指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

太陽族的野合はいつからか

2008年09月07日 | その他
川崎市民ミュージアムでの木下恵介の『この天の虹』は、様々なことを想起させる作品だった。
その一番が、工員高橋貞二が、自分が好きな久我美子にプロポーズするため、鹿児島からわざわざ母親浦辺粂子が来て、上司の笠知衆に菓子折りを持って来て依頼し、そこで笠が久我の父親織田政雄に頼むことである。

昭和33年頃、このような回りくどい求婚方法を取ったのだろうか。
言うまでもなく昭和29年には慎太郎の『太陽の季節』が出て、太陽族映画が続々と作られた。
木下恵介も、2年前に映画『太陽とバラ』で、太陽族に翻弄される貧乏人の息子中村賀津夫を描き、太陽族に疑問を提出している。
しかし、如何に北九州という地方とは言え、結婚の申し込みに、こんな他人を介在させるやり方を取っただろうか。
むしろ、太陽族的野合は、地方の方が常態であったように私は思う。
万葉集の歌垣などは、言ってみれば若者の「野合集会」であったのではないかと私は邪推している。
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『この天の虹』

2008年09月07日 | 映画
昭和33年に公開された木下恵介の監督作品で、公害企業を賛美したとして評判が悪く、ほとんど上映されたことのない映画。
今月、川崎市民ミュージアムは、川崎市でも公害局がなくなったのを機会に、日本の公害映画を特集しようとの企画で見る。
確かに、この天の虹とは、九州八幡市(現北九州市八幡区)の八幡製鉄所(新日本製鉄)の溶鉱炉から出る煙を七色の虹にたとえているのだから、ぜん息に苦しむ患者が見たら、怒り心頭だろう。

従業員2万人の工場の様々な作業が紹介され、近代的なシステム、福利厚生施設も紹介される。
そこで働くことは、まるで天国で、ほとんど八幡製鉄のPR映画である。
社宅、病院、体育館・プールからスーパーのような購買部まで、生活のすべてが会社によって運営されている。
「企業城下町」という言葉があったが、まさにその典型だろう。

話は、工員の高橋貞二が秘書課の美人久我美子にほれて、結婚を申し込むが、断られ、久我は以前から好きだった幹部技術者の田村高広と結ばれる、と言うもの。
その間に、高橋や川津裕介、さらに笠知衆、織田政雄らの現場の労働者、ここでは工員、作業員と言われている、田村、須賀不二夫、細川俊夫らホワイトカラーとの対立、差別が描かれる。

一番驚いたのは、高炉台公園があり、多分会社が作ったものの他、水道の貯水池まで会社が持っていたこと。
製鉄は水を多量に使用する(昔、横浜市で水道局の最大供給者は、日本鋼管、後には麒麟麦酒だったが、今は多分みなとみらいのクイーンズ・スクエアあたりの商業施設だろう)ので、工場建設には浄水設備が必要だったのだろう。現在は、どうなつているのだろうか。
多分、北九州市水道局に移管されていると思うが、当時は八幡製鉄の力は、それだけ大きかったのだろうだろう。

だが、新日鉄八幡工場は、1980年代に撤去され、スペースワールドなる遊園地が出来たが、それもバブル崩壊以後潰れた。
今は、どうなっているのだろうか。
時代の変化を考えさせられる作品だった。
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