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「プラド美術館展」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「プラド美術館展ースペイン宮廷 美への情熱」 
2015/10/10-2016/1/31



三菱一号館美術館で開催中の「プラド美術館展ースペイン宮廷 美への情熱」のプレスプレビューに参加してきました。 

歴代スペイン王の収集した美術コレクションで名高いスペインのプラド美術館。日本でもプラド美術館展の名を冠した展示は、主に過去2回、東京都美術館(2006年)や国立西洋美術館(2002年)などで行われてきました。

以来、3回目となるプラド美術館展です。出品は約100点。時代は15世紀から19世紀までと幅広い。スペイン、フランドル、イタリア、オランダ、フランスのヨーロッパ絵画が一堂に会しています。

また重要なポイントが「小さなサイズの作品に焦点」(三菱一号館美術館サイトより)を当てていることです。その意味でもいわゆる大作に重点的だった過去のプラド美術館展とは一線を画しています。

小さな作品の魅力。その多くは細部の精緻な描写にあるとしても良いかもしれません。まずは話題のヒエロニムス・ボスです。現存する真筆20点のうちの1枚。タイトルは「愚者の石の除去」です。いわば初来日のボスでもあります。


右:ヒエロニムス・ボス「愚者の石の除去」  1500-10年頃 油彩、板 王室コレクション

いわゆる「賢者の石」のパロディー。逆さの漏斗をかぶるのが偽医者です。患者の頭を裂いては何とチューリップの花を取り出しています。そして頭に書物を頭に載せた女性もいます。一人素知らぬのは患者のみ。ようは皆で患者を騙しているわけですが、やはり描き込みは細かい。手前の下草はまるで鋼のようです。後方に何やら鉄棒のようなものが見えました。もちろん鉄棒ではありません。絞首台です。これは患者の死ではなく、騙す側の運命を暗示しているそうです。

ちなみに逆さの漏斗が愚者、チューリップは偽医者に収められる金の暗示でもあります。描写に細かく、主題に巧妙。さすがに魅せるものがありました。


右:偽ブレス(ブレシウス)「東方三博士の礼拝(中央)、12部族の使者を迎えるダビデ王(左)、ソロモン王の前のシバの女王(右)」 1515年頃 油彩、板 王室コレクション

精緻といえば偽ブレス(ブレシウス)の「東方三博士の礼拝(中央)、12部族の使者を迎えるダビデ王(左)、ソロモン王の前のシバの女王(右)」も忘れられません。主題はキリストです。たくさんの人物がいますが、ともかく衣服の装飾までが際立っています。建築はゴシック調です。奥行きしかり空間は思いの外に広い。遠景に至るまで人物や建物が事細かに描かれています。調度品にも注目です。左のダビデ、右手を支えているものは一体何なのでしょうか。中にはうっすら火が灯っているようにも見えます。肉眼では何とも判別が付きません。


左:フアン・バン・デル・アメンの「スモモとサワーチェリーの載った皿」 1631年頃 油彩、カンヴァス 2006年に購入

極上の静物画と出会いました。フアン・バン・デル・アメンの「スモモとサワーチェリーの載った皿」です。銀の器に盛られた果物。チェリーはガラス玉のように透き通っています。一方でスモモは熟れきっているのでしょうか。皮がやや爛れてもいます。光は左から差し込んでいるようです。食器の左下へ仄かに反射していました。チェリーとスモモ、そして食器の色のコントラストがすこぶるに美しい。縦横30センチを超えない小品ですが、このサイズだからこそ表現し得る密度がありました。


ディエゴ・ベラスケス「ローマ、ヴィラ・メディチの庭園」 1629-30年 油彩、カンヴァス 王室コレクション
 
ベラスケスの「ローマ、ヴィラ・メディチの庭園」はどうでしょうか。高い木々が立ち並ぶ中、アーチを象った建物が見えます。前に立つのが二人の人物です。互いに会話しているようですが、良く見ると手に長い棒を持っていることが分かります。一方でアーチの上にも人影がありました。下の人物とも関連があるのでしょうか。一説では何かを計測しているのではないかと考えられているそうです。

そしてこの作品はベラスケスが屋外へ出て描いたとも言われています。いわゆる歴史画でもなく物語画もありません。自然の眺めという風景のみを戸外で表した作品です。その意味では印象派の先駆けと言えるのかもしれません。


左:ヤン・ブリューゲル(2世)「豊穣」 1625年頃 油彩、銅板 王室コレクション

目を凝らしていくほど発見があります。ヤン・ブリューゲル(2世)の「豊穣」です。中央にいるのは裸の女性です。一見何ら変哲がないようにも思えますが、実は乳房が6つもあります。つまり多産の象徴です。手に持つ黒い筒状のものは角です。今度はタイトルの如く豊穣を指し示しています。

背後には馨しいまでに花が咲き、また果実が実っています。そして並ぶのは野菜。食料でしょうか。小動物や魚も見えました。いずれも自然の生み出す産物です。豊穣に相応しいモチーフなのでしょう。さらに目を凝らしてみました。右下のカブの上に何か小さな生き物がいることに気がつきました。カタツムリです。大変に小さい。見落としてしまうかもしれません。


左:ピーテル・フリスの「冥府のオルフェウスとエウリュディケ」 1652年 油彩、カンヴァス 王室コレクション

ピーテル・フリスの「冥府のオルフェウスとエウリュディケ」にも驚くべき小さな生き物が描き込まれています。ボスの影響も受けたとされる一枚、ともかく目を引くのは魑魅魍魎、まさにグロテスクなまでの怪物です。翼を開いては飛び、白い死体のような人間をつり上げている魔物もいます。随所には炎も立ち上がります。これぞ地獄絵図と言っても良いのかもしれません。

さてその驚くべき小さな生き物。どこにいるのでしょうか。画面中央に描かれているのがプロセルピナとプルートです。うち王冠を付けて座るプルートの上に注目です。何やら黒い点がありました。率直なところ判別は出来ませんが、これは蜘蛛を描いたと考えられているそうです。


右:フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス「レオカディア・ソリーリャ?」 1814-16年 油彩、カンヴァス 1866年にトリニダード美術館のために購入

それにしてもかなりの粒ぞろい。ほかにもグレコやメムリンク、メツーにムリーリョなどにも優品があります。テニールスやゴヤも一定数まとまっていました。「作品は大きさによって、それぞれに異なった相応しい価値がある。」とは一号館の高橋館長の言葉です。小さくとも見応えは十分でした。

ちなみに本展は2013年にプラド美術館で行われ、2014年にバルセロナへ巡回した「La belleza encerrada (Captive Beauty) 」を日本向けにアレンジして構成したもの。つまり現地プラドで企画された展覧会の日本巡回展でもあります。

また輸送や公開に制限のある板絵が多いのも特徴です。(全100点のうち35点。)そして国内で開催されるのは一号館美術館のみ。他館への巡回はありません。


「プラド美術館展」展示室風景
中央:バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「ロザリオの聖母」 1650-55年 油彩、カンヴァス 王室コレクション


最後に混雑の情報です。実はプレビュー時に加え、会期2週目の日曜、18日にも再度観覧してきました。

入館したのは午後2時頃でした。一般的に最も混み合う時間帯ではありますが、チケット購入のための待ち時間もなく、館内も比較的スムーズ。何点かの作品の前では順番待ちの列も僅かに発生していましたが、おおむね最前列でじっくりと観覧することが出来ました。


左:マリアノ・フォルトゥーニ・イ・マルサル/ライムンド・デ・マドラーソ・イ・ガレータ「フォルトゥーニ邸の庭」 1872-77年頃 油彩、板 1904年にラモン・デ・エラスより遺贈

ただ毎度ながら一号館美術館は会期中盤以降に混雑が集中します。ましては小さな作品が多い展示です。率直なところ遠目では魅力も伝わりません。なるべく早い段階での観覧がベストです。

一号館美術館の来館者が10月20日、開館以来延べ200万人を突破しました。

それを記念して10/21(水)~10/27(火)の間、先着200名にオリジナルエコバックがプレゼントされます。さらに「200万人突破!ありがとう【アフター4】割引!」と題し、10/21(水)、22(木)、27(火)~29(木)の計5日間、夕方4時以降の入館料が500円割引になるそうです。学生も対象です。



2016年1月31日まで開催されています。おすすめしたいと思います。

「プラド美術館展ースペイン宮廷 美への情熱」 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:2015年10月10日(土)~2016年1月31日(日)
休館:月曜日。但し祝日、もしくは12月28日、1月25日は開館。年末年始(12月31日、1月1日)は休館。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日と会期最終週の平日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1700円、高校・大学生1000円、小・中学生無料。
 *ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア3000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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