Ⅰ
「ボク」はホームレスになってしまった。
小学生、金井美希子がボクを餌付けしてイジメの代行をさせる。車に傷をつける。自転車をパンクさせる。郵便受けにアイスモナカを投げ込む等々。
最後に小学生が睡眠薬をボクに飲ませ灯油をかけ空き家で焼き殺そうとする。
「ボク」は大人である。力が強い。
この小学生を殺し、建物もろとも燃やす。
Ⅱ
実はこの「ボク」は女だった。女は36歳の女、柿原知実。彼女は双子を生むが男の子は死産した。名前が達弥。女の子は麻衣で2歳のとき病死。
女は自分が死んだ達弥だと思っている。
Ⅱ-2
私は老人病院の調理師をしている。私は離婚した。離婚した理由は柿原知美に一人息子、裕貴を殺されたから。
昔、私は知実と隣同士でよく話をし、理解しあっていた。
Ⅱ-3
ある日、柿原知美が、預かった甥を連れて歩いていたときダンプが突っ込み、甥が死んだ。
知実は、義妹に責められ、夫も義妹に味方した。
知実は狂い、義妹に謝るため裕貴を殺し、甥の「嘉之ちゃんをお返しします」と義妹の玄関先に置いた。
Ⅱ-4
私は、そんな女と仲良く付き合っていたから息子、裕貴を殺されたのだと舅・姑さらに夫からも責められ離婚した。
柿原知美は私の子、裕貴を殺した後、出奔した。そして今、ホームレスとなり、小学生の女の子、金井美希子を殺し、ここにいる。
それなのに私は彼女を匿っている。
Ⅱ-5
私が勤める老人病院の新しい入院者が私を「裕貴ちゃんのお母さん」と呼ぶ。テレビで私の顔を見て、何と覚えていた。
私は格好の噂の種となり、結果として病院をやめざるを得なくなるかもしれない。
この老人を殺す毒薬を知実がくれた。
知実はもともと化学者で、かつて会社から持ってきた毒薬を家においていた。
家にあったこの毒薬を知実の夫が娘、麻衣に誤飲させて死なせた。夫はその事情を知らない。知実の精神が壊れ始める。
Ⅱ-6
私は老人を殺そうとして怖くなり警察にすべてを話そうとする。
知実はあらかじめそれを予測して、帰宅した私を包丁で襲う。
警察がそれを阻止する。
Ⅲ
私=飯田律子。私は、病弱で夜泣きする裕貴にイライラしていた。
裕貴を虐待するようになる。ついにある日、泣く裕貴にイライラし布団をかけ、私が寝てしまったところ、裕貴が窒息死した。
Ⅲ-2
私は半狂乱となり、隣家の知実を訪ねる。
すると知実は、私が裕貴ちゃんを気が狂って殺したことにしてあげると言う。
知実は死んだ裕貴を、甥の「嘉之ちゃんをお返しします」と義妹の玄関先に置いた。
そして出奔した。
Ⅲ-3
私が、小学生の女の子、金井美希子を殺した知実を、今回、匿ったのはこの事情による。
Ⅲ-4
しかしこれらすべては、実は知実が、義妹と夫に復讐するため仕掛けた陰謀だった。
知実は、私=飯田律子を利用した。私が裕貴に手を焼いているのを知り、裕貴を虐待するよう誘導した。
ついに、私=飯田律子は裕貴に布団をかけ殺した。
知実は死んだ裕貴を、甥の「嘉之ちゃんをお返しします」と義妹の玄関先に置いた。
義妹は、兄嫁を狂わせ、裕貴ちゃんを殺す凶行に至らせた張本人として嘲笑・悪意に満ちた噂の快楽のターゲットとなる。
夫もその義妹の共犯者であり、嘲笑と噂の対象となる。
知実の復讐が成就する。
《読後の感想》
A 主人公は誰か?
ある日、柿原知美が預かった甥を連れて歩いていたときダンプが突っ込み、甥が死んだ。
知実は、義妹に責められ、夫も義妹に味方した。
ダンプの運転手は死に、その妻は行くえをくらます。
攻撃先がなく行き場のなくなった噂好きの者たちも、攻撃の矛先を知実に向けた。一切の責任は知実の不注意のせいにされた。
小説の主人公は柿原知美。
B 悪・責任・正当性の問題
甥が事故で亡くなった時点では、知実は何も悪くない。知実も大怪我をしたので被害者である。(①)
義妹は間違っている。責任はダンプにある。(②)
夫も間違っている。責任はダンプにある。(③)
ダンプの運転手は死亡しているとはいえ、責任を問われるべきである。(④)
運転手の妻は法的に責任があるなら責任を問われるべき。(⑤)
知実が義妹と夫への復讐のため、飯田律子に、その子裕貴への虐待、殺害を誘導したのは赦されない。悪そのもの。(⑥)
知実の復讐の感情は、それ自身は正当である。(⑦)
知実を攻撃し、また復讐を受けた義妹を攻撃する嘲笑・悪意に満ちた噂の快楽は人の心にすむ最大の悪。(⑧)
C 悪意・不運・退廃・苛立ち・生活不安・社会不安・不信・虐めのオンパレード
1. ホームレス狩り。
2. 小学生のイジメ。
3. ホームレスを焼き殺す小学生、金井美希子の快楽殺人指向。
4. やせたい小学生が母親が作った大盛りの弁当をトイレに流す退廃。
5. 老人病院の人手不足、低賃金、それらに由来する老人に対しての介護士・看護士の敵意。
6. 老人たちの自己主張に対応できず、我儘として攻撃するしかない福祉の貧困。
7. 職場での人間関係・権力関係がもたらすイジメ・悪意ある噂・パワハラ。
8. 非正規労働者の失業の可能性への不安と苛立ち。
9. 低賃金による生活の不安定。
10. 嫁と舅・姑の昔からの対立。
11. 夫が妻の子育ての悩みを聞かない。
12. 復讐の暗い情念。
13. 幼児への虐待。
14. 毒薬の誤飲など悲劇的出来事の不可避性。
15. 嘲笑・悪意に満ちた噂がもたらす快楽。イジメの快楽。
D まとめ
救いのない小説。生きることは無駄で無意味と宣言する。楽しいことは存在しないか一瞬で失われる気休めに過ぎない。人と人の共感は成立しない。信頼は虚構。不信・裏切り・悪意・嘲笑・虐め・権力関係のみが人間関係を支配する。
「ボク」はホームレスになってしまった。
小学生、金井美希子がボクを餌付けしてイジメの代行をさせる。車に傷をつける。自転車をパンクさせる。郵便受けにアイスモナカを投げ込む等々。
最後に小学生が睡眠薬をボクに飲ませ灯油をかけ空き家で焼き殺そうとする。
「ボク」は大人である。力が強い。
この小学生を殺し、建物もろとも燃やす。
Ⅱ
実はこの「ボク」は女だった。女は36歳の女、柿原知実。彼女は双子を生むが男の子は死産した。名前が達弥。女の子は麻衣で2歳のとき病死。
女は自分が死んだ達弥だと思っている。
Ⅱ-2
私は老人病院の調理師をしている。私は離婚した。離婚した理由は柿原知美に一人息子、裕貴を殺されたから。
昔、私は知実と隣同士でよく話をし、理解しあっていた。
Ⅱ-3
ある日、柿原知美が、預かった甥を連れて歩いていたときダンプが突っ込み、甥が死んだ。
知実は、義妹に責められ、夫も義妹に味方した。
知実は狂い、義妹に謝るため裕貴を殺し、甥の「嘉之ちゃんをお返しします」と義妹の玄関先に置いた。
Ⅱ-4
私は、そんな女と仲良く付き合っていたから息子、裕貴を殺されたのだと舅・姑さらに夫からも責められ離婚した。
柿原知美は私の子、裕貴を殺した後、出奔した。そして今、ホームレスとなり、小学生の女の子、金井美希子を殺し、ここにいる。
それなのに私は彼女を匿っている。
Ⅱ-5
私が勤める老人病院の新しい入院者が私を「裕貴ちゃんのお母さん」と呼ぶ。テレビで私の顔を見て、何と覚えていた。
私は格好の噂の種となり、結果として病院をやめざるを得なくなるかもしれない。
この老人を殺す毒薬を知実がくれた。
知実はもともと化学者で、かつて会社から持ってきた毒薬を家においていた。
家にあったこの毒薬を知実の夫が娘、麻衣に誤飲させて死なせた。夫はその事情を知らない。知実の精神が壊れ始める。
Ⅱ-6
私は老人を殺そうとして怖くなり警察にすべてを話そうとする。
知実はあらかじめそれを予測して、帰宅した私を包丁で襲う。
警察がそれを阻止する。
Ⅲ
私=飯田律子。私は、病弱で夜泣きする裕貴にイライラしていた。
裕貴を虐待するようになる。ついにある日、泣く裕貴にイライラし布団をかけ、私が寝てしまったところ、裕貴が窒息死した。
Ⅲ-2
私は半狂乱となり、隣家の知実を訪ねる。
すると知実は、私が裕貴ちゃんを気が狂って殺したことにしてあげると言う。
知実は死んだ裕貴を、甥の「嘉之ちゃんをお返しします」と義妹の玄関先に置いた。
そして出奔した。
Ⅲ-3
私が、小学生の女の子、金井美希子を殺した知実を、今回、匿ったのはこの事情による。
Ⅲ-4
しかしこれらすべては、実は知実が、義妹と夫に復讐するため仕掛けた陰謀だった。
知実は、私=飯田律子を利用した。私が裕貴に手を焼いているのを知り、裕貴を虐待するよう誘導した。
ついに、私=飯田律子は裕貴に布団をかけ殺した。
知実は死んだ裕貴を、甥の「嘉之ちゃんをお返しします」と義妹の玄関先に置いた。
義妹は、兄嫁を狂わせ、裕貴ちゃんを殺す凶行に至らせた張本人として嘲笑・悪意に満ちた噂の快楽のターゲットとなる。
夫もその義妹の共犯者であり、嘲笑と噂の対象となる。
知実の復讐が成就する。
《読後の感想》
A 主人公は誰か?
ある日、柿原知美が預かった甥を連れて歩いていたときダンプが突っ込み、甥が死んだ。
知実は、義妹に責められ、夫も義妹に味方した。
ダンプの運転手は死に、その妻は行くえをくらます。
攻撃先がなく行き場のなくなった噂好きの者たちも、攻撃の矛先を知実に向けた。一切の責任は知実の不注意のせいにされた。
小説の主人公は柿原知美。
B 悪・責任・正当性の問題
甥が事故で亡くなった時点では、知実は何も悪くない。知実も大怪我をしたので被害者である。(①)
義妹は間違っている。責任はダンプにある。(②)
夫も間違っている。責任はダンプにある。(③)
ダンプの運転手は死亡しているとはいえ、責任を問われるべきである。(④)
運転手の妻は法的に責任があるなら責任を問われるべき。(⑤)
知実が義妹と夫への復讐のため、飯田律子に、その子裕貴への虐待、殺害を誘導したのは赦されない。悪そのもの。(⑥)
知実の復讐の感情は、それ自身は正当である。(⑦)
知実を攻撃し、また復讐を受けた義妹を攻撃する嘲笑・悪意に満ちた噂の快楽は人の心にすむ最大の悪。(⑧)
C 悪意・不運・退廃・苛立ち・生活不安・社会不安・不信・虐めのオンパレード
1. ホームレス狩り。
2. 小学生のイジメ。
3. ホームレスを焼き殺す小学生、金井美希子の快楽殺人指向。
4. やせたい小学生が母親が作った大盛りの弁当をトイレに流す退廃。
5. 老人病院の人手不足、低賃金、それらに由来する老人に対しての介護士・看護士の敵意。
6. 老人たちの自己主張に対応できず、我儘として攻撃するしかない福祉の貧困。
7. 職場での人間関係・権力関係がもたらすイジメ・悪意ある噂・パワハラ。
8. 非正規労働者の失業の可能性への不安と苛立ち。
9. 低賃金による生活の不安定。
10. 嫁と舅・姑の昔からの対立。
11. 夫が妻の子育ての悩みを聞かない。
12. 復讐の暗い情念。
13. 幼児への虐待。
14. 毒薬の誤飲など悲劇的出来事の不可避性。
15. 嘲笑・悪意に満ちた噂がもたらす快楽。イジメの快楽。
D まとめ
救いのない小説。生きることは無駄で無意味と宣言する。楽しいことは存在しないか一瞬で失われる気休めに過ぎない。人と人の共感は成立しない。信頼は虚構。不信・裏切り・悪意・嘲笑・虐め・権力関係のみが人間関係を支配する。