Ⅰ 決算書(財務諸表)は簡単に読み解ける
Ⅰ-1 基本財務3表は①PL、②BS、③CSからなる。
PL(Profit & Loss Statement)は「損益計算書」で、総計が「売上高」である。売上高-売上原価=「売上総利益(粗利)」。売上総利益-販売費及び一般管理費=「営業利益」。これから利息収入など営業外利益・費用を差し引けば「経常利益」。さらに土地や株の売却益・損など特別利益・特別損失を差し引くと「税引前当期純利益」。そして法人税等を差し引くと「当期純利益」である。
BS(Balance Sheet)は「貸借対照表」。右側は「総資本」である。どうやってお金を集めてきたかが示される。「負債」+「純資産(資本金+利益剰余金)」からなる。左側はその集めてきたお金が何に投資されたかを示す「総資産」(流動資産+固定資産)である。
CS(Cash Flaw Statement)は「収支計算書」。営業、投資、財務の収支計算書からなる。例えば、「営業-、投資+、財務+」はダメ会社のCSである。営業キャッシュフローのマイナスは儲からないことを示す。投資キャッシュフローのプラスは土地・株券など資産の売却。財務キャッシュフローのプラスは借入金・社債で資金を集めたこと示す。
Ⅰ-2 ROE、レバレッジ比率、総資本回転率、当期純利益率:PL、BSからの4つの数字が事業の効率を示す
「ROE(Return on Equity、自己資本利益率)」が株主にとって最も重要。これは「当期純利益/自己資本」(ROE(2))である。ただし簡便式ではROEは「当期純利益/純資産」(ROE)となる。
資産取得のための資金を調達するフェーズでは「レバレッジ比率」がある。これは「長期他人資本/自己資本」(レバレッジ比率(2))である。ただし簡便式では「有利子負債/純資産」(レバレッジ比率)となる。
資産を売上に変えるフェーズでは「総資本回転率」がある。これは「売上高/総資本(=総資産)」である。
売上を利益に変えるフェーズでは「当期純利益率」がある。これは「当期純利益/売上高」である。
Ⅰ-3 例:キリンビールの財務分析
PL、BSを図表にする。キリンは利益剰余金がたっぷりある。流動比率(流動資産/流動負債)が100%以上でよい。自己資本比率は上場企業平均の約37%より高くて良い。
CSでは2007年、営業キャッシュフローの2倍以上のお金が投資に回る。キリンは積極的に投資し拡大戦略を取る。東南アジアに進出、また医薬品分野でも拡大戦略。
アサヒがスーパードライの成功で総資本が大きくなる。
キリンが投資増で売上高増。
Ⅱ 財務諸表と株式指標の関係
配当とは何か?当期純利益は一部が配当となり残りが利益剰余金として会社に積み立てられる。配当性向は配当総額/当期純利益(=1株配当/1株益)である。日本では連結配当性向が20%程度である。
「ROE(Return on Equity、自己資本利益率)」が大切。Ⅰ-2参照。これは「当期純利益/自己資本」(ROE(2))、または簡便式で「当期純利益/純資産」(ROE)である。定期預金ならその利率に相当する。
「PBR(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)」は市場の評価を表す。これは「時価総額/純資産(資本金+利益剰余金)」である。帳簿上の純資産の価値が株式市場でどのくらいの評価を受けているかを示す。
「PER(Price Earning Ratio、株価収益率)」は市場の見通しを示す。これは「時価総額/当期純利益(=株価/1株益)」である。
Ⅲ PL(Profit & Loss Statement、損益計算書)、BS(Balance Sheet、貸借対照表)、CS(Cash Flaw Statement、収支計算書)から企業・業界を見る
① 「放送」は利益漸減。特に2007年以降は経常利益が急激な下降線。広告収入の落ち込みがひどい。なおフジテレビが売上高最大。
② 「医薬品」はがっちり利益を貯め込む。粗利(売上総利益)率が極端に高い(売上高の約80%)。巨額の研究開発費(売上高の20-30%)が必要なためである。最大手は武田薬品工業。
③ 「海運」(日本郵船・商船三井)、「航空運輸」(JAL、ANA)はともに設備産業で似ている。航空運輸は利益剰余金が圧倒的に少ない。
・JALの問題:(1)確定給付型年金の積み立て不足、(2) 投資CF(キャッシュフロー)にまわす営業CFが足りない、(3)利益率が低い。
・商船三井は設備産業でかつ優良なので営業CFとほぼ同額を投資CFに回す。利益率が高い。ROE(自己資本利益率)も高い。ただし2009年はリーマンショックの影響で借金が増え財務CFがプラスである。
④ 「スーパー」、「百貨店」:笑うスーパー2強(セブン&アイ、イオン)と苦しむ百貨店(三越伊勢丹、高島屋)。スーパーは売上高が百貨店の4-5倍である。
⑤ 「畜産加工食品」、「調味料」:両食品業界は1社突出である。各々、日本ハムと味の素。ただし両社とも利益を犠牲にしてシェアを守る。食品業界は景気変動の影響がほとんどない、つまり売上高が変わらない。
・プリマハムとキッコーマンは利益率が高くPBR(株価純資産倍率)も高い。
⑥ 「コンピューター・電機」、「民生用電気機器」:これら業界は景気変動の影響を大きく受ける。リーマンショック後の2009年、各社とも莫大な赤字。輸出比率が高いためもある。
・コンピューター・電機業界のトップは日立製作所。東芝はPBR(株価純資産倍率)が群を抜いて高い。原発のウェスティングハウス買収、太陽光発電のためだろう。
・前者の業界でNEC、後者の業界で三洋の業績が振るわない。
・ソニー(民生用電気機器)だけは銀行・保険などサービス産業に積極進出する。
⑦ 「鉄鋼(高炉)」、「化学」は日本の装置産業の代表である。ともに莫大な有利子負債で事業運営。BPによれば総資本最大はそれぞれ、新日本製鐵、三菱ケミカルである。
・経常利益率は、鉄鋼5-20%に対し化学4-10%と異なる。
・新日鐵は将来、粗鋼生産量で韓国・中国に抜かれる。世界1はインドのアルセロール・ミッタル。鉄鋼(高炉)の技術力は日本が世界1である。
⑧ 「製紙」、「繊維」も装置産業。製紙業界は厳しい状況でPBR(株価純資産倍率)が低い。BSつまり総資本で業界1位王子製紙、2位日本製紙。
・繊維業界で大きく1位は東レである。
⑨ 「不動産」(三井不動産、三菱地所、住友不動産、東急不動産)はBS(総資本)が大きいのにPL(売上高)が小さい。つまり総資本回転率が小さい。金融業に似るが、自己資本が小さい金融業の方がROE(自己資本利益率)は良い。
・不動産業界は莫大な賃貸物件(固定資産)そして借金を抱える。売上高は賃貸料が主で小さい。
⑩ 「総合建設」:ゼネコン業界は4社横並びである。鹿島建設、清水建設、大林組、大成建設。パレートの法則(べき乗則)が成り立たない。普通、上位2割の会社が8割の売上高を占める:80対20の法則。
Ⅳ 業界に横串を入れて比較する: PL(売上高)、BS(総資本)、CS
PL(売上高)、BS(総資本)では電機メーカーの規模が大きい。1位日立製作所、2位パナソニック。日立の売上高は10兆円である(2009年)。
ただしトヨタは別格で売上高20兆円、総資本29兆円。日立の総資本は9兆円。
ROE(自己資本利益率)は武田薬品、日本郵船、新日鐵が高い(トップ3)。「海運」、「鉄鋼」は売上高も伸び、投資先としてよい。
視野を海外に広げると「医薬品」ファイザーのBS(総資本)は10.0兆円、武田薬品は2.7兆円。「鉄鋼(高炉)」アルセロール・ミッタルのBS(総資本)は11.9兆円、新日鐵は4.9兆円である。
Ⅴ おわりに
規模(売上高orシェア)が大きくても利益を出せない企業は無価値である。
日本企業は国内市場だけでは成長戦略を描けない。グローバルな視点が必要。
PL(売上高or利益)だけでなく投資とリターン(BS、CS)が重要。ビジネスマンは財務諸表が読めなければならない。
お金を集める→投資する→利益を上げるが、財務諸表の骨格である。
Ⅰ-1 基本財務3表は①PL、②BS、③CSからなる。
PL(Profit & Loss Statement)は「損益計算書」で、総計が「売上高」である。売上高-売上原価=「売上総利益(粗利)」。売上総利益-販売費及び一般管理費=「営業利益」。これから利息収入など営業外利益・費用を差し引けば「経常利益」。さらに土地や株の売却益・損など特別利益・特別損失を差し引くと「税引前当期純利益」。そして法人税等を差し引くと「当期純利益」である。
BS(Balance Sheet)は「貸借対照表」。右側は「総資本」である。どうやってお金を集めてきたかが示される。「負債」+「純資産(資本金+利益剰余金)」からなる。左側はその集めてきたお金が何に投資されたかを示す「総資産」(流動資産+固定資産)である。
CS(Cash Flaw Statement)は「収支計算書」。営業、投資、財務の収支計算書からなる。例えば、「営業-、投資+、財務+」はダメ会社のCSである。営業キャッシュフローのマイナスは儲からないことを示す。投資キャッシュフローのプラスは土地・株券など資産の売却。財務キャッシュフローのプラスは借入金・社債で資金を集めたこと示す。
Ⅰ-2 ROE、レバレッジ比率、総資本回転率、当期純利益率:PL、BSからの4つの数字が事業の効率を示す
「ROE(Return on Equity、自己資本利益率)」が株主にとって最も重要。これは「当期純利益/自己資本」(ROE(2))である。ただし簡便式ではROEは「当期純利益/純資産」(ROE)となる。
資産取得のための資金を調達するフェーズでは「レバレッジ比率」がある。これは「長期他人資本/自己資本」(レバレッジ比率(2))である。ただし簡便式では「有利子負債/純資産」(レバレッジ比率)となる。
資産を売上に変えるフェーズでは「総資本回転率」がある。これは「売上高/総資本(=総資産)」である。
売上を利益に変えるフェーズでは「当期純利益率」がある。これは「当期純利益/売上高」である。
Ⅰ-3 例:キリンビールの財務分析
PL、BSを図表にする。キリンは利益剰余金がたっぷりある。流動比率(流動資産/流動負債)が100%以上でよい。自己資本比率は上場企業平均の約37%より高くて良い。
CSでは2007年、営業キャッシュフローの2倍以上のお金が投資に回る。キリンは積極的に投資し拡大戦略を取る。東南アジアに進出、また医薬品分野でも拡大戦略。
アサヒがスーパードライの成功で総資本が大きくなる。
キリンが投資増で売上高増。
Ⅱ 財務諸表と株式指標の関係
配当とは何か?当期純利益は一部が配当となり残りが利益剰余金として会社に積み立てられる。配当性向は配当総額/当期純利益(=1株配当/1株益)である。日本では連結配当性向が20%程度である。
「ROE(Return on Equity、自己資本利益率)」が大切。Ⅰ-2参照。これは「当期純利益/自己資本」(ROE(2))、または簡便式で「当期純利益/純資産」(ROE)である。定期預金ならその利率に相当する。
「PBR(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)」は市場の評価を表す。これは「時価総額/純資産(資本金+利益剰余金)」である。帳簿上の純資産の価値が株式市場でどのくらいの評価を受けているかを示す。
「PER(Price Earning Ratio、株価収益率)」は市場の見通しを示す。これは「時価総額/当期純利益(=株価/1株益)」である。
Ⅲ PL(Profit & Loss Statement、損益計算書)、BS(Balance Sheet、貸借対照表)、CS(Cash Flaw Statement、収支計算書)から企業・業界を見る
① 「放送」は利益漸減。特に2007年以降は経常利益が急激な下降線。広告収入の落ち込みがひどい。なおフジテレビが売上高最大。
② 「医薬品」はがっちり利益を貯め込む。粗利(売上総利益)率が極端に高い(売上高の約80%)。巨額の研究開発費(売上高の20-30%)が必要なためである。最大手は武田薬品工業。
③ 「海運」(日本郵船・商船三井)、「航空運輸」(JAL、ANA)はともに設備産業で似ている。航空運輸は利益剰余金が圧倒的に少ない。
・JALの問題:(1)確定給付型年金の積み立て不足、(2) 投資CF(キャッシュフロー)にまわす営業CFが足りない、(3)利益率が低い。
・商船三井は設備産業でかつ優良なので営業CFとほぼ同額を投資CFに回す。利益率が高い。ROE(自己資本利益率)も高い。ただし2009年はリーマンショックの影響で借金が増え財務CFがプラスである。
④ 「スーパー」、「百貨店」:笑うスーパー2強(セブン&アイ、イオン)と苦しむ百貨店(三越伊勢丹、高島屋)。スーパーは売上高が百貨店の4-5倍である。
⑤ 「畜産加工食品」、「調味料」:両食品業界は1社突出である。各々、日本ハムと味の素。ただし両社とも利益を犠牲にしてシェアを守る。食品業界は景気変動の影響がほとんどない、つまり売上高が変わらない。
・プリマハムとキッコーマンは利益率が高くPBR(株価純資産倍率)も高い。
⑥ 「コンピューター・電機」、「民生用電気機器」:これら業界は景気変動の影響を大きく受ける。リーマンショック後の2009年、各社とも莫大な赤字。輸出比率が高いためもある。
・コンピューター・電機業界のトップは日立製作所。東芝はPBR(株価純資産倍率)が群を抜いて高い。原発のウェスティングハウス買収、太陽光発電のためだろう。
・前者の業界でNEC、後者の業界で三洋の業績が振るわない。
・ソニー(民生用電気機器)だけは銀行・保険などサービス産業に積極進出する。
⑦ 「鉄鋼(高炉)」、「化学」は日本の装置産業の代表である。ともに莫大な有利子負債で事業運営。BPによれば総資本最大はそれぞれ、新日本製鐵、三菱ケミカルである。
・経常利益率は、鉄鋼5-20%に対し化学4-10%と異なる。
・新日鐵は将来、粗鋼生産量で韓国・中国に抜かれる。世界1はインドのアルセロール・ミッタル。鉄鋼(高炉)の技術力は日本が世界1である。
⑧ 「製紙」、「繊維」も装置産業。製紙業界は厳しい状況でPBR(株価純資産倍率)が低い。BSつまり総資本で業界1位王子製紙、2位日本製紙。
・繊維業界で大きく1位は東レである。
⑨ 「不動産」(三井不動産、三菱地所、住友不動産、東急不動産)はBS(総資本)が大きいのにPL(売上高)が小さい。つまり総資本回転率が小さい。金融業に似るが、自己資本が小さい金融業の方がROE(自己資本利益率)は良い。
・不動産業界は莫大な賃貸物件(固定資産)そして借金を抱える。売上高は賃貸料が主で小さい。
⑩ 「総合建設」:ゼネコン業界は4社横並びである。鹿島建設、清水建設、大林組、大成建設。パレートの法則(べき乗則)が成り立たない。普通、上位2割の会社が8割の売上高を占める:80対20の法則。
Ⅳ 業界に横串を入れて比較する: PL(売上高)、BS(総資本)、CS
PL(売上高)、BS(総資本)では電機メーカーの規模が大きい。1位日立製作所、2位パナソニック。日立の売上高は10兆円である(2009年)。
ただしトヨタは別格で売上高20兆円、総資本29兆円。日立の総資本は9兆円。
ROE(自己資本利益率)は武田薬品、日本郵船、新日鐵が高い(トップ3)。「海運」、「鉄鋼」は売上高も伸び、投資先としてよい。
視野を海外に広げると「医薬品」ファイザーのBS(総資本)は10.0兆円、武田薬品は2.7兆円。「鉄鋼(高炉)」アルセロール・ミッタルのBS(総資本)は11.9兆円、新日鐵は4.9兆円である。
Ⅴ おわりに
規模(売上高orシェア)が大きくても利益を出せない企業は無価値である。
日本企業は国内市場だけでは成長戦略を描けない。グローバルな視点が必要。
PL(売上高or利益)だけでなく投資とリターン(BS、CS)が重要。ビジネスマンは財務諸表が読めなければならない。
お金を集める→投資する→利益を上げるが、財務諸表の骨格である。