宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『ヒトラーとケインズ―いかに大恐慌を克服するか』武田知弘(1967生)、2010年、祥伝社(3)

2011-02-26 02:27:46 | Weblog

 

Ⅶ ケインズの戦後の国際金融システム案はナチスの「欧州経済新秩序」の新貿易決済システムと酷似

-1 貿易の決済は中央銀行が一括して行う

企業各自が決済をすると金・外貨の流出入を管理できず、通貨の不安定化につながる。貿易の決済は中央銀行が一括して行う。ナチスが為替清算勘定で行った方法。第1次大戦前、世界中が通貨の不安定化で苦しんだので、為替・貿易の中央銀行一元決済。

これをナチスもケインズも主張。

-2 国際通貨「バンコール」:金本位制でない国際金融システム

貿易の決済は国際通貨「バンコール」で行うとケインズ。バンコール:bank銀行+ore(仏語)。あらかじめ自動的に各国に過去3年分の貿易額の75%を「バンコール」として配布し、決済をこれで行う。

金を大量に保有するアメリカはケインズに反対。金本位制に固執。

-3 貿易(輸出・輸入)の収支均衡義務

 貿易黒字国は黒字削減義務。貿易黒字があると課徴金を課される。以上、ケインズ。

 シャハトは輸出した分だけ輸入することで相手の国も経済発展し双方が潤うと言う。貿易黒字の貯め込みはその国を豊かにしないし相手国にも迷惑。

 しかしケインズ案は採用されず。

 -4 マネーゲーム(資本移動)の規制

 資本逃避・投機が国際経済の混乱の原因。ケインズとナチスで共通。投資家たちのマネーゲームがドイツからの資本逃避、アメリカへの金の集中をもたらした。「資本移動が規制されねばならないということほど確かなことはない」とケインズ。

Cf. アジア通貨危機、アメリカITバブル崩壊、リーマンショック

しかしケインズ案は受け入れられず。

 短期の資本移動(投資)は制限。ただし長期の資本移動は当然、必要。

 国内の金融政策(利子率の調整)が有効になるには、自由な国際的資金移動はマイナス。

 Ex.1 借金に頼っていたドイツ経済は、1928年、米国の資金がドイツから引き上げられアメリカの株式市場に投資されることで破綻。

 Ex.2 1990年代のアジア通貨危機はヘッジファンドの急速な資金引き上げが原因。

-5 ブレトンウッズ体制

ケインズ案は、世界の金の7割を持つアメリカの反対で敗北。金・ドル本位制採用。なおIMF初代総裁はケインズ、IMF体制発足の翌年死去。

アメリカの「一人負け」で、金流出60年代から加速。1971年、ブレトンウッズ体制崩壊。ケインズは「一国の通貨(Ex.ドル)を国際決済に使用するのは無理」と指摘。アメリカが貿易赤字でないとドルが供給できない。

 

Ⅷ 「自由放任主義」「共産主義」以外の経済

「自由放任主義」(古典的資本主義、全く自由にする)、「共産主義」(全部、管理する)以外で、経済をうまく行かせる方法をケインズもナチスも考えた。

 -1 ケインズ主義

ケインズ『自由放任の終焉』(1926年)によれば民間事業の国有化には反対、当人の能力と関係のない親の遺産への相続税は超累進化。

-2 ヒトラーの「国家社会主義」

 国家社会主義は資本主義をベースに国家による統制を取り入れる。資本主義は労働者問題がひどい。共産主義は「巨大な官僚主義」。ドイツ社会をどう立て直すかとヒトラー。

 ヒトラー、ケインズは「共産主義の幻想」を見通す。Cf. 1989年東欧民主化、1991年ソ連崩壊で「幻想」消える。

 国家社会主義は個人・私企業の能力・業績・活動をないがしろにしない。資本主義がベース。共産主義と異なる。しかし国民生活が破壊されないよう規制する。政府による命令・統制で私企業のエゴイズムを規制。

 ヴェネチアの国家統制経済は500年間、パンの値段を変えなかった。ユダヤ人の「自由貿易」という弱肉強食がこれを壊した。

 経済活動は自由だが公益優先。

 Cf. 理念の問題でなく、理念の選択の問題。民主的手続きの重要性。

 格差社会を作らないことがヒトラーとケインズの共通点。

-3 失業 

 デフレが起きて失業者が出るより、インフレで金利生活者が困る方がまし。問題は失業だとケインズ。

 ケインズは無駄な公共事業をやればよいと言ったわけではない。(Ex. 1990年代自民党政権の無駄な公共事業。)政府がやるのは失業対策である。無駄な公共事業でない。

 

 Ⅸ 消費性向が高い低所得者がポイント

 子ども手当てを民主党のように全員に支給しても駄目。消費性向が高い低所得者に限るべき。ヒトラーはそうした。貧乏人にカネを回さないと消費が増えない。(Cf. 民主党は金持ち・大企業に増税しない。)ヒトラーは金持ち・大企業に増税した。

 

 Ⅹ ヒトラーの反ユダヤ主義の原因

 A ユダヤ人はドイツのハイパーインフレに乗じて儲けた。大企業・金融業者のユダヤ人が銀行から融資を受け資産を買いあさりハイパーインフレで大儲けし、返済額は減る。

 ユダヤ人はローマに滅ぼされた70年から1948年まで国家を持たない。ユダヤ人への迫害の下でカネのみが信じられた。キリスト教の利子禁止もありユダヤ人が金融業へ。

 B ユダヤ人に共産主義者が多かった。Ex. マルクス、トロツキー、ローザ・ルクセンブルグ。平等で平和な社会への憧れ。ユダヤ人の迫害の下での理想。レーニンは「ユダヤ人なしでは革命はなしえなかった」と述べる。

 ナチスの反共産主義がユダヤ人迫害とリンク。

 Cf. ヒトラーが構想しケインズが受け継いだ世界共通通貨構想をつぶしたホワイト(アメリカ案)はユダヤ人でソ連のスパイだった。

 

 ⅩⅠ ユダヤ人は規制に反対する:反ケインズ

 ユダヤ人経済学者に反ケインズが多い。

Ex. フリードマンのマネタリズム:通貨ストックの量だけを、インフレにならないよう国家が管理し、あとは市場に任せる。彼に従いレーガンは金融規制を撤廃し大成功で一時は3選も検討された。

 Ex. 住宅バブルを放任したグリーンスパン元FRB議長はユダヤ人。

 ユダヤ人は規制に反対しケインズ理論を攻撃。

 「よそ者」を追放する規制にユダヤ人は歴史的に反感。Ex. 中世の職業組合ギルド。

 

ⅩⅡ ユダヤ人の経済的貢献

ユダヤ経済人たちが作ってきた国際経済レジーム。

国際金融・国際貿易にたけたユダヤ人を受け入れてきた国は発展。スペイン・ポルトガル→英・オランダ→アメリカ。

ユダヤ人の自由競争至上主義。迫害をおそれ手っ取り早く金儲けする。国際的情報ネットワークで株など投機にたける。

共産主義はユダヤ人自身(Ex. マルクス)によるユダヤ金銭至上主義に対するアンチテーゼ。

 

ⅩⅢ ともかく失業をなくす

マネーゲームは絶対におかしい。規制が必要なのは当然。「冨」と「仕事」の分配がすべて。ともかく失業をなくす。(Cf.. 狂信的ナショナリズムは失業から生まれる。)

日本は「冨」と「仕事」の分配がうまくいっていない。世界3位の経済大国なのに自殺者3万人&ワーキングプア。馬鹿みたいな話!

 

 


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『ヒトラーとケインズ―いかに大恐慌を克服するか』武田知弘(1967生)、2010年、祥伝社(2)

2011-02-26 02:22:07 | Weblog

 

Ⅲ ヒトラーはケインズ理論の優等生

 -1 ニューディールは成功しなかった

 ニューディール5年後の1938年にまだ800万人の失業者がいた。

世界恐慌前の水準に米経済がもどるのは1941年。第2次大戦の軍需による。

 -2 ナチスの経済政策の成功:財政家シャハトが指導

 ナチスは3年で、600万人の失業者を100万人に減少させ、1928年の水準まで回復させる。1936年の実質GDPはナチス政権以前最高の1928年を15%上回る。

 ナチスの経済政策を推進したのはシャハト。彼は1923年の「レンテンマルク導入」の責任者。ハイパーインフレ収束に成功。

 シャハトはナチスに入党せずドイツ経済再建に奔走。ナチスの軍備拡張に反対し1937年に政権を離れる。

 シャハトは労働債の発行で公共事業を可能にする。労働力を保持する事業者が労働者数を担保に手形発行。自治体が受け取り銀行が割引く。その資金でナチスはアウトバーン建設。労働債は一種の国債として機能。インフレは起きず。

 ナチス・ドイツはこのほかにも租税債(納税をする代わりになる)、納品債(商品生産量に応じて発行される手形)など多様な債券で国家による信用創造を行い経済活性化。

 -3 乗数効果を高める工夫①:公共事業費を労働者に手厚く分配

 大企業・高額所得者に増税、彼らの貯蓄を吐き出させ公共事業に充てる。公共事業費は労働者に手厚く分配。土地の取得費、大企業の取り分は削減。公共事業費の47%を労働者に分配。消費性向が社会全体で高まる。

1990年代の日本、1930年代のニューディールはこの点の配慮がなく乗数効果小さい。

 -2 乗数効果を高める工夫②:「悲観の誤謬」を防ぐ

 悲観的予想による経済の縮小をケインズは「悲観の誤謬」と名づけた。

 ヒトラーは公共事業を一挙に大規模に行い希望を持たせる。金離れがよくなる。例えば、宣伝省がアウトバーン起工式を大々的に行う。小出しはだめ。

ルーズベルトのニューディールは小出しで効果を減じる。

 -3 乗数効果を高める工夫③:労働者・低所得者への大減税or有効需要再分配

 労働者・低所得者への大減税で消費性向を上げる。メイドを雇えば所得税減税。家の改修・修理は減税で建設業活性化。

 -4 ナチス的ワークシェアリング

 雇用を分け合う。Ex. 休日労働禁止、有給休暇制定、8時間労働の遵守。

他方、職のない若者のために奉仕団を作り有給で最低生活保障など。 

 

 Ⅳ ナチスの領土拡張の理由

 ナチスが1938年、オーストリア併合。オーストリアに住むのはドイツ人。連合国がドイツの強大化をおそれ人口国家オートリアを作りヴェルサイユ条約で併合を禁止しただけのことである。当時のオーストリア国民はナチスの非道な侵略とは思っていない。

 ナチス・ドイツのポーランド侵攻は失った領土を取り戻すため。

 ナチスはブロック経済下、自給自足をめざす。Ex. 石油を求めルーマニア占領。

 

 Ⅴ ナチス「新欧州経済秩序」計画(1940年)とケインズ

 -1ナチス「新欧州経済秩序」計画

統一通貨を作りヒト・モノ・カネの移動自由にする。

管理通貨制。マルクを基軸通貨とする。マルクを金orドルとリンクさせる。各国通貨とマルクは固定制。

アウトバーンをヨーロッパに拡大し失業問題解決。

国際分業の強制。ドイツは重工業。他の国々は軽工業、農業、工業。Ex. ルーマニアは小麦。

 EUの原型とも言える。独は仏・英を支配下に置くので米に対抗できる。

 ただしドイツ人中心。非占領国の賃金はドイツ人の50-30%。ソ連内の占領地はドイツの植民地とし独立は認めない。

 -2 ケインズはナチス「新欧州経済秩序」計画を評価

 一国が、輸出財が欠如しているためでなく、金が欠如しているという理由だけで破産する金本位制は誤り。ドイツが自己本位である点には反対。

 

 Ⅵ ナチスの為替清算協定

 ナチスは国際的に「持たざる国」の代弁者的性格を持ち、東欧・中南米で人気があった。 

 英米のブロック経済から外れた国を独が組織。

 -1 ドイツと中南米

 ドイツは中南米の原料をどこよりも高く輸入し、ドイツの工業製品を安く売った(実質ダンピング)。中南米の出超分を特別マルク(ドイツ商品の購入だけできる)で支払う。一種のバーター取引で金・外貨がいらない。

 中南米は重要な工業製品をアメリカから独に切り替える。Ex. 戦闘機。

 中南米はドイツ移民も多い。

 -2 ドイツと東欧

 第1次大戦後の食料増産でヨーロッパ、過剰生産。世界恐慌時の農産物価格下落の一因。

 東欧(ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア)が過剰農産物のはけ口に困る。東欧は貧しく金も外貨もない。独が物々交換で貿易しようと言ってきた。東欧の農産物と独の最新の工業製品とのバーター。東欧は大歓迎した。

 -3 為替清算勘定

 両当事国(Ex. ドイツと相手国)は各中央銀行に輸出・輸入の自国通貨建て清算勘定つまり為替清算勘定を開く。輸出・輸入業者は自国の為替清算勘定に支払い・受け取りをする。

 中央銀行同士で決済する。輸入超過の独は特別マルクで差額支払い。

 ドイツは、この為替清算勘定で中南米・東欧との貿易拡大。

 為替清算協定は全世界で77、結ばれる。ドイツはそのうち13を占める。

 各国が金の流出をおそれブロック経済化、保護貿易化する中で、輸出が伸びればその分だけ輸入できる為替清算勘定は世界貿易を拡大した。

 金や為替(外貨)を持たない国が貿易を拡大できた。

 


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『ヒトラーとケインズ―いかに大恐慌を克服するか』武田知弘(1967生)、2010年、祥伝社(1)

2011-02-26 02:10:26 | Weblog

 

まえがき

 ケインズ理論のモデルケースはニューディールよりヒトラー。アウトバーン建設、住宅建設、都市開発などで失業問題を解決する。ヒトラー政権の前半は大恐慌の経済的克服にあてられた。ケインズ自身、「大英帝国はナチスを見習うべき」と言っている。

 序 ヒトラーとケインズ

 ケインズは系統的に経済学を学んでいない。ケインズはケンブリッジ大で数学専攻。インド省に入る。その後、ケンブリッジ大で経済学の講師。やがて大蔵省に入省。1908年には大蔵省No. 3の地位へ。

 ケインズはドイツ擁護論で一世を風靡する。ドイツに無茶な賠償を課すべきでないとし大蔵省と対立し辞任。ケンブリッジの講師かつ為替相場、先物取引、投資会社で生計を立てる、1924年、失業対策に公共事業の必要を説く。IMF初代総裁。

 ヒトラーはケインズの6歳下。オーストリア生まれ。第1次大戦後、軍の情報員。ミイラ取りがミイラとなり「ドイツ労働者党」(ナチスのもと)に入党。弁舌で1921年、党首。

1923年、クーデター、ミュンヘン一揆失敗。ナチス、非合法化。獄中出版の『我が闘争』がベストセラーとなる。

恩赦で1924年、ヒトラー釈放。ナチスも合法化。

1933年、ナチス政権。全権委任法。600万人の失業者を3年でゼロにし、1938年、オーストリアを無血併合。ヒトラー、大人気。

しかし1939-45年、第2次大戦に敗れ自殺する。

 

Ⅰ 世界大恐慌の原因はドイツ賠償金問題にあった

 英仏の多額の対米債務支払いのため、またロシアが対仏債務の支払いを拒否したこともありドイツに多額の賠償金が課される。しかも賠償金を負担すべきオーストリアとオスマン・トルコが解体されていた。

 ウィルソンが19182月「無併合、無賠償、無報復」と言ったのでドイツは休戦に応じたのに約束を反故にされる。「戦争被害の損害補償」にとどまらず「戦費の補償」までドイツは負担させられる。しかもドイツの「支払い能力限度」までの補償でなく「連合国の請求額の全額」とされた。

 ドイツが経済的に破綻すればヨーロッパ経済が混乱し、かえって失うものが大きいとケインズは述べる。ケインズのドイツ擁護論が1919年末の『平和の経済的帰結』である。ドイツの賠償額は1320億金マルク(66億ポンド)。ケインズは20-30億ポンドが妥当と見積もる。「ドイツにハイパーインフレが起こる」とケインズが予言。

 賠償のための国債大量発行とフランスのルール占領で、1923年ドイツにハイパーインフレが発生。1兆マルクが1レンテンマルクとされた。

 ケインズは戦費に関し、米英が債権(28億ポンド)を放棄し仏伊の債務(15億ポンド)をチャラにする、また米から2億ポンド、連盟から2億ポンド、ヨーロッパに借款を行うと提案。(いわばマーシャル・プランの先取り。)英国政府に受け入れられずケインズは大蔵省を去る。

 -2 1920年代、アメリカのせいで世界の金融がおかしくなる

 アメリカは貿易黒字で金本位制のもと、金流入。ところがアメリカをインフレにさせないため通貨供給量増やさず。(19228月以降流入した金は連邦準備銀行の金準備に含めないと決める。金本位制のルール違反。)

 金が不足した欧州諸国は通貨供給量不足。デフレ状態となり産業沈滞。金の不足で他国からモノを買えず(輸入できず)世界貿易収縮。これが世界恐慌の背景。

 なぜアメリカは貿易黒字を溜め込んだか。原因①1国だけが貿易黒字を溜め込むのは世界経済にマイナスとの認識が当時、なかった。原因②アメリカには輸入する必要がなかった。資源あり、農地あり、工業製品もあった。

 -3 アメリカのバブルとその崩壊

 アメリカへの金の流入が株式バブル発生の大きな原因である。過熱を防ぐはずの金利引き上げが、さらにアメリカへの資本流入を誘う。ドイツに流れていた資金まで、ドイツから引き上げられアメリカへ。ドイツ経済が破綻。

ドイツ経済が破綻したら英仏への賠償金支払いがとまり米国の戦債が不良債権化する。この不安が19296月発表のヤング案で現実的となる。10月アメリカ株式市場の大暴落が起こる。

 -4 ドーズ案の成功(1924年)とヤング案(1929年)の失敗

 〈ドーズ案〉

ドーズ案(1924年)はドイツがドーズ債を発行、アメリカから借款。この資金で英仏に賠償支払い。英仏が米国の戦債の元利支払い。

 しかもドイツは賠償をマルクで支払うことができる。マルクの価値が下がらないようにするのは連合国の義務。以上、「トランスファー保護規定」。

 ドイツに資金が流入し第1次大戦で国内の被害がほとんどなかったドイツ経済が発展。独はもともと米英に次ぐ世界第3位の工業国。

 〈ヤング案〉

ドーズ案が賠償金総額、支払い期間を定めていなかったのでヤング案が新たに決まる。ヤング案がドイツ経済を破綻させる。

独の賠償額を引き下げるが「トランスファー保護規定」を廃止。ドイツ経済破綻。

 1929年ヤング案発表後、マルクの価値の保証がなくなったのでドイツから資本流出。アメリカへ資金流入。アメリカの株式バブルが一層過熱。

他方、ドイツ経済の破綻で「米→独→英仏→米」の資金循環がとぎれる。英仏が賠償金を独から取れなくなりアメリカの戦債が不良債権化。ケインズが予言。

米戦債は70億ドル、GDP7%Cf. 今の日本なら35兆円相当。リーマン・ブラザースの負債総額が米GDP5%

 戦債はヤバイのではないかとNY株式市場が大暴落。ヤング案の実施で実際、不良債権化。1929年の教訓:経済は相手が健全なとき自分も潤う、自分だけ潤うことはできない。

 193031、ドイツに対し外国の金融業者が融資をやめ返済を求める。ドイツの金保有高、外貨が消滅。金融危機で銀行倒産、また融資を受けられず企業倒産。

 ところがワイマールの最後の首相ブリュ-ニングが致命的なミス。ケインズ理論と正反対。不況・税収減による財政赤字、その削減のため増税、財政支出削減、失業手当停止。連合国に対し賠償額引き下げろとのアピールでもあった。

 一層の不況、失業者650万人。ドイツ国民が猛反発。

 ヒトラーのナチスは再軍備、ベルサイユ条約破棄を唱え、中産階級以下から圧倒的支持。財界、保守派も反共産党の立場からナチス支持へ。1933年、ナチス政権成立。

 

Ⅱ ヒトラーもケインズも資本主義の限界を見抜いていた

 -1 「失業」が最重要課題また赤字財政をいとわない:ヒトラーとケインズの共通点1

 賃金が下がれば企業が雇用を増やし失業問題はやがて解決する。これが従来の古典派経済学の自由放任の考え方。

 ヒトラーのナチスは4ヵ年計画で失業解消。ヒトラーは公共事業・中小企業融資・貧困農民救済で失業を劇的に減らす。

 ヒトラーとケインズは「失業」を最重要課題とした。

ヒトラーの卓越さは赤字財政をいとわなかったことである。失業が増えるより赤字財政のインフレのほうがましと考えた。この点でケインズとヒトラーは同じ。

 なおケインズは「伸縮財政」について述べたのであり、好況のときは財政黒字にすべきで、日本のようにひたすら巨額の公共事業を行うのは誤り。

 -2 管理通貨制:ヒトラーとケインズの共通点2

 ヒトラーは金本位制から離脱。金本位制では通貨は金の裏づけが必要。管理通貨制は生産力の裏づけがあればよい。

 ドイツは金流出していて金融危機。つまり通貨の発行ができない。金融危機からの離脱には管理通貨制への移行が不可避。ヒトラーとケインズは共通。

 金本位制が機能するのは国力(農業力、工業力、資源など)が均衡する場合である。

 金本位制は綿密に計画された通貨制度でなく、英国が1816年金本位制を採用したことから各国に広まっただけである。

 イギリスが大量輸出・大量輸入で金を世界に循環させて金本位制が機能。

 アメリカが金を独り占めし金本位制が機能しなくなる。アメリカは農業大国で輸入しない、工業大国で輸出する。金がアメリカに一方的にたまる。

 -3 増税でなく貯蓄による戦費調達:ヒトラーとケインズの共通点3

 軍事需要の激増によるインフレ阻止の必要。増税では国民の負担が大きい。貯蓄で戦費調達。ナチスは国の共済を設立し、所得控除・利子非課税で国民の自発的貯蓄に成功。1938-42年に個人貯蓄が4倍となる。

 -4 マネーゲームの禁止:ヒトラーとケインズの共通点4

 ケインズは投機の規制を主張。ヒトラーも不労所得の撤廃を主張。財政家シャハトも投機の規制を必要とした。

 第1次大戦後のハイパーインフレの原因が投機だった。(1レンテンマルク=1兆マルク)ヒトラーは投機で儲けたユダヤ人資本家に対し反感。

 イギリスの金持ちが国内に投資せずイギリス経済が衰退した。「資本移動は規制すべきだ」とケインズ。

 第1次大戦後、イギリスの金本位制復帰にケインズは反対、管理通貨制を主張。金とのリンクは為替を安定させポンドの価値を高め資産家を保護するが、輸出が衰退し労働者を失業させる。(Cf. 1990年代のドル高、輸出衰退のアメリカも投資家保護で同じ。)

資本家階級でなく労働者階級を考えろとケインズ。

 1925年イギリスが金本位制復帰。(チャーチルが推進。)ポンド割高で企業が輸出品値下げのため賃金カット。輸出産業の炭鉱の賃金カットで1926年にゼネスト。この時ケインズは労働者の味方。

 


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