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「田中千智展 I am a Painter」 横浜市民ギャラリー

横浜市民ギャラリー
「ニューアート展 NEXT 2015 田中千智展 I am a Painter」
10/2-10/18



横浜市民ギャラリーで開催中の「ニューアート展 NEXT 2015 田中千智展 I am a Painter」を見てきました。

1980年に福岡で生まれ、多摩美術大学を卒業後、VOCAや福岡アジア美術トリエンナーレなどに出展してきた画家、田中千智。横浜との縁は2008年に遡ります。初めて開催された黄金町バザールのことでした。

同イベントにレジデンスアーティストとして参加した田中。2ヶ月間ほど滞在しては絵を描き続けたそうです。その際、街の人々をモデルとした約100人のポートレートを製作。完成後、界隈の商店やスタジオで公開しました。

以来、約7年。画家としても過去最大規模の個展です。例のポートレートの一部をはじめ、今年の新作絵画のほか、装丁や宣伝美術、ポスター画の仕事などを紹介。また韓国のアーティスト、チョン・ヨンドゥの詩を元にした水彩画も展示されています。


左:田中千智「森の中へ」 2012年 油彩、アクリル、キャンバス 個人蔵

さて田中の絵画、まず目を引くのが黒。地のほぼ全てを覆わんとばかりに広がる漆黒の闇です。

解説によればこれらはアクリル。時に10回以上も塗り重ねては丹念に地を作り上げます。その上から色鮮やかな油絵具を置いては風景なり人物などを象っていくそうです。

この黒の質感がすこぶるに美しい。一口に言えばマットですが、確かに筆跡はなく、まるでゴムのように平ら。感触は冷ややかです。一切の混じり気もありません。吸い込まれるような闇が広がっています。


田中千智「きょう、せかいのどこか」 2011年 油彩、アクリル、キャンバス 個人蔵

黒に変化を与えるのが油絵具の色彩です。「きょう、せかいのどこか」はどうでしょうか。沢木耕太郎の「波の音が消えるまで」のための装丁原画、画面の大半を占めるのが地の黒です。

その上と左、また下の一部に色彩が加わっています。輝かしい。白に黄色、そしてピンクやオレンジなどの色が連なります。クレーンや停泊中の船が浮かび上がってきました。白い粒状の色彩はライトなのかもしれません。すると先ほどまで表情を持たなかった黒が水辺、ようは港の景色のようにも見えてきます。とすると上の色彩の帯の彼方はおそらく空ということなのでしょうか。余白だった黒がいつしか多様な表情を取っていることに気がつきます。


田中千智「はてしない物語」 展示風景

ハイライトは「はてしない物語」と括られた一連の作品でした。本展、もしくは福岡で行われた個展のためのシリーズ。かつて田中の父が大切にしていた「世界不思議物語」なる古い本からインスピレーションを得ているそうです。全14点のうち11点。人の誕生から消滅までが様々な出来事ともに描かれています。


田中千智「はてしない物語」 2015年 油彩、アクリル、キャンバス 作家蔵

うち表題作の「はてしない物語」は横4メートル近くもある大作です。やはり背景は漆黒。手前は樹木でしょうか。葉も枝もない木が立ち並んでいます。そこに佇む裸の男女たち。神話世界に登場する人物のようです。ややグレーを帯びた白い肌を露わにしています。3人で肩を取り合っては何かを語るかのような人々。木陰に隠れてはふとこちらを見やる女性もいます。そして座り込んでは途方に暮れる者。地面へ口付けするかのようにしゃがみ込む人もいました。必ずしも顔色は明るくありません。どこか不安げな表情をしてもいます。


田中千智「はてしない物語」(部分) 2015年 油彩、アクリル、キャンバス 作家蔵

またここでも画肌に注目です。マットな黒と対比的な木の表面の質感が実に豊かで面白い。盛り上がった絵具はまるで銅版のような煌めきを放っています。


田中千智「意識の旅」 2014年 油彩、アクリル、キャンバス 作家蔵

闇あってこそ光の美しさが際立つということなのでしょうか。「意識の旅」です。ネックレスを持った少女。手を繋ぐのは大樹、あるいは何らかの生き物かもしれません。被り物をした妖精のような少女も見えます。さらに奥にはカラフルなベットで眠る女の子。ブーケを載せた船にはトナカイのような動物も乗っています。眩い色彩です。夢か幻か。掴みきれないまでの神秘的な世界が展開しています。

「すべてに共通している、人や物のはじまりと終わり、誕生から消滅していくまでのイメージを、一つの物語のように考え、今まで私がモチーフとして描いていたものたちと一緒に、はてしない物語という作品を描きました。」 田中千智 「はてしない物語」より


右:田中千智「人と人」 2015年 油彩、アクリル、キャンバス 作家蔵

撮影が出来ましたが、田中の作品の魅力の一端は、やはり画肌にあります。写真では伝わりません。(一部、撮影不可。)

会場の横浜市民ギャラリーは昨年、関内の旧スペースより移転してきた文化施設。最寄りは桜木町です。駅からは紅葉坂をあがって約10分ほどかかります。分かりにくい場所だけに地図は必携です。


田中千智「107人のポートレート」 2008年 油彩、キャンバス 作家蔵、個人蔵

ただ先にも触れた黄金町バザールも徒歩圏内。日ノ出町駅方面からも15分と歩けば辿り着くことが出来ます。折しも黄金町バザール開催期間中の展示です。あわせて見るのも楽しいのではないでしょうか。



入場は無料です。10月18日まで開催されています。

「ニューアート展 NEXT 2015 田中千智展 I am a Painter」 横浜市民ギャラリー@ycag1964
会期:10月2日(金)~10月18日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:無料。
住所:横浜市西区宮崎町26-1
交通:JR線・市営地下鉄線桜木町駅より徒歩10分。京急日ノ出町駅より徒歩8分。無料送迎車サービスあり。
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