猫じじいのブログ

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小泉悠は『現代ロシアの軍事戦略』で新しい戦争観を提供する

2022-10-18 23:33:55 | ロシアのウクライナ軍事侵攻

3日前から小泉悠の『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)を読み始めている。自称、軍事オタクの小泉であるが、けっして、兵器オタクの書ではない。最近メディアに出てくる防衛省防衛研究所の面々より、広い視野で論じている。したがって、本書のタイトルは「軍事力」でなく「軍事戦略」である。

本書の特徴はつぎにある。

第1に、ロシアの立場にたって世界情勢を分析している。ロシアからすれば、アメリカの包囲網がどんどん狭められている。昔の東側の国々がNATOに加盟するようになっている。アメリカの軍事力のほうがロシアの軍事力より格段と上である。世界大戦への拡大を避けないといけない。しかし、これ以上、NATOの拡大を防がないといけない。

第2に、国家の意思というものを国の権力者の意思としてとらえている。国が利害の異なる集団からできており、国と国との戦争は、権力者同士が、自分のために、支配下の国民を使って、戦っている。自分の権力を守るために、必ずしも、敵を倒す必要がなく、自分が倒されなければ、持久戦でも良い。

第3に、権力者から見れば、相手の権力者と対峙するとき、直接相手に軍事力を使うだけではなく、相手の支配下の国民から権力者と対抗する勢力がいるなら支援すれば良いのである。立場をひっくり返せば、自分の権力に屈しない国民の勢力が現れるなら、敵に利用されていると徹底的に叩くことになる。

第4に、最終的に、暴力が戦いを制する。しかし、暴力は高価である。

したがって、小泉愁は、カール・フォン・クラゼヴィッツのように戦争は外交の延長と考えない。国家と国家とは常に戦争状態にあり、第3の視点からハイブリッド戦争となる。何でもありの戦争なのだ。

小泉によれば、ウクライナのオレンジ革命はアメリカ側の権力者層が仕掛けたものとロシア側の権力者層が考えている。私も、1990年の初頭に始まった東ヨーロッパの権力のひっくり返し(革命)には、アメリカのCIAや右翼団体の支援があったとみている。アメリカ側から見れば、これは正義の実現であり、ロシア側からみれば、軍隊を使わなかった扇動による戦争である。

もっと以前になるが、私の子ども時代、圧倒的なアメリカ文化にさらされ、地方都市にも、アメリカ文化センターがあった。私の兄も私もポップと言えば、アメリカの流行歌である。年寄りだけが、日本の流行歌を歌っていた。アメリカの情報戦の中でアメリカは素晴らしいと洗脳されて育ったのである。

ロシアがウクライナに軍事侵攻したというのは、情報戦で埒があかないことの、ロシアの権力者の焦りであろう。しかし、ウクライナ側が持ちこたえているのは、アメリカやイギリスの支援のおかげである。兵器の支援もあるが、アメリカの情報戦が今のところ優勢である。

小泉の展開した議論を日本に当てはめて分析しても、面白いのではと思う。