宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

「“強い農業”は作れる」涌井徹(大潟村あきたこまち生産者協会代表)『中央公論』平成26年3月号

2014-02-23 18:49:47 | Weblog
(1)大潟村に入植(1970年)
A 大規模農業のモデル地区・秋田県大潟村は、2014年で開村50年。
A-2 涌井氏は当時21歳。新潟県十日町市の農家出身。約1.3haの田んぼで、コシヒカリを作る。後継ぎとして、規模拡大を希望。しかし十日町市は山間地で狭く、ほかに仕事もないので水田を手放す人がいない。
A-3 県庁の人が、「規模拡大するなら、大潟村に入植したらどうか」と勧めた。10haの農地配分が何より魅力的。実家の家屋・農地を売り払い一家で大潟村に移住。1970年、21歳。

(2)減反開始(1970年)の数年後:自殺者が大潟村で5人も6人も出る
B 1970年、減反開始。大潟村は減反で、いったん入植中止。5000haの農地が余っていたので数年後、追加の入植、およびすでに入植していた人に追加の農地配分。
B-2 ただし追加の農地配分を受けた農家は、全体の半分しかコメを作ることが許されない。追加の農地配分で涌井氏は、農地15haに増加。しかし水田は、10haから7.5haに減る。干拓地で地盤軟弱、地下水多く、畑作に向かない。
B-3 結局、7.5haの水田だけで、15ha分の借入金を返すのは無理。長引く減反、畑作の不振により、自殺者が大潟村で5人も6人も出る。重苦しい空気。

(3)減反政策に立ち向かう:農事調停で自主的作付け可能となる(1983年)
C 償還金を払い、生活するために、農地の半分以上でコメを作る。減反に従わない。
C-2 契約違反と、国は「青刈り」を求める。従わなければ田んぼを強制的に買い戻すと国。かくて涌井氏は従う。従わずに農地を国に買い戻された人もいた。
D 涌井氏は、「自分の田に、なぜコメを植えることができないのか」と弁護士を立て、1983年に、裁判所に農事調停を起こす。「農家が自分の田にコメを作ってはいけないという法律は、存在しない」と裁判所の結論。
D-2 自主的作付けをする人が増え、1985年、大潟村の過半数が全面積にコメを植える。

(4)「ヤミ米」が食糧管理法違反で告発される:しかし不起訴(1985年)
E 今度は、減反に従わない農家のコメは、国が「買い取らない」と言う。独自のルートで売ったコメは「ヤミ米」と呼ばれる。
E-2 コメを売らせないため1985年に、24時間態勢で、村の出入り口検問。
E-3 自主的にコメを売った中心的な農家が、食糧管理法違反で告発される。涌井氏を含め、60人以上が警察・検察から事情聴取を受ける。
E-4 しかし告発された農家、不起訴。かくて減反に従わず自由にコメを作って良くなる。

(4)1987年「大潟村あきたこまち生産者協会」設立:産地直送販売
F 自由なコメ作りがOKとなったが、これはゴールでなく、スタート。涌井氏は15歳で農業を志した時から、「若者が夢と希望を持てる農業を創造する」が目標。
F-2 当時から、「六次産業化」を目標に農業に取り組んできた。生産(一次産業)だけでなく、加工(二次産業)、販売(三次産業)も一体的に行う。
G 涌井氏、1987年、「大潟村あきたこまち生産者協会」を設立。産地直送販売。
G-2 ところが国・農協が宅配会社に圧力。10日間もコメが配達不能。1万人のお客さんにコメがお届けできない理由を書いた手紙を送り、「もう少しお待ちください」と支援を呼びかける。マスコミが報道し、逆にお客さんが増える。
H その後、お餅、発芽玄米、麺なども商品化。設備に数億円かかるが民間金融機関から借り入れ。現在(2013年)、売上高40億円。これを1,2年で倍にしたいと、涌井氏。

(5)農業を、家業から産業にしていく必要
I 減反の40年間で、若者の就農希望者減少、農家高齢化で平均年齢66歳、耕作放棄地40万ha。農業は崩壊の危機。またた。
I-2 家族農業は役目を終え、農業を家業から産業にしていく構造改革が必要。

(6)TPP時代:生産コストを下げるため「東日本コメ生産者連合会」設立(2013年)
J 2013年、6つの農業法人が出資し「東日本コメ生産者連合会」設立。涌井氏が社長。
J-2 TPP時代には、米価が1俵(60キロ)8000円(想定)。全国的な組織を作って、生産コストを下げねばならない。
K 日本の農業のコストの多くが機械のコスト。稼働日数を増やす必要。
K-2 例えば稲刈りは、秋田県で1ヵ月間(9/15~10/15頃)だが、日本全体では3ヵ月月間、稲刈りができる。全国的な組織で、農業機械を九州から東北まで順番に回せばいい。
L 1.5haの一般的な農家でコメの原価は1俵2万円。コストを5000円以下にする必要。
そのために、①面積の拡大、②同じ面積で多くのコメが採れる多収品種の開発。
L-2 かくて国に望みたいのは、①面積の集積支援、②多収品種の開発。
(6)-2 農協の担保主義
M 「連合会」に、民間金融機関が大きな関心。民間金融機関は、今まで農業金融に入れなかった。
M-2 農協は担保主義。自作地5ha、借地95haなら、5haを担保にした額しか貸さない。
M-3 民間金融機関なら、売る上げに応じて貸せる。また新しいビジネスチャンスになる。
(6)-3 農業のコストダウンは手数料収入の減少:農協
N 生産コストの引き下げのための広域連合は、農協なら本来、簡単。農協には全国組織があり、機械も持つし、整備工場もある。しかしなぜやらないか?
N-2 農協にとって、農業のコストダウンは手数料収入の減少につながるから、やらない。
(6)-4 ライバルになる会社を育てる:農協の改革のため
O 巨大組織・農協の体制内改革をするには、ライバルになる会社が必要。NTTに対するKDDIのようなもの。
O-2 「東日本コメ生産者連合会」を、専業農家の支援組織にしていきたいと、涌井氏。総合農協のJAグループのライバル。

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「“TPPで農業は潰れる”論の大間違い」本間正義(東京大学大学院教授)『中央公論』平成26年3月号

2014-02-20 22:43:18 | Weblog
(1)関税の段階的引き下げ
A 政府がTPP参加を推進している以上、いかなる決着にも耐えうる農業の確立が必要。
B 日本の農産物がすべて高関税で守られているわけでない。高関税品目は少数:コメ、小麦、乳製品、砂糖などウルグアイ・ラウンド決着まで輸入数量制限等の非関税障壁で保護されてきた品目。
B-2 関税撤廃は国際的要請で拒否できない:段階的引き下げを主張する。引き下げ期間が20年になるか、25年になるかは交渉次第。その間に国内農業の構造改革をおこなう。
B-3 コメを例にとると、関税が現在1kg当たり341円。関税撤廃まで20年とすると10年後の関税170円/kg。国内コメ価格250円/kg、カリフォルニア米100円/kg。かくて10年後まで、輸入米は日本に入って来ない。

(2)補助金で飼料用米生産を誘導する政策:小規模農家温存
C 補助金で飼料用米生産を誘導する政策は、規模拡大・構造改革を阻害。国内コメ価格は主食用250円/kg、飼料用25円/kg。この差額を補助金で埋める。
C-2 政府は農地流動化のため、「農地中間管理機構」を都道府県単位で創設。後継者のいない農地、耕作放棄地などを集め、大規模農家に貸し出す。
C-3 減反を廃止しても、飼料用米生産を誘導する政策(コメの価格支持政策)が続く限り、小規模農家が温存され、農地中間管理機構に条件の悪い農地しか集まらない。

(3)米輸出のため生産費を半減させる:①農地の集約化、②乾田直蒔で作業速度高速化
D 日本食が世界的ブームなど、コメは世界中で消費され、米輸出の可能性大。
E カリフォルニア米に匹敵する国産米の卸売り価格200円/kg。カリフォルニア米100円/kgなので、コメの生産費をおよそ半分にする必要がある。
F 国産米の生産費削減のため克服すべき二つの制約:①作付け規模が15ha超など大きくても生産費が低下しないのは、経営耕地が集約されておらず、あちこちに分散しているため。農地の集約化が必要。
F-2 ②作業速度の高速化が必要:農地集積が実現しても、田植え・稲刈りなど農作業を「的期」の一定期間に行わなければならない。その高速化の方法として、乾田直蒔。作業速度が3倍から10倍になる。生産費の半減が可能。

(4)フードバレー形成
G 食と農のクラスター(フードバレー)形成:多数の企業、研究機関の地理的集積で新たなイノベーション、付加価値を創出する。
G-2 オランダのワーヘニングがフードバレーとして有名。人口4万人弱の街。食品研究企業・研究機関(ゲノム、バイオ研究)、食品メーカー、農業食料関連IT企業、物流企業、コンサルティング会社、協同組合等々が集積。
G-3 フードバレーは、単なる地域振興のコンセプトを超えねばならない。
G-4 生産サイドの分析に加え、消費者の味覚・嗅覚・視覚など食の基本的研究というような需要サイドとの融合が必要。

(5)中山間地域の活用:①労働の平準化、②農業プロセスの商品化
H 日本農業で最も脆弱とされる中山間地域の活用:①傾斜地が多く平坦な耕地が少ない。しかし標高差が武器になる。田植えや稲刈りの的期が違うので、作業を分散させ、労働の平準化が可能。
H-2 ②農業プロセスの商品化:援農、農業体験プログラムなど、サービスを売り物にする。
I 一般に農家は、年配の農業者など、豊かな技術・知恵・ノウハウを持つ。おいしい白菜、大根などの作り方の伝授など。都市・農村の交流を深め、地域活性化。

(おわりに)
J TPPに反対し現状維持では何も生まれない。日本型の新たな農業ビジネスの構築が必要。

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「なぜ我々は農業政策を転換したか」齋藤健(衆議院議員・自民党農林部会長)『中央公論』平成26年3月号

2014-02-20 22:39:54 | Weblog
(1)人口減で農産物の国内需要減
A 農業は高齢化、後継者育成難で曲がり角。原因①人口減で農産物の国内需要減。②食糧安全保障の重要性増大。
B 減少する国内需要。2050年までには3千数百万人減少。三十数年で人口3割減。

(2)異常気象による食糧危機の可能性:地球温暖化
C 世界的な気候変動、異常気象。フィリピンの台風、千葉県の竜巻など。
C-2 原因は地球温暖化。2050年までに、温室効果ガス半減出来れば、産業革命前に比べ気温上昇2度以内で影響最小限。
C-3 中国は世界の4分の1を排出。削減目標は増加率を緩めるだけで削減しない。50年半減目標は、達成の見通したたず。
C-4 異常気象による食糧危機の可能性。

(3)減反政策からの転換と食糧安全保障:水田維持のため飼料米へ生産シフト
D コメの国内需要減少のもと、コメの生産調整は続けられない。割当量が小さくなれば生活できない。
D-2 今回、安倍政権が減反・生産調整政策から転換。
E 食糧安全保障の観点からは、水田が荒れない方策が必要。また保水・防災、国土保全など多面的機能が水田にある。
E-2 水田維持のため、飼料米へ生産シフト。飼料の輸入依存度も減り、一石二鳥。
E-3 飼料米を作っても主食米と同じ収入の補償。現在、年に飼料米18万トン生産。今後10年間で主食米を飼料米に置き換え100万トン生産増。助成金が新たに1600億円必要。1食当たり現在20円強に、新たにプラス1円、5%負担増大。子や孫のため1円を負担したい。

(4)内需の減少を埋め合わせる方法:国際青果市場構想
F 国内需要の減少を埋め合わせる方法。①生産のみから、下流部門(物流・加工)へも進出。農工商連携あるいは6次産業化。②内需がだめなら外需。輸出促進。③国産農産物の国内消費の比率を上げる。④生産コスト削減。
F-2 輸出促進(②)のため、国際青果市場構想。国際空港のそばにシンガポール、台湾、中国、アメリカなどの仲買人が常駐し、輸出手続きも代行し輸出。
F-3 日本の農水産物のおいしさを、2020年東京オリンピックで知ってもらい、国際青果市場から日本の農作物を入手できる体制にしたい。

(5)農業を魅力ある産業へ:成長産業になりうる
G 「農地中間管理機構」を設立する法律、成立(昨年12月)。農地集積の切り札。
H 農地を維持するため多面的機能に着目した直接支払い制度:農道維持、用水路掃除など農地の維持管理業務を、有償で地域の方々に行ってもらう。行政がやるより低コスト。また奉仕でやってもらうのは、高齢化などで無理。
I TPPでは、重要品目(米、麦、牛豚肉、乳製品、甘味資源作物)の自由化は国益に反する。食糧供給構造を脆弱化させない。
J 本年6月に向け、規制改革会議で、農地規制、農業生産法人、農協のあり方を議論。
K 方向感の共有が重要。その上で個々の政策で知恵比べする健全な政策論議。

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「自民党農林族はどこへ行った?ここまで影響力は低下した」岩井奉信『中央公論』平成26年3月号

2014-02-15 19:48:15 | Weblog
(1)農林族の動きは鈍い:TPP交渉参加&減反廃止
A 1955年の自民党の結党以後、農林族が、政府による日本の農業の手厚い保護・助成をもたらす。農政改革の多くは彼らが阻止。日本農業は今や「延命装置」に依存。
B ここにきて、自民党政権の保護農政の多きな転機。(a)安倍晋三政権、TPP参加。(b)昨年11月コメの「減反政策」廃止。
B-2 農林族の動きは鈍い。(a)TPPについては安倍首相の参加の意向で、反対が腰砕け。(b)40年ぶりの政策転換の減反廃止も、自民党内ですんなり了承。
B-2  国土強靭化で公共事業大幅増額(アベノミクス「第2の矢」)の建設族の勢い良さに比べ、農林族は影響力低下か?
C ただし減反廃止に際しては、実は補助金の積み増しという成果があり、農林族は健在。

(2)族議員:専門性(政策エキスパート)&利益調整
D 族議員は(a)「省庁が単位」である。農林族、建設族、郵政族など。(b)族議員として実力が認められるのは当選4回以上の「中堅以上の議員」。
E (c)族議員の活動の場は、政策決定の「表舞台」である国会ではない。「裏舞台」の「自民党政務調査会(政調)」の「部会」(国会の委員会に対応)を取り仕切る。部会での合意が、自民党総務会で「党議決定」。この「与党事前審査」を通った法案を政府が、国会に提出。
F 族議員は70年代以降、台頭。族議員は「部会」での活動を重ね専門知識を養う。
F-2 この「族議員」形成システムを作り上げたのが田中角栄首相で、多数の族議員を傘下に擁した。
G 族議員が注目を浴びたのは80年代。高度経済成長が終焉。財政が逼迫し、省庁間の縄ばり争い激化。官僚制内部の利害調整が難しくなる。
G-2 かくて官僚制と異なるチャンネルを持つ族議員が利益調整。

(3)「にわか族」増大でイメージ低下:族議員の「カネ」と「フダ」
H 族議員のうまみ:「カネ」と「フダ」。「カネ」は業界からの政治献金、「フダ」は選挙での支持。
H-2 多数の族議員を擁した田中派は、「総合病院」と言われ隆盛。
I 自民党議員がすべて族議員化。多くは、「カネ」と「フダ」だけを目当てに利益誘導する「にわか族」。
I-2 「にわか族」ばかりが増え、従来の「族議員」の調整機能が台無し。また政治とカネをめぐるスキャンダル多発。「族議員」のイメージが地に落ちる。
J 自民党政調部会のなかで、農林部会が最大の人数。だがほとんどが「にわか族」。
J-2 例えば、大きな声をあげ米価引き上げを主張した「ベトコン」。彼らは「専門議員」の調整・妥協を無にする。
J-3 かくて農林族は数が多いが、まとまりを欠く。
K 94年選挙制度改革で、小選挙区制のもと、まとまった農民票(「フダ」)に依拠する「農林族」の存在感が強まる。

(4)自民党農林族の影響力低下:(a)農業人口減少、(b)政党支持変化、(c)農協と農民のズレ、(d)小泉の「小さな政府」&(e)抵抗勢力攻撃、(f)小沢一郎の農家と農協の分断
L なぜ、今、自民党農林族の影響力低下か?
(a)農業をめぐる構造的変化。農業人口が1960年代3割から、今4%へと減少。急速な高齢化。かくて票田(フダ)縮小。
(b)農民側の意識変化。かつて農家は、家族ともども自民党支持。80年代以後は、農民と一般有権者との間で、政党支持に大きな違いがない。
(c)農協と農民のズレ。コメの輸入自由化に農協は激しい抵抗。しかし農民の多くが「やむを得ない」。時代の変化という現実を受け入れる。
M (d)小泉内閣の「構造改革」が「小さな政府」をめざし、公共事業・補助金の大幅な縮減。農村を中心に地方経済に大きな打撃。
(e) 小泉首相が「族議員」、「派閥」を抵抗勢力と呼び、一切、彼らに耳を貸さない。かくて農村で自民党離れ。
N (f) 小沢一郎が加わった民主党が、農民票の取り込みを図る。農家の所得補償で、自民党「農林族」の牙城切り崩し。所得補償政策は、従来のように農家への補助を農協を通すのでなく、農家への直接支払いとする。農家と農協の分断。

(5)農協と農民の意識の乖離&保護農政だけの「農林族」はミスマッチ
O 農林族が守ろうとしているのは、「農民」の利益でなく「農協」の利益でないかとの批判あり。たとえば農協の組織内候補・山田俊男は、2007参院選44万票、2013年参院選34万票と、10万票減少。農民の農協離れ。
P TPPへの積極姿勢、減反廃止決定にもかかわらず、農民の安倍内閣への支持率が高い。農協と農民の意識の乖離。
P-2 農民は「延命装置」依存の農政へ疑問。安倍内閣の「官邸主導」の農政改革に期待。
P-3 補助金獲得・保護農政だけの「農林族」はミスマッチかもしれない。「ベトコン」の時代は終焉かもしれない。
Q ただしTPPで、コメについて例外措置がとれないと、安倍内閣の農政への批判が、「ベトコン」型議員から噴出の可能性。
R 「ベトコン」型議員を抑える政治力ある「農林族」議員を生み出す必要あり。

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「“日本人の論理”と“韓国人の論理”、なぜすれ違う」木村幹、李元徳『中央公論』平成26年3月号

2014-02-13 21:42:33 | Weblog
(1)「反日の韓国」vs「右に走る日本」
A 韓国も力をつけてきたのだから、日本にも北にも、時には米国にも筋を通すべきだと言う空気が韓国国内にある。だからバシッとメッセージを出す朴槿恵(パククネ)大統領が人気。
A-2 それでも昨年11月頃、日韓が今の状態で大丈夫かとの認識が高まったが、12月の安倍総理の靖国参拝で頓挫。
B 「期待が裏切られ失望が増幅」:(1)韓国側は、慰安婦問題などで民主党政権に期待したのに何もしなかったと失望。そこに安倍政権でえらいことになると「右傾化」批判。(2)日本側では、「親日」のはずの李明博(イミョンバク)大統領が竹島上陸。日本をよく知る朴正熙(パクチョンヒ)元大統領の娘の朴槿恵(パククネ)大統領が親日でなく日本を攻撃。「韓国は誰が出てきても反日政権なんだ」と失望。
B-2 「反日で中国にすり寄ろうとする韓国」、「右に走る日本」という単純な見方に収斂。
C 周囲や他国が何を言おうと、原理原則を貫き、我が道を行くという点では、朴大統領と安倍首相は似る。安部首相が官房長官時代、朴氏とあって意気投合したという話がある。

(2)
D 韓国が中国を外交上重視する理由:(1)韓国最大の貿易相手国は中国。また韓国は7割が外需依存。日本は外需は2-3割で実際は内需型。(2)中国との関係を良好にしないと核問題・朝鮮半島統一もありえない。にもかかわらず李明博政権は米国・日本重視で、批判を受けた。かくて朴槿恵政権は中国と関係強化へ転換。(3)地政学上、中国とどう向き合うかは韓国にとってサバイバルの課題。中国と海を隔てる日本では理解されにくい。
E 韓国外交にとっては、米国、中国、日本とバランスを取ってやっていくのが基本路線。「日本を捨てて中国をとる」といった二者択一はありえない。
F 日本側は、尖閣問題も影響し「米中は対立関係にある」ととらえる傾向。韓国側は、「米中は戦争しているわけでないから、戦略的相互依存関係はありうる」との立場。
F-2 米国も韓国も、中国は脅威であると同時に必要な国と見る。日本は片方しか見ていない。
G 日本の対中国観は、米国の期待も投影か?米国の軍事力の戦略的再配置で、東アジア防衛のため日本の役割増大を求める。「中国の脅威」に対抗してくれというトーン。
G-2 米中の対抗軸がシーパワーなので、海軍力が大きくない韓国はプレッシャーがない。

(3)対日要求は65年で終わったという政策:韓国政府
H 1965年の日韓基本条約・日韓請求権協定以後、韓国が日本に物理的要求をしたことはない。韓国政府は、国内の不満・批判にかかわらず、対日要求は65年で終わったという政策をとってきた。
H-2 ただし日本側からすると、盧泰愚(ノテウ)政権の前期までは、慰安婦問題を含め対日要求をしないと言っていたのに、態度が変わったので、日本側は、韓国の「変身」にインパクトを受ける。
I 盧武鉉(ノムヒョン)政権の2005年に、植民統治時代の被害者への補償は日本に要求せず、国内措置として取り組むとする。ただし従軍慰安婦、原爆被害者、サハリン残留韓国人問題は除く。
I-2 他方で盧武鉉政権は、竹島に日本の測量船が来たら、船をぶつけて沈めろとも命令。

(4)司法の判断に頭を抱える韓国政府
J 2011年、憲法裁判所判決:従軍慰安婦の賠償請求権について、韓国政府が何の措置も講じなかったのは、憲法に違反する。違憲的な不作為。だから日本側に働きかけよ!
K 2012年、徴用工の賠償問題の大法院判決:戦時中に日本に渡った徴用工の未払い賃金請求権、損害賠償請求権は消滅していない。35年間の日本の支配は不当。国家が個人の請求権を消滅させることはできない。
K-2 法理的には尊重されていい。ただし外交の現実と、法理的な是非は別の話。大法院の判決を、国境の外にまで適用させるのは無理。実定法的な国際法の現実。
K-3 韓国政府も、日本企業への強制執行といったことになる前に、何らかの措置は講じるだろう。
L 1965年の日韓請求権協定は請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」とある。韓国の専門家や外交官も、個人の請求権も消滅したと判断。
M 朴槿恵政権初期:請求権問題について世界の国際法の権威による仲裁委員会を作り判断を仰ぐという意見があった。しかし韓国が勝てる可能性低いし、その決定を世論が受け入れないと政権が追い込まれる。仲裁委員会の話は中断。
N 日本国内では二つの判決について、「韓国がまた話を蒸し返した」との反応。
O 慰安婦問題の解決なしに、日韓関係の正常化は不可能(李元徳):解決策の4つのシナリオ。(1)日本が特別立法措置。(2)財団・基金などで補償。(3)仲裁委員会で結論。ただし(1)(2)(3)は実現可能性低い。(4)粘り強い外交交渉。政府担当者が難しいなら半官半民の1.5トラックなど。

(5)「反日教育」の真実
P 植民地だった事実を乗り越え、国家としてのアイデンティティを確立するに当たり、日本への厳しい評価で、歴史を教えるしかない。
P-2 ただしそれも少し前までの話。そろそろ多様な教科書をつくるべきとの議論も起こり、混乱している状況。
Q 今の学生は日韓関係に冷めていて、ほとんど関心を示さない。
R “386世代”(90年代に30台、80年代に大学、60年代生まれのエリート層、2010年代に40歳台)は違う。国定教科書の民族主義に感化され、民主化運動も経験。裁判官となった彼らが、先のような判決を出す。
R-2 かつての教育が時間差攻撃のように効いている。強い民族主義の世代がエリートとして登場。
R-3 肯定的に見れば、人権意識が高まった。
S 韓国は「過剰民主主義」。今、あまりに個人の人権とか権利重視に偏り過ぎている。韓国社会は、原理原則、価値観優先、人権重視に走りすぎている。(李元徳)
T 依然として冷戦的発想から抜け出せない日本から見ると、韓国の変化はとんでもないことが起こっているように見える。(木村幹)
U 日韓は似たところが多くなった(李元徳):もともと基本的な価値や規範を共有する国同士。国際政治では、日韓とも米中という超大国に挟まれ、安全保障は米国に依存し、経済的に中国を無視できない。
V 両国が統一された朝鮮半島を視野にいれた東アジアの将来ビジョンを構想することが重要な時代。歴史問題での極端な対立は、情けない限り。(李元徳)

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「いつまで続く、朴槿恵の強硬姿勢」武貞秀士『中央公論』2014年3月号

2014-02-12 21:15:58 | Weblog
A 朴槿恵(パククネ)大統領は歴代大統領と違う。歴代の韓国大統領は政権末期に、反日を強めた。朴大統領は就任直後から日韓関係で強硬な態度。

B 韓国の歴代大統領の日本への姿勢
① 李承晩(イスンマン)大統領:反日一筋。しかし日韓国交樹立前なのでバランスシートの考慮は不要。
② 朴正熙(パクチョンヒ)大統領:強靭な韓国のため日本の協力が必要。国交正常化。日本の資金、技術を導入。日本に追いつく。
③ 全斗煥(チョンドゥファン)大統領:光州事件後、国内分裂、民主化の遅れへの批判。日本に対しては、「韓国が安保で中国大陸の防波堤」との立場から安保経済協力を期待。
④廬泰愚(ノテウ)大統領&⑤金泳三(キムヨンサム)大統領:民主化に専念し日本に照準あわせず。
⑥ 金大中(キムデジュン)大統領:日韓関係が最も、良好。日本との防衛交流を説いた日韓共同宣言(1998)あり。
⑦ 廬武鉉(ノムヒョン)大統領:韓国を取り巻く4国、日米中ロのバランサーになるとの外交戦略の中に日本を位置づける。
⑧ 李明博(イミョンバク)大統領:日本に経済的に追いつくことを重視。最後の1年は反日姿勢で、竹島上陸。
⑨ 朴槿恵(パククネ)大統領:最初から日本に歴史認識を問いかけ、日本の姿勢変換を、日韓首脳会談の前提条件とする。

C 朴槿恵大統領:「日本はずし、中国依存」
C-2 日本と国交を樹立した朴正熙大統領の娘ということで、日本では李明博政権で傷ついた日韓関係を修復するとの期待があった。
C-3 しかし朴槿恵大統領の戦略の基本は、米中と協力し北朝鮮に接し、軍事的に万全の備えをし、その上で日本に譲歩を迫る。
C-4 東北アジア平和協力構想(昨年6月)という「未来志向」の枠組み。ただし過去の歴史からくる葛藤を解決しない国家(日本)は除外。

D 「東アジアの信頼醸成プロセスは、中米韓の協調でやり、日本を除外する」との朴槿恵政権の方針の背景
① 外交面、経済面での国力への自信:国連事務総長は韓国人、仁川(インチョン)市にグリーン気候基金(GCF)事務局。サムスンはソニーを追い越し、現代は健闘。
② 中国の台頭、日本の国際的影響力の低下、日本経済の苦境。
③ 韓国の国際社会での躍進のためには、日本が障壁。
(1)アジアで、韓国が安保理常任理事国になるとの目標。(戦争の償いが終わらないかぎり日本の常任理入り反対。)
(2)2024年の五輪を釜山(プサン)に誘致する構想。(2020年東京五輪に反対。)
④ 経済面では、韓国経済は急速に「日本」から「中国」に乗り換えつつある。
(1)中韓貿易(部品貿易など)が急速に伸び、日韓貿易と逆転するのは時間の問題。
(2)日本人旅行客が韓国に行かない。韓国への外国人旅行客は2013年、中国が最多となる。

E 朴槿恵政権:日本は北東アジア主要な地域大国として復活しないと判断!
E-2 日本経済が弱体化し日本没落。中国の国際的地位が上昇し続け、中国経済右肩上がり。
E-3 日本は、発信力のない弱い国家。気の毒な日本。韓国は日本の国際的地位を計算する必要がなくなった。
E-4 東日本大震災と原発対策で疲弊した日本。日本はアジアの指導的国家でない。
E-5 韓国が、アジアの先頭に躍り出る。経済分野と歴史認識問題で日本を封じ込め、中韓
協力を強化し、米国の支援を得れば大丈夫!

F 中国は機を見るに敏!中韓貿易を拡大する韓国に便宜供与。北朝鮮の地下資源を獲得・輸入。かくて朝鮮半島の南北への影響力拡大。
F-2 日本を押さえ込めば中韓両国に利益あり。中韓には日本排除の「未来志向」構想あり。

G かくて朴槿恵大統領の「日本はずし、中国依存」の構想に基づけば、朴大統領の反日姿勢は弱まらない。さらに強まる可能性も高い。
① 大統領側近に日本通がいない。「中国を韓国外交の中心に据える」戦略。
② 日本批判は、国内の人気維持にてっとり早い。
③ 朴大統領が日本に譲歩して、国内政情のリスク、また中国の気分を害するリスクは、犯さない。
④ 円安、ウォン高で韓国経済苦境、そして中国経済への依存を高めつつあるとき、朴政権は、反日、親中路線以外ない。

H 中韓の領有権問題がある岩礁を、中国が防空識別権に新たに入れたが、中韓関係の強化の方針のもとで、紛糾させなかった。

I 「日本を外し、中韓関係を強化することにはリスクがある」との見解もある。
① 安倍首相の靖国参拝直後の世論調査で、「日本との関係改善のために大統領が積極的に動くべき」57.8%、「必要ない」33.8%。韓国民の多くは、朴大統領が反日姿勢のままでよいと思っていない。
② 「韓国が、中国経済だけ頼りにしていいのか?」との不安がある。例えば韓国済州(チェジュ)島で中国不動産会社により、先祖代々の墓が更地にされマンション建設。韓国人は複雑な思い。
③ 中国経済の好調は、長く続くのか?

J 安倍政権は、従来の政権と違う。歴史問題で圧力をかけても譲歩しないとの見方も韓国内で浮上。

K 米韓関係は波乱含み。
① 中韓FTA締結問題。
② 韓国の核兵器保有につながる米韓原子力協定の改定問題。

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「“反日”韓国の精神構造:相互不信に囚われた1500年」中西寛『中央公論』2014年3月号

2014-02-12 20:49:06 | Weblog
(1)“ヤマアラシのジレンマ”
A 日韓の情報流通がインターネットなどを通じて緊密化したことが、反感を強め、悪意あるニュースの拡大報道に寄与している。
B 日韓関係は1500年程度遡れるが、“ヤマアラシのジレンマ”にある。体を温めようと身を寄せ合うが、近付きすぎると互いの針によって傷つけ合う。
C 政治文化の差異:日本は、中国をライバルと見なし、同格であろうとし、中華文明を受け入れつつも、固有の文明化することを誇る。
C-2 朝鮮半島では、中華文明を普遍的理念の次元でとらえ、自らがその理念の体現者であることを誇る。
D こうした政治文化の差異から、日本は朝鮮を中国文明に従属していると軽侮する。朝鮮は日本を文明の高みに達しない野蛮国とみなす。

(2)日米韓の戦略的利益の共有が変化:ポスト冷戦期
E 冷戦期には日米韓は、戦略的利益を共有したが、今やそれが変化。
① 日本にとっては、中国の海洋進出が懸念材料。
② 韓国にとっては、中国は、北朝鮮の制御役であり、最重要の経済パートナー。
F 20世紀後半、日本も韓国も「生産性の政治モデル」を追求。「経済成長により中産階級が豊かになり、安定した政治の基盤となる」というモデル。
F-2 21世紀に入る頃から、日韓ともに、イデオロギー的要素が強まる。現体制の道徳的正統性を、歴史認識において根拠づける伝統的な東アジア政治思想の要素。かくて安倍首相は靖国参拝を望み、朴槿恵(パククネ)大統領が日本に正しい歴史認識を要求する。

(3)日韓関係の現状解決への処方箋
① 東アジア政治構造における日韓関係の基本的方向性として、一方で、「日本は日米安保体制を強化し、中国の現状変更外交を抑制する」。他方で、「韓国が米中の協力を促す。」以上が全体として東アジアの安定に寄与する。
② 日韓の実務的協力を深めることが重要。米軍を挟んだ日米韓の枠組みを前提とする。
③ 日韓基本条約で請求権が解決されたとの原則を守りつつ、双方を満足させる解決策を見出す柔軟性が必要。この際、日韓間の非公式の交流が重要。
④ 伊藤博文を暗殺した安重根の記念館が、中国のハルビンに開館した。韓国が対日歴史問題で中国と共同歩調をとることを求め、中国が政治的判断でこの申し入れを受け入れた。菅官房長官は「安重根はテロリスト」と述べたが、奥行きを欠く。
④-2 安重根の人柄は、日本でも評価する声がある。安重根と伊藤博文が、暗殺者とその被害者として出会わねばならなかったのが、近代東アジアの悲劇であった。

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“文藝春秋BOOK倶楽部”『文藝春秋』2014年2月号

2014-02-11 22:54:08 | Weblog
(1)著者は語る:渡辺京二『万象の訪れ』弦書房
A ロングセラー『逝きし世の面影』の著者渡辺京二氏の短文を集めたもの。
B 植民地時代の大連で育った。日本的風土に対しては、カミュ的な「異邦人」の立場。
C 『苦界浄土』の石牟礼道子さんとはかつて水俣病裁判をともに戦った。
D 月刊誌に8年連載の「追想、バテレンの世紀」。この後、幕末維新、1930年代世界史、フランス革命を扱いたいとのこと。83歳。

(2)新書の窓
①湯之上隆『日本型モノづくりの敗北』(文春新書):日本の家電・エレクトロニクス産業凋落。全体を見ず、局所的改善ばかりで近視眼的。職人的技術への過度のこだわり。ゼロ戦がかつて優位を失っていったのと同じ。
②橋爪大三郎・大澤真幸『ゆかいな仏教』(サンガ新書):ベストセラー『ふしぎなキリスト教』の社会学者コンビが、仏教をあつかう。
③津田敏秀『医学的根拠とは何か』(岩波新書):医学的根拠には、(1)経験則、(2)生物学的な発症メカニズム研究、(3)統計学的根拠の3つがある。日本では発症メカニズム研究が重視されるが、多数の要素が絡み、発症まで長い時間を要するガンは、統計的根拠に頼らざるをえない。例えば「ある化学物質はガンの発生確率を○%高める」など。
④菅野瑞治也『実録、ドイツで決闘した日本人』(集英社新書):マルクスやニーチェも決闘した。今も「ゲルマン魂」。決闘を行う学生結社に加盟5万人。
⑤宮内泰介・藤林泰『かつお節と日本人』:かつお節は、長期保存可能、調理不要なタンパク質として、西南の役、日清戦争、日露戦争の携帯食糧だった。

(3)今月買った本:池上彰(ジャーナリスト)
(A) D.プリースト、W.アーキン『トップシークレット・アメリカ』(草思社):「テロとの戦い」と言えば、何でも秘密にできるアメリカ。特定秘密保護法が成立した日本も同じか?
(B) B.ウッドワ-ド『政治の代償』(日本経済新聞出版社):「選挙に勝った」という慢心から野党と対峙し政策協議に応じないオバマ政権を、内側から描く。
(C) 大倉幸宏『「昔はよかった」と言うけれど』(新評論):「戦前は修身があって日本人の道徳観念は高かった」と言われるが、戦前の日本でも「昔は道徳心があったのに」と言われていた。昔の日本の方が、ひどかった!
(D) 與那覇潤『日本人はなぜ存在するか』(集英社インターナショナル):そもそも日本人とは何ものなのか?
(E) 内田樹『街場の憂国論』(晶文社):いつものように快刀乱麻!
(F) 吉岡桂子『問答無用』(岩波書店):中国国内の識者19人のインタヴュー。中国にも理性的な発言をする人もいる。
(G) 山口真典『北朝鮮経済のカラクリ』(日本経済新聞出版社):張成沢国防副委員長の突然の処刑に驚かされ、あらためて北朝鮮について確認。
(H) 黒田勝弘・武貞秀士『金正恩の北朝鮮、独裁の深層』(KADOKAWA):儒教文化は後継者に、長男を指名するのでなく、「直系の子どもたちのなかから選ぶ」ということ。
(I) マララ・ユスフザイ、C.ラム『わたしはマララ』(学研パブリッシング):パキスタン・タリバンは、女子に学校で学ぶ権利を認めない。
(J) D.タプスコット、A.D.ウィリアムズ『マクロウィキノミクス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン):インターネット上で不特定多数の人々が情報を交換することで画期的なビジネスモデル、「ウィキノミクス」が生まれるとする。

(4)鼎談書評:山内昌之(歴史学者・明治大学特任教授)、片山杜秀(政治学者・慶應義塾大学教授)、浜矩子(ノリコ)(同志社大学教授)
① ユージン・ローガン『アラブ500年史(上・下)』(白水社):不定愁訴をもたらした外からの支配。その根源を読む
A 「アラブの近代」を1516年にマムルーク朝が、オスマン帝国に屈してからの500年ととらえる。1798年のナポレオン侵略が、アラブの近代の始まりと見ない。
B ヨーロッパ人の中東観、「オリエンタリズム」(エドワード・サイード)をとらず中立。
C イギリスは、王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)など中東研究の長い系譜をもつ。オスマン帝国に対するアラブの反乱を指導し、ゲリラ戦を体系化したロレンスは英国人。

② 沢木耕太郎『流星ひとつ』(新潮社):藤圭子との間で交わされた一夜の会話。二人だけが知る真相
A 1979年秋のインタヴュー。藤圭子の時代のムードは、オイルショックを経て断ち切られる。山口百恵たち「花の中三トリオ」、ピンクレディーなど軽い消費社会のアイドル文化が取って代わる。
B 藤圭子は「流れ星」のような存在。
C 盲目だった母親について「実は目が見えている」と中傷されたと藤圭子。

③ 田中慎弥『燃える家』(講談社):山口を舞台に壮大なスケールで描いた神話的物語
A 前半は日本の田舎の鬱屈した少年の暴力を描くローカルなリアリズム。
B 後半は大江健三郎、中上健次もびっくりする神話的物語。平家、壇ノ浦、安徳天皇を祀る赤間神宮、フランシスコ・ザビエルの教会が登場。
C 蟹(ヘイケガニ)、鳩のモティーフあり。蟹は、敗者の怨念の象徴。
D テロ、戦争、地方の中央への反発心、西洋と東洋、アメリカと日本、正統と異端の対立などが全体を構成。また現実と幻想が入り組む。
F 「天皇は関門海峡に沈んだ人だけ!」と主人公が言う。天皇を奪うのが日本の革命だという北一輝らの定法。田中氏なりの政治小説、革命文学。

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「やっぱり日本の英語教育はおかしい」榊原英資・鳥飼玖美子『文藝春秋』2014年2月号

2014-02-11 22:50:12 | Weblog
(1)英語強化とTOEFL
A 産業競争力会議が、国家公務員の採用試験・昇進にTOEFLを取り入れることを検討。
B 英語力は人間力と違う。TOEICやTOEFLの高得点者を採用しても、商談ひとつまともに、まとめられない。
C 日本語がうまい人が、英語もうまくなる。
D 日本人の英語力は、中国、韓国、ASEANの国々と比べ低い。グローバル化の足かせ。
E すでに前例として、TOEICは本当の英語力が測れるか疑問が出た。MBAを取得した人がTOEICの点数、低い。かくて、今回、TOEFLとなった。

(2)英語教育:文法軽視、読む量が減り、語彙力も乏しい
F 経済同友会、自民党教育再生実行本部が、日本の英語教育が文法訳読ばかりで使い物にならないと主張。「日本人は、文法ばかりやっているから話せない」という認識は古い。
G 実用英会話を重視したので、文法軽視、読む量が減り、語彙力も乏しい。中高教科書で、単語は2500語程度。新しい学習指導要領で3000語に増。TOEFLは1万語必要。
H 小学校の英語は不要。がっちり日本語ができる人をまず育て、中高で英語を学べば良い。

(3)グローバル人材:英語力の前に、まず日本語できちんと意見が言えること!
I グローバル人材とは、自分の考えをどんどん言葉にし、相手を納得させられる人材。
I-2 「出る杭は打たれる」のがいやで、空気を読みながら黙っているのではダメ。
I-3 意見をぶつけ違いを認識し、異なる主張を尊重し折り合う能力が、必要。
J 国際会議の議長の二つの条件:①インド人を黙らせる。②日本人をしゃべらせる。Joke!
K 高校留学時の感想:アメリカ人はよくしゃべる!
K-2 何も言わず黙っていると、不気味と思われるか、意見がないと思われる。英語力の前に、まず日本語できちんと意見が言えるようになること!

(4)日本人が英語のできない理由のひとつ:日本の高度な翻訳文化
L 会話英語なら2-3ヵ月留学すればマスターできる。役人はだいたいの省庁が国際畑の人材は留学させる。
M 企業もかつては留学させ、アイビーリーグの大学にも寄付していた。社内でも英会話講座。バブル崩壊で消滅。
M-2 そこで企業は大学に英語力達成を要求。
N 日本人が英語のできない理由に、日本の高度な翻訳文化がある。
N-2 アジアの人たちは、なまりがあってもガンガン英語でしゃべる。例えば、タイでは金融のテクニカルな用語がタイ語でないので、英語でしゃべる。

(5)思考の基本は母語
O 英語を理解するには、とにかくたくさん読む。
P ただし思考の基本は母語。
P-2 例えば、国際交渉は母語で主張し合う。通訳が間に入る。
P-3 意見がまとまらないときは、結論の日本語版と英語版で、表現を微妙に変えることができる。

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「中国“中流家庭”の家計簿」富坂聰(ジャーナリスト)『文藝春秋』2014年2月号

2014-02-08 14:19:33 | Weblog
(1)大学生の就職問題
A 親は、虎の子をつぎ込んで子供に未来を託し、彼らがやっと身につけた大卒の肩書き。自分たちの無念を晴らし、かつ安定した老後を約束するはず。ところが大卒の就職が難しい。つまり大学生の就職問題。
A-2 かつては「保八」と言われた。GDP成長率8%を割り込むと、毎年約1000万人(高大等新規学卒者)の新規採用に対応できず、社会不安へ。
A-3 ところが現在の中国のGDP目標値は7.2%。大学生の就職問題が起こるのは当然。

(2)社会安定剤の都市中間層
B 一方で富裕層:党・政府の官僚、国有企業の幹部たち。他方で低所得層:農民や出稼ぎ労働者。両者が注目されるが、2000年代半ばから都市に中間層が出現。
B-2 最大人口が農民、そこから流動人口2億3600万人(半数は「八0後」、1980年代以降生まれ)。平均年収4万元(68万円)(1元=17円で計算)。(2013年)ただしこの数字は出稼ぎ労働者の賃金も含むので低すぎる。
B-3 都市部の平均的中国人はもう少し豊か。日本人に近い暮らし。人口の点ではそれほど多くないが“社会の安定剤”。
B-4 「中東の春」でも中間層が決定的な役割。
C 北京の美容サロン経営夫妻。共に四川省出身。夫、専門学校卒(44)。妻高校卒(41)。息子は遼寧大学国際金融学部。一昔前と違い、今は大卒の就職が大変と不安。

(2)-2 中小企業の初任給:月額2000元(=3.4万円)、年収2.4万元(=41万円)
C-2 2013年卒業(6月)の大学生699万人の内定(中国では「契約」)率30%にすぎない。
D しかし中小企業は人出不足。だいたいの中小企業は初任給月額2000元(=3.4万円)、年収2.4万元(=41万円)提示。企業は他に社会保障費月額1000元負担。
D-2 学生側は初任給月額4000元(=6.8万円)、年収4.8万元(=82万円)要求。北京ではワンルームを2人でシェアして月2000元、食費月1000元かかる。学生が月額2000元を飲めば、ワンルームを3-4人でシェアしないといけない。
D-3 北京で月収1500元(=2.6万円)、年収1.8万元(=31万円)の中小企業に就職すると、“蟻族”となる。ひとつの部屋を多くの人々でシェアする。Ex. 2DKに25人、25人分の家賃2万元(=34万円)。北京の中心部だがそれにしても高い。

(2)-3 央企(国務院直属の国有企業):年収70万元(=1190万円)
E 央企(国務院直属の国有企業)のホワイトカラーの平均年収70万元(=1190万円)。かくて誰もが、央企を狙う。
E-2 央企の頂点:◎石油ビッグ・スリー(中国石油天然ガス、中国石油化学、中国海洋石油)、◎チャイナ・テレコム、◎チャイナ・モバイル、◎四大商業銀行(中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行)。
E-3 2000年代前半までは外資への就職希望が多かったが、2013年は大学、修士とも外資希望は20%前後。中国の官僚や国有企業のほうが、外資の社員より恵まれている。

(2)-4 北京郊外の通州に住む:通勤はドア・トゥ・ドアで約2時間
F 北京の家賃の値上がり圧力。郊外の通州。通勤はドア・トゥ・ドアで約2時間。満員電車。

(2)-5 都市中間層、北京の美容サロン経営夫妻(前出):年収42万元(=714万円)
G 年収42万元の支内訳:3LDK(112平方m)のマンションの住宅ローン返済24万元(=408万円、月34万円)、食費6万元(=102万円、月8.5万円)、遼寧大学の息子への仕送り4.8万元(=82万円)、医療保険・生命保険2万元、その他5.2万元(=88万円)。
G-2 この夫妻は10月の国慶節に香港旅行が唯一の贅沢。

(3)北京の外資系大手広告代理店のサラリーマン:年収60万元(=1020万円)
H 大学を出て憧れの北京の会社に就職した夫婦。広東省出身の夫(38)、吉林省長春市出身の妻(36)。北京の難関大学の中央財政大で二人知り合う。夫は外資系大手広告代理店のサラリーマン。妻は子供の出産後、離職。夫の年収60万元(=1020万円)。
H-2 二人目の子供を生んで、一人っ子政策違反の協力費(罰金)18万元(=306万円)を2009年に払う。そのため貯金がない。
H-3 3LDKの高級マンションを借りる。月8100元(=13.8万円)、年9.7万元(=165万円)
H-4 家計にとって一番重いのは子供2人の学費。イギリス系貴族学校。学費は年間2人分で、30万元(=510万円)。年収の半分。子どもは将来、アメリカに留学させたいと妻。夫は子供の学費をけずり家を買いたいと言うが、妻が反対。
H-5 北京の学校の種類①「重点校」:莫大な資金か党の幹部であるなど大きなコネが必要。
②「貴族学校」:金持ち向け。「上」クラス。年間学費30万(=510万円)元超。
③「高級学校」:「中の上」クラス。年間学費15万元(=255万円)程度。(貴族学校の半分程度)
④ その下で年間学費2万元(=34万円)前後のクラス。

(4)中国経済への不安、北京に住み続けるor香港へ移住する
I 中国経済への不安、「中国版バブルの崩壊」:大手広告代理店のサラリーマン(年収60万元)、美容サロン経営夫妻(年収42万元)に共通。
I-2 美容サロン経営(夫)(→(2)-5):引退後、田舎に戻ることはしない。北京に住み続けたい。仕事は続けられる限りする。息子の世話にならない。海外で暮らすつもりはない。田舎の両親と暮らすつもりはないし、仕送りもしていない。食品の安全の問題があるし、大気汚染も深刻。しかし四川省にいた頃、食べたものを思い出せば、今はありがたい。
J 大手広告代理店のサラリーマン(→(3)):チャンスがあれば子供を海外に出したい。自分たちも経済的備えがあれば、香港へ移住したい。北京の不動産の高騰が不安。中国の未来へのぼんやりした不安が、インテリには多い。

(5)標準的中国人(都市戸籍を持つ平均的な水準)、夫がIT系企業勤務の夫婦、年収合計19万元(=323万円):IT系企業勤務(夫)年収10.5万元(=179万円)、共稼ぎの妻年収8.5万元(=146万円)。標準的中国人
K 夫は、南京大法学部卒、いくつかの企業をへて、IT系企業勤務:年収10.5万元(=179万円)。共稼ぎの妻年収8.5万元(=146万円)。年収合計19万元(=323万円)。標準的中国人(都市戸籍を持つ平均的な水準)
K-2  中国経済が貧富の差など問題をかかえ、突然崩壊するのではと心配。万が一のため、今、贅沢せずに親のすねをかじって、貯金している。
K-3 妻の両親が北京の公務員で引退し、手厚い社会保障で広い住宅がある。そこに私たちも一緒に暮らす。食費も両親に頼っている。夫は多少、両親に窮屈。
K-4 夫妻の年収合計19万元のうち、年間15万元をかけ、3歳の娘を高級幼稚園に通わせる。将来はアメリカに留学してほしい。
K-5 老後に経済的余裕があれば中国を離れたい。成長が今後も続くとは思えない。大気汚染もひどい。(ただし、強い海外志向は、例外的!)

(6)運送会社勤務(夫33)年収5万元、共稼ぎの妻年収3万元、合計収入8万元(=年136万円)、月平均6667元(=11万円):都会生活者の中の“中の下”(月収4000-6000元)
L このまま何事もなければ10年後には、自分のレストランを開きたい。医療保障がないので大病したらレストランは出せない。最後は故郷の山東省の農村に帰って静かに暮らす。
L-2 娘に自分たちの老後をみてもらうつもりはない。自分の両親の面倒を見ていないから。やるべきは、娘を立派に育てること。私が田舎に引っ込んでも、彼女は都会にとどまって、教師のような安定した職業についてほしい。福利厚生もしっかりしているし。
M 中国経済の行方など考えてもしかたがない。ただ物価が心配。持ち家のことは考えないでもない。
N 月の収入平均6667元のうち、幼稚園月額2000元、1LDKのアパートの家賃1200元。教育費の比重が高い。

(7)「成功者」:不動産会社と炭鉱を経営、年収2000万元(=3億4000万円)
O 夫(53)は上海出身、大卒だが有名大学でない。地方の役人を経て事業を起こす。“下海”組。妻(36)は浙江省の専門学校卒。
P 中国経済は、あと20年は大丈夫。完全な市場経済でないことが良い。政府の強烈な指導力で問題を乗り切れる。
Q 23歳の長男(前妻との子)、7歳の次男。北京と上海に各500平米の戸建て。海南島と浙江省杭州市に各500平米の別荘
R 長男は今年からアメリカ留学。次男は貴族小学校、毎年学費35万元(=595万円)。
S 環境や医療の問題を考え、シンガポールへの移住を検討中。
T 車はフェラーリをはじめ高級車5台。ブランド品は飽きるほどもつ。「いま欲しいもの」は「やっぱり、長生きかな・・・・」と夫。

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