職場では、月ごとに「5S点検」に訪れる一団がある。
リーダー格の年配者とその部下たちなのか数名がデジカメを持参して、隅ずみをチェックして廻る。職場にも5S担当者がいて、彼ら一団と何か話しながら部内を案内している。
5S担当者からは、前日にメールで、「明日10時に5S点検があるので、机の上や、周りの床などもう一度チェックしておいてください。」などと警告される。
今や世界共通語の5S
点検の後、その結果が証拠写真と共に担当者宛に送られてきて、改善するよう指示されるわけだ。
私もかつて、机の上に制服の一部である帽子を置いてあったのを指摘され、写真と共に「帽子は机の上に置くものではない。」というコメントとが添えられていた。
担当者から、「すみません、改善してください。僕も帽子を机の上に置いてはいけない事を知りませんでした。」というメールが点検報告書と共に送られてきて、苦笑したものだった。
従業員が1000名ほどの工場なので、月一度廻るとしても、あの「5S点検」の親分は、毎日あれをやっていることになる。担当者と話しているのを何気なく聞いていたら、「一度に全部指摘しちゃうと、俺のやることがなくなっちゃうからなあ・・・」などと小声で話していた。
5Sとは、トヨタから始った運動だろうか。整理、整頓、清掃、清潔、躾、の五つの言葉がすべてローマ字で書くと「S]で始ることからそう呼ばれる、職場改善スローガンである。意味は微妙に変わっていたりするが、今や英訳もされ世界中に広まった改善運動であろう。
清潔の意味は「継続」
五番目の「躾」は、「ルールを守る」ことだと私は理解している。したがって、数年前から日本中が狂ったように「コンプライアンス」と口にし始めたとき、「何を今更。しかもカタカナ言葉で・・・」と私はため息をついたものだった。
5Sの五番目、「躾」(ルールを守る)はもう30年以上前から言われてきたと思う。
「5S点検」と言っても、所詮置き場所がキッチリ決められていて、その表示がされているか、そしてあるべきものがあるべき場所に取り出しやすいように置かれているか。無駄なものがないか、ゴミは落ちていないか、だいたいこんなところをジロジロ点検しているようだ。
したがって、今では5S=整理、整頓、清掃の意味だと単純化されている感じだ。
海外に出てみると、我々日本人は実にこまめに掃除をする、極めて特異な民族だと感ずる。私が長く赴任していたフィリピンのマニラ市内など、ゴミだらけだった。見ると通りを歩くビジネスマン達なども、平気でタバコの吸殻やキャンディーの包み紙などをポイと路上に捨てている。
しかし、フィリピン人は決して汚い好きではない。むしろ、彼らはきれい好きではないかと思う。赴任中にあるフィリピン人の従業員の家を訪問したことがあったが、みんな自分の家の中は見事に片付けてきれいに保っているものだと感心した。
ただ、奥さんが床掃除をして集めたゴミを、窓から外にポイッと投げ捨てるのを見たとき、「なるほど、彼らに欠如しているのは、公共性なんだな。自分さえ良ければ、それで良しとする根性なんだ。」と納得した。
飛行機に乗った時など、楽しみの機内食を食べ終えたあと、我々日本人は器用にゴミをまとめて、コンパクトにしてスチュワーデスに渡すのが普通だ。見ると、他の国の乗客はそうはしないものだ。
食べ終えるとゴミだらけになる
新幹線でも私は見るたびに、「ああ、日本人だなあ・・・」って思うのは、駅弁を食べ終えたあとの行動だ。
老夫婦らしき高齢者カップルが、車窓を流れる田園風景に時々目をやりながら幕の内弁当を食べていた。男性の方が先に食べ終わると、割り箸を紙袋に差込み、空になった弁当箱の対角線上に入れてから、蓋をして表紙を巻き、紐でキュッと縛った。見た目は、まるで食べる前の状態そのものだった。
新幹線で食べる駅弁は旨い
女性も食べ終えると、まったく同じ事をしてから男性の空箱と共にビニール袋に入れて、ゴミ箱に捨てに立ったのだった。
私はその光景を眺めていて、「誰に指示された訳でもないのに、見事な所作だなあ。」と感心し、これが日本人の民度なんだと納得した。
新幹線の女性清掃員達の、見事な手際よい清掃作業を近くで見物する、外国人向けの東京駅のツアーがあり、評判がいいと聞いた。
おもてなし、などと肩に力を入れなくとも、普段着の民度の高さは世界に誇れるクール・ジャパンなのだ。