学生のとき、1年間は賄い付きの下宿アパートに住んだ。2階建てのアパートで、上下に4部屋ずつ8人が住む木造アパートだった。朝と夕方は食事を大家さんの食堂で食べ、風呂も大家さんの風呂を順番に使わせてもらった。8人のうち、一人だけ大学院の先輩だったが、あとの7人は同級生だった。北は青森、それに群馬、名古屋、東京、京都、それに千葉の出身者だったと記憶する。
私の部屋は2階の東端っこの部屋で、その下が千葉から来ていた新入生だった。名前は忘れてしまったが、妙に気が合って、よく語り合ったものだ。彼は当時仏教に興味があった様で、部屋には禅の本などがたくさん積まれていた。
初めての夏休みはみんな故郷に戻り、自動車の運転免許を取ることに精を出すのが普通だった。私もたっぷり1ヶ月費やして無事免許を取得して、下宿に戻った。次々に故郷から戻ってくる同居人たちだったが、私の下の住人はなかなか帰ってこなかった。
そして、休み明けに私が彼を見たのは、授業が始まって1週間ほど経ったときだった。しかも、商店街の買い物客で込み合う通りで彼を見かけたのだった。彼は小さな黒板に何かを書きながら、片手に分厚い本を持ち、ボソボソと通行人たちに話しかけていた。
立ち止まって何を言っているのか耳を済ませると、「神が・・・」とか「お父様・・」とかいった言葉が聞こえた。予定があって長居できなかったので、その場は離れたが、何がどうなっているのかさっぱり理解できなかった。
その日の晩、下宿に戻る彼を待って、一体今日は商店街で何をしてたのか単刀直入に聞いてみた。すると、彼はとある宗教に入信したのだと言った。いきさつは、夏休みに商店街を歩いていたら、若い女性が小さな黒板を背に、熱心に何かを講義していて、それを聴いて関心を持ち、東京大学での集中講義の合宿に参加したのだそうだ。
1週間ほどの合宿で入信を決意し、もう少ししたら他の信者たちと共同生活をするので、下宿を出るのだと語った。表情が以前とは変わった感じで、私もその合宿に参加すれば目の前が明るくなると、熱心に勧誘された。
その彼とは、それっきり会うことがなかったが、卒業して3年ほど経って再開できた。彼はすでに結婚していて、その町にできた教会支部の支部長になって布教活動に精を出していた。すでに私とは別世界に住んでいる人間に変わっていた。
私の部屋は2階の東端っこの部屋で、その下が千葉から来ていた新入生だった。名前は忘れてしまったが、妙に気が合って、よく語り合ったものだ。彼は当時仏教に興味があった様で、部屋には禅の本などがたくさん積まれていた。
初めての夏休みはみんな故郷に戻り、自動車の運転免許を取ることに精を出すのが普通だった。私もたっぷり1ヶ月費やして無事免許を取得して、下宿に戻った。次々に故郷から戻ってくる同居人たちだったが、私の下の住人はなかなか帰ってこなかった。
そして、休み明けに私が彼を見たのは、授業が始まって1週間ほど経ったときだった。しかも、商店街の買い物客で込み合う通りで彼を見かけたのだった。彼は小さな黒板に何かを書きながら、片手に分厚い本を持ち、ボソボソと通行人たちに話しかけていた。
立ち止まって何を言っているのか耳を済ませると、「神が・・・」とか「お父様・・」とかいった言葉が聞こえた。予定があって長居できなかったので、その場は離れたが、何がどうなっているのかさっぱり理解できなかった。
その日の晩、下宿に戻る彼を待って、一体今日は商店街で何をしてたのか単刀直入に聞いてみた。すると、彼はとある宗教に入信したのだと言った。いきさつは、夏休みに商店街を歩いていたら、若い女性が小さな黒板を背に、熱心に何かを講義していて、それを聴いて関心を持ち、東京大学での集中講義の合宿に参加したのだそうだ。
1週間ほどの合宿で入信を決意し、もう少ししたら他の信者たちと共同生活をするので、下宿を出るのだと語った。表情が以前とは変わった感じで、私もその合宿に参加すれば目の前が明るくなると、熱心に勧誘された。
その彼とは、それっきり会うことがなかったが、卒業して3年ほど経って再開できた。彼はすでに結婚していて、その町にできた教会支部の支部長になって布教活動に精を出していた。すでに私とは別世界に住んでいる人間に変わっていた。