宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

J.D.ヴァンス『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(2016年)(その17)「おわりに」私たち(ヒルビリー)が抱える問題を、政府が解決してくれるわけではない!

2020-10-31 14:16:09 | Weblog
「おわりに」(384-398頁) 
A  ヒルビリーの親は、その子のクリスマス・プレゼントの購入資金欲しさに、犯罪に手を染めることがある。彼らは、「親の愛情はクリスマスツリーの下に置かれるプレゼントで評価される」と思っている。彼らは、「こどもひとりにつき200-300ドルの出費を覚悟すべきだ」といった強迫観念に取りつかれている。
A-2 だが裕福な人たちの家では、そうした強迫観念はない。Ex. ウシャ(著者の妻)はよくクリスマスに本を貰っていたそうだ。
B 人々は「富める者と貧しき者」、「教育を受けた者と受けていない者」、「上流階層と労働者階層」というように大きく2つのグループに分かれる。
C 「社会政策は役に立つかもしれないが、私たち(ヒルビリー)が抱える問題を、政府が解決してくれるわけではない。」
C-2 「それを解決できるのは、自分たち以外にない。」

「解説」(渡辺由佳里):トランプは白人労働者層に「悪いのは君たちではない。イスラム教徒、移民、黒人、不正なシステムを作ったプロの政治家やメディアが悪い」と言う!(406-415頁)
D 白人労働者層は、プロ政治家を「胡散臭く」思っている。彼らは、自分たちを「煙に巻こうとしている」だけだと思う。ニューヨーク生まれの富豪トランプは、「繁栄に取り残された白人労働者の不満と怒り」、そして「政治家への不信感」の大きさをかぎつけた。
D-2 「悲観的なヒルビリー」らは、「高等教育を得たエリート」たちに「敵意と懐疑心」を持っている。
D-3 ヒルビリーにとっては、リベラルの民主党は「ディバーシティ(多様性)」という言葉で「黒人や移民」だけを優遇している。そして知識人は、自分たちを「白いゴミ」として馬鹿にする鼻持ちならない気取り屋だ。
D-4 トランプは白人労働者層に「悪いのは君たちではない。イスラム教徒、移民、黒人、不正なシステムを作ったプロの政治家やメディアが悪い」と言う。
D-5 「トランプの支持者は暴力的」と言われるが、それは外部の人間に対する攻撃性であって、支持者同士は仲間であり「とてもフレンドリー」だ。
D-6 ヴァンス(著者)が生まれ育った「アメリカ中西部」だけでなく、「古い産業が廃れ、失業率が高くなり、ヘロイン中毒が蔓延するアメリカの田舎町」ではみな「トランプ現象」が起きている。

「解説」(渡辺由佳里)(続):「職を与えられても努力しない白人労働者」がいる!
E  ヴァンス(著者)は「職さえあれば、ほかの状況も向上する、仕事がないのが悪い」というヒルビリーたちの言い訳に批判的だ。「社会や政府の責任にする」ムーブメントに批判的だ。
E-2 「職を与えられても努力しない白人労働者」がいる。「遅刻と欠勤を繰り返し、解雇されたら、会社に怒鳴り込む」同僚がいる。「政府の援助を受けずには自立できないのに、それを与える者たち牙をむく隣人たち」もいる。そして「ドラッグのためのカネを得るためなら、家族や隣人から盗み、平気で利用する人たち」がいる。
E-3 困難に直面した時のヒルビリーの典型的な対応は、「怒る、大声で怒鳴る、他人のせいにする、困難から逃避する」というものだ。
E-4 「将来に希望を抱くことができない。」それが人のエネルギーを殺す。周囲の大人が「努力しても無駄」と思い込んでいる時、「子どもが、希望を抱けるはずはないし、努力の仕方を学ぶこともできない。」
E-5 ヴァンス(著者)は言う。「オバマやブッシュや企業を非難することをやめ、事態を改善するために自分たちに何ができるのか、自問自答することからすべてが始まる。」
F その後、「白人労働者が情熱的に応援したトランプ大統領」は「オバマケア」(医療保険改革制度)を廃止し、多くの国民(その大部分は低所得のヒリビリーたち)が健康保険を失った。

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石井桃子(1907 – 2008)『ノンちゃん雲に乗る』(1951年):新憲法、民主主義、平和主義、文化国家が称揚された時代にふさわしい家庭像、子育て像を示す!

2020-10-30 19:15:51 | Weblog
(1)
「ある春の朝」①ノンちゃんは、ある春の朝、おかあさんとにいちゃんが、自分に黙って東京に出かけたので、悲しくて泣いた。②ノンちゃんは木に登り、「ひょうたん池」に映る空を覗いていたが、誤ってノンちゃんは池に落ちる。気がつけば、そこは水の中の空(※水に映る空!)。
(2)
「雲の上」③池の中の空の雲の上に、白いひげを生やした「身の上相談所」のおじいさんがいて、熊手ですくって助けてくれた。(その後、ノンちゃんはおじいさんに、自分や家族の身の上を話す。)④ノンちゃんのクラスにはガキ大将の長吉がいると、まずノンちゃんは話した。
「ノンちゃんのお話」⑤それから、ノンちゃんがおじいさんに、ノンちゃんの『生い立ちの記』を順番に話していく。
1.「ノンちゃんの家」⑥ノンちゃんは、東京の四谷に住んでいた。5歳で赤痢になり、死にかかる。⑦奇跡的に回復したあと、ノンちゃんたちは郊外の家に移る。
2.「おとうさん」⑧ノンちゃんは、おとうさんと話をして、色々なことを教えてもらう。
3.「おかあさん」⑨ノンちゃんはおかあさんが好きだ。
4.「おかあさんつづき―にいちゃんのよくばり」⑩にいちゃんは、なんでも欲しがる。よくばりだ。
5.「にいちゃん―にいちゃんのあだ名」⑪「根っこ」の坊主(重い)。「カニ君」。「ムサシ坊」(劇で役をやった)。
6.「にいちゃんつづき―にいちゃんぶたれる」⑫にいちゃんは、「面白いから」と自動車の前に何度も飛び出し、「人に迷惑をかけた」ので、にいちゃんが父にぶたれた。
7.「にいちゃんつづき―にいちゃんのいじわる」⑬にいちゃんは、チャンバラごっこの「那須ノ与一」が好きだ。
8.「にいちゃんつづき―にいちゃんとエス、にいちゃんのうそつき」⑭エスは捨て犬で、にいちゃんがひろってきた。⑭-2 にいちゃんが、おかあさんが縫っていた大切な座布団に、汚い足跡をつけたのになかなか認めなかった。(にいちゃんは座布団があるのに気づかかなかったのだ。)
9.「ノンちゃんのある日」⑮小学校2年生のノンちゃんが、級長になるようにと、先生から言われた。
(3)
「おじいさんのお話」
1.「ある日のにいちゃん」⑯にいちゃんが、メダカをとった。
2.「はな子ちゃんの冒険」⑰はな子ちゃんが、海でおぼれそうになった話。
「小雲に乗って」⑱《うそをつかないと家には帰れない》という試験をノンちゃんが、おじいさんから課された。
(4)
「家へ」⑲ノンちゃんが目覚める。おかあさんが泣いていて、おじいちゃんやおばあちゃんもいた。(ノンちゃんは木から落ちて昏睡したのだ。《ノンちゃんが雲に乗った》のは、昏睡中の夢だった。)
「それから」⑳《雲上大旅行》をしてきたノンちゃんは、やがて回復し、学校にもどりクラスの級長になった。
(5)
著者が『ノンちゃん雲に乗る』を書き始めたのは1942年、35歳の時だ。(出版は1951年。)
(5)-2
小説の中のノンちゃん(田代信子)は小学校2年(8歳)の女の子だ。ノンちゃんは1924年生まれと考えられるから(後述)、ノンちゃん(小2)が雲に乗ったのは、1932(昭和7)年だ。Cf. なおノンちゃんは著者自身と思えるが、著者が小学校2年だったのは1915(大正4)年だから、小説のノンちゃんの時代つまり1932(昭和7)年と異なる。
(6)
その5年後、ノンチャンのお父さんが、1937年の「北支」の戦争について医者の田村先生と話しながら、「うちの坊主も兵隊になって出ていくことになるかもしれない」と言った。この時、ノンちゃんは「女学校に入ったばかり」だから13歳だった。(したがってノンちゃんは1924年生まれと想定されている。)
(6)-2
ノンちゃんと同じクラスの「ガキ大将だった長吉」は戦争に行って帰ってこなかった。(彼は1944年、20歳で出征したと思われる。)ノンちゃんの兄は2歳年長だから1922年生まれで、1937年には15歳だ。ノンちゃんの兄も、戦争に行った(おそらく1942年、20歳で出征した)が、帰ってきた。

《感想1》ノンちゃんは「全甲」(オール5)で級長。おとうさんはインテリでホワイトカラーor経営者のようだ。おかあさんは歌が上手で、音楽学校に入学したい気持ちもあった。おかあさんは良家の出だ。またノンちゃんの家には本がたくさんある。
《感想1-2》小説のノンちゃんのにいちゃんは中学(13歳、1935=S10年入学)、ノンちゃんは女学校に進学(13歳、1937=S12年入学)している。Cf. 旧制中学(男子)への進学率は約7%(S15年)、女学校への進学率は約15%(T14年)だった。(戦前その後、女学校進学率は約24%まで上昇する。)
《感想2》ノンちゃんは素直な子で、頭もいい。中層以上のリベラルな家庭に育つ。
《感想2-2》『ノンちゃん雲に乗る』(1951年)は、新憲法、民主主義、平和主義、文化国家が称揚された時代にふさわしい家庭像、子育て像を示し、本はベストセラーとなった。
《感想3》おカネのある知識階級的・文化的な幸せな家庭。そこの女の子の成長の物語。妬(ネタ)ましい気もする。(評者は、下層の家に生まれた。)

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浮世博史『もう一つ上の日本史』(42) 百田氏の誤り:①「元寇」の語を使わないのは、当時「蒙古襲来」と言っていたため!②「倭寇」は当時の言葉で、「我が国を貶める」意味はない!③「倭」に悪い意味はない!

2020-10-29 14:35:08 | Weblog
(42)
P 百田尚樹『日本国紀』は「今日の日本の歴史教科書では『元寇』という言葉は相手国に対する侮蔑的な意味を含むため使用しない傾向にある。それなら我が国を貶める『倭寇』という言葉の使用もおかしい」(百田122頁)と述べるが、これは二重に誤りだ。(下記①②!)
P-2  ①教科書が「元寇」という言葉(江戸時代から使われた言葉)を改めたのは、当時(鎌倉時代)の言葉でないからだ。当時は「蒙古襲来」だった。
P-3  ②「倭寇」に「我が国を貶める」意味はない。「倭寇」は当時(室町時代)の言葉で、侮蔑的意味はない。Cf. 「倭寇」が侮蔑的意味を持つようになったのは20世紀になってからだ。朝鮮出兵や日中戦争の日本の攻撃が「倭寇」と揶揄されるようになったからだ。
P-4 ③百田氏は「『倭』は・・・・決していい意味を表す文字でない」(百田17-18頁)と言うが、「倭」は「従順な」「ゆだねる」「うねった」(『説文解字』)を意味し、悪い意味でない。(Cf. 「矮」(ワイ)とは異なる。)

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 「てなし娘」(46)『フランス民話集』岩波文庫:近親相姦的な感情を妹に抱いた兄に対する神(or語り手)の冷淡!

2020-10-29 11:35:21 | Weblog
(1)
兄と妹が一緒に暮らしていた。父母はもう死んでいなかった。兄には妻がいた。だが兄は妹をかわいがり、自分のお粥は、必ずまず1匙すくって妹に食べさせ、また夕方、家に戻ればまず妹にキスをした。兄の妻(兄嫁)は「腹黒い女」で妹にやきもちを焼き、魔女に会いに行って訴えた。
《感想1》兄の妻は「腹黒い女」と思えない。兄の態度が問題だ。兄は、むしろ妹と結婚すればよかったのだ。近親相姦の匂いがする。
(2)
魔女が兄嫁に言った。「お前の旦那が飼っている《子犬》を溺れさせ、『妹がやった』と旦那に言えばいい。」兄嫁は言われた通り《子犬》を溺れさせ、夕方、帰ってきた夫に、「あんたの妹が《子犬》を溺れさせた」と嘘を言った。兄が妹に問いただした。妹はただ「私がやったかどうかは、神様がご存じよ」と答えた。
《感想2》妹は「自分がやってない」とも「自分がやった」とも言わない。「神様がご存じよ」と答えた。兄は、兄嫁の証言のみで、妹の証言が取れないので、判断を保留した。
(2)-2
兄は今まで通り、お粥の最初の一匙を妹に食べさせた。
(3)
兄嫁はまた魔女に会いに行った。魔女のアドバイスで、兄嫁は、旦那の立派な《馬》の尻尾を引っこ抜き、夕方、帰ってきた夫に、「あんたの妹があんたの《馬》の尻尾を引っこ抜いた」と嘘を言った。兄が妹に問いただした。妹はただ「私がやったかどうかは、神様がご存じよ」と答えた。
《感想3》妹は「自分がやってない」とも「自分がやった」とも言わない。「神様がご存じよ」と答えた。兄は兄嫁の証言のみで、妹の証言が取れないので、判断を保留した。(※《子犬》を溺れさせた時と同じ。)
(3)-2
兄は今まで通り、お粥の最初の一匙を妹に食べさせた。
(4)
兄嫁はまた魔女に会いに行った。魔女のアドバイスで、兄嫁は、旦那の《息子》を鍋で煮て殺し、夕方、帰ってきた夫に、「あんたの妹があんたの《息子》を鍋で煮て殺した」と嘘を言った。兄が妹に問いただした。妹はただ「私がやったかどうかは、神様がご存じよ」と答えた。
《感想4》妹は「自分がやってない」とも「自分がやった」とも言わない。「神様がご存じよ」と答えた。兄は兄嫁の証言のみで、妹の証言が取れないが、ひどい事件(事実)が3回も起こり(《子犬》《馬》《息子》)、しかも兄嫁が3回続けて「妹がやった」と言うので、ついに兄は「妹がやった」と判断するに至る。
(5)
兄が妹に言う。「お前のしたことはひどすぎる。お前を殺しはしないが、森に行く。」兄は妹を連れて森に行き、妹の両手を切り落とした。
《感想5》生きた人間の両手の切断とは、何という残酷。ただ殺しはしなかった。兄は妹を愛していた。殺せなかった。(ただし近親相姦的な愛だ。)妹にとっては言われのない無実の罪だ。(Cf. 神の信仰を試す試練だったのかもしれない。)
《感想5-2》兄嫁の焼きもち(=嫉妬)はすさまじく恐ろしい。妹を家から追放し、夫にその妹の手を切断させた。兄は、悲しくつらい決断をした。兄は妹を(近親相姦的に)愛し続けていた。
(6)
兄が妹を森に残し、立ち去ろうとした時、サンザシのとげが兄の足に刺さった。妹が言った。「神様のお許しにより、私の『両手』でとげを抜ける時まで、とげが兄さんの足の中で根を張りますように。」
《感想6》妹はこれまで3度、「神様がご存じよ」とのみ言った。そして今回、妹は不可能な条件(切断されすでに存在しない「両手」で兄の足のとげを抜く)を提示したうえで、「神様のお許し」(奇蹟)のみがその不可能を可能にすると言った。
《感想6-2》妹にはすでに「両手」がない。だから「私(妹)の『両手』で(兄の足の)とげを抜ける」ということはこの世界の事実としてはありえない。妹は「神様のお許し」(奇蹟)がない限り、兄は「サンザシのとげ」の痛みに苦しめと願った。妹の《呪い》だ。
(7)
妹は森でたった一人、しかも両手なしで何とか飢えをしのいでいた。あるとき、王子が妹を見つけた。その娘(妹)があまりに美しいので、王子は娘を城に連れて行った。王子の母は、両手のない娘(「てなし娘」)と王子が結婚することに反対したが、王子は「身の回りの世話には召し使いを雇います」と反論し、娘と結婚した。
《感想7》王子は「両手のない娘」(「てなし娘」)と結婚した。すごいことだ。美人であるだけでなく、人柄・人格が魅力的だったのだ。そして「身の回りの世話には召し使いを雇います」と、さすがに王子は、経済的に裕福だ。(カネがある!)
(8)
やがて王子と娘の間に、双子の男の子が生まれた。だがその時、王子は戦争に出かけていた。母親が「二人の男の子が生まれた」と手紙を書いて王子に送った。ところがこの手紙が魔女の手に渡り、魔女が「二匹の黒い子犬を産んだ」と書き換え、その手紙が王子に送られた。
(8)-2
手紙を受け取った王子は驚き嘆いたが、次のように返事を書いた。「二匹の黒い子犬は生かしておくように。城に戻ったら、どうするか自分で決める。」
《感想8》魔女は、娘が不幸になること、娘の幸福を阻止することを目指す。娘の兄嫁の依頼(嫉妬、妬み)に忠実だ。だが王子は娘を愛している。そして自分の目で確かめるまで「母親の手紙」が語る内容を信じない。
(9)
再び、魔女が王子の返信の手紙を手に入れ、その内容をも書き換えた手紙とすり替え、王子の母親に届けた。そこには「二人の子ども(=二匹の黒い子犬)を殺し、妻(娘)も殺すように」と書いてあった。
《感想9》何という悪辣な魔女だ。魔女は(ア)兄嫁の依頼(嫉妬、妬み)に忠実というだけでなく、(イ)人(娘)が不幸になることを望む。
(10)
王子からの(魔女によって書き換えられた)返事を受け取った王子の母は、嫁(娘)にむかって言った。「とてもあなた方を死なせたり、殺したりすることは出来ません。さあ出発しなさい」と3人(「てなし娘」と2人の子ども)を城から立ち去らせた。
《感想10》王子の母親は、「二匹の黒い子犬」が生まれたなどと手紙を書いていない。「二人の男の子が生まれた」と手紙を書いて王子に送った。だから、「二人の男の子」も「娘(妻)」も殺すようにと返事を書いてよこした王子が《狂った》と思ったはずだ。だから王子の指示に従わず、「死なせたり、殺したり」せず3人(「てなし娘」と2人の子ども)を城から出発させた。
(11)
女は両手がなかったので、「振り分けにかつぐ袋」を作ってもらい、二人の子をそれぞれ背中と前にぶら下げて、城を出て行った。途中、池を通りかかった時、女が、「神様、喉が渇いて死にそうです」と叫ぶと、「お飲み」と声が答えた。女が身をかがめたとたん、子が池に落ちてもがきだした。さあ大変、女には手がないから子を救えない。すると突然、片方の手が生えて、子供を救い上げることができた。
《感想11》「神様」の奇蹟が起きた!手が生えた!(まず1本の手が、生えた。)
(11)-2
また女が叫んだ。「神様、喉が渇いて死にそうです!」するとまた「お飲み」と声が答えた。女が身をかがめたとたん、もう一人の子が池に落ちた。するともう一方の手が生えた。女はその子を救った。
《感想11-2》2度までも「神様」の奇蹟が起きた!女の両手が生えた!
(12)
池の近くに一軒の農家があった。実は池も農家も王子(夫)の領地だった。農家のおかみさんが、こんな風にして逃げてきた女(王子の妻)を、親切にも農場の下働きとして置いてやることにした。
《感想12》下働きを雇える程度の経済力がある農家だ。
(13)
王子は戦地から城に戻った。母親から話を聞き、王子は事情が分かった。①「二人の男の子が生まれた」という王子の母親の手紙が改ざんされ、娘が「二匹の黒い子犬を産んだ」と王子には伝えられたこと。また②「二匹の黒い子犬は生かしておくように」という王子の手紙も改ざんされ、「二人の子ども(=二匹の黒犬)を殺し、妻(娘)も殺すように」という手紙が王子の母親に届いたこと。
《感想13》誰が手紙を改竄したのか、調査して、下手人を探すよう王子と母親は家臣に命じたはずだ。
(14)
王子は直ちに、妻と二人の子どもを探しに出かけた。「死んだにせよ、生きているにせよ、見つけるまで城に戻りません」と王子は言った。やがて王子は2人の子供と、奇蹟によって両手が生えた妻を発見し、一緒に城へ戻ることとなった。王子は、農家のおかみさんに言った。「妻と二人の子を預かってくれたお礼に、この農場を差し上げよう。」
《感想14》神の奇跡は素晴らしい。王子の妻の両手が生えたのだ。彼女は健常者となった。
《感想14-2》農家のおかみさんに、農場をあげた王子も太っ腹だ。
(15)
手紙を改竄しでっちあげの話を書いた魔女は捕まり、火あぶりとなった。
《感想15》「人が不幸になることを望む」魔女は、悪辣だ。誰が手紙を改竄したのか、調査して、下手人を探すよう王子と母親に命じられた家臣が、魔女を捕らえたのだろう。
《感想15-2》だが、当時は「自白」が重視されたから、激しい拷問が行われたはずだ。「改竄した」、「魔女だ」と自白させられ火あぶりになった者が、本当に「改竄」の下手人で、「魔女」だったかは不明だ。
(16)
その後、王子(夫)と妻(娘、妹)と2人の子は、城で一緒に幸せに暮らした。ある日、王子の妻(妹)は、「兄さんの足に刺さったとげに根が生え、どんどん伸びて、とうとう煙突から外へ突き出してしまった」という噂を聞いた。
《感想16》これは、妹の両手を切断し立ち去る兄に、妹がかけた《呪い》だ。サンザシのとげが兄の足に刺さった時、妹が言った。「神様のお許しにより、私の両手でとげを抜ける時まで、とげが兄さんの足の中で根を張りますように。」
(16)-2
王子の妻(妹)は、兄に会いに出かけた。「とげにつかまったのね、兄さん。」「ああそうなんだ。」妹が両手でとげに触れると、途端にとげは抜け落ちた。
《感想16-2》妹に両手が生えたのは神の奇蹟であり、「神様のお許し」だ。切断され失われた「両手」が「神様のお許し」によって復活し、「両手でとげを抜ける時」が来た。かくて妹が「両手でとげに触れると」、足の中で根を張っていたとげが抜け落ちた。妹の《呪い》は解け、呪いの内に含まれていた《予言》が成就された。
(17)
「てなし娘」の物語の終わりは不吉だ。語り手が言う。「それから兄さんがどうなったか、わたしは知らない。」
《感想17》王子の妻(妹)の兄に、「神は祝福を与えなかった」ということだ。兄の以後の人生がどうなるかは、偶然に支配される。(神は助けない!)近親相姦的な感情を妹に抱いた兄に対する神(or語り手)の冷淡だ。

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J.D.ヴァンス『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(2016年)(その16)第15章「何がヒルビリーを救うのか――本当の問題は家庭内で起こっている」!

2020-10-27 11:49:18 | Weblog
第15章 2014年(30歳)、私は1年間の任期で裁判所の書記官の仕事に就き、家庭も築き、アメリカンドリームを実現したはずだった!だが母がまたドラッグを使い始めた!(364-369頁)
S 母がまたドラッグを使い始め、怒った(5番目の)夫から追い出され、離婚。その母のために、私がモーテルを借りた。
S-2 私はイェール大学ロースクール3年間の修了後=2014年、30歳で、1年間の任期で裁判所の書記官の仕事に就いた。家庭も築き、私はアメリカンドリームを実現したはずだった。
S-3 「その昔、二度と母を助けないと誓った」ことがあったが、今は「ずっと昔に捨てたキリスト教の信仰を、おそるおそるではあるが、ふたたび模索していた。」
S-4 私は「母が幼少期に受けた精神的な傷の深さを知った。小さい頃に受けた傷が癒えることはありえない。」私は「母を助けることに決めた。」
S-5 私の心の中には「自堕落な生活を選んだ母に対する怒り」と「悲惨な幼少期しか選べなかった母に対する同情」が同居していた。

第15章-2 「手を差し伸べる」人が必要だ!「安定した家庭」が、将来をコントロールできる自信とやる気を与えてくれる!身のまわりに「お手本になる人」が必要だ!(364-375頁)
T 「“解決策”はないのか」?「魔法のような公共政策」や「政府の革新的な施策」だけで解決できない。「家族、信仰、文化がからむ複雑な」問題だ。
T-2  「根本的な解決」策があるわけでないが、時々に「手を差し伸べること」ならできると、ある友人が言った。(「ホワイトハウスで働いた経験があり、労働者階層問題に深い関心を持つ友人」!)
T-3  私にも、たくさんの人が手を差し伸べてくれた。①「いつもそばにいてくれた祖父と祖母」(母と継父はあてにならなかった)、②「私を暖かく見守ってくれた一族の男たち」(私の父親候補はいつもすぐにいなくなってしまった)、③「多くの問題を抱えながらも、私に生涯続く向学心を与えてくれた母」、④「いつも私を守ってくれた姉リンジー」、⑤「愛し合う幸せな夫婦の姿を、初めて私に見せてくれたおじとおば」、⑥「手を差し伸べてくれた教師、親戚、友人たち」!
T-4 「労働者階級の家庭」で育ったジェーン・レックスは言う。(ア)「安定した家庭が、将来をコントロールできる自信とやる気を与えてくれる。」また(イ)「身のまわりにお手本になる人が必要だ。」(Ex. ジェーンの場合、仲のいい友達の父親が「銀行の頭取」をしていた。その人を見て、「世の中にはまったくちがう人生があるのを知った。」)
T-5 母の世代の年長者の一人ゲイルは、高校を卒業してボーイフレンドと結婚し妊娠したが、黒人の子と分かり、一族の人種差別的な考えから、一族の支援を失った。やがてボーイフレンドとも別れ、彼女は思った。「私の人生は大きく変わった。母親であることが私の存在意義となった。昔はヒッピーだったけど、その時決めた。ドラッグはやらない。お酒は飲まない。福祉施設に赤ちゃんをとられるようなことは、絶対にしない。」その後、ゲイルは地元の電話会社に職を見つけ、のちに大学にも入学した。そして再婚し二番目の夫なったアランと子ども3人に恵まれ、理想的な結婚生活を成し遂げた。

第15章-3 現行の社会福祉制度の「調整」が必要だ:「家族」の範囲を、裁判所は「祖父母やおじ、おば、そのほかの親族」まで拡張すべきだ!(375-379頁)
U 現行の社会福祉制度の「調整」が必要だ。母が逮捕された時、私は「長い間、祖父母と一緒に暮らしてきたので、そのままにしてほしい」とケースワーカーに言った。しかし裁判所が認める「家族」の範囲が、狭い。裁判所は「祖父母やおじ、おば、そのほかの親族」を「家族」とみなさない。しかし彼らが子どもに対して果たす役割は、「ヒルビリー」(白人労働者階層)、黒人、ヒスパニックの場合、極めて大きい。
U-2 私の場合、「祖父母と暮らしてよい」と「裁判所」が決定したので良かったが、「里子に出される」決定もあり得た。
U-2-2 しかも州によっては、「里親」に公的資格(Ex. 看護師、医師)が必要とされる場合があり、これでは「祖父母やおじ、おば、そのほかの親族」が里親になれない。

第15章-4 低所得層の家庭の子どもを、別の階層の子どもたちと一緒にできれば、向上心を芽生えさせられる!私は、「学校でいい成績をとるのは『女々しい』ことだ」と思っていた!(379-383頁) 
V 私の母校の教師たちが言ったように「多くの生徒にとって、本当の問題は家庭内で起こっている」。
V-2 貧困者向け家賃支援制度「セクション8」で、「貧困層が狭い地域に閉じ込められる」のは誤りだ。その地域が「絶望の大きな吹きだまり」になるからだ。
V-2-2 「低所得層の家庭の子どもを、別の階層の子どもたちと一緒にできれば、向上心を芽生えさせられる」。
V-3 私は、子供の頃、「学校でいい成績をとるのは『女々しい』ことだ」と思っていた。「勉強して、いい成績を取るなんて『お嬢様』か『オカマ』のやることだ。」
V-3-2 「男らしさ」とは「強さや勇気や闘いを恐れない心」だ。そしてもう少し成長してからは「女の子にモテる」ことだった。
V-3-3 「周りの子どもが全員、そう思っていたことは確かだった。」

《感想1》「強さや勇気や闘いを恐れない」肉体的能力のほかに、知的(頭脳的)能力もある。(Ex. 国家資格、経営能力、行政能力、軍事的指揮能力等々)。知的(頭脳的)能力を向上するためには、「勉強していい成績を取る」ことが最も効率的な方法だ。
《感想1-2》私見では、「勉強していい成績を取り」知的(頭脳的)能力を高め、かつ肉体的能力にも支えられ「強さや勇気や闘いを恐れない心」を持つことが、真の「男らしさ」(あるいは「女らしさ」)だ。

《感想2》「公正」な競争の勝者は讃えられねばならない。だから競争が「不公正」であってはならない。(「機会の平等」の保障!)
《感想2-2》不公正な競争の勝者がエバル(「勝者」ぶって、そうでない者を「怠け者」・「無能者」扱いする)のは許せない。(Ex. 「いい家」「カネのある家」に生まれて勝者になった者は、「公正」でなかったのではないかと自己検討すべきだ。)
《感想2-3》さらに「能力あること」(競争の公正な勝者)は、別に「善」ではない。(特に褒められることでない!)「自分が成功し、イイ思いをする」だけだ。(もちろん、うらやましがられる事ではある!)能力ある者を他者が称賛できるのは、彼/彼女が「他者たちの幸福のためにも行動する」場合だけだ。

《感想3》「競争」は悪でない、「競争」の勝者は讃えるべきだ。「公正な」競争を奨励すべきだ。(Cf. 小学校などの運動会で「順位をつけない」徒競走があるとすれば、誤りだ。)その上で、(とりわけ子供たちに関しては)「勝者」が「他者たちの幸福のためにも行動する気持ち」になるよう指導すべきだ。

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浮世博史『もう一つ上の日本史』(41) 百田尚樹氏は足利義満の「皇位簒奪計画」を主張するが根拠がない(誤りだ)!百田氏は「義満が暗殺された」と断言するが、根拠がない(誤りだ)!

2020-10-23 11:52:34 | Weblog
(41)百田尚樹氏が断言する足利義満の「皇位簒奪計画」は否定されている!
O 百田尚樹『日本国紀』は、足利義満の「皇位簒奪」計画に言及し、これは「皇位簒奪であり、皇統を破壊する企みであった」(百田120)と断言する。しかし、これは誤りだ。『室町の王権、足利義満の王権簒奪計画』(中公新書、1990年、今谷明)の仮説は史料の批判的・実証的研究が進み、今は否定されている。
O-2 足利義満の「皇位簒奪」計画とは、《義満が次男・義嗣(ヨシツグ)を皇太子に立て、天皇となったあかつきには、天皇の父(上皇)として権勢をふるおうとした》という計画である。(今は否定された仮説!)

(41)-2 百田氏は「義満が暗殺された」と断言するが、根拠がない!
O-3 百田氏は「研究者の中には、[義満が]暗殺[毒殺]されたと見る者も少なくない」(百田121頁)と述べるが、これは二重に誤りだ。①義満は「暗殺されていない」。荒唐無稽な話だ。(これが研究者の共通意見!)また②暗殺されたと見る研究者が「少なくない」というのは誤りだ。暗殺されたと見る研究者は「いない」と言ってよい。

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J.D.ヴァンス『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(2016年)(その15)第14章「自分のなかの怪物との闘い――逆境的児童期体験(ACE)」!

2020-10-21 12:47:45 | Weblog
第14章 イェール大学ロースクール2年目・3年目(2012-13年、28-29歳):人は幼少期にひどい経験をしたからといって、それを一生の免罪符にすることはできない!(346-363頁)
R  2012年9月(28歳)イェール大学ロースクール2年目が始まる頃、私は達成感を味わっていた。①夏休みに合衆国上院でアルバイトをし、①-2新しい友人とその経験の獲得。②美しい恋人がいて、③法律事務所での素晴らしい仕事も手に入りつつある。
R-2  逆境に打ち勝った自分を褒めてやりたい気分だった。私は(ア)生まれ育った町を、(イ)薬物依存症の母を、(ウ)自分を見捨てた父親たちを超えたのだ。祖母と祖父に今の自分の姿を見せられないのが、残念でならなかった。
R-3  だがすべてがうまくいっているわけでなかった。ウシャが言った。「あなたは亀よ。」「逃げ込むための甲羅を背中にしょっているみたいだ。」
R-4  初めてウシャ(恋人・妻)の実家を訪れた時、うちの中の雰囲気が穏やかなことに驚いた。
R-5 私や姉リンジーが体験したことは「逆境的児童期体験(ACE)」と呼ばれるものだ。子供の頃のトラウマ体験だ。(a)親からののしられ、侮辱される、(a)-2突き飛ばされ、殴られる。(b)家族が助け合っていないと感じる。(c)両親が別居あるいは離婚。(d)アルコール依存者や薬物依存者と同居。(e)うつ病患者、あるいは自殺未遂経験者と同居。(f)愛する人が身体的虐待を受けるのを目にした。
R-6 労働者階層では40%が子供の時、何度もACEを経験する。非労働者階層では29%。
R-7 何度もACEを経験した子どもは①不安神経症や鬱病になりやすい、②心疾患や肥満、特定の種類のがんのリスクが高まる、③学校の成績が下がる、④大人になって人間関係に悩む確率が高い、⑤怒鳴られる回数が多いと子供は安心感が持てなくなり、心のバランスを崩し、問題行動を起こす。
R-7 熊と会ったときの「闘争・逃走反応」の日常化!一年中、熊(アルコール依存症の父、精神的に不安定な薬物依存の母親)がいるので、子供はいつでも闘争、あるいは逃走する準備を整えている。子供の脳内に「争いに対処する回路」ができる。
R-8 「家庭内不和を始めとする不安定な人間関係」がもたらす「負の連鎖」。Ex. 十代で暴力癖のある男と結婚、十代で出産と離婚。
R-9 「自分のなかの怪物」、「自分の中に昔から住みつく悪魔」、「過去の自分」との闘いには「ウシャ(恋人・妻)の助けが不可欠だった。」
R-10 とはいえ「人は幼少期にひどい経験をしたからといって、それを一生の免罪符にすることはできない。」(361頁)
R-11 イェール大学ロースクール修了式(2014年、30歳):「ウシャと私はついに修了式をむかえた。」

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『伊勢物語』(Cf. 在原業平825-880)「第20段 楓(カエデ)のもみぢ」:男が私の思「ひ」の色、つまり《ひ=緋》の色と女を気遣うが、女は《秋=飽き》の「もみぢ」の赤い色と男を恨む!

2020-10-21 09:35:04 | Weblog
むかし、男が、大和に住む女を見て、言い寄って情を通じた。男は宮仕えする人だったので、しばらくして京へ帰った。その途中、三月頃だったが、楓の木の「もみぢ」(若葉が赤くなっているもの)のとても美しいのを折り取って、女のもとに、歌と共に送った。

「君がため手折れる枝は春ながらかくこそ秋のもみぢしにけれ」I cut off a twig of a maple tree for you. It’s spring, but its leaves turned red as if it were autumn. I love you.(あなたのために折り取った楓の木の枝は、春なのに、このように秋の「もみぢ」の赤い色になっています。私の思「ひ」の色、《ひ=緋》の色に染まったのです。)

女は返事を、男が京に着いてから、持ってよこした。

「いつのまにうつろふ色のつきぬらむ君が里には春なかるらし」While some time has passed, the leaves have turned red, that is, you have changed your mind. The place where you live probably has no spring season.(いつの間にあなたに《うつろふ色=心変わりの色》がついてしまったのでしょう。あなたの住むところには《秋=飽き》の「もみぢ」の赤い色ばかりで、春はないのでしょう。)

《感想1》男は、「楓(カエデ)のもみぢ」、つまり「楓」が春なのに、秋の「もみぢ」の赤い色になっていることを、私の思「ひ」の色、つまり《ひ=緋》の色に染まったと、女に気を遣う歌を詠んだ。
《感想2》これは、男の言い訳なのだ。女はわかっている。女がはっきり言う。いつの間にかあなたに《うつろふ色=心変わりの色》がついてしまった!
《感想2-2》あなたの住むところ(京)には《秋=飽き》の「もみぢ」の赤い色ばかりしかないのでしょう。女は、男が自分に飽きたのだと恨む。
《感想3》恋の終わりの悲しいやり取りだ。

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浮世博史『もう一つ上の日本史』(40) ①「南北朝の動乱」:百田氏は「室町幕府の権力基盤」がなぜ「脆弱」かを、説明しない!②「足利義満の権力の確立」:百田氏は「守護大名」に全く触れない!

2020-10-20 13:24:52 | Weblog
(40)「室町幕府」①「南北朝の動乱」:百田氏は「室町幕府の権力基盤」がなぜ「脆弱」だったかを、全く説明しない!
M 百田尚樹『日本国紀』は「室町幕府の権力基盤は実に脆弱で、政敵を倒すためには天皇の後ろ盾が必要だったのである」(百田118頁)と述べるが、百田氏は「室町幕府の権力基盤」がなぜ「脆弱」だったかを、全く説明しない。
M-2 武家社会の「惣領制」(「分割相続」のもとで惣領が一族を率いる)が鎌倉幕府の御家人制度を支えたことに、これまで百田氏はまったく言及しなかった。「惣領」(=嫡子)が御家人となり、「惣領」は一族を率い軍事に参加し,幕府の安堵も「惣領」に対し行われた。
M-3 ところが、蒙古襲来後の「五十年」を通じ「分割相続」から「単独相続」への移行が進む。(分割相続による貧困化を食い止めるための自然な移行だった。)この「惣領制の解体」が「室町幕府の権力基盤」がなぜ「脆弱」かの根拠だ。
M-3-2 「惣領制の解体」、すなわち「分割相続」から「単独相続」への移行が、各地の武士団の内部に分裂や対立を引き起こし、これが尊氏派、直義派、南朝勢力が入り乱れての動乱を引き起こした。(Ex. 観応の擾乱1350-52、or南北朝の動乱1336-92。)(Cf. 北畠顕家・新田義貞1338年戦死。)
M-3-4 「惣領制の解体」は、地方武士団を、「血縁的結合」から「地縁的結合」へと移行させた。
M-4 「政敵を倒すためには天皇の後ろ盾が必要だった」と百田氏は言うが、これに対し浮世氏は、天皇は「武家がそれぞれの権力を拡大し、政敵を倒すために『利用』されていた」のだと言う。

(40)-2 室町時代②「足利義満の権力の確立」:百田氏は「守護大名」について全く触れない! 
N 地方の武士が力を伸ばすと、幕府はこれらを動員するため、守護の権限を拡大させた。すなわち「守護大名」の成立!ところが百田氏は「守護」の「守護大名」への成長に全く触れない。
N-2 有力守護大名が政務を分担して室町幕府は安定した。つまり将軍を補佐する管領(カンレイ)、武士を統率する侍所の設置など幕府機構が整備された。こうして足利義満(将軍職1368-94)の権力が確立する。(管領には斯波,細川,畠山の3家が,侍所頭人には赤松,一色,山名,京極の4家が交代で補せられた:三管四職。このように管領,侍所頭人(トウニン)になる家柄が定まったのは,3代将軍足利義満の代である。)(Cf. 南北朝の合一1392年。)
N-3 また義満は強大化しすぎた守護を抑制・整理した。(Ex. 1390年、美濃・尾張・伊勢の守護を兼ねる土岐氏を討伐:「土岐康行の乱」。1391年、西国11カ国の守護を兼ね、六分の一衆とよばれた山名氏の内紛に介入し山名氏清を滅ぼす:「明徳の乱」。1399年、有力守護大内義弘を討伐:「応永の乱」。)

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『伊勢物語』(Cf. 在原業平825-880)「第19段 天雲のよそ」:「ほかにも男がある女」と分かっては、男としては面白くない!プレイボーイである「男」のプライド!

2020-10-20 09:16:46 | Weblog
「宮仕へ」していた女と情を通じていた男が、間もなくその女と別れた。その後も女は、宮廷内で男を目にする。しかし男が女を全く無視するので、女が歌を送る。

「天雲(アマグモ)のよそにも人のなりゆくかさすがに目には見ゆるものから」You are away from me like a cloud while I can see you still now.(あなたは、空の雲のように遠ざかって行くのですね。まだあなたのお姿が見えると言うのに!)
《感想1》女は、まだ男に未練があるのだ。(だが男は、女に冷たい。それが、男の返歌からわかる。)
《参考》「さすがに」は「やはりorまだ」の意。「ものから」は助詞で「のに」の意。

男の返しの歌は、次の通りだ。
「天雲(アマグモ)のよそにのみしてふることはわがゐる山の風はやみなり」I am like a cloud. I always away from you because the wind of a mountain blows fast.(私が、空の雲のように遠ざかってばかりいるのは、わたしがいる山の風が速くて雲が飛ばされてしまうからです。)
《参考》「ふる」は「経る」。「はやみ」は「はやし」の語幹「はや」に接尾語「み」で、「はやいので」の意。

男がこう詠んだのは、「ほかにも男がある女だ」との噂を聞いていたからだ。

《感想2》多情は当時の常としても、「ほかにも男がある女」と分かっては、男としては面白くないのだ。プレイボーイである「男」のプライドだ。

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