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「シャネル モバイルアート」 国立代々木競技場オリンピックプラザ

国立代々木競技場 オリンピックプラザ 特設パビリオン(渋谷区神南2-1-1
「シャネル モバイルアート」
5/31-7/4



「不時着したUFO」(エキサイト公式HPより。)というよりも現代アートや人を飲み込む、艶かしい巨大巻貝のようです。世界6ヶ国巡回中の展覧会、「シャネル モバイルアート」へ行ってきました。



このプロジェクトで見るべきは、ともかく一にも二にもザハ・ハディドによる世界を移動するパビリオンそのものと、シャネルの象徴であるキルティングバックをテーマとした展示全体の統一感です。MP3プレイヤーを装着し、魔女を連想させるような独特の口調のアナウンスを聞きながら、バックとそれに付随するイメージを膨らませて会場内を渡り歩くこと自体が、他の展覧会では見かけない仕掛けで新鮮に感じられます。おおよそ芸術観賞という観点から遠く離れた所にある今回の展示は、例えばどこぞのテーマパークのアトラクションにアートの要素を織り交ぜたような、間口の広い、クロスオーバー的な面白さが前に押し出された企画と言えるかもしれません。ここで、お目当てのアーティストの作品をじっくり見るという楽しみ方はあまり意味を為さないのではないでしょうか。次元の転換したような、曲線のみの妙に居心地の良い「胎内」空間と、見る者の行動を全人格的に制御する「サウンドウォーク」、そしてそこで展開されるメディアを多用した視覚刺激の強い作品群の絶妙なる組み合わせが、この展示を唯一無比のものとして価値付けています。全行程40分という時間があっという間なのは確実です。

 

ただ個々の作品を全体のテーマから切り離した時、それがどれほど説得力を持ち得るかという点に関しては、率直に申し上げるとやや疑念を挟む部分があるように思えます。束芋のインスタレーションは私には物足りなく、またエロス全開のアラーキーの作品も現在、タカ・イシイで開催中の個展(花呪縛)に比べればスタイリッシュではあるものの、少々大人し過ぎる気がしてなりませんでした。(また、元々苦手だったせいかもありますが、最後のオノ・ヨーコは興ざめです。)とは言え、暗がりの水たまり越しに見るレアンドロ・エルリッヒの映像作品や、このパビリオンの主の頭の中であるという、妙に生々しいオブジェの噴出したイ・ブルのガラスの館などは、空間の力も借りて見事な展示になっていたと思います。とりわけエルリッヒによるアパート群の眺めは幻想的です。溝の暗がりにたまる水を連想させる場の向こうに開けた思わぬ空間が、普段見えないながらもどこかあるはずの「もう一つの世界」の入口をイメージさせてくれます。さわひらきのテイストに少し似ているかもしれません。詩心をくすぐります。



会場出口では豪華展示図録冊子が一人一部ずつ配布されていました。また「サウンドウォーク」による誘導は、見る側をあくまでも「館の主」との一対一の関係に仕立て上げます。近くに廻っているはずの他の入場者の気配が消え、作品と声の主、そして私の三者の関係だけになった時、このモバイルアートに身も心の全てを委ねた自分に気が付きました。その点では、「サウンドウォーク」を手がけたクラスニャンスキの存在が相当に重要です。ハディドとの両輪を支えるのはまさしく彼でしょう。



ところで既に予約受付が終了(完売)したチケットの件ですが、キャンセル待ちでの入場という選択肢もあるそうです。実際、私が出向いた日も行列が連なっていました。そのうちの何名が入場出来るのかは不明ですが、当日、運良ければ、現地への飛び込みで見ることが出来るかもしれません。

7月4日までの開催です。

*関連エントリ
モバイルアート・パビリオン(建設中) in 代々木競技場
コメント ( 13 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (Tak)
2008-06-07 13:34:41
こんにちは。
チケット完売ですか。。。

シャネルの話題性大変なものありますね。
普段の現代アート展では到底考えられません。
 
 
 
Unknown (あおひー)
2008-06-08 09:23:26
こんにちわ。
個々の作品としてではなく、あの空間の中で見るものとしてですね、確かに。
40分で見て回ってますが、これが倍の80分だったらどうなるんでしょうね。
カウントダウンされる間に見なくては!となる段ボールの中の映像とか、通常は美術館では得られない気持ちの
高揚はあったかなあと思います。
しかも、基本的に皆ひとりでわくわくしてるのが面白いですよね。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-06-08 20:47:37
@Takさん

昨日はどうもありがとうございました。
二次会もなかなか盛り上がりましたね。美味しかった+愉しかったです!

>普段の現代アート展では到底考えられません。

客層が明らかに美術展のとは異なりますよね。
広く、また別のジャンルにアートを仕掛けるその切り口がまたうまいなと思いました。


@あおひーさん

こんばんは。

>あの空間の中で見るものとしてですね、確かに

ハディドとサウンドウォークで完璧ですよね。
個々の作品を一つに繋げてしまう力を感じました。

>基本的に皆ひとりでわくわくしてるのが面白い

同感です。イヤホンガイドをつけた瞬間から別の世界へ入るような感じですね。
 
 
 
アートとアトラクション (mizdesign)
2008-06-09 20:26:24
こんばんは。
僕はインスタレーションが好きなので、こういったアトラクション系は大好きです。特に完成度が高いものに出会うと「体験」としてとても感動します。

その際に、アートワークを個別に「観る」という、アーティストと鑑賞者の対話はどうなるのか気になるところです。共存なのか別物なのか。
2回行って、サウンドウォークある/なしで見たかったですが、残念ながら時間切れっぽいです。

公開以降は、チケットが捌けるのが早かったですね。
 
 
 
Soundwalkとは (panda)
2008-06-09 23:26:47
喩えていうなら、3D映像体験ガイドかもしれません。
 Zaha Hadidの流線型の建築へと引き込まれ
soundwalkにナビゲートされながら自分の五感と共に
J.Moreauの声に導かれつつ、自分自身で体験する空間。音楽や効果音と共に声に引き寄せられる。
彼女の艶っぽいフランス語で聴きたくなるかも。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-06-10 21:12:49
@mizdesignさん

こんばんは。

>こういったアトラクション系は大好きです。特に完成度が高いもの

まさにアトラクションですね。
サウンドウォークとハディドと、そしてコンセプトの勝利でした。

>アートワークを個別に「観る」という、アーティストと鑑賞者の対話はどうなるのか気になる

印象から言えば、個々の作品と個人との関係はそれほど問われていないかなという気がします。サウンドウォークがなければ成り立たない部分は大きいかもしれませんね。

>公開以降は、チケットが捌けるのが早かったですね。

そうでしたね。噂が一気に広まったのでしょうか。
ただオークションにチケットがたくさん出ていたのには興ざめでしたが…。


@pandaさん

こんばんは。

>soundwalkにナビゲートされながら自分の五感と共に
J.Moreauの声に導かれ

同感です。モローのガイドが感性を刺激してくれますよね。
作品に連動した効果音も絶妙でした。
それにしてもこれほど密着感のある音声ガイドに出会ったのは初めてです。彼の手がけるサウンドウォークは、他にどのようなものがあるか気になるほどでした。
 
 
 
もうひとつのオリンピック (じゃむ)
2008-06-11 04:32:05
こんにちは。
シャネルというブランド名が、どんな有名なアーティストよりも目立っている感じがします。
展示するアーティストを選択したのはパリ在住のキュレーターですが、数名を除いては既に有名な人たちばかりで、なんだか小さな現代美術オリンピックという印象を受けます。
それにしては日本人アーティストの割合は大きく、少々選択が偏っているような気がしますけど。もちろん、アーティストの国籍を重視して選択されては無いわけですが、もっと若手の面白そうな先端で活躍するアーティストを招待というのは出来なかったのかなぁ??っと思わずにはいられないメンバーで、少々がっかりします。
私自身は実際には見ていない展示ですが、既に見に行きたいという気はあまりしません。
その代わりといっては何ですが、ダディッド作の建築は見てみたいと思います。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-06-11 22:24:24
じゃむさんこんばんは。

>シャネルというブランド名が、どんな有名なアーティストよりも目立っている感じがします。

同感です。シャネルが存在しなくては全く成り立たない企画ですね。展示コンセプトもかのバックですから、シャネルを意識しない時間はないと言っても良いかもしれません。

>少々選択が偏っているような気がしますけど。もちろん、アーティストの国籍を重視して選択されては無いわけですが、もっと若手の面白そうな先端で活躍するアーティストを招待

私はアーティスト云々については良く分からないのですが、確かに言ってしまえば「安心感」(手堅い)のあるアーティストが並んでいたのは事実かもしれません。ブランドイメージ傷つけるほど、鮮烈で世へ切り込むアーティストの選択はそもそも無理だとは思いますが、もう少し作品自体は冒険しても良かったのではないかとも感じました。
 
 
 
冒険 (じゃむ)
2008-06-12 19:35:38
はろるどさん、お返事ありがとうございます。
時々ですが、寄らせていただいてブログを楽しく読んで刺激を受けています。
はろるどさんのコメントで、

>作品自体は冒険しても

の冒険という表現が大好きです。
アートは、特に現代アートと呼ばれる分野では特に、この冒険が必要だと思います。
冒険することが刺激であり、良い意味でも悪い意味でもリスクがあって、その中で又新しい発見する分野だと私は思っています。
『企業とアートのコラボレーション』だと言われていますが、ここのブログの題名にもなっている『セレブたちが駆けつけた、オープニングの夜』という、やっぱり解かりやすいというか、想像通りの(苦笑)セレブの会になっている様子が浮き彫りになっている感じが皮肉だなと思います。

http://blog.excite.co.jp/mobileart/8701275/

展示されるアーティスト、作品の選択は主にキュレーターがやる仕事であり、建築担当のハディッドの仕事ではないと思いますが、ハディッドがもしキュレーターであれば、私の予想では全然違ったアーティスト、もっとリスキーな作品を出してくるのではないかと思います。
そういった意味でも、一番見ごたえあり、奇抜的で、冒険しているのはハディッドの建物・作品だと思うんです。
 
 
 
キュレーターのインタビュービデオ (じゃむ)
2008-06-12 20:04:01
付け加えですが
シャネル・モバイルアートのサイトでは、以前キュレーターのインタビュービデオが見れたはずなのですが、現在ではビデオが消されているみたいです。
少し疑問に思います。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-06-13 00:49:02
じゃむさん、再度のコメントをありがとうございます。

>企業とアートのコラボレーション

上の私のコメントと重なりますが、言ってしまえば、そもそもブランド価値を第一に考えている企業が、それを傷つける恐れのある「冒険」をすること自体が土台無理な話なのかもしれません。ここではハディドも、シャネルの統一コンセプトの下でキレイに収まっているという印象は拭えませんでした。(もちろん一番に見るべきなのは、仰るようにハディドの作品でしたが…。)それはともかく、ハディドプロデュースだと全く異なった展示になったのは間違いないでしょうね。建物の空間と個々にセレクトした作品が連動するような展示になったのではないかなと思います。

>以前キュレーターのインタビュービデオが見れたはずなのですが、現在ではビデオが消されている

それは気が付きませんでした。何故でしょう…。見たいですね。

>時々ですが、寄らせていただいてブログを楽しく読んで

じゃむさんのコメントには私も色々と考えさせられることが多いです。またいらして下さい。いつでもお待ちしております!
 
 
 
行ってきました (palpal)
2008-06-23 20:51:03
こんばんは。
やっと昨日行ってきました。
とても面白かったのですが、シャネル「らしい」展覧会だったなというのが正直な感想です。
ブランドのアイコンがどれほど強烈な個性を持っているのかという事を再認識させられました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-06-23 21:59:44
palpalさんこんばんは。TBとコメントをありがとうございます。

>ブランドのアイコンがどれほど強烈な個性

全く同感です。展示の細部の細部まで、常にシャネルを意識させるような内容でした。またそれぞれの作品がぶつかり合うのではなく、シャネルという大きな傘の中で一つになっているのが見事だなと思います。

世界一巡してどのような評価を得るのかにも注視したいです。
その評判如何では、第二弾というのもあるかもしれませんね。
 
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