宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『春を嫌いになった理由(ワケ)』誉田哲也(ホンダテツヤ)(1969生)、2005年、光文社文庫

2012-05-30 21:21:51 | Weblog
 水の底で男が、小さな裸の少女を噛み、食べている。少女が「助けて」と言う。

   序章 嫌な仕事を断れなかった理由
 秋川瑞希(ミズキ)、一人っ子、26歳。大卒後、就職浪人4年目。
 叔母、名倉織江、38歳、テレビ太陽のプロヂューサー。
 織江の依頼で、瑞希、ポルトガル人超能力者の通訳のアルバイトをすることになる。瑞希は英語・ポルトガル語ができる。
 超能力者はマリア・エステラ、52歳のおばさん。『解決!超能力捜査班』に出演予定。
 母に200万円の借金があり、それを返すためには金を稼がねばならず、通訳の仕事を瑞希は断れない。しかしインチキの片棒を担ぐのは嫌だと瑞希。

   第1章 外国人が日本を訪れる理由
 児童擁護施設出身の男(=岩本邦彦)。身重の妻。テレビは『解決!超能力捜査班』をやっている。自分の親も捜してほしいくらいだと男。

    1 初台の幽霊
 瑞希、成田にエステラを迎えに行く。瑞希はエステラとホテルに泊まる。
 新宿・初台に若い男の幽霊が出るという。スーツの男が走ってきて、わかいOLに「寒い。すごく寒い!」と言って消えた。
 初台に行ったエステラが「人の念が渦巻いている」と言う。

    2 正剛の成功、林守敬と玉娟の日本への密出国
 福建省泉州市恵安県の貧しい村。村長の孫、古正剛(ゴウツンガン)が日本に行き、大成功しもどってくる。
 村の拠点が老人会館。老人会から20万元(200万円)×2人分、借りる。俺、林守敬(リンソウチン)21歳と妹、玉娟(ウージェン)19歳。二人は、老板(ラオパン)=蛇頭によって日本へ密出国する。
 密航はいわば村の公益事業。それを老人会が仕切る。正剛は老人会の顔役。彼が老板(ラオパン)の吟味・交渉を行う。

    3 瑞希:超能力にトラウマ、不信感
 初台のコンクリートむき出しの廃ビル。「不吉なものを感じる」、「死体があると思う」とエステラ。
 瑞希は超能力にトラウマ、不信感。小4の時、友だちの中島賀世子が行方不明になる。白目を大きくむいた男が、少女を左手をかじり、食べている予知夢を見た。
 しかし、それはゴヤの絵との混同だと言われ、皆にバカにされた。その後、犯人がつかまりカヨコの死体も発見された。

    4 密出国のコンテナ:計43人の密航者
 林守敬と玉娟の日本への密出国のコンテナには計、43人の密航者。玉娟が襲われそうになる。それを救った顔役が事故で死亡。

    5 全裸のミイラ死体の発見:初台の廃ビルにて
 エステラの透視のとおり、初台の廃ビルで全裸のミイラの死体が発見される。警察は透視による死体の発見など信じない。自分たちで死体を遺棄したヤラセではないかと疑う。

    6 従兄の顧少秋
 コンテナの43人の密航者のうち、生き残ったのは5人。
 日本に着くと松波組の手引きで新宿の歌舞伎町へ。そこで従兄の顧少秋(グウリウチエ)と会う。彼は正剛の手引きで最初に日本に来た一人。彼が日本での林守敬・玉娟の世話をする。

   第2章 超能力を信じない理由
 男(=岩本邦彦)は、テレビの『解決!超能力捜査班』が、超能力者マリア・エステラが白骨死体発見と、報告するのを視る。
 そして番組が独自に作成したという死体の復顔像が流される。

    1 両神村:かつて他殺死体が発見された
 かつて他殺死体が発見された両神村へエステラ、瑞希たちが取材に出かける。犯人の名前にはD、N、「ろ」が含まれるとエステラが言う。

    2 台湾流氓(リウマン)の月(ユエ)
 林守敬、林玉娟、顧少秋、蘇夫妻の5人が6畳一間に住む。
 昼も夜も林守敬と林玉娟は働く。
 歌舞伎町の少秋が働く店で、台湾流氓(リウマン)の月(ユエ)に、チンピラ2人が殺される。

    3 エステラの透視:「殺人犯がここに来る」
 『解決!超能力捜査班』の放送中、エステラが「殺人犯がここに来る」と透視する。

    4 玉娟:日本人から結婚を申し込まれ喜ぶが、入管につかまる
 少秋の仲介で店舗の改造の仕事に、俺・守敬はつく。俺はインパクト・ドライバーも買う。俺は真面目に働く。日本の10万円は、中国で100-150万円になる。
 マスコミが月(ユエ)を知りたがっている。
 店で、玉娟が「日本人から結婚を申し込まれている」と喜んで言う。守敬は「騙される」と反対。
 日本国籍が取れるので嫉妬した同胞から入管に密告される。玉娟が入管につかまる。

    5 インチキ超能力者、秋川瑞希
 瑞希は超能力・霊魂・透視を憎む。小4の時、友だちの中島賀世子が殺された事件で、「インチキ超能力者、秋川瑞希」と黒板に書かれ、いじめられた。(⇒第1章3)

   第3章 あえて訳さなかった理由
 男は『解決!超能力捜査班』をテレビで見ながら、「あれ、霊能者と通訳の女がいなくなった」と気付く。

    1 殺人犯が「誰を殺したか」は、まだわからない:エステラ
 「エステラが『殺人犯がここに来る』と言っている」と、瑞希が、プロデューサーの織江に急いで伝える。「邪悪なイメージが局の外に近づいてくる」とエステラ。「誰を殺したか」は、まだわからないとのこと。
 ただし瑞希は番組中に、エステラのこの発言を訳すことはしなかった。「重大なことは織江に相談せずに訳してはいけない」と言われていたから。

    2 老人会の正剛:貸した40万元(400万円)の返済を心配する
 玉娟が強制送還されたのを知った老人会の正剛は落胆し、疑念を持つ。
 強制送還されれば、2万元(20万円、1元=10円)の罰金。中国内での出稼ぎの2年半分。すでに守敬と玉娟は、2人で老人会から20万元×2=40万元(400万円)の借金。
 少秋はすでに、借金を返済。

    2-2 守敬:他人のパスポート、健康保険証、運転免許証を手に入れる
 月(ユエ)を追う日本人マスコミの男がカバンを忘れる。守敬がそのカバンを拾う。その中にパスポート、健康保険証、運転免許証、携帯電話がある。名義は月光出版社員、久保友則。ノートやメモリースティックもあったが、それらは捨てる。
 仕事先のトモさんに頼んで、10万円で免許証の写真の貼り替えをする。
 サラ金で、なりすましで、限度額いっぱい50万円×4社=200万円くらい借りてしまおうと、守敬が計画。
 
    3 エステラ:「失踪人の若い男はもう亡くなっているかもしれない」
 両神村の身元不明遺体事件で、エステラは「最初から殺意があった」と透視。
 『解決!超能力捜査班』の失踪人探しについて、エステラは「失踪人の若い男はもう亡くなっているかもしれない」と告げる。

    4 守敬、「なりすまし」で借りる:サラ金から合計280万円
 守敬は、サラ金6軒から合計280万円を「なりすまし」によって借りる。手伝ってくれたトモさんに30万円を渡す。
 守敬が、稼いだ20万円とともに270万円を地下銀行を通して、老人会館に送金。正剛が「何をしでかした?」と

    4-2 月(ユエ):守敬を探し、少秋の所に来る
 月(ユエ)が守敬を探して、少秋の所に来る。「今日は見せにいない」と少秋が言うと、月(ユエ)が少秋の左耳をむしりとる。

   第4章 彼女がキレる理由
 テレビを見ている男(=岩本邦彦)は、児童施設で幼児期から10代を過ごした自分が、今、身重の妻と暮らし幸せと思う。

    1 市原稔・祥子夫妻:生き別れた兄、久保友則を探してほしい
 『解決!超能力捜査班』の失踪人探しのコーナーで、市原稔・祥子夫妻が生き別れた兄、名前は久保友則、28歳、無職を探してほしいと登場。
 市原夫妻に会ったエステラが、プロデューサーの織江に、「何か説明をせずに隠している」と抗議する。

    2 俺=林守敬:月(ユエ)から逃げるがつかまりそうになる&少秋は惨殺される
 俺=林守敬は月(ユエ)から逃げる。久保友則として生きると決める。
 少秋からの電話で、少秋の家に、俺が行く。月(ユエ)がそこに居て、少秋はすでに惨殺されていた。

    2-2 久保友則:月(ユエ)に殺され、月(ユエ)が久保友則のカバンを奪う
 俺が見つけた月光出版の久保友則のかばんは、月(ユエ)が久保友則から奪ったものだった。
 月(ユエ)を追っていたマスコミの男は久保友則であり、彼は月(ユエ)に殺され、月(ユエ)が久保友則のカバンを奪った。
 月(ユエ)は「取材データが入った久保のメモリースティックはどこだ」と、俺=林守敬にたずねる。
 俺は、それを捨てた。俺は殺されると思い逃げる。

    3 エステラの「犯人がここに来る」との透視は放送できない:織江
 プロデューサーの織江は、エステラの「犯人がここに来る」との透視は、裏が取れない限り放送できないと判断。
 織江は、女だからとなめられないようにする。だからいつもキレる。

    4 『失踪人、久保友則さん、28歳』
 月(ユエ)から逃げた俺=林守敬は、ラーメン屋で、テレビに『失踪人、久保友則さん、28歳』と映されたのを見て驚く。

   第5章 珍しく私がキレた理由
    1 白骨死体の復顔像こそ久保友則である:男(=岩本邦彦)
 テレビで『解決!超能力捜査班』を見ている男(=岩本邦彦)が、久保友則は児童擁護施設で1歳年下の阿部友則だと気付く。彼は養子に入り姓が久保になった。
 市原稔・祥子夫妻が探す久保友則の写真は、男が知る久保友則とは別人である。(それは林守敬の写真である。)
 白骨死体の復顔像こそ久保友則である。
 男(=岩本邦彦)はテレビ太陽に電話する。

    2 「久保友則」は偽名:林守敬がテレビ太陽にやってくる
 俺=林守敬は、保護を求めて久保友則を探しているというテレビ太陽に向かう。
 織江は、「久保友則本人が来た」と知らされる。ただし織江は、この「久保友則」が偽名でやってきたのが、林守敬だと知っている。

    2-2 市原祥子:守敬の妹の玉娟だった
 エステラが、瑞希に「市原祥子を、すぐに玄関前に連れて行くように」と言う。
 そこで市原祥子は、林守敬と会う。
 林守敬も、何と市原祥子が、妹の「玉娟!」と知る。
 彼女は強制送還されず、彼女に結婚を申し込んでいた男(=市原稔)と結婚した。

    2-3 刑事の一人:守敬に襲いかかった月(ユエ)を殺す
 その時、月(ユエ)が玄関で、林守敬を待ち伏せていた。襲いかかった月(ユエ)を、刑事の一人が殺す。
 エステラが、こんな危険な場面に行くように指示したと、瑞希はキレる。

    2-4 白骨死体:月光出版社員、久保友則で、月(ユエ)が殺した
 初台の廃ビルの白骨死体は月光出版社員、久保友則であり、月(ユエ)が殺した。

    3 守敬の写真と偽名「久保友則」:失踪人コーナーで織江がとりあげる
 強制送還されるはずの玉娟を、市原稔が身元引受人となって、引き取り結婚した。
 市原夫妻から、「玉娟の兄の守敬を探したい」とテレビ太陽プロデューサーの織江に相談があった。
 玉娟が持っていた守敬の写真と、「久保友則」という偽名を手がかりに『解決!超能力捜査班』の失踪人のコーナーで取り上げた。
 このことを織江は、エステラには伝えていない。
 
    3-2 守敬と玉娟の罰金と借金:市原稔が払う
 市原夫妻は、密入国の守敬を中国に帰し、罰金と借金は、稔が払うという。

   終章 何もかも嫌になった理由
 「守敬を救い、月(ユエ)を殺した刑事は、実は亡くなった少秋よ」とエステラが瑞希に言う。「瑞希は霊能力がある」とエステラ。
 超能力・霊能力を信じない瑞希は、「生きている者も死んだ者も区別がつかないのか」と思い何もかも嫌になる。
 エステラが、瑞希の小4の時の予知夢について言う。「あなたの夢が、犯人は長い髪の男と予知したので、女の子たちが、髪が長い犯人を警戒し、被害者が一人ですんだのよ」と。

 《評者の感想》
1 プロットが骨太でしっかりしている。謎解きに無理がない。
 白骨死体は、月光出版社員、久保友則。
 月(ユエ)は、自分についてのデータを集めていた久保友則を殺した。
 林守敬は、久保友則に成りすました。
 林守敬が、月(ユエ)に追われたのは、久保友則のデータを月(ユエ)が取り戻そうとしたため。
 玉娟は入管につかまるが、強制送還されなかった。
 玉娟に結婚を申し込んだ市原稔は本気だった。玉娟は、日本国籍を得て市原祥子となる。
 林守敬は、保護を求めて、「久保友則を探している」というテレビ太陽に向かう。
 これらの設定に、無理はない。

2 「瑞希は霊能力がある」とエステラが言うところが、最後のクライマックス。
 瑞希は、死者が、つまり少秋が、月(ユエ)を殺すのを視る。
 怪奇な結末。

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『ドルジェル伯の舞踏会』レイモン・ラディゲ(1903-1923)、遺作1923年(20歳)、新潮文庫

2012-05-15 18:25:41 | Weblog
   ※ 覚書のカード
 「みだらな貞潔な恋愛小説」(ラディゲ)

   A(※原文には章立てはない。)
   1 ドルジェル伯爵夫人(マオ):グリモワール家の出身
 「清浄な心」は「奇異」な「無意識の操作」をする:マオの心に起きた出来事。
 名門グリモワール家がルイ13世の時代にマルチニック島に移住。
 母グリモワール侯爵夫人。その娘マオ。
   2&3 マオ18歳、アンヌ30歳
 マオは美しく育ち、18歳のとき、アンヌ・ドルジェル伯爵(30歳)と結婚。
 大戦後のドルジェル家の舞踏会を、マオが助ける。
   4 ポール・ロバン、フランソワ・ド・セリューズ
 招待者の一人が、若い外交官ポール・ロバン。彼は「成功」のみが望み。あちこちの貴族の晩餐会に出る。
 その友人がフランソワ・ド・セリューズ20歳。貴族。無頓着だが無鉄砲はしない。
   5&6 フランソワが、ドルジェル伯夫妻(アンヌ、マオ)と友人となる
 ポール・ロバンとフランソワは『メドラノ』曲馬に出かける。
 ポールが、ドルジェル伯爵(アンヌ)と夫人マオと会う。
 フランソワがアンヌ、マオと友人となる。ポールを担ぐためにアンヌとフランソワが昔からの友人だったふりをする。
   7 ポールは腹をたてる
 アンヌとセリューズ・ド・フランソワが昔からの友人と思い込み、ポールは腹をたてる。
 アンヌの「おもしろがり」を将官たちは好まず。アンヌの父がプロシア兵の行儀のよさをほめる。これらが、ドルジェル伯爵(アンヌ)がレジオン・ド・ヌール勲章をもらえない原因の一つ。
   8&9 オールステリッツ公爵夫人(オルタンス)
 ロバンソンの踊り場へ、ポールとフランソワ、ドルジェル夫妻が出かける。
 民衆が、上流人を眺めるために、ロバンソンにやってくる。
 オールステリッツ公爵夫人(オルタンス)は、民衆から親しまれていた。
   10 ペルシャ貴族ミルザ、アメリカ婦人エステル・ウェイン
 ジェラールのダンス・ホールに、ポールとフランソワ、ドルジェル夫妻が行く。
 ペルシャ国王の従兄ミルザが座をにぎやかにする。
 フランソワは、アンヌとマオを仲のよさを嫉妬しない。
 アメリカ婦人、エステル・ウェインが、フランソワに気に入られたいと思う、しかし彼は興味がない。
   11 率直なフランソワ
 アンヌはフランソワを昼食に招く。
 率直に喜びを示すフランソワを、アンヌは喜ぶ。ロバンは隠し、率直でない。

   B セリューズ夫人とフォルバック夫人
 フランソワの母、セリューズ夫人。夫は船乗り。夫が早く死んだので、セリューズ夫人は「しっかりしないといけない」と思い、フランソワにはいつも冷ややかにする。
 フォルバック夫人(75歳)は、フランソワの父の小さい頃を知っている。彼女は1850年にプロシアの田舎紳士フォン・フォルバックと結婚。
 フォルバック夫人は今、脳水腫の息子アドルフと住む。フランソワは、老人の話を良く聞くのでフォルバック家で評判がよい。

   C フランソワと伯爵夫人マオ:田舎の話をする
 ドルジェル伯(アンヌ)はフランソワを気に入る。
 フランソワは「暖炉の火が好きです」と言う。フランソワとドルジェル伯爵夫人(マオ)が田舎の話をする。
 ドルジェル伯は、田舎の自然を、野蛮と思う。封建貴族、グリモワール家のマオと、宮廷貴族、ドルジェル家のアンヌとの趣味の対立。
 ポールがアンヌに会いに来る。マオとフランソワが一緒に散歩に出かける。

   D フランソワは、ドルジェル夫人(マオ)を、母(セリューズ夫人)に会わせたい
 アンヌは、人工的雰囲気にいないと憂鬱になる。
 セリューズ夫人は、フランソワが20歳でも、「職業などなくてよい」と思う。貴族的!
 フランソワは、マオを、母に相応しい人間と思い、母に会わせたいと思う。

   E フランソワ:アンヌとの友情は壊さない
 フランソワの母、セリューズ夫人はまだ37歳で若く美しい。
 フランソワは、すでにドルジェル夫人(マオ)を愛している。
 ただしそれは、悪い欲情と異なる。ドルジェル伯(アンヌ)との友情は壊さない。
 アンヌがフランソワを好きになったのは、フランソワがマオを愛したから。妻マオは、夫が好意を持つフランソワに、好意を持つ。

   F マオの姉、ドルジェル嬢
 フランソワは、ドルジェル邸で欠くべからざる人となった。
 ドルジェル伯の姉、ドルジェル嬢は容色に恵まれない淑やかな人。

   G アンヌは欲情をマオに抱く
 ドルジェル伯爵は、「恋愛には暇がいる」ので避けてきた。
 マオがフランソワと話すのを見て、アンヌは欲情をマオに抱く。
 上流青年たちが、フランソワを羨望した。
 フランソワは、秘かにマオを愛した。

   H ドルジェル夫人:フランソワとの友情
 フランソワが、初めて母、セリューズ夫人に、ドルジェル夫妻のことを話す。
 セリューズ夫人は、フランソワに「ドルジェル夫妻を招待したら」と言う。
 それを知ってドルジェル夫人は、「この友情に真面目なものが添えられる」と思い、喜ぶ。

   I フランソワとマオ:従兄妹(遠縁)と分かる
 ドルジェル伯夫妻が、セリューズ夫人のシャンピニーの家を訪問する。
 セリューズ夫人が若く美しいのでアンヌは驚く。フランソワも、母が美しいと思う。
 フランソワとマオが従兄妹(遠縁)と分かる。
 マオは、フランソワが従兄妹で安心した。マオは、静穏をかき乱す愛が、怖い。
 従兄妹(遠縁)なので、辞するとき、マオとフランソワは、アンヌの前で抱き頬に接吻する。

   J つくり話:ポール・ロバン
 ジョゼフィーヌの肖像、マルチニックから、マオとフランソワが従兄妹と分かったなどというのは、「つくり話だろう」とポール・ロバンは思った。

   K フランソワのお嫁さん:セリューズ夫人
 セリューズ夫人が、「フランソワのお嫁さんは、ドルジェルの奥さんみたいな人がいい」と言う。
 フランソワは「僕だって、妻にするには、あの人でなくっちゃ」と悲しい気持ちで思う。

   L 妻マオとフランソワが腕を組み合っている:アンヌの動顚
 自動車のなかで、フランソワが、わざとドルジェル夫人の腕の下に、自分の腕を滑り込ませる。
 アンヌは、妻とフランソワが腕を組み合っているのを見る。アンヌは気が顛倒した。しかし何も言わない。
 マオが、後でアンヌに、困ったことを告白。アンヌは「子供いたずらみたいなことさ」と答える。

   M 品よく仮装された危険:ドルジェル夫人とフランソワ
 フランソワは「不謹慎をした」と思い、「ああいう動作は二度と繰り返すまい」と心に誓った。
 フランソワは、「マオに愛される値打ちが自分にない」と思い、ますます忠実になる。
 品よく仮装された危険。
 ドルジェル夫人とフランソワ・ド・セリューズは「二人の考えが、抱き合い絡み合っている」ことを知らなかった。

   N 「不思議な反射作用」:マオがフランソワの共謀者となる
 フランソワは、自分が少年時代を過ごした場所、マルヌの川岸でマオを見たいと思った。彼は一計を案じる。
 しかし彼の嘘が明らかとなる。マオは嘘を発見するが、「不思議な反射作用」でフランソワの共謀者となる。
 ただし、フランソワには、マオが自分と共謀者であることは想像できなかった。
 マオは自分の心を調べるのはやめた。

   O マオは、フランソワと一緒に居るとき、自分の幸福に気づかない
 夏、アンヌの家で、マオとフランソワ、しばしば1日中、庭で過ごす。
 マオは、健康と同じように、自分の幸福に気づかない。
 マオは、フランソワと自分を、気づかずに「一つ」と考えていたので、パリには、ほかに「誰もいない」と言った。

   P、Q フランソワの旅行:マオが見送る
 マオは、フランソワが「女連れで旅行する」のかと心配するが、杞憂だった。
 フランソワの出発の日、二人は別れの接吻をした。
 マオは、「フランソワの思い出」に追いつかれないよう、早く歩く。

   R フランソワ:母への手紙、マオへの手紙
 フランソワは一人でバスク地方に旅行。
 フランソワが母に手紙を書く。「友情の義務に欠けることがないように」と母からの返事。フランソワのマオへの恋が、分かってしまう。
 マオは、フランソワとの手紙による交際で、幸福。夫の友情のおかげと、すっかり安心しているマオ。

   S ドルジェル伯爵夫妻:オーストリア旅行
 ドルジェル伯爵夫妻がオーストリアを旅行。
 オーストリアのドルジェル一門とフランスのドルジェル一門。第1次大戦について、「召使が争っても、主人たちが仲たがいすることはない」と思う。
 アンヌは虚栄心の喜びのため、ちょいちょい浮気する。今回、ウィーンの婦人がアンヌを好きになったが、成就せず婦人が去るという小事件があった。

   T アンヌに対する友情をフランソワは裏切りたくない
   U フランソワが「ドルジェル夫人を希望のない愛で、愛している」とポールに告白

   V マオは「フランソワを愛している」と自分に対し認めた:この恐ろしい言葉
 オーストリア、ドイツと旅行してドルジェル伯爵夫妻がパリに帰ってくる。
 「為替相場のおかげで、ドイツのものがものすごく安く買えた」とアンヌ。
 フランソワは2ヵ月間、マオに会わなかった。彼はすぐ、マオに会いに行く。アンヌが居なかったので、二人きりになり、気まずくなる。
 再び二人が会ったとき、マオは「フランソワを愛している」と認める。この恐ろしい言葉。その白昼のような明るさ!

   W マオからセリューズ夫人への手紙:「助けてください」
 フランソワへの愛に気づき、ドルジェル夫人は憔悴し蒼白となる。
 マオは「助けてください」と、セリューズ夫人(フランソワの母)に手紙を書く。「夫以外の男を慕っている」、「悪いのは私一人だ」、「フランソワから逃亡する以外、自分を救えない」とマオ。

   X 「あの子(フランソワ)があなたを愛している」:セリューズ夫人がマオに言う
 マオとセリューズ夫人が会う。
 「あの子(フランソワ)があなたを愛している」と、セリューズ夫人がマオに言う。
 セリューズ夫人はすべてを知り、慄然とする。
 「本当のことだけは言わないでください」、「破滅しかないから」とマオ。マオは女の義務に従おうとする。
 愛されているという確信が、マオに与えている静かさ、落ち着き。マオは聖女のようだった。

   X-2 セリューズ夫人:マオの手紙をフランソワに見せる
 マオの願いを聞き、フランソワをドルジェル家の晩餐会に行かせないため、セリューズ夫人はマオの手紙をフランソワに見せる。
 フランソワは自分の幸福を知る。
 アンヌが変に思わないように、自分は「晩餐会に行く」とフランソワ。

   Y ドルジェル家の晩餐会
 ドルジェル家の晩餐会にフランソワが来たので、「セリューズ夫人は、フランソワにまだ何も伝えていない」と、マオは思った。

   Y-2 「こんな子供じみた男」とアンヌのことを思う:マオ
 ニコライ2世の側近の一人だったナルモフ公爵をめぐって、道化のような、馬鹿げた振る舞いを、アンヌがする。
 「こんな子供じみた男のために、自分の恋を犠牲にすることができるのか」とマオは思った。
 「フランソワに罪を自覚させるはずの人」があまりに愚かなのを見て、マオはつらかった。
 
   Y-3 マオ:自分の愚かさを演出する
 マオは自分がアンヌの共犯者となることで、フランソワの恋心を弱めようと思った。
 ところがフランソワは、「アンヌがマオをこんなふうに悪くしちまっている」と(アンヌへの友情の義務を弱め)、かえってマオへの恋心を募らせた。

   Y-4 マオは、疲れて倒れた
 「二人の間の恋愛」ということ以外、自分(マオ)とフランソワを隔てる理由がない。それなのにセリューズ夫人に、 「フランソワと引き離してほしい」と頼んだ。「自分は狂気じみていた」と、マオは思う。
 マオは、疲れて倒れた。
 フランソワ・ド・セリューズとマオのことは、世間が小声で噂するようになっていた。
 倒れたマオに、「フランソワが、もうしばらくあんたのそばに残っていようと言ってるよ」とアンヌが無邪気に言う。客たちは、フランソワのそういう親切に驚く。
 「明日の朝様子をおたずねしましょう」とセリューズがマオに言って立ち去る。

   Z マオは、夫アンヌに告白する
 「フランソワに、も1度自分が会うことが、非常に危険だ」とマオは感じる。アンヌ(ドルジェル伯爵)の助力がいるとマオは思う。「もう一人でこんなことをいつまでも続けてゆけない」とマオ。
 マオは、夫に告白する。
 アンヌは信じない。(いっさいどうでもよいと思い、自分はマオを愛していない気がした。)

   Z-2 「嘘」でなく「現実」と思う:アンヌ
 人前で起こることしか現実と認められないアンヌ。
 マオが、セリューズ夫人に手紙を書いたことを知らされ、アンヌは、マオの言うことは「嘘」でなく「現実」と思う。
 
   Z-3 アンヌの壮大な軽佻さ
 マオはもはや別の世界にいた。マオは、今までと変わった一人の女性になった。
 しかし、アンヌはただ「起こったことは仕方がない。なんとか後始末をうまくつけるさ」と言う。
 アンヌの壮大とも言うべき軽佻さ。「さあ、マオ、眠りなさい!いいかい」と彼はマオの部屋から立ち去る。


  《評者の感想》
 マオのフランソワへの愛は、なぜ生じたのだろうか?
  ①マオとフランソワは、ともに田舎が好きである。趣味の一致。
  ② 二人は、本当に長い時間を一緒に過ごした。
  ③ しかも二人は、ただ黙ってともに居るだけで楽しい。
  ④ アンヌは、都会的であり、人工的なものが好きで、マオと異なる。
  ⑤ アンヌは浮気に罪悪感がなく、浮気は貴族の社交の一部と考える。
  ⑥ マオとアンヌを結びつけるのは、愛情というより、義務である。
  ⑦ もちろんマオは初め、アンヌを無条件に愛していた。しかし趣味の一致がフランソワとはあるが、アンヌとはなかった。
  ⑧ またマオが、長い時間を一緒にすごすことが、フランソワとはあるが、アンヌとはなかった。
  ⑨ マオは、アンヌと、ただ黙ってともに居るだけで楽しいというような経験はなかった。フランソワとはあった。そもそも、アンヌは、舞踏会の同伴者以上にマオに、多くを要求しない。
  ⑩ マオが、最後に、アンヌ(ドルジェル伯爵)の助力を求め、告白をした時、アンヌはマオの苦悩を全く理解できなかった。つまり、アンヌの壮大とも言うべき軽佻さ。マオは、アンヌの遊星から全く離れた。

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『図書館戦争、図書館戦争シリーズ①』有川浩(アリカワヒロ)(1972生)、2006年、角川文庫

2012-05-10 02:09:11 | Weblog
   一、 図書館は資料収集の自由を有する。
   1 関東図書基地に300名入隊
 笠原郁(カサハライク)は新図書隊員。防衛員として入隊。22歳、170cm、女性。
 ルームメイトの柴崎麻子は、図書館員。
 堂上鬼教官、二等図書正、165cm、チビ。
 小牧幹久、二等図書正、17cm、温和。
   
   2 メディア良化委員会・良化特務機関vs図書隊制度
 昭和最終年、「メディア良化法」成立。本・雑誌の検閲を実施。
 これに対抗して「図書館の自由法」(図書館法第4章第30-34条として追加)が成立。日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」の法化。
 現在、その30年後、正化31年。
 法務省のメディア良化委員会が検閲を実施。その武装組織が良化特務機関。
 これに対抗して、図書館は武装し、図書隊制度のもとで運営される。全国に10ヵ所の図書隊。図書基地も10ヵ所あり、その中心が関東図書基地。

   3 笠原郁は図書隊に入隊:図書館員でなく防衛員を希望
 女子で「防衛員が第1志望」なのは、笠原郁が史上初。

   4 郁の「王子様」:図書防衛員の三等図書正
 笠原郁は、アクティブな子どもだが、本が好きだった。高3の秋、本屋で良化特務機関による検閲の執行に遭遇。
 関東図書隊の三等図書正が見計らい図書を宣言し、郁が買いたかった本を守ってくれる。
 良化隊員から本を取り戻してくれた図書防衛員は、郁の「王子様」!

   5 武蔵野第1図書館・関東図書基地
 良化特務機関による、メディア良化委員会の検閲の代執行に対し、図書隊防衛員が対抗する。
 柴崎は図書館員として武蔵野第1図書館で研修。
 郁は、関東全域の共同保存図書館を兼ねる関東図書基地で、防衛員として警備実習。

   6 見計らい図書の宣言:図書正以上
 笠原一士(一等図書士)の3度目の警備実習の時、笠原一士が見計らい図書を宣言。
 良化特務機関の検閲に対し、見計らい権限は図書士になく、図書正以上。
 玄田三等図書監と二等図書正2人(堂上・小牧)が見計らい図書を宣言し、良化特務機関の検閲を阻止する。

   7 図書特殊部隊(ライブラリー・タスクフォース)
 笠原一士と手塚一士が、精鋭の図書特殊部隊(タスクフォース)に配属される。女子のタスクフォース入りは全国初。

   二、 図書館は資料提供の自由を有する。 
   1 「日野の悪夢」と図書隊創設
 ライブラリー・タスクフォースが、奥多摩で、笠原一士(郁)と手塚一士の野営訓練。
 「日野の悪夢」:日野図書館が政治結社に襲われ、図書館側の死者12人。これ以後、全国10地区に図書隊創設。
 手塚一士は、「頭が悪く感情的だ」と、笠原一士を嫌う。
 クマのダミーを、郁はクマかと思って、殴りかかる。かつて堂上も同じようにダミーのクマを攻撃。「クマ殺し」の堂上と笠原と言われる。
   
   2 「望ましくない図書」の貸出制限問題:館長代理
 関東図書基地付属・武蔵野第一図書館長が入院。
 行政派の館長代理が着任。図書隊制度側と対立。
 新任特殊部隊員の館内業務研修で、15冊の所在不明図書が見つかる。それらは、すべて教育員会の「望ましくない図書」リストの書籍。館長代理がわざと置き場所を移動させ貸し出し不能にしている疑い。
 貸出制限は図書館法31条「図書館は資料提供の自由を有する」に抵触する。

   3 良化特務機関の武蔵野第一図書館長室襲撃:「望ましくない図書」の回収が目的
 教育委員会の訪問にあわせて、「望ましくない図書」がすべて館長室に運ばれる。
 良化特務機関が館長室を襲撃。「望ましくない図書」の回収が目的。郁たち図書特殊部隊が図書を守る。
 教育委員会と館長代理が結託していた可能性がある。副館長、図書隊制度反対都議も貸し出し制限派。

   4 手塚:郁に付き合いの申し込み
 手塚一士が、郁(笠原一士)に、付き合わないかと申し入れる。

   三、 図書館は利用者の秘密を守る。
   1 郁:「しばらく考えさせて」と手塚に回答
 手塚一士の父親は図書館協会会長。郁は手塚に、「しばらく考えさせて」と答える。
   
   2 貸し出し記録提出要請:「連続通り魔殺人事件」容疑者の少年について
 警視庁の「連続通り魔殺人事件」捜査本部が、容疑者の少年の図書貸し出し記録を提供して欲しいと、関東図書基地に申し入れ。
 関東図書基地司令・稲嶺は、図書館法32条「図書館は利用者の秘密を守る」にもとづき提供を拒否。
 稲峰は「日野の悪夢」の時の日野図書館長であり、図書隊創立者。警察を見限る。政治結社による日野図書館襲撃で、稲峰は片脚を失い、妻を殺された。

   3 「特例」か「原則」か:貸し出し記録提出問題
 「3人も殺した少年を、図書館は、なぜかばうのか」と新聞が攻撃。
 館長代理は「特例」として、少年の図書貸し出し記録を、警察に提供せよと主張。
 図書隊は、図書館の原則と独立を重視する「原則派」と、図書館も行政のコントロール下に置くべきだと考える「行政派」が対立。
 関東図書基地司令・稲嶺、図書特殊部隊隊長・玄田は原則派。「犯人の擁護と、図書館が法を守る守秘義務は、別である」と原則派は主張する。
 館長代理は行政派。

   4 教育委員会:「少年の人権尊重」の観点から「図書館の原則論」を支持
 教育委員会が、武蔵野第一図書館を再訪。少年の人権尊重を申し入れ。原則派に有利となる。少年の父親が校長なので、かばった可能性が高い。
 原則派の駆け引きが成功し、教育委員会が、図書館の原則論を支持表明。行政派は「特例」による少年の図書貸出記録提出を断念。
 少年が自供を開始し、図書貸し出し記録提出問題は忘れられる。
  
   5 郁は手塚に、「付き合わない」と回答。

   四、 図書館はすべての不当な検閲に反対する。
   1 「望ましくない図書」の貸出規制要求:「子供の健全な成長を考える会」
 「子供の健全な成長を考える会」が「望ましくない図書」の貸出規制を要求する集会を、都下最大の公共図書館、武蔵野第一図書館前で行う。
 中学生2名が抗議のため、ロケット花火を打ち込む。
 図書特殊部隊の郁たちが二人を捕まえる。

   2 中学生2人(悠馬、大河):「望ましくない図書」の貸出規制を阻止したい
 図書特殊部隊隊長・玄田が中学生2人(生徒会書記・悠馬、大河)にオトナのケンカ殺法を教える。「望ましくない図書」の貸出規制を阻止するため。
 オトナのケンカ殺法①:自分の弱みをまず潰せ。中学生2人が「子供の健全な成長を考える会」の会長に謝りに行く。
 オトナのケンカ殺法②:数さえ集めりゃ意見に箔がつく。中学生2人が仲間を集める。

   3 図書館の規制問題についてのアンケート:中学生が作成・実施
 答える側が重大と思っているわけでない。協力はうまく引き出すものと、『週間新世相』記者折口マキ(玄田の友人)がアドバイス。協力してもいいけどメンドクサイと思っている人をうまく拾う。
 オトナのケンカ殺法③:設問のバランスは平等にする。規制に賛成する者への質問も入れる。

   4 「図書館の自主規制を考えるフォーラム」
 「子供の健全な成長を考える会」(図書館の自主規制を訴える)と図書館側(原則派)が対面して討論し、傍聴者がそれを聴く。
 オトナのケンカ殺法④:敵と同程度のサクラを仕込まないと不利。500人の会場は半分くらい埋まる。中学生(悠馬、大河)が、学校に働きかけ保護者の出席を呼びかける。

   5 有志中学生のアンケート発表。
 Ex. 1)「考える会」以外の保護者が、貸出制限など図書館の自主規制を支持しているか不明である。
 Ex. 2)子供を信用していない大人に不信感を覚える。
 Ex. 3)過激な本・映画を読みor見た未成年が、犯罪を犯したからといって、他の子供が犯罪を犯すわけではない。実際にまねしたりしない。現実とフィクションは分ける。子供の判断力や良心を信じてほしい。

   6 「考える会」の規制要求を棄却
 武蔵野第一図書館は、「考える会」の規制要求を棄却。中学生のアンケートが、論拠のひとつとなる。折口の記事が、教委を牽制。

   五 図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。
   1 「日野の悪夢」:武装強化によってしか図書館は守れない。図書隊創設。
   
   2 「情報歴史資料館」:メディア良化法制定時のあらゆる報道記録を保管
 財団法人「情報歴史資料館」の閉鎖。所有者の野辺山宗八氏が死去。メディア良化法制定時のあらゆる報道記録を保管。全資料を関東図書隊が引き取る。

   3 良化特務機関vs関東図書隊
 全資料の引取りにあたり、良化特務機関が良化法第3条に定める検閲行為の代執行。関東図書隊が、図書館法第4章34条 「図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る」にもとづき図書防衛権を発動。
 ヘリコプターで情報歴史資料館から、コンテナ2個分の資料を安全に関東図書基地に輸送。
 副本がある放棄用のコンテナ1個分の資料は、関東図書隊側が戦闘を停止し、良化特務機関に引き渡す。

   4 関東図書基地司令・稲嶺:麦秋会によって拉致される
 関東図書基地司令・稲嶺と警護係の郁(笠原一士)が、麦秋会という団体に拉致される。
 人質である稲嶺の命と引き換えに、「情報歴史資料館」から引き取った全資料を焼却処分せよと、麦秋会が要求。
 稲嶺の義足に仕込まれていた発信器で、拉致されている場所が分かる。
 当該ビルを、図書隊施設予定物件として買収契約。図書隊施設となり、図書隊防衛員が出動可能となる。
 警察は信用できないので介入させない。
 堂上二等図書正と笠原一等図書士の働きで、稲嶺を無事救出。

   5 笠原郁の「王子様」:現在の堂上二等図書正
 高3の笠原郁を救った「王子様」は、実は堂上三等図書正(当時)だった。あれから5年。
 しかし、良化特務機関による検閲の執行に対し、見計らい図書を宣言した堂上の行為は、当時、関東図書隊で、行政派との摩擦を拡大し、原則派の立場を危うくした。
 以後、堂上は、単なる正義感に基づく行動を自制。
 堂上は、郁が、かつての自分を「王子様」として賛美することに、複雑な気持ちである。

 《評者の感想》
1 「検閲」が現在の憲法下でも可能なのだと思わせる。無気味。
2 「メディア良化法」成立。本・雑誌の検閲を実施。この設定は十分、リアリティあり。妄想と呼ぶには現実的すぎる。
3 良化委員会の武装組織である良化特務機関は、ヒットラーのナチスの突撃隊を思い起こさせる。
4 「図書隊の図書防衛権」と、「良化特務機関の検閲代執行」とが武装衝突できる範囲が、「警察の権限」が及ぶ範囲から、法的に明確に区別されるとの設定が、巧妙。
5 政治結社に金銭的・情報的支援を行い、非合法な暴力を煽る良化委員会・良化特務機関のやり方は、しばしば見られるが、極めて悪質。
6 「オトナのケンカ殺法」①②③④は、実践的に役立つ。
7 検閲の時代が現実に来ないことを、祈りたい。
8 「過激な本・映画を読みor見た未成年が、必ず犯罪をおかすわけではない」。「実際にまねしたりしない。」「現実とフィクションは分ける。」このように、子供の判断力や良心を信じたい。しかし、信じてよいか難しい面もある。
9 わけが分かった情報通の柴崎麻子と、熱血漢で一本気の笠原郁の会話が、とても面白い。著者が女性なので、女性二人の会話が非常に「合理的」で、爽快。女性が「情緒的」というのは、男性から見た女性イメージなのだと認識する。

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『さらば雑司ヶ谷』樋口毅宏(ヒグチタケヒロ)(1971生)、2009年、新潮文庫

2012-05-04 11:56:40 | Weblog
   1、2
 俺は大河内太郎、25歳。雑司ヶ谷で女帝泰様のプリンスとして育つ。執事が山下。
 幼馴染の親友が京介。悪のグループ、京介隊のヘッド。
 部下の芳一が、地元雑司ヶ谷の住人の子供を誘拐し中国に売り飛ばす。京介が怒り、芳一の耳を、むしりとる。
 俺は京介に頼まれ、中国に売り飛ばされた子どもを連れ戻しに、中国に行く。
 5年後、俺は中国から帰国。京介は、芳一に報復され殺されていた。
   3、4
 IQ160だったしんやは、頭を怪我し、今は知的障害者。
 京介は「チョウセンジン」といじめられ我慢していたが、高校で、いじめた3人を撲殺。
 雅子は幼馴染。俺は、雅子を、京介と取り合うが、彼に譲る。
 俺は、雑司ヶ谷を牛耳る宗教団体泰幸会(タイコウカイ)の教祖(泰様)の孫。
   5、6
 新興宗教の教祖である祖母(=ババア)、泰様が、雑司ヶ谷一帯を支配。
 その孫の俺に、町の人間は俺に優しいが、彼らの真意を俺は疑う。『忠直卿行状記』の影響。俺の歪んだ性格の原因であるババアを、俺は恨む。
 ババアは、あらゆる人間を配下におき、3人の男妾を持つ。
 ゲリラ豪雨で、下水管に作業員5人が流され死亡した事件があった。雑司ヶ谷の住民が不安がり、ババアに相談に来る。「裏がある、真相を調査しろ」と、ババアが俺に指示する。
 ババアの孫の俺が、泰幸会の跡継ぎ。ババアの子どもたちは、ババアから離れる。
   7、8
 黄和平(ファンホーピン)に、俺は、中国から持ち帰った、彼の娘の遺骨を渡す。彼の妻は、娘が誘拐された後、発狂し首を吊る。黄和平は「芳一を殺してくれ」と俺に言う。
   9、10
 ババアの前執事が、80歳過ぎの徳田老人。
 芳一は、今や京介隊を乗っ取り、Zombieを組織。薬の売買などを仕切る。
 米屋の定(サダ)が、様々な情報を提供し、芳一に協力。
   11、12
 芳一が登場。俺に「下水道事故は調べるな」と警告する。
   13、14
 5年前、俺は、京介に頼まれ、黄和平の誘拐された娘を探し、中国へ渡る。娘は、中国の金持ちのペドフィリア(幼児性愛者)に買われた。
 俺は、娘を探す途中で暴力団のボス、閣鉄心(ゴー・ティエシン)につかまる。俺は閣鉄心のペニスをしゃぶらされ、彼の男とされ、子分となる。
   15、16
 黄和平の娘を、中国の金満家に売り渡したのは閣鉄心。黄和平の娘は「おじさんの方が私に優しくしてくれる。帰らない!」と俺に言った。
 閣鉄心の子分となった俺は、クスリ、銃、子どもの取引の通訳となる。
 俺はヘロイン中毒となり、クスリが切れるとイライラし、浮浪者を殺し、子どものアナルを犯す。
   17
 俺と京介と雅子をモデルにしたような小説『ごころ』が発売された。
   18
 刑事の福永のおっさんがシャブの捜査をする。
   19、20
 俺(太郎)は中国で、閣鉄心の子分となって働く。殺した奴、犯した子どもは多数。3年後、俺は、ヘロイン中毒で1年半入院。
 退院後、シャブ1キロを閣鉄心から土産に貰い、日本に帰国。
 黄和平の娘は嬲り殺され、俺は、その遺骨を持って帰る。
   20-2
福永が、芳一にはバックがついているから、8月の下水管事件は調べるなと言う。
   21、22
 執事の山下は、ババアの3番目の夫。ババアには、4、5番目の夫、そして間男がいる。
 人工降雨で豪雨を起こし、下水管事故事件が起きたと、わかる。
 俺は都電内で、太腿を銃で撃たれる。
   23、24、25
 ババアの前執事の徳田老人が、心臓発作で死ぬ。
 俺の入院する病院に、閣鉄心が中国から来る。俺と閣鉄心を、芳一とZombieが襲う。
 俺は、雅子のアパートに逃げる。
   26、27、28、29
 雅子は俺を手当する。俺は、雅子と性交する。
 雅子には子どもがいた。雅子は京介の目の前で、芳一に犯され、妊娠し、芳一の子を産んだ。
   30、31、32
 「俺と生きて行くなら芳一の子は、置いていけ」と俺は雅子に言う。
 俺は、俺を撃ったのが、米屋の定(サダ)だと分かる。定をつかまえ拷問し芳一の電話番号を聞き出す。
 俺は芳一に電話する。「京介の親友は殺す」と芳一。
 芳一に、「10億円出すから閣鉄心を殺せ」と依頼。
 俺は、一生、閣鉄心に心と身体を支配されたくない。ババアに頼み、手付けとして1億円、芳一に振り込む。
 手下(=泰幸会親衛隊)に恐怖感を与えるため、俺は、定の陰茎と精嚢を切り落とし、殺す。
   33、34、35、36、37
 黄和平が、雑司ヶ谷一帯に人工降雨技術で、ゲリラ豪雨を降らせた。暗殺部隊を下水道管から、要塞のような泰幸会本部に送り込むため。
 それが、作業員5人が死亡した下水管事故事件を、たまたま引き起こした。
 閣鉄心と子分たち、芳一とZombieたちの死体を、下水管に流してしまう計画で、俺は、ゲリラ豪雨を降らせるよう、黄和平に依頼。
 俺は、閣鉄心と子分たち、芳一とZombieたちを皆殺しにする。
 ゲリラ豪雨の計画は失敗。彼ら多数の死体が残る。
 一計を案じ、俺は、黄和平を殺し、遺書を偽造する。「私(=黄和平)が誘拐され殺された娘の復讐のため全員を殺した。自殺する。」と。
   38
 「お前は、わしが75歳のとき産んだわしの子だ。父親はわしの男妾だ」とババアが言った。「父親は自殺。母親はお前を産んでいない。母親も自殺した」とのこと。
   39
 俺がババアの子であることを、京介も雅子も、雑司ヶ谷の住人のすべてが知っていた。秘密を知る者の優越感。俺だけが知らなかった。
 「さらば雑司ヶ谷!」と俺。
   40
 京介の墓に花を毎月供えていたのは、しんやだった。「京介だけが優しくしてくれたから」と言う。
   40-2
 雅子は、芳一の子を殺した。

 《評者の感想》
1 《神を信じない》と、著者は「俺」に言わせる。
2 著者は、バイオレンスを好む。また《バイオレンスはカッコいい》と思う。
3 「俺」は歪んだ性格で、《人を信じない》と言う。しかし「俺」は、人を信じたい。
4 人を多数殺し、子どもを多数犯しても、《イライラしてやったことは許される》と、著者=「俺」は思う。
5 「俺」はババアが嫌い。《夫を何人も替え、間男がいる》のは、「俺」にとって許せない。著者の性道徳に反するからである。
6 グループをまとめ、支配するためには、《手下に恐怖感を与える》ことが重要と、著者=「俺」は思う。
7 《自分が見下される》ことに、著者=「俺」は反発する。だから彼は雑司ヶ谷を去る。
8 《性的忘我感》、例えば「俺」と閣鉄心との男色関係、雅子との性愛を、著者=「俺」は価値的に重要と位置づける。
9 著者=「俺」は、自分が、祖母と、(祖母の子である)自分の父親との間に産まれた子であることを、《隠すべき秘密》と考える。慣習に囚われている。

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