宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『日本妖怪異聞録』小松和彦(1947生)、1992年、講談社学術文庫

2013-09-28 08:32:40 | Weblog
  第1章 大江山の酒呑童子
A 日本最強の妖怪、酒呑童子。995年、源頼光が退治する。
B 『大江山絵詞』によると、道長の子息が行方不明となる。陰陽師の安倍晴明が酒呑童子の仕業と占い判じる。
C 比叡山が伝教大師によって開かれる以前の先住の神、酒呑童子。
D 渋川版『御伽草子』によると酒呑童子は、越後の国出身。
E 奈良絵本『酒典童子』によると、酒呑童子は近江国出身で、ヤマタノオロチ(スサノオに追われ伊吹山大明神となる)の子。
F 酒呑童子は、もともと山の神or水の神(龍神)or雷神。仏教によって追放された。

  第2章 妖狐、玉藻前(タマモノマエ)
A 「金毛九尾の狐」が化けた絶世の美女、玉藻前。
B 『玉藻の草子』によると1154年、鳥羽院のもとに遊女、化粧前(ケショウノマエ)が現れ、寵愛を受ける。これが玉藻前で、院は、交わりを重ね病気となる。
C 陰陽頭(オンミョウノカミ)安倍泰成によれば、玉藻前は那須野に住む800歳のニ尾の狐。天竺出身で、日本の王に成ろうとしている。
D 泰成の方策で、玉藻前は消え失せ、院は平癒。
E 荼枳尼天(ダキニテン)信仰(真言密教)と玉藻前伝説は関係あり。荼枳尼天は狐の神格化であり、天照大神に比定される。(東寺が伏見稲荷を支配下においていた。)
F 三浦介によって、妖狐は退治される。
G 玉藻前の執念(怨霊)が那須の殺生石となる。源翁(ゲンノウ)和尚により退治される。

  第3章 是害坊(ゼガイボウ)天狗
A 天狗は、仏法をおとしめるため、人間界に出現する妖怪。
B 「天狗の偽来迎」など、人を化かす天狗。
C その昔は「鳥類天狗」のみで、「鼻高天狗」は後世。
D 龍王と天狗は仲が悪い。
E 人さらいの犯人は天狗。
F 天台の密教僧は「天狗」を想定し、異常を説明。Cf. 陰陽師は「鬼」を想定。
G 『是害坊絵巻』によると966年、唐より是害坊という大天狗の首領が、日本に来る。
G-2 愛宕山の日羅坊天狗のもとに、ワラジを脱ぐ。是害坊は、「僧の修業を妨げてやる」と言う。
G-3 比叡山の密教僧(不動明王を信仰する)の「火界呪」に、是害坊が負ける。
G-4 二度目も是害坊が負ける。
G-5 三度目も是害坊が「日本の生仏(イキボトケ)のような僧」に負ける。日羅坊が「日本は小国だが神国で、多くの仏たちが日本にやってきて人々を守っている」と自慢。
G-6 是害坊は、日羅坊に湯治を施され、元気が回復し、本国(唐)へ帰る。
H 「天狗」は天台宗の宣伝用の物語。
I 天狗と戦うのは、高僧に従う神的な護法童子。病気は、邪気(天狗)による。
J 邪悪な人間or僧が、天狗界へ落ち、天狗になる。

  第4章 日本の大魔王、崇徳上皇
A 保元の乱で敗れ、讃岐に流され、彼の地で没した崇徳上皇(1119-1164)が、大天狗の首領となる。金色の大鳶の姿をし、多くの天狗を従え、天下の争乱を企てる。
B 京都の「白峰神宮」、1868年創建。崇徳上皇と淳仁天皇が祭神。朝廷を恐怖させていた崇徳上皇を封じ込める。崇徳上皇は死後、「大魔王」となった。
C 崇徳上皇は、鳥羽天皇の第1皇子で、母は待賢門院詔璋子。しかし本当の父は、鳥羽天皇の祖父白河法皇。
C-2 5歳の時、崇徳天皇となる。鳥羽天皇は上皇へ。(父の堀河天皇はすでに死去。)鳥羽上皇は、実権を持つ祖父白河法皇の死を、願う。
D 1129年、白河法皇が死に、鳥羽上皇が実権を持つ。璋子と崇徳天皇を無視。
D-2 鳥羽上皇、美福門院を入内させ、皇子体仁(ナリヒト)親王を産ませる。
D-3 鳥羽上皇、崇徳天皇を退位させ、体仁親王を天皇に即位させる=近衛天皇。
E 1155年、近衛天皇が死去(17歳)。藤原忠実・頼長父子が呪詛した。
E-2 鳥羽上皇は、鳥羽上皇と璋子の間に生まれた雅仁親王を、後白河天皇とする。
F 1156年、鳥羽上皇が死去。崇徳上皇(藤原頼長・源為義・為朝)側と後白河天皇(平清盛・源義朝)側が対立し、保元の乱へ。
F-2 崇徳上皇、敗れ、讃岐に流され、9年後死去。「日本国の大魔縁」となると誓文を血書。
怨霊となる。Ex. 清盛の死。
G 「鬼」から「天狗」の時代へ。陰陽道の時代から、修験者・山伏の時代へ。崇徳上皇の怨霊が、「大天狗」=「大魔王」となる。
H 『太平記』によると、「天下を大乱に導く」ための天狗評定の中心が、崇徳院。
I 御伽草子『天狗の内裏』によると、牛若丸が、鞍馬山の奥の天狗の国を訪問。大天狗のもてなしを受ける。
I-2 この時代になると、天狗は鬼と区別がなくなる。(ただし天狗には食人性がない。)また天狗は、『太平記』的な怨霊思想からも抜け出す。今日の天狗のイメージに近づく。山伏のイメージが前面に出る。
J 明治の王政復古後、再び、崇徳上皇の祟り(「皇(スメラギ)を取って民となし、民を皇(スメラギ)となさん」)が怖れられる。この祟りによって、西南の役、日清・日露戦争、昭和の15年戦争が起きたとも言える。

  第5章 鬼女、紅葉
A 戸隠山の鬼女、紅葉が、退治される。(『北向山霊験記』(明治19年))
B 6つの欲望の世界(仏教)の「第六天の魔王」=他化自在天(タケジザイテン)の申し子としての紅葉。
B-2 美貌の紅葉が、源経基の寵愛を受ける。そして、正室を調伏し苦しめる。紅葉は、比叡山の律師によって捕らえられ、戸隠山に追放される。
C 紅葉は、経基公の子(経若丸)を宿していた。
C-2 紅葉は、金銀財宝を盗む盗賊団の首領となる。若い女を誘拐し、生き血をすすり、肉をあぶって食べる。
C-3 平維茂(コレモチ)軍が、山賊紅葉の討伐に向かう。紅葉が、幻術で対抗。維茂は天台の名刹、北向観音に祈り“降魔(ゴウマ)の剣”を得る。維茂が、紅葉を退治し、首を切り落とす。
D 戸隠山は修験道の聖地で、九頭竜権現を祀る。あるいは「九頭一尾の鬼」を封じ込めて祀ったとの伝承もある。
D-2 戸隠山には、幾人もの鬼が住み着いて、退治された。
E 謡曲『紅葉狩』。平維茂(コレモチ)が戸隠山で、紅葉狩りする貴女に誘われ、酒を飲む。酔いつぶれた維茂が眼をさますと、鬼女が襲いかかるが、神剣で斬り伏せる。
F 『戸隠山絵巻』の「九しやう大王」。戸隠の鬼伝承。長谷観音の夢告の助けを得て、鬼の首をとる。
G 戸隠の地元の人たちは、鬼を愛し続けた。京の帝によって派遣された武将という外部権力への不満の投影。地元のために戦ったヒーローとしての鬼。

  第6章 つくも神
A 『百鬼夜行(ヒャッキヤギョウ)絵巻』:器物の妖怪。
B 平安時代終わり頃の『古本(コホン)説話集』によると、たくさんの鬼たち(器物の妖怪)が夜中に道を行進する(百鬼夜行)。鬼たちは、真言密教の呪文により、藤原常行に手を出せない。
C 中世、鎌倉初期『宇治拾遺物語』によると、不動明王の呪文を唱えると、百鬼夜行の鬼たちが手を出さない。
D 百鬼夜行の鬼たちは、酒宴を開くため現れる。人をさらい、人の血や肉を飲み食いする。
E 室町時代の「つくも神(付喪神)」はユーモラス。「九十九(ツクモ)」年もたつと器物に霊が宿り、化ける能力を持つ。
F 『付喪神(ツクモガミ)絵巻』などによると、器物は100年経つと霊を獲得して、人をたぶらかす(付喪神)。そうなる前に、人が古道具を捨てる(煤払い)。
F-2 怒った古道具たちが評定。「古文先生」(古書の精霊)に教えられ、「陰と陽が混沌として事物が造られる節分に、身を虚にして造物の動きに身を任せれば妖怪になれる」と知り、妖怪となる。
F-3 妖怪たちは捨てられた恨みを晴らすため、人間や牛馬をさらい食らう宴会を毎夜開く。
G 妖怪のパレードは、真言密教の「尊勝陀羅尼」の呪文から噴き出た火で散り散りになる。
G-2 祈禱により、不動明王の眷属の護法童子が現れ、妖怪たちの住み処、「鬼が城」を攻め、降伏させる。
G-3 「仏教を信じれば命を助ける」と言われ、妖怪たちは受け入れる。
H 真言宗の宣伝文句:情(心)がない草木や器物も情を宿すことがあるが、それらも修行すれば成仏できる。
I つくも神、つまり器物の妖怪たちは、中世のもので、江戸時代になると急速に人気を失う。それに代わり、お岩さんなど幽霊が台頭する。

  第7章 鈴鹿山の大嶽丸(オオタケマル)
A 酒呑童子、玉藻前(タマモノマエ)、大嶽丸が中世の3大妖怪。遺骸(狐)または首が、「宇治の宝蔵」(平等院)に収められた。(いわば戦勝記念。)
B 三万余騎の軍勢で、藤原俊宗が大嶽丸を攻める。
B-2 天から来た鈴鹿御前の助力、千手観音・毘沙門天の守護で、俊宗が大嶽丸を倒す。
B-3 しかし大嶽丸が陸奥の霧山で復活。再び討伐軍が組織され、大嶽丸が討たれる。その首が、「宇治の宝蔵」に収められた。

  第8章 宇治の橋姫
A 御伽草子『はなわ』によると、源頼光・安倍晴明の時代、夫の浮気への怒りで、ある女が貴船神社に丑の刻参りをして、鬼女となる。
A-2 陰陽師、安倍晴明が、鬼女を退散させる。
B 鬼女は、燃え盛る恨みの念を晴らすため、夜な夜な洛中に出没し、女に化け男を、男に化け女を、殺した。
B-2 勅命で源頼光が、その家来、渡辺綱と坂田金時に、退治を命じる。
B-3 「弔ってくれれば、もう悪いことをしない」と、鬼女は降参する。「宇治の橋姫社」が設けられる。
C 男性支配の社会で、「橋姫」の丑の刻参りが、女性の心をつかむ。憎むべき男を殺す。

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『予定日はジミー・ペイジ』角田光代(カクタミツヨ)(1967生)、2007年、新潮文庫

2013-09-10 21:57:09 | Weblog
 《評者の注》
1 著者は子供を産んでいない。著者自身が、「あとがき」で述べる。だから、この小説は、自分以外の者たちの資料を集め、著者の思索を加え再構成・創作された、妊娠出産小説である。著者の出産体験の報告でない。
2 妊娠した女性が思いor感じるだろう項目が、資料に基づき、類型的に提示される。
3 妊娠・出産について、著者の見解が、必要に応じ、述べられる。
4 もっと一般的に、人間のこの世への出現の意味、あるいは人間存在の意味を、著者が問い、それについて著者が見解を示す。
5 著者は、人間のこの世への誕生が、それ自身肯定されるものであって欲しいと、祈る。
6 夫の性格・気持ちの設定が救い。彼は常に子どもの誕生に肯定的で、心の底から喜ぶ。

  Ⅰ 4月
A(X日)夫と性交した。「子どもができたかも」と思う。
  
  Ⅱ 6月
B(6日(日))たなばたまで、あと1カ月。
C(10日(木))産婦人科で「おめでたですね」と言われた。しかし、ぱっと華やかな気分になれない。夫は一点の雲りなく喜ぶ。「わかんない!」「だって初めてなんだ!」と私。
D(11日(金))梅雨。気分が盛り下がる。有名人の誕生日一覧の本を買う。予定日はジミー・ペイジ。「おなかに入っているのがジミー・ペイジの気がする」と私。
E(17日(木))友人Hの誕生日。Hもお腹に入っていたんだと思う。
F(15日(金))子ども服売り場を見て、「私のより高い服など買ってやるもんか」と思う。
G(27日(日))近所の公園まで散歩する。私は不機嫌絶好調になる。 
H(同上)「子どもできても、ぜんぜんうれしくない」と私。「おろすなんて絶対許さない」と夫。「子ども、お願いだから会わせてよ」と夫が泣く。「きっとかわいいよ」と夫。
I(同上)「あと7カ月、ビールは飲まない」と私が決める。

  Ⅲ 7月
J(2日(金))母に電話して「あのね、子どもができました」と言う。「子どもってのは、いいもんよ」と母。そして「お父さんのお墓に明日、報告に行く!」と母。
K(5日(月))色々なもののにおいが嗅ぎたくなる。そして舐める。異変!例えばテレビのにおいを嗅ぎ舐める。「どうしちゃったんだろう、私!」と思う。産婦人科のリンドウ先生が「つわりみたいなもの」と言う。帰り道、『初めての妊娠と出産』など本を買う。
L(7日(水))1日ずっと、ものを嘗めたい衝動と戦っている。
M(同上)「栄養のバランス良い食事をとる」など、あと7カ月近くやるのかと思うと、げんなりする。
N(同上)私のジェットコースターのような気分の浮き沈みに、夫は慣れ始める。
O(10日(土))夫も、私も“日記”を書く。1週間ごとに交換。
P(12日(月))友人Kは子どもがいる。「本読むより、人に話を聞いた方がよい」と言う。
Q(19日(月))夢:“夫が休日、オシャレをしてこそこそ出かける。会社のK嬢と会う。”
R(23日(金))学生の頃に死んだ父の夢を見て、泣いた。色鮮やかで現実と見まごうような夢を、この時期見るという。孤独を感じる。
S(27日(火))気がついたら、嘗めたい衝動が終わっていた。
T(29日(木))妊婦のホームページを見つける。感激してメールを送る。
U(30日(金))インターネットの妊婦から返事が来る。(きのうちつやこ)「私の赤ちゃんにはお父さんがいない」という。

  Ⅳ 8月
A(2日(月))昼過ぎに母が来る。母と夫が、子どもの名前で盛り上がっている。
B(3日(火))スカートがきつくなった。伊豆の海に、夫と二人で行く計画を立てる。
C(7日(土))海に行くが、私は水着が着られない。昔の恋人のしげピーと、この海に来たことを思い出す。「子どもをあちこちに、連れて行きたい」と私と夫が話する。
D(10日(火))冷やし中華ばかり食べたい。
E(18日(水))夫は、単純、かんたん、シンプル。
F(22日(日))「昔好きだった人のことを、思い出したりすることがある?」と、メールを、つやこさんに送る。「会える人は、会った方がいいよ」と、つやこさんから返事。
G(同上)しげピーには、ほかに好きな女ができ、私たちは別れた。その後、腑抜けになった私に、夫が「結婚しよう」と言った。「試してみる」つもりで、私は結婚した。

  Ⅴ 9月
H(4日(土))超音波が、小さな画面に赤ん坊を映し出す。妊婦服を買う決心がつく。クラシックのCDを、夫が情操教育のため夫が買う。冷やし中華中毒はなおる。
I(6日(月))出血があり病院に行く。「今さらいなくなるなんて、ないよね」と赤ん坊に私が言う。「大丈夫です!」と白髪のリンドウ先生が言う。
J(7日(火))妊婦ガードルをはく。夫、妊娠本を読んで「エッチなことをしたいんだけど、できるかどうか確かめていたんだ」と言った。「エッチな気分でない」と私。
K(9日(木))夢の中で私、夫、子ども(男の子)3人の雲の上の幸せな“おままごと”の夢を見る。スポーツクラブの水泳クラス・妊婦コースを、見学に行く。
L(同上)子供が産まれたら、習い事などさせるため、私はまた働き口を探さねばならないと思うと、気分が暗くなった。
M(11日(土))母から宅急便が届く。食品、命名辞典など。
N(12日(日))夫と二人で名前を考える。夜、久しぶりに夫と居酒屋に行く。「赤ん坊が動いた」ので私がギャーと叫ぶ。居酒屋の人たちが、拍手してくれた。
O(15日(水))夫が買ってきたおはぎを、二人で食べる。
P(23日(木))夫の両親が来る。赤ん坊のおじいさん、おばあさんになる人と思うと、不思議。姓名判断の本を読む。
Q(26日(月))“体は入れもので、生まれてくるのは光”という夢を見る。

  Ⅵ 10月
A(1日(金))母親学級というものがあると、知る。
B(2日(土))近所の病院の「プレママクラス」(母親学級)に出る。“プレママ”に腹が立つ。妊娠して怒りっぽい。妊婦友だちの佐久間さんに「出産が美化されなくていい!」など、とうとうと私は話した。「いらいらしない方が赤ちゃんのため」と佐久間さんが言う。
C(同上)「うるせえ、うるせえ!」と私。「穏やかで寛容な女なんて無理!」と私は泣いた。
D(14日(土))別の母親学級に行く。「“プレママクラス”はついていけない」とスタイリッシュ妊婦(佐伯紀子)も同感想。「私は落ちこぼれ妊婦!」と佐伯が言う。「避妊しておけばよかったと、いまだに思う」とのこと。
D-2(同上)佐伯さんは35歳。編集プロダクションで働いている。大失恋して、誘われれば誰とでも寝る生活。「今の彼と1回で赤ん坊ができて、そしたら彼が喜んで『結婚しよう』と言ったので、同棲してる。今。」とのこと。
E(同上)「便秘がひどい」と、きのうちつやこさんのメール。
F(20日(水))呑み助でいい加減だった、死んだ父の夢を見る。その「馬鹿父」が「もうすぐ、お前さんとこに行く」と言った。「この子、お父さんの生まれ変わりだ!」と私、ギャーと叫ぶ。「お父さんだった人のことを、悪く言っちゃいけない」と夫。「何もわかってない!」と私は怒り、トイレに立てこもる。夫が会社に行くと、トイレから出て、夫が帰宅すると再びトイレに立てこもる。夜はトイレで寝る。
F-2(21日(木))私は、父が嫌いだった。父が亡くなっても、嫌いなままだった。
G(同上)しげピーに会いたい。友人のマッカイに、しげピーの電話番号を尋ねる。

  Ⅶ 11月
H(1日(月))「私のトイレ生活も10日をとうに過ぎた。」私の頑固さにあきれる。私自身。
I(同上)昔の恋人しげピーに、会いに行く。妊娠30週目。「おれ、もう三十代になったな」としげピー。あの頃「本当に、好きだった!」と私が思う。
I-2(同上)私がはっと気づく。「私がダメ妊婦でも・・・・おなかの中の子どもには、ぜんぜん何の関係もない!」と思う。
I-3(同上)しげピーと私の間に、もう共有するものがない。「好きだ」という気持ちもない。二人、帰る。
J(同上)「立てこもり終了祝い!」と私は料理をつくり、夫と食べる。
K(同上)子どもは前世のすべてを手放して「さらっぴんで生まれてくるから、大丈夫!」と夫が言う。
L(8日(月))この1週間、ぽかんとしていた。籠城の後遺症か?
M(13日(土))夕食後、突然、私と夫、名前会議。「シンプルな漢字は、シンプルな人生になるかも・・・・」
N(21日(日))母親学級に夫と参加する。赤ん坊人形を入浴させる。
O(24日(水))友人K(子どものいる主婦)、来訪。子ども3歳(=ゆうた)。「妊婦がなつかしい」とK。「過ぎたものは過ぎたもので、もう2度と帰ってこない」と、「子どもができると実感できる」という。
O-2(同上)子どもを産むと、「時間が目に見えるようになる」。
P(29日(月))私の母、義父母が突然、訪ねてくる。「まあ気楽にやんなさいよ」と義父。
Q(同上)「これから子どもを、産みにいきます」と、きのうちつやこさんからメール。「みんな、あなたを応援している」と私。
Q-2(30日(火))きのうちつやこさんから「女の子が産まれた!」とメール。「おめでとう」と私、メールする。

  Ⅷ 12月
A(3日(金))夫はカタログを見て、ベビーグッズに夢中。ベビーベッドなど。
B(4日(土))ベビー用品専門店へ行く。
B-2(同上)バスの中で夫の手のひらを見ていたら突然、「しあわせ」という気分になった。B-3(同上)赤ん坊をこれから生むことが、ちっとも怖くなかった!初めて!
B-4(同上)ベビー用品専門店「ベビーパラダイス」で夫はハイテンション。
C(5日(日))家での赤ん坊の場所を、決める。
D(同上)「二人で食べる最後のラーメン!」と夫。
E(10日(金))「私はひとりである」ということを、完璧に忘れていた。おなかに子どもがいるようになった時から。いつもおなかに誰か(=子ども)がいる安心感。「ひとりではない感!」かくて「ずっと妊婦でいたい!」と私。
F(12日(日))部屋全体が、赤ん坊仕様に変わった。
G(同上)最後の母親学級。スタイリッシュ妊婦の佐伯さんが、夫と来る。彼女が、なぜか、以前よりずっと自信に満ちていた。
G-2(同上)「最初、本気で子どもを堕ろそうと思った」と佐伯さん。「おなかにいる子が『何をしてもいいよ。許すよ。』と言った。そして堕ろすのをやめた。」
H(18日(土))リンドウ先生が「いつ生まれてもいいざんす」と言った。
H-2(22日(水))ボストンバッグに、出産用品を入れて準備。
H-3(23日(木))「試そう」と思ってした結婚だが、子どもが産まれ、成長し、老いても、ずっと「お試し期間」かもしれない。「それも、いいかもしれない!」と私。
H-4(同上)夫は「いい人!」
H-5(同上)この一週間、「異様な至福感」。「不思議なことに、なんだか全部うれしい。」
I(25日(土))健診。「子宮口、まだ固い」と言われる。
J(同上)キオスクのおばさんが「男の子だね」と言い、老婆が「女の子だね」と断言する。
K(同上)「祈りみたいな気分」でできている、お腹のなかの生きもの。
L(28日(火))「出産後、セックスしたい」と夫。
M(31日(金))大掃除をし、餃子を作る。「二人きりの最後の大晦日!」と夫。

  Ⅸ 1月
A(1日(土))「最後」のあとには「初めて」の何かがやってくる。
A-2(同上)「初めての二人のお正月です」と、きのうちつやこさんから年賀メール。
B(同上)夫と私、近所の神社に初詣。「無事に産まれてきてくれますように!」とお願いする。赤ん坊が、ボコボコとお腹をける。
C(9日(日))今日が予定日。1日、何も手につかない。「くるか、くるか」と待っている。
D(10日(月))生まれないまま、予定日が過ぎてしまった。
E(11日(火))よりによって大嫌いな父の生まれた日!
E-2(同上)タクシーで「あいたたたたた。急いでください。生まれちゃう!」と私。

 《評者の注》
7 幸福な妊婦の理念型が提示される。そして子ども好きで楽天的、善意な理想的夫。
8 妊婦の胎教に、プラスの小説だと思う。母親学級的カウンセリング小説とも言える。







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