宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『卵をめぐる祖父の戦争』デイヴィッド・ベニオフ(1970生)、2008年、ハヤカワ文庫

2012-01-31 07:42:50 | Weblog
 祖父(レフ)はナイフの使い手で18歳までにドイツ人を2人殺した。
 祖父母はロシアからの移民でNYに住み保険会社を経営。引退し1990年代の終わり、二人はフロリダに移住。
 私は脚本家、34歳。祖父から戦争の話を聞きテープにとる。
 1942年の最初の1週間(1月)の出来事。祖父が、祖母(ヴィカ)に出会い、親友(コーリャ)ができ、ドイツ人を2人殺す。

  1 金曜日(第1日目):ドイツ兵のナイフを略奪
 1941年6月、ドイツ軍がソ連に侵攻。レニングラードが包囲される。
 1942年1月、私(レフ)は17歳。消防団の団長として住んでいたアパート〈キーロフ〉の屋上で任務につく。落ちてくるドイツ兵の落下傘を発見。ドイツ兵のところに仲間4人で行く。ドイツ兵はすでに凍死。ドイツ兵からナイフを奪う。
 その後、軍に発見され私(レフ)は捕まる。夜間外出禁止令違反と略奪で銃殺になるはずだった。

  2 金曜日(第1日目)その2:刑務所に収容
 私(レフ)は、刑務所(〈十字〉)に収容される。私の足にはドイツ兵のナイフが隠して縛り付けたままだった。
 20歳の脱走兵、コーリャが同房に収容される。彼も翌朝、銃殺のはずだった。

  3 土曜日(第2日目):卵を木曜日までに見つければ銃殺しない 
 早朝、銃殺されず、私(レフ)とコーリャが、刑務所からソ連秘密警察のグレチコ大佐のもとに連行される。
 大佐が、「娘の結婚式のケーキのために、卵が1ダース必要だ。木曜日までに、卵を見つけてこい。見つけてくれば二人とも銃殺せず自由にする。」と言う。
 ドイツ軍の包囲のもとでレニングラード(ピーテル)には卵がない。
 私(レフ)はナイフの携行を許され、大佐が通行許可証を発行。

  4 土曜日(第2日目)その2:私(レフ)とコーリャは闇市がある(レニングラードの)センナヤ広場へ向かう

  5 土曜日(第2日目)その3:人肉を食べる夫婦
 センナヤ広場で「ピーテルには9月以来、卵はない」とわかる。
 「鶏を飼っている爺さんがいる」との噂を聞く。
 ある大男が「卵を持っている」というのでそのアパートに行くと、大男とその女房に殺されそうになる。彼らは人肉を食べていた。私(レフ)とコーリャはなんとか逃げた。

  6 土曜日(第2日目)その4:住んでいたアパート〈キーロフ〉にもどるが、それは前夜、ドイツ軍の砲撃で廃墟になっていた

  7 土曜日(第2日目)その5:この日の夜、脱走兵コーリャの女友達ソーニャ(食べ物がなく彼女は骨と皮)の家に泊まる

  8 日曜日(第3日目):鶏を1羽、手に入れる
 「鶏を飼っている爺さんがいる」との噂にもとづき爺さんのアパートを見つける。しかし爺さんは死んでいた。そばに少年がいて鶏1羽を抱えていた。私(レフ)とコーリャが鶏1羽を手に入れる。
 
  9 日曜日(第3日目)その2:卵を産ませるつもりの鶏は雄鶏

  10 月曜日(第4日目):ドイツ軍の前線の向こう側、ムガを目指す
 早朝、「ピーテル(レニングラード)には卵がない。ドイツ軍の前線の向こう側のムガへ行く。」と脱走兵コーリャが言う。ムガには集団家禽農場がある。

  11 月曜日(第4日目)その2:「森を行け。ドイツ野郎に道路はとられた。」
 ムガまでは50kmある。モスクワ線に沿って歩く。
 正午前、赤軍のレニングラード防衛陣地に着く。大佐の許可証を見て赤軍の軍曹が「パルチザンを組織するためだろう」と言う。そして「森を行け。ドイツ野郎に道路はとられた。」と付け加える。

  12 月曜日(第4日目)その3:レニングラード郊外にはドイツ軍の気配がない
 
  13 月曜日(第4日目)その4:将校の慰安のための少女4人
 夜が近づく。私(レフ)とコーリャ、二人とも外にいたら死ぬ。家を探す必要がある。
 雑種民族のロシア人は存在する価値がないとナチス。
 家が見つかり、女の子たちが4人いた。町中の男は全員射殺。他は逃げる。しかし容姿がきれいな少女は将校の慰安のため監禁される。

  14 月曜日(第4日目)その5:アインザッツ・グルッペン(特別行動部隊)
 アインザッツ・グルッペン(特別行動部隊)は共産主義者・ジプシー・知識人・ユダヤ人の殺害を任務とする。女の子4人はその将校たちの慰安婦である。
 彼女が逃げない理由:かつて逃げた14歳の少女ゾーヤは押さえつけられ、少佐アーベントロートによって、生きたまま鋸で足を切断され殺された。
 アインザッツ・グルッペンのこの地域の指揮官が少佐アーベントロートで。

  15 月曜日(第4日目)その6:パルチザンが襲撃しアインザッツ・グルッペンの将校6人を殺害

  16 月曜日(第4日目)その7:パルチザンは少佐アーベントロートを追う
 パルチザンのリーダーはコルサコフ、女射撃手がヴィカ。彼らは少佐アーベントロートを追っている。
 
  17 月曜日(第4日目)その8:ドイツ軍1人が殺されたらロシア人30人を殺す
 村々が焼かれ、180人のロシア人非戦闘員がドイツ軍に殺される。
 パルチザンたちが言う。「ドイツ軍は、兵士1人が殺されたら、ロシア人30人を殺す。しかし最後にファシストは悟る。そうしても戦争には勝てない。」と。

  18 月曜日(第4日目)その9:パルチザンたちが、その夜、猟師小屋で寝る

  19 火曜日(第5日目):ドイツ軍がパルチザンを攻撃
 ドイツ軍が猟師小屋を攻撃する。パルチザンはマルコフと女射撃手ヴィカだけ、また私(レフ)とコーリャが助かる。
 4人はドイツ軍が歩かせていた捕虜の列に紛れる。ところがマルコフが、捕虜の一人に「パルチザンだ」と告発され、ドイツ兵に射殺される。

  20 火曜日(第5日目)その2:文字の読める捕虜を皆殺し
 アインザッツ・コマンド(武装親衛隊)の将校が捕虜たちに、読み書きができるかたずね、ドイツ兵が機関銃で文字の読める捕虜を皆殺しにする。
 私(レフ)とコーリャ、またヴィカは文字が読めないふりをして助かる。

  21 火曜日(第5日目)その3:捕虜35人が小さな小屋で寝る

  22 水曜日(第6日目):親衛隊少佐にチェスで挑戦する
 マルコフを裏切った男(捕虜)がのどを切られて殺された。おそらくヴィカがやった。
 アインザッツ・グルッペン(特別行動部隊)のアーベントロート少佐を私(レフ)とコーリャ、またヴィカが発見する。
 コーリャが「少佐に伝えてくれ。」とドイツ兵に言う。
 「チェスの強い15歳の少年(レフ)がいる。クイーンなしでアーベントロート親衛隊少佐に勝てる。勝ったら3人を解放し卵1ダースをくれ!」と。

  23 水曜日(第6日目)その2:アーベントロート親衛隊少佐を殺し、卵12個を奪う
 わし(レフ)は靴にナイフを隠し、ヴィかは胸にナイフを隠す。
 アーベントロート少佐とのチェスの試合にわし(レフ)は勝つ。
 わし(レフ)はアーベントロート少佐とドイツ兵をナイフで殺す。その時、左手の指2本を失う。またヴィカが射殺されそうなところを救う。
 わし(レフ)とコーリャ、またヴィカの3人が卵12個を奪って逃走。

  24 水曜日(第6日目)その3:わし(レフ)とコーリャは、ヴィカと別れる
 ヴィカは秘密警察の一員。パルチザンには秘密警察が一人はいる。
 ヴィカがわし(レフ)に、「命を救ってくれて、ありがとう」と言った。そして、わしの姓名を聞いた。「レフ・ベニオフ」とわしは教える。
 わし(レフ)とコーリャを残し、ヴィカは去る。

  25 木曜日(第7日目):コーリャは死ぬ
 わし(レフ)とコーリャはピーテル(レニングラード)までもどる。ところが敵と間違えられ赤軍にコーリャは撃たれ出血多量で死ぬ。
 
  26 木曜日(第7日目)その2:卵12個をわし(レフ)はソ連秘密警察のグレチコ大佐に届け、銃殺を免れ自由となる

  27 その後:1942年1月&1945年8月
 2年後、1942年1月、600日に渡るレニングラード包囲戦が終わる。
 わし(レフ)は20歳になり軍に入る。ドイツが降伏。
 1945年8月、ヴィカが、わし(レフ)の家にやってきた。
 その後、祖父レフと祖母ヴィカが結婚する。

 《評者の感想》
 ほとんど架空の物語である。
 しかし生き残った者の物語だから、どんなに周りが死んでも生き残る。そうであるなら本当の物語。
 残虐なナチス親衛隊。ナチスによる非戦闘員の虐殺。人種主義理論がもたらす凄惨さ。
 他方、ソ連人あるいはロシア人パルチザンの戦いの論理も、冷酷。
 ナチスの人種理論は滅ぼさなければならない。野蛮なナチス・ドイツを倒さねばならない。戦争は、勝たねばならない。そう思わせるに至る。
 全体の印象として、映画のシナリオのような小説。

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『天使の眠り』岸田るり子(1961生)、2006年、徳間文庫

2012-01-22 08:58:15 | Weblog
   第1章 再会:宗一(ソウイチ)と亜木帆一二三(アキホヒフミ)
    1 13年前、札幌
 京都のN医大の助手、秋沢宗一(ソウイチ)。同じ研究室の研修医の結婚式披露宴会場で、彼は亜木帆一二三(アキホヒフミ)と13年ぶりに会う。
 宗一は23歳(大学院1年)のとき、札幌で子連れの一二三(当時30歳)と3ヵ月同棲した。一二三の前夫はアイルランド人、イアン・バンクス・タナカ。一二三とイアンの娘が田中江真(当時2歳)。イアンは他界。
 一二三は宗一との3ヵ月の同棲後、突然、いなくなる。
 宗一は当時、13年前、札幌で安いアパートに住む。隣の部屋に三人の中国人の女が住む。水商売のようだった。
    2 今、京都
 今、宗一には大原時子という恋人がいる。
 今の一二三は、昔の一二三と名前は同じだが、顔が全く別人である。江真は今、15歳、中学3年。今の一二三が、宗一(ソウイチ)を、昔の一二三のように間違って「しゅうさん」と呼んだ。
    3 宗一の母
 宗一の母は、宗一が3歳の時、好きな男のため宗一を捨て家を出た。宗一は母を恨む。

   第2章 孤独:向井さん
    1 今の一二三が、娘の江真を向井さんに週1度、預ける
 京都で江真は、今の一二三(母、看護師)より20歳くらい年長の向井さんの家に、よく行く。母の今の一二三は看護師で忙しいので、向井さんを雇い、保育園には昔から向井さんが江真を迎えに来る。
 土曜日は、母の今の一二三は化粧して夜遊びに出かけるので、江真は、向井さんの家に泊まる。向井さんはネットでアクセサリーを売って一人暮らす。年に数回、フランスにアクセサリーを仕入れに行く。
    2 江真、いじめられる
 江真は白人の血が入っていて、いじめられる。中2の時、「色素欠損人間」でうつる病気だといじめられる。
    3 今の一二三:夫が二人殺される
 母の今の一二三は、2度結婚したが、二人の夫とも殺された。母には今もいい年の恋人がいる。

   第3章 追跡:宗一が今の一二三を調査する
    1 今の一二三と昔の一二三は別人
 京都で、宗一は、今の一二三が、昔の一二三と全く別人なので、ストーカーのように追跡する。
    2 札幌:中国人のレイカ
 札幌で、昔、13年前、中国人のレイカ(13歳だった)が猫を飼う。江真(2歳)が猫を見たいと言うので、宗一、一二三も一緒に、アパートのレイカの部屋に猫を見に行く。
 その後、昔の一二三が宗一に「私の家で一緒に住まないか?」と誘う。その結果、宗一、一二三、江真は一緒に住む。3ヵ月の同棲後、一二三、江真は突然、いなくなる。
    3 今の一二三:京都中心部に50坪の家、駐車場、数軒のアパートを持つ
 今の一二三は、13年前の一二三と別な顔だが、髪型と趣味は同じ。また昔の一二三と同じドレスやコートを着ている。今の一二三は松山病院に勤める(看護師)。また京都中心部に50坪の家を持ち駐車場とアパートもある。
    4 今の一二三の前夫、佐伯が殺される:1億円の保険金
 今の一二三の前夫、佐伯(MR技師、40歳)は籍を入れた半年後、メスで頚動脈を切られ殺される。一二三に1億円の保険金が入る。妻の一二三は同時刻、遠隔地にいて、完全なアリバイがあった。犯人は見つからず。
    5 今の一二三の前々夫、植村が殺される:財産を相続
 今の一二三の前々夫、植村は籍を入れた直後、強盗殺人で殺される。この時も、一二三には完全なアリバイがあった。植村の財産を相続し、一二三は、京都中心部に50坪の家、駐車場、数軒のアパートを手に入れる。犯人はみつからず。

   第4章 疑惑:娘、江真が疑問を持つ
 江真は、先日の結婚式披露宴で、母(=今の一二三)が、「しゅうさん」(宗一)と会って以来、上の空なのはなぜだろうかと思う。
 向井さんが、「『(父、イアンの)特別な遺伝子を引き継ぎたくて江真を産んだ』と、あなたのお母さんは言ってたわ」と江真に言う。

   第5章 二つのアリバイ:植村、佐伯、両殺人事件とも一二三にアリバイがある
 13年前、昔の一二三は、「イアンが産むなと言ったのに娘、江真を産んでしまった」と宗一に告白した。
 今の一二三の前々夫、植村は、9年前、1996年、殺された。(今、2005年)2年前、前夫、佐伯が殺された。二つの事件とも今の一二三にアリバイがある。
 43歳の一二三は今、松山病院の経理事務の常磐田さんとつきあう。

   第6章 ルーツ:江真の祖父(プリオン研究者)がイアンを養子にした
 今の一二三が、江真を連れて、札幌の祖父に会いに行く。
 江真の祖父、田中里太郎は元相里大教授でプリオン研究の第1人者。アイルランドから父、イアンがやってきて祖父のもとで研究。研究を続けるためイアンが日本に滞在が出来るよう、祖父がイアンを養子とする。
 イアンが昔の一二三(看護師)と結婚。江真が産まれる。
 今、祖母は死に、祖父は目が悪い。(※今の一二三が昔の一二三と別の顔(別人)でも祖父にはわからない。)

   第7章 致死性不眠症:イアンの病気
    1 イアンは自分の発病を防ぐため来日
 イアンは致死性家族性不眠症だった。プリオンが原因の病気で遺伝する。イアンの父はこの病気で若くして死ぬ。江真の祖父、田中里太郎はこの病気の権威だった。
 イアンは自分の発病を防ぐため来日し、祖父の元で研究した。
    2 中国人少女レイカは13年前、宗一が好きだった
 13年前、アパートのとなりの部屋の中国人少女レイカ(※今の一二三)は、宗一が好きだった。
 今の一二三(※昔のレイカ)が、「常磐田と別れた」と宗一に言う。「何もかも気乗りがしなくなった」とのこと。

   第8章 遺伝子:江真の遺伝病
 江真は向井さん(※実は昔の一二三、江真の母)と大文字山に登る。
 江真が「お母さん(※実は今の一二三=レイカ)が常磐田さんと別れた」と向井さんに言う。
 また「お母さん(※今の一二三=レイカ)が『かわいそうな子!』と私を夜、さすって泣く」と伝える。(※今の一二三(=レイカ)は、江真の祖父、田中里太郎と会って、江真の遺伝病(=致死性不眠症)を知ったため。)

   第9章 真実 
    1 レイカを利用した5億円獲得計画:昔の一二三(=今の向井さん)
 昔の一二三は愛すべき正直なイアンを愛した。イアンは「産むな」といたが、一二三は江真を産んだ。まだイアンは元気だったし、遺伝病など大丈夫だと思ったから。しかし直に、イアンは致死性家族性不眠症で死んだ。
 一二三は死のうと思ったが江真のために生き残る。
 フランスのモンペリエの研究所が、致死性家族性不眠症のメカニズムの解明に成功したと、昔の一二三が知る。一二三はフランスに渡り、研究所から新薬の開発に5億円必要と伝えられる。
 昔の一二三は、江真を救うため5億円を獲得しなければならないと思う。
 これが、13年前、札幌で、宗一と昔の一二三が出会ったときの状況。
 昔の一二三は中国人レイカの存在を宗一から知り、レイカを利用した5億円獲得計画を立てる。

    2 レイカが今の一二三になる&昔の一二三が向井さんとなる
 ①宗一をレイカから引き離すため、宗一に昔の一二三が声をかけ同棲する。
 ②昔の一二三が、レイカが置かれた状況を知るためレイカと密かに会う。レイカは密入国者で借金返済のため中国マフィアの「蛇頭」から売春を強制させられている。
 レイカは逃げたいと思っている。
 ③一二三が江真とともに、レイカを連れ名古屋に飛行機で逃げる。
 レイカが今の一二三になる。レイカは一二三として病院に勤める(看護師)。江真は2歳だったので、レイカ(=今の一二三)を母と思う。
 昔の一二三は、名古屋に住み、たまたま病院に来た他人(向井)の保険証で住民登録票を写し、そこで原付免許を取り身分証明書を得る。住民票を戻し、保険証を病院に戻す。昔の一二三が向井さんとなる。
 ④計画の実行のため昔の一二三(=向井さん)とレイカ(=今の一二三)が京都に引っ越す。

    3 レイカ(=今の一二三)が誘惑し、向井さん(=昔の一二三)が殺害する
 ①レイカ(=今の一二三)は、借金の返済と中国の母親への仕送りのため、お金がほしい。
 昔の一二三(=向井さん)は、江真の致死性不眠症の発病を防ぐ新薬開発のため、5億円が必要。
 ②京都に移り計画が実行される。レイカ(=今の一二三)が前夫、佐伯と前々夫、植村を誘惑し、昔の一二三(=向井さん)が殺害する。レイカ(=今の一二三)には完全なアリバイがある。
 レイカはとうてい好きになれないような嫌な男なら、籍を入れた後、男が殺されても平気だと言う。植村は吝嗇な老人で周りからの嫌われ者。植村は京都中心部に50坪の家、駐車場、数軒のアパートを所有。
 佐伯はMR技師で幼女への性的虐待が好きな暗い独身者。レイカの懇請で、佐伯は1億円の保険に入る。
 殺人後、植村の財産相続、佐伯の保険金で大金が入る。それを昔の一二三(=向井さん)とレイカ(=今の一二三)で分ける。
 ③しかし5億円にはまだ足りない。
 昔の一二三(=向井さん)がレイカに3番目の目標へ取りかかるよう指示。レイカ(=今の一二三)が松山病院の経理事務の常磐田を誘惑。

    4 昔の一二三(=今の向井さん)の激怒
 ①計画は順調だった。ところが今の一二三(=レイカ)の前に宗一が現れる。レイカは昔から宗一が好きだった。レイカは殺人の共犯がいやになり、常磐田と別れてしまう。
 ②これを知って昔の一二三(=向井さん)が激怒する。
 昔の一二三(=向井さん)がメスを持って、宗一を殺すため、出かける。レイカとセックス後、寝ている宗一を襲う。しかし宗一に気づかれる。
 宗一は格闘する。宗一が勝ち、彼は、変わり果てた姿の昔の一二三(=今の向井さん)を知り驚く。昔の一二三は今、43歳で、肥って老け化粧もしていない
 ③「イアンが死んだとき、私はもう死んでいた。江真を助けるためだけに、私はながらえた。でももうおしまいだわ!」と昔の一二三(=向井さん)が言った。

   第10章 無償の愛:江真は、ついに向井さんが本当の母親と知らない
 結局、向井さん(=昔の一二三)は自殺した。手首をメスで切った。
 彼女が遺書で言う。「江真ちゃんと過ごせた時間が一番幸せだった。あなたの寝顔、とてもきれいです。」と。天使の眠り!
 江真は、ついに向井さんが本当の母親と知らない。でも向井さんを思い出し時々、泣く。
 レイカは駐車場とアパートを売り、全額をフランスの研究所に寄付。やがて致死性家族性不眠症の新薬が開発されるだろう。そうなれば江真は早死にしないですむ。
 レイカ(=今の一二三)は、13年前から好きだった宗一と一緒になる。

 《評者の感想》
   1
 自分の娘、江真を救うために殺人をして良いものだろうか?向井さん(=昔の一二三)は責任をとって自殺するほかなかった。
   2
 吝嗇で周りからの嫌われ者は殺されてよいのか?彼(植村)には、殺される理由が全くない。
 幼女への性的虐待が好きな暗い独身者は殺されてよいのか?幼女への性的虐待は厳しく罰せられるべきである。しかし彼(佐伯)が殺されてよいかは別問題である。
   3
 向井さん(=昔の一二三)が娘、江真を思う愛は崇高だと思う。ただ5億円獲得計画のための殺人は正当化されない。
   4
 レイカがこのあと宗一と幸福になれればいいと思う。ただしレイカには殺人の共犯の罪があるが情状酌量されるだろうか?またレイカは密入国者なので強制送還されるかもしれない。レイカは人道的に処されるべきだと思う。
   5
 江真は新薬で発病せず長生きし幸せになってほしい。

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『氷菓』米澤穂信(ヨネザワホノブ)(1978生)、2001年、角川文庫

2012-01-16 22:14:44 | Weblog
   1 神山高校古典部
 舞台は神山高校(神高)。高1の折木奉太郎(ホータロー)、千反田(チタンダ)える、福部里志、伊原摩耶花(イバラマヤカ)が登場する。
 ホータローの姉が折木供恵で昔、文芸部。ホータローも文芸部に入る。
 千反田が文芸部長。
 神山高校の文化祭はカンヤ祭と呼ばれる。古典部は文集を出す計画。

   2 「古典部にまつわる何か」
 千反田の伯父、関谷(セキタニ)純は33年前、1967年、古典部長で高2だった。
 千反田が幼稚園児だったとき、何でも答えてくれた伯父が、渋って答えてくれなかった「古典部にまつわる何か」があると、千反田が言う。
 伯父がようやく答えてくれた後、それを聞いて千反田が泣いた。
 千反田は、この時の事情がいったい何だったのか知りたくて、古典部に入った。

   3 文集『氷菓』第2号(1968年):前年、関谷古典部長の「偽りの英雄譚」事件
 ホータローたち4人は、まず古典部の文集のバックナンバーを探す。
 彼らは文集を発見する。文集の名前は『氷菓』。
 第2号(1968年)の「序」を、古典部長の郡山養子が書く。
 この「序」が、前年の1967年の古典部に関わる事件、つまり古典部の関谷先輩の「偽りの英雄譚」について述べる。
 『氷菓』の表紙の図柄は、犬と兎が噛み合い、他の多くの兎がそれを眺めているというもの。

   4 文化祭短縮への抗議闘争と勝利&関谷古典部長の退学処分:33年前(1967年)
 文芸部のホータローたち、4人が33年前(1967年)の古典部に関わる事件の謎解きをする。
 この年、4月、校長が平日5日間の神山高校の文化祭を、土日2日間に短縮すると発表。校長は勉学の重視を目指す。
 6月、生徒たちが抗議する。
 その時の生徒側代表が古典部長、関谷(セキタニ)純(千反田の伯父)。
 抗議の結果、文化祭は従来どおり5日間が維持される。
 彼は「英雄」となる。
 しかし10月カンヤ祭の終了後、退学処分。
 カンヤ祭とは「関谷(セキタニ)」祭の意。

   5 33年前(1967年)の真実:関谷古典部長が貧乏くじを引く
 しかしこの事件が「偽りの英雄譚」と呼ばれるのは何故か?
 その昔、幼稚園児の千反田が泣いたのは何故か?
 『氷菓』の「序」を書いた郡山養子は実は、現在の神高の司書、糸魚川養子先生。彼女は関谷先輩の事件があった翌年(1967年)の古典部長だった。
 糸魚川先生の話は以下の通り:
 関谷は望んで生徒の盾になったわけではない。当時、文化祭はまるで暴動みたいだった。学校側の文化祭短縮案に対し、生徒側が『6月闘争』。
 ところが処分をおそれた生徒たちは関谷古典部長に貧乏くじを引かせる。彼は名目のリーダー。
 そして授業ボイコットの夜、抗議集会のキャンプファイヤーで、誰かが格技場に放火。
 文化祭後、名目上のリーダー、関谷古典部長が退学処分を受ける。
 これは確かに、「偽りの英雄譚」!

   6 氷菓=アイスクリーム=“I scream.”
 『氷菓』の表紙の図柄で、噛み合う犬は学校側、兎は関谷純。周りで見ている兎は関谷に責任を負わせた他の生徒たち。
 古典部の文集の名称を『氷菓』と決めたのは関谷部長。退学を予感した彼が『氷菓』の名を望んだ。
 千反田はその昔、幼稚園児のとき、「『氷菓』って何?」と伯父の関谷に尋ねた。
 氷菓とは、アイスクリーム。
 氷菓=アイスクリーム=“I scream.”
 「弱かったら悲鳴も上げられずに死ぬ日が来る。僕は悲鳴を上げる。」と伯父が言った。
 幼稚園児だった千反田は「生きたまま死ぬんだ」と思い怖くて泣いた。
 関谷純の無念。

   7 伯父の墓参り
 千反田の伯父、関谷純は10年前、マレーシアにわたり、7年前から行方不明。7年経過すれば死亡宣告される。
 千反田は自分が知りたかった事情が分かり、伯父の墓参りに行く。

  《評者の感想》
   A いじめの物語?or関谷純の侠気?
 関谷純の「無念」とあるが、彼にとって「無念」だけだったのか?
 これはいじめの物語か?
 単なるいじめの物語だとしたら、悲しい話。
 関谷純に侠気もあったはずである。彼は名目であれリーダーを引き受けたから。
   B 高校退学後の関谷純の軌跡が知りたい
 高校退学後、彼は再び高校入学を目指すことができたはず。通信制や大検もあった。
 その後の関谷純の軌跡が知りたい。
   B-2 彼が本当に死んだわけではない
 何故、彼はマレーシアに渡ったのか。
 行方不明になって彼は何をしていたのか?
 日本で法的に死亡宣告されるとしても、彼が本当に死んだわけではない。彼は今、何をしているのか?

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