宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

「グローバリズムという妖怪」E・トッド、H・チャン、藤井聡、中野剛志他『文藝春秋』2014年2月号

2014-01-30 21:36:31 | Weblog
A 「雇用を守り、産業を保護するのは間違いだ。規制撤廃こそ唯一の成長政策、歴史の必然だ」と唱え、世界を席巻したグローバル資本主義。だがそれは世界に、経済危機、格差拡大、社会崩壊をもたらした。どう乗り越えるか?

(1)新自由主義の災厄:アメリカ、EU、ドイツ、日本
B アメリカ、2008年、リーマンショック。EU、ギリシア、スペインなど国家破綻寸前。
C EUの悲劇。グローバル化の帰結。①各国は、通貨の切り下げなど金融緩和も財政出動もできない。②各国は、経済の自立を失い、国家主権さえ失っているに近い。
《評者の感想》ここではグローバル化は、ユーロ導入、各国をしばるEU諸基準と等価。
D EUの唯一の勝者は、ドイツ。ドイツは、ユーロ圏が開かれた市場であることをフル活用。①ユーロ安でドイツの輸出産業繁栄。②EUの各国を低賃金で“下請け”として使う。
D-2 ドイツ以外の国々では、経済、特に製造業が破壊され、通貨政策の自由もない。しかも緊縮財政を強いられる。
D-3 仏のオランド大統領は、まるでドイツの副首相。仏の財務相は、ベルリンにお伺い。
D-4 ドイツでも格差拡大。合計特殊出生率が1.4と、日本に次いで低い。
E 日本は、円安・株高実現が、できて良い。
E-2 しかし日本が、法人税減税で外資を呼び込む必要はない。日本は経常収支が黒字で、資本は潤沢。途上国と違う。
E-3 自民党の「抵抗勢力」が、かつては新自由主義的な政策の行き過ぎをチェック。しかし、今は期待できない。

(2)IMF改革後の韓国の惨状:雇用の不安定化、非正規雇用化
F 韓国では、60年代から80年代は日本の経済モデルがお手本。80年代に軍事独裁が終わると「自由市場」が国家的コンセンサスとなる。
F-2 90年代に日本の経済が傾き、アメリカが復調。韓国では、「日本モデルは終わりだ」、「アメリカのように自由市場になるべきだ」の声が強まる。
G アジア通貨危機の波及で、いっそうの規制の撤廃。IMF以降、普通の会社、普通の働き方、普通の所得がなくなった。新自由主義が一国の経済を「根底から破壊」した。

(3)グローバリズムの神話を剥ぐ:新自由主義による成長率低下
H 新自由主義で経済成長率が落ちる。先進国全体の成長率:1960-80年平均3.2%、新自由主義の理念の下グローバル化した1980-2010年平均1.8%。韓国:IMF改革前6-7%、改革後2-4%。
I 新自由主義による成長率低下の原因:①経済を規制するルールがなくなり不安定化。Ex. リーマンショック。②企業には「短期的に成果を出せ」という圧力。長いスパンの視点を持てない。設備投資、研修、リサーチの軽視など。目先のパイの奪い合いで、パイを大きくしない。
J 「国による産業保護」がアメリカ、日本の成長を生んだ。50年代、60年代に市場が守られて日本の自動車産業が発展。南ア、ブラジル、コロンビアなど途上国で、保護的産業政策がとれない。
K グローバル化は歴史の必然でない。覇権国家が世界の安全を保障しないとなりたたない。K-2 世界経済がグローバル化:13世紀の元、15-16世紀大航海時代のスペイン。その後、「脱グローバル化」する。
K-3 「第1次グローバル化」:1870年-1914年、イギリス中心。戦争・恐慌で終わる。
K-4 ブレトンウッズ体制は「脱グローバリズム」の時代:50年代から70年代。
K-5 80年代以降の「第2次グローバル化」:アメリカという覇権国家が弱まるとグローバル化が終わる。
L アメリカのオバマ大統領は、アメリカの新たな可能性?寛容、格差是正、経済に規制を持ち込む。自由貿易は断固として拒否するべきだが、オバマ大統領は別?

(4)なぜエリートは間違い続けるのか:エリートのコミュニティ、エリートの劣化
M 一方で、自由経済・競争社会の新自由主義を「信じる」エリート。他方で、自己の企業の利益を追求するため国家&新自由主義を唱え「隠れ蓑」にするエリート。
N 官僚や学者の「臆病さ」。米国でグローバル化、新古典派経済学を批判すると、エリートに相手にされない。エリートのコミュニティからの疎外を怖がる。
O エリートの無為無策の正当化としての「自由放任」。
P ハンナ・アーレント『全体主義の起源』が、グローバリズムを唱えるエリートの劣化にも当てはまる。①全体主義下では思想・理論の合理性が一切問われない。②様々な「社会的な俗情」に基づいてご都合主義的に思想・論理が選定される。③複雑で多様な世界を単純化し、わかりやすくまとめ上げる思想・理論・物語を「ウソ」でも良いから望み、それを信じる。
P-2 新自由主義、市場原理主義という恐ろしく単純な「ウソの論理」!

(5)中国、そして日本の未来:中国は危険&日本は健全
Q ①中国はリーマンショックへの対応で財政拡張、不動産バブル。②金融セクターの不良債権への不安。「影の銀行」問題が輪をかける。③深刻な経済格差。社会的暴発の危険。④国民が豊かになる前に高齢化(国連推計で、2035年、高齢化率19.5%)。⑤住宅や設備など固定資産投資が、GDPの40-50%。無駄な生産設備を増やすだけだったスターリン時代のソ連経済に、似る。⑥中国は、領土問題で国際秩序の再編を狙う。「プレ1914年」時代的な中国の行動の危険!
R 日本経済は、日本国内で議論されているより、外から見ればかなり健全。

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「野党再編は怨念ばかりの泥試合」赤坂太郎『文藝春秋』2014年2月号

2014-01-30 21:34:52 | Weblog
A 「秘密政局」で傷ついた野党。(1)みんなの党の渡辺代表が秘密保護法で修正合意。「自民党渡辺派をめざす」と発言したとのうわさ。その結果、みんなの党が分裂し、江田憲司代表の結いの党結成。(2)日本維新の会が法案修正協議を巡り、「旧太陽」系(石原など)と「大阪」系に意見が割れる。
B 安倍は特定秘密保護法にあまりこだわっていなかった?しかし安倍の指示が党内で「伝言ゲーム」的に強硬化、さらに忠誠心・過剰同調・点数稼ぎで、安倍の「絶対的指示」と受け取られる。また国会の強硬な「現場」の「はしごをはずせない」ので、大幅修正せず強硬路線を突き進んだ。
C 安倍政権の「裏・3本の矢」:特定秘密保護法、共謀罪を創設する法案、通信傍受法改正案。
D 安倍政権は余裕。「麻生政権の時は20%とか言っていた。今は5割近い支持がある」と菅官房長官。

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「新世界地政学30:終わりの始まり」船橋洋一『文藝春秋』2014年2月号

2014-01-30 21:32:58 | Weblog
A 2011/12/28、7人の金正日の側近が、金正日の遺体の棺を見守る金正恩の脇を固めた。その7人のうち、今回、張成沢が処刑され、5人が排除された。
B 「金王朝の宮廷政治」で、金正恩の最大の敵は、異母兄の金正男との説あり。張成沢の側近が金正男に会ったのが金正恩に知れて、張成沢粛正の導火線となった?
C 最後の頼りである親族(血)の体制を壊し、金正恩は裸になった。終わりの始まり?

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「政権を支える内閣官房、知られざる苦悩」藤吉雅春『文藝春秋』2014年2月号

2014-01-30 21:30:42 | Weblog
A NHK放送文化研究所の調査。「国民の意見や希望は、国の政治にどの程度反映していると思いますか?」という質問に対し「まったく反映していない」が1998年を境に30%台に急増。以後、高い数字を維持。それまでは10%台。
《評者の感想》小選挙区(比例代表並立)制の導入が原因か?
B 内閣官房は「アヒルの水かき」。(福田赳夫外相)「常に水面下で懸命に動き回っている。」
C 内閣官房は、内閣総理大臣が長、官房長官、3人の副長官、内政、外交、安全保障・危機管理などの部署、各省庁からエース級の官僚が集められる。
C-2 官房副長官の2人は議員、1人は「事務」。「事務の官房副長官は、血の小便がでる!」
D 1998年、事前規制型の社会から弱肉強食の社会へ。訴訟社会へ移行するのではないかと、自民党は司法を身近にする司法制度改革へ。
E 民主党菅政権の時、中国漁船と海上保安庁の巡視船の衝突事件。海保職員が映像流出させる。「公務員が許可なく(ネットなどに)情報流出することがまかり通れば、国家は崩壊する」との見方あり。
F 内閣官房の9割が各省庁からの出向者。出身省庁の評価を気にする。(「忠誠心」の問題!)
F-2 天下国家を語る外務省と、実働部隊の防衛省は、対立する。
G 「霞ヶ関」は「飛行機の自動操縦装置」のようなもの。鳩山内閣の普天間基地県外移転は、それをオフにした。
H 鳩山内閣の事務次官会議廃止は、各省庁をまたがる案件の調整を弱体化。

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「安倍改革をぶち壊す霞ヶ関と族議員」江田憲司(「結いの党」代表)『文藝春秋』2014年2月号

2014-01-30 21:29:13 | Weblog
A 「脱・官僚」「脱・中央集権」「脱・既得権益」、つまり官権から民権へ、民間と地域が主役の国造りが「結いの党」の目標。
B 渡辺喜美「みんなの党」代表のほうから安倍総理にすり寄った。
C 「結いの党」は、「小さな政府で大きなサービス」を目指す。
D アベノミクスは、今年秋頃、頓挫する。金融緩和と財政出動は一過性のカンフル剤にすぎない。成長戦略が重要。
D-2 成長戦略は、規制改革の断行。農業への株式会社参入、発送電分離等の電力自由化、医療・介護・子育てへの民間活力導入。規制に守られた農協、電力会社、医師会、福祉団体の抵抗を打ち砕く。
E 零細農家まで面倒を見るバラマキをやめる。1俵1万5千円のコメを8千円に下げ北京やシンガポールに売る。農業を輸出型の産業にする。
F 地域主権の重要性。横浜市では保育園不足だが、島根県の村では保育所が足りているので児童手当がほしい。
G 国土交通省の地方整備局は、地方の「広域連合」に移管するべき。地方整備局は公共事業のバラマキマシーン。“国土強靭化族”、二階俊博元経済産業相は10年間で200兆円の公共投資と、利権を手離さない。
H 安倍政権は長期政権狙い。霞が関も族議員も敵に回さない。菅義偉官房長官は名参謀。
I 1-3月期は駆け込み需要、4-6月期は増税後反動期で織り込み済みl、問題は7-9月期に成長戦略が期待できないと、株価が下がり、安倍政権の支持率が下がる。
J 政界再編の必要性。「結いの党」と、日本維新の会の松野頼久国会議員団幹事長、民主党の細野豪士前幹事長と連携。同じ維新でも旧太陽の党系は自民党と接近。

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「金正恩、中国への危険な挑戦」宮家邦彦『文藝春秋』2014年2月号

2014-01-30 21:26:49 | Weblog
(1)金正恩が最も警戒するのは中国
A 北朝鮮のナンバー2である張成沢・元国防委員会副委員長の処刑(2013/12/12)。
B 北朝鮮の体制は、国家というよりファミリービジネス。
C 軍事力を掌握し、国内締め付け、国外恫喝外交(「先軍政治」)は、1940年代型ビジネスモデル。
D 金正恩が最も警戒するのは中国。開放路線に移行すれば、破綻寸前の北朝鮮経済は、膨張する中国経済に飲み込まれてしまうと危惧。

(2)中国のナショナリズムの根底は西洋への不信感
E 中国経済の中心地は上海、北京、広東など沿海部で、国内の富が集中する。その海上ルートを抑えるのが中国の海洋戦略の根底。防空識別圏(2013/11/23)の設定もその延長上。
F 人民解放軍の指揮権は党中央軍事委員会主席がもつ。党中央軍事委員会にシビリアンは習近平しかいない。防空識別圏の設定を、習近平は知らされていなかった。
G 戦前の日本の「統帥権の独立」に似る。軍部が政府のコントロール下にない。
H 中国のナショナリズムの根底に潜むのは西洋への不信感。アヘン戦争以降の被害感情。I 東シナ海、南シナ海のシーレーンが中国の生命線だが、そこをアメリカに牛耳られているとの反感が、中国にある。

(3)中東と東シナ海の両方に同時に、アメリカは対応できない
J 2001年9.11同時多発テロ以降、アメリカは中東の安定に力を注ぎ、東アジアで中国の軍事的台頭を許した。その反省からアジアの安全保障を重視する「アジア回帰」(オバマ政権)へ。
K しかし中東と東シナ海の両方に同時に、アメリカは対応できない。
L 韓国が歴史的に持つ中国への恐怖心。そこで中国に逆らわない方がいいという屈折した親中感情を韓国は示す。
M 日本が真に警戒すべきは、韓国でなく、中国。

(4)国営企業の権益を取り上げ、民営企業を育てる中国経済の改革を利権構造が妨げる
N 中国は70年代の「改革開放」モデルのまま。90年代の「民主化」という統治モデルに移行できなかった。(天安門事件1989年)
O 共産党一党支配・官僚制支配のもと、資本主義を行うと、あらゆるビジネスが利権化する。構造的な政治腐敗。
P 「低賃金・輸出主導」の経済構造を改革し、内需喚起、技術革新を促すシステムを作らないと、中国では格差は拡大するばかり。
Q 中国の経済改革のためには、国営企業の権益を取り上げ、民営企業が育つ環境整備が不可欠。しかし利権構造が改革を妨げる。

(5)膨張する中国に対応するため、集団的自衛権の行使容認が必要
R 日本は、膨張する中国に対応するため、アメリカ、ASEAN、豪との連携が必要。
S かくて集団的自衛権の行使容認、日本版NSCの創設、特定秘密保護法の成立など、安倍政権の方向性は間違っていない。

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『ともしびマーケット』朝倉かすみ(1960生)、2009年、講談社文庫

2014-01-26 19:19:59 | Weblog
1 いい日:敷波智子(29歳)は新妻で妊娠&月足(ツキタリ)さん
A 60歳前後のネスカフェを抱えたおばあさん的おばさんを、敷波智子はスーパーで見る。
A-2 智子には96歳の祖母がいる。祖母は曾孫を愛する。
B 敷波智子は29歳、専業主婦。5ヵ月前、信吾と結婚。新婚。
B-2 智子は短大卒業後、銀行へ勤める。市川智子。3年後、クレジット会社へ移る。あまりに忙しいのでビル管理会社。
B-3 信吾は34歳、エンジニア、国立大卒。
C 「必ずネスカフェを買う人がスーパーにいる!」と夫に言う。夫はニュース番組が好き。
D 11/8(月)、ともしびスーパーマーケット鳥居前店に行く。
D-2 あのネスカフェの女がいた。月足(ツキタリ)さん。知り合いとなる。「スーパーで2時間は遊んでいくでしょう」と月足(ツキタリ)さん。
D-3 彼女は「いい日」は、ネスカフェを1本買うという。
E 「あなた妊娠してる?」と月足(ツキタリ)さん。「おめでとう」と智子に言う。
E-2 智子の「いい日」!
E-3 三平汁を作り、夫のワイシャツにアイロンをかける。「いい日!」と智子。
《評者の感想》敷浪智子は幸せな新妻。最も普通の幸せ。

  2 冬至:門田新子(モンデンシンコ)(44歳)は失恋後「いかず後家」&清野(セイノ)さん
F 門田新子(モンデンシンコ)。44歳。ともしびマーケット精肉部門勤務。パート歴5年。
F-2 マーケットの午後4時。客への「声かけ」。精肉部門のチーフは声が出ず、だめ。
F-3 これに対し、清野(セイノ)さんは、「声かけ」がうまい。53歳。道南出身。
H 門田新子(モンデンシンコ)は8:30-17:00勤務。一人暮らし。親が残した一戸建てに住む。
H-2 この日12/20、新子は家に帰って冬のお風呂を味わい、夕食は冷やの日本酒を飲む。
I とうに嫁いだ妹の幸子。高校生と中学生の母。
I-2 幸子が「いかず後家」の新子に、「後妻の口」のお見合いを勧める電話。60歳で役所を定年退職した男。スイス銀行に預金あり。
I-3 「不足ない余生を送る老夫婦になれるかもしれない」と、新子は口元がゆるむ。
J 妹の夫から再び電話あり。「妹の早とちりです!」と言い訳。「お義姉さんはひとりでちゃんとやっていかれる」と言う。
K 門田新子(モンデンシンコ)はスーパーで働く前、紙問屋に勤め経理を担当。父はテーラーの自分の店をたたんだ後、高級紳士服店に勤める。
K-2 新子は失恋し捨てられ、父と母が70歳前に死に、熱意も失い紙問屋をやめる。
K-3 新子、バイオリンを習い始める。
L 2週間前、マーケットの精肉部門の忘年会。新子は、清野(セイノ)さんの隣りに座る。
L-2 清野(セイノ)さんは借金で肉屋を手放し、妻子に逃げられ、10年前、スーパーの精肉部門に勤めた。
L-3 新子は、「明日、清野(セイノ)さんに会える!」と、今、布団の中で思う。
《評者の感想》失恋の痛手は大きい。門田新子は44歳になるが未婚。

  3 平河:砥部俊平(44歳)は息子がサッカー選手になると夢想&妻・綾子は下級生
A 砥部俊平、44歳、会社帰りに、ともしびマーケットに寄り、買い物。
A-2 妻の綾子と息子の荘太(小5)は、サッカー少年団の他の親子とともに温泉へ。
B 砥部は、札幌地元採用。去年から課長。
B-2 本社(東京千代田区)に勤務しないと、課長で「あがり」。
B-3 今のマンションは分譲で30年ローン。ステップ返済で、5年ごとに返済額が上がる。
C 荘太も綾子も、中学からサッカーのクラブチームに入りたい。二人にとっての「物語」!
C-2 「あの子には才能があるのよ!」と妻。「あたしたちって今、物語のなかにいるような気がしない?」と言う。
D 砥部にも「物語」がある。彼は「探偵物語」の松田優作のファン。平河町3丁目が優作演じる私立探偵の事務所の住所。優作は死んだが、砥部はいつか「平河」に行きたい。
E 砥部の会社の本社は東京。同期の岡崎が部長で本社にいる。地元採用の出世頭。
F スーパーを出ると。砥部は、洋書を読んでいた同級生の稲垣と会う。44歳。大学の准教授だという。稲垣は、花屋の留学生の娘を待っていた。彼女は、大学生。
F-2 年の離れた恋人同士の「物語」の始まり。
G 砥部にも昔、「物語」があった。妻の綾子は、上級生のバスケットボール部の砥部に昔、恋していた。
H 今、砥部はサッカー国際Aマッチに出場する息子荘太を想像。新たな「物語」。
I 砥部の胸の中に、「物語」=「平河」がある。
《評者の感想》人生を可能にするのは信仰・希望・愛である。「物語」とは希望のこと!

  4 ピッタ・パット:加藤シズク(中2)の告白&おば・月足(ツキタリ)かず子
A 加藤シズク(中2)の恋。2-2、佐藤ミガク(男子)への片思い。彼女が、玄関で彼を待つ。ミガクに話しかけた他組の女子がシズクには気になる。
A-2 シズクの親友の二階堂千晶(チアッキ)が「佐藤ってかなり地味だよ」と言う。
B 明日2/11建国記念日~2/14バレンタインデーまで、学校は休み。
C シズクの心臓の鼓動、小人の足音が pit-a-pat!
D 加藤シズクは14歳。札幌に住む。彼女は自分を「ドロップ」と呼んでほしい。
E シズクは、母の姉の月足(ツキタリ)かず子おばさんの家に2/11~2/14の4日間泊まる。
E-2 シズクの母は下着訪問販売会社に勤める。報奨旅行で母は沖縄へ。父は釧路に単身赴任。月末の土日のみ帰ってくる。
F シズクは平凡・普通で終わりたくない。「ただ者でない人」になりたい。「奇跡」=「めぐり合わせの妙」を経験したい。
G 月足(ツキタリ)かず子おばさんの亡くなったご主人は医者。おばさんには子どもがいない。
G-2 彼女は、ネスカフェをボランティアで老人ホームなどに送る。
G-3 ご主人は、彼女に優しかった。
H 加藤シズクのバレンタインの計画:金髪、サングラス、空色のTシャツ、ミニスカートで、「ドロップ」と言って佐藤ミガクにチョコレートを渡す。かくて二人は、交際開始。
H シズクは買い物をすませ、チョコレートも用意し、佐藤ミガクに電話するが失敗!
H-2 おばさんの家から帰る。シズクの計画は中止。
I 札幌の大通公園でシズクはバッタリ、佐藤ミガクと会う。
I-2 「どこかで温かいものでも」とミガクが誘う。「どうせひまだし」とシズクが応じる。
I-3 しかしシズクは「ちがう!」と言う。「好き!」と告白しようとする。
《評者の感想》中2の心は初々しい。恋も同じ。傷つきやすいのが心配。

  5 232号線:真島汐音(マシマシオネ)はミュージシャンの小沢準が恋人&父・ともしびマーケットの清野
A 真島汐音(マシマシオネ)、若い女、20歳。自動販売機の釣り銭の小銭を探して回る。
A-2 小沢準が「気持ちいい?」と彼女にたずねたことを回想。
A-3 ともしびマーケットの公衆電話から出てきた加藤シズクを、見かける。
B 真島汐音は、ともしびマーケットの精肉部門の清野(セイノ)の娘。別れて10年。
B-2 汐音は、小沢準の誕生日プレゼントのため、黒い名刺入れをj買おうとするが、2900円しかお金がない。
C 去年3月、高校卒業後、汐音は、母がいる実家(稚内)から札幌に出てきた。高校3年間のバイトで貯めた150万円がある。
C-2 汐音はネイリストになりたい。夜行バスが232号線を南下する。
C-3 母には恋人がいる。勤め先の旅館の息子。
D 札幌に出た汐音は、とりあえず父の清野(セイノ)に面倒を見てもらう予定だった。
D-2 しかし父のもとには汐音はいかなかった。
D-3 父は実兄の連帯保証人になり借金を背負った。実兄は自殺。父の肉屋(札幌)は破産。母と汐音は、稚内の母の実家に移る。10年前。
E 汐音はアパートを借り札幌の軽食喫茶で働くが(5:30-14:00)、収入は月に10万円。
F 汐音の恋人はミュージシャンの小沢準。準は、金持ちの不動産屋の息子。汐音にプレゼントもくれる。準の両親とも食事する。
G 準にプレゼントする黒の名刺入れを買うお金が、汐音にはない。貯金を下ろすわけにも行かない。汐音は、売春して金を稼ぐ。汐音は、泣いた
《評者の感想》若い女の転落は早い。若さは危うい。

  6 流星:後町広蔵(ウシロマチコウゾウ)70歳の古稀の祝い&その異母弟・清野
H 後町広蔵(ウシロマチコウゾウ)、70歳。初子(69歳)のお伴で、ともしびマーケットに来る。
I 彼はブリキ職人だった。S9年、江差で生まれる。3歳の時、母が死ぬ。養子の父親
は家を去る。伯父・伯母に育てられる。
I-2 広蔵は15歳で、小樽に行く。ブリキ職人の親方・徳田の徒弟になる。
I-3 弟弟子には両親が居て、親方に付け届け。広蔵は付け届けできない自分が羞しい。
I-4 5年経ち、年期があける。
J 住み込み8000円で、広蔵、長谷川金物店板金部に勤める。
K 広蔵、その2年後、独立。元鶏小屋を店舗兼住宅にする。ブリキ屋以外の仕事もする。
K-2 半年後、広蔵、六軒長屋に引っ越す。六畳二間。安藤ばあさんの紹介で娘と所帯を持つ。妻の初子。翌年、女の赤ちゃんが生まれる。
K-3 男の赤ちゃんも生まれる。
L 妻の初子が、広蔵の言葉遣い、生活習慣を「羞しくない」よう直す。
L-2 初子は働き者だった。よく口も回り、溌剌とし、お祭りのよう。
M 広蔵は江差に帰りたいと思う。郷愁。
N 所帯を持つ前、初子と夜道を歩く。「流れ星に願うと、願いが叶う」と初子が言った。
O 去年、子供たちが古稀の祝い。「こったら長生きすると思わなかった」と広蔵。
P 後町広蔵(ウシロマチコウゾウ)は40歳で、ブリキ屋をたたむ。プラスチックのためブリキ屋の仕事がなくなる。札幌の建築資材問屋会社のサラリーマンとなる。背広、ネクタイ。
Q 養子で家を出て再婚した父。その奥さんの生んだ子どものひとり(異母弟)が、ともしびマーケットで働く清野(セイノ)。
Q-2 肉屋を手放し妻子に逃げられた清野が、広蔵に相談に来た。ともしびマーケットの社長と仕事上、知遇を得ていた広蔵が、清野に、職を世話した。
Q-3 広蔵が清野に会い「元気か?」と尋ねる。「元気だ!」と清野が答える。
《評者の感想》実直に人生に向かった男の話。妻の初子とも良い関係。満ち足りた人生。

  7 私(ワタクシ):「ひきこもり」明日(アケタ)まひろ&近所に住む月足(ツキタリ)さん
A 明日(アケタ)まひろ、23歳。3/30朝。
A-2 高校時代の同級生が子宮癌で亡くなり、前日、通夜。子どもが3歳。
A-3 「千夏が死んだ!」と本田郁子から電話連絡。熊谷千夏の通夜で、まひろが泣く。
B まひろの母は、月足(ツキタリ)さんと立ち話。
B-2 私=まひろは「ひきこもり」。出不精で定職を持たない若者。
C 大学生だった一昨年、まひろは男と同棲。男は、大3年、2歳年上。男は「文学」志望。「無頼派」を目指す。男は毎晩、まひろと性交。
C-2 男はいつも「君はなぜケロリとしているんだ?」と言う。
C-3 同棲に両者が疲れ、半年も続かず。
D 「一人娘が男に騙され捨てられた」と両親が思う。父は水道局の公務員。母は同い年。
D-2 まひろは大学に行くのをやめる。「ひきこもり」!
E 郵便局で、老婆と局員がもめている。
E-2 まひろは通帳を作りに来た。カードを作るため。みんなが持つのに自分だけ持たない。
E-3 今、まひろは公園にいる。「あたしがあたしだっていう証拠」の身分証明書がないので、郵便局で通帳を作れなかった。
F まひろは、ともしびマーケットに寄る。たくさんの他人から度外視されていると思う。
F-2 月足(ツキタリ)さんが、妊娠6ヵ月の敷波智子を、まひろに紹介。
F-3 郵便局の老婆、野口たき子がきて、まひろに気づき自己紹介。
F-4 他人は相変わらず、こちらを無視。しかし「あたしたちは・・・・」と、まひろが思う。まひろは「もどってきた」と感覚した。
《評者の感想》男と別れ人間不信で「ひきこもり」になった女、23歳の復活の物語。

  8 その夜が来て:蜂巣蓉子、32歳
A 蜂巣蓉子、32歳。息子の航(ワタル)3歳。夫・孝雄42歳。4/30、ゴールデンウィーク2日目。昼間、動物園に行った。今、夜8:30。息子と夫は寝ている。
B この春、東京から札幌に転勤。社宅住まい。夫は損保会社に勤める。札幌出身。
B-2 航(ワタル)は友達のたろうくんが居なくなって寂しい。
B-3 蓉子は専業主婦に満足し幸せを感じている。
C 蓉子がともしびスーパーマーケットに行く。明日、夫の両親が来るので買い物。
C-2 若い男3人組、20歳前後。彼らも買い物。偶然一緒に買うことになる。
C-4 花屋で美女「やん」が3人組みに声をかける。
C-5 3人組が、マーケットの前にいた「先生」に、「今夜です」と言う。
C-6 「先生」と花屋の店員は恋人の間柄。
D 「その夜が来た」の感覚と、蓉子が思い出す。去年夏、蜂巣一家がバリに行く。
D-2 「主婦」でない別の見知らぬ女になりたいと、蓉子が思う。
D-3 蓉子が50歳位の経営者風の男から口説かれるが、「洗濯機」を買ってやると言われ、浮気心がさめる。
E 三人組が林の中でジンギスカンを始める。彼らが「花見です」と言う。蓉子も加わる。
《評者の感想》「その夜」の種類は色々。それはハレの感覚の日!

  9 土下座:菊池大悟(ダイゴ)(27歳)&森崎加奈子(30歳)
A 菊池大悟(ダイゴ)は「その筋」でないが、騒ぎを起こしそうな気配。50年配の男(清野)と話す。大悟はともしびマーケットに買い物に来た。
A-2 「彼女はナース」と大悟が言う。「彼女に買い物を頼まれた」とのこと。
A-3 「清野さん!」と中年女(門田新子(44))がやってくる。女は店内で買い物。
A-4 顔の平たい年嵩の女(月足さん)。連れの若い女は妊娠8ヵ月(敷波智子)。
A-5 やせた男(稲垣)がやってくる。大学の準教授。
A-6 菊池大悟が自分を、みんなに自己紹介する。
B 菊池大悟(27歳)、無職。森崎加奈子(30歳)と同棲。
B-2 加奈子から1日、1000円の小遣いをもらう。
B-3 大悟が加奈子のカードを勝手に使うが、次の時、すでに暗証番号を変えられてしまう。
C 老人(後町広蔵)(70)が来て、「お前は、ろくったもんでないな」と大悟に言う。
C-2 「自由人だ!」「ヒモじゃない!」「充電中!」と大悟。
C-3 「ろくでなしに尽くしたくなる気持ち、分かるような気がする」と蜂巣蓉子(32)。
C-4 美人の女(砥部綾子、44歳)が男児を連れている(壮太、小5)。「うちの子は、一生懸命遊ぶ!」「あなたと違う!」と、女が大悟に言う。
C-5 明日(アケタ)まひろ、23歳。「ひきこもり」がなおり、ともしびマーケットで働く。
D 加奈子が、大悟を起こす。大悟が、加奈子のヘソクリを探し出し、遣ってしまった。
D-2 「土下座して謝ってよ!」と加奈子が泣いて大悟に言う。
D-3 「昔、臭いおばあちゃんが嫌いで、つまんで新聞を投げたらおばあちゃんが怒って、2日後、私が謝らないうちに死んだ。」「だから、謝ってよ!」と加奈子が大悟に言う。
D-4 今、ともしびマーケットで、みんなが大悟に言う。
D-5 中学くらいの女の子(シズク)が、「謝ったほうがいいよ。好きな人には!」と言う。
E 「おお砥部!」と稲垣が声をかける。
E-2 中年女(門田新子(モンデンシンコ)、44歳)が「砥部くんと同じ高校だったんです!」と言う。「砥部く清んのこと好きだったんです!」と告白。
F ともしびマーケットの精肉部門の清野(セイノ)が、娘の真島汐音(マシマシオネ)と再会。
G 「いい日!」と顔の平たい女(月足さん)が言う。「ネスカフェ日和!」と連れの妊婦。
H 妊婦(敷波智子)が「うっ!」とうなり、具合が悪そう。誰かが「救急車!」と言う。
H-2 菊池大悟が、ナースの可奈子を呼びに走る。
H-3 可奈子が来てくれたら謝るかもしれないと、大悟が思う。
《評者の感想》ヒモの男に貢ぐ女の心の傷。大悟が改心するといいが、難しいだろう。

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『“環境問題のウソ”のウソ』山本弘(1956生)、2008年、楽工社

2014-01-14 17:06:28 | Weblog
はじめに 『環ウソ』を読まれた人たちへ
本書は、武田邦彦『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』2007年、洋泉社(『環ウソ』と略称)に対する反論である。

第1章 『環ウソ』のここがウソ!その1:ペットボトルリサイクル
A 『環ウソ』で環境問題懐疑論者の武田教授は、“回収された24万トンのペットボトルのうち、3万トンしか再利用されていない”と言う。なおペットボトルの販売量(供給量)は51万トン。(H16)
A-2  実は、回収されているのは32万トンである。
A-3 そのうち国内で15万トンが再利用。つまり「マテリアルリサイクル」。素材の化学的性質を保持してリサイクル。Ex. カーペット、トレイ、人工芝。

B 回収された使用済みペットボトル8万トンは、海外(主に中国と香港)に輸出される。したがって使用済みペットボトルの価格高騰。
B-2 だから回収された使用済みペットボトルは、今は、「自治体が金を渡して、処理業者にペットボトルを引き取ってもらう」という武田教授の主張はウソ。処理業者が無償で受け取る。

C しかも輸出された使用済みペットボトル8万トンは、再利用される。例えば中国では、防寒具やぬいぐるみの詰め物となる。
C-2 かくて回収された32万トンのペットボトルのうち、再利用されるのは23万トン(国内15万トン、輸出8万トン)である。再利用は3万トンという武田教授の発言は、誤り。

D 「ペットボトルのリサイクルが、原油からのペットボトルの製造以上に、エネルギーを使う」、「リサイクルすると環境に余計な負荷がかかる」という武田教授の主張は真っ赤なウソ。

E 武田教授は、コストがかかることと、エネルギー(石油)を消費することとを、混同=同一視する。(p.55)
E-2 LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)が、環境(影響)評価の国際基準。(p.60)武田教授が否定するのは、真っ赤なウソ。
E-3 同じところに車で行くのに、“高価なタクシーより、安いマイカーの方が環境にやさしい”というのは変!

F ペットボトルのゴミを減らしたいなら、ペットボトルの41%を占める茶系飲料をやめ自分でお茶を入れて飲むのが、環境に優しい。(p.77)

第2章 『環ウソ』のここがウソ!その2:地球温暖化とマスコミ報道
A 1984年1/1の『朝日』の記事“海面上昇で山間へ遷都計画”はただのジョーク。“2034年1/1”を想定。
A-2 1981年NYタイムズが報道:21世紀に2.5℃の温度上昇で、南極の氷が溶け、多くの都市が水没と警告。
A-3 ただし現在は、21世紀に海面が1mも上がらないことが判明。
A-4 北極の海の氷が溶けても、海面上昇しないのは武田教授の言う通り。(ただし正確には3%増える。地球全体では3mm上昇。)

B 武田教授は、ネットの「朝日新聞悪玉論」に影響されているのかもしれない。
C A-3補足:IPCCの第4次報告書によると2100年までに起きる海面上昇は、全くCO2
排出規制が行われなくても26-59㎝である。主因は海水の膨張で、氷河が溶けることの影響は25%。

D 温暖化による海面上昇について述べるのは、もっぱらSFである。安倍公房(1959年)など。
D-2 CO2による地球温暖化が語られるのは、1960年代から。 

第3章 『環ウソ』のここがウソ!その3:小ネタいろいろ
A 武田教授は省エネしても意味がないと考える。電気代を2万円節約して、それを預金しても、投資に使われるから同じで、省エネの意味はない。
A-2 山本の反論:省エネは、大勢の人間が実行して、初めて効果が出る。電力需要が大幅に減れば、電力供給が減る。そうすれば石油消費量が減る。

B 燃やすとダイオキシンを出すハロゲン化合物は、難燃材だが、火災の犠牲者数と相関はない。

第4章 武田教授と直接対決
A ペットボトルの回収量は、武田教授が言う24万トンでなく、事業系の回収され輸出される8万トンを含め32万トンである。
B だから海外に金を渡し、ゴミ処理を代行させる(輸出分8万トン)とする武田教授のウソ。(p.151)

C ペットボトルのリサイクル業者が倒産しているのは、ペットボトルが輸出され、業者にわたる分が減っているためである。
C-2 ペットボトルをリサイクル業者は、受け取って多くを焼却するとの武田教授の主張はウソ。リサイクル業者は金を払ってペットボトルを買っており(2006年以降)、それを焼却したりしない

第5章 ペットボトル再生工場を見学
A ペットリバース社(川崎市)を見学する。ペットボトルをPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂に再生する。
A-2 使われたペットボトルの再生で、ベンゼンなど有毒物質がPET樹脂に浸透する心配は、普通ない。

B 回収された使用済みペットボトルは、金を出して買ったものだから、武田教授が言うように「捨てる=燃やす」などしない。

C 2006、H18には、自治体が回収したペットボトル25万トン、このうち①14万トンは容器包装リサイクル協会を通してリサイクル業者へ。また②11万トンは自治体が独自にリサイクル業者へまわす。(うち5万トンが海外へ輸出、他が国内でリサイクル。)
C-2 使用済みペットボトルの輸出は合計27万トン。(大部分は事業系回収ルートによるもの。自治体回収分は5万トン。)
C-3 以上より使用済みペットボトルは国内で20万トン、海外で27万トンが、再利用=リサイクルされる。(2006、H18)

D 国内のリサイクル業者は40万トンの処理能力があるが、半分しか使われていない。回収された使用済みペットボトルの価格も高騰。海外への回収ペットボトルの流出を防がないと、国内のリサイクル業者はつぶれる。

第6章 武田教授にメールで質問
A 2004年(H16)のペットボトルの再利用量「3万トン」との武田教授の主張は根拠がない。(C-2参照)
B ペットボトルの回収にかかる労力は、焼却のせいぜい10倍であって、武田教授の100倍は過大すぎる。

第7章 『環ウソ2』のここがウソ!
A 1本のペットボトルについて、最初の製造にかかるエネルギーに対して、リサイクルのペットボトルにかかるエネルギーは、武田教授の4冊の本で、3.7倍、3.75倍、1,75倍、4.95倍とばらばらである。(p.240)
B 有害物質がリサイクルで混入したとしても、毒物除去率が50%ならば、無限にリサイクルしても、最初の毒物
量の1倍を超えることはない。

第8章 地球環境問題・どこまで本当なのか?
A 「反相対論」は根強い。疑似科学!
A-2 「9.11陰謀説」は、『陰謀論の罠』奥菜秀次(光文社)が反論。
A-3 「アポロ陰謀説」も根強い。しかし素人が言っているだけ。

B テレビ番組を信用してはいけない。
B-2 「素人の印象を信じるな!専門家の言うことに耳を傾けろ!」つまり大多数の科学者が合意する定説は、普通、間違いでない。

C 「温暖化懐疑論」は科学者の主張に疑問を呈する。
C-2 ただし地球温暖化は、専門家が分かっていない部分が多い。

D 温暖化懐疑論の4つのレベル
(1) 「地球は温暖化に向かっているか?」→正しい!
(2) 「温暖化の原因はCO2であるか?」→かなり正しい!
(3) 「温暖化の被害は深刻か?」→よく分からない!
(4) 「温暖化をくい止める努力をすべきか?」→本人次第である!
D-2 参考文献:①「IPCC第4次評価報告」、②「地球温暖化問題懐疑論へのコメント」(東北大明日香教授ら)

懐疑論(レベル1):「地球は温暖化に向かっているか?」→正しい!
E 温暖化は都市のヒートアイランド現象にすぎない(池田清彦『環境問題のウソ』)。→これは誤りの暴論!
E-2 「気温が下がっている所もある」のは確かだが、「平均気温」が上がっているのであって、個別には下がっている所があるのは当たり前。(p.273)

F マイケル・クライトン『恐怖の存在』(ハヤカワ文庫)は、PLM(政治・法曹・メディア)複合体の陰謀について語る。新たな恐怖の必要(政治家)、訴訟と金儲けのため(法曹)、読者や視聴者獲得のため(メディア)の陰謀としての温暖化懐疑論。
F-2 クライトンは、「環境保護論者は、献金集めで大儲けする悪者」と指摘!

懐疑論(レベル2):「温暖化の原因はCO2であるか?」→かなり正しい!
G 槌田敦『CO2温暖化説は間違っている』(2006)は、気温の上昇によって、海水に溶け込んでいるCO2が放出されたのであって、CO2によって温暖化したのでないと主張。
G-2 反論:炭素14の測定によると、増加しているCO2は、化石燃料に由来する。(p.286)
G-3 ハワイ・マウナロア観測所のキーリング(化学者)がCO2温暖化説を唱えた。

H 根本順吉氏は、「地球が氷河期に向かっている」という誤った説を日本に広めた。
H-2 根本氏は、「月の魔力」を信じるなど疑似科学に近い人。

I 70年代に「地球は寒冷化に向かう」と言ったのは、気象学者ではない。

J 「温暖化説の仕掛け人は原発業界」と槌田教授。
J-2 しかし、原発業界は便乗したが、仕掛け人ではない。

K  CO2温暖化説を否定しようとしたニセ情報!
K-2 「オレゴン嘆願書」(1998):京都議定書の批准反対の科学者1万7000人の署名。しかし署名者の水増し。偽論文が添付されていて、それで署名を勧誘。主宰者はフレデリック・サイズ。
K-3 「ライプチヒ宣言」(1995&97):温暖化懐疑論者のフレッド・シンガーが主宰者。署名した研究者・気象予報士を、半数程度水増し。

L 石油・石炭業界、自動車業界が温暖化対策に反対。
L-2 エクソン・モービルが、温暖化懐疑論者・議員に資金提供。
L-3 ただし今は、環境対策を売りにした方が儲かると気づく。

M 温室効果がないと地球はマイナス18℃となり、人は住めない。今は地球の平均気温は15℃で、温室効果で33℃暖かい。ただしCO2濃度は0.03%。
M-2 「大気の窓」の飽和説(窓は煤で真っ黒!)。これ以上CO2が増えても温暖化しないとの説がある。温暖化を起こす赤外線は、すでに100%さえぎられている。(p.296)
M-3  CO2が増えて、さらに温暖化が進むか、これ以上は進まないかは、今のところ不明。

N 温暖化懐疑論者は、温暖化の原因として“太陽の活動”を持ち出す。太陽の活動が盛んだと日射量が増え、気温が上昇する。
N-2 太陽活動の極小期には、地球は小氷期。「マウンダー極小期」1640-1715。「シュペーラー極小期」1410-1540。(p.297)
N-3 IPCCも太陽活動を考慮。太陽活動だけでは、現在の温暖化は説明がつかないとする。

O 「スベンスマルク効果」:太陽活動が活発化すると、太陽風(プラズマ)が地球に降り注ぐ宇宙線をさえぎり減らす。宇宙線が減ると、雲が減る。(Cf. ウィルソンの霧箱)かくて日射量が増えて温暖化。
O-2 雲が減っている証拠がないなど、未だ真偽不明。「スベンスマルク効果」をIPCCは取り上げていない。

懐疑論(レベル3):「温暖化の被害は深刻か?」→よく分からない!
A 温暖化の影響はどのくらいか?
A-2 IPCC第4次報告書による海面上昇の予測。(p.299)
Ex. 1 A1F1(高成長社会のシナリオ/化石エネルギー源重視):気温上昇2.4~6.4℃、海面上昇26~59cm
Ex. 2 A1T(高成長社会のシナリオ/非化石エネルギー源重視):気温上昇1.4~3.8℃、海面上昇20~45cm

B 最も強力な温暖化ガスは、CO2でなく水蒸気である。地球の温室効果33℃のうち、その効果の7割は水蒸気による。
B-2  CO2の温室効果で温暖化が進行すると水蒸気が多くなり、温室効果が強くなる。ただし水蒸気が雲になれば日射量が減るので、気温上昇し続けるわけでない。

C 人間の活動によるエアゾル(空気中の微粒子)も温暖化に影響を与える。煤(黒いエアゾル)は温暖化を進行させるが、白いエアゾルは太陽光を反射し、温暖化を妨げる。
D 北極海の氷が溶けると、太陽光の反射が減り、吸収され温暖化を招く。(「アイス・アルベド・フィードバック」)
E シベリアの凍土が溶けると、地中からメタンが大量に発生。メタンはCO2の20倍以上の温暖化効果。温暖化が加速。

F 海面上昇はIPCCの予測では、今世紀中に最大で59cm。気温上昇は最大6.4℃。縄文時代、6000年前、5m「海面上昇」したが、そのようなことはない。
F-2 今世紀中、予測平均で30cm位、海面上昇。すると約100㎢が浸水。

G 気温が2℃上昇するとどうなるか?(p.305)
G-2 温暖化すると熱帯低気圧が強まるので、「大嵐になる」というのは本当。
G-3 「北極振動」のため、北極圏の気温が上がり低気圧になると、中緯度の気圧が上がる(「高気圧」)!日本では冬は暖冬、夏は冷夏となる。

H 北極の氷が失われると、北極の気温が上昇し(「アイス・アルベド・フィードバック」)、北半球の気候のバランスが崩れ、気候が激変するはず!(p.307)
H-2 気温が上がると、またCO2が増えると、光合成が促進され、植物の生産性が上がると、武田教授が言う。しかし①リンゴなど低温に適した作物もあり、一概には言えない。各作物には適切な気候がある。②北極から氷が消え、新たな気候が安定するのに1世紀かかることもある。気候が不安定になり作物に打撃の可能性。
H-3 気候の不安定化による不作で大打撃を受けるのは発展途上国。飢饉で何百万人が死ぬかもしれない。

I  CO2濃度が高まると、CO2が海水に溶け込み「海洋の酸性化」が起こる。一部のプランクトンの殻が溶けて絶滅。これを餌とするクジラ、魚に打撃。

懐疑論(レベル4):「温暖化をくい止める努力をすべきか?」→よく分からない!
A 温暖化の被害の予測(レベル3)が不明なので、この問い(レベル4)への答えは、よく分からない。
B 京都議定書を遵守しても温暖化はあまり防げないのは確か。なぜなら温室効果ガス排出量の6%しか削減しないから。

C 「温暖化による被害額よりもCO2削減にかかるコストの方が高くつくのではないか」という温暖化懐疑論あり。
C-2 これについては不確定要素が多すぎ、算定不能、比較不能と言うべき。
C-3 気候変動による水不足や飢饉で死ぬ人のことを考えると、コストの問題だけでは論じられない。

D 人間の活動によって大気中のCO2が増え続けているのは間違いない。
D-2 化石燃料で維持される文明が、そもそもおかしい。
D-3 石油は早く枯渇した方がよい。 武田教授は2030年位に石油可採年数がつきると言う。
D-4 石油が高騰すれば、太陽発電や風力発電などクリーンエネルギーが、採算が取れるようになり普及する。
D-5 ところが石油は2030年には、まだたっぷりある。石油鉱業連盟は、H17(2005)末、石油が枯渇するまであと「68年」(2073年まで)と発表。なお天然ガスの枯渇年数はあと「98年」(2103年まで)。

E 大気中のCO2濃度:2005年379ppm。50年後70ppm増えて、449ppmへ。これは産業革命前(280ppm)の1.6倍。
E-2  CO2濃度が増えるペースは速くなっている。

F 地球温暖化を防ぐには、原発以外にも、色々ある。
Ex. 1 家庭・オフィス・商店の電力消費を25%減らせば、現在の原発を3倍にする位の削減効果がある。
Ex. 2 石炭火力発電を、天然ガス・風力・太陽光発電にする。
Ex. 3 自動車の燃費を良くする。

G トウモロコシ由来のバイオエタノールは、化石燃料に多く依存し、あまりCO2削減にならない。Ex. 1)パイプラインで輸送できないので自動車を使う。Ex. 2)トウモロコシ生産に使う化学肥料は化石燃料由来。Ex. 3)コンバインの燃料も必要。
G-2 セルロース・エタノールの方が環境にやさしい。(まだ開発中!)

H  CO2削減のため、未来の技術が期待できるかもしれない。(Cf. 『日経サイエンス』が面白い。)

エピローグ 心の中の「外部費用」:環境問題は宗教か
A 環境経済学での「外部費用」:表示された価格以外に、将来的に発生するコスト。
A-2 リサイクルに金がかかっても、その額が将来発生する外部費用を下回るなら、長期的にコスト的に引き合う。
A-3 ただし外部費用の発生は多くが将来的で、さしあたり目に見えない。ある意味、人によって異なる「心の中の外部費用」!
A-4 今、浪費して、ツケ(外部費用)は子孫に払わせればよいという悪魔的考えもある。

B 「何か起きるに違いない」と不安に思う環境論者が宗教なら、「何も起きない」と根拠なく信じる環境懐疑論者も宗教である。

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