の弟が死ぬ。その妻からの電話。「自分だけいい暮らしをして弟に何も送らなかった」と非難。
 僕(高3)はオジに会えずオジは死んだ。「何故、たった数時間の北朝鮮に行けないのか。北朝鮮のエバリくさってる連中を許さない。」と僕。

 6-3 外に目を向けて生きていくべきだ:オヤジ
 「あんたたち1世・2世が貧乏くせえから、俺たちの世代がいまいち垢抜けられないんだ」と僕。オヤジは弱音を吐いてはいけないのだ。
 オヤジと対決し僕が負ける。前歯が欠ける。
 「もうオレたちの時代じゃない」とオヤジ。そして「外に目を向けて生きていくべきだ」と言う。実際、オヤジは僕の足かせを外すために韓国籍に変えた。
 僕は朝鮮人でも日本人でもない。根無し草。

 7 俺はこっち側でガンバル:元秀(ウォンス)
 元秀(ウォンス)は仲間が傷つけられたりなめられたりすると、自分のことを顧ず仕返しに向かう。「北とか総連の連中は俺たちを利用することしか考えてなくて、ちっとも当てにならない」と元秀(ウォンス)。そして言う。「でも俺はこっち側でガンバル。俺はハンパ野郎でなくなるから」と。
 「無茶して死んだりするなよ」と俺。「俺様がそう簡単に死ぬかよ」と元秀(ウォンス)。また「俺はお前の生き方が気にいらねえんだ」と言う。

 7-2 「杉原が『何人』でもいいよ」:桜井
 「在日」などと言うなと僕(杉原)。「俺は俺だ」、「いや俺であることも忘れたい」と僕。
 「昔、バスケの試合で相手の日本人選手から何か言われて、怒った杉原が選手全員&審判をすべて殴り倒した。強い杉原が好きになった。その時、『何人』だか知らなかった。杉原が『何人』でもいいよ」と桜井。

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『架空通貨』(原題『M1』)池井戸潤(1963生)、2000年、講談社文庫

2011-10-03 22:39:41 | Weblog
 第1章 
 黒沢金属工業が1回目の不渡りを出す。大田区羽田の中小企業。2回目の不渡りを出すと銀行取引停止。
 黒沢金属工業は取引先の田神亜鉛株式会社の社債を7000万円引き受けていた。期前償還を田神亜鉛がOKすれば黒沢金属工業は2回目の不渡りを出さずにすみ倒産しない。
 田神亜鉛は未公開企業なので、その社債を、黒沢金属工業は市場で売ることができない。

 第2章
  1
 田神町は田神亜鉛株式会社の企業城下町。
 田神亜鉛が20億円の私募債(期限5年)を発行し資金調達。
 社債を引き受けさせられた田神亜鉛協力会企業が田神亜鉛に泣きつき、「田神亜鉛協力振興券」(田神札)が渡される。
 田神札は5年後、社債の償還期日後、田神亜鉛が現金に換える。
  1-2
 田神札は田神亜鉛がつぶれれば、ただの紙切れ。協力会企業は下請けへの支払いに田神札を使う。下請け会社がすでに多くつぶれ始める。
 田神札は力関係で弱い個人商店が多くつかまされる。
 田神札は西郷札に似る。
  2
 田神町の年間販売額700億円。うち田神亜鉛の400億円を除くと300億円。利益率を3%とすると9億円。20億円の私募債の半分10億円が田神札として流通していれば、それだけで町全体の企業の年間利益が吹き飛ぶ。
  3
 須藤不動産が破損した田神札を新券と取り替えるなど中央銀行の役割をする。
  4
 田神亜鉛は粉飾決算をしている。例えば売掛金が増えているのに在庫の数字が変わらないなど。主力銀行の東京シティ銀行は融資を減らしている。

 第3章
  1
 須藤不動産は、①田神札を融資。金利は円で受け取る。利子はツキサン。月3%=年36%。②100万円の田神札を担保に30万円の日本銀行券融資もおこなう。③田神札の運用も引き受ける。
  2
 田神亜鉛社長、安房正純個人が田神札を発行。
 田神札がいくら発行されているか分からない。下請け企業150社に田神札50億円流通。
  3
 田神町の経済の破綻を少しでも小さくするため、田神亜鉛倉庫に隠されていた田神札の印刷機をハンマーで壊した者がいる。
  
 第4章
 1
 田神亜鉛はボリビアのリティオ・イクスプローダ社からリチウムを買い(年24億円)、それをアトラス交易に転売し差益を得る。アトラス交易はリティオ・イクスプローダ社を買収。アトラス交易は暴力団の関東共栄会が所有。
 リティオ・イクスプローダ社は実は、リチウム鉱山の廃坑を持つのみで休眠会社。
 厚生省麻薬取締官事務所が内偵中。
  2
 マネーロンダリングが行われている。①関東共栄会の麻薬売買の不正資金をリティオ・イクスプローダ社、東京支店に運ぶ。②社内で送金され、リティオ・イクスプローダ社のボリビア本社がリチウムを買い付け。③田神亜鉛がリチウムを買う。リティオ・イクスプローダ社にきれいな資金が入る。④田神亜鉛はリチウムをアトラス交易に転売し利益を得るが、これは、関東共栄会にとってはマネロンの必要経費。⑤アトラス交易は配当の形でリティオ・イクスプローダ社から資金を回収。
  3
 関東共栄会がタイ、ミャンマー、ラオスで麻薬買い付け。グラム100円。末端価格はグラム2万円。1億円買い付ければ、末端価格で200億円になる。
  
 第5章
  1
 田神亜鉛社長、安房正純が6億円の債務を肩代わりし、黒沢金属工業を買収。
 安房正純は、田神亜鉛を計画倒産させ、50億円を黒沢金属工業に送金する。
 その50億円を証券会社に出金し、安房正純は株を購入するつもりだった。
  2
 東京シティ銀行が、田神亜鉛の計画倒産を知り、安房正純の50億円を押さえ、証券会社に出金せず。田神亜鉛の債権の回収が目的。
  3
 田神町の安房王国崩壊。50億円流通していた田神札は紙切れとなる。田神札を受け取らされた下請け会社の労働者の暴動。協力会企業、田神亜鉛本社、須藤不動産を襲う。
  4
 情報のリークで関東共栄会の幹部、逮捕される。アトラス交易が倒産。マネーロンダリングのシステム崩壊。
  5
 ①安房正純破産。田神亜鉛の連帯保証債務を負い、個人資産が競売される。
 ②田神亜鉛の倒産で協力会企業50社のうち40社倒産。
 ③協力会企業の下請け150社のうち半数が倒産。

《評者の感想》
(1)架空通貨の田神札は詐欺である。印刷さえすれば何億円分でも商品が購入できる。
(2)マネーロンダリングの仕組みが分かる。
(3)企業城下町の意味がわかる。田神亜鉛、協力会企業50社、下請け企業150社、様々の個人商店の権力関係。
(4)麻薬ビジネスのぼろもうけ。
(5)須藤不動産の田神札ビジネスが、裏金融の仕組みを垣間見せる。
(6)金融用語の勉強ができる:不渡り、社債の期前償還、未公開企業、西郷札、利益率、粉飾決算。
(7)計画倒産:会社をつぶしても、個人が財産を手放さなければ会社はまた作れる。

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