指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

寺内大吉死す

2008年09月08日 | 映画
直木賞作家寺内大吉氏がなくなられた。88歳。
彼は、テレビのキックボクシングの解説者で有名だったが、映画の原作者としても面白い作品がある。

増村保造の傑作『セックス・チェック 第二の性』、さらに西村昭五郎の『競輪上人行上記』も大変面白いものだった。

『セックス・チェック』は、数年前にテレビで『仮面の女』としてリメイクされたので、見た人も多いだろう。
短距離のすごいスプリンター安田道代をヤクザなコーチ緒方拳が発掘するが、実は「ふたなり」(おとこおんな・両性具有者)で失格なので、緒方は安田と日夜セックスに励んで完全な女性にすると、今度は選手としては駄目になるという皮肉な話。
『競輪上人行上記』は、競輪にのめりこみ、ついには坊主姿の予想屋になってしまう男小沢昭一の物語。
後に、日活ロマンポルノで最多作を記録する西村昭五郎監督の監督デビュー作である。
これなど、寺の住職という職業が、社会の裏側や実相までも見る実体験を生かした作品だったと思う。
自ら言った「なまぐさ坊主」のご冥福をお祈りする。
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『街角の歌』

2008年09月08日 | 演劇
土曜日の夜、鶴見公会堂で区民ミュージカル『街角の歌』を見る。
5月の高校生ミュージカル『やし酒飲み』でお世話になった村上芳信さんからご案内をいただいた。

話は、高校生、小学生らが鶴見の街を知ろうと町探検する中で、様々な人と出会うというもの。
結論的に言えば、ドラマ性が少々弱いが、音楽は大変良かった。
途中、春と冬の天使たちが出て来るが、季節の対立をもっと劇として突っ込めば「地球温暖化問題」にまで行っただろうに。
ここで、また街探検に戻る必要はない。
劇作的に言えば、「起承転結」の「転」で、ドラマとして最初と違う方向に行った方が面白かったと思う。

だが、51人という出演者がすごい。
しかし、開幕して少しづつ出すと言うのは、大変奥ゆかしい手だが、表現方法としては上手いやり方ではなかったと思う。
車掌役が「鶴見! 鶴見!」とコールし、幕が上がったとき、51人全員をステージで見せてテーマ・ソングを歌えば、それでさらに盛り上がったと思う。

高校生や中学生の女の子は、声がよく出ていて安心して見られた。
中に、鶴見の日系ブラジル人の子だと思うが、圧倒的にダンスが上手い子がいて、序幕ですぐ目に付く。
ブラジル、そして沖縄は、鶴見の「歴史的遺産」であり、今後是非題材として取り上げてもらいたいと思う。
そこには、「負の歴史」もあるが、それも街の遺産であるのだから。
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幸福はどこに 川崎ラゾーナにて

2008年09月08日 | 都市
土曜日、川崎市民ミュージアムで木下恵介の『この天の虹』を見た後、バスで川崎駅に出る。
西口に出来た「ラゾーナ」に初めて入る。東芝堀川工場跡の、巨大なショッピング・センターである。
1階から4階まで巨大な吹き抜けのアトリウムになっている。
公共部分が広く、快適な空間になっている。商品は極めて多く、種類も多彩のように思える。
若者を初め、幼児連れの若夫婦が多い。
川崎は田園都市線沿線や臨海部の工場跡などにマンションが建設されていて、少子高齢化の中で人口は微増していて、子供や若者の比率も高い。
ここの商圏は、川崎はもとより、横浜の鶴見、港北あたりまであるだろう。

客の表情を見ていると、皆幸福そうな顔をしている。
その裏にどのような事情があるかは分からないが、こうした「ハレ」の場に来た時は、幸福感に浸りたいのが人間の気分である。
木下の『この天の虹』では、大企業一家に属することが幸福だったが、ここでは豊富な商品が溢れている場を散策することが幸福であるように見えた。
それはそれで幸福なことだろう。
今の世の幸福は、こうした場で実現されるのだろうか。
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