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宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『奇談蒐集家』太田忠司(オオタタダシ)(1959生)、2008年、創元推理文庫

2013-02-28 21:32:37 | Weblog
1 「自分の影に刺された男」
  A
 仁藤晴樹(ニトウハルキ)が、「自分の影に刺された」と言う。
 奇談蒐集家・恵美酒一(エビスハジメ)の所に、仁藤が、「求む奇談!」との新聞広告を見て、やってきた。
 恵美酒の助手が、氷坂(ヒサカ)。彼は合理主義者で、奇談を信じない。
  B
(1) 仁藤は、今、市教委学校保健課に勤める公務員。
(1)-2 彼は、大学生の頃、影に怯えた。夜、通る公園に、光源が複数あり、複数の影ができる。いつも、7つの影ができた。ところがある時から、彼は8つ目の影を発見する。影の中にまぎれた何か分からない存在、“あいつ”を感じる。突然、ある夜、影・“あいつ”が自分に襲い掛かる。仁藤は絶叫し倒れ、意識を失った。以後、彼は、夜を避ける。
(2) その後、仁藤は大学を卒業。公務員となり結婚。娘が、誕生。影のことを忘れる。
(3) ところが最近、複数の影の中に、一つ余計な変な影があると再び、仁藤は気付く。彼は、このことが常に気になり仕事中もイライラし、後輩に対し、怒鳴ったりつらく当たる。最近、夜、複数の自分の影があったとき、突然、余計な影が一つ現れ、彼に襲い掛かり、背中を刺した。
(4) 「影の中に住む化け物によって、刺された」と、仁藤が言う。しかし警察も、妻も信じない。
  C
 奇談蒐集家・恵美酒が、仁藤の話を聞き、「都合がいい自分・ペルソナのもとで、人は日常生活を生きる。これに対し、影とは、抑圧された無意識のシャドー、つまり都合の悪い自分だ」と述べる。
 そして、「心理世界でのペルソナとシャドーの対立が、現実世界を侵食した。抑圧されたシャドーの反乱。無意識のイドの怪物が、身体にもたらした外傷!」と、恵美酒は、仁藤の話を、奇談と断定する。
  D
 氷坂(ヒサカ)は、奇談を認めない。
 仁藤は、「鈍感・不注意」で、また影にまぎれた無気味な存在について、勝手な「思い込み」に囚われた。
 8つ目の影は、光源が一つ、増えただけである。仁藤は、「鈍感・不注意」&「思い込み」のため、新たな光源に気付かなかった。
 仁藤の背中を、刃物で刺したのは、おそらく、仁藤に日頃つらく当たられ、彼を恨む後輩が、仁藤の「思い込み」につけいり、日頃の鬱憤を晴らしたのだ。
 以上が、氷坂の推論である。
  《評者の感想》
 昔の星新一のショート・ショートを思い出す。
 「自分の影に刺された男」について言えば、恵美酒の解釈が正しいか、氷坂の解釈が正しいかは、医学的、検察的見地から、正誤を決定できるはず。
 証拠品の刃物、血のついた後輩の衣類の発見、刃物と傷の形状の一致、後輩のアリバイの証明不能などがあれば、氷坂が正しい。
 しかし刃物、衣類が発見されず、後輩にアリバイがあれば、恵美酒が、正しい。仁藤は、まさしく、「自分の影に刺された男」となる。これは奇談!

2 「古道具屋の姫君」
  A
(1) 今、大学教授で国文学を教える矢来和生(ヤライカズオ)の奇談。
(1)-2 その昔、彼がまだ大学生の頃、ある日、骨董店(古道具屋)の前を通る。店の中央の空白部分に、錦の羽織を着た姫君が出現。矢来が、姫君に一目惚れ。姫君も、彼を見つめる。
(1)-3 矢来が、ガラス戸を開け、骨董店の中に入ると、姫君が消える。
(1)-4 店の主人が登場。店の奥に姿見(鏡)がある。「その昔、妾にされそうになった武家の姫君が自害した。姿見は、その姫君の所有物。鏡に姫の霊が乗り移り、姿を現す!」と主人が言う。
(2)  矢来は、金がないのに、姿見を買う。生活費1ヵ月分の仕送りを、そのために支払う。下宿していた離れの部屋に、姿見が運ばれる。骨董店の主人が、酒2合を持参。
(3) 姫君は現れない。矢来は、酒を飲んで寝てしまう。
(3)-2 ところが夜中、目覚めると、枕元に姫君がいる。矢来は、金縛りで動けない。「あなたを愛している。あなたが私を愛してくれるなら、眼を2度閉じてほしい!」と姫君が言う。彼は、眼を2度閉じる。
(3)-3 姫君が、「今のままでは、あなたと一緒になれない。いつか、姿を変えてこの世界に現れます」と言う。そして、彼に口づけする。彼は、再び寝てしまう。
(3)-4 翌朝、矢来が眼をさますと、彼の首に姫君の帯紐が残っていた。
  B
(1) この世とあの世を結ぶ想いの崇高さを、大学生の矢来は思った。彼は自然主義文学から、幻想文学へ関心を移す。
(2) その後、古道具屋は、火事で燃え、主人は死ぬ。古道具屋の主人は、高利貸しもやっていて、恨みをかっていた。
  C
(1) その後、何事も起きないまま、矢来は大学を卒業。研鑽の結果、数年後、彼は大学の講師となる。その講義の時、姫君に生き写しの女子学生が現れる。彼女は、熱心に聴講し、直に、二人は親密となる。
(1)-2 彼女は、両親が亡くなり、今、水商売で働き、大学に通う。
(1)-3 矢来は、その女子学生と結婚する。
(2) 「奇談だ!」「転生結婚の話だ!」と恵美酒(エビス)が喜ぶ。
  D
 恵美酒の助手の氷坂(ヒサカ)の合理主義的な反論。
(1) 転生は、赤ん坊として生まれるので、数年では転生した姫君が、大学生になれない。
(2) 姫君は実は、借金のかたに、高利貸しを兼ねる骨董店の主人に、囲われていた女性。彼女はコスプレで、姫君の姿をさせられていた。
(3)  矢来が骨董店に来た時、彼女の姿が、鏡に映っていた。軟禁された彼女は、別室にいて、もうひとつの鏡と組み合わせて、外を見ていた。
(3)-2 矢来に気づかれたので、彼女は隠れた。また、主人は、彼女を発見され、あわてて「その昔、妾にされそうになった武家の姫君」の話を創作して、矢来に話した。
(4) 「鏡を買った矢来が、『姫君が現れない!』と、怒鳴り込んできたら、どうする?」と彼女が、主人に言う。「私が、彼を殺してやる!」と彼女が提案する。主人は、彼女の計画に協力。
(4)-2 実は、彼女には、別の目論見があった。彼女は、あの日、矢来に一目惚れしていた。彼女は自由になって、彼と結婚したかった。
(4)-3 姿見を搬入の日、主人が酒に眠り薬を仕込み、矢来に渡す。眠った矢来の所に、夜中、姫君に扮装した彼女が現れる。彼女は、彼の首を帯紐で絞めるふりをして、彼女を監視している主人をだます。
(5) 骨董店に放火し、彼女は、主人を焼き殺す。密かに囲われて居たので、彼女は、死体がなくても疑われない。そもそも、彼女はいないことになっているから、放火犯として疑われることもない。
(6) 数年後、彼女は、大学講師となった矢来のもとに、現れる。そして計画通り結婚した。
  E
 氷坂(ヒサカ)に謎解きされた矢来は、呆然とする。恵美酒(エビス)は「奇談でない!」「転生結婚譚でない!」とがっかりする。
  《評者の感想》
 矢来に惚れた女の執念が、すさまじい。この執念こそ「奇談」に値する。「転生結婚譚」ではないが、「奇談」である。恵美酒は、がっかりしなくていいと思う。
 筋立てに、二つ疑問がある。① 放火して主人を焼殺できるぐらいなら、彼女が、軟禁されていたとき、なぜ逃げられないのか、おかしい。② 顧客から「姫君が現れない!」と怒鳴り込まれた時の対策のため、顧客を殺す骨董店主は、いない。
 「骨董店主に、彼女が軟禁されていて、店主を焼殺し、逃げる」との設定を、なくせば、疑問は解決する。
 男に惚れた女が、男を手に入れるための手管として、「妾にされそうになった武家の姫君」の架空の話を、男に信じ込ませたという筋立てだけなら、納得できる。

3 「不器用な魔術師」
  A
(1) 紫島美智(シジマミチ)は有名なシャンソン歌手。30年位前、彼女が20歳代、パリでシャンソン修行。しかしうまくいかない。恋人のギタリストと別れた直後、気落ちしているとき、一人の手品師志望の青年と会う。名は、パトリス。彼は優しく、美智はやがて親しくなる。
(1)-2 当時、美智は、安いアパルトマン住まいだった。隣室に、気むずかしい老婦人が暮らす。老婦人は大金持ちだが、ひどい吝嗇で、安いアパルトマンに独り住む。また老婦人は疑い深く、玄関の鍵を何重にもかけ、誰も中に入れない。
(2) パトリスは、「自分は超能力が在り、それを隠すため、手品師になるのだ」と言う。パトリスは手から花を出して見せ、紫島美智に、超能力を証明する。しかし彼は、不器用で、手品が上達しない。
(2)-2 紫島美智が、「祖母の形見の指輪を、落とした!」とパトリスに相談する。すると彼は、美智の指に触れ、落とした店を告げ、「そこに取りに行けば、指輪はある」と言う。実際、美智がそこに行くと、店の主人が、落とし物だと、美智に指輪を渡した。
(2)-3 また、ある日、パトリスが、カフェの常連の老人に、「今夜は、出かけない方がいい!」と言う。それを無視して、老人が出かけると、老人は強盗に会い、大けがをする。
(3) やがて、大晦日の前日、パトリスが美智に言う。「明日の夜、アパルトマンに居てはいけない!」と。彼は理由を言わない。怖くなった美智が、「その夜、一緒に居てほしい」とパトリスに頼む。美智はアパルトマンに帰らず、外で一晩、彼とともに飲み&踊り過ごす。
(3)-2 その後、「私の超能力を知った人と、もう、一緒に居られない」とパトリスは、たち去る。
(3)-3 翌朝、美智は、アパルトマンが焼け、隣室の老婦人が死んだことを知る。美智の部屋も、焼けてしまった。
(4) パトリスの超能力、この場合は、予知能力で、紫島美智は助かった。
(5) ただ、後に、老婦人は射殺されたと警察の調べで分かる。射殺後、部屋が放火された。
  B
 恵美酒(エビス)は「これは奇談だ!」と喜ぶ。しかし氷坂(ヒサカ)は「奇談でない!」と言う。
(1) パトリスは、おそらく遺産がらみで、美智の隣室の老婦人を、殺す計画を立てた。共犯がいる。パトリスが、紫島美智に近づく。そして共犯が、老婦人を射殺。
(1)-2 老婦人が玄関に何重にも鍵を掛けているので、玄関からは入れない。隣室の美智を不在にすれば、美智の部屋に忍び込み、そのベランダから隣室に侵入可能。大晦日なので、街はにぎやかで、射殺の銃声に気づかない。
(2) パトリスは、予知能力など持たない。美智をだますためのトリック。①「手から花を出した」のは、ただの手品。②指輪は、おそらくパトリス自身が、美智から盗み、店の主人に金を握らせ、演技させた。③カフェの老人の強盗事件は、実は、パトリスor共犯が、老人を襲った。予知能力とは無縁。
(3) 計画通り、パトリスと共犯は老婦人を殺し、遺産を手に入れた。パトリスは姿を消した。
  《評者の感想》
 「パトリスが、遺産がらみで、美智の隣室の老婦人を殺す計画を立てた」。この計画が事実かどうかが、このストーリーが「奇談」か「奇談でない」かを、分ける前提。
 ところが、事実かどうかが、ここまでの議論では証明できない。
 計画が事実なら、氷坂(ヒサカ)の言うとおり、「奇談でない」。
 計画が事実でなければ、恵美酒(エビス)の言うとおり、超能力をめぐる「奇談」である。

4 「水色の魔人」
   A
(1) 草間は、妻と離婚。妻は、娘を連れ、草間の古い知人と再婚。小学校6年の時の話。
(2) 草間が小学校6年の時の「水色の魔人」の話をしに、恵美酒のもとにやって来る。
(2)-2 草間には、小6当時、西紀智也(ニッキ)と光永達志(タッシ)の二人の友達がいた。ニッキは本をよく読み、頭が良い。タッシは太っていて頭は良くない。草間とニッキで少年探偵団ごっこを始める。タッシも「入れてほしい」と言うので、気が進まないが「助手ならいい」ということで、加える。タッシは喜ぶ。
(3) そのころ小3女子、小4女子の小学生失踪事件が起こる。犯人は、水色の雨合羽を着ているとのうわさ。少年探偵団の3人は、この「水色の魔人」をつかまえようとする。
(3)-2 製材工場で働く20歳少し前のニッキのお兄さんが、「がんばれ!」と応援してくれる。ニッキは、この兄を信頼していた。
(3)-3 草間の学校の小4の女子も失踪する。
(4) ある日、ついに「水色の魔人」を発見。追いかけると、物置小屋に逃げ込む。ニッキとタッシが追いかける。「水色の魔人」が、「現れて、消えた!」と二人が言う。草間も行く。物置に隠された、自分たちの小学校の小4の女子の死体が見つかる。
(4)-2 警察が、その後、物置からさらに2人の女子小学生の遺体を発見。
  B
(1) この話を聞いて、恵美酒は、「奇談だ!」と言う。
(2) 氷坂(ヒサカ)が、そうではないと反論。「水色の魔人」が、「現れて、消えた!」という「ニッキとタッシの証言」は嘘だと言う。魔人は物置に隠れていたにすぎない。
(2)-2 「水色の魔人」、小学生誘拐殺人犯は、ニッキの兄だった。兄をかばって、ニッキは「現れて、消えた!」と偽証。タッシは、仲間はずれにされるのがこわくて、偽証に協力。
(2)-3 ニッキとタッシは警察の取り調べにも、偽証を貫き通した。
(3) 草間は驚愕する。なぜなら、草間の前妻が再婚した相手は、ニッキの兄だったから。
  《評者の感想》
(1) 氷坂(ヒサカ)の推論は、「『水色の魔人』が消えることは、あり得ない」という前提から、始まる。
(2) とすれば「ニッキとタッシの証言」は嘘である。「水色の魔人」は、物置に隠れる以外ない。
(3) では、なぜ、ニッキとタッシは、嘘をついたか?氷坂は考える。「賢いニッキが嘘をつくのは、ニッキが、最も信頼する人をかばう場合だ」と。かくて「水色の魔人」はニッキの兄と結論される。
(4) 気が弱いタッシは、「仲間はずれ」がこわくて、偽証に協力した。
(5) 評者には、「小6の少年ニッキが、兄の殺人、しかも3人もの殺害を知って、黙ってい続ける、しかもその後、何もなかったかのように、何年も兄と一緒に暮らす」など、不可能だと、思われるが、どうだろうか?
(5)-2 タッシについても、「少女3人の連続殺人犯を、かばい続ける」ことが可能と思えないが、どうだろうか?

5 「冬薔薇(フユソウビ)の館」
  A
(1) 鈴木智子は大学に行かず、見合いで結婚。小4の息子がいる。その昔、高2の時の話。ある冬の日、通学途中の知らないバス停で、降りて歩いた。大きな洋館があった。
(1)-2 表札に「東寺(トウジ)」とある。館の木の枝を伐っている使用人がいて、「中を見ていい!」と言う。智子が館に入る。館の裏側は広大な冬バラ園。主人の東寺光清が庭を案内してくれる。彼は、バラ園に相応しい高貴な服装と振る舞い。「また来てくれませんか?ただ、誰にも言わないように!」と智子に言う。
  A-2
(2) 当時、鈴木智子は、父が3年前に死に、母親と二人暮らし。しかし母を嫌いだった。
(2)-2 智子は何度も、館を訪れる。贅沢な生活。
(2)-3 館の中はお城のよう。ピンクの豪華なドレスがある。光清様が、「着てみなさい!」と言う。智子にぴったりのドレス。二人はバラ園を散歩する。その帰り、「母親を捨てて、この館で、光清様と一緒に住む気はないか?」と、あの使用人が尋ねる。「光清様も、それを望んでいる!」、「バラたちも求めている!」と使用人が言う。
(2)-4 「家に一度、もどらないと!」と私。「今日のうちに、もどってくるように!」と使用人。私は、家を出る用意をして、すぐ館にもどり、光清様と住むつもりだった。
(3) ところが、「母親が、仕事の帰り、交通事故にあった」と警察からの連絡。智子は館に、その日のうちに、もどれない。それどころか、半月が経ってしまう。
  A-3
(4) 半月後、智子が館にもどると、「もう遅い!」と、使用人が言った。光清様は、あのピンクのドレスを着た別の女の人とバラ園を、歩いていた。「いずれ二人はバラになる!」と使用人が言った。
  B
(5)  鈴木智子は、その後、母親との仲が修復される。智子は、大学に進学せず就職。24歳で結婚し、今、小4の息子がいる。
(6) その後、智子は故郷を離れるが、母の葬式のため、5年前、帰郷する。その時、智子は29歳。館を彼女は、再訪する。表札は「東寺(トウジ)」と昔のまま。使用人も同じだった。
(6)-2 館を見せてもらうと、広いバラ園に、20歳代の男女が歩く。しかし男、つまり館の主人は光清様ではない。「表札が変わっていないのに、なぜ光清様でないのか?」と智子は疑う。あれから12年だから、その男性が、光清様の子供でありえない。
  C
(1) 話を聞いて、恵美酒が言う。「奇談だ!」「表札が変わらず、同じ光清様なのに、今は別人。」「12年前の、光清は館に住み着いた幽霊かもしれない」と。
(2)  氷坂(ヒサカ)が、反論する。① 館の表札が「東寺(トウジ)」と同一なのは、実は使用人と思われた者が、館の主人であるため。② 光清様の方が、館の主人に採用された使用人である。館の主人の興味の中心は、冬薔薇(フユソウビ)。バラに相応しい、若い男、さらに若い女を、バラのために揃える。彼らが若くなくなれば、彼らを殺しバラの肥料とする。③ 鈴木智子が見たのは、2代目の光清様と、その相手の女性!
 《評者の感想》
 氷坂(ヒサカ)の反論は問題がある。①バラ園を歩いていた20代の男性は、光清様の親戚かもしれない。そして光清様は館を離れた。そうであれば、表札は「東寺(トウジ)」と昔のままである。この可能性が最もありうる。② 使用人と思われた木を伐る者が、実は館の主人であるとの想定は、根拠がない。③ 光清様が、雇われた使用人であるとの想定も、根拠がない。その時、光清様本人が居たが 今は館を離れただけでありうる。④ 光清様が、雇われた使用人であるとしても、彼を殺して、バラの肥料にするとは、有り得ない想定。彼を解雇し、別の若い光清様を、新たな使用人として雇えばいい。
 むしろ、氷坂の反論が、「奇談」である。

6 「金眼銀眼邪眼」
  A
(1) 田坂大樹(タサカダイキ)、11歳(小5)が、恵美酒に「奇談」を話しにやってくる。(大樹はクウソウ癖がある。)山崎テルオ先生が、新聞の「奇談」蒐集広告を見て、恵美酒を、大樹に教えた。
  B
(2) 大樹が話す。キリン公園で、ある日の夕方、右目が青、左目が金色(金眼銀眼)の猫を見つける。その時、中学生、「ナイコ」が現れる。猫は、ナイコが飼う。猫の名前は「ヨミ」。金眼銀眼の猫は、幸福を呼ぶ。ナイコはサングラスをしている。彼の眼を見ると死ぬという。彼も、右目と左目が、色が違う。それは人間の場合、「邪眼」であり、不幸を呼ぶ。
(2)-2 大樹の妹が美緒。去年の夏、飲酒運転の車にはねられ、死んだ。両親は、裁判を起こし、いつもイライラしている。大樹は、家に居たくない。彼は、キリン公園に、学校の帰り、夕方よく来る。
(2)-3 「家も学校も塾も、やだ!」と大樹。これに対し、ナイコが「自分は『夜の子供』で、学校なんか行かない。君たちは『昼の世界の子供』。自分のことを誰にも話さなければ、また来る!」と言う。
  B-2
(3) パパもママも、「裁判」と「損害賠償」と、死んだ美緒のことしか考えない。大樹は、パパとママの気持ちを取り戻すため、家出したい。昼の世界から逃げて、夜の子供になりたい。
(3)-2 ナイコが、大樹の家出を手伝う。大樹の家のポストに、家出を伝える封筒を、投函。「両親に反省させるため、一晩だけ、夜の子供になればいい!」とナイコ。キリン公園で、ナイコが、学校帰りの大樹のカバンを預かり、どこかに置いてくる。
(3)-3 ナイコが、“ハーレム”という店で、ホットドッグを大樹に食べさせる。店の女の人が「こんなのと付き合ってると、ろくな人間にならないよ」と大樹に言う。ナイコが、ゲーセン、ディスコ、カラオケと大樹を連れて歩く。ナイコは、ヤクザみたいな人とも、話をする。
(3)-4 ナイコは「邪眼」で、高校生たちが彼を恐れる。
  B-3
(4) 大樹は、途中から寝てしまい、翌朝、キリン公園のベンチで目を覚ます。ナイコが「俺と会ったことは、誰にも言うな!」と言う。そして猫のヨミをくれる。
(5) 警察が、大樹の家出を、誘拐事件として捜査。美緒を轢いた庄賀達夫の両親が、「裁判を取り下げろ、取り下げないと大樹を誘拐する」と脅迫状を、大樹の家に送っていた。
(5)-2 実際、大樹のカバンが、庄賀達夫の両親の家で発見された。
(6) 大樹は、ナイコとの約束を守り、「一晩中、ベンチで寝ていた!」と言った。しかし、大樹には、どうして、こういうことになったのか、さっぱり分からない。
(7)  大樹は困ってしまい、ナイコとの約束を破り、担任の山崎テルオ先生に相談。先生が、新聞の広告を見て、「恵美酒という人の所にいけば、どういうことかを教えてくれる」と、大樹に勧めた。
  C
(1) 恵美酒は「相談事は困る」と言う。しかし氷坂が、「相談に乗る」と電話で、テルオ先生に言ったとのこと。
(2) 「大樹のカバンが、庄賀達夫の両親の家で発見された」ことから、ナイコは、美緒を轢いた庄賀達夫の弟(中学生)と考えられる。
(2)-2 庄賀達夫の両親は、「自分たちを加害者にした被害者こそ、悪い」と逆恨み。彼らは、大樹君を誘拐するだけでなく、一家皆殺しを計画した。
(2)-3 「庄賀ナイコ」(※洒落でつけた仮名)は、皆殺しだけは、辞めさせるつもりだった。そこで大樹君の誘拐事件に相当する出来事を起こし、警察を介入させた。
(3) 庄賀達夫の両親は、現実には誘拐をしていないから、このままでは無罪となる。彼らは再び、皆殺しを計画するかもしれない。
(3)-2 こうした状況から、「ナイコを救うため、大樹君は、本当のことを警察に言うべきだ」と氷坂が言う。(氷坂も実は邪眼だった!)
 《評者の感想》
 よくできたストーリー。「夜の子供」と「昼の子供」の対比に、納得がいく。ナイコが大樹に優しい。ナイコが、一家皆殺し計画を防ごうとした動機も尤も。氷坂の言うとおり、「ナイコを救うため、大樹君は、本当のことを警察に言うべき」だろう。

7 「すべては奇談のために」
(1) 私は山崎テルオ。大学を出て数年、私は作家志望だった。ある日、一流出版社の編集者の先輩と会う。彼から、「ライターになれ。バイト感覚でいい。」と言われる。
(2) 雑誌のコラムなど、7つのペンネームを使い分け、3年、ライターを続けたある日、「都市伝説」の企画があると、私に、声がかかる。
(3) 私は、取材の過程で、奇妙な「奇談蒐集家」恵美酒の話に行き当たる。しかし、その店が見つからない。やがて次々と私は、恵美酒の店に行った者たちと会う。①「自分の影に刺された」仁藤。②「水色の魔人」の光永達志(タッシ)。③「冬薔薇(フユソウビ)の館」の雛倉(旧姓鈴木)智子。④「不器用な魔術師」のパトリスと会った紫島美智(シジマミチ)。⑤「古道具屋の姫君」と結婚した矢来和生(ヤライカズオ)。
(3)-2 しかし私(=山崎テルオ)が、いくら取材しても、恵美酒の店が見つからない。ところが、その時、自分の勤務する小学校のクラスで、⑥田坂大樹、11歳(小5)の「金眼銀眼邪眼」誘拐事件が起こる。私は、彼を恵美酒の店に行かせる。私が後をつけ、恵美酒の店を発見。
(4) 今、私(=山崎テルオ)は、『奇談蒐集家』恵美酒の店で、恵美酒と会っている。「これこそ『奇談』ではないか!」と、私が言う。
(4)-2 「よく考えてみると、恵美酒の店に話しに行った6人と、あなたが出会ったことは、都合良すぎるだろう。つまり私の企みだ!」と恵美酒。「私は奇談になった!」と彼が喜ぶ。
(4)-3 嵌められて、私は恐怖を感じる。私は、あわてて、店内の恵美酒の部屋から、出る。背後で部屋の扉が閉まる。振り返ると、扉は消えていた。
 《評者の感想》
 恵美酒は自らが「奇談」になった。しかし「扉が消える」ような奇談を、氷坂だったら、どう合理的に説明するのだろうか?説明できないと、「奇談否定」のこの小説のポリシーに、反する。

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『唐傘小風の幽霊事件帖』高橋由太(タカハシユタ)(1972生)、2011年、幻冬舎文庫

2013-02-19 15:16:08 | Weblog
序 「娘の幽霊、本所深川に現るの巻」
(1) 伸吉は寺子屋の師匠。気が弱い。借金取立ての熊五郎に追われて大変。明和六年。やはり寺子屋の師匠だった祖母・卯女(ウメ)が昨秋に死に、伸吉が後をついだ。
(2) 寺子屋の庭に幽霊娘・小風(コカゼ)が現れる。唐傘を持つ。カラスの 八咫丸を肩に載せる。伸吉が「化け物でもいいから助けて!」と言ったので来たと、小風が説明。

其ノ一 小風、夜の墓に行くの巻
(1) 伸吉が夜の墓場に、借金取りの熊五郎を呼び出す。熊五郎には悪霊が取り憑いていた。熊五郎はもとは親切な男だったのに、すっかり性格が変わって凶暴になったのは悪霊のせいだった。小風が、悪霊を倒し、地獄に送る。妖怪の上総介が、協力。熊五郎は気絶。
(2) 小風と伸吉は、夜明け前に寺子屋に帰る。お天道様を浴びると小風は寝てしまう。

其ノ二 伸吉、幽霊の師匠になるの巻
(1) 寺子屋は、朝五つ(8時)から昼八つ(2時)まで。暮六つ(6時)を過ぎれば夜。
(2) 伸吉の祖母・卯女(ウメ)は“三途の紐”を使って死人を成仏させず幽霊にしてこき使った。
(3) 小風は、この寺子屋のある場所に、昔、住んでいた。父娘が火事で死ぬ。父が成仏せず行方不明、幽霊としてさまよう。父を捜しに小風も、幽霊として、この世にいる。
(4) 幽霊たちが、卯女(ウメ)を恨んで、その孫の伸吉に仕返ししようとしている。
(5) 熊五郎の妹のしぐれが、幽霊として現れる。寺子屋に居つく。
(6) 小風は、幽霊・化け物を使うので、その代償に、文字を彼らに教える。その役を伸吉が引き継ぐ。伸吉が、幽霊の手習いの師匠となる。
(7) 猫骸骨が、伸吉と仲良くなる。他方、化け物たちは真面目に手習いする。伸吉は、師匠としてやる気が出る。

其ノ三 小風、夜歩きするの巻
(1) 雨の日の夜、化け物の寺子屋は休み。小風が一人出かける。
(2) カラスの 八咫丸、妹分の幽霊しぐれ、伸吉師匠が、後を追う。猫骸骨が、姿を隠す闇色御幣を貸してくれる。
(3) 小風は、雷師匠の寺子屋を訪れていた。雷師匠には幽霊が、とりついている。昔、寺子屋の卯女(ウメ)が、古井戸で幽霊・化け者たちに、「子どもを連れてこい」と言っていた。それを知った雷師匠が、古井戸に向け、同じことを言った。
(4) 雷師匠は幽霊たちが見えず、幽霊の夜の手習いの師匠になれない。子どもを連れてきた幽霊たちは、代償として昼の子どもたちの寺子屋を見て、字を習おうとした。しかし、子どもたちは騒ぐばかり、勉強しない。そのため字が習えない幽霊が怒り、雷師匠に乗り移って子どもを折檻。
(5) 優しかった雷師匠を、凶暴な別人に変え、彼に乗り移った悪霊。その悪霊を、小風が、追い払う。さらに、小風は、諸々の幽霊たちを、唐傘を回し、この世から追放・成仏させる。
(6) 日が昇り朝となる。眠った小風を、伸吉師匠が、おぶって帰る。

其ノ四 しぐれ、金儲けをするの巻
(1) 幽霊しぐれの銭狂い。彼女は、熊五郎の妹。しぐれは、江戸の市内でインチキ見せ物を演じ、小銭を集める。しぐれの親は、高里屋の主人夫妻だった。
(2) 高里屋の乙松は、高利貸し。借金取りの熊五郎は、呉服問屋高里屋の跡取り息子。しかし、高里屋は借金のかたに乙松に、取り上げられた。熊五郎は、借金を返し、高里屋を取り返したいので、乙松の子分となり、今、借金取りをする。
(3) 銭狂いのしぐれから、小銭の入った巾着を、小風が取り上げる。しぐれが銭狂いなのは、乙松から、高里屋を取り返したいため。しぐれは、成仏できない。

其ノ五 百鬼、江戸を駆けるの巻
(1) 高里屋の主人夫妻(熊五郎と幽霊しぐれの両親)は、汚い長屋に住む。父親直助が、病気。母親おきのが、美人。
(2) 直助の病状が悪くなり、医者に診せたいと思い、おきのは、乙松に金を借りに行く。
(2)-2 伸吉師匠が、弱虫なのに、おきのを助けに行く。乙松は、女衒の海坊主を呼び、おきのを100両で売り払う。
(2)-3 海坊主は、乙松を刺し殺し、100両を取り戻す。その後、海坊主は、伸吉を大川に投げ込むが、カラスの 八咫丸が救う。
(3) 伸吉は、またも、海坊主につかまる。小風が、海坊主の隠れ家の荒れ寺に、おきのと伸吉を、助けに行く。
(3)-2 海坊主が、小風に対し、幽霊封じの護符をばらまく。幽霊は、護符の炎に焼かれ、灰となり護符の中に封じ込められる。小風が危ない。唐傘も、手元から離れてしまう。
(3)-3 大川から助けられた伸吉師匠が、弱虫なのに、ほれた小風を助けに行く。幽霊・化け物たち多数も、小風を助けに行く。百鬼夜行。
(3)-4 伸吉は、すぐに悪党どもに、捕まる。幽霊・化け物たちも、幽霊封じの護符のために、海坊主たち悪党に近寄れない。
(4) 小風が、唐傘を取り返す。唐傘で、八寒地獄の第五、虎々婆(ココバ)地獄の寒風を、海坊主たちが受けて、凍らせてしまう

終 伸吉、賽の河原への巻
(1) 伸吉が、賽の河原の夢を見る。
(2) 伸吉は、幽霊たちに「寺子屋に、居ていい」と言う。小風が、「お前も物好きな男だ」と応じる。

《評者の注》
 罪のない物語。訴えることは何もない。説教はない。教訓もない。話が楽しい。
 伸吉師匠は気が弱いが男気がある。
 唐傘小風は美人でいい女で、化け物にたいして強い。カッコいい。
 猫骸骨が愛嬌あり。

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『さがしもの』角田光代(1967生)、2005年(原題『この本が、世界に存在することに』)角川文庫

2013-02-13 08:36:37 | Weblog
1 「旅する本」
  A
 18歳(高校3年)の時、私(女)は、古本屋で、ある翻訳小説を売る。
 その4年後、大学卒業後、22歳のとき、私はネパールに一人で旅行。カトマンズからポカラへ。ポカラの古本屋で、その本と再び出合う。買う。読んでみると以前と違う意味がつかめた。再び売る。
  B
 それから何年かたって(27歳くらい)、仕事の取材で私は、アイルランドに行く。古本屋で再び、その本を見つける。買い、読む。本はまた違う意味を示す。
① すべては夢のよう。私の人生は変転したのに、不動の同一の本がそこにある。
② 私が変化している。だから読んだ本の意味が、毎回、変わる。
 ロンドンにもどり、またその本を私は古本屋に売る。
  C
 いつか再び私はその本と古本屋で会うだろう。再び私は買い、読むだろう。私と一緒に「旅する本」!

  《評者の感想》
 (1) 本は2重の本質を持つ。一方で“不動”。私の変化にかかわらず不動で同一の本。他方で私の変化に応じて“変化”する本。
 (2) 著者は「旅する本」と呼ぶことで、本の本質を後者、“変化”に見ている。
 (3) 評者としては、本の本質を“不動”と見るほうが、興味深い。私がどんなに変化しようと、本は何も変わらない。並んでいる文字のどこも変わらない。
 (4) 本(の文字)が示す意味は、毎回、変わる。それはまるで不確かな夢。
 (5) 一方で本は“不動”。
 (5)-2 他方で、「私」は不確かな夢、「本」が示す意味も不確かな夢。私も“変化”するし、本も“変化”する。私と共に変化し続ける「旅する本」!著者は、この点を強調する。
 (6) しかし評者にとっては、「私」と「意味」の二重の変化を担うことが出来る本の“不動”性がミステリアス!

2 「だれか」
  A
 24歳で、恋人とともにタイの南の島を旅する私(女)。自分だけがマラリヤにかかる。恋人が、ホテルに置き忘れられた片岡義男の古本を持ってきてくれた。病床で、私は読む。
  B
 片岡義男のその本を、かつて読んだだろう「だれか」(男)の事を、私は、想像する。
 その男はきっと、高校のとき片岡義男を愛読した。その後、本は売ってしまった。
 男は25歳で恋をする。しかし女に「退屈だわ!」と言われ、捨てられる。男は、タイの南の島へセンチメンタル・ジャーニー。
 旅行前、本屋で、彼にとって懐かしい片岡義男を発見し買い、タイの旅の友とする。帰国のとき、彼はその本をタイに残していった。
  C
 今、私はその本を、読んでいる。そして、その本を読んだだろう男について想像した。
  D
 その時から10年たった。今、私は34歳。あのときの恋人はもういない。
 あのとき想像した男も、今、代わり映えのしない日常生活を送っているだろう。

  《評者の感想》
 (1) 片岡義男のその本を読んだのは、もっと違う男かもしれない。あるいは女かもしれない。
 (2) 著者にとって、片岡義男の本は、非日常的世界を現前させるもの。しかし同時に、簡単に忘れ去られる儚いもの。
著者は日常的現実が持つ圧倒的リアリティを、素直に受け入れる。もちろん非日常的ロマン世界にあこがれるが、それは一時の夢。
 (3) 著者は自分に似た「男」(非日常的ロマン世界にあこがれる)を想像した。それはなぜか?自分に似た「女」を想像したら、自分が女だから、トートロジーになるため。

3 「手紙」
  A
 私、今35歳、恋人とケンカし伊豆を一人で旅行中。2泊目、河津。宿にリチャード・ブローティガンの詩集。アメリカの詩人の、日本滞在時の詩。私が20歳のとき、読んで共感した。今、35歳の私には、彼は、ただ幼稚で寂しがり屋なだけ。
  B
 本に封筒が挟まっていた。男と別れた女の失意の手紙。しかし女は、男との思い出に感謝する。
 自分も今、恋人と別れるかもしれない危機。手紙の女の記憶と文体が、私と混じり合う。私は、私の恋人との思い出を懐かしみ、彼を貴重だと思う。
  B-2
 かくて私は、恋人に電話する。明日、彼が旅先の宿に来ると言う。私は嬉しい。
 私とよく似た見知らぬ女に「バイバイ。ソーロング!」と私。女の手紙を本にもどす。

  《評者の感想》
 手紙の女の記憶・文体が、私(女)の記憶・文体と、混じり合う。
 外的世界の物体である文字が、二つの精神を媒介する。精神の混淆。文字の存在が、マジカルである。

4 「彼と私の本棚」
  A
 私(女)は、同棲中の恋人、ハナケン(男)と別れる。アパートから私が出て行く。今、本棚から自分の本だけ、ダンボールに詰める。マンシェット『殺戮の天使』が2冊ある。
  B
 私とハナケンは、5年前、短期(2週間)のアルバイト先で会った。ハナケン21歳、学生。私22歳。二人は親近感を持つ。アルバイト最後の日、飲みにいき、ラブホテルへ。
 2ヵ月後、ハナケンが私のアパートに来る。ハナケンは、私の本棚の本が、自分と似ていると感激する。
 1年少しして、私とハナケンが一緒に暮らし始める。二人で本の感想を話し合ったり、仲がいい生活。
  C
 ところが、同棲3年半後、突然ハナケンが「好きな人が、別に出来たから、別れたい」と私に言う。その日からハナケンは、ウィークリーマンションへ移る。私は、出て行くため、引越しの準備。
  D
 私は、ハナケンが嫌いになれない。引越しの日、ハナケンから「準備は無事、終わりましたか」とメール。ハナケンは、律儀でやさしい男。
  D-2
 私はそれまで、「男と別れるのは、『禁煙し吸うことが出来ないため、つらい煙草』と同じ、やがて忘れる。」と、強がっていた。
 しかし、私は、今、ハナケンと一緒にかつて読んだ本を発見し、そのときのハナケンを懐かしく思い出し、ひどく泣く。

  《評者の感想》
 「私」は気位が高いから、男(ハナケン)に「別れないで!」と泣いてすがりついたり出来ない。ハナケンは律儀でやさしいかもしれないが、人の気持ちを思いやることが出来ない無神経さを持つ。結局、今、「私」は、やはり、泣くしかないだろう。

5 「不幸の種」
  A 
 10年前、私は18歳、大1年。恋人を自分のアパートに呼び、また相手のアパートに行く。24時間一緒にいるような本気の恋。
 ところが、夜中、その男が一人、私の本棚の、私が読んだことさえ忘れてしまった私の本を、一人、読んでいる。私には嫌な感じ。
  A-2 
 大2になり、私は、恋人を友人の近藤みなみに取られる。
 二人を見たくなく、私は大学を欠席、留年。その後、空き巣にあい、台湾旅行では交通事故で骨折。
 台湾の占い師が、私の部屋の中に「不幸の種」があると言う。「あの本だ」、「私の元恋人が読んでいた本だ」と私は思う。
 私に謝りに来た近藤みなみに、その本を渡し、「私の元恋人にあげてくれ」と頼む。
 大4で、私に新しい恋人が出来る。大卒後、私は出版社に勤める。
  B
 ともに27歳のとき、私と近藤みなみが、再会。
 みなみは、不幸が続いた。①大卒後、就職した会社が倒産。②私の元恋人と23歳で結婚するが1年後、離婚。③その2年半後の2度目の結婚も、みなみは離婚。
 みなみは、あの本を恋人に渡さないまま、今も自分で持っているとのこと。
 その本が「不幸の種(原因)」と私が言うと、近藤みなみは、「自分は、別に、不幸と思っていない」と言う。
 そして、「その本が面白い。何回も読むと、年齢とともに意味が変わる。」とみなみの感想。私は、その本を受け取る。
  C
 それから、さらに5年、32歳。近藤みなみは、この間に、1回、恋人と別れ。数ヶ月前、6歳下の恋人が出来、一緒に暮らしている。結婚を迫られているが、バツ3は嫌なので、結婚しないとのこと。
  D
 不幸と幸福の意味が人によって違うように、本の意味も年齢によって変わるのだ。その変転が楽しみと私は思う。私には、新しい恋人がまた出来た。

  《評者の感想》
 著者が言いたいことは二つ・
 (1) 不幸と幸福の意味が人によって違う。
 (2) 本の意味は、それを読む自分の年齢によって違う。

6 「引き出しの奥」
 (1) 私、大2年、は「やりまん」、「公衆便所」と陰口をたたかれる。1年くらい前から「すさんだ生活」。おごってくれ、アパートまで送ってくれる男の子に、してあげられることは、ベッドに一緒に入ることと、私は思う。
 (2) 人は記憶で構成されている。現在のアクションは、過去の記憶が決定する。寝た様々の男の子達を見て、思う。
 (3) 7歳年長の塚田さん(私のアパートに3回来て性交した)が、大学の周辺の古本屋に出回る伝説の古本について、語る。裏表紙に、様々な人の一言の書き込みがある。
 (4) 古本屋で、男の学生と会う。彼は、ドイツ観念論の講義を取る。私も同じ。
 (4)-2 彼と私はそれぞれ、古本屋を訪ね歩き、伝説の古本を探す。
 (5)  ある日、私と彼が喫茶店で、話をする。彼は、「その伝説の古本の書き込みは、各人の『記憶』ではないか」と、言う。「その人の一番、最初の記憶」、「大切な記憶」、「一番、満たされていたときの記憶」など。
 (5)-2 私には覚えておきたい記憶が、過去に何もない。さびしい。好きでもないない男の子と寝るのは、寂しい。覚えておくに値することが、何もない。このとき、私ははっと、寂しさに気付く。
 (5)-3 彼の名前はサカイテツヤ。
 (6) 塚田さんと話をしたとき、「伝説の古本の裏表紙に書かれているのは『人類の記憶』だ」と私が言う。裏表紙はあたかも「記憶の引き出し」。
 (6)-2 この夜、飲んだ後、私は塚田さんを、自分のアパートに来させなかった。
 (7) 私は「大切な記憶」を捜し始めた。好きでもない男の子と寝るのは、私を「傷つけない」が「記憶にも残らない」。
 (8) 私は大3になった。私は誰とでも「やる(性交する)」のをやめる。
 (8)-2 サカイテツヤとは何もない。彼も私も、相変わらず、伝説の古本を探し続ける。
 (9) その大3の4月のある日、サカイテツヤが「ドイツ観念論の講義のテストが、これからある。急いでいかないと遅れる!」と私の手を引っ張って、走る。
 (9)-2 突然、私の見慣れた光景が、一瞬、美しく変化する。手を握られ、私は照れくさい。「大切な記憶」の誕生の予感。

  《評者の感想》
 「好きでもない男の子と寝るのは、私を『傷つけない』が『記憶にも残らない』」。これが、ポイントの文。「私」は「大切な記憶」を捜し始めた。サカイテツヤとの、あの一瞬が、「私」にとって「大切な記憶」の誕生!

7 「ミツザワ書店」
 (1) 小説の新人賞を、ぼくは受賞。郷里のミツザワ書店のおばあさんを、ぼくは思い出す。「受賞をおばあさんに伝えたい」と思う。ぼくは、27歳。おばあさんは、昔、店番をするというより、いつも本を読んでいた。
 (2) その昔、一度だけ、ぼくは万引きをした。なぜだか分からないが惹かれる本があった。読みたいと思った。その本は1万円もした。ミツザワ書店から、その本を万引きした。ぼくは16歳。その夜、その本をぼくは一晩で、徹夜して読んでしまった。ただ一言、「すげー」と思った。以後、ミツザワ書店に、二度と行かなかった。
 (3) その後、ぼくは都心の大学に通い、今は印刷会社に勤める。それが突然、一昨年、3年前、小説を書きたいと、ぼくは思った。あのときの高揚した「すげー」と思った気分が、ぼくに小説を書かせた。3ヵ月半、かかる。新人賞に応募。応募したことさえ忘れた頃、新人賞受賞の知らせが、来た。
 (4) 今日、27歳のぼくは、1万円を払いに、郷里のミツザワ書店を訪ねる。「おばあさんは去年、他界した」とのこと。孫の若い女の人が出てきて、言った。
 (4)-2 ミツザワ書店は閉店していたが、中はそのまま。「当時、おばあさんは、本が好きで、自分が読むために、売る本を仕入れているような状況だった。万引きも多かった。後になって代金を払いに来た人が、たくさんいる」と女の人が言った。
 (4)-3 「ミツザワ書店は、当時、まるで街の図書館のようだった。だから今は閉店しているミツザワ書店を、大袈裟になるけど、改めて街の図書館として開館したい」と彼女が言う。

  《評者の感想》
 16歳の男の子が、一晩で、徹夜して読んでしまうような「すげー」と思える本。そのような本に、評者も出会いたい。

8 「さがしもの」
 (1) 私が中2のとき、おばあちゃんが重病で入院。母が泣いていた。おばあちゃんが、私(羊子)に「本を探してほしい。でも誰にも言うんじゃないよ。」と言ってメモを手渡す。
 (2) 私は、町の書店に探しに行くが、ない。おばあちゃんが、落胆。「面倒がらず、あちこちの書店を捜すように!」とおばあちゃんが言う。おばあちゃんは口が悪いし、気が強い。
 (3) その本が今は絶版で、昭和初めの画家のエッセイと、ある本屋でわかる。
 (4) 翌年、おばあちゃんが死ぬ。「本を見つけてくれなかったら、化けて出る」と死ぬ前に、おばあちゃんが言う。
 (5) 本が見つからないまま、私は中3になる。春の夜、受験勉強中、振り向くとおばあちゃんの幽霊が立っていて、「本は、見つかったか?」と尋ねる。
 (5)-2 高3まで、おばあちゃんの幽霊が出る。高3のとき、父母が離婚。
 (6) 大3のとき、本が見つかる。「画家の幻のエッセイ集、ついに復刊!」と、本屋に置かれていた。初版、昭和25年。エッセイの一つに、画家が思いを寄せた定食屋の若い娘の話が、あった。この若い娘がおばあちゃん。
 (7) おばあちゃんは「永遠の十代の自分」を確認したかったのだ。
  《評者の感想》
 本は、永遠を書きとめる。文字は、永遠を指示する記号。

9 「初バレンタイン」
 (1) 23歳だった中原千絵子、1浪で大4年。千絵子が、2ヶ月前から交際を始めた田宮滋、大3年、21歳。千絵子には、初めての恋人。
 (1)-2 千絵子は、初バレンタインに、自分が中3のとき読み感激した本を、贈ることにする。二人、待ち合わせ後、田宮は、18万7千円の指輪を、成り行き上、千絵子に買うこととなる。二人はショックで、しょんぼりと宝石店を出る。
 (1)-3 ラブ・ホテル(4回目)の部屋で、千絵子は本を田宮に渡す。しかしチョコレートにしなかったことに「失敗した!」と思う。
 (2) あれから7年、千絵子は30歳。田宮とは別れ、その後、すでにこれまで3回の恋愛。今、5人目の恋人と結婚予定で、二人、転居準備作業中。
 (2)-2 藤崎の本棚から、初バレンタインで自分が昔の恋人(田宮)に贈ったものと、同じ本が出てくる。千絵子は、昔、初バレンタインの日を、思い出す。
 (2)-3 それは、「初めて、女の子からもらった本!」と藤崎。
 (3) 30歳の千絵子は「みんな、昔のこと!」そうして、「今、ここにいるのだなあ!」と思う。

10 「あとがきエッセイ 交際履歴」
 (1) 私は別れた元恋人と、ほとんどの場合、友達となる。ただし、現恋人がOKすることが条件。
 (2) 本を読むのは、「一対一の交際」と同じ。
 (3) 小学校前、保育園に預けられていた私は、当時、本が好きだった。なぜなら本が、現実から、別の場所に自分を連れて行ってくれたから。
 (3)-2 作品世界に入る興奮。本屋は、遊園地より興奮的。
 (4) 小2のとき、伯母がくれた『星の王子様』は、全くつまらなかった。高2になって読んだら“すごい!”と思った。年齢とともに、本の意味が変わる。
 (5) 人と同じで、本が「つまらない」のは、①「相性が悪い」か、②こちらの狭小な「好みに合わない」か、いずれかに過ぎない。
 (6)本をたくさん読む人と、競い合っても無理。
 (6)-2 「私を呼ぶ」本を見出す。それを1冊ずつ読む。ちょうど、好きな相手を見つけるようなもの。本と私の個人的なお付き合い。

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『警視庁情報官』濱嘉之(ハマヨシユキ)(1957生)、2007年、講談社文庫

2013-02-06 00:12:22 | Weblog
プロローグ
A警視庁総務部企画課内情報室(警視庁情報室)(H12創設):警視総監・北村の直轄、H18
→情報室連絡会、通称「御前会議」、週1回
①黒田純一情報官(警視)、ノンキャリのエリート、早大政経卒
②警視庁公安部公安総務課長(公総課長)・後藤=「ゼロ」の後藤理事官
③(警視庁)公安部長・藤山
④(警視庁)総務部長・黒木
B警察庁長官・西村、内閣情報官・大和田
C警察庁・警備局警備企画課内情報分析室、通称「ゼロ」
D大阪地検特捜部による世界平和教へのガサ入れ

第1章 公安部長の野望(H10):公安部長・北村
A(警視庁)公安部長・北村、H10
→北村は東大在学中米国留学、司法試験合格、警察庁へ
→北村40代半ば、在英国日本大使館一等書記官→1990年代半ば、ソ連はすでに消滅
→包括的なインテリジェンス(秘密情報)機関が必要
→警視庁内に新たな部署を作る計画

B全国の公安情報データは、警察庁でなく、警視庁公安部に蓄積される
C警察庁官房総括審議官・西村:北村と小学校同級生、東大同期
→西村は警察庁長官の秘蔵っ子
D警察庁警備局警備企画課第2理事官(“裏理事官”)・後藤
→「ゼロ」のトップ、「ゼロ」の研修の校長→「ゼロ」の後藤理事官
E(警視庁公安部)公総課員・黒田
→「ゼロ」への報告のため後藤のもとに、黒田がよく来る→黒田は根っからの情報マン
→警察庁から黒田へ100万円/月の予算
F警視庁内に新たな情報組織(警視庁情報室)を作る:北村公安部長
→ゼロの後藤理事官、黒田情報官の3人で打ち合わせ

第2章 黒田&吉田:後の警視庁情報室メンバー
Aノンキャリ黒田:早大政経卒H1、警察官になる
→「卒業配置」渋谷、オヤジ狩り天国→2年後、池袋、闇金と闇賭博、地元やくざ
→H5歌舞伎町交番、広域暴力団&世界のマフィア
A-2 新宿でのラブホテル街殺人事件(H5)
→中国人女性殺害→被疑者のビデオ写真公開で2週間後逮捕→黒ちゃんの活躍

B黒田、内調勤務(H6から2年間):警視庁公安部公安総務課兼ねて警察庁警備局警備企画課(内閣官房内閣調査室)
→内調:総理府7階(内閣府)で普通の人も簡単に入れて無防備
B-2 松本サリン事件→弁護士一家失踪事件(H6)→公証人役場事務長行方不明事件(H7)→そして地下鉄サリン事件→オウム教祖逮捕(H7、5月)→村山首相辞任(H8、1月)
B-3 黒田→2年間の内調派遣→その後、1年間FBI研修。

C(警視庁刑事部)捜査第2課の星、吉田宏(H8):慶応法卒、刑事志望
→捜査第2課(第1-6係)贈収賄捜査→地検特捜部と競合
C-2 埼玉県高齢者福祉課長(厚生省から出向)の収賄事件:福祉グループ(代表は国会議員秘書)からの収賄
→福祉グループ理事長は、社会福祉施設建設に際し、自分の事実上経営の企業が受注後、ゼネコンに下請けさせ利ざやを稼ぐ
→贈賄容疑で福祉グループ理事長逮捕→吉田が福祉グループ理事長を「落とす」
→収賄容疑で高齢者福祉課長逮捕→理事長からの数千万円収賄で厚生事務次官も逮捕
C-3 吉田は後に黒田と組む

D(警視庁公安部)公安総務課・黒田:1年間のFBI研修後
→H9、4月関東管区警察学校で半年、公安情報収集の研修(出身・本名を明かさない)
→H9、11月(警視庁公安部)公安総務課「七担」(第7担当)・黒田

D-2 H9(1997)、11月、大蔵省金融検査部収賄事件(公安・黒田)
(1)黒田→友人(=早大の同窓)で長銀勤務の山内明に会う→山内は父親が衆院議員
(2)黒田は事件捜査上、MOF坦から情報を得たい
→MOF担は東大出、同期の大蔵官僚から情報を取る→MOF坦は大蔵の御用聞き
(3)山内の彼女は民政党幹事長の娘・園田郁子(博通のバリバリのクリエーター)
→郁子の妹分・川口文子(アヤコ)
(4)黒田は警視庁公安部警部補→公安はエリート、公安は悪玉(⇔善玉の刑事)
→黒田は月200万円で活動
(5)黒田、川内からMOF担を紹介してもらい、会う
→公安の協力者は「消毒」を行う(身辺調査)
→東大経済卒のMOF担、法学部でなくコンプレックス→酒と女にだらしないMOF担
→向島で接待→「お役に立ちますよ」とMOF担が黒田に言う
(6)H10(1998)1月、東京地検特捜部が、大蔵省金融検査部金融証券検査官室長などを収賄容疑で逮捕
→バブル後の不良債権処理、デフレスパイラル回避のため、金融機関側が「ゼロ金利政策」、銀行再編・メガバンク化を望んでいた

D-3 総理と中国人女スパイとの不倫問題→H10(1998)7月総理辞める(Cf. 橋本)
→新総理は「いい人」(Cf. 小渕)
D-4 (警視庁公安部)公安総務課長・吉沢が殉職
→自宅で左翼系団体のメンバーに刺殺される

D-5 (警視庁公安部)公安総務課・黒田→休暇で酸ヶ湯へ
→ボルチモア市ジョンズ・ホプキンス大学大学院のステーシーと出会う
→FBI研修の話などして親密となる
D-6 (警視庁公安部)公安総務課・黒田:参議院の野党議員のために国会の想定問答作
→九州の交付金不正支払いの質問
→文部省から出向の教育長が地元のヤクザとつるんで学校誘致、警察官僚が絡む

E 警視庁公安部公安総務課・黒田、1999(H11)春、警部となる(32歳)
→築地警察勤務で、1年間、夜の暴力団狩り

第3章 コリアン・マフィア
A 警視庁総務部企画課「情報セクション」創設(後の警視庁情報室)、H12(2000)年
→北村公安部長(後に副総監)が発案
→(警視庁)警務部人事第1課(警部以上、エリートの人事管理)を通し人集め
→情報の新たな部門を作る、国家的な情報組織
→マル秘で総務部企画課員とはノーコンタクト
(1)(警視庁)刑事部捜査第2課(情報担当)・吉田宏:経済事犯のプロ&(警視庁)公安部公安総務課・黒田純一
(2) 内田・公安総務課長:情報分析の国家的頭脳の一人
(3) 公安部長、総務部長、刑事部長が「情報セクション」を管理する
(4) 吉田の所属長は猪口・捜査2課長、黒田の所属長は内田・公総課長、総務部企画課長は人事管理のみ
A-2 黒田と吉田で50人の人事記録より、情報担当候補5人ずつを選ぶ
→10人、総務部企画課「情報セクション」に異動
A-3 「情報セクション」の10人
→①国内政党対策、②経済対策(兜町)、③マスコミ対策、④国際問題対策に分ける
→係長2人(黒田と吉田)→係長2人の担当管理官は丸山警視
A-4 「情報セクション」は北村副総監に報告
→公安部長、刑事部長、「ゼロ」、公総課長に事後報告

B 協力者の選定→「世の中のためになっている」との意識を持たせる
B-2 協力者(スパイ)の行動確認作業(「行確」)
→1個班6人で2交代24時間、3ヵ月行動確認作業→本人を丸裸にする
→追尾も行う→「行確」は公安の登竜門作業
B-3 相手の拠点(アジト)からの行確→「吸出し」と呼ばれる
→罠におびき寄せられることあり

C 黒田、2001(H13).9.11以降、国際テロ組織の情報収集→アメリカへ出張
C-2 モサド(総理府諜報特務局)のエージェント(イスラエルの国家警察官)
→NY郊外スカースデールはユダヤ教徒の邸宅地域
→そこに住む¥ジョセフ・ケデルはモサドのエージェント:FBI研修で黒田が一緒だったクロアッハの上司
→CIAはヒューミント(人間を通して得られる)情報に弱いが、モサドと中国国家安全部はヒューミント情報が優秀
C-3 コリアン・マフィア
→NYのサウス・シーポートのフルトン・フィッシュ・マーケットはコリアン系が強い
→そこで、世界平和教NY支局長・朴喜進(パクヒジン)と黒田が偶然会う
→朴喜進(パクヒジン):韓国生まれ、NYの大学卒、コリアン・マフィアのボス、セレブのブラックカードを持つ
→金集めが世界平和教の目的
C-4 黒田、ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学へ
→同大学の高等国際問題研究大学院(SAIS, School of Advanced International Studies)はワシントンDCにある→ステーシーと黒田が再会
→ステーシーは、アメリカがフセインを攻撃すると予測
C-5 黒田、再び朴喜進(パクヒジン)と会う
→朴は多くの日本人政治家(国会議員)に連絡が取れる
→「役人は政治家に潰されるか、拾われるかだ」と朴

第4章 日本の闇に挑む:原発建設疑惑
A 警視庁総務部企画課「情報セクション」がH14(2002)年、(警視庁)「情報室」へ
→メンバー10人増員
→主要メンバー
①丸山(警視)情報室長
②黒田分室長(→その後H17、3月、情報室管理官心得へ)
③梶原主任:公安総務課で20年、慶応卒、吉田の後輩
④会田孝一(内調(内閣官房内閣情報調査室)より出向):マスコミ・宗教団体
⑤平岩貢(公調(公安調査庁)より出向、法務省キャリア):ヤクザモン専門
→北村副総監→大阪府警本部長へ→さらに警察庁警備局長へ栄転→官房長へ→次期は北村(警視)総監か?
→警視庁「情報室」(副総監直轄)は、もともと西村警察庁次長の発案

B 国会の情報収集
→内調出身の会田:政治家との人脈あり、秘書との宴会など
→会田、国会の情報収集:国会の与野党関係、議員の動き、派閥関係、内情、人脈など

C 総務部エリート社員
(1)企業総務部のエリート社員→国会へ→役人とのパイプ作りが中心
→許認可事務:国交省、経産省、警察庁
(2)上場企業総務エリート社員:出来の悪い国会議員を見て政治家を目指すようになる
→将来伸びる国会議員と接近→与党民政党の総合政策研究会へ出席
(3)出世コースのトップ社員は社長室長、広報室長になる
(4)電力業界は与党(経団連)、野党(労組)双方に議員
→議員秘書は与野党横断で合コンなど

C-2 東日本電力総務部・村上(東大卒、容姿もいい、センスもいい)
→村上は、与党民政党大谷隆の秘書・谷垣悦子(地方議員、地方の利権に詳しい)と親しい関係
→村上は、野党労働党川添伸夫の秘書・戸田麻紀(労組加盟の大手企業からの派遣)とも親しい関係
C-3 総務部村上、原発立地担当副長となる
→不動産販売がらみで暴力団に、直接現金を渡す“最悪の落ち度”あり

C-4 黒田のターゲット→村上(東日本電力本社総務部マネージャー(課長ポストに相当))
→黒田と東日本電力との接点:株主総会対策(警察との接点)
→暴力団、エセ、右翼が東日本電力にたかる
→黒田が、東電常務の柴田廉三、副社長の中島と親しい
C-5 警視庁警視・黒田と、東電総務部村上が出会う
→「組織の尻ぬぐい」をわかってもらえたと村上、涙を流す
→東北地方での原発建設問題を、村上が、黒田に話す
→ゼネコン、暴力団、電力会社の癒着
→黒田が、村上を「協力者」に仕立てる、行動確認もすみ

D 北村官房長、警視総監へ(H18春)、また西村は警察庁長官へ就任
→警視庁「情報室」は警視総監直轄へ

E 労働党の川添伸生代議士が、黒田に「内部告発文書」=「怪文書」を見せる
→黒田、川添代議士の美人秘書・戸田麻紀を通して、代議士に接近
→「内部告発文書」は、東北地方の原発建設疑惑を告発→東電総務部村上の担当範囲
→北朝鮮の麻薬密売ルートが絡む→現役閣僚のスキャンダルになる可能性
Cf. 警察キャリアの出世には、警視庁公安部系列と警察庁警備局系列がある

F 原発建設疑惑と民政党大谷隆司代議士:「怪文書」の内容
(1)原発、プルサーマル計画対応沸騰水炉1~4号機、H17完成、1兆6千億円規模→東北地方に建設
(2)地元の大谷隆司代議士が誘致場所情報を得る→風間建設→地元業者に丸投げ、裏談合→広域暴力団菱和会が地上げ
(3) 大谷代議士は世界平和教へ献金→反共団体
(4)原発建設に伴う港湾施設整備で大谷代議士が資金を得る→北朝鮮貿易船の入港→覚醒剤・麻薬の密輸ルート→ロシアン・マフィア、コリアン・マフィアによる売春目的のパブ

G 原発建設疑惑調査①:警視庁「情報室」、黒田のチーム6人が原発建設疑惑を担当
→銀行に問い合わせてはマイナス→銀行は、すぐにクライアントの暴力団、宗教団体に連絡する
G-2 黒田、捜査1課特殊犯捜査班の田中管理官(警視、ハイテク捜査の元祖)に依頼
→特殊監視カメラを20台調達→北朝鮮貿易船による覚醒剤・麻薬の密輸ルートを監視

G-3 黒田警視(管理官)、梶原警部補とともに、北朝鮮情報を得るため中国に渡る
→黒田の友人、中村、大手商社社員、中国の子会社で副社長(中国総代表助理)
→通訳、王女史:中・朝・露語ができる
(1) 琿春(フンチュン)市人民政府の役人と会う、北朝鮮の図們(トウメン)市に近い
→琿春(フンチュン)市は、ロシアン・マフィア、コリアン・マフィア、チャイニーズ・マフィアが活動
→琿春(フンチュン)市人民政府での会合参加者の名刺を、コピーしてくれるよう梶原が依頼。そして手に入れる:日本人、中国人、韓国、北朝鮮、ロシア人
(2) 名刺の人事データを公安部経由で調査
→偽ドル札、アヘン密輸のロシア人、北朝鮮人が分かる
→広域暴力団、フロント企業の日本人が分かる

H 原発建設疑惑調査②:警視庁「情報室」・吉田のチームがゼネコンと暴力団を担当
→ゼネコンと暴力団は吉田のおはこ
(1)広域暴力団・菱和会構成員・同行者の渡航歴を入国管理局に警察庁警備局長名で照会
(2)北朝鮮船舶入船→信金の担当者が現金を受け取り多くの口座に振り分け、さらに20ヵ
所以上の口座をまわす
→漁船が出て北朝鮮船へ行く→菱和会構成員が荷物(覚せい剤・麻薬?)を受け取る
→町工場主(サラ金で首まわらない)が宅急便で配送
→菱和会のフロント企業宛て
→さらに行動右翼団体宛て:反共連盟で、世界平和教(「朴」が幹部)の偽名団体とつながる

H-2 公安調査庁(公調)から来ていた平岩:吉田のチームに属す
→警視庁への出向5年目、「ヤクザモン」が専門
→平岩はフロント企業情報に詳しい:京大時代から経済ヤクザに興味、菱和会の経済担当の若頭にかわいがられる→平岩は関西の銀行、財務局の不正も熟知
(1)平岩、菱和会直系のフロント企業が民間金融機関に持つ開設口座、口座残高をつかむ
(2)代議士大谷隆司に便宜を図っていた地元ヤクザが、菱和会と手を結んで自分たちに対し掌を返すような扱いをする大谷代議士に怒っているのを利用

I 有力代議士の素顔:民政党大谷隆司代議士(内閣府特命担当大臣)
→東大法卒、通産省に入省
(1)32歳で衆議院議員当選:世界平和教が持つ反共連盟が彼の選挙を仕切る
→そのときの裏選対の長が、今の金庫番・松本勲
(2) 世界平和教の信者である妻と結婚→妻は今も日韓、日朝の架け橋として活躍
→8期連続当選、また世界平和教教祖に傾倒
(3) 大谷代議士は初め「地盤・看板・カバン」なし
→3期目に通産事務次官となり、今やエネルギー政策の重鎮→電力会社が支援、ゼネコンも支援
→さらに5期目、厚相→以後「医・歯・薬」3団体もサポート
(4)金と女に眼がない→自由に出来る金、毎月1億円
(5)今、大谷代議士は、党内第2派閥の事務総長、世界平和教の熱烈な信者、反共連盟の特別顧問→経済産業大臣を狙う
(6) 大谷代議士の隣の選挙区で、H17、原発が完成間近→利権獲得のチャンス
(7) 松本勲が、大谷代議士の金庫番、大物秘書

J 原発建設疑惑の捜査本部の設置
→警視庁「情報室」を中心に捜査本部を設置
→捜査対象は大谷隆司代議士、風間建設、菱和会にしぼる
→東日本電力は、贈賄は難しく、捜査対象からはずす
→メンバーは北村総監、総監直轄の情報室、刑事部長、公安部長、組織犯罪対策(組対)部長、公安総務課長、
(1)東京地検特捜部、警察庁、内閣情報室の面子があるので、(警視庁)刑事部長、公安部長が連絡する→現職閣僚の逮捕がありうる
(2)警視庁「情報室」による捜査の焦点:①議員・官僚の贈収賄、②暴対法違反、覚せい剤容疑

J-2 特別捜査本部を麹町署に置く→本部長・刑事部長→総括責任者・捜査2課長
→捜査員200人体制:刑事部・公安部・組対部・所轄各50人
→7班に分ける:各班長は管理官
→総括デスク:情報室から5人
→カスの捜査員でなく、優秀な捜査員を集めると、黒田の発案
J-3 特別捜査本部(警視庁)の活動開始:総監訓示、刑事部長指示、捜査2課長指示、200人の捜査員

J-4 東京地検刑事部からの圧力
→一方で(法務省側)地検検事正と、他方で(警視庁側)刑事部長・公安部長さらに警視総監との交渉決裂
→検事総長(法務省の実質トップ、司法試験)と、警察庁長官・西村(国家公安委員会の実質トップ)の会談 Cf. 外務省では駐米大使か国連大使がトップ(外交官試験)
→現職閣僚については、東京地検特捜部が身柄を扱うことで合意、検察の窓口は特捜部で、150人態勢を組む
→西村警察庁長官が、警備局長、刑事局長を同行し、北村警視総監に謝罪
→地検に手柄を譲ったと北村警視総監(落とし所)

J-5 今後、検事総長が、法務大臣に、現職国会議員の逮捕許諾請求の了承を求める
→法務大臣は世界平和教のシンパなので、大谷代議士に情報が漏れる可能性

K 警視庁記者クラブ「七社会」の毎読新聞社の警視庁デスク・村岡:原発建設疑惑(東日本電力の原発建設をめぐるゼネコン、暴力団、大物政治家の不正疑惑)の捜査に気づく
K-2 ①法務省記者クラブ=「司法クラブ」→ドンは毎読新聞・大村(名物デスク)→東京地検特捜部長などからのリークありうる
②警察庁記者クラブは「警察クラブ」
③警視庁記者クラブ:有力新聞社は「七社会」をつくる
K-3 特捜は、警視庁に口をはさめない
K-4 警視庁記者クラブ「七社会」の毎読新聞社の警視庁デスク・村岡
→総監室を張って警視庁「情報室」(北村総監直轄)による原発建設疑惑の捜査を感づく
→北村総監、公安部長、刑事部長、組対部長、公総課長がメンバー
→菱和会、風間建設、東日本電力会社、民政党大物国会議員が絡むと知る

L 検事総長が法務大臣に、大谷隆治内閣府特命担当大臣の逮捕許諾請求について了承を求める
→渡辺総理の対応:北村警視総監直轄の「情報のプロ集団」(警視庁「情報室」)を恐れる
① 篠沢官房長官は、独善的・傲慢でマスコミからの情報が入らず、役立たない
② 内閣情報官・大和田は警察庁出身だが、警察庁に現政権を支える動きなし
③「警察(警視庁)は味方でない」と総理は思う。警視庁は、他の道府県警察と異なり、警察庁に遠慮しない
④今回、検察は、警察(警視庁)に大きな借りがある
L-2 法務大臣が、検事総長の逮捕許諾請求に対し、了承を与える

M 毎読新聞社の警視庁デスク・村岡が警視庁総務部企画課内の秘密部隊をほぼ暴く
→「情報室」の吉田宏が、毎読新聞記者による11階の部屋の調査について知る

N 北村警視総監の了解のもと黒田が原発建設疑惑を東京通信政治部長・岡崎にリーク
①逮捕許諾請求の件
②警視庁情報室の存在(すでに設立7年)をフラッシング
N-2 政権交代の可能性が出てくる
→総理:警視庁情報室は怖い存在→ただし政権交代になれば警視庁情報室は四面楚歌
→「内調」は公刊資料だけで生きている
N-3 東京通信が①原発疑惑と逮捕許諾請求の件、②警視庁情報室の存在を、報道する
N-4 官邸機能、一時的に麻痺→政局へ→「捜査の進展を慎重に見守りたい」と総理
→毎読新聞社の警視庁デスク・村岡は失意

第4章-2 原発建設疑惑(続)
A H8(1996)、原発建設計画→東日本電力・立地担当常務・柴田廉三
→風間建設と取締役会で決定→風間建設のトップ・風間勝栄は柴田と東大工学部の先輩後輩→ともにMITへフルブライト留学
A-2 東電・柴田が風間(風間建設)と会う
→風間(風間建設)、①工費の見積り、②地元誘致の利権を計算
→東電・柴田、③「活断層&岩盤の調査」を依頼
→④「地域の建設業界とのパイプは大丈夫か」と東電・柴田、
→⑤「漁民も喜ばさないといけない」と風間(風間建設)
→⑥「用地買収のお手伝いもする」と風間(風間建設)

B 原発の計画設計情報を入手した時点から直ちに土地の確保:風間建設
①1000坪ほど買い上げておき、工事が決定するまで放置:風間建設は広域暴力団などの力も借りる Ex. 高速道路建設コースの橋建設の河川のどちらかの岸の土地を買う
②地質調査の名目で、法務局で土地の登記者を洗い出し
③温泉鉱脈調査、活断層調査などの名目で、二束三文の土地を、相場の4倍で買う
④土地ブローカーや広域暴力団・菱和会の力を借りる:菱和会には手数料15%、Ex. 売らない者の土地に熊を放つ、Ex. 警察が動くので不審火はやめる

C 原発反対運動対策:風間建設・菱和会
①交通事故を故意に起こし入院費用を見る:マッチ・ポンプ式
②立ち木トラスト運動(立ち木は1本1本に所有権が存在するので交渉が面倒)→除草剤を撒く
③反地運動が有機的に他の運動とつながる場合、警察は非友好的→暴力団が動きやすい
④反対する漁民には、網切り、生簀壊し

D エネルギー政策の重鎮、大谷代議士(内閣府特命担当大臣)に、東電の柴田常務が、原発建設について依頼
→建設計画から営業運転まで十数年かかると困る→事前交渉2年・工期4年、計6年で建設したい:東電の柴田
→ゼネコン(風間建設)も全力で取り組む:東電の柴田
D-2 原発建設をめぐる処理事項:大谷代議士と東電の柴田
①原発周辺の漁業権消滅区域200ha、漁業権制限区域100ha
②専用港の多目的化:原発燃料、核廃棄物運搬、さらに地元産業振興、海外の船入港可
③「ゼネコン(風間建設)の子会社はヤクザモン絡みじゃないだろうな」と大谷代議士
④大谷代議士が、建設・通産の担当課長に電話
⑤大谷代議士の秘書・松本に窓口一本化:知事・市長の陳情に対応
⑥「調査項目の事前調査は終わっているのか」と大谷代議士:環境、安全、耐震、「陸水」、騒音等「陸」、「海」、大気汚染など「空」、土地、産業活動、交通etc.

D-3 原発をめぐる大谷代議士の動き
①大谷代議士&秘書・松本→各省庁、地元の県市に対応
②大谷代議士の地元秘書・田澤→地元有力者に対応
③土地確保の手数料→地元秘書・田澤と地元の暴力団系土地ブローカーとの間で決定
④ゼネコン・風間建設より、大谷代議士、秘書・松本、地元秘書・田澤に謝礼
D-4 大谷配下の斉藤知事の原発建設同意→国の原発建設基本計画に組み込まれる

E 土地の不正取引
①県内外の建設会社、不動産会社がすでに原発建設予定地を押さえていた:先行投資
②原発建設予定地の地権者→運転資金の融資をエサに、暴力団に土地を取られる
③建設省の、県を通じての用地買収資金15億円は、暴力団に取られる。
④ゼネコン・風間建設から、広域暴力団・菱和会へ40億円(フロント企業経由)。

F 「怪文書」(=原発疑惑の「内部告発文書」)の慰留指紋
→怪文書の投函者が大谷代議士の地元秘書・田澤と分かる
→田澤は、世界平和教の別働隊の右翼団体のメンバー、大谷大臣の元公設秘書、覚醒剤使用・所持歴あり
F-2 怪文書とは誹謗中傷の文書→怪文書図書館あり→取材ネタになる、あるいは企業総務の危機管理対策に利用

F-3 大谷代議士の地元秘書・田澤耕太:大谷の地元で裏選対の担当者、金庫番の松本の指揮下
→かつて、私大で原理主義に心酔→世界平和教で活動→松本に見出され反共連盟へ
→松本に紹介された関西ヤクザとの接点から酒、女、覚醒剤にはまる
→覚せい剤所持で逮捕→公設秘書はクビになる
→地元にもどり大谷の私設秘書の名刺→「困った時の田澤頼み」と顔となる

F-4 大谷代議士の地元秘書・田澤と原発計画
①地権者を説き伏せる:関西ヤクザから学んだノウハウ
②田澤関連企業が、護岸工事を請け負う
③関西ヤクザも引き込む
④北朝鮮との交渉役→麻薬ルートにも手を染める→田澤、再び麻薬に手を出す
⑤ロシアン・パブ、コリアン・パブを経営
⑥ロシア、韓国、北朝鮮、中国からの不法入国者受け入れ:原発建設のため拡張された港を使用

F-5大谷代議士の秘書・松本:22年間、大谷の秘書一筋、金庫番
警視庁情報室の「危険」を察知→情報室を「叩け」と怪文書作成を田澤に指示
→田澤は、地元の利権で一生困らないが、警察に、麻薬・暴力団絡みを暴かれては困る
→松本にメールで怪文書を送り削除するが、復元ソフトで判明

G 大谷代議士の地元秘書・田澤耕太が覚醒剤を使用し菱和会とつながることを黒田が確認→後藤公安総務課長と黒田警視、逮捕・ガサ入れの手配→Cf. 公安警察は国家転覆者を敵とみなす
G-2  田澤の逮捕とガサ入れ(捜索・欧州)の手配
①北朝鮮の船が入った段階を狙う
→警視庁情報室がガサを打つとき東北管区、県警本部に連絡
→機動隊1個大隊(菱和会対応)、公安50人、組対(組織犯罪対策)50人、組対5課の薬物担当20人派遣
→ガサは東北、大阪池田市など20ヵ所
→不法滞在は入管に連絡、臨検は海保に事前手配
②朝一番で田澤をパクって、その日の午前のうちにガサをうつ。田澤はバン賭け(職質)で身柄を取る。
→「転び公妨」(転び公務執行妨害)で田澤逮捕予定:演技力がいる、わざと転び相手のせいにして公務執行妨害で逮捕する、一般人が見ている必要がある
③特別捜査本部長の刑事部長に連絡、警視総監にも連絡

H 田澤の逮捕とガサ入れ当日
①北朝鮮船入港→いつもの漁船が荷物を運んでくる→いつもより運ぶ荷物が大きい
②すでに観光バス6台で、機動隊が予め現地を実査
H-2 6:00警察学校で最終会議→7:30配置
①ペットボトルでアヘンチンキを飲む田澤→梶原警部補が「転び公妨」で田澤を逮捕
→「アヘン法」違反
②菱和会→組対5課薬物担当がキロ単位のアヘンと向精神薬押収→また暴力団関係者・不法入国者合わせて30余人逮捕
③公安部外事2課・外事3課→北の船舶から覚醒剤とアヘン発見
④警視庁情報室と捜査2課→大谷大臣と風間建設の関係を捜査

I 覚醒剤事件で大谷と暴力団の関係が問題となる→大谷議員辞職
→渡辺総理が解散・総選挙
I-2 北村警視総監→内閣を守るためでない情報組織を警察(警視庁)の中に作った→民主主義のため

エピローグ
A 最終的に、国会議員3名、官僚5名、地方自治体幹部2名など、計85名逮捕
→東日本電力、副社長柴田、また立地担当常務、辞職
→風間建設、会長と社長、辞任
→菱和会直系の複数の組長、フロント企業統括担当逮捕→警視庁情報部と公安部が無気味と思ったらしく被疑者・容疑者を本部命令で素直に差し出してくる
B 西村警察庁長官勇退→次期参院選挙に民政等より出馬
B-2 北村警視総監勇退→私立大客員教授
C 民政党晋政権→危険な集団として「警視庁情報室」は公安部公安総務課に吸収させる
D 世界平和教NY支局長・朴喜進(パクヒジン)から黒田警視に電話連絡あり
→朴が松本に「怪文書」を出させた→大谷はもう不要な人間だった→組織に新しい血が必要だ→黒田は世界の情報組織にまだ互角に戦えないと思う

《評者の感想》 
①(警視庁)公安部公安総務課員・黒田の活動費は100万円/月。警察庁から出るという。たいした金額だ。
②北村警視総監はは東大在学中米国留学、司法試験合格、警察庁に入るとは、優秀。西村警察庁長官も東大卒で優秀。「警視庁情報官」黒田警視も早大政経卒で優秀。
③警視庁、警察庁、法務省(検察庁)には、互いに、抑制と均衡の関係がある。
④(警視庁刑事部)捜査第2課(吉田)は贈収賄捜査担当で、地検特捜部と競合する。
⑤黒田警視の公安情報のための「協力者」づくりは、いくつかの人脈がある。
(1)早大の同窓:長銀勤務の山内明が都銀のMOF担を紹介
(2)FBI研修によるアメリカでの人脈
(3)野党議員の国会質問への協力
(4)アメリカで世界平和教NY支局長・朴喜進(パクヒジン)と出会う
(5)黒田と東日本電力との接点は株主総会対策(警察との接点):暴力団、エセ、右翼が東日本電力にたかる
⑤-2 国会の情報の収集:内調出身の会田の政治家との人脈、秘書との宴会が見事。国会の与野党関係、議員の動き、派閥関係、内情、人脈など把握。
⑥企業総務部はエリート社員である。例えば、東日本電力総務部・村上(東大卒、容姿もいい、センスもいい)は原発立地担当副長。
⑦原発建設にからむ民政党大谷隆司代議士の利権の構造が、明らかとなる。
(1)原発立地場所の情報を得る→風間建設→地元業者に丸投げし裏談合→広域暴力団菱和会が地上げ
(2)大谷代議士が世界平和教へ献金→反共団体へ→右翼団体・菱和会とつながる→世界平和教は北朝鮮ともつながる
(3)原発建設に伴う港湾施設整備で大谷代議士が資金を得る→北朝鮮貿易船の入港→覚醒剤・麻薬の密輸ルート→ロシアン・マフィア、コリアン・マフィアによる売春目的のパブ
⑧原発の計画設計情報を入手した時点から直ちに土地の確保:風間建設。(1)土地ブローカーや広域暴力団・菱和会の力を借りるなど悪質、(2)土地買い上げの先行投資もある。
⑨原発反対運動対策は悪辣:風間建設・菱和会。(1)マッチ・ポンプ式の交通事故、(2)立ち木トラスト運動に除草剤を撒く、(3)反地運動に警察は非友好的で暴力団が動きやすい、(4)反対する漁民に網切り・生簀壊し。
⑩大谷代議士の地元秘書・田澤の原発利権もすさまじい。(1)関西ヤクザから学んだノウハウで地権者から土地買い上げ、(2)田澤関連企業の護岸工事請負、(3)北朝鮮の麻薬ルートに手を染める、(4)ロシアン・パブ、コリアン・パブの経営、(5)ロシア・韓国・北朝鮮・中国からの不法入国者受け入れ(原発建設のため拡張された港を使用)。
⑪キャリア官僚、企業上層部、大物政治家、地元有力者からなる上層の社会が、厳然としてある。

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『ストーミーマンディ』牧村泉(1960生)、2005年、幻冬舎文庫

2013-02-05 11:57:34 | Weblog
  第1章
A 私、31歳、倉田諒子。私は5歳で母を殺し、12歳で姉を殺した。
A-2 今の私、今日は誕生日。ストーカーの男から電話。
A-3 私は病院の派遣事務職員。医師の清水孝(40)と不倫関係。すでに半年。

B アパートの部屋の前に、ストーカー男からバラの花あり。
B-2 続いてストーカー男から、バスデーケーキが置かれる。

C アパートの隣室に50歳過ぎのうるさ型の女、岡島が住む。マルチの販売員。私を、仲間にしたい。
C-2  清水が、忘れた私の傘を返しに、私のアパートに来る。私は不在。
C-3 岡島が自転車に乗った引ったくりに会う。→私が、逃げる自転車を倒す。→引ったくりの少女は10歳代。→私は少女を逃がす。

D ストーカー男によって、清水が置いていった傘が、めちゃめちゃに壊される。

  第2章
A 医師・清水のもとに、ストーカー男から写真が送りつけられる。私のアパートの部屋の前に、傘を置く清水の写真。清水は妻への、不倫の発覚を恐れる。→私は、清水の態度を嫌悪し、清水と別れることにする。

B 先日の引ったくり少女が、私のあとをつけてきて「今晩、泊めてくれないかな」と言う。森崎ミチル、高校中退。→「いいよ」と私。「ボディーガード」を頼む。

C 私は夢を見る。→私が15歳の時、父が胃がんで死ぬ。父は私を許さない。私に殺された13歳(中1)の姉。母を失った5歳の私。

D 札束と銃を引ったくったと、ミチル。ばあさんから引ったくったカバンに、入っていた。2000万円の札束と銃(チャカ)。→「諒子さん、やっぱり変わってる。チャカ見ても、出て行けと言わない」とミチル。
D-2 ストーカー男が、アイスクリームを置いて行く。
D-3 ストーカー男が、猫を置いて行く。→猫を捨てにいく。
D-4  ミチルは、諒子と同じく、父母がいない。

  第3章
A ストーカー男からメール。「俺の贈った猫を飼わないなら、思い知らせてやる」。→捨てた仔猫の死体が、アパートのドアの前に置いてある。

B アパートに帰ったとき、諒子が頭を殴られ気を失う。→ミチルが、ストーカー男に犯されている。→諒子が男を、銃で撃ち殺す。

※ この時点で、31歳の諒子が知らない事情
 ① ミチルは実は、諒子の異父妹。ミチルと諒子の母は、同じ。
 ② 諒子が撃ち殺したのは、実はストーカー男でなく、ミチルの異母兄。ミチルの母親が結婚したときの、その父親の連れ子。
 ③ 諒子の母は、実は死んでいない。母は、色情狂。自動車事故(自殺未遂?)のあと、諒子の父親と離婚。さらに男遍歴を続ける。→母は、ミチルの父親と再婚し、ミチルが生まれる。→ミチルは、やがて、父親の連れ子の兄(ミチルの異母兄)に犯される。母は、この兄とも関係していた。

C 諒子の回想:母の事故(死)のあと、姉(1歳年長)と諒子は祖母に引き取られる。姉6歳、諒子5歳。→母を結果として殺した私(諒子)を、姉は許さない。姉は、とことん私をいじめる。→姉が13歳(中1)、私(諒子)12歳(小6)の時、雨が激しく降る日、私は、私をいじめる姉を海に突き落とす。姉は死ぬ。私は、姉を殺した。→しかし、当時、警察は、姉は事故死と結論づけた。→祖母は、姉と私の出来事の一部始終を見ていたが、黙っていた。

※ この時、12歳の諒子が、知らなかった事情
 ① 祖母は、姉にも私にも、母が事故死したと、言っていたが、実は母は生きていた。母は、色情狂で、外に男をこしらえ、当時、父親といさかいが絶えなかった。母は、自動車事故に会うが、事故のあと回復。そして諒子の父親と離婚した。
 ② 祖母はそれなのに、死んだと、姉にも私にも、嘘をついた。
 ③ 母の自動車事故は、私(諒子)が、母に「死んでしまえ」と言ったので、母が自動車に意図的に飛び込んだのだと、私は思った。姉もそう思った。祖母が嘘をついて「母は死んだ」と、姉妹に伝えたので、私は「母を殺した」と悩み、姉は母を殺した私を憎み苛めた。
 ④ 要するに、私も姉も、母が色情狂であり男にだらしないため、また、祖母の嘘のために、ひどい状況になった。(「私は姉を殺した」。「姉は私をいじめた」)

D ストーカー男を撃ち殺した私(諒子)に対し、ミチルが「自首することはない」と言う→「(恋人の)ヨースケに、片付けてもらう」とミチルが、携帯をかける。

  第4章
A 岡島が、諒子の部屋にやってきて、射殺されたストーカー男(※実はミチルの異母兄)の死体を発見。→ミチルが、引ったくり犯だと気付き、部屋の中に、岡島がかってに入って来る。岡島が、死体を発見したので、ミチルが岡島を射殺。
B ヨースケが到着し、岡島の死体を、隣の岡島の部屋の冷蔵庫内に、3人で運び、隠す。
C ミチルとヨースケが、ストーカー男(※実はミチルの異母兄)の死体を、捨てに行く。
D その間に何と、ストーカー男から、諒子に電話がかかる。諒子は「自分が射殺したあの死体は、誰だったのだろう?」と愕然とする。

  第5章
A ミチルとヨースケが、もどってくる。→逃亡のための服を買いに、ミチルが外出。→諒子がヨースケに好意を持ち、ヨースケとエッチする。
A-2 ミチルと諒子が新幹線で逃亡。

B 新幹線内で諒子は、昔を回想。諒子5歳、姉6歳。当時、母24歳、父36歳頃。(母17歳、父29歳で結婚。)母は、しばしば突然家出し、外泊も多かった。母は、近所で悪口を言われる。父と母の諍いが続く。「死んでしまえ」と父。「死んでやる」と母。→ある日、5歳の私は、幼稚園の劇を見に来てくれなかった母に、「死んじゃえばいい!」と言った。母は自動車に飛び込み、死ぬ。

※ 母は、実際、この時、自動車事故に会うが、事故のあと回復。母は死ななかった。そして父親と離婚した。しかし、祖母は嘘をつき「母は死んだ」と姉にも私にも言った。母が色情狂で、離婚したとは、祖母は言えなかったのだろう。(第3章C参照)

  第6章
A 新幹線で大阪に着き、大阪の廃業した土木会社のプレハブに、ミチルと諒子が住む。
B ミチルが謎解きをする。→諒子の母は、実は死んでいない。母は、色情狂。自動車事故(自殺未遂?)のあと、諒子の父親と離婚。さらに男遍歴を続ける。(第3章B参照)→諒子の母は、ミチルの父親と再婚。ミチルの義父には連れ子がいた(ミチルの異母兄)。ミチルは母親の再婚後の子ども。→母親は色情狂で、再婚した父親だけで満足できない。母親は、義父の連れ子と関係する。義父は、頭に血が上って、自分の娘のミチルに、手を出す。→義母と関係し色気違いとなった異母兄は、異母妹のミチルを犯す。
B-2 ミチルは異母兄、義父、母親を皆殺しするつもり。
B-3 祖母が、自動車事故のあと、母が色情狂のため「父と離婚した」と言わず、嘘をついた。自動車事故のあと「母は死んだ」と、祖母が、諒子と姉に伝えた。そのため、諒子は「母を殺した」と悩み、姉は「母を殺した」と私を憎み苛めた。(第3章C参照)

C 義父から2000万円と拳銃を盗んで逃げたミチルが、「もどってきている」というので、義父が、様子を見に来た。→「父親は、もう刺し殺した」とミチルが諒子に言う。→ミチルの義父は、覚醒剤を売り、大金を手に入れていた。

D 「ね、お姉ちゃん」とミチル。「あいつ(母親)は、お姉ちゃん(諒子)と一緒に、殺したい」と言う。→「殺さなくていい」と私(諒子)。→言い争いとなり、私はミチルを射殺。

  第7章
私は、拳銃と2000万円が入ったカバン、ミチルの携帯を持って、「ミナミ」まで逃げる。→ホームレスが、諒子に空きビルを教えてくれる。

  第8章
A ミチルの携帯に、ヨースケから電話が入る。→ヨースケが、諒子の空きビルに現れる。GPS機能で、諒子の居場所が分かった。

B ヨースケが、諒子を拳銃で、殺そうとする。ヨースケが謎解きをする。
 ① 諒子が撃ち殺したのは、ミチルの異母兄だが、実はミチルは、初めから、諒子に異母兄を射殺させるつもりだった。ミチルは自分を犯す異母兄を殺したかった。→諒子に殺させるため、ミチルの異母兄に、ヨースケが諒子の住所を教えた。異母兄が諒子のアパートに現れ、ミチルを犯す。諒子が、異母兄を射殺。
 ② ミチルの計画は、全員を殺すことである。まず、ミチルは、義父を殺す。母親が再婚した義父は、ミチルを犯した。ミチルは、義父から2000万円と拳銃を盗んだ。
 ③ ミチルは当然、母親も殺す計画。母親は義父だけで満足できず、義父の連れ子の異母兄とも関係。ミチルが義父に犯され、さらに異母兄にも犯されるという状況に陥らせたのは、母親。
 ④ 諒子は母親を殺すことはないと、ミチルを止めた。そのとき、勢いで諒子は拳銃を発射し、ミチルを殺す。(第6章、第7章)
 ⑤ ミチルは、初め、義父、母親、異母兄を殺し、その罪を、すべて私(諒子)に負わせ、私(諒子)を拳銃で自殺させるつもりだった。→ミチルは、この計画を、恋人のヨースケと立てる。→ストーカー男は、ヨースケが、演じていた。ミチルとヨースケの計画の一環。→ところが、ミチルは諒子に情がわく。「ね、お姉ちゃん」とミチル。「あいつ(母親)は、お姉ちゃん(諒子)と一緒に殺したい」と言う。ところが「殺さなくていい」と考える諒子と言い争いとなり、諒子がミチルを射殺
 ⑥ ヨースケは、恋人のミチルのためでなく、2000万円がほしいいただけだった。私(諒子)に、ミチルも殺させて、すべての罪を私(諒子)にかぶせるつもりだった。

C このヨースケの計画は、99%、成功する。しかし最後、私(諒子)が、隠し持っていたナイフでヨースケを殺す。

D その後、私(諒子)は自殺する。私は、昔、姉を殺し、今、異母妹のミチルも殺した。ミチルの異母兄も殺した。さらに、ヨースケも殺した。私に、生きる気力はない。
 (1) 「母を殺した」との私の贖罪感は、虚妄だった。
 (2) 姉が6歳から13歳まで私に対して持った「憎しみ」も虚妄。
 (3) 姉を殺した「私の悲しみ」も、虚妄にもとづいていた。
 (4) 諒子を信じた異父妹ミチルを、殺してしまった。→「私のこれまでの人生とはなんだったのか。死にたい。しかも、私の面は割れており、警察に捕まるのも時間の問題!」おそらく、そう諒子(私)は思ったにちがいない。

  《評者の感想》
 『ストーミー・マンディ』は、適切な題。「月曜も、火曜も、水曜も最低でひどい。木曜に悲しくなり、金曜に出費。土曜に憂さ晴らし。日曜は教会で慈悲を願う。」とのこと。
 諒子の人生は全くひどい。なぜひどいのか、原因を列挙しよう。
 ① 母の色情狂が、「ひどさ」の第1の原因。
 ② 「母が死んだ」との祖母の嘘が、第2の原因。
 ③ 諒子をいじめた姉が、ひどい人生。姉を殺した諒子が、さらにひどい人生。諒子と姉の関係の存在そのものが、「ひどさ」の第3の原因。
 ④ 諒子の異父妹ミチルの人生もひどい。義父に犯され、異母兄にも犯される。さらに慕っていた異父姉の諒子に殺される。諒子とミチルの関係の存在そのものが、「ひどさ」の第4の原因。
 ⑤ 諒子は、一瞬、ヨースケを味方と思うが、それも裏切られた。これが「ひどさ」の第5の原因。
 神様の慈悲は、なかった。
 
 こうした諒子のひどい人生を描く作者は、「人生へのペシミズムが、今の時代、共感を得やすい」と思うのだろう。そして①共感者が多ければ、本が売れお金が入る。作者の生活が楽になる。または②ニーズについての予想が当たり、作者は満足する。
 作者は、諒子に同情しているのだろうか?それともフィクションとして興味半分に、人物像を作ってみただけなのだろうか?

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