功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『龍拳』

2012-02-05 22:49:43 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「龍拳」
原題:龍拳
英題:Dragon fist
製作:1978年

▼本作は、ジャッキーが羅維(ロー・ウェイ)のプロダクションに在籍していた頃の作品です。当時の彼は李小龍の後追いを強要され、武侠片でミスマッチな英雄を演じさせられた挙句、どの作品も泣かず飛ばずの結果に終わっていました。
最終的に外部で作られた『蛇拳』『酔拳』が大ヒットし、なんとかスターの仲間入りを果たすのですが、ボスの羅維は未だに悲劇のヒーロー像を求めていました。時代がコメディ功夫片を選ぼうとしていた時に、あえて彼はシリアスな作品を世に送り出したのです。

■武術大会に優勝した道場主・徐蝦の前に、武術家の任世官が現れた。彼は徐蝦を死闘の末に殺し、道場の看板をも破壊する。徐蝦の弟子だったジャッキーは、必ずや復讐を果たすと固く誓った。一方、任世官が自宅に帰ってみると、妻が遺書を残して自殺していた。自分の傲慢さで妻が死んだと知った彼は、側にあった刃を手に取り…。
三年後、ジャッキーは師の妻と娘(苗可秀)を伴って、任世官の住む地へと降り立った。一行は仇敵の道場へ向かうが、どうも様子がおかしい。実は任世官、全ての責任を償うために自らの足を切り、過去の罪を悔いていたのだ。師の妻は復讐を諦めるが、行き場の無い憎しみを抱えたジャッキーは、ただ慟哭するしかなかった。
 この時、任世官は悪事を重ねる高強一派と対立していたのだが、その高強がジャッキーを利用せんと動き出した。師の妻が奇病にかかったのをいいことに、薬をちらつかせて彼を束縛。自陣に用心棒として引き入れてしまったのである。
任世官たちから非難を受け、高強たちの悪事を目前にしつつも、師の妻の為に従い続けるジャッキー。だが、高強一味の計略と凶行により、全面対決の時が迫ろうとしていた。憎しみが憎しみを呼び、誰も望んでいなかった形による決闘が始まるのだが…?

▲案の定、本作は興行的に失敗してしまいますが、決して悪い作品ではありません。中でもジャッキーの悲しみに満ちた表情はとても印象的で、復讐と正義の間で揺れる好漢を見事に演じ切っています。本作のジャッキーは意図的に笑顔を封印し、幾らか笑顔を見せていた他のシリアス功夫片(『木人拳』『成龍拳』)とは一線を画しているのです。
そして本作のもう1つの特色が韓国ロケです。もともと羅維プロ時代のジャッキー作品には韓国ロケを行ったシーンが多いんですが、この作品では序盤以外のほぼ全編が韓国ロケで占められています。韓国系の俳優も多数参加していて(韓鷹林銀珠など)、独特の雰囲気を作り上げていました。
 残念なのはラストにおける急展開の数々でしょうか。ここでもジャッキーは苦悩の中にあり、任世官たちから本気で殺されかけます。この状況は高強の種明かしで打開されるのですが、重要なネタバレがほとんどジャッキー関連なので任世官たちが単なる傍観者になり下がってしまいます(物語の発端となる重要なキャラクターだったのに…)。
また、必要以上に種明かしをする高強一味の言動も不自然で、ジャッキーが寝返るシーンも唐突さが先立っていました。このへんの展開をもっと簡潔にまとめられていれば、時流にそぐわなくても佳作になりえたはず。この後に待ち構えるラストバトルが見事なだけに、余計にそう思ってなりません。
それにしても苗可秀と田俊(ジェームス・ティエン)、メインキャストのわりに扱い小さかったなぁ…(汗