宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『下町ロケット』池井戸潤(1963生)、2011年、小学館

2014-07-31 10:01:02 | Weblog
  プロローグ
A 種子島宇宙センターで新開発の大型水素エンジン“セイレーン”を使った実験衛星打ち上げ実験失敗:宇宙開発機構。
B 佃航平は、大型水素エンジンの研究・開発に大学で7年、機構で研究員として2年携わる。機構の同僚が三上孝。

  第1章 カウントダウン:佃製作所の苦境(1)京浜マシーナリー、(2) ナカシマ工業
A 京浜マシーナリーより、佃製作所に対し、エンジン部品、来月末取引終了の通告。10億円売上減少。
A-2 経理部長・殿村(白水銀行からの出向)が資金繰りのため3億円の融資が必要と判断。

B 佃製作所は、ロケット用水素エンジンのバルブシステムの特許を持つ。ただし銀行は死蔵特許と評価しない。
B-2 佃社長は、ロケットの打ち上げ失敗の責任を取らされ研究員をやめ、父親の町工場・佃製作所を継いだ。

C 3億円の融資はできないと佃の取引銀行の白水銀行。
C-2 殿村が融資がだめなら、定期預金を取り崩すとの方針。

D 大企業のナカシマ工業が、小型エンジン“ステラ”の技術を、特許侵害したと佃製作所を訴える。
D-2 さらにこれをナカシマ工業が、プレス発表。
D-3 事実は、むしろナカシマ工業側が、佃製作所の特許を侵害。
D-4 ナカシマ工業は、佃製作所の資金繰りが行き詰るのを待ち、和解に持ち込む意図。佃製作所を子会社化して、その技術を手に入れるのが目的。

E ベンチャー・キャピタルのナショナル・インベストメントが、佃製作所の資金繰りを可能にする。
E-2 また佃製作所の特許について、抜けがないように、見直しをアドバイス。

F 神谷弁護士のすすめで、佃製作所が、ナカシマ工業の“エルマーⅡ”を特許侵害で訴える。

  第2章 迷走スターダスト計画(帝国重工):水素エンジンのバルブシステム特許問題
G 帝国重工:藤間社長が「スターダスト計画」推進。大型商用ロケットの開発。そしてキーデバイスの内製化方針。
G-2 本部長・水原、宇宙航空部開発担当部長・財前、宇宙開発グループ主任・富山。

H ところが水素エンジンのバルブシステムの特許を、帝国重工は取れず。その特許は、すでに、佃製作所が持つ。
H-2 帝国重工が特許を20億円で買うと、佃製作所に提案。これに対し殿村は100億円と主張。
H-3 しかし佃社長は「売りたくない」と言う。特許使用許諾契約を提案。

I ナカシマ工業の佃製作所に対する特許侵害訴訟について、「引き伸ばし」をしないようにと裁判長。
I-2 (1)佃製作所のナカシマ工業に対する特許侵害訴訟について、ナカシマ工業が56億円の支払い、また(2)ナカシマ工業側の訴えの取り下げ。以上の内容の和解案を裁判長が提示。両者が受け入れ。

J 帝国重工の財前部長、キーデバイスの内製化方針に反するが、佃製作所と特許使用契約を結ぶしかないと決断。

  第3章 下町ドリーム:水素エンジンのバルブシステム、部品供給か特許使用契約か?
K ナカシマ工業との和解後、佃製作所に白水銀行の支店長が来るが、和解金56億円が支払われたら、白水銀行との取引は解消すると殿村。

L 帝国重工が年5億円、7年間、合計35億円を支払う特許使用契約を提案。

M 特許使用契約でなく、部品供給をしたいと佃社長。エンジンメーカーとしての夢とプライド。新型ロケットエンジン開発は、研究者だった佃社長の夢。

N 帝国重工の財前部長が、佃製作所を見学。売り上げ100億円、従業員200人の小企業にすぎないが「佃品質」「佃プライド」に気づく。部品供給を検討してもよいと思い始める。N-2 ただしキーデバイスの外注は、藤間社長の「部品(キーデバイス)の内製化方針」の例外となる。

O 水素エンジンのバルブシステムについて、部品供給か特許使用契約かで佃製作所内部が分裂。
O-2 若手社員は「特許使用契約にせよ」と要求。「社長の夢になぜ付き合うのか?」「資金繰りに苦労し、いつ路頭に迷うか分からない状況で仕事はできない。」
O-3 「ロケットのキーデバイスを供給することで、商売が大きくなる可能性がある」と、殿村。
O-4 「佃製作所は、社長の技術力と情熱で伸びてきた」との意見もある。

  第4章 揺れる心(佃社長):佃製作所にとどまるか、教授職に戻るか?
A 佃社長に対し、「会社を売る気はないか」と、ベンチャー・キャピタルからの提案。
A-2 社員の反発にあい、佃社長は心が揺れる。

B 宇宙開発機構のかつての同僚、三上、現在は大学教授から、「教授職に戻らないか?ポストがある」と佃社長に、提案。

C 佃社長への両提案は、ともに、帝国重工の「スターダスト計画」本部長・水原の工作だったと後で明らかとなる。帝国重工による特許取得のため、佃製作所買収工作。

  第5章 佃プライド:部品供給を不可としたい帝国重工の評価テスト
D 部品供給企業に対する帝国重工の評価チームが、佃製作所に来る。
D-2 帝国重工の主任・富山は評価テストで、部品供給を不可とし、特許使用契約に持ち込みたい。

E 佃製作所の若手社員など特許使用契約派(=部品供給反対派)は、帝国重工の評価テストに落ちた方が、特許使用契約になるから、その方がいいと思っていた。
E-2 財務評価では、営業赤字が攻撃される。しかし銀行出身の殿村が「佃製作所はいい会社だ」と主張。
E-3 技術評価では、帝国重工側は、手作業の重要性を全く理解しない。
E-4 帝国重工側の見下した態度に、特許使用契約派(=部品供給反対派)が怒る。「プライドの問題だ」、「会社が小さいと思ってナメてんじゃねえ」と発言。

F 帝国重工の評価テスト第2日目、「佃品質」、「佃プライド」のポスターが張られる。
G 佃社長は、従業員の変化に感激し、三上教授に、大学に戻らないと電話する。

H 帝国重工の主任・富山に対し、評価は「公正に行う」と財務評価担当・田村、技術評価担当・溝口。「帝国重工マンとしてのプライド」と言う。財務評価は「優良」、技術評価は「A」。

  第6章 品質の砦:佃製作所の水素エンジン用のバルブは、帝国重工のテストに合格
I 水素エンジン用のバルブのテスト。
I-2 テスト用のバルブ15個のうち1個が異常値を示す。

J 佃製作所の若手従業員で特許使用契約派(=部品供給反対派)の真野が、故意に、不良品と入れ替えた。
J-2 ただしテストの数値を悪くするのが目的で、不合格にまでする気はなかったとのこと。

K 帝国重工の主任・富山は部品供給を不可とし、特許使用契約に持ち込みたいので、納品ミスを認めず、再テストをしない。
K-2 しかし財前部長は、「バルブシステムの特許が競合外国企業等に渡ってはまずい」、「佃製作所からの部品供給も仕方ない」と考える。かくて納品ミスを認め、正規のバルブを受け取り、再テストするよう指示。

L 「部品供給ができないなら、特許使用契約もしない」と佃社長。

M 佃製作所の水素エンジン用のバルブは、帝国重工のテストに合格。
M-2 かくて帝国重工、財前部長は、水素エンジン用バルブシステムの佃製作所からの部品供給を受け入れる決断。

  第7章 リフト・オフ:帝国重工、佃製作所からのバルブシステム部品供給を認める
  (1)帝国重工の新型水素エンジン「モノトーン」燃焼実験、失敗
N 帝国重工の新型水素エンジン「モノトーン」の燃焼実験
N-2 佃製作所が約40種類、80個のバルブを提供。
N-3 ところが燃焼実験失敗!

O 原因は二酸化ケイ素が紛れ込み、バルブがうまく作動せず。
O-2 フィルターに付着していた。帝国重工のミス。

P 「スターダスト計画」水原本部長も、財前部長とともに、佃製作所からの水素エンジンのバルブシステムの部品供給を認める。

  (2)帝国重工、佃製作所からのバルブシステム供給を認める
Q かつて佃社長は、宇宙開発機構の大型水素エンジン「セイレーン」開発主任。帝国重工の藤間社長は当時、製造委託された帝国重工の担当責任者だった。
Q-2 佃製作所の水素エンジン用バルブシステムを「うちが採用しないと競合他社が採用するかもしれない」と財前部長。
Q-3 「キーデバイスの内製化方針の例外とする」と藤間社長。水原本部長がほっとする。

  (3)「モノトーン」燃焼実験、成功
R バルブシステムの部品供給成功。「佃品質を帝国重工に知らしめた!」と殿村、男泣き。
S バルブの特許を次世代の佃製作所の柱にしたいと佃社長。
T 特許が専門の神谷弁護士が、佃製作所の顧問弁護士となる。
U  ベンチャー・キャピタルのナショナル・インベストメントが、佃製作所の新規事業への投資を打診。
V 大学の助手となった真野が、水素エンジンのバルブシステムが人工心臓に応用可能と佃社長にメール。

  エピローグ
W 種子島宇宙センターから帝国重工の新型水素エンジン「モノトーン」搭載のロケット打ち上げ成功。
W-2 佃社長に、娘莉菜が花束をわたす。


 《評者の注》
1 一方で経営者の夢の実現と、他方で従業員の現実主義との相克が描かれ、リアリティがある。
2 従業員200人の中小企業経営者が、資金繰りに、どんなに苦労するかが分かる。銀行が嫌われる理由も明白。
3 特許ビジネスの重要性、また特許をめぐる訴訟の専門性などが、よく理解できる。
4 帝国重工という超巨大企業内部での意思決定過程が、具体的に描かれ、よく分かる。
5 「特許売却」、「特許使用契約」、「部品供給」の3レベルの区別が、物語のポイント。
6 ベンチャー・キャピタルの役割が、理解できる。
7 下請け企業に対する親企業の傲慢さが、憎々しい。
8 全体として過不足なく物語の諸要素が、構成されている。

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『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿(1985生)、2011年、講談社

2014-07-22 12:54:24 | Weblog
  はじめに:不幸な若者たちって本当?
  (1) 2010年代:若者の「満足」度、高い
A 非正規雇用増大、大卒の低い就職内定率etc.
B お金がなくても楽しめる時代。そこそこ楽しい日常。
B-2 若者の「満足」度は、この40年で一番高い。20代、「満足」70.5%(2010年)。50代、「満足」55.3%。

  
  (2) 1980年代:うらやましい時代ではない
C 1980年代、父親は長時間労働。
C-2 若者は受験競争激化(共通一次1979年開始)。校内暴力、1982年急上昇。
D インターネットも携帯もない80年代。

  
  (3) 「幸せ」と思う若者
E ①現役世代の負担増:社会保障、②財政赤字&国債、③原発事故。
E-2 それなのに「幸せ」と思う若者。
E-3 なぜ日本の若者は立ち上がらないのか?→「幸せ」だから。

  第1章 「若者」の誕生と終焉:(1)1880年代、(2)1930年代後半、(3)戦後1950年代まで、(4)1960年代~1970年代、(5)1980年代、(6)1990年代以降
A ある集団としての「若者」は存在するのか?「共通の特徴」を持つ。

  
  (1) 「青年」:「新日本」の担い手
B 1880年代(M20年代)、「新日本」の担い手としての「青年」。

  
  (2) 「皇軍兵士」として期待される「青年」
C 1930年代後半(S10年代)、「青年」ブーム。「皇軍兵士」となるという平等幻想。戦争に向け、「青年」を煽る。
C-2 「リア充」(リアルな生活の充実)な学生に対し、「学生狩り」。徴兵猶予で、喫茶店、アベックなど、とんでもない。
C-3 昭和初期の「左傾学生」の時代を懐かしむ「ノスタル爺」。

  (2)-2  第1次大戦後の自由主義が若者をだめにした
D 「若者バッシング」、または「若者は希望」論のいずれか。
E 第1次大戦後の自由主義(1920年代)。
E-2 自由主義が若者をだめにした。戦後民主主義(自由、平等、個性)批判と似る。
E-3 欧米の「個人主義、自由主義、民主主義」を非難(情報局情報官)。

  (3) 戦後の若者1:「アプレ」、「ティーン」、「太陽族」、「みゆき族」
F 虚無的・退廃的な戦後の若者:アプレゲール(戦後)。Ex. 東大生貸金業者「光クラブ」事件=「アプレ犯罪」
F-2 1950年代、都市と農村に共通の「若者」は存在しない。
G 「ティーン」(※1945年生まれ以降)は、「アプレ」と違って敗戦経験を持たない。
G-2 「若者はお客様」として、消費の主体へ。
H 「太陽族」:1955年、石原慎太郎。既成の秩序にとらわれないドライさ。サングラスにアロハシャツ。
I 「みゆき族」:1964年頃。補導される。

  (4) 戦後の若者2:1960年代、「若者」の誕生
J 1960年代、高度成長始まる。都市集中とメディア。
J-2 テレビの普及、1963年、88.9%。1964年『平凡パンチ』。
J-3 世代共通体験、世代共通文化の成立。「若者」の誕生へ。
J-4 若者論ブーム、1960年代後半-1970年代。『死にがいの喪失』(1973)、『モラトリアム人間の時代』(1978)。
J-5 「青年」から「若者」へ。

K 団塊の世代(1947-1949生まれ)が若者へ。1967-1969年。戦争を知らない世代。
K-2 自分は「中」:90.2%(1973年)。Cf. 72.4%(1958年)
K-3 「階級」論から「世代」論へ。「階級」の消滅幻想。
K-3 深夜放送を聴く「カプセル人間」の共振。

  (5) 1980年代の若者論
L 「新人類」:メディアリテラシーあり&消費性への期待。「若者はお客様」論。
M 1980年代後半、「オタク」叩き。「お客様」にならないため。

  (6) 90年代初頭から:「若者論」の終わり
N 一枚岩の「若者」がいない。世代内格差の発生=中流崩壊論&格差社会論:1990年代後半。
N-2 2000万人を同一と見る若者論は、無理。性差、地域差、貧富の差。
N-3 Cf.「日本人論」はもっと、おおざっぱ。
O 「若者はけしからん」論は、まっとうな社会の住民の立場から「異質の他者」扱いする。
O-2 「若者は希望だ」論は、都合のいい協力者と考える。「こちら側」とみなす。
P バブル崩壊で1991年以降、「いい学校、いい会社、いい人生」モデル(1970年以来)が壊れた。
P-2 「中流の夢」崩壊。日本社会は1995年に変わった。

  (6)-2 1990年代後半、2000年代、2010年代の若者論
Q 1990年代後半、「ブルセラ」論
R 2000年代、「起業推奨」論
S 2010年代、「嫌消費」論

  第2章 2010年代の若者:(1)社会志向、(2)サステイナブルな消費、(3)「今、ここ」の身近な幸せ(コンサマトリー化)、(3)-2「仲間」がいる「小さな世界」の幸福、(4)「このままじゃいけない」:社会貢献、ワールドカップ

  (1) 若者は意外に「社会志向」
A 若者は、意外に「社会志向」。
A-2 社会貢献ブーム。Ex. 2005年、150万円でカンボジアに学校を建てる。
B 1995年、阪神淡路大震災。ボランティア元年。
B-2 1998年、NPO法。
C 若者は投票に行かない。
D 海外留学者数は減っているが、人口減少なので、留学者率は下がっていない。バブル期の倍以上。
E ワーキング・ホリデー制度(1980以来)、2011年はバブル期の2倍の若者参加。
F 高度成長期と比べると地元志向。地方に「そこそこの都市」発達のため。

  (2) 若者がモノを買わないわけでない:人口減の反映にすぎない
G 若者はモノを買わないか?自動車、家電は買わない。海外旅行は行かない。
G-2 ファッション、家具、インテリア、ゲームにはお金を使う。女子は飲食費、通信費が多い。サステイナブルな消費(衣食住)の20代。「内向き」。
H 人口減による若者減で、消費減。若者の消費が減ったわけではない。

  (3) 「今、ここ」の身近な幸せ
I 若者が元気な70年代。新人類の80年代。まだお祭り気分が残る90年代。
I-2 若者は満足度、幸せ感が高く「不満」はないけど、「不安」がある。
J 将来に希望がないので、今が満足と答えるしかない。
J-2 「今日より明日が良くなる」と思えると、「今は不幸」が増える。
J-3 若者の「コンサマトリー」化=「自己充足」化。つまり「今、ここ」の身近な幸せを大事にする。
K 「仲間」を大事にする。「仲間」がいる「小さな世界」が、若者の幸福の本質。「村々」している。

  (4) 退屈で閉塞感あり:社会貢献&ワールドカップ
L 「何かをしたい。」「このままじゃいけない。」「出口」をさがす。Ex. 社会貢献。
L-2 非日常としての4年に1度のワールドカップ。

  第3章 希薄化するナショナリズム
  (1)  ナショナリズムという「魔法」
M ワールドカップ応援で、日本という国家が、期間限定で出現する。
N 面識がないのに「日本人」を応援する。
N-2 ナショナリズムという「魔法」。「想像の共同体」。

  (2) 「新しい中世」&ナショリズムの希薄化
O 明治に成立したナショナリズムという魔法は、薄れつつある。
P 「新しい中世」:国家以外に様々なアクター。大富豪、国際NGO、テロリスト、ヘッジファンド、多国籍企業(日本の国益より会社の利益!)など。
Q 世界中、どこにいても、「日本」のように暮らせる。GPS内蔵スマートフォンで世界旅行OK!Skypeアプリで世界中と話せる。新しいナショリズムの出現。
R 税逃れのパーマネント・トラベラー。
S 「国家はいらない」、「民間に出来ないことは何もない」とワタミ社長。

  (2)-2 戦争が起こったら逃げる
T 若者のテレビ離れ。かつてナショナリズムを支えたテレビ。
U 若者は、日本が好きだが、アップルや、H&Mも好き。
V 「戦争が起こったら日本のために戦うか?」「はい」:日本15.1%、アメリカ63.2%。戦争でさっさと逃げる若者は重要。国家間の戦争が減る。
V-2 国家:①暴力の独占と②徴税。

  第4章 「日本」のために立ち上がる若者たち:保守系男子、保守系女子
  (1) 「頑張れ日本」(田母神会長)の集会(2010年):2600人
A-1 保守系男子、保守系女子の集まりがほしかった。(メグミ、27才)
A-2 「右翼っぽい」人がいないデモがいい。もちろん思想としては右翼あり。(ケイジ、29才)
A-3 「ネット右翼」とひとくくりにされたくない。(ケイタ、35才)
A-4 マスメディアの「偏向報道」批判!(20才、エリ)
A-5 「民主党政権の無能ぶり」批判!(20才、ススム)

  (2) 保守系女性団体「日本女性の会、そよ風」の「そよ風」デモ(2010年):150人
B 「このままじゃ日本は潰れる」:外国人参政権反対、子ども手当粉砕、夫婦別姓反対。
B-2 「普通」の市民が、「普通でないもの」=「サヨク」を忌避する:「新しい歴史教科書を作る会」。

  (3) インターネットでつながる
C 在日特権を許さない市民の会(在特会)=大型団体。
D 保守系SNS:「Free Japan」、「my日本」。
D-2 「今、何がやばいか、すぐにわかる。」(リカ、20代後半)
D-3 「テレビも新聞も信頼できない。嘘ばかり。」

  第4章-2 社会運動論
  (1) 「国を良くする」vs「より良い社会をつくる」
E 「国を良くする」、「国のために」が右翼の専売特許。
E-2 左翼は「より良い社会をつくる」と言って、「国家」と言わない。
F 若者に「右翼」「左翼」の対立がない。Ex. ピースボート(辻本清美):世界平和&護憲。

  (2) 集合行動論、資源動員論etc.
G 集合行動論:不満が原因で行動。
G-2 しかし不満だけでは、人は立ち上がらない。

H 資源動員論:人、カネ、ネットワークなど資源が人に行動を起こさせる。
H-2 戦略の重視。フレーミングのうまさで運動成功。Ex. 公民権運動:権利と機会の平等を訴え、女性・障害者・ネイティブアメリカン・老人も巻き込む。
H-3 社会運動のエンターテインメント化:とりあえず「お祭り」に参加。

J 治安維持法:当時、消費とレジャーに夢中の大衆は気づきもせず、反対せず。
K 民衆の独自の規範を侵すとアクションへ:モラル・エコノミー。
L 若者は、親密圏に生きるので、公共圏(「公共社会」など「大きなもの」)にロマンを感じる。

  第4章-3 日本社会での社会運動の位置・意味
M 「公共的」・「社会的」は手放しに礼賛できない。Ex.1 過剰に排他的なネット右翼や在特会。Ex.2 「革命」をめざしたオウム真理教
N 「居場所」としての社会運動。Ex.1 在特会で「やっと本当の仲間ができた」。Ex.2 「前進社」(中核派)で100名が共同生活。Ex.3 フリーター全般労働組合「自由と生存のメーデー」のみんなで作る楽しさ。
O 日本社会にはわかりやすい言論統制や拷問はない。だから「アラブの春」のようなことは起こらない。
《評者の注》油断していると密告制度が復活し、また憲法改正されて被疑者や刑事被告人の権利が法律水準に落とされ、保障されなくなる心配がある。

P 「豊かな」社会で食べられない心配はない。
Q そもそも「革命」は、それだけでは、すぐには社会を変えない。Ex. 「アラブの春」
R 社会を変える方策は色々ある。Ex.1 市会議員、Ex.2 社会的企業家、Ex.3 官僚になり法律改正、Ex.4 大資本家になり政治に口をはさむ、Ex.5 NGOで国際条約を成立させる、Ex.6 デモ(ただしインパクトは小さい)。

  第5章 東日本大震災・反原発
A 東日本大震災という「非日常」がもたらした若者の「ニホンブーム」。
A-2 日常の閉塞感から「非日常」へ。「とにかく何かをしたい」。「日本が好き」と再確認。「日本を一つにしたい」。

B 高円寺「素人の乱」の反原発のお祭り。オーガニック系など自然派が多い。「反原発40年」のような「左翼おじさん」はいない。
B-2 「反原発は乱暴」とリョウ、21歳、理工系。

C 日本中が被災地になったわけでない。宮城・福島・岩手のGDP合計は、日本の4%。
C-2 東北は3.11以前にすでに「過疎化」!「復興」すべきものがない。「3.11以後の希望」があると思えない。

  第6章 絶望の国でも、さしあたり今、若者に経済的問題はない。しかし今後「シングルマザーを推奨しても、若者が子どもを産めるようにしなければならない」

A 一度雇うとクビにできない正社員=高齢者。1990年代以降、若者を採用せず非正規雇用化。
A-2 年金・医療:60歳以上6500万円プラス、20歳未満5200万円マイナス。
A-3 ただし高齢者には、大きな世代内格差あり。

B しかし「若者」はまとまっていない。
B-2 世代間の意識の差がない。「年齢」より「趣味」の会う人と話すなど、「一億総若者化」時代」。
B-3 Cf. 「40歳前後のおじさん」が世代間格差に怒っている。

C 若者は大企業ブランド志向をやめて、若い企業に就職すべきだ。

D 非正規雇用化で若者の人材流出。Ex. 台湾。
D-2 非正規雇用化するだけで、「キャリアラダー」がない。
D-3 正社員になりたくない若者も多い。保険料を払わないので将来の社会保障はない。

E 若者の貧困化で、将来、治安悪化の可能性。
F しかしさしあたり今、若者に経済的問題はない。衣食は大丈夫。みんなスマートホンを持つ。
《評者の感想》子育てのことを考えたら、若者は、経済的に子育て不可能。
G これに対し、「シングルマザーを推奨しても、若者が子どもを産めるようにしなければならない」と、著者。

  第6章-2 世代間格差の「家族福祉」による解決&20年後の破綻
F 家族福祉:親(Ex. 65歳)に金銭の余裕あり。親は高度成長期の勝ち組。かくて親と同居の未婚者(=若者)は大丈夫。
F-2 若者の「地元化」とは親世代へのパラサイト。
G 20年後、親(Ex. 85歳)の介護が始まる。持家もメインテナンスが必要になる。

  第6章-3 オンライン上の「お手軽な承認社会」
H 存在の承認の問題。恋人がいれば「かけがえのない存在」になるが、18-34歳の未婚者で恋人ありは、男27.2%、女36.7%にすぎない(2006)。
I かくてツイッター、ニコニコ動画などによるお手軽な承認社会。オンライン上の友達による存在承認。
I-2 共同性の確認で満足し、社会を変えることは考えない。
I-3 仲間のいるコミュニティがあれば、若者は反乱を起こさない。

  第6章-4 若者の二級市民化
J 若者は「夢」「やりがい」の言葉でだまし、安くクビにしやすい労働力。
K 「正社員」「専業主婦」になれない者の増加。年齢に関係なくいわば「若者」化。

  第6章-5 日本が財政破綻しても、お金がなくても、そこそこに楽しく暮らす知恵を若者は持つ
L 戦後の経済成長はもどらない。、(1)アメリカが、日本を資本主義につなぎとめるための援助。(2)豊富な若年労働力という人口ボーナス。(3)敗戦による「復興」は他国のマネだけでよかった。
M 日本が財政破綻しても、お金がなくても、そこそこに楽しく暮らす知恵を若者は持つ。
《評者の感想》著者は、スラム化・貧困化の肯定をするようである。

  第6章-6 「国」が負けても、「日本の人々」が生き残れば、それでよい
O 日本という「国」が負けても、「日本の人々」が生き残れば、それでよい。
O-2 「一人一人が幸せに生きられる」ことが重要。
O-3 「日本が終わる?だから何?」と思ってしまうと著者。
《評者の感想》「日本国」が敗戦し、「日本国民」も爆撃を受け、大量に死んだり負傷したり餓死者が出たりする状況では、どうするのか?

P 「この国が沈みゆくのは、どうやら間違いない」と著者。

  あとがき:著者の立場
A 見知らぬ人や物や場所のことは「どうでもいい」。
B 少しでもこの国を良くしたいという「市民意識」はない。
C 自分が生きる世界を「研究」によって明らかにしたい。「楽しい」。


  《評者の感想》
1 著者は、分裂している。一方で見知らぬ人や物や場所のことは「どうでもいい」。また少しでもこの国を良くしたいという「市民意識」はないと、著者は言う。
恐るべきニヒリズム。他者との共感が皆無である。他者は単なる風景か、道具(=生産物生産装置)である。

2 著者は他方で、「一人一人が幸せに生きられる」ことが重要と述べる。ここには、他者を人間と見るシンパシー(共感性)がある。他者は、風景や道具でなく、人間である。
見知らぬ人や物や場所は「どうでもいい」わけでなく、「幸せに生きる」ことが望まれている。この意味で、著者は、少しでもこの国を良くしたいという「市民意識」を持つ。

3 「一人一人が幸せに生きられる」ことが重要と著者が言うなら、著者は、見知らぬ人など「どうでもいい」と言えないし、「市民意識」がないと、言わば逃げることはできない。それが論理的帰結である。

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『舞姫』森鴎外(1862-1922)、1890年、新潮文庫

2014-07-05 14:40:13 | Weblog
  (1)豊太郎、官命でプロシアへ
A 5年前、官命で太田豊太郎、プロシアに派遣される。
A-2 豊太郎は秀才。19歳で法学士となり、某省へ入る。
B 派遣されたプロシアで、豊太郎は大学に通い、政治学を学び、3年が経った。

  (2)豊太郎、エリスと親しくなり、免官となる
C 豊太郎、25歳。「独立の思想」を持つようになり、法科でなく、歴史文学に心を寄せる。
D ある日、泣く少女、十六七と出会う。エリス。
D-2 「我を救い玉へ。母は我を打ちき。」とエリスが言う。豊太郎はエリスを家まで送る。エリスは、父親が死んで葬式代もなく、豊太郎が懐中時計を置いて帰る。
E その後、豊太郎はエリスと親しくなるが、初め肉体関係はなかった。
F うわさが広がり、豊太郎、免官となる。

  (3)豊太郎、エリス親子と暮らす
G エリスは「ヰクトリア座」の舞姫。仕立て屋の父の貧しさゆえに、舞姫となった。「恥づかしき業」。
G-2 豊太郎が、エリスに、文学や文字を教える。
G-3 やがて二人は「離れがたき中」となる。
H 天方伯の秘書官、相沢健吉が、免官になった豊太郎に、新聞社の通信員の職を紹介する。
I 豊太郎は、エリス親子と暮らす。豊太郎は新聞の原稿を書く。エリスは劇場から帰ると、縫物をする。
I-2 エリスが妊娠する。

  (4)天方大臣に随って豊太郎、訪露
J 天方大臣が訪独。秘書官相沢より「大臣に会いに来るように」との連絡がある。
J-2 相沢が、豊太郎に言う。「学識あり、才能ある者が、いつまでか一少女の情にかかづらいて、目的なき生活(ナリワイ)をなすべき。」
K ひと月ばかりすぎ、伯が「余は明旦(アス)、ロシアに向かいて出発すべし。随ひて来べきか」と訊ねた。豊太郎は「いかで命に従はざらむ。」とロシア行きを決める。
L エリスには、「ロシアに行くがまた戻る」と言う。
L-2 エリスは悪阻(ツワリ)のため、座をやめさせられる。

  (5)豊太郎、「日本に帰る」と決める
M ロシア宮廷で、フランス語通訳として、豊太郎は活躍する。
N エリスから、ロシアの豊太郎のもとに毎日、手紙が来る。「私を棄てないでほしい」とエリス。
O ロシアから戻り、豊太郎、エリスのもとに帰る。
O-2 エリスは、生まれてくる赤ん坊のために、たくさんの襁褓(ムツキ)(おむつ)を縫っていた。
P 天方大臣に呼ばれ、豊太郎、「本国に帰る」と決める。
P-2 エリスに、何と言おうと帰路、豊太郎は、ベルリン市街を放浪する。疲労困憊し帰宅。その後、具合が悪くなり、豊太郎は数週間、人事不省。

  (6)豊太郎に「だまされた」とエリスが発狂
S その間に、相沢秘書官が、事情を話すと、エリスは豊太郎に「だまされた」と発狂する。
T 豊太郎は、狂ったエリスを残し、生まれる子のことを頼み、エリスの母親に資本を与えて帰国する。
U 今、豊太郎は、相沢は「良友」だが、しかし一点の「彼を憎むこころ」ありと思う。

  《評者の感想》
1 豊太郎自身が、「自分は日本に帰る」とエリスに話したとしたら、エリスは「だまされた」と思わなかったろうか?
1-2 豊太郎には「エリスを、日本に連れて帰る」可能性があったのだろうか?
2 おそらく豊太郎は、結局、エリスを捨てただろう。エリスは貧しい卑賤の一少女にすぎない。日本のエリートとして、豊太郎には約束された未来があった。
3 日本人は、当時、プロシア人から差別されたはずだが、エリスは低い社会階層に属したので、人種差別と無縁だったと思う。

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『草枕』夏目漱石(1867-1916)、1906年、新潮文庫

2014-07-02 22:12:35 | Weblog
   Ⅰ 「非人情」の旅
A 人の世が住みにくいので、芸術が誕生したと、青年画家(30歳)=画工(えかき)が思う。
A-2 彼は「非人情の天地」に逍遙したいと言う。
B 人物を捉えるなら、大自然の点景と見なす。超然と遠き上から見物する。
B-2 「小説」にしてしまったら、刺激が強すぎる。
C 「俗界」を出たい。今回の旅は「非人情の旅」と、画家が言う。
D 歩くなら、何らの方針も、目的も持たず歩く。
E 村の寺の和尚、大徹様は、「行く所に同化する」点で、その人の生き方がすでに芸術家である。

   Ⅱ 那美さんは自然天然に「芝居」をしている(=「画」になっている)
A 画家は、志保田という旅館に泊まる。
B 志保田には、嫁に行ったが「出返り」の那美さんというお嬢さんがいる。「き印」と言われている。
(1) 那美さんは、自分に秋波を送った若い坊さんに、公衆の面前で抱きついた。
(2) 画家に見せるためか、那美さんは、長い振り袖を着て、庭を行ったり来たり歩く。
(3) 画家が風呂に入っていると、風呂場に裸の那美さんが来て、風呂に入り、ホホホと笑う。
(4) 身投げの伝説がある鏡が池で、「身を投げるかも知れない」と那美さんが、画家に言う。
(5) 那美さんが庭を挟んだ向こうの部屋にいる。彼女が9寸5分(短刀)を持っていて、その刃先がキラリと光るのが、縁先から見えた。
C 「那美さんは自然天然に、芝居をしている。そう思わないと、薄気味悪い。」と画家。
D 満州への甥の久一の出征を、汽車で見送ったとき、那美さんが久一に「死んでおいで」と言う。

   Ⅲ 那美さんの「画」が成就した:「憐れ」
E 那美さんには「憐れ」の情がないと、画家は思う。
F 甥の久一の満州への出征を見送った汽車に、同じく出征する元の亭主の姿を見つけ、那美さんが思わず、茫然となる。
F-2 その時、そこに「憐れ」があった。画家は、那美さんの「画」が成就したと思う。

  《評者の注》
1 この画家は、「非人情の天地」にあこがれる。
2 「画」は、超然と遠き上から見物する点で、「非人情」を本質とする。
3 那美さんは、動く「画」である。つまり自然天然に「芝居」をしている。ところが「薄気味悪い」と、画家が思う。
4 和尚さんは、「行く所に同化する」。つまり「非人情」の芸術家そのもの。
5 那美さんは、芸術家でないので、「非人情」の国でなく「人の世」に属する。だから「憐れ」が最も重要である。
5-2 那美さんが「薄気味悪く」見えるのは、彼女が非人情な動く「画」=「芝居」で、「人の世」の「憐れ」を感じさせなかったからである。
6 那美さんという動く「画」に、「憐れ」が加わって、彼女は「人の世」に属する者として、完成した。

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