指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『活瓣時代』 御園京平(岩波書店)

2014年03月29日 | 映画

『地球防衛未亡人』を見た後、伊勢佐木町を歩いているとチャリティー古本市をやっている。

600円と安かったので買い、夜阪神が巨人に惨敗したゲームを見つつ読んでしまう。

低めの変化球が得意の能見が高めにストレートばかりを投げているのだから、打たれるのは当然である。

 

なかなか面白い本で、特に御園さん自身がサイレント映画を見ていて幼いころから弁士に憧れ、芸能事務所にいた経験もあるので、記述が豊富で正確である。

横浜の歴史の大家であり、元港湾局の田中常義さんは、いつも「原典、原資料に当たれ」とおっしゃっているが、その通りである。

最後にトーキーになり、弁士が失職した後の経歴が面白い。

徳川夢声、牧野周一、大辻司郎、大蔵貢らが有名だが、小津安二郎映画によく出てくる北竜二も元は弁士であった。

早稲田や銀座にあった全線座を経営した樋口旭琅という人もいたようだ。

歌手の前説の元祖西村小楽天も弁士からの転向組である。

因みに彼らは弁士といわれるのを嫌い、映画説明者と称したのだそうだ。


松本典子、死去

2014年03月29日 | 演劇

女優の松本典子が死んだ、78歳。間質性肺炎とのことだが、だいぶ前に舞台女優をやめたのは、その頃から具合が良くなかったのだろうか。

民芸の女優だったが、昔は民芸の芝居を見ていないので、その頃のは知らないが、以前戸板康二さんがレーニンを描いた芝居での女性闘士役が適役で良かったと書いていて、そうだろうと思ったことがある。

彼女を知ったのは、日活の女優としてで、多分蔵原惟繕監督の『狂熱の季節』が最初だが、これを見たのはかなり後で、他の作品だったが、すぐには思い出せない。

ただ、彼女の名前の「のりこ」は、「てんこ」と読めば、蔵原惟繕監督、石原裕次郎、浅丘ルリ子主演の「典子3分作」の『銀座の恋の物語』『何か面白いことないか』『憎いあンちくしょう』の、榊田典子になる。

これは、シナリオライターの山田信夫が、松本典子と知り合い、気にいって主人公にその名テンコを付けたと聞いたことがある。

                                         

意外な作品では、東映よりも先にヤクザ映画を日活がやった、石原裕次郎、浅丘ルリ子の『花と竜』にも出ていて、なんと芸者役で着物姿である。

舞台では、蜷川幸雄演出、清水邦夫作の『タンゴ、冬の終わりに』が良かったと思うが、この時は見て正直に言って、「随分と年をとられたな」と思ったものである。

今回の極めて早い死で考えれば、そのころから病は進行していたのだろうか。

知的で、少し冷たさも感じさせる特異な美人女優のご冥福をお祈りする。

ああいう知的な女優は今はいないのは、時代の性だろうか。