宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『「データ」で読み解く、安倍政権でこうなる!日本経済』榊原英資(1941生)、2013年、アスコム

2013-03-17 12:05:30 | Weblog
  第1章 日本経済
(A) 世界経済のファンダメンタルズ、マクロ的な経済の基礎的条件は、すぐに変わらない。「大局観」が重要。
(B) 民主党政権の最大の反省点は、官僚機構を使いこなせなかったこと。「脱官僚」は的はずれ。社長が、「脱社員」と言うことはありえない。
(C) リーマンショック、欧州債務危機後の不況に関し、今や世界経済は底を打ち、2013年後半から、景気が良くなるだろう。
(D) 「アベノミクス」のインフレターゲット2%とは、結局、そこに達するまで、金融緩和を続けるというだけである。
(D)-2 すでにカネがだぶついており、銀行から先の領域に、カネをまわす必要がある。
(E) 「日銀の独立性」は通貨価値の維持のため、当然。
(F) 世界経済が回復する2013年前半までは、公共事業が重要。
(F)-2 長期的には成長戦略として、①農業への自由な株式会社参入、②代替エネルギー開発が重要。
(F)-3 消費税は今は、増税しない。法人税減税をすべき。
(G) 日の丸掲揚し、国家斉唱したからといって、公教育のクオリティは、あがらない。
(H) 「アベリスク」の最大のものは日中関係。日本の「国益」から言うと日中経済関係がポイント。すでに日中経済は一体化。日本の輸出の20%は中国向け、香港・台湾を含めれば30%。米国向け輸出は15%にすぎない。

  第2章 円と株
  第2章-1 円高トレンドと米国の「金融立国」化
(A) 円高トレンドは、1971年ドル・ショック以来、続く。1975年300円台だったのが、今や1995年4月79円台、2011年10月75円台。
(B) クリントン政権は、途中1995年、ドル安政策からドル高政策へ転換。アメリカに世界の資金を集中させ「金融立国」をめざすこととなる。金融バブルへ。2008年リーマンショックで金融バブル破綻。
(C) 2010年から、ギリシャ危機に端を発し、ユーロ危機へ。
  第2章-2 日本国債
(D) 日本国債の92%は、日本人が保有する(日本人の個人金融資産1500兆円)ので、大丈夫。ただし大丈夫なのは、今後5年程度。6~7年後に国債暴落・円安危機がありうる。ただし1ドル=150円を超える円安は、ないだろう。
  第2章-3 円高
(E) 今の円高の原因は「日本経済が、アメリカ・欧州より良い」とされるため。
(E)-2 95年の円高の方が、企業には今より大変だった。現在の企業は、グローバリゼーションの対応に失敗し苦労しているので、円高が理由でない。自己責任。
(E)-3 現在、起こっているのは、円高というより、ユーロ安。2008年1ユーロ=160円台。現在、2013年1ユーロ=110円台。

  第3章 ドルとアメリカ経済
  第3章-1 アメリカン・ドリームの崩壊と貧富の格差
(A) かつてのアメリカでない。貧富の差の拡大がアメリカを分断。
(A)-2 移民の流入が、アメリカ経済を支える。
(A)-3 アメリカン・ドリームが崩壊。
(A)-4 上位のCEOの報酬急増。上位1%の層が、所得の23.1%を占める。そして富の不平等が、所得の不平等を上回る。
(A)-5 アメリカ国民はお互いへの信頼感を失う。
(A)-6 所得階層間の移動も小さい。

  第3章-2 アングロ・プロテスタントとヒスパニック
(B) アメリカのナショナル・アイデンティティの危機。
(B)-2 アメリカの伝統は「アングロ・プロテスタント」文化(「英語&新教」)。アメリカの保守的な一般大衆・地域社会はそう信じる。これに対し、リーダーたちは、アメリカが「自由と民主主義」を信じる「普遍的」な国と思う。
(B)-3 ヒスパニックは英語を話さず、カトリック。
(B)-4 ハンティントンは、アメリカが分断されていると言う。①一般大衆が政府・議会に、不信を持つ。②ヒスパニックが、アングロ・プロテスタント文化に同化しない問題。

  第3章-3 信心深い人ほど、ナショナル(愛国的):アメリカ
(C) 宗教(信心深さ)がアメリカを復興させる。信心深いと、善悪がはっきりする。
(C)-2 信心深い人ほど、ナショナル(愛国的)である。Ex. アイルランド、ポーランド、アメリカ
(C)-3 ただし日本は一神教的信心深さがないが、多神教的自然崇拝がある。
  
  第3章-4 アメリカの「双子の赤字」
(D) アメリカの経常収支(主として「貿易赤字」)、1980年代に赤字が定着。このため政府の債務(「財政赤字」)を国内でまかなえない。海外から資金を流入させる。アメリカ国債を外国に買ってもらう。「双子の赤字」問題!
(D)-2 アメリカは2000年から財政収支悪化。2012年、アメリカの政府債務が、対GDP比100%超へ。(2002年は、まだ対GDP比57.1%だった。)
(D)-3 アメリカの国債の70%は、海外で保有。経常収支赤字のため。日本と違う。米国は財政赤字を海外でファイナンス。
(D)-4 アメリカ国債の格付けに関し、引き下げの心配がある。

  第3章-5 アメリカの「失業問題」
(E) アメリカの失業率は8~9%で高い。フランス、イタリア並み。
(E)-2 金融政策はすでに金融緩和を実施しており手詰まり。財政赤字で財政政策も手詰まり。
(E)-3 独・日は4~6%の失業率。 
(F) かくて弱まる経済、「双子の赤字」のもと、ドル安が長期トレンド。

  第4章 ユーロとヨーロッパ経済
  第4章-1 金融・為替統合に加え、財政統合する:欧州危機の唯一の解決策
(A) 1918年、ドイツのシュペングラー『西洋の没落』刊行。
(B) バブル崩壊で2010年、アイルランド危機、ギリシア危機。
(B)-2 欧州危機は、基本的に、金融・為替に加え、財政の統合も進めるかどうかの問題。財政統合しヨーロッパ合衆国が出来なければ、EU解体する。
(C) 財政債務の拡大が、欧州危機の核心。
(C)-2 歳出削減と増税しか対策がなく、欧州危機の出口が見えない。
(C)-3 長期的にユーロ解体もありうる。
(D) 現状を大きく変えられないまま、ユーロ下落の方向。ギリシアのユーロ離脱は、さしあたり、考えにくい。
(D)-2 かつてならギリシアは、ドラクマを引き下げて対応できた。
(E) ドイツは、ギリシアへの財政移転に賛成しないだろうから、ヨーロッパ合衆国は無理。

  第4章-2 ユーロから離脱し、ユーロ・ペグ制にする:ギリシアの可能性
(F) ギリシアを旧通貨に戻し、ユーロ・ペッグ制にする可能性はある。
(G) イギリスは財政主権を制約されたくない。ユーロ導入せず。
(H) 各国で経済成長率、インフレ率が異なるので、為替統合は無理。
(I) 成熟先進国は低成長が当たり前。(例1)日本は1991-2011の実質GDP成長率0.9%/年。(例2)2006-11の成長率、日本0.2%、EU0.7%、米1.0%。
(J) EU(27カ国)、人口5億人、GDPはアメリカの1.1倍で世界1。
(K) ユーロから離脱し、ユーロにペグするのみの国が増えるだろう。
(K)-2 中国の元はドルにペグしている。
(K)-3 ギリシアはユーロ離脱し、ドラクマを切り下げ、その後、ユーロにペグすればよい。
  
  第4章-3 ドイツの一人勝ち:ユーロ導入によるEU経済の構造的危機
(L) ユーロ加盟で、ギリシアは通貨切り下げが出来なくなり、国際競争力あるドイツ企業が有利。
(L)-2 ユーロ加盟後、ドイツは経常黒字増。ドイツと似たベネルクス3国も経常黒字増。ギリシア、仏伊など南欧は経常赤字増。仏伊も経常赤字増。
(L)-3 ユーロ圏は、ドイツ(とベネルクス3国)の一人勝ち。
(L)-4 ユーロ導入が、国際競争力に関し、為替の切り下げ、切り上げという調整手段を奪った。
(M) ユーロ導入が、ギリシア危機、南欧危機の原因。
(M)-2 財政移転による解決を、財政統合して、ドイツは行うべき。
(L) 国際収支の悪化とともに、(※企業の利益減による税収減で)財政収支も悪化。
(L)-2 EU経済は、ユーロ導入による構造的危機のもとにある。国際収支危機と財政危機。

  第5章 人民元と中国、アジア経済
  第5章-1 2030年頃:中国のGDP世界1、60-64歳人口最多
(A) 2010年、中国、GDP、世界2位となる。
(A)-2 中国の一人当たりGDPは、日本の10分の1なので、成長の余地あり。2030年頃、中国が、アメリカを抜きGDP世界1となる見込み。中国の人口、13億4千万人。
(B) 中国はしかし、「一人っ子」政策の影響で、人口は13億9千万人で頭打ちの見込み。
(B)-2 中国経済は、今がピーク。人口の老齢化で、成長率鈍化へ。20年後、2030年頃、60-64歳人口が最多となる。
  
  第5章-2 インド:NEP(新経済政策、1991年)以後の発展
(C) 世界経済の中心はアジアに回帰。「リオリエント」現象。1820年の実質GDP(対世界比)は中29%、印16%で中印計45%。50年後、1870年には欧米のGDPが、中印を抜く。
(D) あと10年で、人口、成長率は、インドが中国を抜き、ナンバー1となる。
(D)-2 インドは1991年NEP(新経済政策)以降、経済成長。社会主義的統制経済から、市場経済体制に移行。(2003年のゴールドマン・サックス証券のBRICs予測は、この経済成長の帰結。)
(D)-3 現在、中国は30-34歳層がピークで、以後人数減少。インドは10-14歳層がピーク。今後の経済成長が見込める。
(E) インドは親日的。「外交的資産」と言える。
(E)-2 インドは多神教で寛容。またヒンドゥー教はダルマ(真理)・マルタ(富の獲得)・カーマ(欲望追求)を宗教的3大義務とする。
  
  第5章-3 ASEAN諸国:インドネシア、タイ、マレーシア、ミャンマー、ベトナム
(F)中国、シンガポールは反日的。
(F)-2 インド、インドネシア、タイは、戦前の「アジア解放」の日本の国策から、親日的。インドネシアの民族主義者スカルノを日本が支援。タイと日本は戦前、攻守同盟を結ぶ。
(G) マレーシアは戦後、「ルック・イースト政策」で日本をモデルに高度成長をめざす。
(H) フィリピンは、親米、反日。第2次大戦中、111万人が死亡。
(I) インドネシア、ベトナム、ミャンマーが世界の成長センターになる。
(I)-2 インドネシアは、人口2億3千万人(2010)。印度に次ぎ、発展の可能性。
(I)-3 ベトナムは、1986年、ドイモイ政策以来、発展。
(I)-4 ミャンマーは、1997年、ASEAN加盟以来、経済発展。2011年、民主化指導者アウン・サン・スー・チーと軍事政権の和解後、発展加速の可能性。

  第6章 基軸通貨をめぐる攻防:ドル、円、人民元、ユーロ&2050年「無極化」
  第6章-1 1ドル=360円時代
(A) 1944年、ブレトンウッズ会議では、英代表ケインズの新しい準備通貨「バンコール」案と、米代表ホワイトの「金・ドル本位制」案が対立。現実的な、後者に決まる。
(A)-2 各国は、利息を産まない金より、ドルで外貨準備を持つ。
(B) 円の対ドルレートは、1871年新貨条例で、1円=純金1.5グラム。1ドル=ほぼ1円となる。
(B)-2 1897年、貨幣法で金本位制へ移行。1円=金0.75グラム。1ドル=2円。
(B)-3 すでに管理通貨制に移行して以後、1941年、1ドル=4円25銭。
(B)-4 敗戦後のインフレで、1ドル=50円へ。
(B)-5 1949年、ドッジラインで、1ドル=360円に決まる。若干、円安の設定。
  
  第6章-2 変動相場制のもとでドルの価値が4分の1となる:1ドル=90円時代
(C) スミソニアン合意(固定制への復帰、1ドル=308円)が維持出来なかったのは、市場が、ポンドなどを売り浴びせたため。
(C)-2 1973年、変動相場制への移行後、ドルは下落。1ドル=270円。
(C)-3 ついに1995年(4/19)には1ドル=79円75銭へ。これはさすがに行き過ぎで、《円高・マルク高、ドル安》の是正のため、1995年9月、米など先進国が協調介入し1ドル=100円へ。
(D) アジア通貨危機と日本の金融危機(1997・8)で、1998年、1ドル=147円まで円安へ。
(D)-2 その後は再び円高で、2011年(10/31)には、1ドル=75円32銭へ。
(E) ドルは対円で、価値が4分の1となった。

  第6章-3 今後20年間、ドルが基軸通貨(2030年代半ばまで)
(F) ドル価値が下落したとはいえ、アメリカはNo.1の国。人口5000万人以上の国で、1人当たりGDP1位。
(F)-2 さらに米国の軍事力は世界最高。「軍事における革命」(RMA=Revolution in Military Affairs)、「ネットワーク中心の戦い」(NCW=Network-Centric Warfare)が進行。

  第6章-4 2030年頃、中国のGDPが世界1となる
(G)  2030年頃、中国は、GDP世界1となる。
(H) 人民元は、この5年間で、対ドルで20%切り上がった。1ドル=7.69元から、1ドル=6.30元へ。(1ドル=100円から、1ドル=82円の円高に相当。)
(I) 中国経済は日本と40年のタイムラグ。(2013年の中国は、1973年の日本に相当。)
(I)-2 ただし2014-2030年の中国は、1974-1990年の日本4%台成長よりも、大きく成長するだろう。(1人当たりGDPが日本より相当小さいため成長する。)
  
  第6章-5 今後、「元高、円高、ドル安、ユーロ安」、2050年に「無極化」時代へ
(J) 人民元は、後40年たつと、2050年には、かなり高くなるはず。日本は1973-2012年で270円から90円になった。
(K) 中国の1人当たりGDPは2050年でも、アメリカの2分の1程度。
(K)-2 中国は人口13億人、インド17億人(1人当たりGDPはアメリカの3分の1)。
(K)-3 2050年のGDPそのもの:米、印は、中国の半分。
(L) 2050年には資本主義の新たな投資先がなくなる。フロンティアの消滅。
(L)-2 利子は2%以下の低金利が続く。利子率革命。Ex.1997年以降の日本の10年国債利回りは
(M) 2050年には、アメリカ、EU、中国の3極というより、どこもリーダーシップがとれない、「無極化」の時代となる。

  第7章 世界に誇る日本の資産
  第7章-1 日本経済は「成長」から、すでに「成熟」へ:低成長は当然
(A)-2 日本の経済成長率(年平均):①1956-73年、高度成長、9.1%。②1974-90年、安定成長、4.2%。③1991-2011年、バブル崩壊以後、0.9%
(B) 日本経済は、バブル崩壊後、円高で失速
→1995年、円高是正で、2.7%もどる
→1998年、東アジア危機(1997-1998)と、日本の金融システム崩壊でマイナス成長
→2000年、2%成長に回復
(C) 2008年9月、リーマンショック後、日本経済の成長率は、2008年マイナス3.7%、2009年マイナス2.1%
→2012年予測、2.2%
(D) 日本の潜在成長率は1-1.5%。
(E) 経済の「成熟」につれ、成長率下がる。
(F) 2006-10年経済成長率(年平均):日本0.2%、EU0.7%、米1.0%

  第7章-2 日本の歴史的・自然的資産
(G) 日本には森、水があり、魚がいる:稲作漁撈文明。(欧米は畑作牧畜文明。)
(H) 日本は、長く平和が保たれていた。
(I) 人口3000万人以上の国では、日本の平均寿命は男女とも世界一。平均寿命の長さと豊かさは比例関係。日本は、「成長シンドローム」(成長第一主義)から抜け出すことが必要
(K)  日本と英国は、「海」の国で似ている。梅棹忠夫の「第1地域」海洋国家(日本、西欧、米)。Cf. 「第2地域」(中・印・露・イスラム諸国)
(K)-2 海洋イスラムから自立した英国と、海洋中国から自立した「脱亜」の日本。

  第8章 世界の中の日本経済
  第8章-1 東アジア製造ネットワーク
(A) 多国籍企業によって、東アジアの経済統合(地域内分業)が進展。1980、90年代の20年間に変化。①自動車部品、②エレクトロニクス製品など。
(A)-2 グローバルなプロダクションシェアリング、グローバルな製造ネットワークの形成。
(A)-3 東アジア製造ネットワークは、日本が部品を提供し、中国・香港がアセンブルする。(2001年)
(B) 今後の「ASEAN+3」の発展が重要。日中の協調&イニシアチブが欠かせない。
(C) アジア通貨高は2012年で底を打った。つまりアメリカ経済順調、中国経済減速。
(D) アジアは巨大すぎて、宗教も様々(仏教、イスラム教、キリスト教、ヒンドゥー教など)で、EU的統合はない。
(E) 東アジアの経済統合はありうる。金融・為替の統合以上の統合。

  第8章-2 「ドル・ユーロ・人民元」の時代へ
(F) 世界の3大通貨は、「ドル・ユーロ・円」から、「ドル・ユーロ・人民元」へ。
(F)-2 中国は「SDR準備通貨構想」を主張。「バンコール」に相当。ドルよりも中立な国際通貨。
(G) 2030年、日本のGDPは、中国(世界1)の4分の1程度へ。

  おわりに:発想を転換し「成熟」戦略を考えるべき。環境・安全・健康分野の重視。
(A) 「アベノミクス」:①大胆な金融緩和、②大規模な公共投資による国土強靱化、③製造業の復活による成長の促進。
(A)-2 2011、2012年、「マイナス成長対策、インフラ劣化対策」として、「アベノミクス」は、必要。
(A)-3 しかし「2%のインフレターゲット」は疑問。日本の1995年以来のデフレは、景気後退によるものでなく、グローバリゼーション(とりわけ東アジアの経済統合)を背景にした構造的なものである。「悪いデフレ」ではない。むしろ物価安定である。
(A)-4 2002-07年は、景気回復し、平均2%弱の実質GDP成長を達成したが、この時も物価は下がり続けた。
(B)  「アベノミクス」が、従来型の「成長」政策なら、「資産バブル」を生み、中・長期的にマイナス。
(C) 発想を転換し、「成熟」戦略を考えるべき。環境・安全・健康など日本経済が大きな強みを持つ分野の良さを認識し、維持・展開させるべき。

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『隅田川のエジソン』坂口恭平(1978生)、2008年(30歳)、幻冬舎文庫

2013-03-05 08:50:43 | Weblog
  モノローグ
(1) 2004年7月、墨田川花火大会。硯木正一(スズリキショウイチ)55歳、路上生活者になって、間もなく丸6年。マーコが、一緒に住む。「隅田川のエジソン」とは、硯木氏、つまりスーさんの路上生活の記録である。
(2) 硯木(栃木生まれ)は、福島の建設会社がつぶれ、1998年5月、東京に出てくる。最初は金があり、安宿に泊まる。それが底をつき、1998年9月、言問橋の路上生活者となる。
  1
(3) 路上生活では、賞味期限切れコンビニ弁当、シケモクがある。硯木はスーさんと呼ばれる。仲間にクロがいる。
(《評者の感想》賞味期限切れコンビニ弁当の、有効な利用方法である。)
(4) モチズキさんが、70歳超で長老。ゴミ・拾得物などの換金方法を、指南。モチズキさんの住居の前で、朝から5~6人が酒盛り。
(《評者の感想》朝から酒盛りとは、寂しい気がする。)
(5) ゲンは、シケモク専門。
  2
(6) ゴミの換金。①本は、古本屋で売る。②電化製品はリサイクル・ショップで換金。③アルミ缶は、キロ50円しかならず、クタビレ損。(350ml、1缶15グラム、缶66個で1キロ。1個76銭。1000個、15kg、760円。)④テレカは、換金ショップで、高く売れる。
(7) 自分のやり方を見つけて稼ぐ。「工夫の人生は、ばら色!」とスーさん。
(8) 路上生活者も、銭湯に行く。
(《評者の感想》衛生上の問題が、ありうる。)

  2-2
(9) 「路上生活の革命は、カセッ・コンロ!」と、スーさん。隅田川に「火の文明」を起こす。暖かいご飯・焼鮭・味噌汁が、黄金三点セット。プラスチック収納箱で腰風呂、残り湯をペットボトルに入れて湯たんぽ。コンビニ弁当を暖かい雑炊にすると、うまい。
(10) スーさんが、1週間で、ゴミの換金で5000円稼ぐ。
  3
(11) 警察官がやって来て言う。「通路に住むのは駄目。住民から苦情が出たら、一巻の終わり!」「隅田川沿いの敷地の植え込みに住むなら、いい。」「通路は台東区で、管轄は警察。隅田川沿いの管轄は、国!」とのこと。
(《評者の感想》路上生活の無断の土地使用について、法的位置づけは、どうなのだろうか?)
(12) 去年まで、荒川の中学校教諭だったハシモト、39歳。熱い生徒を育てようとしてPTAから非難を受ける。自分から辞表。路上生活者へ。
(13) 条例により資源ゴミの持ち去り禁止:墨田区。ゴミを拾っていると警官が注意する:荒川区。路上生活者に優しい:台東区・文京区。
(《評者の感想》資源ゴミは、秩序だって、持って行ってもらえれば、自治体にとってマイナスでない。)
(14) 隅田川沿いの敷地の植え込みに、路上生活用者用の住居を作る:スーさんとハシモト。①スーさんが、建築工事現場の親方と話して廃材をもらう。路上で生きるためには、盗んではいけない。ゴミは、喜んでくれる。②道具箱に、ゴミから拾った道具一式。③ブルーシート(5m×5m)を花火大会で集める。④竹をドームに組んで、上からブルーシートをかけ住居を作る。
(14)-2 路上生活者たち数人が、新居で宴会。
  4
(15) 路上生活1ヵ月後。ゴミ拾い、テレカ拾いで月に3万円の稼ぎ。電化製品のリサイクルが金になる。
(16) 転勤のサラリーマンが自転車をくれる。警察に問われないよう譲渡証明書つき。自転車に乗り、狩猟民族のように換金可能なゴミ探し。タラの芽を発見。60円で、ワンカップ大関が買える有利な自販機を発見。
(《評者の感想》壊れて安く商品が買える自販機は、利用したら、法律上、問題がある。)
  5
(17) 昼間から毎日、酒が飲める。そんなに働かなくていい。
(《評者の感想》豊かな時代のゴミに依存する生活。貧しい国のスラムだと、ゴミの取り合いで争いが起きるが、日本は豊かなので、取り合いが起きない。)
(18) ろうそくの火を灯していて、ハシモトの家が燃える。
(19) 廃棄された原付バイクのバッテリーとライトで、電気が点く。
(19)-2 12ボルトのバッテリーで、大部分の電化製品が使える。
(19)-3 テレビが見られるようになる。テレビを見に人が集まる。
(19)-4 ガソリンスタンドから、廃棄されたバッテリーをいくらでももらえるようになる。(《評者の感想》確かに路上生活者の住居の電化が進むが、使用後、電気が切れた大量のバッテリーを、スーさんたちはどうしたのか?野積みして、結局、最終廃棄物の山を作るのか?大丈夫、買い取り業者ホセ(後述)がいた。)
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(20) 有用or換金可能なゴミを獲物とする狩猟生活!路上生活者は狩猟民族。
(21) 材木で新しい路上生活の住居を作る。3畳程度。
(21) 季節は春。カラオケ機がゴミ捨て場から手に入る。カラオケ機つき宴会用住居を作る。桃源郷のよう。普通人も来る。20人ぐらいが入れる。
(22) カップルの路上生活者もいる。20代、40代など。赤ん坊が出来て、親に預けた女もいる。
(22)-2 相手と喧嘩した直後の22歳の路上生活の女性が、スーさんのおいしい食事の後、「セックスしよう!」と誘った。スーさんはセックスして満足した。
(22)-3 また時々やってきて、おいしいご飯を食べたあと、夜、スーさんの住居に泊まっていく女もいる。女たちは、次々、入れ替わる。「これは最高だった」とスーさん。
(《評者の感想》「一宿一飯」の恩義に、彼女らは、体で報いる。)
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(23) スーさん(1998年9月、路上生活者になる)は、1999年、初めての夏。中国人のリーが餃子を持ってきて、スーさんのカラオケ部屋で、40人の宴会が開かれる。
(23)-2 マーコとサチコが、初参加。マーコ(42)は頭が少し変。「スーさん、マーコを預かってよ」とサチコが言う。
(23)-3 サチコは、ハシモトと一緒に暮らす。
(24) マーコが、スーさんの家に居つく。マーコは何を聞いても答えない。香西かおりの歌を、カラオケで、大声で歌う。
(25) 路上生活の住居は、夏が大変で40度を超す。路上生活は、健康が重要。
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(26) マーコとは最初、全然、セックスがなかった。マーコは、一度も経験がないようだった。スーさんが、低姿勢に頼んで、時々、セックスする。
(26)-2 マーコは複雑で幼稚すぎて、よくわからない。しかし、スーさん(=おれ)はマーコを捨てなかった。マーコは、ただ、おれと居れば「飢え死にしない」と本能的に思っている様子。
(27) 「小物拾い」のプロのヤマちゃん。宝石、骨董品を狙う。
(27)-2 ゴジラの玩具がゴミ捨て場で見つかる。22万円で売れる。
(28) スーさんが、水たまりに倒れた老人(男性)を介抱。数日経って、この老人が御礼にくる。紳士服店の社長で、シャツや下着をたくさんくれる。飲んだ後、転んだとのこと。スーさんは「分かってくれる人がいる」ことに喜ぶ。親切は人を選ばない。女物の下着があり、マーコがとても喜ぶ。
  9
(29) 建設省の係員がやってくる。毎月一回、墨田川遊歩道の路上生活者の小屋の一時撤去が指示される。彼らは、ブルーシートが並んでいない写真を撮って、上司に見せる。
(29)-2 「人が立って歩けるほど、天井が高い小屋はいけない」とスーさんは指示される。何か言われたら、スーさんは、ルールに従う。「竹のような人生!」。
(30)  一時撤去の日、堤防上は、家財道具や家の材料であふれる。その喧噪の中、ある路上生活者から、封筒を渡される。死んだ時の連絡先が中にある。
(31) 「トーちゃん、スイカがなってる!」とマーコが発見。みんなで食べる。
  10
(32) 2000年12月、いつもの宴会の時、「テレホンカードが売れない。金にならない。」と話題になる。携帯電話の普及のため。
(32)-2 実際、今やスーさんも、電化製品が中心。「ドロボウ市」の店側に売る。しかし、リサイクル法ができて、狙える電化製品が減る。
(33) 「公衆便所の水を、勝手に大量に使う者があるので、使用時間を8:00amから7:00pmにする」との張り紙がある。
  10-2
(34) 新興国(中印)経済の発展で、アルミ缶がキロ80円と高くなる。
(34)-2 ゴミ置き場にアルミ缶を出す時間が人によって決まっていると分かる。その時間の直後に、取りに行く。スーさんは頭脳派。
(34)-3 しかし、アルミ缶をゴミ置き場に拾いに行くのは、目立って、スーさんはかっこ悪いと嫌がる。さらにある日、近所の女性から「税金も払っていないのに、図々しい」と言われ、彼は意気消沈。
(35) マーコが夜中、独りで出かける。スーさんの気持ちを察して、アルミ缶を拾いに行っていた。マーコに謝ると、「いいよ、トーちゃん!」と答える。
(35)-2 その日は、12/24で、スーさんの誕生日。マーコが「トーちゃん!」と呼ぶ。行くと、何と、「誕生日おめでとう!」とショートケーキが1個、買ってあった。
(35)-3 気を取り直し、頭脳派のアルミ缶拾いを、スーさん、再開。「生きるには、これしかない!」と元気・自信を取り戻す。人の目も気にならなくなる。
(36) 2001年正月、マーコが雑煮を作ってくれる。
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(37) ある日、「あんた毎週来るわね!」と近所の奥さんから声がかかる。スーさんが「アルミ缶、月2万円になります」などと話す。「主人がたくさん缶ビールを飲むから、硯木さん専用にアルミ缶を、うちの倉庫から持って行ってもいい」と奥さんが言ってくれる。
(37)-2 スーさんは以後、大口の契約を狙う。アルミの値段も高騰し、月4万円かせぐ。
(38) スーさんは、アルミ缶の大口契約先を、自転車に乗り、探す。ラブホテルで、大量のアルミ缶を発見。ホテルの掃除のおばちゃんに声をかけると、社長を呼んだ。「へこたれない生き方がいい!」と社長。ラブホテル5軒分のアルミ缶を、ゲットできる。
(38)-2 この月、アルミ缶で5万円、稼ぐ。マーコは、たくさん買い物をする。「お金があるとき、食べないと元気にならないし、病気にならないため!」とマーコ。
(39) ブラジル人のホセが、アルミ缶、週100キロ分、またバッテリー1個50円で、取りに来る。日本の業者では、来てくれない。ホセは、外国の日本で、よくがんばっている。
(39)-2 ホセは、量りに、細工をしたりする。しかし言えば、すぐ直す。
(39)-3 8月、浅草のサンバ・カーニバルの日、ホセがトラックの荷台に、サンバの踊り子3人を乗せてくる。みんなで踊り、その後、宴会。「サンパウロを思い出す!」と彼女らが言う。
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(40) チョウメイさんは、変わっている。路上生活の小屋の屋根に、ソーラーパネル設置。8個のバッテリーに蓄電する。パソコンも持つ。彼はパソコンの組み立て工場を、リストラされた。ジャンク品からパソコンを作る。そばにある図書館の無線ランを使い、インターネットで金を稼ぐ。スーさんは「人間、どうやっても生きていける」と思う。
(40)-2 チョウメイさんの路上生活の小屋は、川が氾濫したとき、船になるよう設計されている。
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(41) 2004年夏、スーさんは路上生活が、5年を超えた。9月で丸6年。((1)参照)隅田川花火大会の日、彼は、欲しかった10m×10mの巨大ブルーシートを、手に入れる。
(41)-2 花火大会前後の1週間、花火師の作業のため、路上生活者たちは遊歩道から、どかされる。植栽の中に移動するよう、建設省が指示。
(42) ある夜、ハシモトとサチコの小屋に、就寝中、自転車が投げ込まれる。大けがをするところだった。さらに別の小屋は、ロケット花火が打ち込まれ燃えあがり、住人がやけど。最近、ホームレス殺害事件が、日本の他の場所で起きる。
(42)-2 リベンジすると、スーさん、ハシモト、クロが夜、見回る。1ヵ月後、少年4人が、ロケット花火を持って、やって来る。スーさんとハシモトが、4人捕まえる。クロが警察官に通報。
(42)-3 警察官が、「これは犯罪だ」と少年たちに言い、住所・氏名など尋ねる。親にも連絡、呼び出し。
(42)-4 路上生活では、天災より人災が怖い。特に、少年が凶暴。
(43) 台風のとき、「隅田川の管理局が、岩淵水門を開けたから避難するように!」と建設省の係官から、連絡あり。
(43)-2 路上生活者の住居の多くが流されたり、床上浸水する。(意図的に水門を開けて、路上生活者の住居を流した可能性も、ありうる。)
(44) ハシモトの所に、先日、襲撃した中学生4人が、謝りにくる。前中学教師のハシモトは感激し、ここで学校を開くと、決意。
(44)-2 ハシモトが、学校『自転車』(先日の事件を記念し命名)を開校。中学生2人が来る。一種のサバイバル教室!
(45) ハシモトと同居していたサチコが、心臓発作で倒れる。救急車で東大病院へ搬送される。医者4人が集中治療室で処置するが、臨終。ホームレスで治療費が払えないと分かっているのに、治療してくれたことに、スーさんは感激。
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(46) 建設省の「新しい取組」、ホームレス支援事業の連絡が来る。路上生活者のために、都内のアパートを2年間、月2000円の家賃で提供する。その間に、職業訓練、就職活動を行う。水道代、電気代、ガス代は自己負担。ただし、二度と隅田川沿岸で、路上生活用住居を建てないとの誓約書を提出。
(46)-2 「2年間の契約が切れた後が、心配!」とスーさん。
(47) クロは、隅田川沿いの住居は、ただのアトリエだった。「台東区内の寂しがり家のお年寄りの相手をすれば、食事も食べさせてもらえるし、泊まらせてもくれる。10軒はある。」とクロ。「隅田川遊歩道から追い出されても平気」とのこと。
(47)-2 中国人のリーも、老人の世話をして泊まったり食べたりする。
(48)  ホームレス支援事業によって、隅田川遊歩道の200軒あった路上生活者の住居は、1ヶ月で半減。やがて、隅田川沿いに住むのはスーさんとマーコの1軒だけになる。
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(49) 2005年4月、スーさんが路上生活者になって7年目の春、隅田川遊歩道にたくさんのフラワーポットが並べられ、『フラワーパーク』が出来る。また寝ることが出来ないベンチ(真ん中に手摺がある)が置かれる。
(49)-2 スーさんの住居を隠すように大きな看板が立つ。陽も当たらなくなる。マーコが陰鬱になる。
(50) スーさんは、リヤカーの上に家を作り、それを曳いて日本全国を旅して生きて行くと決意し、出発する。マーコが、一緒に行く。隅田川沿いから路上生活者が居なくなる。

  《評者の感想》 
(1) 悲しい話!スーさんは、路上生活でなく、普通に大工で働いたほうがいい。彼は、充分に起業の才がある。雇われても、有能な社員になるはず。
(2) どんな状況に陥っても、生きて行くスーさんの才は、すごい。廃品回収は、確かに狩猟民族の狩猟に似る。
(3) 繰り返しになるが、悲しく寂しい話。日本全国を旅して生きるため出発したスーさんたちが、元気に生きていけると、いいと思う。

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