宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン(1941生)、1977年、創元推理文庫

2013-06-25 18:26:39 | Weblog
  プロローグ
 月面で、ゴーダを目指す兵士コリエル。赤い服の相棒(チャーリー)が死ぬ。

  1&4 メタダイン社のトライマグニスコープ:ハント博士とグレイ部長が開発
A ロンドンのメタダイン社(IDCCの子会社)、L. ハント博士。物質・反物質の粒子の消滅の研究。IDCC社社長、フェリックス・ボーラン。
B 米国のIDCCポートランド本社で、トライマグニスコープ1号機のプロジェクト。ニュートリノ・ビームで固体の内部観察が可能。メタダイン社のロブ・グレイ部長。ハントとグレイのコンビがトライマグニスコープを開発。
C ハント(理論研究部主任)の上司は取締役のフランシス・スコット卿のみ。ハント博士は核内部構造理論の権威。グレイは技術屋。

  2 報告書2906:月で発見された約5万年前の合金!
D 宇宙科学省工学資料調査部、女流科学者ヴァレリヤ・ペトロホフ。報告書2906:耐腐食性があるニオウビウムとジルコニウムの合金。月で発見された約5万年前の合金!

  3 巨大な均一な地球社会:国連宇宙軍(UNSA)の創設
E 科学技術の進歩で全世界的な豊饒と出生率の低下で、イデオロギーや民族主義の問題は霧消。巨大な均一な地球社会形成。世界の軍備全廃へ。今、国連宇宙軍(UNSA)による国連太陽系探査計画(UNSSEP)あり。

  5 5万年以上前に死んだ異星人(?)チャーリー
F 米国、ヒューストン。国連宇宙軍(UNSA)航行通信局(ナヴコム)本部長コールドウェル。秘書リン・ガーラント。
G 月面での不可解な発見。洞窟から死体。深紅の宇宙服。身元不明のチャーリー。死因不明。どこから来たか不明。チャーリーは、地球以外の異星人かもしれない。チャーリーは5万年以上前に死んでいる。

  6 チャーリーは異星人か?しかしその身体は全く、人間(地球人)と同一!
A チャーリーは地球以外の異星人か?それなら、なぜ人間と同じ姿なのか?
B 物体の内部を透視する装置、トライマグニスコープでチャーリーを調べる。チャーリーの身体は人間と全く同じ。つまりチャーリーは地球人である。
C チャーリーの宇宙服のヘルメットはガンマ線を遮り、受信装置があり、ヴィデオを組み込む。バックパックは、原子力パワーがソース。
D チャーリーは、いくらか眼が大きい。したがって明るい太陽でなかった。また鼻腔が長いので、寒冷な気候だった。5万年前の地球は、洪積世で氷河期の最期。
E チャーリーは地球人なのか?
E-2 なぜチャーリーは月面で見つかり、地球上にチャーリーの同時代人の遺骨がなく、また、なぜ進歩した科学技術の遺跡も残っていないのか?

  7 チャーリーの手帳の分析
A ハント博士が、トライマグニスコープで、チャーリー手帳の内部を、ブラウン管に写す。デジタル化してコンピューターで解析。チャーリーの身体は、人間とほぼ同じ。ルナリアン(チャーリー)は、12進法。ルナリアン語(チャーリーの言語)は、37文字のアルファベット。
B 数字の並んだ列表がある。秘書リン・ガーラントが、カレンダーだと言う。

  8 ルナリアン(チャーリー)は、地球人か異星人か?
A チャーリーは、今の人間と変わらない。
B ルナリアンは、火星で進化したのではないかとの議論も出る。
C チャーリーの手帳のおびただしい図表が、意味不明。

D 進化生物学者ダンチェッカー教授は、ルナリアンは地球人だと言う。
D-2 別の世界(異星)で地球人と同じ進化の過程を経ることはない。

E しかし、ルナリアンは異星人で、神が一役買って、同一に進化したのかもしれない。
E-2 別の世界で、理想的な形態に向かって進化の系列が、収斂したのかもしれない。
E-3 ハント博士は、「チャーリーの時代の文明の遺跡が地球にないから、ルナリアンは他の惑星で進化した。異星人だ!」と主張。

F ハント博士の分析結果:ルナリアン(チャーリー)の手帳の数字の表はカレンダー。その惑星の1年は1700日。またその惑星には「月」がある。

  9 ハント博士:ナヴコムの『グループL(ルナリアン)』の総指揮官
A チャーリーの惑星は、地球とほぼ同じ表面重力。
B 月で、ルナリアンの14体の遺骸を発見!
C ルナリアン語がほぼ解読される。
D チャーリーの手帳の数字の表は、一種の早見表。
E 手帳の地図は、地球のものではない。
F 国連宇宙軍(UNSA)航行通信局(ナヴコム)本部長コールドウェルが、ハント博士に、「IDCCから、ナヴコムに来てほしい」と依頼。
F-2 ハントは、チャーリーについての各分野の成果を統合する役目。スペシャル・アサインメント・グループ『グループL(ルナリアン)』の総指揮官ハント。

  10 チャーリーには2℃から9℃の外気が最適&地球外の魚の発見
A グループLは、数学班、地図班、エレクトロニクス班、言語班、生物学班などからなる。
A-2 チャーリーは恒温、2℃から9℃の外気が最適:生物学班(ダンチェッカー教授)。
B 5年前に発達した科学文明があったとナヴコム(グループL)が発表。「キリストはルナリアン」、「ルナリアンがピラミッドを作った」などの報道。しかし人のうわさも75日。
C 月面下200フィート(約60m)にルナリアンの基地廃墟発見。8体のルナリアンの遺骸。
C-2 食料として、「地球外の魚」が発見される。

  11 月の裏側:隕石シャワーに覆われ、裏側のクレーターは約5万年前で新しい
A 月の裏側は、表側と異なる歴史を持つ:月半球不整合問題。
A-2 月の裏側は、表面が新しい。旧月面(700フィート下)の上に新月面がある。隕石シャワーで覆われたのかもしれない。
A-3 裏側のクレーターは、表側のクレーターより数十億年新しく、5万年前にできた。表側のクレーターにも、いくつかは裏側のクレーターと同じ年代のものがある。
A-4 月の裏側が、隕石シャワーで覆われたとして、地球になぜ、その隕石が何もないのか?

B 5万年前、ルナリアンと呼ばれる異星人が、月面へ来たが、月の隕石シャワーでおそらく絶滅しただろう。
B-2 母星(他の惑星)のルナリアンたちは、どうなったか?他の大規模な異変のために、彼らも絶滅したのか?
C 隕石シャワーの年代(約5万年前)の月面表側のクレーターは、隕石集中落下によりできた第1類と、超融合爆弾によりできた第2類がある。

D “月面クレーター不整合”に関する報告書(2028年)
(1)月面裏側の隕石大量落下以前に、旧月面には、広範囲の超融合爆弾の被爆がある。
(2)ルナリアン生存期間中に、月の裏側で戦争があったと思われる。
(3)おそらく宇宙戦争によって、ルナリアンは滅亡した。
(4)チャーリーは、月面派遣隊の一員で裏側に居住。隕石集中落下で、その痕跡は抹消。

  12 ルナリアン文明の母惑星について(国連宇宙軍司令部発表):NYタイムス
A 太陽系内に存在した地球型惑星=ミネルヴァ。火星と木星の間の小惑星帯にあった。
B 5万年前、月面で大規模な核戦争。おそらくミネルヴァも核戦争で、5万年前、破壊された。
C ルナリアン人種の起源の問題。地球人と別個の進化の系列だったとは思えない。しかし地球で進化したのではない。ルナリアン文明の痕跡が地球には全くない。
D 異星魚類あり。
E 進化生物学のダンチェッカー教授は、ミネルヴァに5万年以上前、地球人植民者が移住したと考える。

  13 巨大な異星人ガニメアン:木星の衛星ガニメデの廃墟宇宙船から発見!
A 国連宇宙軍木星派遣隊:衛星ガニメデの調査。
A-2 ガニメデの氷の底に横倒しになった巨大な廃墟宇宙船を発見。そこに巨大な異星人ガニメアンの骸骨があった。

  14 ルナリアンのチャーリーは5万年前&異星人ガニメアンは2500万年前
B ガニメアンは巨人。ルナリアンと地球人はほぼ同一。ルナリアンがミネルヴァン(ミネルヴァ人)かどうかはまだ、不明。
C  チャーリーはミネルヴァ生まれとわかる。チャーリーの“軍の支給帳”が解読される。
C-2 しかしチャーリーが属すルナリアンがミネルヴァで進化したかどうかは不明。ルナリアンは地球で進化し、その後、地球からミネルヴァに移住したのかもしれない。
D チャーリーの“軍の支給帳”の記録によれば、ミネルヴァは、当時、滅亡に瀕していた。氷河期で、氷が全表面を覆う可能性。移住先を探す。しかしルナリアンは、惑星間移動の科学技術がない。
E ルナリアンには、地球から移住する技術がない。つまりルナリアンは、ミネルヴァで進化した。
(※ただし後述のように、ルナリアンは、ガニメアンによって、地球から2500万年前に、ミネルヴァに運ばれてきた。ルナリアンは、2500万年から5万年前までミネルヴァで進化した。)
F 滅亡に瀕していたミネルヴァで、各国家間の対立。惑星間移住のための技術開発競争&自衛のための軍備拡大。戦争が続き、2超大国、セリオス(チャーリーの国)とランビアに分かれる。
F-2 両超大国間の核戦争、そして消滅。チャーリーは月面派遣隊員で、敵方と月面で戦争となる。これが5万年前の出来事。
G ところがガニメアンの宇宙船は、2500万年前のものと、年代測定でわかる。

  15 ミネルヴァで進化したガニメアン:2500万年前、ガニメアンがミネルヴァに、ルナリアンの祖先を地球から運んだ
A ガニメアンは、①額に赤外線検知器官があり、夜行性。②甲羅のような板状の骨。③かつて3対の運動器官をもっていた(手足&足)。
B ガニメアンと、ルナリアンが食料としていたミネルヴァ産の魚は、同一の進化の系統にある。つまり、ガニメアンはミネルヴァで進化した。しかしガニメアンは2500万年前。ルナリアンは5万年前。
C ガニメアンの2500万年前の宇宙船は、なんと2500万年前の地球のあらゆる動植物の
種を積んでいた。
C-2 そこには2500万年前の類人猿の祖先、つまり人類の祖先もいた。それが進化して5万年前のルナリアンとなった。

  16 チャーリーの日誌:地球の月からミネルヴァが肉眼で見える等の矛盾問題
A 5万年前、惑星ミネルヴァのセリオス国とランビア国は核戦争状態。
A-2 ミネルヴァのセリオス国(チャーリーの国)が全軍動員令。チャーリーは月(ルナ)に派遣される。2日で月(ルナ)に到着。
A-3 しかしミネルヴァから、地球の月(ルナ)まで、わずか2日で到着するとは、全くおかしい!(ハント)
B チャーリーが月に到着したときセリオス国基地・軍を、ランヴィア国が核攻撃。チャーリーのセリオス国が月面の超大型破壊兵器アニヒレーターで、ミネルヴァを攻撃。
B-2 しかし地球の月(ルナ)とミネルヴァ間で、相互に核攻撃などできるのか?
B-3 現に、月(ルナ)からミネルヴァへの通信は、往復4分しかかからない。セリオス国アニヒレーターの月面からの攻撃が、ミネルヴァ上のランヴィア国の基地を壊滅させたとの報告。地球の月からミネルヴァへの通信は、本来、往復26分かかるはず。
C さらにチャーリーの日誌によると、月(ルナ)から彼は、ミネルヴァが火に覆われ赤茶色の塊になるのを見る。
C-2 しかし地球の月からミネルヴァが、肉眼で見えるわけがない。

  17 地球の月とミネルヴァの矛盾問題に関する4説:A、B、C、D
A説 ミネルヴァとは地球で、ルナリアンは地球人だとの説:地球純粋説。
A-2 反論:①5万年前の核戦争の痕跡も、ルナリアン文明の痕跡も地球にない。②チャーリーはミネルヴァ=地球と太陽の距離は、2億5千万マイル(小惑星帯と太陽の距離)だと記録。③チャーリーのミネルヴァの世界地図は、地球と全く違う。

B説 ガニメアン(2500万年前)によるノアの箱舟説(ダンチェッカー教授):ルナリアンはガニメアンによって地球から運ばれ、ミネルヴァで進化した。
B-2  (1)2日で月(ルナ)に到着、(2)月(ルナ)とミネルヴァの通信が往復4分、この2点は、時間尺度の解釈に問題があるはず。(3)チャーリーは月面からミネルヴァを、肉眼でなくテレビ画像で見たはず。(4) 超大型破壊兵器アニヒレーターは、照準は地球の月(ルナ)から定めるが、兵器本体はミネルヴァの近くにある。

C説 植民地隔絶論:遠い昔、地球人が惑星ミネルヴァを植民地にした。その後、文明が衰退し、連絡が途絶。ミネルヴァが氷河期となり、ミネルヴァからの先遣隊が移住先を探し、地球に到達する。
しかしミネルヴァから来たルナリアンは地球人に移住を拒否される。月面からルナリアンがアニヒレーターで、対地球人攻撃。
C-2 チャーリーの日誌にある攻撃対象のミネルヴァの地名は、実は地球上の地名である。というのは、植民地が母国の地名を引き継ぎ、同じ地名が、たくさんあるから。
C-3 (1)遠い昔から続いた地球人文明の痕跡、(2)ルナリアンとの戦争による5万年前の地球人文明破滅の痕跡は、4万年前の地球の大洪水で消失。

D説 流浪民帰還(※飛来?)説:地球上にルナリアンの痕跡がないのは、ルナリアンがミネルヴァで進化したため。ミネルヴァの氷河時代に、ルナリアン流浪民となる。ランビア人が先に地球に達し居留地を建設。次にセリオス人(チャーリーたち)が月面に進出。セリオス人とランビア人の核戦争があったが、痕跡は5万年の間に消えた。ランビア人とセリオス人は共倒れした。

  18 ハント博士とダンチェッカー教授が木星の衛星ガニメデへ行くこととなる!
  
19 UNSA(国連宇宙軍)の宇宙船ジュピターⅤに月面から乗り込む!
A 5万年前のチャーリーの月の南北は、現在の月の南北と異なる。
B チャーリーとその相棒コリエルが歩いた道を、ハント博士たちが歩いてみる。
B-2 「地球がおかしな位置に見える」と、ハント博士が思う。

  20 ミネルヴァ固有の陸棲生物は、残らず、忽然と消え失せた!
A ハント博士とダンチェッカー教授の第5次木星派遣隊宇宙船ジュピターⅤ内での議論:
ガニメアン(2500万年前)によるノアの箱舟説(ダンチェッカー教授)をハント博士が支持する。ガニメアンが地球から2500万年前、地球生物をミネルヴァに運び、そこからルナリアン(5万年前)が進化した。地球にルナリアンの遺跡がないのは当然。
B ミネルヴァで進化したガニメアン文明が、2500万年前、ミネルヴァで最初に栄えた。
C 5万年前に栄えたルナリアンは、当然にも、2500万年前のガニメアン文明を研究。
C-2 ルナリアン語には“古来巨人時代の”という決まり文句がある。卓越した知能を持った巨人の時代の伝説。

D ミネルヴァには二種の生物グループがある。①ミネルヴァ原産の生物。②2500万年前までしか遡れない生物。新しい系列の生物。
D-2  ミネルヴァの陸棲動物、テレストイドはすべて、新しい系列に属す。5万年前、チャーリーの時代、ミネルヴァ原産の生物は陸上に残っていない。海にはミネルヴァ原産の生物がいる。
D-3  ミネルヴァ固有の陸棲生物は、残らず、忽然と消え失せた。

  21 2500万年前、大気中のCO2濃度が急激に高まり、ミネルヴァ原産陸棲生物消滅
A ミネルヴァ原産陸棲生物の突然の消滅の原因は何か?①物理的災害ではない。物理的災害なら、新しい系列のテレストイドも消滅するはずだから。②微生物による伝染病でもない。伝染病ですべての種が絶滅はしない。ガニメアンの高度の科学技術なら伝染病を防げるはず。③細菌兵器なら絶滅はありうるが留保。残る原因は、④ミネルヴァの大気の化学組成の変化。ミネルヴァ原産陸棲生物は適応できず。新系列の陸棲生物、テレストイドのみ適応。

  21-2  CO2の温室効果で、ミネルヴァの気温は高く、ルナリアン生息可能
B 新系列の陸棲生物テレストイドであるルナリアンは、ミネルヴァで、どうして生存できたのか?
B-2 ルナリアンの起源の純粋地球論派は、ミネルヴァの気温は低く、ルナリアンは生きていけないはずと主張。
B-3 ルナリアンの起源をミネルヴァに求める派は、CO2の温室効果で、ミネルヴァの気温は高く、ルナリアン生息可能とする。

  21-3 ガニメアンは、異星生物の地球植物を運んでCO2のバランスを、回復しようとしたが失敗し、滅亡したか、ミネルヴァを捨てどこかへ去った
C ミネルヴァ原産の魚から、ミネルヴァ原産生物のコンピューター・モデルを作る。CO2の濃度増大で死んでしまう。
D 岩石内ガスの放散、またはガニメアンのなんらかの活動により、2500万年前、大気中のCO2濃度が急激に高まり、ミネルヴァ原産陸棲生物消滅の危機。
D-2 ガニメアンは、異星生物の地球植物を運んでCO2のバランスを、回復しようとした。動物はエコロジー均衡の維持のため、運ばれた。
D-3 しかし地球植物によるCO2のバランス回復は失敗。ミネルヴァ起源のガニメアンは、CO2で滅亡したか、新天地を求めてどこかへ去った。

  21-4 地球から運ばれたルナリアンは2500万年前からミネルヴァでCO2に適応し、進化した。5万年前には、ルナリアンは高度な科学技術文明を築き上げた。

  22 4次元の無限軌道のガニメアン宇宙船&2500万年前の類人猿シリル
A ミネルヴァ起源のガニメアンが作った2500万年前の宇宙船は、星間飛行が可能。空間をゆがめ、つまり重力を変動させ、宇宙船は穴に落ち込むことで前進。四次元の無限軌道。時空の泡のなかに宇宙船は閉じこもり、通常空間を突き進む。新しい「場の理論」が必要。
A-2 ガニメアン宇宙船の原理は、光子宇宙船の原理の100年先を行く。
B ガニメアンの宇宙船から、ルナリアンの2500万年前の祖先、類人猿シリルが、発見される。シリル(2500万年前)から、ミネルヴァではルナリアン(5万年前)が進化し、地球では、ネアンデルタール人(5万年前)が進化。

  23 ルナリアンの起源に関する一仮説:ナヴコム司令部ハント博士の報告
A チャーリー(ルナリアン)は、2500万年前の(人間の)祖先、類人猿シリルから進化した点で、人間であって、ミネルヴァ起源の平行進化の産物でない。
B 2500万年前以来、ルナリアンはミネルヴァで進化した(ただし5万年前に戦争で自滅し、惑星ミネルヴァも破壊された)から、地球上にルナリアンの足跡はない。
C チャーリーの惑星はミネルヴァであって、地球と地形も含め何の対応もない。

  23-2 残された疑問:「惑星ミネルヴァ」と「地球の月」との距離の問題
D 5万年前、チャーリーは、惑星ミネルヴァから地球の月に、なぜたった2日で、到達できたか?
E どうして地球の月から、ミネルヴァを攻撃できるのか?あるいは、ミネルヴァから、地球の月を攻撃できるのか?
F 地球の月から惑星ミネルヴァへの通信は、本来、往復26分かかるはずなのに、なぜチャーリーの記録では、往復4分なのか?
G チャーリーは、なぜ地球の月から、遠い惑星ミネルヴァの表面を、見れたのか?
H これらの答えは、5万年前、ミネルヴァの周りをまわっていた月が、実は現在の地球の月になったと考えれば、解決する。二つの月は同一である。

  23-3 母惑星ミネルヴァの破壊
I ミネルヴァは、砕け散って小惑星帯となった。相当部分が、太陽系の外縁部に投げ出され冥王星となった。
J 重力の激変で、ミネルヴァの月が、太陽系の中心に向って落下。衛星のなかった地球にミネルヴァの月が取り込まれる。5万年前。

  23-4 月の裏側の隕石シャワー問題&“月面クレーター不整合”問題
K 月の裏側の全面を覆う隕石層は、5万年前、破滅したミネルヴァの岩石の残骸。
L 裏側のクレーター&表側のクレーターで新しいのは、5万年前のミネルヴァでのルナリアン核戦争の核攻撃跡。
M 月面のルナリアン基地の廃墟は、月の裏側の隕石層の下にある。
N 現在の地球の月の裏側が、ミネルヴァの月の表側だった。現在、母星地球が見える方向と、かつて母星ミネルヴァが見えた方向が異なる。
O 月は、太陽系でも、地球とは別の場所で誕生したと月理学者の説が、昔からある。
P ルナリアンは、5万年前、母星ミネルヴァから、その月までは行けたが、惑星間航法までは知らない。
Q ルナリアンは月面上で死に絶えた。

  24 プロジェクト・チャーリーの終了&ガニメアン・プロジェクトへ
A  UNSAのプロジェクト・チャーリーは一段落。今や、ガニメアン・プロジェクトへ移行。
A-2 人口ブラックホール発生兵器が、惑星間戦争の最終兵器。相手の惑星を飲み込む。ガニメアンの宇宙船の推力の原理の応用。Ex. ブラックホール爆弾!

  24-2 ルナリアンがあまりに人間そのものでありすぎる:ダンチェッカー教授
A (人間の)祖先、類人猿シリルは、2500万年前からミネルヴァで進化し、5万年前、ルナリアン(チャーリー)となった。地球の人間は、同じ類人猿シリルから、地球上で2500万年前から進化した。
A-2  約2500万年間、ミネルヴァと地球で別に進化したのに、ルナリアンと人間が、なぜこんなに同じか?このような長期の隔離があれば、もっと分化する。
A-3 ルナリアンと人間に分化がないのは、両者が同じ場所で進化したことを意味する。
B 戦闘が終わった後、ルナリアンの生存者がいた可能性がある。彼らは、残った宇宙船で地球に飛来。氷河時代の1万年に、彼らは技術・知識をことごとく失った。
C 類人猿シリルから、地球上で2500万年前から5万年前まで進化したのはネアンデルタール人。彼らは、突然現れた新しい人類ホモサピエンス(=ルナリアン)によって、滅ぼされる。
D 現在の地球人類は、ルナリアンの子孫である。
D-2 2500万年前、ガニメアンによって、(人間の)祖先、類人猿シリルが、地球から惑星ミネルヴァへ、運ばれた。
D-3 類人猿シリルは約2500万年間、ミネルヴァで進化し、5万年前、ルナリアン文明を形成し滅亡。そのルナリアンの生き残りが地球に飛来し、現在の地球人類となった。

  エピローグ
E スーダン北部で発掘調査が行われていた。5万年前のネアンデルタール人の時代。そこから、超小型ディスプレイ装置を思わせる窓を持つ金属のリスト・ユニットが、出土した。それは、ゴミだとして捨てられた。
E-2 そこには見慣れない文字、つまりルナリアンの文字で、コリエルと書いてあった。5万年前、地球上のルナリアンの存在証明。(出土品のルナリアンの文字は、ロシア文字と間違われ、ゴミとされた。)

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『サクリファイス』近藤文恵(1969生)、2007年、新潮文庫

2013-06-02 23:19:33 | Weblog
 第1章 チーム・オッジ
 A プロのロードレースチームであるチーム・オッジ。エースが石尾豪(33歳)。チーム最年長が赤城さん(36歳)。石尾さんの同期が篠崎さん。「ぼく」つまり白石誓(チカウ)(23歳)(愛称チカ)と伊庭が新人。エースの石尾さんはクライマー、山が強い。伊庭はスプリンター、平坦地中心。赤城さんは、どちらもできるオールラウンダー。
 A-2 エース以外のチームメンバーは、エースを全力でアシストする。
 A-3 白石は18歳の時、インターハイ、陸上、中距離3000mで1位。しかし大学で、自転車開始。大学2年で、チームのエースとなる。白石は山が得意。
 A-4 伊庭は、スプリント能力を持ち、山でも大崩れしないなら、エースになる可能性。
 A-5 赤城さんは、7年以上、エース石尾のアシスト。
 A-6 斉木監督。
 B ツール・ド・ジャポンには、チーム・オッジ15人のうち6人が出場できるが、新人のぼく、白石も伊庭も選ばれた。

  第2章 ツール・ド・ジャポン
 A ぼく(白石)の高校時代の彼女、香乃は「私のために勝ってよ!」と試合のたびに、白石に言った。
 B  第1日目、大阪ステージは、泉北(センボク)周回コース。エースの石尾さんが、ぼく(白石)を、新人スプリンター伊庭のアシストとして使うと、指示。伊庭は4位に入る。監督が、白石は、石尾の次の山岳のエースになるかもしれないと、言う。
 C ぼく(白石)と香乃は、中学時代から、恋人同士。香乃のために走り、インターハイ、陸上、中距離3000mで1位となった白石を、香乃が捨てる。香乃は、白石の友人、高崎を恋人とする。
 D 第2日目、奈良ステージは、ゴールスプリント勝負で、伊庭が2位となる。

  第3章 南信州
 A 1日の移動日を挟み第3日目、南信州ステージ。山岳コース。
 B 「今日は、お前で行け!」と監督。ぼく(白石)が、ステージ優勝。大金星。
 C スペインのサントス・カンタンが、日本人選手を欲しがっていることを、白石は知り、それを伊庭にも告げる。

  第4章 富士山
 A 1日の移動日を挟み第4ステージは、富士山での山岳タイムトライアル。ロードのような駆け引きはなく、各人が一人で走る。
 B 「エースの石尾が、クラッシュで、袴田を下半身不随にした。エースの石尾を怒らせるな」と篠崎さんが言う。
 C ステージ優勝は石尾さん。ぼく(白石)は5位。総合成績では1位白石、2位石尾さん。監督の指示で、ぼくとエースの石尾さんの部屋が、明日から、別にされる。今日はまだ、ぼくは、石尾さんと一緒の部屋。
 C-2 ノーマークの選手が、何かの間違いで、リーダージャージ(総合1位のジャージ)を着ると、リーダージャージ・マジックが起きることがある。

  第5章 伊豆
 A 第5日目は、伊豆ステージ。山岳。エースの石尾さんがアタックをかけ先頭。ぼく(白石)もリーダージャージ・マジックで、石尾さんについていく。ところが、石尾さんの自転車がパンク。石尾さんは、ぼくに「行け」と言わず。「来い」と言った。40秒のロス。そのまま行けば、ぼくは、ここでもステージ優勝できたかもしれない。
 B しかし、ぼくは、「アシストに徹する」と自分自身に確認。かくて、石尾さんに、「ぼくが引きます」と言う。結果は、エースの石尾さんがステージ3位。総合1位。ぼくは、「下り」を武器に総合10位に踏みとどまる。
 C 翌日、第6ステージは、平坦コース。東京ステージ。チーム・オッジが総合優勝。

  インターバル
 A 初野香乃は、今、スポーツ取材記者。障碍者による車椅子でのラグビー、ウィールチェア・ラグビーを取材。選手の袴田と話す。袴田は、元チーム・オッジのロードレーサーだが、事故で脊髄損傷。
 B 香乃が「白石誓が友人だ」と告げると、「ツール・ド・ジャポンでステージ優勝した期待の新人だ」と、袴田が驚く。そして、「彼も、ぼくと同じ目にあうかもしれない」と言う。袴田は、エースの石尾を恨む。頭角を現してきた袴田を、石尾が、意図的にクラッシュして、脊髄損傷させたと確信する。

  第6章 リエージュ
 A リエージュ・ルクセンブルクの5日間のレースに、チーム・オッジの精鋭の一人として、ぼく(白石)は出場できることとなる。ツール・ド・ジャポンでのステージ優勝、総合10位の活躍による。
 B ツール・ド・ジャポンに参加していて、知り合いになったサントス・カンタン(スペイン)のマルケスが、「監督が、お前を欲しがっている」と、ぼく(白石)に言う。サントス・カンタンは、アシストが欲しいのだ。
 C ぼくは、新聞取材の香乃と偶然、会う。香乃は「3年前、袴田の人生を狂わした石尾さんに、注意した方がいい」と言う。ぼくは、「あれは事故だと聞いている」と答える。

  第7章 リエージュ・ルクセンブルク
 A 「袴田さんが、好きなの」と香乃が言う。
 B 「石尾は、わざと袴田を巻き込んでクラッシュした」と赤城さんが、ぼくに言う。

  第8章 惨劇
 C エースの石尾さんが、クラッシュで即死。チーム・オッジは、レースを中止し、帰国。

  第9章 喪失
 D 「袴田は自己輸血をしていた。それを知った石尾は、袴田をつぶした。エースが自らの勝利を汚すことは、アシストの犠牲を汚すことでもあると、石尾は言った」と赤城さん。
 D-2 アシストの赤城さんが、「エースの石尾が、7年間、憎らしかった。しかし、あいつの勝利は、俺の勝利だった。」と言う。石尾さんが死に、赤城さんは引退した。
 E 石尾さんと同期の篠崎さんも、引退した。
 F 袴田は、石尾が死んで、憎しみのエネルギーを失う。

  第10章 サクリファイス
 A ぼく(白石)が、事故死した石尾さんのボトルを、たまたま持ち帰った。そこから禁止薬物のエフェドリンが見つかる。当日、石尾さんの調子が悪かったと、聞いていたので、何か毒物が入れられたのではないかと、ぼくは思った。そこで、ボトルの中身を友達に調べてもらった。
 B 石尾さんにボトルを渡したのは、篠崎さん。ぼくは、彼に、事情を尋ねにいく。
 C 篠崎さんは、袴田の気が治まればと、袴田から頼まれて、エフェドリンを入れたボトルを石尾さんに渡した。
 C-2 袴田は、石尾が、ドーピング検査を避けるため、リタイアするだろうと考えた。リタイアさせることが、袴田の意図だった。
 D 袴田は、レースの途中で石尾に、「ボトルにはエフェドリンが入っている」と、告げた。
 D-2 石尾さんは、しかし、「理由もなくリタイアはできない。アシストやスタッフを納得させる理由が必要」と思った。そこで事故を演出。下りの猛スピードで前輪をロック。石尾さんは、単なる怪我でなく、即死。

  第10章 サクリファイス(続)
 E しかし、思い出してみると、あの日持ち帰った石尾さんのボトルは、水が飲まれていなかった。彼は、自分のドーピング検査を恐れる理由がない。つまりリタイアする理由がない。
 F 袴田は、前日、香乃が、ぼく(白石)にプレゼントしたワインにもエフェドリンを入れた。袴田が、石尾さんに「白石と、おそらく伊庭も、エフェドリンを飲んでいる」と言った。袴田の憎しみは、深い。
 F-2 それを聞き、石尾さんは、チーム・オッジの「レース中止」が必要と決断した。単なる「リタイア」ではだめだ。「リタイア」ではサントス・カンタンの監督は、白石、あるいは伊庭への興味を失う。だから、石尾さんは「レース中止」を演出するため、わざとブロックに頭を突っ込んだ。
 F-3 彼は、「アシストたちの夢や嫉妬をくらい続けていた」と知っていた。「アシストの重さも尊さも知っていた」。だから、彼は「自分に、何の得にもならない」のに死んだ。サクリファイス!
 F-4 なお、石尾さんは、ワインのエフェドリンの話を袴田から聞いたとき、当然にも「自分のボトルにもエフェドリンが入っている」と思ったので、レース中、ボトルの水は飲まなかった。

  終章
 A 今、ぼく、白石は、スペインに来て1年半。アシストの仕事をきちんとこなしてきた。来年からは、フランスのチームに移籍する。
 B 伊庭は、日本のチャンプとなる。今や、チーム・オッジのエース。
 C 香乃は、袴田と結婚した。

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『原発のコスト、エネルギー転換への視点』大島堅一(1967生)、2011年、岩波新書

2013-06-01 21:13:54 | Weblog
  はじめに
《Ⅰ 原発のコストの問題》
A 原発の発電原価は、1キロワット時あたり5~6円(発電所建設費、燃料費、運転維持費等)
B 福島第一原発事故の被害そのものがコストである:原発事故の被災者、原発労働者の被曝、農林水産業等経済への被害(第1章) 
C 原発事故の被害への補償のコスト:少なくとも数兆円(第2章) 
D 原子力発電推進のために使われた財政資金のコスト(第3章) 
  使用済み核燃料の処理・処分のコスト(第3章-2) 
E 原発会社でなく、福島の人々や一般国民が負担するコスト(B・C・D)=社会的コスト

《Ⅱ 原子力に関わる利益集団=「原子力村」》(第4章) 
《Ⅲ 原子力をなくした方が、コストが減り、便益(ベネフィット)が大きいのではないか。》(第5章)

第1章 恐るべき原子力災害
   1 福島第1原発で何が起きたのか
《Ⅰ 東日本大震災と福島第1原発事故:核燃料のメルトダウン》 
① 地震のため外部電源をつなぐ受電鉄塔倒壊。冷却水を送るポンプが動かず。
② 地震のため原発の配管破断の可能性。(しかし明らかになっていない。)核燃料の冷却出来ず。
③ 非常用ディーゼル発電機が起動したが津波で止まる。
③-2 非常用電池が津波で喪失、喪失しないものも電池切れになる。
④ 炉心に制御棒が一斉挿入され原子炉は緊急停止したが、崩壊熱で温度が上昇し水素発生。水素爆発が起きる。
⑤ メルトダウンが1~3号機で起きたが、幸い、「水蒸気爆発」は起きなかった。

《Ⅱ 福島第1原発事故の特徴:原発震災》
① 初めての「原発震災」。地震による原発事故は初めて。
② 3基の原発がメルトダウンを起こした。(チェルノブイリのメルトダウンは原発1基。)
②-2 使用済み燃料プールも冷却が必要だが、破損の心配がある。
③ 長期にわたる制御不能状態が続いている。収束していない。
④ 被害地域の広域性。
⑤ 地元のコミュニティの破壊。

   2 深刻な環境汚染
《Ⅰ 大量の放射性物質の放出:福島第1原発事故77京ベクレル》
A 大気へ放射性物質の放出(ヨウ素131換算):チェルノブイリ事故では520京ベクレル。福島第1原発事故では77京ベクレル(保安院、6月発表)。(保安院4月では37京ベクレル、原子力規制委4月では63京ベクレル。)なお1ベクレルは1秒間に1個の原子核が崩壊したときの放射線量。
B ヨウ素131は半減期8日で、数ヵ月でなくなる。
B-2 セシウム137は半減期約30年。
C 福島第1原発事故のセシウム137放出量は1京5千兆ベクレルで、広島原爆169発分。1年後の放射能は、広島は1000分の1に減少したが、福島は10分の1にしかならない。

《Ⅱ 放射性物質による土壌汚染:汚染地域、約8000平方キロ》
A セシウム137の地表面への沈着量
A-2 チェルノブイリ事故の「強制避難ゾーン」相当の地域が、福島事故でもある。148万ベクレル/㎡以上。
A-3 3万ベクレル/㎡以上の汚染地域が約8000平方キロ。

《Ⅲ 全国的な放射性物質の降下:セシウム137の2011.年3月の月間降下量》
A セシウム137の2011.年3月の月間降下量。最大ひたちなか市1万7000ベクレル/㎡。新宿区でも8100ベクレル/㎡。
B セシウム137の月間降下量を、年間被曝量に換算。月間降下量最大ひたちなか市で44.6マイクロシーベルト。これは、日本人の自然界からの年間被曝量1ミリシーベルトより、圧倒的に小さい。
B-2 自然被曝、医療被曝を除く一般人の年間
被曝量限度は1ミリシーベルト。(シーベルトは被曝量を表す。)
C セシウム137の2011.年3月の月間降下量のデータ(A参照)が、福島県と宮城県は発表されていない。福島県は「震災被害によって計測不能」、宮城県は「分析中」。

《Ⅳ IAEAの国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)による評価:福島第1原発事故はレベル7》
A この国際的尺度はレベル0からレベル7まである。レベルは環境への放射性物質の放出量による。レベル5は500兆ベクレル、レベル6は5000超ベクレル、レベル7は、5京ベクレル以上。福島第1原発事故はレベル7。(37or63or77京ベクレル。Ⅰ-A参照。)
B 大気への放射性物質の放出量は2011年3月、事故直後数日間、毎時2000兆ベクレル。2011年7-8月で毎時2億ベクレル。これを年換算すると1兆7250億ベクレル。(Cf. 中越沖地震の柏崎刈羽原発からの放出放射能総量は4億ベクレル。)

《V 拡がる海洋汚染:2011年3-7月で推定80京ベクレル》
A 原子炉から流れ出た汚染水が含む放射性物質の量(高濃度汚染水)は、2011年3-7月で推定80京ベクレル。(大気への放出量77ベクレルに匹敵。)
B 低濃度汚染水も意図的放出などで、2011年3-5月で4700兆ベクレル、海洋放出。(これだけで、レベル6に相当。)
C 原子炉冷却のため注水作業を続ける。一部、循環使用されても、漏れており、汚染水が増え続ける。

   3 放射線の人体への影響
《I 確定的影響と確率的影響》
A 確定的影響:放射線の短期間に現れる影響。あまりに被曝量が多いと死亡:6-10シーベルト以上。(6000-1万ミリシーベルト以上。)
B 確率的影響:放射線の長期的な影響。癌などの発生。因果関係の証明が難しい。

《Ⅱ 原発労働者の被曝》
A 原発労働者の被曝限度は、年間100ミリシーベルトだった。(Cf. 一般人の年間被曝量限度は1ミリシーベルト。シーベルトは被曝量を表す。)
A-2 原子力緊急事態宣言がだされ、「特例」として原発労働者の被曝限度が、年間250ミリシーベルトに引き上げ。
B 2011年3-7月末までで、被曝量100ミリシーベルト超の原発労働者99人。
C 1976年以来、放射線被曝で、白血病などになり、労災認定された労働者10人。被曝量は129.8-1.2ミリシーベルト。
C-2 福島第1原発事故以後、被曝量10ミリシーベルト以上の原発労働者、すでに3045人。

《Ⅲ 2011年3月中、「著しい公衆被曝」の可能性があった》
A 被曝量が数シーベルト(数千ミリシーベルト)の強烈な被曝の場合、確定的影響がでる。
A-2 保安院の文書によると、2011年3月中、耐圧ベントができないと、大量の放射性物質の放出の可能性があった。3-5キロの範囲に於いて「著しい公衆被曝」のおそれ。被曝量数シーベルト。
A-3 1シーベルトを全身に一度に浴びると、10%の人が悪心、嘔吐。4シーベルトで、半数死亡。7-10シーベルトで、全員死亡。

  4 生活への影響
《Ⅰ 広範囲にわたる避難》
A  ① 3/11、福島第1原発3キロ圏内が「避難指示」、3-10キロ圏内が「屋内待避指示」。
   ② 3/12、避難指示10キロ圏内、さらに20キロ圏内に拡大。3/15、屋内待避指示20-30キロ圏内へ。
A-2 ③ 4/21、20キロ圏内が「警戒区域」とされ、一般市民の立ち入り禁止と住民の立ち退き。③-2 4/22、20-30キロ圏内の屋内待避指示を解除。代わりに、「計画的避難区域」(1年以内に被曝量20ミリシーベルト:1ヵ月程度で立ち退き指示)、および「緊急時避難準備区域」(子供・妊婦などは立ち入り禁止、他の市民は立ち退きor屋内待避の準備)を設定。
A-3 ④ 4/22、「特定避難勧奨地点」(1年以内に被曝量20ミリシーベルトに達するおそれのある地点、※いわゆるホット・スポット)設定。住民への注意喚起と避難支援。
A-4 合計15万人程度が避難を強制されている。
B 避難指示の基準が年間20ミリシーベルトでは高すぎる。
B-2 ICRP(国際放射線防護委員会)は、避難指示の目安を1-20ミリシーベルトとし、できれば1ミリシーベルトが望ましいとしている。(Cf. 原発労働者の通常の被曝限度は5年間で100ミリシーベルト。)

《Ⅱ 重視すべき子どもの安全:学校・幼稚園・保育園》
A 国は2011年4/19、学校・幼稚園・保育園は年間1-20ミリシーベルトなら、利用可能とした。
A-2 妊婦、胎児、子どもは放射線の感受性、大人の最大約3倍。
A-3 一般市民でも、被曝限度、年間1ミリシーベルト。
B かくて国は改善。2011年8/26、学校・幼稚園・保育園の被曝限度、年間1ミリシーベルトとする。(一般人の被曝限度と同じ。)
C ただし学校・幼稚園・保育園の被曝限度、毎時1マイクロシーベルトOK。単純に、これを1年分で計算すれば、8.76ミリシーベルト。しかし屋外に居るのは8時間とみなし、この3分の1を、年間の被曝量とした。(これなら、年間1ミリシーベルト未満となる。)
D ともかく学校・幼稚園・保育園の除染が必要。

《Ⅲ 拡がる水と食品の汚染》
A 体内に放射性物質がたまり、内部被曝するのを、防ぐ。
B (ア)安全性のみを強調する専門家への不信感。(イ)インターネットを通じた情報普及で情報隠蔽は困難。(ウ)食品の放射能基準、測定体制への不備。
C ①流通している食品の汚染状況の開示、②店頭での簡易放射線測定などを行えば、風評被害、東日本産食品の買い控えがなくなり、結果的に被災地支援。

《Ⅳ 全面除染に向けて》
A 除染は非常に長い時間がかかる。
A-2 除染によって、まず、ICRPの「緊急被曝状況」(年間被曝量20ミリシーベルト超)を解消させる。
A-3 再び生活可能となるためには、年間被曝量1ミリシーベルト未満とする。
B 2011年8月「放射性物質汚染対処特措法」成立。
問題点① 市町村でなく、国が、除染の責任を持つべき。特措法では、「除染特別区域」(汚染が著しい)は国が責任を持つが、「除染実施区域」は市町村の責任。
問題点② 地域の除染費用負担の問題。東京電力が負担しない(原子力損害賠償紛争審査会の中間指針)が、負担させるべき。
問題点③ 除染で出る放射性廃棄物の最終処分地の問題。東電、国、自治体、住民の話し合いが必要。

  第2章 被害補償はどのようにすすめるべきか
   1 莫大な原子力被害
《Ⅰ 被害を総体としてとらえる》
A 本来金銭で評価出来ない被害:死、健康被害、住み慣れた土地の喪失。
B 金銭で評価できる被害=経済的被害
C 金銭で評価出来ない被害に対し、①金銭補償による損害緩和、②完全な補償が事故の再発防止につながる。

《Ⅱ 事故費用の4つの区分》
(1) 損害賠償費用:①人への直接的被害(①は上記Aの「死、健康被害、住み慣れた土地の喪失」など本来金銭で評価出来ない被害に相当)
(1)-2 ②営業損害(実害と風評被害)、③就労不能による損害、③財産価値の喪失・減少(②③④は上記Bの金銭で評価できる被害=経済的被害に相当)
(1)と(1)-2の合計、5.9兆円(5年間分)
(2) 事故収束・廃炉費用:東電は1.7兆円と見込む。(しかしチェルノブイリは19兆円かかっている。)
(3) 原状回復費用:除染・原状回復の費用。年間の被曝量を1ミリシーベルトに抑えるとすると、2000平方キロの除染。費用不明。
(4) 行政費用:国・自治体の防災対策、放射能汚染対策、放射能検査の費用:2011・12年度で1兆円。

   2 何が賠償されるのか
A 「被害の総体」は金銭に換算できないものもあるが、全てが補償されるべきである。
B  原賠法(原子力損害の賠償に関する法律、1961年)にもとづき賠償が行われる

《Ⅰ 原子力損害賠償紛争審査会(原賠法にもとづき設置)の中間指針(2011.8)》
A 損害の区分
(1)政府・自治体の避難・出荷制限指示による被害の損害賠償。
(2)それ以外の被害の損害賠償:風評被害、放射線被曝による被害などの損害賠償。
B 中間指針の問題点
問題点(1)自主的に避難を行った者への賠償が含まれていない。
問題点(2)政府が定めた避難区域外の避難への賠償が含まれない。
問題点(2)-2被曝量、年間20ミリシーベルトが基準になっているが、一般人の限度は1ミリシーベルト(政府)だから、それ以上の地域はどうなるのか?
問題点(3) 子どもを持つ若い世帯の自主避難への賠償の問題。(二重生活の費用など。)
問題点(4) 生活基盤が破壊されたのに、生活再建まで賠償するとの視点がない。

   3 原子力損害賠償の原則1-4:原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)1961年
《Ⅰ 原賠法の二つの目的》
A 原賠法の目的は2つある。(1)「被害者の保護」、(2)「原子力事業の健全な発達」。
B この2つの目的を達するため、原賠法の4原則。原則1:賠償責任の厳格化。原則2:責任集中。原則3:賠償措置の強制。原則4:国の援助。

《Ⅱ 原則1:賠償責任の厳格化=原子力事業者の無過失責任》
A 原子力損害であれば、過失のあるなしにかかわらず、事業者に賠償責任がある(3条)。
B ただし「異常に巨大な天災地変」の場合、事業者は免責(3条続き)。しかし、事故直後から、繰り返し、枝野官房長官が「免責」にあたらないと表明。

《Ⅲ 原則2:責任集中=損害賠償責任を原子力事業者に集中させる》
A 原発プラントメーカーなどは製造物責任法の適用除外。
B これは一方で、「被害者の保護」のため。損害賠償請求先が原子力事業者と明確!
B-2 これは他方で、「原子力事業の健全な発達」のため。原発プラントメーカーやゼネコンの参入を、安心させるため。さらに米国側が、アメリカ原発メーカーの免責を求めた。

《Ⅳ 原則3:賠償措置の強制=賠償の履行を確実なものにしておく》
A 「被害者保護」のためと、一度の事故で倒産することのないよう「原子力事業の健全な発達」のための原則。

B 原子力事業者は賠償措置をとることが義務づけられている。
B-(1) 原子力損害賠償責任保険(責任保険)の契約を義務づける。民間の保険会社がつくる日本原子力保険プールが責任保険を引き受ける。(ただし福島第1原発事故は、噴火・地震・津波による事故で、責任保険からは支払われない。)
B-(2) 責任保険が適用されないときのために、原子力事業者(電力会社)は政府と「補償契約」を結ぶ。事業者が損害賠償を行った後、国に請求。事業者は毎年、国に補償料を納付。「補償契約」は1サイト、1200億円が限度。(福島第1原発事故は、1号機、2号機の2サイトで2400億円。)

《Ⅴ 原則4:国の援助(「補償契約」の限度額で損害賠償が収まらない場合)》
A 他の民間事業者と異なり、原子力産業の特徴。原子力事故に対する事業者の損害賠償へ、国が援助する。ただし国会の議決が必要。
A-2 原子力事業者への「国の援助」であって、直接、「被害者」を援助するものではない。

   4 原子力損害賠償支援機構法の仕組み
《Ⅰ 新しい損害賠償の枠組み:原子力損害賠償支援機構法》
A 大部分の賠償が、原賠法の「国の援助」によって行われるが、損害賠償額が数兆円規模となるので、福島第1原発事故を受け、新しい損害賠償の枠組みが作られた。
B 東電の法的整理(倒産)は、経済的デメリットが大きすぎるとして、回避。
B-2  かくて、株主・金融機関の責任が問われない。
C 東電への「国の援助」に上限を設けない。国が、原子力損害賠償支援機構に国債を渡し、機構が現金化し東電に渡す。東電は、資金をもらえるのであって、返納は不要。
D 東電は倒産しないから、地震・津波による電源喪失への対策を怠ってきた東電の責任が、問われない。

《Ⅱ 原子力損害賠償支援機構法、2011年8/10公布・施行》
A 支援機構法は、原賠法の賠償措置額(1サイト、1200億円)を超える原子力損害に対し、賠償資金を交付する。
B 支援機構法は、国の責務について記載。経団連や電事連(電力10社)は、電力事業者のみに賠償責任が課されるのは不当と主張。費用負担の国への転嫁を狙う。
C 政府は支援機構に、国債を交付。支援機構が、国債の償還を政府に要求して現金に換える。支援機構が、原子力事業者に、賠償資金を交付する。
D 支援機構による、原子力事業者の公的管理が可能。支援機構は、事業者に資金援助を行うにあたり、事業者とともに「特別事業計画」を作成。援助を受ける事業者は、事実上、国の管理下におかれる。

   5 残された課題
《Ⅰ 債務超過の回避のための支援機構法》
A 賠償費用が特別損失、支援機構からの交付資金は特別利益。かくて法的整理(倒産)により、東京電力の経営責任が問われることがなくなった。
B 支援機構が、特別事業計画の策定段階で、東京電力の経営を直接監視することが可能。しかし、策定プロセスは、東京電力主導だった。(2011年度、東電は支援機構から8900億円を受け取る。今後、数兆円かかると思われる。)

《Ⅱ 一般負担金、特別負担金の原資の問題》
C 電力会社は支援機構に対し、一般負担金(電力10社)、特別負担金(東電)を支払うが、これら負担金が電気料金の原価に算入され、消費者に転嫁されるとしたら、おかしい。

《Ⅲ 損害賠償支払いに当たっての問題》
D 東京電力は、損害賠償支払いに、あまりに消極的である。
E 損害賠償請求のルート:(1)東京電力への請求。(2)原子力損害賠償紛争審査会のもとに置かれる「原子力損害賠償紛争解決センター」での和解手続き。東電の窓口より公正。(3)避難区域だけで人口約15万人。長期にわたり和解仲介を行う専門機関が必要。
《Ⅳ 事故収束と廃炉の費用》
F 収束費用や廃炉費用に関し、支援機構が直接援助できる規定はない。費用が莫大となり、資金注入が行われれば、東電は、単なる公的管理でなく、国有化と同じとなる。

  第3章 原発は安くない
《Ⅰ 政府発表の発電コスト》
A 原子力発電は安価か?
B 政府発表の発電コスト(2004年):『エネルギー白書』に掲載。キロワット時あたり、原子力5-6円、LNG(火力)7-8円、水力8-13円。
C 発電コスト(2004年)はどのように計算されたか?:モデルプランを使って発電コストを推計する。電事連(電力10社)の資料に基づく。

《Ⅰ-2 モデルプラントによる発電コスト計算(=モデル計算)の仕方》
C-1 発電コスト(キロワット時あたり)=総発電コスト÷発電量
C-2 総発電コスト=資本費+燃料費+運転維持費
(1)資本費は発電所の建設費。(2)燃料費は発電量に比例して増える。(3)運転維持費は運転年数に比例して増える。
C-3 発電量=設備容量(発電設備の規模、単位キロワット)×365日×24時間×設備利用率×運転年数
(4)設備利用率は、フルに動かした場合の電力量に対し、実際の電力量の比率
C-4 電源によって発電コストの決定要因がことなる。
(ア)燃料費が、総発電コストにしめる割合は、火力で約8割、原子力で約2割、水力でゼロ。火力の発電コストは燃料費に左右される。
(イ)資本費は運転年数・発電量にかかわらず不変。ゆえにキロワット時あたりの資本費は、運転年数が長く、発電量が多い、つまり設備利用率が高いと、小さくなる。

《Ⅱ 電事連の(モデル計算における)想定の問題点》
A 原子力の発電コストが低いが、運転年数40年、設備利用率80%と高めに想定され
コストを小さく見せている。しかも原発は、ベース電源で、そもそも設備利用率が高い。
(1)30年を超えた原発は、「高経年化」(老朽化)の不安がある。
(2)原発の実際の設備利用率は、70%である。
(3)原発は出力調整が危険なので、一日中フル稼働のベース電源として使われ、設備利用率が高い。火力発電は出力調整が容易なので、ミドル電源、ピーク電源として使われ、設備利用率は50%。(電気は大規模にストックできないので、電力需要に合わせ、発電量が調整される。)
B 電事連は、モデル計算の想定や、計算式に関し、情報の公開をきちんと行っていない。

《Ⅲ 発電コスト:「私的コスト」と「社会的コスト」》
A 電事連のモデルプラントの発電コストは、電力会社の「私的コスト」にすぎない。
B 発電コストには、社会全体が支払う「社会的コスト」がある。(ア)国家財政を通じて国民が負担するコスト(「政策コスト」)。(イ)事故にかかわるコスト(「環境コスト」)。

《Ⅳ 過去の実績値による発電コスト計算》
(1)「発電事業に直接要するコスト」(電力会社の「私的コスト」に相当):減価償却費(資本費)、燃料費、保守費など。
(2)「政策コスト」:原発事業への政策的誘導を行うためのコスト。発電の「社会的コスト」のうち(ア)国家財政を通じて国民が負担するコストに相当。これは①「技術(研究)開発コスト」(軽水炉の技術開発、高速増殖炉開発、核燃料サイクル技術開発)、②「立地対策コスト」(電源3法に基づく各種の交付金)からなる。総合資源エネルギー調査会は、立地対策コストは、原子力発電のコストに含めなくてよい、とする。
(3)「環境コスト」:発電の「社会的コスト」のうち(イ)事故にかかわるコストに相当。事故被害と損害賠償費用、事故収束・廃炉費用、原状回復費用、行政費用。この「環境コスト」についてはすでに、第1章、第2章で見た。

《Ⅳ-1 過去の実績値による発電コスト計算(1970-2010年度の41年間):(1)「発電事業に直接要するコスト」》
A これは電気料金の原価(料金原価)と呼ばれる。電力会社の「私的コスト」である。「料金原価=営業費用+事業報酬」であり、この料金原価を電力消費者から徴収。これが「総括原価方式」である。
B 「発電事業に直接要するコスト」は、料金原価を総発電量で除して得られる数値。
C 営業費用に広告費用などの過大な見積もり、また事業報酬も過大。2001-10年までの10年間で、東京電力で、営業費用部分6186億円、事業報酬部分で8460億円。(経営・財務調査委報告2011年10月)
D (1)「発電事業に直接要するコスト」の計算結果:1kw時あたり、原子力8.53円、火力9.87円、水力7.09円(一般水力3.86円、揚水52.04円)。かくて過去41年間で最も安い電力は原子力でなく、一般水力。ただし原子力の発電コストは逓減するので直近の数年間なら、もっと安い。

《Ⅳ-2 過去の実績値による発電コスト計算(1970-2010年度の41年間):(2)「政策コスト」(=「社会的コスト」のうち(ア)国家財政を通じて国民が負担するコスト)》
A ①「技術(研究)開発コスト」(軽水炉の技術開発、高速増殖炉開発、核燃料サイクル技術開発):原子力1.46円、火力0.01円、水力0.08円(一般水力0.04円、揚水0.86円)
B ②「立地対策コスト」(電源3法に基づく各種の交付金):45年間の間に原発1基あたり1240億円が交付されると計算できる。:原子力1.46円、火力0.03円、水力0.02円(一般水力0.01円、揚水0.16円)
C 政策コスト=(①技術開発コスト+②立地対策コスト)÷発電量:1kw時あたり、原子力1.72円、火力0.04円、水力0.10円(一般水力0.05円、揚水1.02円)。

《Ⅳ-3 過去の実績値による発電コスト計算(1970-2010年度の41年間):(1)「発電事業に直接要するコスト」+(2)「政策コスト」》1kw時あたり、原子力10.25円、火力9.91円、水力7.19円(一般水力3.91円、揚水53.07円)。かくて「政策コスト」も含めると原子力が発電コストが最も安いわけではない。原子力は最も高い。

《Ⅴ 事故コストor環境コスト:「社会的コスト」のうち(イ)事故にかかわるコスト》
原子力委員会によると、事故リスクコスト=損害想定額×発生頻度÷総発電量。(2011年11月)
①損害想定額:福島第1原発事故から推定し約5兆円。しかし損害額・除染費用が過小。行政費用も含まれない。
②発生頻度:IAEAの安全目標10万炉年分の1.福島第1原発事故の実績に基づけば500炉年分の1。
事故コストは、①損害想定額、約5兆円とすると、②発生頻度に応じて、10万炉年分の1なら0.006円、500炉年分の1なら1.2円。
かくて後者(500炉年分の1)なら、原子力発電の発電コストは、過去の実績値による発電コスト計算(1970-2010年度の41年間)(Ⅳ-3)においてすでに最も高いが、事故コストも加われば、さらに高くなる。1kw時あたり、原子力11.45円、火力9.91円、水力7.19円(一般水力3.91円、揚水53.07円)。(※火力、水力の事故コストは小さいので無視。)

《Ⅵ 使用済み燃料の処理・処分コスト(バックエンドコスト)》
 Cf. プルトニウム239の半減期2万4000年。
A 「ワンスルー」方式の場合:核燃料を1回だけ使用し再処理しない。使用済核燃料を直接処分。
①再処理コストは、ゼロ。
②再処理に伴って生じる放射性廃棄物も出ない。
③使用済核燃料の直接処分コストのみが、かかる。
 
B 「核燃料サイクル」方式の場合:使用済核燃料を再処理し、プルトニウム取り出し再び核燃料として使用。
①再処理コストが、かかる。
②再処理工程から、②-1. 「高レベル放射性廃液」(ガラス固化体にするが瞬時に人間は被曝で即死、ウラン鉱石と同じ放射能量になるまで数万年かかる)と、②-2. 「TRU(超ウラン元素)廃棄物」が発生する。
日本はこれらを、地中深く埋設する方針。
かくて、②-1. 「高レベル放射性廃液」処分コスト、②-2. 「TRU(超ウラン元素)廃棄物」処分コストがかかる。

C 廃炉コスト:①原発を解体するコストと、②放射性廃棄物の処分コストからなる。

D バックエンドコストについて、費用負担の制度基盤の構築が2004年から、政府によって目指されている。つまり、電力会社でなく、国がコスト負担する方向である。

D-2 総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会(2004年1月)が計算した使用済み燃料の処理・処分コスト(バックエンドコスト)(「核燃料サイクル」方式):18兆8000億円(①再処理コスト(再処理、MOX燃料加工、使用済み燃料中間貯蔵等)、②-1「高レベル放射性廃液」(高レベル放射性廃棄物)処分コスト、②-2「TRU(超ウラン元素)廃棄物」(地層)処分コスト)
①ここでは、六ヶ所再処理工場のコストのみが計算されている。しかし六ヶ所再処理工場は、日本の全原発から発生する使用済み燃料の半分の量しか処理できない。全量再処理ならバックエンドコストは2倍となる。(※つまり37兆6000億円。)
②以上は「プルトニウム」の回収のみしか語っていない。「回収ウラン」(プルトニウムとともに回収される濃縮されたウラン235)、「劣化ウラン」(濃縮後に残る、回収ウラン以外のウラン)の処理・処分については、計算に含まれていない。
③MOX燃料使用後の「MOX使用済燃料の再処理・処分のコスト」が、計算に含まれていない。
④「高速増殖炉サイクル」のコストが計算されていない。
⑤高レベル放射性廃棄物処分、TRU(超ウラン元素)廃棄物処分については、まだ処分地も決まっていない。コスト等検討小委の処分コストは、構築物建設コストと維持管理コストのみに過ぎない。両事業の開始まで、また開始後について、さらに技術的問題、社会的問題解決のコストが、かかる。
⑥コスト等検討小委の計算は、六ヶ所再処理工場が40年間、定格運転する(使用済燃料3万2千トン処理する)ことがコスト計算の前提。しかし、おそらく稼働率は50%程度で、その半分程度しか処理できないはず。もう一つ同様の再処理工場がいる。(※つまりバックエンドコストが、75兆2000億円となる。上記①と合計して、コスト等検討小委の計算の4倍かかる。)
⑦ ②-1高レベル放射性廃棄物処分コスト、②-2TRU(超ウラン元素)廃棄物(地層)処分コストの処分単価が、安すぎる問題がある。Ex. 高レベル放射性廃棄物のガラス固化体1本あたり3530万円でコスト等検討小委は計算。現在、海外から返還されるガラス固化体は1本あたり1億2300万円。
⑧そもそも「核燃料サイクル」方式が、つまり使用済核燃料の再処理が、経済的に意味があるのかという問題がある。
コスト等検討小委の計算によると、再処理後、MOX燃料加工によって得られる経済的価値は、これによって代替されるウラン燃料の価値、9000億円に相当するのみ。しかし再処理に11兆円、その後のMOX燃料加工に1兆1900億円、合計12兆1900億円かかる!

D-3 結論:「核燃料サイクル」方式を放棄しない限り、バックエンドコストは膨大となる。40年間で、最低でも75兆2000億円かかる可能性がある。

※以上、第1章、第2章、第3章のみ、要約した。

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