「館蔵 近代の日本画展」 五島美術館

五島美術館世田谷区上野毛3-9-25
「館蔵 近代の日本画展」
5/10-6/15



館蔵の近代日本画を展覧するのは、おおよそ二年に一度のことだそうです。用賀で横尾展を見た帰りに少し寄ってみました。五島の日本画展です。



例の手狭な展示室ということで当然ながら量は望めませんが、大観、玉堂、古径、雅邦などと、近代日本画では外せない画家らの作品は揃っています。(全30点。)ところで今回の出品作の特徴を一つ挙げるとしたら、それは間違いなく富士山の描かれたものが多いということでしょう。富士と言えば条件反射的に大観ではありますが、彼のお馴染みの仰々しいそれがいくつも出品されていました。半ば記号化した富士に好みの優劣をつけるのは難しいところですが、お気に入りの一作を見つけるのも面白いかもしれません。上の画像にあげたのは、大観の「霊峰四題 夏」(1954)です。富士の青みが目に染みました。



最近、惹かれている玉堂に佳品が一点出ていました。それが谷間の渓流を表した「春峡」(1956)です。これは東京美術倶楽部の創立50周年を記念して描かれたという作品ですが、丸太舟が軽やかに進む川の流れには清涼感が感じられます。季節は晩春でしょうか。右上より垂れる桜の木が風流です。山の風を肌に、また水の音を耳に感じる一枚でした。

図版がないのが残念ですが、川端龍子の「筧音図」(1956)は一推しの作品です。筧(けん)とは竹を地上に架け渡して水を流す樋のことを指しますが、腹の黄色の筋の鮮やかな小鳥が樋の傍で水を飲む様子が描かれています。それにしても樋や桶を大きく前へ引き出して描いた大胆な構図感と、趣のある薄い緑ともカーキ色とも言える色彩感の組み合わせが絶妙です。濁った水に苔、そして湿り気を帯びた竹の感触が伝わってきました。

日本画に合わせ、硯、絵筆管などの文房具もいくつか紹介されています。その中では龍尾石の硯が圧巻です。石の滑らかな質感はもとより、形をそのままにした遊びの精神に感じ入るものがありました。全くの初見でしたが、硯の世界も非常に奥が深いようです。

明後日、15日まで開催されています。
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「冒険王・横尾忠則」 世田谷美術館

世田谷美術館世田谷区砧公園1-2
「冒険王・横尾忠則」
4/19-6/15



膨大なる横尾忠則の画業を「冒険」に準えて概観します。世田谷美術館での「冒険王・横尾忠則」を見てきました。



全館規模の横尾の回顧展ということで覚悟はしていましたが、その一点一点を最後までじっくり見るだけの集中力はさすがに保ちません。60年代の雑誌やポスター原画から近作のY字路や温泉シリーズまで、全700点にも及ぶ作品が、美術館をさながら横尾の『冒険の館』へと仕立て上げています。横尾の「旅や人生は冒険の隠喩」(キャプションより。)と捉えるコンセプトは極めて明快です。終始、氏のパワフルな世界に圧倒されっ放しでした。

ルソーにモチーフを借りた冒頭の連作からして見応えがあります。ルソーの有名な自画像を正しい寸法で表した、その名も「正確な寸法で描かれたルソー像」(2008)は、横尾らしい換骨奪胎の技の冴える作品です。パレットと絵筆の浮くシュールな空間の下に、小さなルソーがこれまたパレットを握りしめて立っています。またルソーの有名な二枚の絵(牧場と椅子製造工場)を一つに合わせた「ルソーのY字路」(2007)でも、多様なイメージを難無く一つの空間へはめ込めていました。無限に沸き出す横尾の想像力に名画の力が加わり、また一歩突き抜けた絵が完成しています。



上でも触れたY字路と温泉シリーズも数多く出品されていました。まず前者では「宮崎の夜 - 台風前夜」(2004)が印象的です。闇に包まれた例の街角のY字路を、赤々としたケバケバしい、どこか不安感を煽り立てる色彩にて表しています。また温泉では「金の湯」(2005)がマイベストです。金色の星屑の舞う夜の下で、湯につかる人々がシルエット状に描かれています。またここでも目に飛び込んで切るのは鮮烈な赤色です。横尾最大の決め台詞ならぬ決め色は、この『赤』にあるのかもしれません。有無を言わさない赤に飲み込まれます。

あっけらかんとした性への表現にも臆するないのが横尾流です。中でも感心したのは、神秘的な宇宙を思わせる広大な空間を母体に見立て、その下に示された陰部より赤ん坊がまさに扉を開いて出てくる「星の子」(1996)でした。そしてここでも空間には赤が用いられていますが、この赤ん坊はこれから人生の冒険を歩もうとする横尾の自画像なのかもしれません。生命の源でもある炎に祝福され、逞しく足を踏み出しています。



丁寧に紹介された初期作のイラストなどの展示も充実していました。率直なところ、横尾は私の好みの範囲外にありますが、この濃厚な世界を前にすると自分の嗜好の方向すらどうでもよくなってしまいます。

「芸術新潮 2008年6月号/ 新潮社」

次の日曜、15日までの開催です。
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Casa BRUTUS 「日本の美術館・世界の美術館 ベスト100」+α

こちらでも絶賛中のカーサブルータス最新号を買ってきました。金色の帯が何ともゴージャスな趣を醸し出す「100号記念×特別保存版 日本の美術館・世界の美術館」です。

「Casa BRUTUS/2008年7月号/マガジンハウス」

実際のところ、全100点のピックアップには相当の無理矢理感がありますが、何ら躊躇うことなく「これが世界のBESTミュージアム100です。」などと言われてしまうと、これもアリであると納得してしまうのがまたカーサの持つ妙な神通力なのかもしれません。冒頭の掴みは今、超話題のモバイルアートです。(拙ブログでもモバイル関連の検索で来られる方が多くて驚かされます。)掲載された建築中の写真が、私が敷地外より殆ど隠し撮りしたものと比べるまでもなく美しくて感心しましたが、以下、瀬戸内海の犬島に建設中の要塞のような「製錬所」(犬島アートプロジェクト)、もしくは桜並木とのホワイトキューブの対比の鮮やかな「十和田市現代美術館」と、見て読んで楽しめる記事が続いていました。またアメリカやスペインなどの欧米の美術館の並ぶ中、非常に身近な東京の画廊にも触れてあるのが嬉しいところです。レントゲンの移転リニューアルに続き、ギャラリー「CASHI」のオープンと活況の続く東神田に、今度新たにオープンするタロウナスギャラリーの情報も僅かながら掲載されていました。もちろん、テートモダンもMoMAも良いのですが、出来ればいつかカーサブルータスで東京以外(関西、名古屋など。一般的にあまりにも情報が少な過ぎます。)にも目を向けた日本全体のギャラリーシーンを特集していただければとも思います。

海外はもとより、国内の「死ぬまでに行きたい定番美術館」と「知られざる日本の名作美術館」が意外と廻りきれていなくて愕然とさせられました。建築のアプローチより美術館を捉えるカーサならではのラインナップです。世田谷の村井正誠記念美術館や観音崎の横須賀美術館などは身近だけに、早めに『制覇』出来ればと思いました。(以下、掲載美術館。)

神奈川県立近代美術館鎌倉・東京国立近代美術館・水戸芸術館・国立西洋美術館・MIHO MUSEUM・九州国立博物館・大和文華館・谷村美術館・富弘美術館・岡本太郎美術館・アートプラザ(大分)・浜松市秋野不矩美術館・イサムノグチ庭園美術館・越後妻有エリア・特種製紙Pam・村井正誠記念美術館・横須賀美術館



さて今日の記事はごった煮です。まず「+α」の一つ目ですが、現在、上野の藝大美術館で開催中のバウハウス展にて「ブロガー特別鑑賞会」なるイベントが企画されています。日時は今月25日(水曜)の夕方17時から19時までと、曜日、時間的にもやや厳しいところではありますが、関心のある方は申し込んでみては如何でしょうか。申し込み期限は17日火曜まで、人数は20名程度だそうです。詳細は上記リンク先、展覧会公式HPをご覧下さい。

「男の隠れ家2008年7月号/あいであ・らいふ」

はじめのカーサとも重なりますが、最近アートだけでなく、クラシック音楽を特集にした雑誌も増えているような気がします。その中で良く出来ていると感心したのは、雑誌「男の隠れ家」の7月号、「大人のクラシック」です。一段落したのだめブームからも離れて、じっくりと音楽に向き合いたくなるような記事がいくつも掲載されていました。以下に目次を転載しておきます。

・巻頭ドキュメント 小澤征爾 音楽を創る舞台裏(東京のオペラの森・チャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」が出来るまで)
・第1部 オペラ ~音楽・言葉・舞台が総合された西洋文明の精華
・第2部 交響曲 ~オーケストラの壮麗な音の建築
・第3部 室内楽と独奏曲 ~少人数の合奏による内なる対話と、名人芸
・第4部 クロスオーバー ~時代と異文化が交錯して生まれた、新たな潮流
・クラシックコラム
 宇野功芳流 クラシックの愉しみ方のツボ/指揮者・広上淳一に聞く指揮者の仕事/世界の名ホールとそこで繰り広げられた物語/今あらためて脚光を浴びる、戦前日本のクラシック作曲家たち/クラシックレコードは文化遺産であり継承すべき財産である

ちなみに今回初めて知りましたが、この特集はPart2なのだそうです。よりパワーアップしたPart3も期待出来るかもしれません。
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「project N 33 長井朋子」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー(新宿区西新宿3-20-2
「project N 33 長井朋子」
4/12-6/29



収蔵品展に続く「project N」の展示です。長井朋子の個展を見てきました。

率直なところ、メルヘンを思わせる作風は私の好みから離れていますが、頻出するクマのマスコットをはじめとした、明朗でかつファンタスティックの世界観は目を見張るものがあります。展示の前半は、色彩感も鮮やかな油彩やアクリルの大作絵画群です。「緑まう林のなかで」(2007)は、小さなクマの一家が、きのこのニョキニョキ生える林の下で佇む光景の描かれた可愛らしい作品です。展示冊子によればこのクマは、シルバニアファミリーの人形を借りたものだそうですが、おそらくはそのような子ども心を思わせる、懐かしくて甘酸っぱい世界のイメージが、そのまま絵画表現をとって再生されているとも言えるのではないでしょうか。散らばるような華やかな色彩の渦が、昔、夢見た記憶の残像のようでもありました。

コラージュの散りばめられた後半部の展示は、まさに長井の理想とする子供部屋の再現なのかもしれません。最後に登場するクマの泣いたドローイングが印象的でした。まるで現実に戻りたくないとだだをこねている子どものようです。

6月29日までの開催です。
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「収蔵品展026 わが山河/(F1 疾走するデザイン)」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー新宿区西新宿3-20-2
「収蔵品展026 わが山河/(F1 疾走するデザイン)」
4/12-6/29



しばらく前のことになりますが、コンポージアムの際に少し立ち寄りました。アートギャラリーで開催中の表題の二つの展覧会です。

メインはもちろんF1展ですが、車に疎い私の関心はどうしても所蔵絵画展に向いてしまいます。今回の収蔵品展は大作も目立つ、いわゆる純然たる日本画の展覧会です。冒頭に登場する稗田一穂の「春満つ谿」は、縦170センチ、横360センチの大画面に、山深き里の桜が描かれた美しい日本画でした。またタイトルの『山河』に因み、文字通り山や河の光景を描いたものも多く出品しています。一例は中路融人の「伊吹山」でしょう。ちょうど東京から新幹線に乗ってこの山を右手に見ると関西に来たという気がするシンボリックな場所(霊峰としても名高い山です。)ですが、あの特徴的なお椀型をした伊吹山の景色が荒涼たる雪化粧をまとって雄大に表されています。前景の杉林と広がる田畑、そして後景の山との対比も見事でした。



巴水が4点出ていたのも思わぬ収穫です。田子の橋上からぽっと空に突き出した富士を見る「田子之浦橋」、雪に覆われた山深き吉田の富士を描く「吉田乃雪晴」、または山中湖畔より寂し気な富士を眺めた「山中湖」、さらにはこれまた新幹線の車窓でもお馴染みの富士川越しの富士全景の示された「富士川」など、どれもが富士をモチーフにした詩心豊かな作品でした。ちなみにそのいずれもが渡辺版です。特に「富士川」での巴水ブルーは目に染み入ります。

最後に待ち構えていたのは、廃墟画でお馴染みの元田久治でした。銀座、雷門、新宿・歌舞伎町の光景がいつものように廃墟化して描かれていますが、とりわけ無惨にもビルの崩れた歌舞伎町の景色が今の状況あまり変わらないように見えるのが不思議でなりません。猥雑な都会の風景は、廃墟のような負のイメージとも常に重なり合っているのでしょうか。



一応、メインにも触れておこうと思います。F1展は私のような初心者にも開かれた親しみの易い展示です。(ただしその分、詳しい方にとっては物足りない部分が多いと思われます。)歴代の名車の並ぶ中で私が一番の惹かれたのは、銀色に光るエンジンの排気口が剥き出しになった、1966年の「Brabham BT20」(イギリス)でした。カラーリングの深い緑がとても艶やかです。また最後の映像コーナーでの「F1の50年」も理解を助けてくれました。

JDN /JDNリポート /F1 疾走するデザイン(「Brabham BT20」の他、展示の様子が写真で掲載されています。)

収蔵品展、F1展とも6月29日までの開催です。
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「フェデリコ・エレーロ - Colorigami - 」 ギャラリー小柳

ギャラリー小柳中央区銀座1-7-5 小柳ビル8階)
「フェデリコ・エレーロ - Colorigami - 」 
5/8-6/21



DM画像と実物とが良い意味で全然異なっています。コスタリカ生まれのアーティスト、フェデリコ・エレーロ(1978-)の個展へ行ってきました。

各国ビエンナーレの他、愛知万博の招聘歴も持つというエレーロですが、その作品に接したのは今回が初めてです。前もって図像のみを見た時には、カラフルな色のせめぎあう抽象作品のようなイメージを持ちましたが、実際にはパッチワークや塗り絵をイメージさせるような可愛らしい色の物語でした。鮮やかな色が水面の波打つ紋のように広がり、互いに穏やかに接しながら、森や街のような広がりある光景を生み出しています。そしてそこに登場するのが、色の隙間に隠れた奇妙な生き物です。無数の目がこちらをひっそりと覗き見ながら笑っています。またパレットにそのままひねり出して置いたような絵具の質感や、塗り残しを無造作に利用したタッチなど、多種多様な色と形の動きや変化にも興味深いものがありました。色の一つ一つがまさに生き物としての意思を持ち、自由に遊び動いているようにも見えます。

タイトルの「Colorigami」とはcolorとorigamiを合わせた作家の造語です。また以前、ワタリウムでも個展を開催していたとありました。一度、またまとめて拝見出来ればと思います。

6月21日までの開催です。
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「シャネル モバイルアート」 国立代々木競技場オリンピックプラザ

国立代々木競技場 オリンピックプラザ 特設パビリオン(渋谷区神南2-1-1
「シャネル モバイルアート」
5/31-7/4



「不時着したUFO」(エキサイト公式HPより。)というよりも現代アートや人を飲み込む、艶かしい巨大巻貝のようです。世界6ヶ国巡回中の展覧会、「シャネル モバイルアート」へ行ってきました。



このプロジェクトで見るべきは、ともかく一にも二にもザハ・ハディドによる世界を移動するパビリオンそのものと、シャネルの象徴であるキルティングバックをテーマとした展示全体の統一感です。MP3プレイヤーを装着し、魔女を連想させるような独特の口調のアナウンスを聞きながら、バックとそれに付随するイメージを膨らませて会場内を渡り歩くこと自体が、他の展覧会では見かけない仕掛けで新鮮に感じられます。おおよそ芸術観賞という観点から遠く離れた所にある今回の展示は、例えばどこぞのテーマパークのアトラクションにアートの要素を織り交ぜたような、間口の広い、クロスオーバー的な面白さが前に押し出された企画と言えるかもしれません。ここで、お目当てのアーティストの作品をじっくり見るという楽しみ方はあまり意味を為さないのではないでしょうか。次元の転換したような、曲線のみの妙に居心地の良い「胎内」空間と、見る者の行動を全人格的に制御する「サウンドウォーク」、そしてそこで展開されるメディアを多用した視覚刺激の強い作品群の絶妙なる組み合わせが、この展示を唯一無比のものとして価値付けています。全行程40分という時間があっという間なのは確実です。

 

ただ個々の作品を全体のテーマから切り離した時、それがどれほど説得力を持ち得るかという点に関しては、率直に申し上げるとやや疑念を挟む部分があるように思えます。束芋のインスタレーションは私には物足りなく、またエロス全開のアラーキーの作品も現在、タカ・イシイで開催中の個展(花呪縛)に比べればスタイリッシュではあるものの、少々大人し過ぎる気がしてなりませんでした。(また、元々苦手だったせいかもありますが、最後のオノ・ヨーコは興ざめです。)とは言え、暗がりの水たまり越しに見るレアンドロ・エルリッヒの映像作品や、このパビリオンの主の頭の中であるという、妙に生々しいオブジェの噴出したイ・ブルのガラスの館などは、空間の力も借りて見事な展示になっていたと思います。とりわけエルリッヒによるアパート群の眺めは幻想的です。溝の暗がりにたまる水を連想させる場の向こうに開けた思わぬ空間が、普段見えないながらもどこかあるはずの「もう一つの世界」の入口をイメージさせてくれます。さわひらきのテイストに少し似ているかもしれません。詩心をくすぐります。



会場出口では豪華展示図録冊子が一人一部ずつ配布されていました。また「サウンドウォーク」による誘導は、見る側をあくまでも「館の主」との一対一の関係に仕立て上げます。近くに廻っているはずの他の入場者の気配が消え、作品と声の主、そして私の三者の関係だけになった時、このモバイルアートに身も心の全てを委ねた自分に気が付きました。その点では、「サウンドウォーク」を手がけたクラスニャンスキの存在が相当に重要です。ハディドとの両輪を支えるのはまさしく彼でしょう。



ところで既に予約受付が終了(完売)したチケットの件ですが、キャンセル待ちでの入場という選択肢もあるそうです。実際、私が出向いた日も行列が連なっていました。そのうちの何名が入場出来るのかは不明ですが、当日、運良ければ、現地への飛び込みで見ることが出来るかもしれません。

7月4日までの開催です。

*関連エントリ
モバイルアート・パビリオン(建設中) in 代々木競技場
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「青木良太 展」 TKG Editions

TKG Editions中央区銀座1-22-13 銀座カーサ1階)
「青木良太 展」
5/24-6/7



1978年生まれの陶芸作家、青木良太の新作個展です。薄手の白磁の茶碗が、思いもよらないような多様な表情を見せています。

その端正なフォルムは、ちょうどルーシー・リーの器を連想させるものがありますが、釉薬を巧みに利用して生じた様々な色や紋様は、たとえて言えば色とりどりの衣装を纏った着せ替えの人形を並べて見ているような味わいが感じられました。真っ白な輝きを放つ白磁の美しさはもちろん、プラチナやシルバーなどをかけた器の軽妙な美感はどことなく洒落ています。また同じシルバーを用いた作品でも、全く趣きの異なった様に仕上がっているのが面白いところです。酸化して黒ずんだ膜が気泡状に覆うものや、あえて磨かずにゴツゴツした質感の状態をそのままにした作品(まるで太古の土器のような味わいがあります。)などはその一例と言えるでしょう。それにプラチナが、あたかもブリキのような渋い輝きを放っているのも驚かされます。一見しただけでは素材が分かりません。

TKG Editionsは、清澄の小山登美夫ギャラリーのアンテナショップです。近くのアラタニウラノでDMを戴いて初めて行きましたが、通常は取り扱い作家の比較的買いやすい作品などを販売していると聞きました。(白磁の上に視線を向けると、村上のスーパーフラットが目に飛び込んできます。同画廊ならではの演出です。)なお住居表記は銀座一丁目ですが、昭和通りよりも東側にあるので、どちらかと言えば新富町駅の方が便利です。

明日、土曜日、7日まで開催されています。
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「川島秀明 - wavering - 」 小山登美夫ギャラリー

小山登美夫ギャラリー江東区清澄1-3-2 6階)
「川島秀明 - wavering - 」
5/17-6/7



一見、アニメーション的なモチーフなのかと思いきや、実際にはただならぬ気配を漂わせる妖精のような少女でした。小山登美夫ギャラリーで開催中の川島秀明の個展です。

うっすらと紫やピンク色を帯びた半透明の色彩に包まれているのは、異様なまでに大きな眼を開いた、実体感の希薄な一人のインターセクシュアルな女性です。水にそよぐかのような髪の毛を靡かせ、時に生首のように顔だけを突き出して何やら空間に浮遊しています。一体、何を思っているのでしょうか。

見開かれた眼における瞳孔や睫毛の繊細な描写、もしくはどっしりと重量感のある唇に反して、鼻と眉の存在感は極めて朧げです。その奇妙なアンバランス感がまた彼女の様相を不気味なものへと転化させていました。あたかも何もない空間に、個々の眼や口だけが寄り添って、一つの顔の像だけ描いているようです。肉体の感触はまるでありません。

今週の土曜、7日までの開催です。
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「大正から昭和へ」 山種美術館

山種美術館千代田区三番町2 三番町KSビル1階)
「大正から昭和へ - 佐伯祐三・小出楢重・速水御舟・川端龍子 - 」
4/26-6/8



主に大正から昭和期に描かれた館蔵の近代日本画を概観します。山種美術館での「大正から昭和へ」へ行ってきました。





ここの展示の感想ではいつも御舟の名を挙げてしまいますが、やはり今回の主役も彼であると言わざるを得ません。「昆虫二題 葉陰魔手・粧蛾舞戯」はシュールな構図をとりながら、仏画のような宗教性も見る静謐な作品です。大きな蜘蛛が巣を支配する前者はその漲る命の『出現』を、また蛾が渦巻く光に収斂されてその頂へと向かう後者は、逆に天へと帰りゆく生き物たちのまさしく『昇天』を連想させました。対比的な様相が相互を補完し合う関係になっているのかもしれません。

1930年、例の「ローマ展」の使節として渡欧した御舟が当地で描いた作品も紹介されています。中でも印象深いのは、ギリシアの遺跡の光景を描いた「オデオンの遺址」です。遺跡を象る石の質感を出すことに精を出したのでしょうか。アーチ状の遺跡を描くそのマチエールが、日本画らしからぬ重みをもった画肌で表されていました。技法、表現とも多様な方向へと手を伸ばした、御舟の稀なチャレンジ精神を見る作品とも言えそうです。

もちろん御舟以外にも見応えのある作品は揃っています。琳派の意匠を思わせる川端龍子の大作「鳴門」(ちらしの表紙に掲載された作品です。)をはじめ、竹内栖鳳のお馴染み「班猫」、または清楚な松園の「蛍」なども印象に残りました。また古径が計6点も出ているのもファンにとっては嬉しいところです。中でも確認された彼唯一の油画であるという「静物」は必見の作品です。驚くべき高い写実力を誇っています。

関東大震災後の東京を表した御舟の「灰燼」には言葉を失いました。煙る街に見る、その何とも言えない虚無感が、全てを破壊尽くした震災の恐ろしさをひしひしと伝えています。広がる静寂に『死』を思わせる作品でした。

6月8日までの開催です。
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6月の予定と5月の記録 2008

展示の感想が全然追いついていませんが、恒例の私的スケジュール帳「予定と振り返り」をあげてみました。

6月の予定

展覧会
「冒険王・横尾忠則」 世田谷美術館( - 6/15)
「初期伊万里展 - 素朴と創意の日本磁器」 戸栗美術館( - 6/22)
「蜀山人 大田南畝」 太田記念美術館( - 6/26)
「森山大道展」 東京都写真美術館( - 6/29)
「シャネル モバイルアート」 国立代々木競技場オリンピックプラザ( - 7/4)
「大岩オスカール/屋上庭園」 東京都現代美術館( - 7/6)
「岡鹿之助展」 ブリヂストン美術館( - 7/6)
「KAZARI - 日本美の情熱」 サントリー美術館( - 7/13)
「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」 森美術館( - 7/13)
「竹内栖鳳と京都画壇」 講談社野間記念館( - 7/21)
「国宝 法隆寺金堂展」 奈良国立博物館(6/14 - 7/21)
「コロー 光と追憶の変奏曲」 国立西洋美術館(6/14 - 8/31)


5月の記録

展覧会
「大正から昭和へ」 山種美術館
「芸術都市パリの100年展」 東京都美術館
収蔵品展 わが山河・F1疾走するデザイン/projectN 長井朋子」 東京オペラシティアートギャラリー
「中右コレクション 幕末浮世絵展」 三鷹市美術ギャラリー
「数寄の玉手箱 - 三井家の茶箱と茶籠」 三井記念美術館
「マティスとボナール」 川村記念美術館
「モディリアーニ展」 国立新美術館
「柿右衛門と鍋島」 出光美術館
「今、蘇るローマ開催・日本美術展」 日本橋三越本店ギャラリー
「国宝 薬師寺展」 東京国立博物館

ギャラリー
「フェデリコ・エレーロ - Colorigami - 」 ギャラリー小柳
「押江千衣子展」 西村画廊
「池松江美(a.k.a.辛酸なめ子) - セレブ犯罪トリップ」 無人島プロダクション
「Future Feature vol.4 - 第三者 - 小林香織/平川なつみ」 山本現代
「西山美なコ - いろいき - 」 児玉画廊 東京
「南川史門 - ピンクとブラック、戦争と平和 - 」 MISAKO & ROSEN
「川内倫子 - Semear - 」 FOIL GALLERY
「桑島秀樹 - Vertical/Horizontal - 」 ラディウム
「Oコレクションによる空想美術館 - 第3室『幻想のHOTEL』」 ワンダーサイト本郷
「山下美幸 - ノンシャラン - 」 TSCA Kashiwa

コンサート
「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(熱狂の日音楽祭)2008」
 公演番号:152、163、124、135、443、454、425、535、546
「NHK交響楽団 第1619回定期公演Aプロ」 ルトスワフスキ「オーケストラのための協奏曲」他 尾高忠明
「コンポージアム2008 スティーヴ・ライヒの音楽」 ライヒ「18人の音楽家のための音楽」他 ライヒ/アンサンブルモデルン

先月は、ともかくLFJとコンポージアムのライヒが別格です。特に一度は生で体験したかったライヒは、まさに一期一会のコンサートに特有なライブの熱狂(演奏も聴衆の反応も含め。)がありました。あの感動の経験を忘れることはしばらくなさそうです。

美術関連では、三鷹の浮世絵展とリニューアルした川村のボナールとマティスが白眉でしょうか。また画廊でも、ラディウムの桑島や現代の小林は非常に印象に残る展示となりました。それに柏のTSCAが山下展で再始動したのも嬉しいところです。感想でも触れましたが、今年は展示をあと4回程度開催していくそうなので、見逃すことなく定点観測したいと思います。(現在はコレクション展「ナイト・ウォッチ」を開催中。)

シャネルのモバイルアートがはじまりました。実は私も本当なら1日に見終えていたはずでしたが、ちょっとしたアクシデントにより行くことが出来ませんでした。と言うわけで急遽、明日見てくることにします。またチケットも出足はそれほどでもありませんでしたが、ここに来て一気に完売へと近づいているようです。(既に土日のチケットはありません。)

月末に奈良へ法隆寺展を見に行くつもりです。今のところ特に他の予定を立てていませんが、何か奈良近辺でおすすめの展示があるでしょうか。教えていただけると嬉しいです。情報をお待ちしてます。

ぐるっとパスの期限が切れてしまいました。今月はパスを購入せず、気の向くままに無理なく展示を見ていきたいです。

それでは今月も宜しく御願いします。
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「押江千衣子展」 西村画廊

西村画廊中央区日本橋2-10-8 日本橋日光ビル3階)
「押江千衣子展」
5/13-6/14



アーティクル最新刊の巻頭特集も飾っています。瑞々しい色彩感で草花や森の光景を抽象的に描く、押江千衣子の個展へ行ってきました。

例の回顧展の記憶も鮮やかなこともありますが、かの東山魁夷の風景画を現代アートへ置き換えるとこのような作品になるのかもしれません。靡く雲を従えて、大空に広がる山々を鳥瞰的に捉えた「山のあなた」(2007)は、目に染みいるような緑の美しい静謐な風景画です。それに身近な木々の枝葉や果実を手元に寄せて描いた「みのり」(2007)なども、まさに森の恵みを浴びているかのような、実に穏やかな気持ちにさせられる作品でした。また、油彩よりもパステルの質感が強く、沈み込むような色彩感も優し気にうつります。大らかな絵画です。

若干の既視感を覚える作品も少なくありませんが、おそらく押江の最大の魅力は、線と面が図形を描くようにして交互に重なり合う、その抽象的な構図感にあるのではないでしょうか。深い森の姿を眺めた「森のなかで」(2008)では、木々や葉が真っ直ぐに引かれた線や円などの形に還元されています。具象と抽象のぶれが、見る者に様々なイメージを与えていきそうです。

6月14日までの開催です。
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