※河合雅雄(1924-2021)『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』1977年(53歳)
第12章 自然の掟を破ったもの:人間の「同族殺害」は「大悪」である!(225-242頁)
(13)「攻撃性」は、「種の保存」のために「遺伝的に組み込まれたプログラム」(「本能」)であって、「“性”と密着している生得的な性質」である!
M コンラート・ローレンツ(1903-1989)『攻撃』(1963)は、「攻撃性」が「“性”と密着している生得的な性質」であることを証明した。(228頁)
M-2 例えばシカの雄は秋の発情期に交尾テリトリーを作り、侵入してくる雄と戦い、雌を占有しようとする。これは「種の保存」のために「遺伝的に組み込まれたプログラム」(「本能」)が命ずる行動であって、「個体の意志」と無関係に雄ジカは戦い、種つけに邁進する。シカの雄は「進化」という「造物主の命」に従っている。(229頁)
(13)-2 「攻撃性を抑制する機構」:(ア) 形態の安全化、(イ)「武器となる形態」をシンボル化する、(ウ)闘争の行動を「儀式化」する、(エ)「転移行動」!
M-2-2 だが同時に「種の維持」(「個体群の維持」)のためには雄の「攻撃性を抑制する機構」がなければならない。(ア)形態の安全化:角を絡み合わせ戦うシカの角は枝分かれし、角が滑って相手を傷つけないように進化した。あるいは角の先端が扁平で巨大になった。さらに(イ) 「武器となる形態」をシンボル化する:角が闘争のシンボルとなり、より巨大な角を持った雄を優位な雄として認め無益な闘争を回避する。(ウ)闘争の行動を「儀式化」する:例えばダマジカでは「闘争の際、劣位者は横に寝転がって白い横腹を見せる。すると優位の雄は闘争を停止する。」(エ)「転移行動」:例えばアナウサギの雄は闘争で勢力が伯仲すると、戦いの相手を無視し急に穴掘りを始める。かくて闘争が鎮静する。(229-231頁)
(13)-3 動物社会の鉄則:「同じ種類の仲間を殺さない、食べない」!人間の「同族殺害」は「大悪」である!
M-3 こうしてローレンツは「同じ種類の仲間を殺さない、食べない」というのが「動物社会の鉄則」だと言う。(232頁)
M-3-2 だが人間はこの「自然の掟」を破る。個人的怨恨による殺人、ナチスによるユダヤ人大量虐殺、戦争、核爆弾による無差別大量虐殺など。いずれにせよ「同族殺害」は動物社会の鉄則に反する「大悪」である。(232頁)
(13)-4 人間界の「食人」の風習は宗教的・儀式的だった?!
M-3-3 「仲間を食べる」という「食人」の風習は人間界で広く行われていた。(イ)北京原人が人間の脳を食べる(or取り出す)ため頭骨の大後頭孔を大きく広げた。(イ)ネアンデルタール人(5万5000年前):脳を取り出した(or食べた)頭骨が出たが、頭骨の周りに石を輪のように並べてあったので、儀式的・宗教的な食人だったと思われる。(233-234頁)
M-3-4 「宗教」的な理由からであれ、「食物」としてであれ、人間は「人間の肉」を食べた長い歴史を持つ。(234頁)
(13)-5 「サル類の肉食」!
M-4 だが「仲間を殺し、仲間を食べる」ことは既にサル類に見られる。サル類は「動物社会の鉄則」をはずれる。「人間」の「殺戮の習性」や「食人の風習」は、「サル類」から受けついできた「原罪」だ。(以下詳しく見る。)(234頁)
M-4-2 さてサル類(真猿類)の食性は主として植物食だ。「雑食」と言われるもの(Ex. ニホンザル)もいるが動物食はおやつ程度だ。(Ex. 小動物、昆虫)長い間、このように考えられてきた。(234頁)
M-4-3 だがサバンナヒヒがガゼルの子を獲って食べる、ブルーモンキーがリスを頭からかじるなど、「サル類の肉食」が今は、多く発見されている。(235頁)
(13)-6 チンパンジーの肉食:「チンパンジーはしばしば協同して、けものを囲み、巧みに捕獲する。それは人類の原始的な狩猟と何ら異なるところがない」!チンパンジーは動物の「脳」を好む!
M-5 「チンパンジーの肉食」はかなりの頻度で起こる。「チンパンジーはしばしば協同して、けものを囲み、巧みに捕獲する。それは人類の原始的な狩猟と何ら異なるところがない。」(235頁)
M-5-2 「チンパンジーは捕らえた獲物を分配し、死体のほとんどすべてを食べてしまう。」「最も好むのは脳である。大後頭孔に指をつっこんで脳を食べるし、歯で前頭部に穴をあけて頭蓋腔をえぐってなめる。」(235頁)
M-5-3 チンパンジーのこのような行動を見ると「古人類が脳を食べたことに驚くことはない。それは化石類人猿から人類が継承した行動に他ならない。」(235頁)
(13)-6-2 チンパンジーの狩猟と肉食は「遊びと嗜好の要素」が強い!
M-5-4 チンパンジーの狩猟と肉食は「遊びと嗜好の要素」が強い。一般に「サルは動物をからかったりいじめたりするのが、大好きだ」。(Ex. 飼ったサルが犬や猫をからかう。Ex. 幸島コウジマのサルが鶏をいじめては楽しんでいた。)(236頁)
M-5-5 「サルの動物相手のいたずら遊びに攻撃性が結びつき、つかまえて殺してしまう」。そして「いったん食べるとその味が忘れられず、つぎは食べるために動物をとらえる、ということに発展していく。」(236頁)
(13)-6-3 チンパンジーは「仲間の子どもの肉食」を楽しむ風習がある!
M-5-6 チンパンジーは「子どもの肉食を楽しむ風習がある」。「《同じ集団の雌》の子を雄が殺し、しかもそれを食べる」。さらに「雌もまた《他集団からきた雌》の子どもを殺し、それを食べる」(241頁)
M-5-6-2 「殺した子」の食べ方:チンパンジーの雄と雌、どちらの場合も、殺害者のまわりに他の個体が集まって物乞いし、「殺した子」の肉は何頭かに分配される。チンパンジーたちは「殺した子」を食べるとき、木の葉をちぎっては食べる。つまり彼らは、「肉とともに野菜を食べる」という、本格的な食事を楽しんでいる。(241頁)
M-5-6-3 「彼らチンパンジーが住むブドンゴの森は、イチジクなどの果実が豊富に実り、食物にはことかかない。」となるとチンパンジーは「[仲間の]子どもの肉食を楽しむ風習がある」と言ってよい。(241頁)
第12章 自然の掟を破ったもの:人間の「同族殺害」は「大悪」である!(225-242頁)
(13)「攻撃性」は、「種の保存」のために「遺伝的に組み込まれたプログラム」(「本能」)であって、「“性”と密着している生得的な性質」である!
M コンラート・ローレンツ(1903-1989)『攻撃』(1963)は、「攻撃性」が「“性”と密着している生得的な性質」であることを証明した。(228頁)
M-2 例えばシカの雄は秋の発情期に交尾テリトリーを作り、侵入してくる雄と戦い、雌を占有しようとする。これは「種の保存」のために「遺伝的に組み込まれたプログラム」(「本能」)が命ずる行動であって、「個体の意志」と無関係に雄ジカは戦い、種つけに邁進する。シカの雄は「進化」という「造物主の命」に従っている。(229頁)
(13)-2 「攻撃性を抑制する機構」:(ア) 形態の安全化、(イ)「武器となる形態」をシンボル化する、(ウ)闘争の行動を「儀式化」する、(エ)「転移行動」!
M-2-2 だが同時に「種の維持」(「個体群の維持」)のためには雄の「攻撃性を抑制する機構」がなければならない。(ア)形態の安全化:角を絡み合わせ戦うシカの角は枝分かれし、角が滑って相手を傷つけないように進化した。あるいは角の先端が扁平で巨大になった。さらに(イ) 「武器となる形態」をシンボル化する:角が闘争のシンボルとなり、より巨大な角を持った雄を優位な雄として認め無益な闘争を回避する。(ウ)闘争の行動を「儀式化」する:例えばダマジカでは「闘争の際、劣位者は横に寝転がって白い横腹を見せる。すると優位の雄は闘争を停止する。」(エ)「転移行動」:例えばアナウサギの雄は闘争で勢力が伯仲すると、戦いの相手を無視し急に穴掘りを始める。かくて闘争が鎮静する。(229-231頁)
(13)-3 動物社会の鉄則:「同じ種類の仲間を殺さない、食べない」!人間の「同族殺害」は「大悪」である!
M-3 こうしてローレンツは「同じ種類の仲間を殺さない、食べない」というのが「動物社会の鉄則」だと言う。(232頁)
M-3-2 だが人間はこの「自然の掟」を破る。個人的怨恨による殺人、ナチスによるユダヤ人大量虐殺、戦争、核爆弾による無差別大量虐殺など。いずれにせよ「同族殺害」は動物社会の鉄則に反する「大悪」である。(232頁)
(13)-4 人間界の「食人」の風習は宗教的・儀式的だった?!
M-3-3 「仲間を食べる」という「食人」の風習は人間界で広く行われていた。(イ)北京原人が人間の脳を食べる(or取り出す)ため頭骨の大後頭孔を大きく広げた。(イ)ネアンデルタール人(5万5000年前):脳を取り出した(or食べた)頭骨が出たが、頭骨の周りに石を輪のように並べてあったので、儀式的・宗教的な食人だったと思われる。(233-234頁)
M-3-4 「宗教」的な理由からであれ、「食物」としてであれ、人間は「人間の肉」を食べた長い歴史を持つ。(234頁)
(13)-5 「サル類の肉食」!
M-4 だが「仲間を殺し、仲間を食べる」ことは既にサル類に見られる。サル類は「動物社会の鉄則」をはずれる。「人間」の「殺戮の習性」や「食人の風習」は、「サル類」から受けついできた「原罪」だ。(以下詳しく見る。)(234頁)
M-4-2 さてサル類(真猿類)の食性は主として植物食だ。「雑食」と言われるもの(Ex. ニホンザル)もいるが動物食はおやつ程度だ。(Ex. 小動物、昆虫)長い間、このように考えられてきた。(234頁)
M-4-3 だがサバンナヒヒがガゼルの子を獲って食べる、ブルーモンキーがリスを頭からかじるなど、「サル類の肉食」が今は、多く発見されている。(235頁)
(13)-6 チンパンジーの肉食:「チンパンジーはしばしば協同して、けものを囲み、巧みに捕獲する。それは人類の原始的な狩猟と何ら異なるところがない」!チンパンジーは動物の「脳」を好む!
M-5 「チンパンジーの肉食」はかなりの頻度で起こる。「チンパンジーはしばしば協同して、けものを囲み、巧みに捕獲する。それは人類の原始的な狩猟と何ら異なるところがない。」(235頁)
M-5-2 「チンパンジーは捕らえた獲物を分配し、死体のほとんどすべてを食べてしまう。」「最も好むのは脳である。大後頭孔に指をつっこんで脳を食べるし、歯で前頭部に穴をあけて頭蓋腔をえぐってなめる。」(235頁)
M-5-3 チンパンジーのこのような行動を見ると「古人類が脳を食べたことに驚くことはない。それは化石類人猿から人類が継承した行動に他ならない。」(235頁)
(13)-6-2 チンパンジーの狩猟と肉食は「遊びと嗜好の要素」が強い!
M-5-4 チンパンジーの狩猟と肉食は「遊びと嗜好の要素」が強い。一般に「サルは動物をからかったりいじめたりするのが、大好きだ」。(Ex. 飼ったサルが犬や猫をからかう。Ex. 幸島コウジマのサルが鶏をいじめては楽しんでいた。)(236頁)
M-5-5 「サルの動物相手のいたずら遊びに攻撃性が結びつき、つかまえて殺してしまう」。そして「いったん食べるとその味が忘れられず、つぎは食べるために動物をとらえる、ということに発展していく。」(236頁)
(13)-6-3 チンパンジーは「仲間の子どもの肉食」を楽しむ風習がある!
M-5-6 チンパンジーは「子どもの肉食を楽しむ風習がある」。「《同じ集団の雌》の子を雄が殺し、しかもそれを食べる」。さらに「雌もまた《他集団からきた雌》の子どもを殺し、それを食べる」(241頁)
M-5-6-2 「殺した子」の食べ方:チンパンジーの雄と雌、どちらの場合も、殺害者のまわりに他の個体が集まって物乞いし、「殺した子」の肉は何頭かに分配される。チンパンジーたちは「殺した子」を食べるとき、木の葉をちぎっては食べる。つまり彼らは、「肉とともに野菜を食べる」という、本格的な食事を楽しんでいる。(241頁)
M-5-6-3 「彼らチンパンジーが住むブドンゴの森は、イチジクなどの果実が豊富に実り、食物にはことかかない。」となるとチンパンジーは「[仲間の]子どもの肉食を楽しむ風習がある」と言ってよい。(241頁)