宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『メディア・バイアス、あやしい健康情報とニセ科学』松永和紀(1963生)、2007年、光文社新書

2010-07-24 10:54:19 | Weblog
 科学は白か黒かでなくグレーゾーンが多い。受け手が単純な話を喜ぶのでニセ健康情報はメディアと受け手の共犯関係。メディア・バイアスを正せ。
 Ⅰ 健康情報番組のウソ
 白インゲン豆ダイエット:デンプン分解阻害物質(タンパク質)あり。ファオセラミン。生豆は毒性タンパク質レクチンを含む。嘔吐・下痢。加熱するとファオセラミンは効果がなくなる。(タンパク質のため。)
 FDA(米国食品医薬品局)はファオセラミンにダイエット効果がないと警告。
 納豆ダイエット:ダイエット番組は視聴率がいい。科学的に効果がない。Ex. 納豆を食べてやせる実験でプラセボ(偽薬)効果あり。Cf. 納豆はイソフラボンが多い。
 みのもんた症候群:Ex. ココアはポリフェノール、食物繊維が多いが牛乳・砂糖をたくさん入れて飲めば健康によくない。
 レタスの快眠作用:普通のレタスでなくワイルドレタスに含まれるラクチュコ・ピクリン。快眠効果はネズミの実験で確認されず。
 
 Ⅱ 量の大小
 アルコールも体重1kgあたり5~8gで死ぬ。
 動物に食品添加物を大量に食べさせる急性毒性試験は一般化できない。現実の使用状況は微量だから。
 「一日摂取許容量」(ADI):複数種の動物について「無毒性量」(NOAEL、 一生涯にわたって摂取しても影響が出ない量)の100分の1。
 
 Ⅲ リスクとベネフィット:DDT問題、PCB
 DDT:レイチェル・カーソン『沈黙の春』が60年代、生物濃縮によるガン、肝臓障害の指摘で日本でも1971-72年に販売中止。
 しかし2006年、WHOがDDTの利用の推進を声明。マラリア予防のため。マラリアで毎年100万人超が死亡。蚊の駆除のため、家の壁にDDTをスプレーすべきと述べる。DDTの発がん性についても国際がん研究機関(IARC)は「ヒトへの発がん性を分類できない」とする。
 マラリアによる子どもの死亡を「レイチェル・カーソンの大虐殺」と扇情的に呼ぶ。
 リスクとベネフィットの比較考量が必要。
 PCB:1972年製造打ち切り。Not In My Back Yard(NIMBY)症候群のためPCB処理施設がなかなか出来ず。2004年、北九州市(1968年カネミ油症)で処理工場操業開始。
 
 Ⅳ フードファディズム:食物・栄養素の影響を過度・単純化して信じること
 「タマネギに糖尿病に効く成分がある」としても毎日50kg食べないといけない。
 糖尿病に効くと言われるシナモンをカプセルで大量に摂ると肝障害を起こす。
 紅茶のカテキンは、ミルクに含まれるカゼインと結合すると効かなくなる。
 β-カロテンは抗酸化物質で発ガン予防になるはずが、大量にサプリメントで摂取すると発ガン率上昇。
 
 Ⅴ 警鐘報道いろいろ
 食物繊維:極端に少ないと大腸ガン2~3倍。納豆定食がよい。
 1997年、環境ホルモン(内分泌攪乱物質)が問題化:1998年環境庁が65物質リストアップ。Ex. 多摩川のコイのメス化。
これは研究者が研究費を増やすため、また環境庁が省への昇格をめざすため危険を煽ったともいえる。2005年リストは廃止。コイのメス化は下水処理場が出す水に含まれる女性ホルモン(ピル)が原因

 Ⅵ 添加物バッシング
 バッシングで典型的なのは「三菱の車から火が出る」とのバッシング。2002年、三菱のトラックのタイヤがはずれ母子に当たる事件が起こる。しかも「リコール隠し」だった。その後、三菱車のバッシングが起こる。
 添加物バッシングは2006年に起こる。きっかけは安倍司『食品の裏側、みんな大好きな食品添加物』(2005年)にもとづく。(Cf. すでに1999年『買ってはいけない』で食品添加物批判あり。)
 サッカリンには発がん性は認められないと現在、認識されている。
 安倍氏は1日平均10gの添加物、年4kg摂取すると言うがそのうち7割は食品に初めからはいっている天然物。例えば肉の発色剤、硝酸塩は野菜に200倍も入っている(1kgあたり)。
 ソーセージなどの亜硝酸ナトリウムに発がん性がないとすでに証明済み。
 チャイニーズ・レストラン・シンドロームは嘘。たくさん含まれるグルタミン酸ナトリウムが頸部・腕のしびれ、脱力感、動悸を起こすというのは確認できない。
 2006年セブン・イレブンがハム、ソーセージからリン酸塩を追放。リン酸塩のリンはカルシウムの吸収を妨げ骨粗しょう症、キレル子どもを増やすという。これは企業のもうけ主義。魚、大豆に自然に含まれるリンのほうがはるかに多い。

 Ⅶ 自然志向の罠
 作物は体内で天然農薬を作る。無農薬栽培のリンゴには、化学合成農薬による慣行防除のリンゴよりもアレルゲンが多い。農薬を使えば植物自身が作る天然農薬減少。「リスクのトレードオフ」!
 有機質肥料(糞尿)や堆肥は大腸菌汚染が心配。
 有機食品は環境によいが、通常食品より安全で健康によいとの証拠はない。有機のおいしさは産直などで新しいため。
 ファイトケミカル(植物性化学物質)は天然農薬でサプリメントとして大量に取ってはいけない。Ex. 大豆イソフラボンorカテキン。
 大豆イソフラボンは骨粗しょう症予防、更年期障害軽減に役立つが大量に取ると健康被害。大量のカテキンも健康被害が心配。
 
 Ⅷ 「昔はよかった」は誤り
 現代の味噌はアメリカの産物。昔の玉みそは高い麹をほとんど使わずか塩からくてまずかった。麹みそは1948年からの生活改善普及員の成果である。「味噌などの大豆製品を多く食べ、健康に生きる日本人」はアメリカの作品。
 昔、日本人は野菜不足で短命だった。昔は高塩分で脳卒中、胃がんが多い。塩辛く味付けした少量のおかずと漬物で大飯を喰らった。
 アレルギー疾患増加は化学物質が増えたためとはいえない。清潔化が原因:衛生仮説。Ex. BCGで結核菌に感染するとアレルギーの発症が低下する。
 
 Ⅸ ニセ科学
 マイナスイオン(滝の近く、森林に多い)が疲労回復、ストレス解消にいいと言うのは根拠がない。商品紹介、観光地PRに役立つだけ。
 “水からの伝言”はニセ科学。「ありがとう」のラベルを貼った水からはシャーレに美しい結晶がシャーレにでき「バカヤロウ」のラベルの水からはバラバラの結晶。言葉の波動が水に伝わるという。
 人間の78%が水。だから「ありがとう」の言葉でよい人となろうと道徳の授業。

 Ⅹ ウソつき科学者をマスメディアが見破れず
 2006年遺伝子組み換え大豆が問題になる。遺伝子組み換えの生大豆をすりつぶして子ラットに与えたところ6割が死んだという。ところが生大豆には毒性物質がありそのために子ラットが死んだと推定できる。
 1996年から米国などで遺伝子組み換え大豆を本格的に栽培。
 厚労省・農水省は対応が遅いかないに等しい。

 ⅩⅠ 政治経済に翻弄される科学
 バイオ燃料ブームの原因:①米国のエネルギー・セキュリティのためブッシュ大統領が中東からの石油輸入量削減目指す。②価格低下に苦しむトウモロコシ農家の救済。実際、トウモロコシさらに大豆が価格上昇。農家潤う。③地球環境問題での米国の地位高まる。④しかも石油産業の地位をバイオエタノールが脅かすことはない。米国のすべてのトウモロコシをエタノールにしてもガソリン需要の12%。
 日本はセルロース系が多くエタノール化が難しい。間伐材、廃木材、麦わらなど。しかし粒からのエタノール生産はつなぎの技術。本命はセルロース。ブレークスルー技術が必要。
 トランス脂肪酸問題も国家間のせめぎあい:植物油に水素を添加して固形化(マーガリン化)するとトランス脂肪酸を含む。悪玉コレステロールを増やす。①天然バターにはトランス脂肪酸が少なくデンマークに有利。②パーマ油は常温で固形化しインドネシア、マレーシアに有利。

 ⅩⅡ 科学報道のウソを見破る
 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部主任研究官、畝山智香子氏の食品安全情報ブログは役立つ。
 インド産ペプシ、コカ・コーラの水の農薬汚染情報は環境NGOのウソ。


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『中南米が日本を追い抜く日:三菱商事駐在員の目』構成・石田博士(1970生)、2008年、朝日新書

2010-07-19 11:23:14 | Weblog
 1908年、笠戸丸の781人が日本人のブラジル移住の最初。ブラジルの日系人140万人の経済的貢献。サンパウロ州に多い。中南米には日系人150万人。ブラジル以外に10万人。
 中南米の1980年代は「失われた10年」。ハイパーインフレに苦しむ。日本と中南米の関係は、日本のバブル崩壊と「失われた10年」もあり、以後20年近く疎遠となる。
 今世紀に入り中南米は新興国として発展。パナマ運河拡幅プロジェクトも2014年完成。
 
 Ⅰ 世界の食料庫:中南米
 Ⅰ-1 ブラジル:生産量 コーヒー1位、大豆2位、牛肉2位、鶏肉3位
 ブラジルは民族対立、宗教対立なくテロがない。「世界の台所」がブラジル、「世界の胃袋」が中国、インド。
 世界の真水の20%がブラジルにある。農業に有利。地球の水のうち海水97%、真水は3%。耕作可能地に余力があり熱帯雨林を伐採する必要はない。アフリカは砂漠化、オーストラリアは旱魃・労働力不足の問題がある。
 コーヒーはブラジルが世界の40%を生産。世界2位のベトナムの2倍。
 ブラジルの鶏肉輸出量は世界1.安いコーン、大豆粕が飼料。
 
 Ⅰ-2 チリ:ワイン、養殖サーモン
 美しいものが少しずつ余ったので神はそれでチリを造ったという。
 輸出産業のワインは高級化をめざす。アルゼンチンに進出するチリのメーカーもある。アルゼンチンは2002経済破綻後のペソ安でアルゼンチン産ワインの輸出伸ばす。
 チリの養殖サーモンが、日本のサーモン全輸入量の6割を占める。

 Ⅰ-3 アルゼンチンと日本の非関税障壁
 アルゼンチンは1990年代、新自由主義路線で外資導入、経済発展。ころが2001年、政情不安でマネー流出。ペソ暴落。対外債務デフォルト。2002年GDP-10.9%。
 アルゼンチンからの輸出品が安くなるが日本が買ってくれない。Ex. アルゼンチンの大豆はたんぱく質が少ない。飼料に向かないと売れない。

 Ⅰ-4 パナマ運河拡幅は未来を開く
 1914年完成のパナマ運河建設にかつて日本人技師が参加し尊敬される。パナマ運河通過貨物量ではアジア(中・日・韓)と米国東海岸を結ぶ航路が全体の4割強を占める。運河拡幅プロジェクトは2008年入札、2014年完成。
 パナマ運河はインフラ(港湾、鉄道、道路)の一環。

 Ⅱ 資源・エネルギーの宝庫:中南米
 Ⅱ-1 中南米のアジア・シフト
 中南米は資源・エネルギーの宝庫。鉄鉱石、銅、金、天然ガス、レアメタル。
 21世紀、中・印が資源大消費国となり中南米から輸出。中南米はアジア・シフトの時代。
 生産量はチリ・ペルー・メキシコで世界の銅44.7%、銀38.5%、モリブデン(合金の強度を増す)34.2%を占める。リチウムはチリ・アルゼンチン・ブラジルで世界の48.3%。
 ブラジルの大豆の輸出先は中国が1位。1990年代には中国はトップ10にも入らず。

 Ⅱ-2 ブラジルのバイオエタノール
 転機の1973年。ブラジルはオイルショック後、食料危機対策で不毛のセラード地域を日本の協力で大豆畑にする。
 燃料自給のためカーボン・ニュートラルなバイオエタノール(原料はサトウキビ)生産へ。現在、サンパウロではエタノールはガソリンの半値。ブラジルではフレックス燃料車(FFV)が新車販売の85%、全登録台数の17%を占める。
 サトウキビはサンパウロ州が中心。サトウキビの半分は砂糖、半分はバイオエタノールで燃料または飲料となる。
 京都議定書実施の2008-2012年でバイオエタノールが現実的と注目される。ただし燃料vs食料争奪戦の問題がある。
 海底油田もブラジルは1973年から開発し、2006年石油100%自給達成。
 
 Ⅱ-3 水素社会とアルゼンチン
 アルゼンチン南部の寒冷で風が強いパタゴニアで風力発電と水電解により水素製造。化石燃料への第1次エネルギー革命にたいし、水素への転換が第2次エネルギー革命である。

 Ⅲ 治安改善のコロンビア、内戦から復活のペルー
 Ⅲ-1 目覚める大国、コロンビア
 コロンビア:面積はブラジル、アルゼンチン、ペルーにつぎ4位。人口はブラジルに次ぎ2位で4400万人。
 1970年代はメディジン・カルテル、1990年代はカリ・カルテル。2002年ウリベ大統領が軍・警察力強化。治安情勢が劇的に改善する。2006年再選。
 2007年コロンビア革命軍(FARC)が4年間人質にしていた県会議員11人殺害。100万人が抗議デモ。
 治安状況改善・外国投資支援のもと経済も活性化しつつある。2007年日本コロンビア経済委員会発足。
 
 Ⅲ-2 内戦から復活を遂げたペルー 
 80年代ペルーは毎日、自動車爆弾とハイパー・インフレ。物価統制と資源国有化で物資不足とハイパーインフレが生じた。センデロ・ルミノソ(輝く道)とトゥパク・アマル革命運動(1997-98日本大使公邸占拠事件)を1990年就任のフジモリ大統領が鎮圧。
 2004年には「テロの時代」すでに終焉。90年代のフジモリ政権から30年の開放経済路線。民営化と外資導入。
 2005年フジモリ元大統領、大統領選(2006)出馬めざしチリに入るが軟禁。2006年ガルシア大統領になり日本・ペルー関係改善。

 Ⅳ ブラジルの先端産業
 伯エンブラエル社はエアバス、ボーイングに次ぐ世界3位の航空機メーカー。その技術者は航空技術大学(ITA)の卒業生。ITA卒業生の1割が日系人。(日系人は人口の1%未満。)
 ブラジルのITシステム・インフラは高度に発達。1990年代後半以降、ブラジルは情報化大国となる。1980年代のハイパー・インフレがリアルタイムの処理システムを要求。銀行のIT化。銀行のカードなどの高いセキュリティ。
 2006年大統領選は電子投票システムだった。
 ソフトウェア産業が保護政策の下で発展。Ex. 経営ソフトなど。優秀な日系ブラジル人IT技術者。ハードではなくITソフトウェア・サービスがブラジルIT産業が生き残る道。
 インフラの不備。Ex. 港の能力限界、電話回線を申し込んだが開設まで数ヶ月、鉄道のネットワークがお粗末。
 中南米は新自由主義改革から一転して格差是正をめざす左派政権の広がり。
 

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『「七人の侍」と現代―黒澤明再考』四方田(ヨモタ)犬彦(1953生)、2010年、岩波新書

2010-07-13 09:26:02 | Weblog
 16世紀、日本の多くの農村は武装していた。『七人の侍』の農民・侍・野伏(ノフセ)を対立させる設定は誤りである。
 『七人の侍』は1954年に公開される。自衛隊発足の年である。
 1998年、黒澤明死去。
 彼には日系人にアメリカ人として原爆を謝罪させるという歴史認識の欠如あり。
 『乱』(リア王がモデル)は抽象的。
 『七人の侍』の侍の物語はコソボのセルビア人にはいつでも起きることである。周りは多数派のアルバニア人。
 キューバではアメリカという野伏(ノフセ)の脅威があり黒澤が必要。
 
 
 Ⅰ 映画ジャンルと化した『七人の侍』
 『七人の侍』は映画の1ジャンルであり多くのリメイク、パスティッシュ(模倣)がある。
 原型①ロード・ムーヴィー:仲悪く喧嘩ばかりしているが最後に恋人となる『ある夜の出来事』のような形式。いずこかへの旅の途中で起こるさまざまな出来事が映画作品の物語となっているもの。
 原型②グランドホテル形式:数多くの人たちが集まり思わぬ予期せぬ人間模様が生まれる。
 原型③悪を退治し去っていくヒーロー。Ex.『シェーン』
 原型④助っ人たちが共同体を守るという『七人の侍』ジャンル。Ex.1『荒野の7人』としてリメイク(1960年)。原作使用料を払う。Ex.2『ラガーン』:インドのクリケットの話。無力な者たちが共同体を統合しナショナリズムのもと目標を実現。Ex.3『サムライ7』:日本アニメ。『七人の侍』のパスティッシュ。しかしナショナリズムはない。
 
 
 Ⅱ 『七人の侍』公開の1954年
 復員兵、引揚者が食い詰めた浪人たちのイメージである。引揚者は馬賊、ソ連の囚人部隊に襲われた。
 1954年は自衛隊発足の年、ソ連への恐怖、国防問題の時代。
 民間情報教育局(CIE)による封建主義、仇討、暴力の禁止。1952年、占領終了でチャンバラ復活。『七人の侍』の製作可能となる。
 1946年の東宝争議が戦争責任について懺悔と追及。組合が勝利。スターたちは離れ新東宝を結成。
 東宝がタカ派に転じ1948年共産党員を大量解雇。1950年GHQがレッドパージ令。1952年共産党が山村工作隊・武装闘争路線。
 『七人の侍』は東宝で制作するが旧知の大スターはいない。三船敏郎がニューフェース。
 七人の侍は満州国建国を目指した県参事官たち、農民は中国の農民との解釈がある。
 
 
 Ⅲ 時代劇史と『七人の侍』
 構想1:武士の名誉の究極の自己表現としての切腹を描きたい。
 構想2:『本朝武芸小伝』(1711-16正徳年間)はクライマックスのみで起承転結がない。
 構想3:侍に飯を食わせる村という話に飛びつく。
 『七人の侍』は5本から7本の映画を制作できるだけの金額がかかる。
 1954年に公開された『七人の侍』は大ヒットする。
 『七人の侍』は時代劇の大胆な革命といわれる。
 映画は歌舞伎の模倣として始まりこれが旧劇である。近代化された日本を描く演劇が新派でこれも映画化される。1912年成立の日活は京都で旧劇、東京で新派を撮影。
 1920年代、旧劇が講談本・浪曲を取り入れ時代劇となる。そして時代劇はハリウッドの西部劇から影響を受ける。1930年代、時代劇の黄金時代。時代劇と言いながらも現代人の心を描いたので「丁髷をつけた現代劇」と呼ばれる。
 1930年代後半、日本の歴史を厳粛に描く「歴史劇」映画が製作される。
 敗戦後、民間情報教育局(CIE)の検閲で時代劇は実質、禁止。1952年の独立後、空前の時代劇ブーム。Ex. 新興の東映が満州からの引揚者により設立される。
 黒澤作品、1952年『荒木又右衛門、決闘鍵屋の辻』は「リアリズム時代劇」だが、だらしないチャンバラで興行的に不成功。
 リアリズムが『七人の侍』に引き継がれる。武術家の指導を仰ぐ。例えば菊千代が「1本の刀じゃ5人と斬れねえ」と言う。
 しかし1961-62年になると黒澤はグロテスクを見世物とする新しい殺陣に移行。
 
 
 Ⅳ 侍・百姓・野伏
 侍は6人。指導者勘兵衛、若い勝四郎などホモ・ソーシャビリティの世界。菊千代は偽サムライ。
 百姓は難民、村は難民キャンプ。頑迷、狭量、卑屈、狂暴。落ち武者狩り。深沢七郎の世界。侍と野伏に違いはない。
 Cf. 1982年レバノン、パレスチナ・キャンプ大虐殺。
 菊千代は百姓の出自。偽家系図で菊千代は13歳。マッカーサーから日本人は12歳と言われトラウマ。
 パッシング(やり過ごし)文学:白人・黒人のハーフで白人に見える者が自分を隠す苦悩。マラーノ文学:キリスト教徒に改宗したユダヤ人の文学。菊千代は浮浪児。
 1954年、『ゴジラ』は反核映画。
 
 
 Ⅴ 野伏:敵とは何か
 頭目以外、野伏に個別性が描かれない。敵の表象の貧しさ、不在。
 『七人の侍』は1587年の設定。1588年刀狩令。武装する百姓が真実。野伏と浪人は同じもの。
 山賊も百姓と同じ弱者である。Ex. 中国なら両者にとって敵は官軍。敵もまた人間であるという認識の黒沢における欠如。戦争映画と共通。
 
 
 Ⅵ 『七人の侍』の評価
『七人の侍』で黒澤は戦闘における合理主義を描く。精神主義の否定。
 戦闘は侍と侍(野伏)の同士討ち。百姓の勝利。戦いが終われば侍は無意味。
 悪辣な農民と善良な農民の分裂の問題。知識人としての侍のヴ・ナロードの敗北。
 自民党が『七人の侍』(1954年)を再軍備肯定の映画として高く評価。1954年、自衛隊発足。Cf. 『ローマの休日』と同時公開。
 ハリウッドの西部劇に敢然と挑戦と『七人の侍』を東宝は宣伝。西部劇の日本化。
 『七人の侍』には悲痛・虚無的・暗鬱との批判がある。
 『七人の侍』はスペインでのナポレオンへの抵抗、紅軍の抗日戦に比すべき農民のレジスタンス映画とも評価できる。

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