宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

三田村信行(1939-)「おとうさんがいっぱい」(1975年)『絶望図書館』(頭木弘樹編)所収:1人のおとうさんが、おとうさん(1番)・(2番)・(3番)へとワープ的に分裂し乱闘する!

2018-09-17 21:15:31 | Weblog
(1)
全国の家庭でおとうさんが増えた。(増えない家もあった。)トシマ・トシオの家ではおとうさんが3人(1~3番)になった。「自分が本物だ」とお互いに喧嘩し、大騒ぎになった。おかあさんは狼狽し、病気になってしまった。
(2)
全国でおとうさんが増えたのは、1週間だけだった。その後、政府は家庭再組織委員会の調査官を各家庭に派遣し、増えたおとうさんのうち、「誰を本当のおとうさんにするか」判定させた。トシマ・トシオの家では、トシオが判定者となり、おとうさん(1番)が本当のおとうさんと認定された。(実はトシオは困ってアミダで決めた。)他の二人のおとうさん(2番)・(3番)は、警察に連行され、国家の管理下で別人として生きることとなった。
(3)
問題は解決し、今や「全ては、一時的な悪夢にすぎなかったのだ」とトシオは思った。おかあさんも元気になった。そんなある日、玄関に誰かが来た。そこに何と、もう一人の自分(トシオ)がいた。そのもうひとりの少年(トシオ)は、自分(トシオ)を見て驚き呆然とした。

《感想1》
全く同じ身体、同じ生年月日、同じ経歴、同じ人生経験、名前(トシマ・タツオ)も同じ、3人のおとうさんが出現した。
《感想2》
最初のおとうさんから見ると、身体が同一・過去が同一だが、今以降は、身体・経験が別の他の2人のおとうさんがいることが驚愕だ。
《感想2-2》
おとうさん(1番)は先に会社から帰宅して家にいた。おとうさん(2番)が外から電話してきて、しばらくして家に帰って来た。飲み屋で飲みすぎ、公園で寝て夜明かししたおとうさん(3番)もいた。では分裂する前のおとうさん(1番=2番=3番)から、おとうさん(1番)・おとうさん(2番)・おとうさん(3番)へと分裂した時の具体的状況はどのようなものだったのか?
《感想2-3》
分裂前の1人のおとうさん(1番=2番=3番)の身体は、そのまま、おとうさん(1番)の身体となり、分裂しワープして生まれたおとうさん(2番)の身体・おとうさん(3番)の身体が、この世界の中のそれぞれ別の場所に出現する。
《感想3》
分裂前、おとうさんの身体は一つしかない。その身体が分裂しワープして3つの身体になった。ただしおとうさん(1番)・おとうさん(2番)・おとうさん(3番)の各人の意識(記憶)と、分裂前の1人のおとうさん(1番=2番=3番)の意識(記憶)が、つながっていなければならない。
《感想4》
分裂前の1人のおとうさん(1番=2番=3番)の身体は、そのままおとうさん(1番)の身体となり、それとは別に、分裂しワープして、おとうさん(2番)の身体、おとうさん(3番)の身体が、この世界の中に出現したと考えられる。
《感想5》
おとうさん(1番)については、もとのおとうさんと身体が同一だから、つまり身体の場所が突然ワープし他の場所に移るということがないので、もとのおとうさんの記憶とつながる。
《感想5-2》
分裂しワープして異なる場所に出現する2つの身体は、今や違う場所にいて、その各おとうさん(2番)(3番)の意識(記憶)は、どのようにして、もとのおとうさん(1番=2番=3番)(今は1番)の意識(記憶)と連続しつながるのか?ワープすると、別の場所に移るので、場所に関してもとのおとうさんの記憶と普通、つながらない。
《感想6》
この場合、「覚醒」していたら、身体が分裂しワープしたおとうさん(2番)・おとうさん(3番)の分裂以後の意識(記憶)が、分裂前の1人のおとうさん(1番=2番=3番)の経験の意識(記憶)と、断絶し連続しない。つまり場所の意識(記憶)が連続しない。かくて身体の分裂・ワープは、分裂前の1人のおとうさん(1番=2番=3番)の「睡眠中」に生じるしかない。
《感想6-2》
1人のおとうさん(1番=2番=3番)が、土曜日で早く会社を出て、家に着く前、電車内で居眠りした。その時、おとうさんの身体は3つに分裂した。つまり、その場所にそのまま残った身体と、分裂しワープし他の場所に移動した2つの身体だ。
《感想6-3》
突然無から電車内の他の場所に出現した身体は、無からの出現を他者から気づかれてはならない。電車内の周りの他者たちは乗り降りの際に入れ替わりごちゃごちゃで、またドアの出入りの最中などに物陰からある人がワープして無から突然現れても気づかない。(どの身体も、他者と同じ世界の内にあるから、他者に無からの出現が気づかれてはならない。)
《感想6-3-2》
補遺:どの身体も、他者と同じ世界(日常生活世界or至高現実)の内にある。おとうさん(1番)・おとうさん(2番)・おとうさん(3番)の各人の意識(記憶)も、分裂前の1人のおとうさん(1番=2番=3番)の記憶も、この他者と共有された世界の意識(記憶)だ。
《感想6-4》ワープによる無からの《身体の突然の出現》を「他者」から気づかれてはならないと同時に、おとうさん(2番)・おとうさん(3番)「自身」が、他の場所への《身体の突然の出現》について知ってはならない。だから身体が電車内の他の場所に出現する時、おとうさん(2番)・おとうさん(3番)は夢遊病的に睡眠中でなければならない。そして分裂前の1人のおとうさん(1番=2番=3番)がすわった場所と似たような車内の別の場所におとうさん(2番)、おとうさん(3番)は、夢遊病的に睡眠したまま離れてすわる。彼らは、かつて1人のおとうさん(1番=2番=3番)だった今のおとうさん(1番)とも席が離れている。そして、おとうさん(1番)はいまだ睡眠中、おとうさん(2番)も、おとうさん(3番)も睡眠中だ。
《感想6-5》
かくて今や、同一の電車内に、互いに出会うことなく、おとうさん(1番)、おとうさん(2番)、おとうさん(3番)が存在し、互いに離れた座席に座って睡眠している。そして眠りから覚め、寝ぼけ状態で、おとうさん(1番)は、どこにもよらず早く帰宅する。おとうさん(2番)も寝ぼけ状態で席が変わったことに気づかず、電車を降り、寄り道し、家に電話をかけ、しばらくして帰宅した。おとうさん(3番)も寝ぼけ状態で席が変わったことに気づかないまま、電車内で偶然、友だちに会い、さんざん飲み、酔いつぶれて公園で夜明かしした。
《感想7》
以上が、1人のおとうさん(1番=2番=3番)が、おとうさん(1番)・おとうさん(2番)・おとうさん(3番)へと分裂し出現した時の具体的状況と推定される。(※これは評者による推定。しかも一例だ。作者は、分裂の具体的状況を説明しない。)
《感想7-2》
もとのおとうさんが、「自分が分裂しワープできる」と思っている(Ex. 分身の術を使う孫悟空)なら、評者が述べたような、①身体の分裂・ワープの際に本人たちが「睡眠中」あるいは「夢遊病的に睡眠中」であること、また②「他者たちに身体が無から出現することに気づかれないこと」というような具体的状況を考える必要がない。この小説のポイントは、分裂して出現した3人のおとうさんが、「自分こそ本当のおとうさんだ」(自分は分身などではない)と主張して、「自分が分裂しワープしたことを認めない」ことにある。
《感想7-3》
意識が一つのまま、身体が分身(分裂)し、分身した複数の身体に部分的意識が宿るケース(Ex. 上記、分身の術を使う孫悟空)では、「自分こそ本物だ」と分身が主張することはない。
《感想7-4》
ところが3人のおとうさんへの分裂(分身)のケースでは、分裂した身体に宿る意識のそれぞれが、「自分こそ本物の意識だ」と主張し乱闘する。「分裂後は別々の経験をしている別々の意識なのに、その分裂後の各意識が、過去と連続した一つの意識となっている」、つまり「今の別々の意識がどれも、同一の過去の経験の意識(記憶)と連続している」という事態が今、生じている。分裂した意識のそれぞれが、「自分こそ本物の意識だ」(分身ではない)と主張する。かくて「そのような事態がなぜ生じたか」を明らかにするため、身体のワープ的分裂の際の具体的状況を推定する必要があった。

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キケロ(前106ー前43)『老年について』:①「公の活動」ができなくなる!②「肉体」が弱くなる!③「快楽」が奪われる!④「死」が近づく!だが老年は惨めでない!

2018-09-14 20:43:19 | Weblog
古代ローマの政治家・文人大カトー(84歳)が二人の優秀な若者に、老いと死について語るという形で書かれている。大カトーは軍団副官としてセレウコス朝シリア王を破る。(前191年)また監察官として峻厳に職権を行使した。(前182年から任期1年半)

(1)不平のない老人
A 不平のない老人は「欲望の鎖から解き放たれたことを、喜びとする。」そもそも「不平は、性格の所為であって、年齢の所為ではない。」(三)
B 「人生を善く生きたという意識と、多くのことを、徳をもって行ったという思い出ほど、喜ばしいことはない。」(三)

《感想1》古代ローマにおいて「善」あるいは「徳」は、共通理解があった。
《感想2》現代は、世界観(政治神学)間の闘争があり、何が「善」で、何が「徳」か不分明だ。
《感想3》大カトーにとってローマがすべてであり、他の諸国・諸民族は、ローマに支配されるべきものとされた。

(2)老年が「惨め」である4つの理由
C 「老年が惨めなものと思われる理由」は4つあると大カトーが言う。①軍事・政治など「公の活動」ができなくなる。②「肉体」が弱くなる。③「快楽」が奪われる。④「死」が近づく。(五)

《感想》老年の惨めさのこの4種類は、今も、妥当だ。①「公の活動」(Ex.会社、個人事業、政治家)から退職・隠居・引退する。君は無用あるいは戦力外となる。②「肉体」の衰えは明らか。③「快楽」(Ex. 飲む打つ買う)から遠ざかる。④「死」が近づき、残された人生の時間は少ない。

(3)「公の活動」ができなくなると惨めか?(①)
D 老人は「思慮・権威・見識」で「公の活動」に貢献できる。(六)
Dー2 若い盛りは「無謀」だが、老いゆく世代は「深謀」だ。(六)
Dー3 詩人、哲学者では、知力・情操が老年に盛んとなることがある。(七)
Dー4 賢者であり、また徳を持った老人は、若者から愛される。(八)

《感想》老人は、賢者であり、徳を持つ者として、その「思慮・権威・見識」、「深謀」で、若者に影響力を与える。かくて間接的に「公の活動」に働きかける。

(4)「肉体」が衰えると惨めか?(②)
E 老人の「静かで気負いのない話ぶり」、「整然とした穏やかな」雄弁は、傾聴を勝ち取る。(九)
E-2 老人が、体力的に演説できなくても、若者に教えることができる。(若者の熱意に取り囲まれた老年ほど喜ばしいものはない。)(九)
E-3 若者の覇気(Ex. 勇士)、安定期にある者の重厚さ(Ex.執政官・軍司令官)、老年期の円熟(Ex. 深慮ある言葉)、これらは各々、自然の恵みだ。(一○)
E-4 鍛錬と節制で、老年においても一定の頑健さが維持できる。(一○)

《感想》老年とは円熟であり、「静かで気負いなく、整然と穏やかな雄弁」が可能となる。老人は「肉体」が衰えても、若者に尊敬され、そして彼らを教えることができる。幸福で楽しく豊かな老年だ。

(5)「快楽」が奪われると惨めか?(③)
F 「老年に快楽がない」と主張するのは俗説だ。(一ニ)
Fー2 「肉体の快楽」は「精神」に有害であり、「自制」も「徳」も破壊される。「理性」も「思索」も弱まる。「快楽ほど忌まわしく害毒のあるものはない。」「魂の光をすっかり消してしまう。」(一ニ)
Fー3 「肉体の快楽」がなくなれば、「精神」への害悪が減る。(一ニ)
Fー4 もちろん老年になっても「節度ある酒席」(快楽)を楽しむのは良いことだ。「破目をはずした宴会」でなく会話を楽しみ、「生を共にする」。(一三)
Fー5 老年の快楽に、「研究や学問」というような糧があれば喜ばしい。(一四)
F-6 老年には農作業も楽しい。Ex.葡萄作り。(一五)
G なお「老人は気むずかしく、心配性で、怒りっぽく、扱いにくい」と言うが、これらは「性格の欠陥」であって、「老年の咎(トガ)」ではない。(一八)

《感想》「肉体の快楽」は精神の害悪だから、老年になって「肉体の快楽」が減ることは、良いことだ。節度ある宴会、会話の楽しみ、研究・学問、農作業など老年にふさわしい「快楽」がある。

(6)「死」が近づくと惨めか?(④)
H 「人は皆、生きるべく与えられただけの時に満足しなければならぬ。」「青年が望むところを老人は既に達成している。」「あちらは長く生きたいと欲するが、こちらは既に長く生きたのである。」(一九)
H-2 「自然に従って起こること(※死)は全て善きことの中に数えられる。」(一九)

《感想》老人はすでに、「生きた」のであり、若者はまだ「生きていない」のだから、老人が「残りが少なくて惨め」というのは我が儘だ。死は「自然に従って起こること」だから「善きこと」である。

(6)ー2 「魂の不死」について
I 大カトーは、「魂の不死」を求める。彼は「この世から立ち去った時にこそ初めて真に生きることになるとでもいうかのように、絶えず後の世を見つめて来た。」彼は「不死の誉れ」を求め最大の努力をしてきた。(二三)
I-2 賢い人ほど平静な心で死んで行くのは、彼が自分の「魂の不死」を信じ、自分の魂が「より良い世界へと旅立つ」ことが見えるからだ。(二三)
I-3 「魂が不死である」からこそ、死後、すでに亡くなった人々の魂と会える。(二三)
J 「仮に、われわれは不死なるものになれそうにないとしても、人間はそれぞれにふさわしい時に消え去るのが望ましい。自然は、他のあらゆるものと同様、生きるということについても限度を持っているのだから。」(二三)

《感想》大カトーは、一方で「魂の不死」を信じたいと思うが、他方で「不死なるものになれそうにない」とも思う。古代ローマ人は現実主義者だ。彼らは「魂の不死」を信じないことがあるが、「自然」は信じる。

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瀬戸内寂聴(1922-)「死について」『寂庵説法』(1985年)所収:「この世は美しい。人間のいのちは甘美なものだ」と釈尊は言った!

2018-09-14 20:41:14 | Weblog
A 「死について」の説法で、寂聴氏が紹介した「自分の死期を予感した釈尊(お釈迦様)」の言葉が印象的だ。
A-2 釈尊が弟子のアーナンダに向かってしみじみと言う。「アーナンダよ、私はもう老いさらばえて、年をとり、老衰し、人生の旅路も終わりに来て、八十になってしまった。車でいえばまるでポンコツだ。ようやっと革紐にささえられて、私のがたがたの車は保っているのだよ。」
B その釈尊がその後ですぐ、「この世は美しい。人間のいのちは甘美なものだ」と言った。

《感想1》仏としてのお釈迦様でなく、説法の旅で体が疲れる老人としてのお釈迦様の気持ちが、率直に表されている。
《感想2》そして、この世についてのお釈迦様の感想は驚くべきものだ。それは人生の無条件の賛歌だ。《無常》を説いたお釈迦様でなく、心持ちにおいて《幸福》な人生を送ったお釈迦様が、ここにいる。
《感想3》心が通い合ったときの喜び。美しい自然への感嘆。小さな子供の可愛さ。愛する者同士が示す幸せの表情。また美味しいものを食べた時の喜び。これらを思えば、「この世は美しい。人間のいのちは甘美なものだ」と言える。人生には、多くの喜びもある。(ただし、欲張ってはいけない!)

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瀬戸内寂聴(1922-)「むなしさについて」『寂庵説法』(1985年、63歳)所収:2017年、15~39歳の各年代の死因の第1位は「自殺」だ!

2018-09-13 22:47:30 | Weblog
瀬戸内寂聴『寂庵説法』の13の説法のうち、興味深かった説法「むなしさについて」をまとめた。

A 「人生なんてどうせ、生れて死ぬだけじゃないか、努力して何かになったところでしれてる。ああつまんない。」こういう「投げやりな虚無的な考え方」が若い人に時々ある。これは「しらける」と呼ばれる。

《感想1》まさしく、これが今の老年の君だ。君は若くなく「虚無的」だ。だが、もちろん真面目に生きている。日常生活は普通に滞りなく処理するし、他者とも何とか付き合う。だが、君は「どうせ、生れて死ぬだけじゃないか」と秘かに思う。
《感想2》ところで、この『説法』が書かれたのは1985年で、まだ非正規雇用が広がっていないし、正規雇用者の終身雇用制度も壊れていない。今(2018年)は、非正規雇用が広がり、終身雇用制度も壊れた。かくて若い人はしばしば「しらける」余裕がない。ともかく食べていかねばならない。若い人に、厳しい時代になった。将来の人生設計・見通しが大変だ。非正規雇用では「努力して何かになる」のが、まず大変だ。今は、「搾取」の時代だ。

B 若い人たちが、何かあるとお決まりのように、「自分は生れたくて生まれたんじゃない、両親が勝手に好きなことして生まれたんだから、責任とってくれよ。」と言う。これに対し、今東光師(寂聴氏の師)なら、「じゃ手めえたち、すぐ、死んじまえ。」「生きてることを有り難がらないでべんべんと生きてる野郎は、ゴクつぶしというんだ。もったいないから死んでしまえ。」と怒鳴るだろう。そう寂聴氏が言う。

《感想1》今東光師の言葉は、至極もっともだ。生きたくないなら「すぐ、死んじまえ」ばいい。これが、甘えた若者の言葉なら、その通りだ。
《関雄2》だが自殺する若者が多い。2017年、15~39歳の各年代の死因の第1位は「自殺」。特に高いは20~24歳が48.1%、25~29歳が47.0%でほぼ5割だ。15~34歳で死因の第1位が自殺となっているのは主要7先進国では日本のみだ。
《感想3》もちろん《死ぬのが怖い》ので、あるいは《生きたい》ので、自分から死なない人が多い。

C 寂聴氏が言う。「私は自分の才能の可能性を試したいばっかりに、家庭を破壊し、子供を捨て、自分の欲望に生き」た。そしてついに私は、めざす「小説家」になった。ほしいものがすべて手に入り、私は「むなしさになげこまれている自分を発見した」。
C-2 名声とか、お金とか、地位とか、「人間の欲望は果てしもなく、それを満たすためには手段を選ばない。」
C-3 私は欲望の「鬼」だった。あるいは「餓鬼」だった。また全力を傾けたつもりだった仕事も、満足できなかった。マンネリズムで、このまま書き続けてもしょうがない。私は「虚無の淵」を見た。(この時、寂聴氏は51歳。)

《感想》寂聴氏と異なり、他方、残念ながら君の場合は、「ほしいものがすべて手に入る」など全くなかった。今や君は、欲望の鬼であり続ける元気もなくなり、諦め絶望して、「虚無の淵」を見る。

D 「むなしさ」に陥った寂聴氏は、本気で自殺を考えた。だが「ある日突然、死ぬ気なら何だって出来るという心の底の誰かの声を聞」く。そして幾日かが過ぎた時、不意に「出家という道がある」と「何か」が囁く。
D-2 この「誰か」あるいは「何か」とは、「超越者」の声、つまり「仏」の声だった。
D-2 寂聴氏は、今東光師に出家を許され、中尊寺で得度の式をあげた。「私は、中尊寺の仏の前で、それまで51年生きてきた瀬戸内晴美という女を殺し、寂聴という尼僧として、この世にもう一度再生したのでした。」

《感想1》寂聴氏の次の言葉が印象的だ。「死ぬまで私には悟りなど得られないことでしょう。それでいいのです。私はもう、すべてを仏の御心のままにゆだねきっているので、実に楽で平安な気持ちでいます。有り難いことだと感謝せずにはいられません。」
《感想2》彼女のこの平安さは、小説家として「自分の生活くらいまかなえるだろう」との経済的保障への確信が秘かな前提だ。
《感想3》経済的にひどく難渋していれば、もしかしたら君は「仏」を恨むかもしれない。

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烏賀陽(ウガヤ)正弘(1932-)『世の中の仕組みが分かる 超「〇〇(マルマル)の法則」辞典』(2016年)

2018-09-13 10:18:40 | Weblog
第1章「企業と組織」の12法則、第2章「数字と確率」の14法則、第3章「人生」の13法則、第4章「人間社会」の11法則より、以下(1)~(9)の法則について紹介・コメントする。

(1)「マシュマロの法則」:社会的成功には「自制心」が重要!
「自制心」が強い子供ほど、後に成功するという法則。4歳の子供186人の実験で、机の上の皿にマシュマロ1個を載せ、「15分の間、食べるのを我慢したらマシュマロをもう1つあげる、食べたら2つ目はないよ」と言って部屋を出る。マシュマロを食べなかった(「自制心」がある)子供は、約1/3。そして10数年後、1988年の追跡調査で、大学進学適性試験(SAT)のスコア(計2400ポイント)が彼ら「自制心」がある子供は210ポイント、他の子供より高い。2011年の追跡調査でも、彼らの社会的成功度が高かった。

《感想》「自制心」つまり忍耐強さが、社会的成功に役立つことは予想がつく。これを実験的に証明した点がすごい。

(2)「YAGNI(ヤグニ)の法則」:今、最も重要なことが何かを選び定め、それに集中する!
ソフトウェア開発の手法。"You ain't gonna need it". 「そんなものは必要ないさ!」つまり「本当に必要かどうか分からないようなものをあれこれ考えすぎて設計・実装したりしない!」

《感想》日常生活では、例えば、将来のためと思ってあらかじめ物を買っても、結局持て余してしまうことが多い。人生に応用すれば、今、最も重要なことが何かを選び定め、それに集中するのが最良だ。

(3)「割れ窓の法則」:割れた窓を放っておくと犯罪が拡大する!
軽微な犯罪を徹底的に取り締まると、凶悪犯罪を抑止できる。Ex. 割れた窓を放っておくと、やがてさらに窓を割る・落書きする・放火する・不法占拠して犯罪の温床となると連鎖する。1994年NYジュリアーニ市長が「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策を実践し、警官にSTOP-AND-FRISK(停止&身体検査)を認め、治安回復させた。

《感想1》だがNY警察のSTOP-AND-FRISKは人種差別的だと批判された。「職務質問」に「身体検査」を加えたものだ。2013年に連邦地裁が違憲判決。日本の昔の「おいこら警察」だ。
《感想2》むしろ、この割れ窓の法則は、子どもに対する生活指導にあてはまる。普段から子供を丁寧に観察、注意、アドバイスすることが大事だ。

(4)「コベットの法則」:美しさは皮一枚だけのことだ!
1829年に英国のWilliam Cobbetが述べた。 “Beauty is only skin deep.” 見た目の美しさは、表面の皮一枚だけだ。大切なのは、皮の下の中身を見抜くこと!

《感想1》それは、そうだが、女性の場合、「容姿端麗」は社会的上昇の武器だ。
《感想2》そもそも昔から、女性は美しさが称揚された。ニニギノミコトは美しい木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)と結婚したが醜い姉の磐長姫(イワナガヒメ)は実家に帰してしまった。『竹取物語』のかぐや姫も美しい。
《感想3》真善美と、美が永遠の価値の一つとされるのだから、表面の皮一枚の見た目の女の美しさに騙され、その下の中身を見抜けない男が、たくさんいるのは必然だ。

(5)「ビル・ゲイツの法則」:難題は怠け者に任せろ!
マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツが、「怠け者は、もっとも簡単な方策を見つけるから、難題は怠け者に任せる」との方針をとった。

《感想》
ここで言う「怠け者」とは、怠けるために様々な工夫や手段を考える者だ。「怠け者」は便利さを追求する。そもそも売れる商品とは便利な商品だ。物質文明とは、「怠け者」の文明である。また消費者の本質は「怠け者」だ。

(6)「チェンバースの法則」:大きい企業が勝つのでない、速い企業が勝つのだ!
世界最大のコンピューター・ネットワーク機器開発会社、シスコシステムズ社の会長John Chambers が述べた。

《感想1》もちろん資金は企業にとって不可欠だ。だが豊富な資金力があるだけでは、大企業だからといって競争に勝てない。
《感想2》中小企業でも、速い企業は勝てる。ここで「速い」とは企業が、IT化、インターネット化することだ。「速い企業」でないと勝利できない、は生き残っていけないのは、現代の常識だ。

(7)「シャチの法則」:シャチの追跡調査で、経験豊富な更年期のメスがリーダーとなるとわかった!
2001-09年間のシャチの追跡調査で、「経験豊富な更年期のメスがリーダーとなり、エサになる鮭のいる場所へ誘導する」ことが明らかになった。更年期のメスのシャチは、生殖能力が低下するが、進行方向の判別能力や危険察知能力が高い。人間でも経験豊富な年配の女性が長年培(ツチカ)った知恵で、リーダーになってもおかしくない。Ex. ドイツのメルケル首相、イギリスのサッチャー首相。なおドイツは2016年初め、大手企業役員の30%に女性登用することを法的に義務付けた。割当(クオータ)制である。

《感想》日本の女性も頑張ってほしい。「かわいい」「けなげ」「美人」だけで女性を評価するような男に従うことはない。

(8)「日本商社の交渉の法則」:「イン・パキ・レバ・シリ」の商人は駆け引きに強いから注意せよ!
インド、パキスタン、レバノン、シリア、さらに最近ではイラン、イラクの商人は、駆け引きがうまい。彼らは、相手の出方、弱点、強味、また状況を的確に把握し、交渉・談判を進める。彼らにとって駆け引きは、悪意に満ち、だますための手段でない。彼らにとって、そもそも世渡りが駆け引きなのだ。

《感想》「世渡りは駆け引きだ」とは商人の国の発想だ。商売は戦争でない。商売における「駆け引き」は、平和的だ。だから「駆け引き」をあまり悪く言ってはいけない。もちろん権力を背景にした圧力、脅し、悪意、詐術もあるが、それらにいかに平和的に対処するかが「駆け引き」だ。「駆け引き」はスパンが短期的だ。その前提は、もちろん長期的な戦略だ。

(9)「少数の法則」:人は一般に、少数の例から全体の物事を類推する!(Daniel Kahneman)
「モーツァルト効果」について1993年の有名な実験がある。学生にモーツァルトの音楽を10分聴かせたら、聴かない学生より知能テストの成績が高かった。だがカーネマンが批判する。学生36人の実験にすぎない。それを一般化して「モーツァルトを聴くと知能テストの成績が上がる」などと言うのは、誤りだ!

《感想1》だが日常生活では「少数の法則」が圧倒的に支配する。自分の体験ばかりが一般化される。「井の中の蛙(カワズ)大海を知らず」だ。
《感想2》「群盲象をなでる」と言ってもよい。「象」はどんな生き物だと問われた盲人が、ある者は「細長い」(尻尾を触った)、ある者は「平べったい」(耳を触った)、「壁のようだ」(胴体を触った)、「尖った棒のようだ」(牙を触った)、「太い丸太のようだ」(脚を触った)、「大蛇のようだ」(鼻を触った)。かくて盲人は自分一人の経験を一般化する。これが「少数の法則」だ。君の世界観、人間観、社会観はしばしば「少数の法則」にも基づいて作られる。

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牛窪恵(1968-)「恋愛しない若者たち:コンビニ化する性とコスパ化する結婚」(2015年):第3章 恋愛結婚から「連帯結婚」へ:圏外やコスパ、多様な結婚を受け入れよう!

2018-09-05 12:56:52 | Weblog
第3章 恋愛結婚から「連帯結婚」へ:圏外やコスパ、多様な結婚を受け入れよう!
(1)「結婚」はしたい(「結婚の利点」はある)が、「恋愛」は重いし面倒だ:「結婚」できるなら「圏外婚」(「年の差婚」「グローバル婚」「逆転婚」)でも気にしない!
L コミュ力がなく「恋愛」は苦手だが、「結婚」はできそうな20代男女が多数いる。彼らは「連帯結婚」を望む。「結婚の利点」調査(2010年、20代男女)では①「子どもや家族をもてる」、②「精神的安らぎの場が得られる」、③「親や周囲の期待に応えられる」、④「愛情を感じている人と暮らせる」、⑤男「社会的信用や対等な関係が得られる」、⑤女「経済的余裕が持てる」。(264頁)かくて「恋愛にこだわらない」多様な結婚が生れ始めている。
M 「圏外婚」(一昔前ならあまり考えられない結婚)が増えている:(a)「年の差婚」(10歳以上の差、同年代男性は頼りない、年上なら地位・収入がある)、(b)「グローバル婚」(男性の85%は中・比・韓朝鮮・タイ;女性は米ブラジル英計28%だが、①韓朝鮮28%、②米、③中12%)、(c)「逆転婚」(妻が主に稼ぐ、女性が男性に家事をやってもらう)。
Ex.1 「恋愛は、裏切られたりして尽くし甲斐がない。でも結婚は尽くした分だけ、子どもや家族ができたりと、リターンがある。」(男24歳)→「年の差婚」(妻が年長でもいい)・「逆転婚」に関心大。
Ex.2 「もう恋だの愛だの、言ってられない」「子どもが欲しい」(女29歳)→婚活で12歳年上の公務員2人とメアド交換&「生理的に嫌じゃない方と結婚する」。

《感想》「結婚の利点」があるから「結婚」はしたい。しかし「恋愛は、裏切られたりして尽くし甲斐がない」し、重い。そう20代男女が思うのはもっともだ。「結婚」できるなら「年の差婚」「グローバル婚」「逆転婚」など「圏外婚」でも気にしない者が増えている。これが恋愛結婚から、著者が言う「連帯結婚」へのシフトだ。

(2)コスパで選ぶ20歳男女の新たな結婚スタイル「コスパ婚」(これも「連帯結婚」の一種だ!):「ただトモ夫婦」「通い婚」(「週末婚」「別居婚」)
N 「ただトモ夫婦」(ただの友達のような夫婦):相手の領域には手を付けない。Cf. 「じゃ解散!」の一言で離婚することもある。
N-2 「週末婚」(「通い婚」1):例えば、あえて一緒に住まない。夫はもともと自分のマンションで暮らし、趣味のグッズでいっぱい。妻は「実家が楽」と別居。
N-3 「別居婚」(「通い婚」2):例えば、女性29歳、理系大学院卒で企業の研究所勤務。夫の転勤について行かない。夫が転勤から戻ってきても、一緒に住まない。それぞれ、自分のマンションに住む。別々に住めば実家とも行き来しやすい。

《感想》「通い婚」(「週末婚」「別居婚」)容認派は男27%、女41%(2011年)。ただし現実に「すでに実践している」は6%のみ。(多くは同居が可能だから、「通い婚」は不要だ。)

(3)親元・地元で幼馴染との結婚がいまブーム:「地元婚」・「同級生婚」
O 現(2015年)アラフォー年齢から下の世代(20代・30代、1976-1995年生まれ)は、男女とも圧倒的に地元志向が強い。
O-2 転機はバブル崩壊。女子大生(現アラフォー)調査(1999年)で、行きたいデートの場所は、①ディズニーランドに続くのが、②地元の「回転ずし」、③地元の「焼肉食べ放題」店。またバブル期に歓迎されなかった「おうちデート」が多数派。
O-3 90年代後半、郊外型ショッピングセンターが増大し、都会への憧れが薄れる。
O-4 不況で親が子を都会の大学に進学させられず、地元の大学へ進学。
O-5 「国も会社も守ってくれない時代」だが、「親や地元の友達(ジモ友)だけは自分を裏切らない」と、20代男女は、親ラブ志向、地元志向。Ex. 「ぼくの田舎で一緒に暮らしてくれる人が居ればその人を選ぶ」。
O-6 Uターン結婚&帰省婚活あり。地元婚は、経済的メリットも大きい。(地方は家賃・物価が安いし、親もそばにいる。)全国の就活生調査でU ターン就職を含む地元での就職を「(どちらかというと)希望する」男女7割弱。

《感想1》「国も会社も守ってくれない時代」!ひどい時代だ!
《感想2》だが生き抜かねばならない。「親や地元の友達(ジモ友)だけは自分を裏切らない」と、20代男女が親ラブ志向、地元志向なのは、当然だ。
《感想3》都会の会社はあてにならない。またインターネットが普及し、郊外型ショッピングセンターも増大し、都会への憧れが薄れた。
《感想4》地元婚は、経済的メリットも大きい。(地方は家賃・物価が安い、親もそばにいる。)「地方の時代」が到来するのか?

(4)「里山婚」(「移住婚」):スローライフを試みる!(296頁)
P 里山暮らしは、お金はないが、豊かな暮らしを送る!(藻谷浩介『里山資本主義』)
P-2 地方も、婚活支援、移住の住宅費補助など人口減少対策。
P-2-2 ただし地元の人に役立つよう「手に職」が必要。Ex. 野菜栽培、ヘアカットなど。
P-3 普通、プライバシーはないと思った方がよい。
P-4 「農山漁村地域に、定住したい願望がある」のは、20代男女では4割。(2014年)
P-5  企業に就職しても、例えば、倒産企業の平均寿命は23.5年だ。
P-6 Cf. 今はサラリーマンが9割だが、戦前は個人事業主8割だった。

《感想》都会から地元へ、都会から農山村への流れだ。しかし問題は仕事があるかだ。地方に仕事を創出する必要がある。同時に、スローライフの価値観が根づかねばならない。

(5)同棲:すぐに結婚せず、まず試してから(Cf. 失敗を嫌う20代男女)
Q 「同棲経験あり」は、20代女性(未既婚)の4割(2008年)、30代女性(既婚)の23%(2006年)。
Q-2 上記、女性同棲経験者のうち、20代の約6割、30代の74%が、同棲相手と結婚している。
Q-3 同棲は、婚姻の前段階だ。同棲を社会としてサポートすることが、少子化対策に有効だ。(304頁)
R 同棲の利点(例)
①ご飯を作ってくれる男性なら「健康になれる」。(女性)
②「最初はルームシェア感覚(家賃が半分ですむ)、生活費が浮く。」
③「節約もあって社内の同期と同棲。」男女の関係になるまで4ヶ月。
R-2 同棲に至る経過:①「いつの間に同棲していた」33%、②「結婚を意識したから」32%。

《感想1》同棲は婚姻(事実婚・法律婚)の前段階だ。これを後押しする法整備がなされれば、少子化対策になる。
《感想2》法律婚は婚姻届を出す、つまり入籍する。事実婚は入籍しないが、住民票に世帯主の「妻or夫」と記載する。

(6)スウェーデンの「サンボ法」(1988施行)、フランスの「PACS(パックッス)」(1999制定)
S スウェーデンの「サンボ法」は、一定期間同棲を続ける男女に、婚姻している夫婦と同等の権利や保護を与える。カップルが別れた場合、(ア)住居や家財を平等に分ける、(イ)父親に養育費を支払う義務を課す。
T フランスの「PACS(パックッス)」は、同棲を続けるカップル(男女、男男、女女)について、(ア)パートナーが死亡した場合、相続権を認める、(イ)同棲でも婚姻と同様に税金等の優遇措置が受けられる。また(ウ)片方の意志だけで同棲の契約解消できる。
T-2 かくて「パックスがあるから、お試し感覚で同棲できる」と同棲が増えた。
T-3 フランスでは、パックス制定後、同棲(また同棲から婚姻へ移行)が増え、その結果、出生率が制定前の1.78から、2012年2.01へと大幅に伸びた。保育制度やワーフライフバランス(男女の労働時間短縮)の充実と両輪だが、パックスが少子化対策に貢献したのは明らかだ。

《感想》「一定期間同棲を続ける男女に、婚姻している夫婦と同等の権利や保護を与える」ことは少子化対策に役立つ。Ex. 税金・社会保障の婚姻と同じ優遇措置、別れた後の財産の相続権、養育費支払い義務等。

(7)同棲・多様婚を後押しすることが、少子化対策となる!
U 結婚を恋愛と切り離し、恋愛力やコミュ力、あるいは経済力が十分でなくても、男女が気軽に連帯できる「連帯結婚」を推進すべきだ。
U-2 したがって多様な形の結婚(多様婚)を後押しすべきだ。Ex.1 「圏外婚」(「年の差婚」「グローバル婚」「逆転婚」)、Ex.2「コスパ婚」(「ただトモ夫婦」「通い婚」)
V サムボや、パックスのように同棲(あるいは事実婚)を推進する制度を、保育制度やワーフライフバランス(男女の労働時間短縮)の充実と両輪で後押しすれば、少子化対策になる。
V-2 ドライで合理的で“コスパでお得”、かつ彼らが自分らしく連帯できる多様婚を、真剣に考慮し後押しすべきだ。
V-3 シンガポールのように「公団住宅の優遇制度(婚約者や配偶者がいれば優先的に申し込める)」を採用してもよい。若者(20代男女)に、「結婚すればお得(コスパ)」だと感じてもらう。(326頁)

《感想1》若者(20代男女)にとって、「恋愛」は重く面倒だ。しかし「結婚」は利点があるのでしたいと思っている。
《感想2》若者(20代男女)の同棲を、法制度で後押しすることが、少子化対策になる。Ex. フランスが「PACS(パックッス)」制定によって、出生率が制定前の1.78から、2012年2.01へと大幅に伸びたのは、驚きだ。

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牛窪恵(ウシクボメグミ)(1968-)「恋愛しない若者たち:コンビニ化する性とコスパ化する結婚」(2015年):第2章 恋愛とセックスと結婚の歴史、そして、世界事情

2018-09-05 12:54:13 | Weblog
第2章 恋愛とセックスと結婚の歴史、そして、世界事情
(1)「セックスレス大国」日本
A 現代の日本は「セックスレス大国」だ。日本人の性交回数45回/年。調査対象41カ国中、最低。(2014年)理由は、男性「仕事で疲れている」&女性「面倒くさい」。

《感想》それにしても性産業は、日本で繁盛している。日本の夫婦関係は、相当数が暗く不幸なのかもしれない。

(2)恋愛と結婚:『古事記』の時代から、平安、鎌倉、江戸時代まで
B 『古事記』の時代から平安時代まで、恋愛はおおらかだった。庶民は、結婚前に男性が女性を訪れる「夜這い」が普通、貴族も「通い婚」だった。なお結婚は「婿とり婚」だ。
Bー2 鎌倉時代になると武士は男が家を継ぎ、「嫁とり婚」となる。女性の地位が低下しはじめた。
Bー3 戦国時代に多くの男が死傷したので、江戸時代には、村が結婚・子作り(労働力の再生産)を支援した。「夜這い」も奨励され、農村は皆婚状態だった。
Bー4 江戸時代、都市部は「大独身時代」だ。1721年、江戸の男女比は100対55。また女性は結婚まで、恋愛(セックス)が自由だった。

《感想》明治時代になる以前は、制度的に恋愛は自由だった。Ex. 武士は、正室と別に、側室も持った。

(3)「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」(性、恋愛、結婚の三位一体化)の輸入:明治・大正時代
C ヨーロッパで誕生した「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」(性、恋愛、結婚の三位一体化)は明治時代、日本に輸入された。Ex. 北村透谷、厨川白村、『みだれ髪』(与謝野晶子、M34)
C-2 M31、明治民法では、男性30歳、女性25歳まで結婚には親の同意が必要とされた。「親に逆らって恋愛結婚」は困難!
D 大正時代、自由恋愛は大変だった。Ex. ①有島武郎、『婦人公論』の記者と心中、②松井須磨子は抱月を後追い自殺、③白秋、姦通罪で告訴される、④らいてう、自殺未遂、④夢二の同棲相手のお葉が自殺未遂。
D-2 当時、主流は「見合い結婚」だ。また「恋愛結婚」といっても、「幸福な家庭」を優先する「友愛結婚」(なお結婚まで「純潔」は守る)だった。
D-3 大正時代は「国民皆結婚」(生涯未婚率は男女とも2%未満、T14)だ。Cf. 今(2015年)は生涯未婚率、男性2割、女性1割。

《感想》「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」は、衰退の傾向があるが、今も、規範として多数派だ。

(4)1960年代後半:「見合い結婚」と「恋愛結婚」の逆転
E 「見合い結婚」より「恋愛結婚」が多くなったのは1960年代後半だ。(209頁)高度成長で、若者が都会に出て、地元の「お節介おばさん」が「見合い結婚」に介在する余地がなくなった。「恋愛結婚」の半数は職場(会社)で、女性にとって会社は「腰掛け」と言われた。
E-2 70年代、生涯未婚率は男女とも2-4%と超低水準だった。

《感想》「恋愛結婚」、華やかなりし時代は、戦後民主主義が根付き、高度成長が進展した時代、つまり1960年代・70年代だ。

(5)80年代は性(恋愛)が結婚と分離し「自由恋愛」の時代!&90年代は「結婚」に楽しさ・自由を求める「友達夫婦」(or「ロマンチック・マリッジ・イデオロギー」)の時代!&2000年代には、これに専業主婦願望・「金麦女」願望という旧来の結婚観への回帰が重なる!
F  1960-70年代は婚前交渉が嫌われ、恋愛・性・結婚が三位一体だった。「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」だ。男は「セックスしたら女性の将来に責任を持つ」とされた。(221頁)
F-2 日本で「婚前交渉が『不可』」が半数を切ったのは1983年(47%)。1973年では、まだ58%。なお2013年では「婚前交渉が『不可』」は2割(現20代では1割)になった。(238頁)
F-3 80年代は性(恋愛)が結婚と分離し「自由恋愛」の時代。そしてバブル期以降、結婚は「必需品」から「嗜好品」となった。(218頁)
F-4 90年代は結婚にも楽しさ・自由を求める「友達夫婦」の時代だ。(86ー87頁)これは「ロマンチック・マリッジ・イデオロギー」だ。2000年代には、これに旧来の結婚観への回帰である専業主婦願望が重なる。女には結婚すればすてきな生活が待っているとの期待。これに対応して男には「金麦女」(檀れい)願望がある。
G だが現実は厳しい。20代男性は言う。「専業主婦を養う甲斐性はない。奥さんに働いてもらわないと!」一方で稼ぐ妻を望みながら、他方で「金麦女」(家庭的な可愛い女性)に恋する男性の矛盾。(170頁)
G-2  20-30代の未婚女性調査(2010年)では、「専業主婦になりたい」5割、しかし「なれないと思う」が7割だ。(89頁)

《感想1》1960-70年代は「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」の時代、80年代は「自由恋愛」の時代、90年代は「友達夫婦」(or「ロマンチック・マリッジ・イデオロギー」)の時代、2000年代には、これに専業主婦願望・「金麦女」願望という旧来の結婚観への回帰が重なるとの捉え方は、適切だ。
《感想2》同時に、2000年代になると、1986-95生れの若者(2015年時点で20代の若者)は、恋愛は重くてめんどうだと考える。「恋愛しない若者たち」!

(6)20代の若者(1986-95生れ)にとって恋愛は重くてめんどう!&日本は恋愛や結婚で「告白や入籍が当たり前」とされハードルが高い!
H 2015年時点で、20代の若者(1986-95生れ)は、「恋愛は重くてめんどうだ」。
H-2 恋愛感情抜きでセックスする「セフレ」(セックスするだけのパートナー)を求める者もいる。2011年調査でセフレがいる20代女性14%(7人に1人)。(221頁)
H-3 恋愛(性的関係)のはじまりである「告白」!これは重く、「振られるリスクを思うと告白したいと思わない(友達のままでよい)」:男性32%、女性49%。(2014年、20代の若者)
I 法律婚でなく同棲・事実婚で生まれる子ども(「婚外子」)は、スウェーデン・仏で5割強、デンマーク・英・米・蘭で4割強。
I-2 日本は「告白や入籍が当たり前」とされ、恋愛や結婚へのハードルが高い。(237頁)
I-3 欧米各国の多くは、最初の性交渉を「相手を知る方法」の一つ、あるいは「恋愛を始める一手段」ととらえる。その後、コミュニケーションを深め、「この人」と思えば、同棲・事実婚に至る。
J 日本では80年代でも、「告白」して本気度を見せないと、婚前のセックッスは手に入らなかった。
K 中国は恋愛と結婚は別。中国では学歴・階層が重要で、「お金持ちの親を持つ男性と結婚したい」が広州の女子大生の6割。(2010年)
K-2 中国や韓国では「男は妻子を養うもの」「女性は貞操を守るもの」との考え方が、日本より強い。(250頁)

《感想1》恋愛(性的関係)のはじまりである「告白」!20代の若者にとって、これは重く、「振られるリスクを思うと告白したいと思わない(友達のままでよい)」:男性32%、女性49%。(もちろん男性の7割、女性の5割は「告白」する。)
《感想2》著者の関心は、出生率を上げ、少子化問題を解決することにある。「恋愛」なしの結婚、つまり「友愛結婚」(※一種の「見合い結婚」)の推進を、著者は主張する。

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牛窪恵(1968-)「恋愛しない若者たち:コンビニ化する性とコスパ化する結婚」(2015年):第1章 恋愛レボリューション:何が若者たちを恋愛から遠ざけているのか

2018-09-05 10:31:22 | Weblog
はじめに:恋愛スルーの若者たち
(1)「恋愛が面倒」
A  未婚で恋人がいない男女の約4割が「恋人は欲しくない」。その45%が「恋愛が面倒」と答えた。(2015年)Ex.「デートは疲れる。コスト(お金や時間)がかかる割に、得がない。」
A-2 「結婚すれば、面倒な恋愛から解放される。」(「恋愛スルー」!)

《感想1》恋愛、結婚が一体でない。両者が分離する。恋愛は面倒だが、結婚はしたい。
《感想2》20代は「恋愛スルー」だ。「恋愛」は面倒でカネもかかる。しかし、「結婚」(同棲)は、気を使わずラクチンだ。カネもあまりかからない。また部屋をシェアすれば一人住まいよりコスパがよい。

(2)「どうせ国も会社も、自分を守ってくれない」
B 20代男女の9割は「いずれ結婚するつもり」。(2010年)(8頁)
C 20代男女の「恋愛スルー」の最大要因は「バブル崩壊と長引く不況」だ。恋愛はカネがかかる。
D 20代男女は「親が最後の砦」「親しか頼れない」。
Dー2 現20代は「ゆとり世代」(19ー28歳、2015年時点)かつ「右肩下がり」の世代。
Dー3 「どうせ国も会社も、自分を守ってくれない」、「どうせ日本は、こんなもの」と彼らは思う。

《感想1》20代男女(2015年時点で20ー29歳、1986ー1995生まれ)にとって、「恋愛」「性」「結婚」の3位1体という昭和的見方(「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」)はない。
《感想2》バブル崩壊と長引く不況、つまり「失われた20年」は1992ー2001年だ。金融不況(1997ー8年)によるリストラ、さらに非正規雇用の拡大、年金の給付水準低下・・・・。
《感想2-2》その上、2008年はリーマンショック。20代男女は苛酷な時代を生きてきた。
《感想3》「親が最後の砦」。Ex. 親孝行(親を喜ばす)のため、高校生・大学生の一部が、異性の親と一緒にお風呂に入る。

第1章 恋愛レボリューション:何が若者たちを恋愛から遠ざけているのか
第1節 若者たちの恋愛阻害要因①:「超情報化社会」がもたらした功罪――バーチャル恋愛とリアル恋愛の狭間で
E 膨大な情報開示(Ex. アダルトサイトの性交画面)によってときめきのチラリズムが消失した。「恋愛」と「性」が別物となった。そして性欲は「性風俗」で処理する。
E-2 裏切らないバーチャル恋愛に比べ、リアル恋愛は重い。Ex.「元彼は、束縛が強くて会っても『重い』だけだった。」
E-3  PCのネット接続によるアダルトサイトが、「ひとりエッチ」を促し「恋愛」を阻害した。Ex. オナホール「典雅」のヒット。Ex. 女性向けアダルト動画サイト「GIRL'S CH」。
F SNSの普及で、グループ内・コミュニティ内恋愛は面倒なので避ける。

《感想1》チラリズムの消失、恋愛と性の分離、性風俗の利用が、20代男子の「恋愛」を阻害する。
《感想2》確かに恋愛は重いし面倒くさい。恋愛・性・結婚の三位一体という「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」(18世紀ヨーロッパで成立、日本では明治期に導入、高度成長期の60ー70年代に定着)が解体しつつある。
《感想3》若者(20代男女)には「SNS疲れ」がある。20代の5割以上。(2014年)(50頁)

第2節 若者たちの恋愛阻害要因②:「男女平等社会」と「男女不平等恋愛」のジレンマ――昭和の恋愛幻想にしばられる若者たち
(1)「将来に希望を持てない」&「男女不平等恋愛」
G 今の20代は、「将来に希望を持てない」。かくて「『いま・ここ』の幸せに関心を向ける」ので「現状の生活満足度が高い」。(67頁)
H 男性は相変わらず「大企業」「正社員」というプレッシャーに縛られるが、女性はのびのびしている。ニートも女性なら「家事手伝い」と対面を保てる。(68頁)
Hー2 男女平等なのに、何で「告白」や「支払い」は男なんスか?(20代男性)
Hー3  本命の恋人には昭和的な「男らしさ」「女らしさ」を意識するので、男も女も疲れる。Ex. 気を使わない「セフレ(セックス・フレンド)」が楽だという20代女性がいる。

《感想1》昭和的「男らしさ」「女らしさ」イデオロギーは20代男女にも健在だ。なぜなら当然にも彼らは、それより上の世代からの影響をうけるから。
《感想2》昭和的「男らしさ」「女らしさ」イデオロギーは、女性差別イデオロギーである。①「男女平等」を否定し、②女性の人格を認めず、③《セクハラは犯罪でない》と女性を性的慰安道具と見る。

(2)昭和の恋愛幻想にしばられる
I 1960-70年代は婚前交渉が嫌われ、恋愛・性・結婚が三位一体だった。(「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」!)80年代は、恋愛が結婚と分離し「自由恋愛」の時代だ。
I-2 90年代は「結婚」にも楽しさ・自由を求める「友達夫婦」の時代。これは「ロマンチック・マリッジ・イデオロギー」だ。結婚すればすてきな生活が待っていると、専業主婦、シロガネーゼ、プチセレブ妻願望。これに対応して男には「金麦女」(檀れい)願望。
I-3 だが現実は厳しい。20代男性は言う。「専業主婦を養う甲斐性はない。奥さんに働いてもらわないと!」稼ぐ妻を望みながら、家庭的な可愛い女性(「金麦女」)を夢想する男性の矛盾。(170頁)
I-4  20-30代の未婚女性調査(2010年)では、「専業主婦になりたい」5割、しかし「なれないと思う」が7割。(89頁)

《感想》「金麦女」は、20代男女にとって非現実だ。それは、昭和企業戦士・専業主婦時代のなごりの幻影(残映)だ。女性差別的見解の権化、女性の社会進出への無関心・反対、経済的にパートが絶対に必要な主婦の無視、家事を全く手伝わない男の肯定だ。

第3節 若者たちの恋愛阻害要因③:超親ラブ族の出現と恋愛意欲の封じ込め――なぜ子離れできない親が増えたのか?
J 「ゆとり世代」(現19ー28歳)の男女は「超親ラブ族」だ。
Ex.1 彼氏といるよりママと買い物に行った方が、胸がキュンとなったりする。可愛いバッグやワンピを見て「カワイイ!」と叫ぶ。理由は「好きなことが言えて楽」、「金銭的援助」がある。(22歳女子大生)
Ex.2 母と息子の場合も同様だ。例えば「付き合うなら、親が気に入る相手」と息子が言う。
K 「バブル崩壊」と「右肩下がりの日本」しか見てこなかった20代男女にとって、親だけが自分を裏切らない「最後の砦」だ。(98頁)

《感想》面倒くさく重い「恋愛」より、①「家族」の気軽さ、また②「家族」はカネを出してくれる、そして③親だけが自分を裏切らない「最後の砦」なので、20代男女は「恋愛」より「家族(親)」を好む。

第4節 若者たちの恋愛阻害要因④:恋愛リスクの露呈と若者たちのリスク回避――「自己責任」に脅える恋愛事情
L 「恋愛リスク」:(1)リベンジポルノなど「別れたあとの復讐劇」、(2)エイズ(HIV感染症)、(3)ストーカー、(4)デートDV(Ex. 交友関係やメールチェック)、(5)男性が脅える冤罪リスク(Ex. 近頃はナンパが減る、Ex. 2度断られたらストーカーと勘違いされるのでもう誘わない)、(6)女性が「授かり婚」(妊娠による結婚)を意図し、彼氏に告白・プロポーズさせる、(7)女性がシングル・マザーになった場合、「半数以上が貧困」(1985年以来)。
L-2 これらの「恋愛リスク」について、「自己責任」と当事者の若者を責める風潮。社会は冷たい。かくて異性との交際は、若者にとって「怖い」「ヤバイ」ものとなる。(140、153頁) 
M 若者に対して、「立場」を利用したセクハラ、パワハラもある。Ex.「俺を怒らせていいのか」「お前みたいな田舎者、人脈がすべてなんだ」とME(医用工学)スクール講師からセックスを強要された女子大学生。(141頁)

《感想》異性との交際は「怖い」「ヤバイ」と若者(男女)が思って、確かに当然だ。しかもすべてが「自己責任」と本人のせいにされる。

第5節 若者たちの恋愛阻害要因⑤:バブル崩壊と長引く不況が招いた、恋愛格差社会――非正規では恋愛もできない!
N 非正規雇用で「恋人あり」の20代男性は、正規雇用の半分以下だ。年収200-300万円が、男性(20-30代)の未婚・既婚の壁である。(154-5頁)
N-2 女性(22-34歳):「収入が少ない」男性(低年収・非正規)とは恋愛したくない。(156頁)
N-3 合コンに誘われても、「人前に出られる身分じゃない」と引いてしまう男性。(24歳フリーター)(160頁)

《感想1》「収入が少ない」男性(低年収・非正規)にとって憂世だ。狡猾に生きるか、ひっそり生きるか、恨みを持って生きるか、あるいは、あきらめて生きるか!
《感想2》「貧しい者」がいる。原因は色々だ。(a)貧しい家に生まれつき、金持ちの家に生まれなかった。(相当に重要な原因だ。)(b)本人の努力が不足だった。(c)努力したが知的能力が十分でなかった。(d)決断力、先見の明、社交力、信頼関係をつくる力などの不足。(e)運が悪かった。(f)社会のシステムが「貧しい者」と「金持ち」を固定化して再生産するようになっている。

第5節-2 非正規の「分相応」!&有効求人倍率「0ポイント台」の1993-2005年!
0 努力しても非正規では、昇進も昇給もない。またいつ解雇されるかもわからない。かくて「身の丈」「分相応」「力を抜いて生きる」のが一番だ。
P 日本の「初の就職氷河期」はバブル崩壊後の93年、有効求人倍率0.76だ。かくて「団塊ジュニア」(1971-1976生れ)は「貧乏くじ世代」と呼ばれる!
P-2 以後、アジア通貨危機(97)、(不良債権による)金融危機(97-98)、米同時多発テロ(01)で、有効求人倍率はずっと「0ポイント台」が2005年まで続く。
P-3 有効求人倍率が久々に2006年「1ポイント台」。しかし08年リーマンショックで急降下。アベノミクスの14年から再び「1ポイント台」を安定的にキープ。

《感想1》1992-2005年は、明らかに「失われた20年(以上)」だ。2008年から再び「失われた5年間」(評者)(2008-2012年)だ!かくて1992-2012年まで、日本経済は「失われた30年」と言うべきだろう。
《感想2》アベノミクスが、有効求人倍率を「1ポイント台」に載せたと言っても、求人の半数は非正規雇用だ。事態を改善したと言うべきか、判断が分かれるところだ。
《感想2-2》2014年から有効求人倍率が「1ポイント台」を安定的にキープするから、全体として売手市場で、「正規雇用」のチャンスがある者には恵まれた事態だ。ただし正規雇用者の仕事の負担は増大し、サービス残業という名のタダ働きが常態化している。他方、「非正規雇用」しかチャンスがない者は、有効求人倍率が「1ポイント台」でも、ひどい低賃金で、その上、いつでもクビになることに変わりがない。

第5節-3 お金はあれど残業が恋愛に優先の「正規」(男性)!&恋愛の自信がない「非正規」(男性)!
Q 労働者派遣法(86年)、その後の改正(99、04、06年)で製造業への派遣も事実上、認可された。2014年、25-35歳の非正規男性は14%だ。(バブル最盛期には3%。)
Q-2 20代男性(月~金フルタイム)の年収が360万円(97年)から306万円(14年)へ低下。(国税庁)「正社員以外」の年収は186万円。(2015年、厚労省)
R 「モーレツ社員」を支えた終身雇用制は90年代半ば、事実上崩壊した。「正社員」20代さえ「リストラの不安がかなりor多少ある」が約4割。(『プレジデント』09年)
S 新入社員「デートをやめて仕事をする」8割以上、「残業を断ってデート」の若者は2割未満。(日本生産性本部、14年調査)。

《感想1》20代男性(月~金フルタイム)の年収が360万円(97年)から306万円(14年)へ低下。「正規社員」でさえ、これでは少なすぎる。子供を産めないし、まして育てられない。日本が「豊かな社会」と言えるのか、難しい。
《感想2》20代男性「正社員以外」の年収186万円。(2015年)これは厳しい。そうした低年収の25-35歳の「非正規」男性は14%もいる。(バブル最盛期には3%。)(2014年)
《感想2-2》25-35歳の「非正規」男性は、なぜそうなったのか?(a)貧しい家に生まれつき、金持ちの家に生まれなかった。そのため教育投資がなされず、コネクションもなかった。(相当に重要な原因だ。)(b)本人の努力不足。(c)努力したが知的能力が不十分。(d)決断力、先見の明、社交力、信頼関係をつくる力などの不足。(e)不運。(f)社会のシステムが「貧しい者」と「金持ち」を固定化して再生産するようにできている。(かなりそうなっている。)(g)タイミング的に新卒での就職が超氷河期に当たり就職できず、そのまま非正規となった。

第5節-4 若者男女は多くが「できれば早く、結婚したい」と思っている
(1)女性の恋愛:男性ほど年収や雇用形態に左右されない
T 女性の恋愛は、男性ほど年収や雇用形態に左右されない。20代「恋人なし」の割合は、正規も非正規も同じ。「結婚」については、正規より非正規の方が、婚姻率が高いくらいだ。
T-2 女性については、「恋愛にご無沙汰」の20-30代女子も「干物女」「恋愛ニート」などと共感され好意的で悲壮感がない。男性の悲壮感と対照的だ。(171頁)

《感想》日本は「男性中心社会」であり、一般に男性への要求度が高い(Ex. 高年収)。これに対し女性への要求度は相対的に低い。良し悪しは別にして、女性の方が気分的に伸び伸びできる。

(2)「できれば早く、結婚したい」&「おひとりさま不安」
U 若者(20代男女)は、一方で恋人と一緒より、親といた方が楽だと思う。また「同棲や結婚で、家事負担が増えたり、趣味の時間が奪われる」のも嫌だと言う。
U-2 ところが他方で、若者男女は「できれば早く、結婚したい」とも思っている。(177頁)
U-3 「おひとりさま」についての見方の変遷(2007-2011年)
①「おひとりさま不安」あり。一時は上野千鶴子『おひとりさまの老後』(2007年)で、独身(未婚)を前向きにとらえる流れも出て来た。
②しかし『シリーズ“無縁社会”ニッポン』(NHK、2010年)で「一生独身は怖い」に変化。
③2011年東日本大震災で、「家族の絆」「家族が大事」「命を育むのは尊い」との考えが浸透する。

《感想1》「おひとりさま不安」がしばしば語られる。「孤独死」はマイナスイメージだ。
《感想1-2》しかし超越者(Ex. 「天」、「阿弥陀仏」、「神」、「自然」、「宇宙」)と向き合えば、死に際して目前に人間が居ないからといって、何もマイナスでない。君は「天命」を全うするのだ。死は君の問題であって、一人で死ぬからと、他人から非難され憐れみを受ける理由はない。
《感想2》「孤独死」へのマイナスイメージは、実は、「孤独死」させた家族(子供たち)への非難だ。ここには「人(「孤独死」させた家族)を非難すれば、非難する側の自分の自尊心が満たされる」という暗い動機がある。

(3)「できれば早く、結婚したい」と思う理由
U-4 若者男女が「できれば早く、結婚したい」と思う理由。
(a)「何があっても、自分を裏切らないのは家族」「親や親族こそが、最後の砦」という20代特有の思い。(Cf. 既述98頁、超親ラブ家族)
(b)  若者(20代男女)の考えでは、恋愛についてバブル世代のように能天気に、恋だの愛だの言ってる場合じゃない。(ここには「反バブル」「反負け犬」意識あり。)重要なのは「恋愛」でなく「結婚」だ!(180頁)
(c)「男女は結婚or出産してこそ一人前」との見方。(178頁)
(d)社会制度(法的保障、税、社会保障)の面で、一般的に独身が既婚者より冷遇されている。だから「結婚」した方が得だ。
V なお未婚女性は35歳を過ぎると、その後結婚できる確率は1割あるかないかだ。(総務省)

《感想》著者の目的は、少子化問題の解決、つまり合計特殊出生率の向上だ。つまり《結婚させ、子供を産むよう誘導する政策》を考え出すことだ。若者(20代男女)の多くが「できれば早く、結婚したい」と思っていることは、少子化問題の解決に関してプラス要因である。

第5節-5 格差社会が生んだ「最底辺にだけは行きたくない」「せめていまの位置にいたい」という恐怖と願望:中間所得層の男女の気持ち(189頁)
W 若者(20代男女)は、今あるものを失わないように、過度の守りに入る。低年収層の一部の不用意な妊娠を見て、「ああはなりたくない」と恋愛・セックスから遠ざかる中間所得層の男女。「20歳そこそこで結婚するのは怖い」、「恋愛に惑わされて妊娠したりしない」!
W-2 リスクが多く、かつ「失ったものを二度と取り返せない」世の中であってはならないと、著者は言う。
W-3 「失ったものを取り戻せる社会」、「底辺からでも這い上がれる(可能性がある)社会」を、大人が若者に用意しなければならない。今のように「希望に格差がある社会」(「希望格差社会」)ではいけない。(189頁)
X 「マイルドヤンキー」の方には行きたくないと、中間所得層の男女が思う。(181頁)

《感想1》ここで述べられているのは、中間所得層の男女の気持ちだ。
《感想2》他方で、「最底辺」と他者から位置づけられ、また自らも位置づけるほかない「最底辺」の本人たちの気持ちはどのようだろうか?あきらめ、憤り、ルサンチマン(怨恨感情)、やるせなさ、ハングリー精神、あやうい自尊感情、これらのコンプレックス(複雑に絡んだ感情群)だ!

第5節-6 「マイルドヤンキー」:地元が大好きな若者で、早婚の場合は妻や子と仲がいい!&多くが中卒、高卒でパート・アルバイト、あるいは専業主婦!(Cf. 評者の見解:「地元志向若者層」と呼ぶべきだ!)
Y 「マイルドヤンキー」(原田曜平、2014年):郊外や地方に住み、地元が大好きな若者で、一緒に遊ぶのは小中学時代の友人が圧倒的に多く、クルマ、バイク、パチンコにはまり、早婚の場合は妻や子と仲がいい。地元指向が強く、内向的、上昇志向が低い。
Y-2 「マイルドヤンキー」は低年収で非正規でも、積極的に恋愛し、セックスする。夫とラブラブで性行動にも前向き。多くが中卒、高卒でパート・アルバイト、あるいは専業主婦。(182頁)
Y-3 収入が低い男女は、結婚生活を続けるために、「それでも愛している」と自分を納得させる。(富田隆)
Y-4 「経済的な苦しさ」もあり、愛情弁当や手作りの夕食を用意する。
Y-5 「パパが大好き!」と言いながら、殴られたような青あざがあることも少なくない。

《感想1》統計的には「生活に貧するほど離婚に向かいやすく、早婚の男女ほど離婚率が高い」(184頁)。さらに離婚は、特に女性がシングル・マザーになった場合、「半数以上が貧困」(1985年以降)だから大変だ。
《感想2》「マイルドヤンキー」との命名は、失礼だ。「ヤンキー」とは、かつての「不良」だ。暴力的でないので「マイルドな不良」とは失礼な命名だ。「地元志向若者層」(評者命名)と呼ぶべきだ。
《感想2-2》「地元志向若者層」は、「都市部集中若者層」(評者命名)と異なる。後者は、都市部集中、車離れ、晩婚化、少子化と特徴づけられる。原田曜平『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(2014年)は、「マイルドヤンキー」(※「地元志向若者層」)の人生観を次のように述べる。女性は「都会に住んで貧乏になるより、低賃金でも地方で務め、早く結婚して子どもを産み、親や地域の絆に支えられて子育てする」と考える。男性は「安定した雇用が期待できないのなら、非正規の仕事を掛け持ちしながら、親元に住み、将来的には親の面倒も見る」と考える。
《感想2-3》彼らは低収入でも今後、子どもの成長に伴う消費が期待できる。また親との同居や地方在住のため住居費の負担が小さく、車購入など消費意欲が高い。かくて「マイルドヤンキー」(※「地元志向若者層」)は、日本経済を牽引する存在になりうる。彼らは、地域再生に寄与する存在であり、雇用の確保が重要だ。(以上、原田曜平の見解!)

第5節-7 希望格差社会:弱者が上昇願望を「どうせ無理だ」として端(ハナ)から持てない社会!(185頁)
Z 格差が大きく、上昇への希望が断たれると、「妊娠してもしなくても苦しいことに変わりない、避妊などしなくていい」と絶望&自暴自棄になる。
Z-2 例えば、大学の学費が下がるなど「明日は少しでもよくなる」と希望が持てたり、高年収家庭との格差が感じにくくなると、若者は前向きになる。また「妊娠してもいいや」でなく、「1人の恋人を大事にしよう」と思うようになる。

《感想》大人の責任、あるいは社会の責任は、「希望格差社会」を終わらせ、《誰もが上昇への希望を持てる社会》を作ることだ。そう述べる著者に、評者は同感する。

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