徳島駅の近くの農村風景は、私の故郷とは明らかに違って見えた。
特産品の蓮根を取る大きな蓮の葉が生い茂った蓮根畑や、鳴門金時で知られるサツマイモ畑があちこちに存在していた。どちらかと言うと、徳島は米作りには向いていない土地柄なので、蓮根やサツマイモ、それに藍染めの藍の産地として知られるようになっていった。
そして、この藍という植物は多肥作物で、超えた土地でなければならず、徳島県を横断する吉野川が氾濫して、上流の肥えた土を運んでくれるお陰で、良質な藍の生産を担ってきたということらしい。
そのため、近くを流れる吉野川は昔から意識的に堅固な堤防とはしなかったようで、それだけ百姓たちも、自らの生活を犠牲にしてまで良質の藍生産を追及してきたとのことだった。
今では、吉野川の氾濫を防ぐ堤防が造られているが、当時は藍と塩くらいしかめぼしい産業は無く、実在の板東十郎兵衛も苗字帯刀を許されて、藩主から米を仕入れる担当を仰せ付かっていたようだ。
しかし、当時は米は貨幣と同じ。幕府は米や兵器を他国から買い集めることを硬く禁じていた。
この阿波藩の米の密輸が幕府にばれてしまったため、阿波藩はその罪をすべて担当の板東十郎兵衛に押し付け、挙句の果て彼ら一族を皆処刑してしまい、その後、妻のお弓や娘のお鶴も後を追うように病死してしまった。
妻、お弓
この実際に起きた話を題材にして浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」にしたのが、浄瑠璃作家の近松半二とその仲間たちだった。
『傾城』(けいせい)とは、遊女のことで、藩主、玉木の若殿が遊女に夢中になっているのをいいことに、藩を乗っ取ろうと企てたが小野田郡兵衛だった。
この騒ぎの最中、老桜井主膳のあずかる玉木家の重宝、国次の刀が何者かに盗まれた。桜井は、十郎兵衛に盗まれた刀を探すよう指示した。
十郎兵衛は、盗賊銀十郎とかえて、大阪に夫婦で住んでいた。
妻お弓が針仕事をしているところに、巡礼姿の娘、おつるがやってくるところから舞台は始るのだった。
巡礼姿のおつる
小さい頃、理由は分らぬが、お婆様に私を預けて、父母はどこかへ行ってしまった。今はこうして西国巡礼をしながら父母を捜し歩いているのだという。
名前を尋ねると、「あーいー。父の名は十郎兵衛、母はお弓と申しますー。」と言う。お弓は、この娘は間違いなく自分の娘「おつる」だと確信する。
しかし、夫が追われる身であるため、娘にも危害が及ぶため、お弓は路銀を紙に包んで持たせ、泣く泣く追い返すことにしたのだった。
この場面は、一番ジーンと来るところで、私も危うく嗚咽をこぼす寸前であった。
『巡礼歌の段』はここまでだが、続く『十郎兵衛住家の段』は意外な展開になるのだった。
特産品の蓮根を取る大きな蓮の葉が生い茂った蓮根畑や、鳴門金時で知られるサツマイモ畑があちこちに存在していた。どちらかと言うと、徳島は米作りには向いていない土地柄なので、蓮根やサツマイモ、それに藍染めの藍の産地として知られるようになっていった。
そして、この藍という植物は多肥作物で、超えた土地でなければならず、徳島県を横断する吉野川が氾濫して、上流の肥えた土を運んでくれるお陰で、良質な藍の生産を担ってきたということらしい。
そのため、近くを流れる吉野川は昔から意識的に堅固な堤防とはしなかったようで、それだけ百姓たちも、自らの生活を犠牲にしてまで良質の藍生産を追及してきたとのことだった。
今では、吉野川の氾濫を防ぐ堤防が造られているが、当時は藍と塩くらいしかめぼしい産業は無く、実在の板東十郎兵衛も苗字帯刀を許されて、藩主から米を仕入れる担当を仰せ付かっていたようだ。
しかし、当時は米は貨幣と同じ。幕府は米や兵器を他国から買い集めることを硬く禁じていた。
この阿波藩の米の密輸が幕府にばれてしまったため、阿波藩はその罪をすべて担当の板東十郎兵衛に押し付け、挙句の果て彼ら一族を皆処刑してしまい、その後、妻のお弓や娘のお鶴も後を追うように病死してしまった。
妻、お弓
この実際に起きた話を題材にして浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」にしたのが、浄瑠璃作家の近松半二とその仲間たちだった。
『傾城』(けいせい)とは、遊女のことで、藩主、玉木の若殿が遊女に夢中になっているのをいいことに、藩を乗っ取ろうと企てたが小野田郡兵衛だった。
この騒ぎの最中、老桜井主膳のあずかる玉木家の重宝、国次の刀が何者かに盗まれた。桜井は、十郎兵衛に盗まれた刀を探すよう指示した。
十郎兵衛は、盗賊銀十郎とかえて、大阪に夫婦で住んでいた。
妻お弓が針仕事をしているところに、巡礼姿の娘、おつるがやってくるところから舞台は始るのだった。
巡礼姿のおつる
小さい頃、理由は分らぬが、お婆様に私を預けて、父母はどこかへ行ってしまった。今はこうして西国巡礼をしながら父母を捜し歩いているのだという。
名前を尋ねると、「あーいー。父の名は十郎兵衛、母はお弓と申しますー。」と言う。お弓は、この娘は間違いなく自分の娘「おつる」だと確信する。
しかし、夫が追われる身であるため、娘にも危害が及ぶため、お弓は路銀を紙に包んで持たせ、泣く泣く追い返すことにしたのだった。
この場面は、一番ジーンと来るところで、私も危うく嗚咽をこぼす寸前であった。
『巡礼歌の段』はここまでだが、続く『十郎兵衛住家の段』は意外な展開になるのだった。