宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『怖い絵、泣く女篇』中野京子(1956生)、2008年、角川文庫

2012-09-19 21:14:27 | Weblog
  作品1 ドラローシュ『レディ・ジェーン・グレイの処刑』(1833年)
 レディ・ジェーン・グレイは、英国女王メアリーにより、16歳で処刑された。(1554年)覚悟を決め、従容と死につこうとするジェーン・グレイの美しさが際だつ。彼女は、ヘンリー8世の妹の孫。ヘンリー8世が死んだとき、王位継承順位は、1位エドワード、2位メアリー、3位エリザベス、4位ジェーン・グレイだった。フランスのロマン主義の作品。
     
  作品2 ミレー『晩鐘』(1833年)
 ミレーは、宗教性の高い清貧の画家と言われているが、ダリは、『晩鐘』を、母親と息子の近親相姦の絵と解釈する。実際、ミレーは「農民画家」になる以前、ポルノの画家だった。また、ダリは、もとは、この絵は、死んだ子供を埋葬する絵だったと言う。
         
  作品3 カレーニョ・デ・ミランダ『カルロス二世』(1675年頃)
カレーニョ・デ・ミランダは、ベラスケスの次代のスペイン宮廷画家。(ゴヤは1世紀後。)カルロス2世は、近親婚の影響で病弱。父は「無能王」フェリペ4世。カルロス2世は、10歳になっても読み書きができず、「呪いをかけられた子」と言われた。彼は、1700年に、35歳で死去。スペイン・ハプスブルグ家は断絶する。
               
  作品4 ベラスケス『ラス・メニーナス(宮廷の侍女たち)』(1656年)
 「慰み者」の矮人女性、マリア・バルボラ。道化の怒りを示す。マルガリータはオーストリア皇帝に嫁ぐが、21歳で死去。ベラスケスは、フェリペ4世の信任が厚かった。
          
  作品5 エッシャー『相対性』(1953年)
 異世界への通路としての階段。ある人にとっての床が、別の人には壁になる。同じ空間なのに、三つの重力世界の、三つの地表がある。どれが本当のこの世なのか、定かでない。相対性。
          
  作品6 ジェラール『レカミエ夫人の肖像』(1805年)
 社交界の花、レカミエ夫人。ギリシア・ローマ風のシュミーズ・ドレスを着る。フランス革命後、女性の服装は、豪奢なロココ趣味から、極端に簡素化する。寒くて肺炎で早死にする女性が多かった。
                    
  作品7 ブリューゲル『ベツレヘムの嬰児虐殺』(1565年前後) 
 キリストの誕生を知り、2歳以下の男子をことごとく殺すようヘロデ王が命じた。絵は、残酷だからと改竄される。今や、嬰児が、壷や包みや鳥や猪にされた。
     
  作品8 ヴェロッキオ『キリストの洗礼』(1473年頃)
 ヴェロッキオの工房の作品。少年ダヴィンチの才能に驚いて、ヴェロッキオは筆を折った。(左端の天使!)以後、ヴェロッキオは、絵画をやめ、彫刻に徹した。
          
  作品9 ビアズリー『サロメ』(1894年)
 ヘロデ・アンティパスは兄を殺し、兄嫁と結婚。この兄嫁、つまりサロメの母が、ヨハネの首を望んだ。「自分の兄弟の妻と結婚してはならない」と律法にある。ビアズリーは結核により25歳で若死。
     
  作品10 ボッティチェリ『ホロフェルネスの遺体発見』(1470年頃)
 アッシリアの将軍ホロフェルネスが、ユダヤ人の女性ユーディットに殺される。首のない死体が、血の通うトルソとして描かれている。ネクロフィリア(死体嗜好症)的。
        
  作品11 ブレイク『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』(1803-05年)
 ブレイクは幻視を見る変人or狂人。ロマン主義の先駆け。神秘主義者。多頭のレッド・ドラゴンは、『黙示録』の一場面にもとづく。
          
  作品12 フォンテーヌブロー派の逸名画家『ガブリエル・デストレとその妹』(1600年前後)
 フォンテーヌブロー派はフランス・ルネサンスの父と言われるフランソワ1世の時代に始まる。彼らは、16世紀半ばから、17世紀前半まで人気を独占。ガブリエル・デストレはアンリ4世の愛妾。当時の流行はスペイン風の胴着で女性の腰のくびれは重視されなかった。乳首をつまむのは、懐妊の示唆。
 1599年、ガブリエル・デストレが毒殺される。アンリ4世の正妻はメディチ家出身のマルグリット・ドゥ・ヴァロア。「淫乱の王妃マルゴ」。メディチ家のキーワードは毒殺。
     
  作品13 ルーベンス『パリスの審判』(1632-35年頃)
 17世紀のフランドル人は、豊満な美女が好きだった。
 「諍いと不和の女神」エリスが、黄金の林檎を「もっとも美しき者へ」提供する。
 ヘラは孔雀を従える。ヴィーナスは黄金の林檎を受け取るため、前に歩み出る。アテナの盾には護符としてメデューサの首がある。
 空にいるのは、復讐の女神アレクト。黄色い歯に、赤い眼、蛇の髪をした老女。パリスが、スパルタ王の妻ヘレネを望んだため、ヘラとアテナの復讐により、トロイアが破滅する。
     
  作品14 ドレイパー『オデュッセウスとセイレーン』(1909年)
 トロイア戦争の帰途のオデュッセウス(=ユリシーズ)。彼はセイレーンの歌が聴きたくて、マストに身を縛る。彼は、英雄にふさわしからず、裏切り、残酷さに満ちる。トロイアの木馬作戦は彼の発案。セイレーンは本来、胸から下が鳥。ドレイパーはラファエロ前派。セイレーンが死の音楽を歌う。
          
  作品15 カルパッチョ『聖ゲオルギウスと竜』(1602-07年)
 絵は、この時代、生の豊かさと死の無惨が、隣り合っていたことを示す。Cf. 牛肉の赤とソースの白がカルパッチョ絵画に似ていたので、かつて料理人が、新作の料理をカルパッチョと名付けた。(1950年)
     
  作品16 レンブラント『テュルプ博士の解剖学実習』(1632年)
 17世紀オランダの商業貴族的共和制。記念集団肖像画。外科医ギルドが依頼。テュルプ博士のみ、大学を出た上流階級。外科医は身分が低く、理髪師を兼業した。この絵は、無名のレンブラント、25歳の出世作。当時、死刑囚の解剖は一種の懲罰。解剖ショーが流行。新鮮な死体が高く売れ、墓場荒らしが増える。また浮浪者を殺し、死体を高く売る。レンブラントは、幸福なルーベンスと異なり、後に破産。
     
  作品17 ホガース『精神病院にて』(1733年)
 精神病院は、大人気の観光場所だった。動物園の感覚。患者をつつくため、長い棒の持ち込みもOK。狂気は、道徳の低さの結果とされた。絵は、ロンドンのベスレヘム精神病院(別名ベドラム)。ホガースは「イギリス風刺漫画の始祖」。
          
  作品18 ファン・エイク『アルノルフィニ夫妻の肖像』(1434年)
 階級下の可愛い少女を妻とした大金持ちのアルノルフィニ氏。絵は初夜の「朝の贈与」(それ相当の財産の贈与)のシーンかもしれない。部屋が質素すぎる。なお、腹部のふくらみは妊娠でなく、流行のファッション。
          
  作品19 ハント『シャルロットの乙女』(1905年)
 アルフレッド・テニスンの詩『シャルロットの乙女』にもとづく。アーサー王伝説。騎士ランスロットへの恋ゆえに、小船に乗ったシャルロットの乙女は、死ぬ。エロスが死を圧倒する。ただし、ヴィクトリア朝時代の道徳家ハントは、堕落した女には悲惨な結末が待つと、教え諭す。ハントはラファエロ前派。
          
  作品20 ベックリン『死の島』(1880年)
 糸杉は死を象徴する。小舟は死者を来世へ導く。「夫の喪に服し夢想するための絵がほしい」と若い未亡人が注文主。19世紀とともに火葬が普及し墓地が清潔となった。このベックリンの絵は20C 前半、ドイツ語圏で大人気。ヒトラーも執務室に飾る。
     
  作品21 メーヘレン『エマオの晩餐』(1936-37年)
 戦前、突然、発見され、フェルメール作品とされた。その後も陸続と「新発見のフェルメール」。8点すべてが偽作と、戦後、わかる。メーヘレンによる偽作。彼は、ナチスに偽作をつかませた「英雄」となる。
          
  作品22 ピカソ『泣く女』(1937年)
 モデルはドラ・マール。ピカソの愛人。ピカソにとって1936年からの6年間はドラの時代。ピカソは、芸術のために平気で人を踏みにじる。Ex. 「藤十郎の恋」
          

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『うさぎパン』瀧羽麻子(タキワアサコ)(1981生)、2007年、幻冬舎文庫

2012-09-15 20:38:28 | Weblog
  A
 ミドリさんが私、優子の義理の母親。彼女は心配性、過保護、おだやか、優しい。高1、1学期、私の成績が悪かったので、ミドリさんが心配して、私に家庭教師をつける。家庭教師が美和ちゃん。彼女は大学院2年生、物理学専攻。
 私の母親、聡子は、私が3歳のとき、死んだ。ミドリさんは、聡子より前から、つきあっていた。父が聡子と結婚後も、ミドリさんは、父の浮気相手だった。聡子の死後、父がミドリさんと結婚した。
  B
 私は同級生の富田くんが「気になる」。自己紹介して、「好きなものはパンです」と私。「ぼくもパン!」と富田くん。実は彼のうちは、パン屋「アトリエ」だった。
 私と富田くんが、パン屋めぐりをして歩く。「動物パンと言えば、断然、うさぎパンだ!」とある時、私が、彼に言う。
  C
 ある日、美和ちゃんに、突然、死んだ母親、聡子がのりうつる。「大きくなったね」と聡子が私の頭をなでる。「たまに出てくる」と聡子。美和ちゃんは、聡子にのりうつられたことを全く、覚えていない。
  D
 美和ちゃんの彼氏(恋人)は村上さんと言う。3年間、つきあっている。村上さんは準教授を狙っている。
 聡子は、あれからも、よく出てくる。聡子は25歳で、美和ちゃんと同年齢。
  E
 美和ちゃんと村上さん、富田くんと私(優子)が、遊園地でダブルデート。
  F
 富田くんが「大学に行かずに、パンの修行にパリに行く」と言う。富田くんの将来の計画に自分が居ないと思い、私は富田くんとけんかする。
 聡子が「強気で行かなくちゃ!」「人を好きになるのはどうしようもないこと!」「絶対に逃がしちゃだめよ!」と言う。
 私は、富田くんに謝りに行く。富田くんも「おわび!」と、うさぎパンをくれた。
  G
 富田くんにもらった「うさぎパン」を見せたとき、聡子が「なつかしい」と言った。
 私が、富田くんと和解できたのは、「聡子のおかげ!」と感謝。
 「優子を産んだのは私ではなく、ミドリよ!」と、聡子が言う。聡子とミドリさんは、当時、同時に妊娠した。聡子は死産し、3ヵ月間、昏睡。その間に、ミドリさんが産んだ優子が、聡子の子とされた。
 ミドリは、「両親が立派にそろって育ってくれたら、優子にもう会わなくてもいい!」とさえ言った。
 成仏したらしく、それ以後、聡子は現れない。
  H
 風邪で優子が一人、家で寝ているクリスマス・イブ。
 美和ちゃんが、小さなウサギのぬいぐるみを、クリスマス・プレゼントと門のところに掛けておいてくれる。
 それは、美和ちゃんが夢に見たウサギのぬいぐるみ。夢の中で小さな女の子が持っていたウサギのぬいぐるみ。同じものをデパートで見かけ、買ったという。
 実は、私(優子)は、聡子を覚えている。聡子は食の細い私のために、食べ物で、私の好きなウサギを作ってくれた。うさぎパンも、そのひとつ。
 私は、聡子の棺に、私が好きだったウサギのぬいぐるみを入れた。美和ちゃんがくれたのは、それと同じウサギのぬいぐるみだった。

 《評者の感想》
 「人を好きになるのはどうしようもないこと!」というのがテーマのひとつ。①これによってみどりさんと聡子の不条理な関係が、許される。ただし父親はいい加減。②富田くんと優子の和解も。この命題が根拠。
 聡子が、美和ちゃんにのりうつり、怪談めく。他者たち(聡子と優子)の過去が、別の者(美和ちゃん)の夢の中に入り込む設定も怪異。ウサギのぬいぐるみ、またうさぎパンが、死者と生者を結ぶ。

 追加(2011年):『はちみつ』
 美和子の幼馴染み、桐子の物語。桐子は美和子(博士課程2年)の大学の研究室でアルバイトをしている。
 同棲していたシュウが、桐子から去る。シュウに別の彼女ができた。桐子は放心状態で食欲もない。失恋の病い。
 美和子が学会で出張の間、桐子は、仙人と呼ばれる準教授と5日間、一緒にお昼を食べる。仙人は、淡々と食事をするが、桐子の失恋を心配する。桐子に、黄色い野の花を摘んで与え、慰める。
 美和子が学会から帰ってきて、3人でお昼を食べる。パンに美和子のお土産の蜂蜜をつける。おいしい。

 《評者の感想》
 女性の失恋。慰める女友達。茫洋として優しい年長の男。彼も、彼女を控えめに、かつ率直に慰める。彼の善意が救いである。
 在りそうで、無くて、無さそうで、在る話。

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『4TEEN(フォーティーン)』石田衣良(イシダイラ)(1960生)、2003年、新潮文庫

2012-09-15 20:30:08 | Weblog
   (1) びっくりプレゼント
 A 中1が終わった春休み。ぼく=テツロー、ジュン(=内藤潤、一番、成績がよい)、ダイ(=小野大輔、フレンチフライの大、よく食べる、身長180cm)が、ナオトの見舞いに行く。
 男子の話題はオナニー一色。7回やったとダイ。ぼくは2回がやっと。ジュンの外人巨乳マニアは有名。ナオトへの見舞いの品は、エロ雑誌。
 ナオトは身体が普通の人の何倍もの早さで年を取って行く病気。早老症。
 B 図書館で調べると、早老症の生存可能年齢は、およそ30歳。
 C ナオトの誕生日のプレゼントは、趣味のコギャルの出血大サービス。1万5千円×3人=4万5千円を準備する。渋谷で「援助」の女の子を捜す。リカリンが援助をOKする。手付け5000円を渡し、携帯ナンバーを教えられる。
 D ナオトの家は金持ちなので、ナオトの病室は、シャワー付きの個室。病室にリカリンが来る。営業スマイル。ナオトとリカリンを残し、3人が病室を去る。
 ダイとジュンが盗聴用に携帯をおいてくる。
 E 「いろいろ援助したけど、こんなヘンなの初めてだよ。けっこう、いいとこあるじゃん。」とリカリン。「ごめん。ぜんぜん立たないんだ。」とナオト。
 「リカさんの胸に頭をのせていいですか?」とナオト。そして彼の泣き声。
 F 終わって、リカさんにお金を渡す。彼女は、いつものつまらなそうな表情だった。

 《評者の感想》:一方で、中2の思春期の危うさ。他方で、若者の純朴さ。美化することはできない。暗く残酷になりうるから。しかし、美しい善意にもなりうる。
   
   (2) 月の草
 A 中2の1学期、立原ルミナが不登校になる。
 B 中学生の窮屈さ。ひたすら主君の命に従う。
 C 立原ルミナの住むマンションに、ぼく(=北川)が学校のプリントなどをもって行く。1回目、2回目はポストに入れるが、3回目はポストのふたが開かないので玄関まで行く。しかし「やっぱり、顔を合わせられない。」「でもまた来てね!」とルミナがインターホンで言う。
 D 「北川くん、あがってきて!」とルミナ。玄関から中に入ると、テーブルにケーキのご馳走。しかしルミナは部屋に鍵をかけ出てこない。「ちょっと話してくれてもいいでしょう」とケータイでルミナ。
 「ルミナって名前、嫌いだ!」「自分も嫌いだ!」「消えてしまいたい!」とルミナ。
 「話し相手になってくれる?」とルミナ。「分かった」とぼく。
 E 2週間後、ルミナが姿を現す。体重が半分くらい。「ダイエットしてる」とのこと。「次は外に散歩に行かない?」とぼく。
 F ルミナはぼくに好意を持っているよう。
 F-2 「きのう、目標の25キロになった!」とルミナ。二人、出かける。「部屋から出るの1ヵ月ぶり」とルミナ。
 中学生なんて月みたい。光っているのは大人だけ。おこぼれをもらっているだけ。
 「ねえ、北川くん、私を変えてくれる?」「壊して変えちゃっていいよ!」とルミナ。キスする。そして草の上で、あれこれ試したけど、うまくいかなかった。
 G ルミナのリバウンド。1学期末、ルミナは学校にもどる。ルミナは50キロになる。
 G-2 「立原さんとぼくは、つきあってるんだ」とぼくが、ナオト、ジュン、ダイの3人に言う。
 H ルミナは41キロ、プラス・マイナス16キロ。でも、ぼくはルミナが好きだ。

 《評者の感想》:拒食症と過食症は、同一の原因。「自分も嫌いだ!」「消えてしまいたい!」とルミナは若い。「ルミナは41キロ、プラス・マイナス16キロ。でも、ぼくはルミナが好きだ。」とテツローがルミナを救う。こういうことが、あればいいが、一種のおとぎ話である。

   (3) 飛ぶ少年
 A 中学2年の5月。関本譲(ユズル)は問題児。校則違反のパーマ。天然パーマだと言われ、やる気のない担任は、それ以上確認しない。
 ユズルは放送部。ヒップホップが好き。「芸能人になりたい」と言う。「日本人を感動させたり笑わせたりしたい」、「日本の中心はテレビの前にある」とユズル。
 B ユズルの校内放送は“ラップ特集”。無神経で「寒い」内容。将来に不安を持つ中学生の神経をさかなで。
 C ユズルの次の企画は、放課後の“大食いバトル・ロワイヤル”。20分で何枚、トーストを食べるかの戦い。ダイは25枚、ところがユズルは4枚。「中途半端なイベントだ」とぼく(北川)がユズルを批判。
 D 5月の終わり、ユズルは“陰陽師(オンミョウジ)”のイベントを、放課後に企画。ユズルは黒いマントに、黒い革手袋。「ユズルの念力で、スプーンを曲げる」と言う。10人のうち3人のスプーンが曲がる。
 しかしスプーンくらいは、普通にやっても曲がる。ユズルへの非難。
 D-2 ユズルが成り行き上、「空だって飛べる!」と言ってしまう。すると「飛べ!飛ーべ!」の大合唱。
 ユズルが4階から飛び降りる。
 幸い緑の植え込みの中に落ち、ユズルは両足を骨折するが、命は助かる。
 E いじめというより、ユズルは本当に、「空が飛べる」と思ったかもしれない。
 E-2 ぼくはユズルのお見舞いに行く。
 「全部、面倒くさく、全部どうでもいいと思った。」「死ぬことはないだろうと思った。」とユズルが言う。
 ユズルが幼稚園の時、父親は離婚し家を出て行った。「死なれた気持ちだ」とユズル。
 空を飛ぶなんて、中学生には、とても簡単なことなのだ。

 《評者の感想》:ユズルの心の不安定。彼は自分を安定させたい。「芸能人」という目標が彼を支える。他方、「全部、面倒くさく、全部どうでもいい。」とユズル。いざとなれば、彼は、何でもやる。確かに、空を飛ぶくらい、とても簡単なことかもしれない。

   (4) 14歳の情事
 A 「皮肉な冗談」と「クールな現実観察」のジュンが、恋に落ちる。
 A-2 ところがジュンの恋人は人妻。玲美さん。不倫専門サイト(月1500円でメールが送られてくる)で知り合う。
 「まだ、手も握っていない」とジュン。「玲美さんの話を聞きに行くだけ」とのこと。みんな、自分を不安に思ってる。」「欲求不満で、誰とでも寝る人妻なんていない」とジュン。
 B 優しいダンナなのに週に2回くらい、玲美さんを殴る。他の者に話が出来ないので、彼女は、ジュンに話をする。「たくさん、悲しい話を聞いた」という。
 C ジュンは「玲美さんのことが忘れられない」と泣く。
 C-2 ジュンはわざと、ダンナがいる時間に電話&メール。ダンナにばれる。玲美さんは、なぐられ、左目が血で真っ赤。
 D ジュンが「部屋に来い!」とダンナから言われる。テツローが立会人で、一緒に行く。ダンナは一流商社の家庭暴力男。
 ダンナがジュンを何度も殴る。ジュンは手を出さない。
 あまりのひどさに、玲美さんが警報ブザーを鳴らす。
 「別れる」と玲美さん。「怖くて別れられなかった。」「7年経って、今、わかった。」と言う。
 E その後、弁護士をたて、玲美さんはダンナと離婚。「二度とダンナとは会わない」とのこと。「ジュンは可愛いボーイフレンドだが男は感じない」と玲美さん。

 《評者の感想》:早熟な中学生。現実にはありえない。もし不倫専門サイトに、女が応じて、男が彼女の部屋までいったら、普通、襲うだろう。設定が、非現実的。DVの問題、つまり玲美さんとダンナの問題は、玲美さんとジュンの問題とは、全く別である。両者を結びつけるのが非現実的!

   (5) 大華火(オオハナビ)の夜に
 A 築地国立がんセンターの入院患者が逃亡したとの尋ね人のポスターが貼ってある。赤坂一真、62歳。
 B テツロー、ジュン、ダイ、ナオトの4人が、大華火がよく見える秘密の場所へ、準備のため向かう。ある会社の敷地内の廃工場。ところが、なんと、その3階に人がいた。末期がん患者の赤坂さんだった。
 B-2 「息子たちはののしりあうだけ、治療は暴力のようなもの。だから病院に帰りたくないので、通報しないでほしい。」「残り少ない自由を、一人で過ごしたい。」「通報しないでくれれば、一人1万円で、4万円払う。」と赤坂さん。
 B-3「大華火の日までは、通報しない」とのジュンの提案で、ぼくたち4人は妥協する。赤坂さんには「通報しない」と言い、アルバイト料ということで、4万円を受け取る。
 C 次の日、ぼくたちが、買い込んだ食料やお菓子をガツガツ食べる。それを、赤坂さんが、楽しそうに見ていた。「何も食べてないから、体がフワフワする。空に浮かぶ気がする。」と赤坂さん。また「ほしいものは何もなくなってしまった。」と言う。ナオトが「もっと生きてください」と泣く。
 D 大華火祭の日、「あと数日という気がする」と赤坂さん。みんなで華火を見る。
 D-2 華火が終わって、ぼくたちが帰るとき、「君たちに会えて感謝している。」「静かに一人で終わりにできる。」「豪勢な華火も見た。」と赤坂さん。4人とも、みんな泣いた。
 D-3 ジュンが、秘かに、「明日の朝、救急車を呼ぶ」と赤坂さんに言う。
 E 翌日、救急車が行ったとき、赤坂さんは廃工場から、いなくなっていた。
 E-2 2日後、300m離れた公園で、赤坂さんの遺体が発見される。衰弱した体で赤坂さんは、会社にも、ぼくらにも迷惑がかからないように、移動して死んだ。

 《評者の感想》:末期がんの62歳の赤坂さんが、一方で、病院のガン治療法批判、他方で、財産相続にのみ関心を持つ息子たちへの批判。実力行使で、病院から抜け出す。「静かに一人で終わりにできる。」「豪勢な華火も見た。」との赤坂さんの気持ちが理解できる。しかし、そこまでの体力が末期がんの患者にあるのかどうか疑問。一種のおとぎ話かな?

   (6) ぼくたちがセックスについて話すこと
 A どのグループにも属さない森本一哉(カズヤ)。「オカマみたいだ」とダイ。
 B 美女の杉浦和泉が、カズヤに告る。「いっしょに帰らない?」と。ところが「好きな人がいるんだ」とカズヤが断る。
 C イズミの取り巻きの女の子が、カズヤについて悪質なホモがらみの噂を流す。
 C-2 ホモの噂の否定のためと、放課後、みんなの前で、イズミが、「キスしていいよ!」とカズヤを挑発する。
 C-3 カズヤは笑って、「実はぼくはホモなんだ」とカミング・アウトする。
 C-4 「カズヤはすごい勇気があるな」とダイ。
 D カズヤは、「好きなのは男ばかり。ダイが好きだ。」と、ぼくに言う。
 E カズヤは女子生徒のヒーローとなる。イズミとは、付き合わなかったが親友となった。
 E-2 ダイは、カズヤが「ダイを好きだ」と思っていることを、知らない。

 《評者の感想》:カミング・アウトがこういう形で中学生の世界で起こるとは、思えない。カズヤはいじめの格好のターゲットになるだけである。しかし、このストーリーのようであってほしいと思う。

   (7) 空色の自転車
 A 中2の冬、2月、ダイがオヤジさんを殺したとのことで、月島署で取り調べを受ける。長男(ダイ)と次男が酔った父親を家から引きずり出し、冬の深夜、バケツの水をかけ放置。父親は凍死。
 B 父親はアル中で働かない。その日、昼から酒を飲み、母親と子どもたちを殴るける。しかも糞をもらす。兄弟が父親を外に出し、水をかけたという。ダイは不起訴になるが、復学してからテツローたちを避ける。ダイは不良グループに加わる。
 C ぼくたちは、ダイを信じる。彼を不良グループから取り戻す。
 D ダイから電話がくる。父親が荒れていないとき、ダイが「買ってくれ!」と頼んだ空色の自転車が配達されてきたとのこと。父親を思い、ダイは、泣いた。

 《評者の感想》:まとも精神状態になったとき、父親が示した優しい気持ち。息子のダイには救いである。よかった。

   (8) 十五歳への旅
 中2が終わった春休み、新宿中央公園で、テントを張り3日間、遊び歩くという計画。朝、自転車で僕たち4人、出かける。1日目の午後はアダルト・ショップへ。夜はストリップ劇場。テントで寝る。
 2日目、昼寝の後、クラブへ。ダンスをしているユウナとサヤが、声をかけてくる。母親とうまくいかず、ユウナが家出。サヤがつきあう。
 ユウナは妊娠している。「相手なんかわからない」とユウナ。ダイが「父親になってもいい!」と言う。ダイは家族がほしい。「一人は味方がいるんだ!」とユウナ。「母親と話してみる」と彼女が家にもどる。
 3日目、昼、公園で4人が、一人ずつ自分の秘密を告白。その後、自転車で家に帰る。
 「いいやつら、4人がいた!」と後で、各自が思うだろう。

 《評者の感想》:友人に、こういう「いいやつら」がいたら、幸せである。善意の中学2年生の物語。うらやましい!
 著者が、“あとがき”で、少年たちの「生きる力」、「成長する力」を信じると、述べる。著者は43歳、中2の少年たちは14歳だから、著者のスタンスは了解できる。

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