「逆境の絵師 久隅守景」 サントリー美術館

サントリー美術館
「逆境の絵師 久隅守景」 
10/10-11/29



サントリー美術館で開催中の「逆境の絵師 久隅守景」を見てきました。

江戸時代初期の狩野派の絵師、久隅守景。農民の姿を描いた耕作図で知られていますが、意外にも出自はおろか、家系、さらには生没年も分かっていないそうです。

その守景の画業を紹介する展覧会です。出品は約90点。一部、周辺の絵師の作品も含みます。(展示替えあり。)

出自、生没年不明の守景。師事したのは探幽です。探幽の姪と結婚。早い段階から狩野派内部で重用されました。

最初期の作品が「知恩院小方丈下段の間 四季山水図襖」です。守景は知恩院の障壁画制作の中枢に抜擢。腕を奮います。丸みを帯びた山を背にして広がるのは水辺です。小舟も停泊しています。山には楼閣。東屋も見えました。驢馬に乗って行き交う人の描写も小気味良い。長閑です。山は点描、いわゆる米点でしょうか。思いのほかに重量感がありました。


久隅守景「四季山水図襖」(八面のうち四面) 江戸時代 富山・瑞龍寺 *全会期展示(ただし四面ずつで入替)

富山・瑞龍寺の「四季山水図襖」に驚きました。緻密です。特に右2面の殿舎が細かい。直線を縦横に走らせては回廊が連なる様子を描いています。また木々の葉も細密です。一方で左の2面を支配するのは余白。うっすらとした山影や柳が浮かび上がります。何とも幽玄な光景ではないでしょうか。

安信に倣ったという「十六羅漢図」も目を引きました。全16幅。各会期で4幅ずつの展示です。ともかく着衣のうねるような墨線が力強い。先の穏やかな山水図とは一転しています。狩野派として大いに技量を発揮したという守景ですが、確かに何でも器用に描ける絵師だったのかもしれません。


久隅守景「四季耕作図屏風 旧小坂家本」(左隻) 江戸時代 個人蔵 *展示期間:11/5~11/29

守景といえば耕作図です。本展でも計7点の耕作図が出品されています。(展示替えあり。)元々は中国の画題です。15世紀頃に日本へ伝わりました。それを守景は日本の景色を織り交ぜては描き出します。また時に四季の配置が逆、すなわち左に春夏、右に秋冬を表しているのも特徴です。(例外もあります。)

その一つが東京国立博物館所蔵の「四季耕作図屏風」です。左から春夏秋冬と進行する作品。モチーフは中国の風俗です。田起こしや籾蒔きにはじまり、刈入れ、脱穀までを生き生きと描いています。稲束を抱える者、糸を垂らしては釣りをする人物もいました。総じて柔らかい筆で描いていますが、松や建物の輪郭などはやや強い墨線で表してもいます。うっすらと広がる畦道も美しい。鶏も見えました。農村の一年です。もちろん大変な労働が続くわけですが、守景の手にかかれば牧歌的でもあります。思わず景色の中に吸い込まれてしまいました。

妻の間に2人の子をもうけた守景。一男一女です。ともに絵師になりました。しかし息子の彦十郎は不祥事で佐渡へ島流し。娘はかの清原雪信です。ただ彼女も探幽の弟子と駆け落ちしてしまいます。親としても居場所がなくなったのでしょう。これぞタイトルならぬ逆境です。やがて守景は狩野派を離れ、加賀前田藩の招きにより、金沢の地へと移り住みました。


久隅守景「納涼図屏風」 江戸時代 東京国立博物館 *展示期間:10/10~11/3

そこで生み出されたのが「納涼図屏風」です。二曲一隻。左上に満月が出ていることから夜の景色だということが分かります。とは言え、まるで昼間のように明るい。瓢箪の棚でしょうか。下にはゴザを敷いてくつろぐ3人の人物の姿が見えます。おそらくは家族でしょう。中年の夫にやや若くも見える妻。そして幼き子ども。男は横になっては肘を立てては手で頭を支えています。うっすらと透き通る水色の服を着ていました。

一方で寄りそうかのようにしてどこかを眺める妻。唇は紅色です。長い髪を垂らしています。白い腰巻きをつけていました。何と半裸です。男は機嫌良く、また女もうっすらと笑みを浮かべています。場面の左では出し物でも行われているのでしょうか。「納涼図」とあるだけに涼んでいるのかもしれませんが、家族で何かを見物しているようにも見えました。

最晩年は京都に移ったそうです。「賀茂競馬図屏風」もその頃の作品でしょうか。荒ぶる馬を走らせては先を争う男たち。白い馬と黒い馬のかけっこです。馬具も細かく描かれています。柵の外には多くの見物人が詰めかけていました。何やら馬に驚いては座り込む者もいれば、歓声をあげているのでしょうか。口を開いては楽しそうに見ている者もいます。人を良く見ては表情を描き分ける守景。人間観察眼にも秀でていたのかもしれません。


久隅守景「都鳥図」 江戸時代 個人蔵 *展示期間:10/10~11/3

花鳥の小品も見逃せません。可愛らしいのが「都鳥図」です。いわゆる外隈の技法で番いの鳥を描いています。「花鳥図屏風」ではミミズクに惹かれました。枝の上にとまったミミズク。少し下を向いていますが、その先には水面に反射した満月が見えます。まるで物思いにふけるような姿です。動物にも愛嬌が感じられます。

ラストは守景の子、つまり彦十郎と雪信の作品が展示されていました。狩野派随一の女性絵師とも呼ばれる雪信。何度か作品を前にした記憶はありますが、今回ほどまとめて見たことなかったかもしれません。「粟鶉図」はどうでしょうか。細密な筆で描かれた番いの鶉に、半ば写実的とも言える粟を描き込む。葉が高くのびては曲線を描いています。葉の向こうに隠れ見る花も美しい。高い画力を感じさせはしないでしょうか。

展示替えの情報です。会期中、大半の作品が入れ替わります。

「逆境の絵師 久隅守景 出品リスト」(PDF)

主に前後期(前期:10/10~11/3、後期:11/5~11/29)で分かれていますが、場面替えなどを含めると4回ほど通う必要がありそうです。


久隅守景「鷹狩図屏風」(左隻) 江戸時代 日東紡績株式会社 *展示期間:11/5~11/29

館内は空いていました。じっくり楽しめると思います。

後期も通うつもりです。11月29日まで開催されています。

「逆境の絵師 久隅守景」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:10月10日(土)~11月29日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
 *10月11日(日)、11月2日(月)、11月22日(日)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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