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宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『死刑絶対肯定論:無期懲役囚の主張』美達大和(ミタツヤマト)(1959生)、2010年、新潮新書

2011-03-20 12:15:35 | Weblog
 はじめに
 2004-2009年、日本の殺人事件は年1000-1400件台で増加傾向はない。
 「LB級施設」は刑期10年以上(平成22より、それまでは刑期8年以上)(Long)で再犯者等重罪の者(B級)を収容する。
 著者は2件の殺人で無期懲役。すでに20年弱、刑務所にいる。
 
Ⅰ ほとんどの殺人犯は反省しない
 窃盗を悪いと思わず抵抗されると怒って殺す。自分を棚にあげ被害者を恨む。普段はおとなしい。
 強姦はゲーム、娯楽。自分では「病気ですから」と言う。
 強盗殺人が死刑か無期懲役のみであることを知らずに犯行。
 無期の仮釈放は約30年。
 共犯では量刑に差があることが不満。なぜ自分だけが重いのかと恨む。
 暴力団員は「チンピラ」「社会のダニ」が7-8割。
 長期刑受刑者(8年以上)にとって短期刑受刑者は「ションベン刑」。
 罪、悔恨とは程遠く、砂のようにさらさらの心。
 窃盗は取られる側の「管理の仕方が悪い」。
 犯罪者はエピキュリアン。共に暮らすと真面目な者も再犯受刑者に同化する。
 自己の非は絶対に認めない。自分に都合のよい合理化。殺す気はなかったのに被害者の言動で殺した、獄に長くいる自分のほうが被害者。被害者を罵り、自分の行為は評価しない。
 殺人一般は悪いとする。自分の殺人は非を認めない。Ex. 自分は金が必要だった、向こうは持っている、くれてもいいだろう、抵抗しなければ殺さなかった。
 共感が全くなく、人のために何かすること皆無。
 被害者の犯行時の悲惨な状況を楽しげに語る「鬼畜」。
 
 Ⅱ 「悪党の楽園」と化した刑務所
 みなしゃあしゃあとして屈託ない。
 2006、2007年「監獄法」大改正、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」と改称。その後「法律的根拠は何か」など反抗的態度をとる者が増える。規律の緩和は真面目な者、弱者に負担がかかるだけ。
 自分の利益しか考えない&楽のために狡猾にふるまう&物事を都合よく解釈する受刑者。
 今の刑務所は楽で苦にならない。
 更正:「働く」気持ちにさせるべし。経済的に困れば盗めばよいとしか思わない。条件の良い仕事を求めるので仕事がない。彼らは基本的に怠惰。
 働くより窃盗のほうが稼ぎになる。
 彼らも老後の生活が恐怖。特に獄死はいやがる。
 更正をめざす者は分離する。他の受刑者が嫉妬で引きずり下ろそうとするから。
 受刑者は社会にいる間も、犯罪に費やす時間以外は遊んでいる。
 刑務所に慣れ、厭う気持ちがない。
 出所後のために職業訓練、報奨金のプール、住居として全寮制の工場などはどうか?
 
 Ⅲ 殺人罪の「厳罰化」は正しい:死刑絶対肯定論
 判例主義の問題:利得・性欲等を目的としない偶発的殺人は懲役10-13年。
 しかし10年はションベン刑。10-15年はあっという間。著者自身、もう20年もたったのかと長く感じない。
 殺人を反省しない受刑者がわずか10数年で何事もなかったように刑務所を出て行く。不条理。「人権のインフレ」。
 死人に口なしで被告人は、被害者に非があるように陳述する。
 殺人の被害者だけでなく遺族の夢・希望・未来も奪われる。
 殺人は刑法199条で懲役5年以上でも酌量減軽で3年になることもあり、懲役3年以下なら執行猶予もつく。
 Cf. ハムラビ法典の同害報復は、報復の連鎖防止が目的。
 被害者は死んで「すでに終わったこと」となり、「10年、15年はあっという間」。反省、改悛、謝罪などない。
 獄中で日々笑い暮らす受刑者。刑罰の効果のなさ。
 日本には10回以上の再犯者がいる。Cf. アメリカには三振法がある。3度目は窃盗でも無期。
 1983年、最高裁「永山基準」は軽い。一人殺人で死刑は稀有。
 裁判官の自由心証主義は誤り。恣意的な判決、同種事犯での均衡を失した判決。
 一度人を殺すと殺人の心理的抵抗が減る。

 Ⅳ 殺人者に反省と改悛を促す方法:不定期刑、執行猶予付き死刑
 例えば懲役15年なら懲役15-25年の不定期刑とし、無期懲役なら執行猶予付きの死刑とする(条件を定めそれを満たさない場合は死刑、猶予期間30年)とし、服役中の態度・行動で刑期を調整する。
 受刑者に長いレポートを課し反省させる。「目標」を持たせる。
 遺族への賠償を法制化する。長い期間にわたって作業報奨金のなかから支払わせる。
 仮釈放された者の32.2%は5年以内に刑務所に戻る。職員の前でのみ従順。
 刑務所が楽、量刑が軽いので満期出所者の再犯率は55.1%。5回、6回はざら、10回以上もいる。
 特別予防として犯罪者の社会からの隔離も必要。
 約7万人の受刑者。刑務所職員の不足。工場担当の職員の目を盗み話ばかりしている受刑者がいる。

 Ⅴ 無期懲役囚の真実
 無期が15年で出れたのは80年代半ばまで。
 2007年頃以後は仮釈放まで30-40年。刑務所内で無事故の模範囚で30年がひとつの区切り。
 無期囚の唯一の希望は仮釈放。無事故となるため無期囚は有期刑囚の横暴に耐える。
仮釈放後は普通、更生保護施設へ。引き受け手がいないなどのため。更生保護施設には6ヵ月いられる(食費のみ本人負担)。
 無期囚は、30年経っても勤労精神なし、経済観念なし、改心も更生もない。被害者、遺族について何も思わない。
 自制心、計画性がないので働くことをしない。殺そうとは思わないけど盗むしかないと言う。無期囚は総じて年老いてからの出所なので職業訓練が不可欠。これは社会の安全のためのコスト。

 Ⅵ 絶対的終身刑(=仮釈放のない終身刑)創設には反対
 過酷な強制労働は長期の拷問に相当し死刑より効果が有ると終身刑導入。1587年オランダの人道主義者コーンハートの提案。
 明治中期の北海道開拓期に多くの政治犯が北海道で強制労働。明治14年から20年代。年4000-7000人。凍傷で1割の者手足など切断。2割が寒さで死亡。獄内は一切火の気がない。「暴戻の悪徒が死ねば監獄費支出が減り良い」と金子堅太郎(1885)。
 欧米の終身刑の目的は特別予防、つまり凶悪犯の社会からの隔離。
 絶対的終身刑では将来の希望がないから反省しない。被害者を一層恨み、弁護人を罵倒し、裁判官・検察官を呪う。普通、自分の非を認めることはない。
 死刑囚なら死が目前にあるので反省する者もある。
 人権派が死刑廃止の観点から絶対的終身刑を主張するのは誤り。改心と更生を妨げる絶対的終身刑は権的。
 絶対的終身刑では囚人は職員の言うことを聞かない。将来がないのに、更生・改心など考える必要ない。一生、塀の中にいるだけで償いは十分。
 死刑こそ公正、正義(行為と罰の均衡)、応報である。
 死刑の廃止の観点からの絶対的終身刑は偽善である。

 Ⅶ 死刑は「人間的な刑罰」である:死刑廃止は誤り
 死刑囚は執行まで拘置所で過ごす。
 改心し複数の被害者の冥福を祈る仏様のような死刑囚もいる。
 「バッタンコ(死刑執行)はおれが殺されることだから、暫くして殺した相手のことを考えるようになった。あれだけ何人も殺ってたら死刑以外ないよな」とAさん。保険金殺人で「当時は一人殺るたびにカネがどさっと入ってきて天下を取ったような気分だった」とのこと。数年を経て執行。
 無期囚で反省する者はほとんどいない。1%位。「反省はいりません。体で代償を払ってるから」と言う。
 国連総会が1989年に死刑廃止条約(国際人権(自由権)規約第2選択議定書)採択、1991年発効。
 被害者の人権、遺族の人権も考慮せよ。
 カッとなって殺したというのはウソ。すぐには死なないので、その後、10-20分の殴打中or刃物で刺す間は殺意あり。理由は、顔を見られた、つかまりたくない&怒り・憎悪。
 最高裁「永山基準」で二人殺さないと死刑にならない。
 昭和40年代前半まで(1970年まで)警察の取調べは暴力的だったが、平成に入ってからは暴力的でないとのこと。
 生きたまま被害者をドラム缶に入れ焼き殺して死刑にならない。「公正」でない。国は被害者に代わって加害者に報復するのが正義。社会防衛のためにも必要。
 応報としての死刑の必要。被害者の改心とは別。
 遺族は、死刑執行で赦しはしないが納得し新しい人生を歩むきっかけとなる。
 法律では死刑執行は確定後、6ヵ月以内。

 Ⅷ 裁判員裁判:無期懲役囚から裁判員へのアドバイス
 ① 刑務所は人権がインフレ化し笑い声が絶えない。裁判員は「暗く過酷な刑務所」を考えなくて良い。
 ② 更生しようと思う者はまれなので、将来の更生の可能性は考えなくて良い。
 ③ 殺人で判例主義のため「あっという間の15年」の刑では軽すぎる。

 ④ 不幸な生い立ちでも犯罪者にならない者の方が多い。
 ⑤ 被害者が死んでいるので、被告人は平気でウソばかりつく。Ex. 被害者は無抵抗だったのに先に攻撃してきたと言う。
 ⑥ ウソをついても、しかも少しも悪いと思っていない。
 ⑦ 考えるべきは(A)行為と刑罰の均衡、(B)正義、(C)秩序の維持、(D)被害者・遺族の応報感情に配慮し厳しく処断すること。
 ⑧ 更生など普通ありえない。大事なのは「更生させ立ち直らせる」との自己満足でなく「犯罪行為の責任を取らせる」こと。
 ⑨ 加害者が反省するのは当然のこと。死刑になればタリオ(同害報復)で均衡し殺人者は反省の必要がないというのはウソ。相手にはそもそも殺される理由がない。しかも多大な苦痛を受ける。死刑の苦痛は最少のはず。
 ⑩ 正義・公正を実現するため「死刑」を臆せず、課すべき。法の正義と被害者の人権こそ重要。






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『企業買収の裏側、M&A入門』淵邊善彦(1964生)、2010年、新潮新書

2011-03-15 18:16:26 | Weblog
 まえがき  M&Aを「結婚」になぞらえる。
 Ⅰ M&A
 アメリカの乗っ取り屋、ブーン・ピケンズが小糸製作所の株を買い占め脅した問題(1989-91年)。「ハゲタカ」による破綻会社の買収、切り売り:90年代後半。2005年頃からライブドア(堀江氏)、村上ファンド、スティール・パートナーズのM&Aが話題。
 事業会社の「友好的M&A」もある。Ex. パナソニックの三洋電機買収。
 M&Aに広くは「資本提携」含む。Ex. 10%、株式取得。
 
 Ⅰ-2 ファンドとは何か
 「プライヴェート・エクイティ・ファンド(PEファンド)」:会社を買収し上場させ売却し利益を上げる。PEファンドには「ヴェンチャーキャピタル・ファンド」とある程度成長した企業に投資する「バイアウト・ファンド」がある。
 2008年9月、リーマンショック後、欧米系ファンドによる日本企業のM&A減る。
 企業再生支援機構(2009年10月)は官製ファンドで日本航空、ウィルコムを再建中。
 
 Ⅰ-3 M&Aの成功・失敗
 成功したM&Aに、NKKと川崎製鉄の経営統合によるJFEグループがある。
 失敗したM&A①:ライブドア対フジテレビ。2005年、時間外取引で35%のニッポン放送株取得。市場で40.1%まで買い増し。企業を「モノ」と考え相手の意向を考えず失敗。ライブドアからフジテレビがニッポン放送株をすべて買う。
 失敗したM&A②:楽天によるTBSの「敵対的買収」も失敗。
 買収が失敗すると借金して買収資金をまかなうので、買収者側に大きな負債が残る。

 Ⅱ M&Aの諸スキーム
 M&Aの手法をスキームと言う。Ex. 株式取得か合併か?
 M&Aの目的:①「水平的統合」→規模のメリット、シェア拡大。②「垂直的統合」→製造・流通・販売と川上から川下まで囲い込み、コスト削減。③「多角化」→Ex. 世界規模のコングロマリット、GE。
 
 Ⅱ-1 M&Aのスキームの一例:「提携」
 「提携」はお試し期間。例①「生産提携」:OME生産(相手ブランド名で販売)など。例②「販売提携」:2009年にはフォルクスワーゲンとスズキが新興国向け販売提携。ナイキの日本上陸に利用された販売総代理店、日商岩井。
  
 Ⅱ-2 M&Aのステップは結婚のステップと同じ
 そもそもM&Aとは開発や市場の新規開拓の「時間を買う」こと。
 M&Aのステップは結婚と同じで、お見合い→正式なお付き合い開始→婚約→身上調査→結婚式と入籍→結婚生活(ポストマージャー)と進む。
 幸せなM&A①ソフトバンク(孫正義社長)の最大の成功はヤフー買収。しかもヤフーのJASDAQ上場時に多額の株式売却益もあった。
 幸せなM&A②日本電算は人員削減をしない「救済型M&A」。再建する。Ex. 日本電産サンキョー(精密小型モーターでライバルの三協精機買収)。

 Ⅲ M&Aのための出会い
 買収されたい・提携したいとお化粧しても、M&A前の身上調査、つまり(ビジネス、会計・税務、法務の)DD(デューディリジェンス)によってすぐに本当のことが分かってしまう。
 2006年の日本板硝子(ガラス)と英ピルキントン社との合併は長い取引関係の末。
 小企業が大企業の傘下に入る「玉の輿M&A」もある。
 日本企業が海外企業を買収するケースも多い。
 国際結婚に相当する「クロスボーダーM&A」は2008年9月リーマンショック以来、増えない。
 三角合併(2007年5月解禁)は現金が要らないが売り手側の同意が必要なので敵対的買収に使えない。存続会社の親会社の株式を対価として交付する形の買収が三角合併。

 Ⅳ お見合い:M&Aに向けての仲介・交渉
 Ⅳ-1 フィナンシャル・アドバイザー
「フィナンシャル・アドバイザー」(銀行・証券会社・投資銀行・仲介会社)によるM&Aの仲介。
 秘密保持契約を結びM&Aに向けての交渉。
 大企業側が売り手企業の「人を勧誘してはいけないという契約」もありうる。
 アドバイザーの費用は100億円のM&Aで2億円程度。
 DD(デューディリジェンス)の費用は弁護士・公認会計士で1000万円程度。
 (特に買われる側は)情報を小出しにする。
 情報管理のため「ファイアウォール」(「チャイニーズウォール」(万里の長城))の必要がある。Ex. 利益相反のある案件については情報交換させない。
 売り手側が買い手を求める入札方式(オークション)が今後、主流になるはず。Ex. 子会社を売る。
 
 Ⅳ-2 案件概要書(売り手側)の配布と意向表明書(買い手側)の提出
 買い手側による意向表明書提出後、よい条件を出した買い手側を3社ぐらいに絞る。
 売り手企業について、買い手側によるDD(デューディリジェンス)あり。
 M&Aにあたり弁護士のビューティ・コンテストで弁護士を依頼・選択するケース多い。

 Ⅴ M&Aの基本合意書締約・公表:婚約と破談の局面
 M&Aの基本合意書締結は取締役会の承認の決議の後、公表される。新聞が「合併」報道。上場会社には公表義務あり。
 M&A公表前はインサイダー取引に注意。
 アドバイザーが必要な大規模案件以外では交渉は当事者同士。書面化のみ弁護士・会計士に頼む。10億円以下の案件なら弁護士を入れず税理士or会計士が参加する程度でよい。
 基本合意書締結後、DD(デューディリジェンス)を行い正式契約締結(クロージング)まで3-6ヶ月が一般的。1年は長い。
 DD(デューディリジェンス)などで隠れた債務が出てくれば破談。シナジー効果(相乗効果)の見誤りも破談の原因。
 買収資金の調達は対象会社の資産・キャッシュフローを当てにして借入でまかなう方法がある:「レバレッジド・バイアウト」(LBO)。少ない投資資金を使って高い投資効率を上げることを「レバレッジ効果」と言う。

 Ⅵ DD(デューディリジェンス):身上調査
 DDは婚約後の身上調査に当たる。買い手側が、売られる会社(対象会社)について弁護士などが調べる。
 従来のDD:ビジネスDD(事業の現状・将来性)、財務DD(Ex. 秘密の借金など)、法務DD(Ex. 係争案件はないか)。
 新しいDD:労務・年金DD、不動産DD(Ex. 土地・建物資産評価)、環境DD(Ex. 土壌汚染)、ITDD(Ex. ITシステムの統合)、知財DD(知財の価値評価など)。
 
 Ⅵ-1 法務DD(弁護士が担当)
 まずクライアント(買い手側)からのヒアリング。M&Aの意図を知る。
 開示資料リストを対象会社(売り手、 M&Aされる側)に送り調査。またインタヴュー。
 中小企業だと株券がどこかに行って分からないことがある。株式を反社会的な勢力が持っていることもある。
 「スタンド・アローン問題」:系列企業は親会社に技術・資金など依存し切り離すとやっていけない。
 業務の契約書・議事録などない会社はM&Aで買ってもらうのに不利。
 工業化地域でなく住宅地域だと倉庫はOKだが工場は建てられない。
 
 Ⅵ-2 知財DD
 2002年以降、政府は知財立国を目指す。
知財DDの必要性が高まる。技術、ブランド目当てのDDが増える。
特許権侵害の紛争を抱えていると売り手側にはマイナス。Ex. 青色発光ダイオードで会社が従業員に8億円支払い。
M&Aを理由にライセンサーから契約解除されることがある:チェンジ・オブ・コントロール条項。
日本の新薬メーカーの多くの特許切れ(「2010年問題」)で、新興国の後発医薬品メーカーの買収。
 
 Ⅵ-3 売り手によるDD
 自社の子会社を売る場合などの売り手のDD:「セラーズDD」or「セルサイドDD」。
 入札方式による売却の場合、入札概要書を作るためにDDが必要:「ベンダーDD」。

 Ⅶ 敵対的買収
 敵対的買収は投資ファンドが活躍した2005-2007に盛ん。
 交渉と思わせながらいきなり脅し・プレッシャーをかけての非友好的買収(Bear Hug「ベア・ハグ」)もある。Ex. 楽天によるTBS買収(失敗)
 公開会社(上場会社)の株式のみ敵対的買収が可能。
 金融商品取引法に「5%ルール」があり、買収者が5%を超えて株式を保有したときは大量保有報告書を提出。その後、1%以上増減ごとに報告義務。経営陣はM&Aが予想できる。
 TOB(公開買付):M&Bの意図を公表し買付価格を明示し市場外で株式を買い集める。第3者による「対抗的TOB」にさらわれる可能性もある。
 委任状勧誘:買収者が株主に委任状を送付し、株主総会における議決権を自分に代理行使させるよう勧誘。会社側も委任状勧誘を行い、委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)が起こる。買収等、組織再編の議案は3分の1超の委任状で否決できる。
 
 Ⅶ-1 事前警告型防衛策
 株主総会でルール:20%以上の株式取得したときは取得の目的などを開示、さもないと対抗のため新株予約権を発行する。
 
 Ⅶ-2 買収阻止のホワイトナイト
 買収阻止のホワイトナイトは第3者割り当て増資を引き受けるor対抗的TBOをかける。ただしホワイトナイトが実は性が悪いことがある。
 
 Ⅶ-3 MBO(マネッジメント・バイアウト)
 経営者が公開買付で自社株を買い、上場廃止する。究極の買収防衛策。Ex. サンスター。
 
 Ⅶ-4 投資ファンド、スティール・パートナーズによるブルドッグソース買収事件
 経営陣の買収防衛策について株主総会が80%の賛成。経営者の保身のための買収でないとみなされた。スティールは23億円の金銭補償受け取り撤退。しかし泥棒に追い銭で問題。
 
 Ⅶ-5 株式持合いによる買収防衛
 経営者の保身のためということもある。

 Ⅷ M&Aの正式契約(最終契約):結婚
 M&Aの基本合意書締約・公表→DD(デューディリジェンス)→正式契約→M&A実行日(クロージング)。
 Ⅷ-1 対等合併
 2005年、第一製薬と三共の対等合併では合併比率が1:1.159。
会社法上は「吸収合併」と「新設合併」がある。「新設合併」は上場申請、許認可、事業免許再取得など煩雑である。このため多くは「吸収合併」である。
 
 Ⅷ-2 何をいくらで買うのか?M&Aの対価の決め方
 もめる対価の決め方:(1)DCF法:企業の将来の収入を事業計画などから評価。(2)時価純資産法:固定資産で評価。ヒト、ノウハウ、営業権などを評価しないのでIT企業などにはむかない。(3)類似会社比準法
 対価の一部後払い、追加払い規定もある。
 一定規模以上のM&Aについては、合併比率等が適正かどうかについて第3社による適正意見(フェアネス・オピニオン)を取る。これを参考に取締役会が比率を決議し株主総会が承認。
 
 Ⅷ-3 売り手の「表明保証」
 買収後、何かの問題が起きたときのための売り手による「表明保証」。財務諸表が適正、訴訟がないなどの表明。買い手は問題があれば、表明保証違反を売り手に対し問える。
 
 Ⅷ-4 「誓約条項」(コベナンツ条項):売り手・買い手が行うべき義務
 契約締結日からクロージングまでの義務として事業の現状維持、一定額以上の投資や借り入れ制限など。
 クロージング後の競争避止義務、従業員の勧誘禁止など。
 
 Ⅷ-5 「補償条項」
 「表明保証」、「誓約条項」違反への補償を規定。Ex. クロージング1年以内の瑕疵は売り手の負担。
 
 Ⅷ-6 M&Aの最終段階or実行日(クロージング)
 M&A後、役員・従業員をどうするかで、しばしばもめる。
 合併後の会社名の問題。Ex. 川崎製鉄とNKKは全く新しい名称JFEを採用。
 花王とカネボウのM&Aはカネボウの労組が花王への営業譲渡に強く反対し正式契約の直前で破談となる。
 国内売上高が一定規模以上のM&Aは公取委への届出義務があり、届出受理後30日間はM&Aの実行はできない。競争を制限すると判断されると排除命令が出る。
 海外の競争法当局の審査への対応。Ex. パナソニックの三洋電機買収は両者の電池事業のシェアが高いため審査が長引く。
 M&Aの実行前にひとつの企業のように振舞うこと(「ガン・ジャンピング」)はカルテル行為として禁止。

 Ⅸ ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)の問題
 DAY1に一気呵成にやることもあるが、一般的にはDAY100(クロージングから100日間)で順次積み上げていくことが大切。
 いつまでも「たすきがけ人事」ではだめ。基本は人の問題。

 Ⅹ M&Aの失敗:離婚
 M&A後、3-5年やっても成果が出なければ別れる。Ex. ダイムラー=ベンツによる米クライスラー買収の失敗。経営方針と技術思想の違い。
 合弁会社(50:50)では「デッドロック」(株主総会や取締役会で賛否が分かれて決議できない状態)も多い。
 M&A解消の通常の方法は株式の譲渡である。どちらか一方が他方に譲渡するか、第3者に売る。
 救済型M&Aの成功例:経営不振になった東ハトをファンドがてこ入れし企業価値向上させ、山崎製パンに売却。その子会社となる。ステークホルダーが皆ハッピー。

 ⅩⅠ 幸せなM&Aが日本を救う
 (1)技術をM&Aで買う。
 (2)新規事業立ち上げの時間をM&Aで買う。
 (3)海外進出のため海外子会社をM&Aで買う。特に地方企業は海外に活路を見出すため、海外企業をM&Aする。Ex. 熊本の味千ラーメンは中国に420店舗展開。また今は円高でM&Aのチャンス。Ex. 2007年、JTによる英タバコ大手ガラハーの買収(2.2兆円)。
 (4)中小企業が2001-6年の5年間で約10%減少。事業継承がうまくいかず廃業が多い。M&Aする側にとってチャンス。Ex. 60-70代の創業者の後継者難。大田区のものづくりの中小企業が多く廃業。技術・職人(従業員)が失われないためにM&Aされる必要あり。
 (5)海外企業の日本企業買収。Ex. レナウンは事実上、中国企業に買収される(資本業務提携)。
 (6)救済型M&A
 2009年10月設立の企業再生支援機構は官製ファンドでウィルコム、日本航空を支援。救済型M&Aが市場活性化する。(Cf. かつて産業再生機構が官製ファンドとして不良債権処理促進。)
 2009年7月官民出資ファンドの産業革新機構設立。日本の競争力強化のためヴェンチャー企業などに出資。

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『ルポ 児童虐待』朝日新聞大阪本社編集局、2008年、朝日新書

2011-03-08 07:42:38 | Weblog

 

Ⅰ 「鬼の母」:子を虐待死させる

 未熟児の双子を出産。弟が脳性麻痺。1-3歳は幸せな子育て。双子の二人とも4歳になって、母は「子どもさん小さいね」と言われるのが嫌だった。娘(姉)のうまくいかないトイレトレーニング。娘が5歳になってもオムツが取れない。6歳までにオムツを取ると母が目標を立てる。娘(子ども)をつねる。母、ノイローゼになる。娘は食べ物を受け付けず。食べないからと母が頭を小突くと頭蓋内出血、栄養不足、貧血で娘、死亡。

 -2 「鬼の母」自身が虐待の被害者

この母自身、父親に暴力を振るわれて育つ。父親は妻(母)にも暴力。その妻が娘を暴力と言葉で虐待。高校卒業後、好きになった男(夫)のアパートに住むようになる。

 -3 虐待を続けた両親の証言

 厳しいしつけをしたとのこと。

 -4 精神鑑定医の分析

 親からの虐待の記憶は意識に封じ込められていた。自分のいじめられた経験とおむつのことで子供がいじめられるとの予想が重なり、「フラッシュバック」が起こる。親と同じように子をたたくorつねる。①心と体を切り離す「解離」:子どもをたたいたことを覚えていない。②PTSD(心的外傷後ストレス障害)。

 

 Ⅱ 実母による児童虐待

 虐待の主な加害者の6割以上が実母。

A子供がいたずら&食べ物をこぼして汚すとたたく。火遊びをしたとたばこの火を押し付ける。この母親は、子どもの頃5時の門限に1分遅れると指でもぐさを燃やされた。1分につき1個。

 B 母親が義父母と同居のストレスで子どもに往復びんた。二世帯住宅になっても子どもをたたく。二階で足音をしのばせねばならないストレス。どうしたらたたかないですむか相談電話などで相談するが「責められている」ように思われうまくいかない。母親自身、父が酒乱でいつも家族をなぐりちゃぶ台をひっくり返す。「人間のくず」「おまえなど生まれてこない方が良かった」と言われ続ける。

 「親子連鎖を絶つ会」に参加。自分が責められることはない。昔と今の虐待を語る。

 C 3人兄弟の長男と次男はかわいいが、口答えし言い出すと言うことを聞かない真ん中の長女を3歳半から叩く。幼稚園の先生から愛情が足りないのでは言われ、小学校に上がるまでに叩かなくなる。

 

 Ⅲ 母親にのしかかる育児負担

 母親に責任を取らせる育児が虐待につながる。近所に子育てをする人or世間話をする人もいない。大阪人間科学大の1980年、2002-4年の2回の調査で「近所にふだん世間話をしたり赤ちゃんの話をしたりする人がいない」1歳半児で10.5%から21.1%と2倍に。

 

 Ⅳ 児童相談所・一時保護所

 -1 2000年、児童虐待防止法施行

児童相談所は2000年、児童虐待防止法施行でパンク状態。Ex. 「虐待の疑いがあるとの情報」があると 48時間以内に子どもの安否確認」

 児童には「一時保護所」がある。虐待、非行、親の病気など。Ex. 虐待されているのに「家に帰せ!」と騒ぐ少年がいる。

 児相職員は過労。ある児相では年間500件超の虐待相談に十数人の虐待専従班で対応。宿直は24時間態勢。

-2 2003年の岸和田の事件以降

2003年の岸和田の事件。実父と内縁の妻から中3男子が虐待を受けわずか25キロだった。両親は殺人未遂容疑で逮捕。中学の教師から「虐待の疑い」との情報提供があったのに児相は把握できず。

 2004年度から対応会議がしばしば開かれる。Ex. 在宅支援から強制的一時保護へ切り替えるかどうかなど。

 また児童虐待防止法が改正され児相や自治体に通告すべき範囲が虐待を「受けた」児童から「受けたと思われる」児童へ拡大。

 赤ちゃんを乳児院へ保護するに当たり母親が抵抗し児相職員に暴力。

 一時保護所から半数は家庭にもどり半数は児童福祉施設へ行く。

 

Ⅴ 児童擁護施設

 児童擁護施設は全国に約560ヵ所、31000人が暮らす。(元は戦災孤児を引き取る施設だった。)現在、児童全体の約6割が保護者からの虐待。Ex.1 母親と同居の男から5歳の女の子が殴られる。Ex.2 女の子(3歳)の背中にたばこの火。Ex.3 母親&内縁の夫から殴る・蹴るの5歳の男の子。

 危険がないなら週末・連休など一時帰宅あり。

 施設の職員が学校の保護者懇談会にも出席する。施設の子がいるので学級崩壊したとの意見も出る。

 中卒就職、また高卒、18歳超で施設を終わった子の支援も施設職員の仕事。

 -2 サトシ君の場合

 6畳に親子6人の家族。食事も不十分。勧められ、両親が4人の子を施設に預ける。4歳の兄は虐待も受けていたと後でわかる。サトシ君は末っ子で9ヵ月だった。その後、両親は行方不明。

しばらくして母親から連絡あり。母親は再婚し新しく妹2人。彼女らも施設へ。サトシ君は母親としばしば会う。サトシ君は中卒で勤める。母親は再婚相手と別れ、別の男と暮らす。

サトシ君、離婚したばかりの継父と暮らす。そこに母親と新父がサトシ君の給料をあてにして転がり込む。継父、新父、母親、サトシ君の共同生活。

母親、サトシ君の顔に熱湯をかける。テレビが見えないから動けと母親に言われ動かなかったらポットの熱湯をかけられた。

サトシ君、実父を探す。見つけ出し会うが母親が怒る。以後、実父と会わず。

いつか結婚したいが家庭というものが想像できないとサトシ君。

 

 Ⅵ 里親

 里親は4種類ある。1年以内の「短期里親」、親族の子を預かる「親族里親」、期間や条件のない「養育里親」、虐待された子や非行の子を預かる「専門里親」(4ヵ月の研修あり)。

 A養育里親の下に中学の女の子アミさんが来る。かつて数年間、児童擁護施設で暮らす。離婚した両親のうち、まず父親と暮らし虐待を受ける。その後母親と暮らしまたも虐待を受ける。本人の希望で里親の下へ。

 養育里親の夫婦には子がない。将来、養子にしてもよいと里子をとる。

アミさんは他人なのに里親から「家族」と言われるのが嫌で反抗。子どもには「試し行動」(里親を試す)がある。虐待された子は親から受けたこと、ののしりや暴力を里親にする。感謝の手紙をアミさんは「奥さん」(里親)に渡した。「ママのところに帰りたい」とアミさん。高校合格し実母のもとへ一時帰宅。里親は「いつでも帰っておいで!」と言いつつ、帰らないですむことも願う。

B虐待された1歳のハヤトくん。1人の里親が6人まで預かれる。今暮らす里子は1-9歳の6人。4歳のミキちゃんはネグレクト(養育放棄)のため食べ物を飲み込めない。哺乳瓶しか使えない。

 里親は子供たちが親元に帰ることを願って養育する。

 日本は里親が少ないが、アメリカは多い。

 

 Ⅶ 児童虐待の様々のケース

 A 伯父に引き取られた中2女子:伯父がしつけだとゴルフクラブで殴る。傷害罪で逮捕。執行猶予つき判決。

 B  児童虐待の被害者、中2になってパニックになる。暴力的になる。

  C  ネグレクト(養育放棄)。母の暴力、「おまえなど産まなければ良かった」と言われる。小2で施設へ。やがて自傷行為&暴力。中学生になり自宅に一時帰宅のたびに「お前なんか高校に行けるわけない」と言われ、さらに自傷行為、暴力&意識を失う。

 D  母違いの兄弟の世話や家の手伝いで小学校に行かせてもらえず。中学になってもひらがな全部は書けない。中学が特別クラスを作ってくれる。本人に「学びたい」との気持ち。5ヵ月で中2の学力まで向上。後に公立高校、大学へ。

  E  女の子、中1で施設へ。高校入学を機に親元に帰るが母からたたかれ、つねられ再び施設へ。

 

 Ⅷ 回復に向けて

 Ⅷ-1 虐待する親へのグループミーティング

 苦しい不妊治療後生まれた多動傾向の子どもへの虐待。虐待する親へグループミーティング。自分と子どもについてもっと知るためのプログラム。(いい親になるためのプログラムではない。)

 自身も虐待の被害者。父が離婚し再婚。ふたたび離婚し継母が直美さんを引き取るがたたく。6歳の頃、ほうきが折れるまでたたく。その後、父が引き取るが、父、また再婚。新しい継母が直美さんを無視する。17歳で家を出る。

 -2 「仮面のワーク」

 「私は大切な人です」と心を込めて言う。自分が演じてきた仮面をはずす作業。

 -3 さまざまの症状

 ◎マコト君:反応性愛着障害。小学校低学年の男の子。誰彼かまわずに甘え、ついていってしまう。保護者から充分に愛されなかった。

 ◎タカ君:小学校高学年。ひどいネグレクト(養育放棄)で育ち些細なことに暴力的になる。       

 ◎アイちゃん:小学校4年。幼いときから父親にバットやビールのジョッキで殴られる。教師にしがみつく。暴力的になるが後で「知らない」と言う。

暴力人格、赤ちゃん人格、大人びた人格、楽しい人格:四重人格。アイちゃんに4つの人格を受け入れさせる。

つらい経験を自分から切り離す解離性障害:記憶が飛んだり痛みを感じなくる。虐待された過去を自分から切り離したいと思う。治療されないとフラッシュバックが起こる。

父親から受けた虐待をつらくても言わせる。気持ちをはき出すため「お父さんは悪い。絶対許さない」と叫ばせる。

 -4 対策

 ◎ 「見守りネットワーク」:多くの機関が連携する。保育園長、保育士、市役所児童福祉課職員、保健師、児童相談所職員、家庭相談員、生活保護担当のケースワーカー、市の子育て支援センター職員など。

 ◎ 虐待する親が変わるためのプログラムの法制度化が必要。

 ◎ 里親のリクルートだけを任務とする職員が必要。

 ◎ 米国では1995年をピークに虐待件数が大幅に減少。性的虐待は40%減、身体的虐待は30%の減。70年代から児童虐待対策が国の最優先課題。司法、立法、行政、NPOが一丸で対策。

 ◎ 日本では児童虐待対策が国の最優先課題でない。家族が弱者にストレスを向ける。「民事不介入」ではどうにもならない。

 

 Ⅷ 補足

 性的虐待は違った問題をはらむので取り上げていない。


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