もう7年ほど前になるだろうか、私はその夏の2ヶ月を富士山五合目で過ごした事がある。
富士山には登山ルートが、全部で以下の4つある。
吉田ルート :富士スバルライン五合目(山梨)
須走ルート :須走口五合目(静岡)
御殿場ルート:御殿場口新五合目(静岡)
富士宮ルート:富士宮口五合目(静岡)
この中の富士宮口五合目にて、私は外国からくる登山客たちに登山指導と観光案内をするアルバイトをしたのだった。その時の雇用主は、富士宮市観光協会であったが、予算は静岡県が負担していたようだった。
日当が3万円という破格の求人だったので、私は電話で業務はいわゆる山岳ガイドなのかを確認したほどだったが、返事はそうではなく、主として装備や服装、日程の確認と指導ということで、登山ガイドではなかった。
日本人担当が6名ほど、外国人担当が4名くらいだった。
山開きから夏山シーズンの約2ヶ月間、毎日登山客が押しかけるわけではなく、主に週末と盆休みに集中するので、普段は退屈で死にそうなくらいの時が多かった。
当時は五合目まで自家用車で乗入れる事が出来たので、特に盆休みの週末などは、駐車スペースが足りなくて、それに絡む様々なトラブルが連発して大変であった。
そのために、富士宮警察署は五合目に臨時派出所を設置して、登山シーズンの日中は常時2名の警官を配置していた。
矢印は山岳救助隊員
我々の勤務時間は8時~17時だったが、臨時派出所勤務のおまわりさんたち2名は、いつもパトカーで9時頃来て16時には山を降りていった。
富士宮市内の交番勤務のおまわりさんが、毎日日替わり交替でやって来ていた。
みなさん30歳前後のまだ初々しさの残る若者たちであった。登山客が多い日は、落し物を届けてくる人や、逆に落し物をしてしまった人が詰め所に駆け込んできて、その対応で急がしそうであったが、普段は我々と同じ手持ち無沙汰で退屈そうにしていた。
交番勤務の警官
盆休みが始って登山客が増え始めた頃だった。
詰め所に到着したおまわりさん二人は、奥の六畳間の部屋に入って障子を閉め、小声で何か世間話でもしているようだった。詰め所前を通って登山口の石段にむかう人が徐々に増え始めてきた。
40分経っても、50分経っても二人のおまわりさんは奥の和室から出てくる気配がなかった。我々の仲間たちからは「あの二人、一体何しに来てるんだ?」と二人の警官に対して疑問の声が出始めた。
私は我慢できずに障子を開けて、「すみません、あなた方は一体ここに篭って何してらっしゃるんですか?登山客もかなり増えてきてますので、表に出て巡回していただけませんか?その警官の制服がいろいろ抑止効果を発揮すると思いますよ。」と言った。
二人は、私の言葉にムッとした顔をして、「巡回は10時と14時の二度することになってるんだよ。」うるさいなあ・・と言わんばかりであった。
平気でたばこの吸殻やゴミを陰に捨てていく登山者や、中には置き引き被害にあった登山客もいて、夏山に集う人は皆言い人ばかりではない。
制服制帽をまとった警察官が巡回しているだけでも、そういう軽犯罪の抑止効果はかなりあるはずだった。
奥の二人は10時少し過ぎた頃出てきて、土産物屋の方へ巡回を始めた。
相談に来る登山客の応接などを詰め所内で順調にこなしていたようなおまわりさんたちであったが、我々が目をむく様な信じられない光景を見たのは、お昼時のことだった。
登山者の往来もひと段落した頃、詰め所入口にある机に向かって何かを記録していたおまわりさんの一人が、昼食用のコンビニ弁当を食べ始めた時だった。
彼は、コンビニで買ってきたであろう週刊誌を取り出して、それを眺めながら食事していた。問題は彼が弁当を食べながら横目で見ていた週刊誌であるが、毎週、暴力団の特集が売り物の週刊誌で、何か彼の年代には不釣合いだった。
職業柄そういう情報を仕入れるためにその手の週刊誌を読みたがるのかどうかは分からなかったが、彼は特に周りを憚ることなく、グラビアの女性の裸の写真を食い入るように見ていたのだった。
詰め所入口の机でそれをやっていたので、女性登山客が天気予報の確認に出入りすることも多く、我々は彼の神経を疑った。同僚のおまわりさんはそれを見てみない素振りで無関心を装っていた。
こういう経験をしていた私は、先日のニュース。
8月の大坂冨田林署で弁護士と接見後、留置場を逃亡して世間を騒がせた事件の際、その時の巡査部長が私物のスマホでアダルト動画を鑑賞していた事が判明した、と聞かされても、「ああ、あり得るだろうな・・・」と、私は大して驚かなかった。
その巡査部長は40分もの間、アダルト動画を楽しんでいたことで減給の懲戒処分を受けたそうだが、きっと普段からやってたことで、反省するのも束の間のことだろう。
私は、偉ぶってこういう警察官たちを非難するつもりは毛頭ない。
ただ言いたいのは、『警察官に品格を求めてはいけないですよ。』
この一言です。