12月14日のことですからニュースとはいえませんが、深セン市のスーパーで将棋倒し事故が発生しました。
事故そのものは他愛もありません。スーパー「人人楽」前海店が客寄せのためのセールを行ったところ、予想外の人数が殺到して大行列。これが開店と同時に一気に店内へとなだれ込んで誰かが転んだのをきっかけにバタバタとドミノになったものです。幸い負傷者3名を出したのみで死者はなし。
何でそんなに人が集まったかといえばこのセール、時間限定・数量限定で鶏卵を1元3個で販売すると銘打ったものだからです。物価高を反映する話題ではないでしょうか。これを報じた『南方都市報』も記事本文は一面ではありませんが、大見出しを一面に掲げています。編集部も「卵を買うために将棋倒しが起きた」というこの事故を「物価高=家計のやり繰り悪化」を象徴するニュース、と捉えたのだと思います。
●『南方都市報』(2007/12/15)
http://www.nddaily.com/H/html/2007-12/15/node_2792.htm
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御存知の方も多いでしょうが、今年に入ってから中国の消費者物価指数(CPI)の上昇が止まりません。「警戒ライン」と当初されていた「3%」(前年同期比、以下同)を3月には早くも突破し、6月に4%台にはね上がると翌7月には5%台に乗って、8月以降は6%台をキーブ。そして最新統計である先月(11月)にはとうとう6.9%にまで登り詰めました。以下がその推移です。カッコ内の数字は今年の物価上昇の牽引役である「食品価格」の上昇率。
1月:2.2% (5.0%)
2月:2.7% (6.0%)
3月:3.3% (7.7%)
4月:3.0% (7.1%)
5月:3.4% (8.3%)
6月:4.4%(11.3%)
7月:5.6%(15.4%)
8月:6.5%(18.2%)
9月:6.2%(16.9%)
10月:6.5%(17.6%)
11月:6.9%(18.2%)
中国の統計というのは信頼度が低く、例えばGDP成長率などでは国家統計局が調べて発表する数字と各地から上がってくる数字の間に大きな差があったりして(記憶モードですが全国平均で数ポイントも違っていた筈)、事態を深刻視した中央が特別調査チームを組織して全国ツアーをやらせたりしています。
上の数字は国家統計局によるものですが、どこまで信頼を置いていいのかはわからないものの、実情より悪い数字を発表することは考えにくいので、
「最低でもこのくらい物価が上がっている。現実はもっと厳しいかも」
と考えておけばいいかと思います。
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ちなみに1~11月の平均上昇率は4.6%。……と11月の統計まで出揃ったところで、国家統計局は通年でのCPI上昇率を、
「4.7%前後」
と試算し、通年としては1996年以来の上昇幅になるだろうと予測しています。おやおや。
●「新華網」(2007/12/11/10:13)
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-12/11/content_7228966.htm
何が「おやおや」かといえば、当の国家統計局長が11月末に発表した見通しを越えてしまったからです。
●「新華網」(2007/11/23/11:42)
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-11/23/content_7131987.htm
国家統計局の謝伏瞻・局長が11月22日、中国の消費者物価指数(CPI)が月間値で前年同期比6%前後の上昇というペースは今後もしばらく続くだろうとの見方を示した。今年通年のCPI上昇率について謝伏瞻は「4.5~ 4.6%台」との見方を示し、この状況を「依然として受け入れられるレベル」だとしている。
要するに中国の物価上昇は国家統計局長からみて「依然として受け入れられるレベル」を早くも越えてしまったことになります。
さて、物価高の牽引役は食品価格だとしましたが、最新統計(2007年11月)でもその傾向に変化はなく、CPI上昇率6.9%を分類してみると(▼=下降)、
●総合(CPI上昇率) 6.9%
食品価格 18.2%
非食品価格 1.4%
消費材価格 8.4%
サービス関連価格 2.3%
衣類価格 1.4%▼
交通・通信価格 1.4%▼
娯楽・文化用品・サービス価格 0.5%▼
18.2%高という食品価格の突出ぶりが目につきます。毎日三度口にするものが際立って高騰していることがよくかわるかと思います。庶民にとっては痛いことでしょう。
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その食品価格についての内訳は以下の通り。
●食品価格総合 18.2%
穀物 6.6%
油脂 35.0%
肉類・肉類加工品 38.8%
生卵 10.0%
水産物 6.8%
野菜 28.6%
果物 12.9%
調味料 4.0%
肉類・肉類加工品の中で目を引くのが豚肉で、11月は56.0%高。消費者にとって物価高が痛いのはもちろんですが、中国はジニ係数が0.48にも達しようかという超格差社会。
●「新華網」(2007/12/11/10:05)
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-12/11/content_7228886.htm
●「新華網」(2007/12/11/11:38)
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-12/11/content_7229589.htm
●「新華網」(2007/11/15/13:24)
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-11/15/content_7079815.htm
●貧富の格差はすでに警戒水準、指導部は高度に重視すべし(新華網 2005/09/19/16:54)
http://news.xinhuanet.com/fortune/2005-09/19/content_3512402.htm
現在の中国国民を収入や消費で5段階に分けた場合、最貧困層である総人口の20%が収入や消費で全体に占める割合はわずか4.7%。逆に最も金持ちな20%の収入・消費シェアは全体の50%に及ぶ。
要するに「超格差社会」であるために、「一人当たり平均」「1世帯平均」では実情を捉えにくいということです。そもそも統計自体に信が置けるかどうか、ということはとりあえず措くとして、一例として北京市が都市部住民3000世帯を対象に実施した調査をあげておきます。
この調査によると、北京市都市部の1世帯平均可処分所得は2万185元で前年同期比14%増、物価上昇分を割り引くと実質11.5%増となります。
ところがこの3000世帯を収入を基準に五段階に分けて「格差」をみてみると、Eランク(収入が最も低い20%)の平均可処分所得は9530元で前年同期比15.7%増。これに対しAランク(収入が最も多い20%)の平均可処分所得は3万7522元で同14.7%増。AランクとEランクとの間の格差は3.94:1にもなります。
つまり大雑把にいえば現在進行している物価高は「残り8割」にとって正に深刻な、文字通り台所を直撃するもの。しかもその勢いが来年も続く見通しとされていますので、社会の抱えるある種のリスクの高まりは避けられないところでしょう。
●「新華網」(2007/12/14/16:06)
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/14/content_7249392.htm
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そのリスクの高まりがもはや無視できない段階に入っていることを裏付ける調査も発表されています。「中国社会形成分析・予測研究班」が1998年から毎年行っている調査で、中央党校で研修している庁クラス幹部を対象にしたアンケート。いわば地方当局の前線指揮官レベルが現今の中国社会の状況をどう捉えているかをみるためのものです。調査対象は170名で有効回答が154。
まずは2007年の中国社会情勢についての全体評価について。「非常に良い」「割と良い」という回答が87.6%を占め、これは2005年(79.0%)、2004年(69.1%)を上回る数字です。……ところが、
「2007年の中国社会において存在する未だ解決されない深刻な問題は?」(4項目を選択)
になると、深刻度ナンバーワンに「物価高」が登場。「得票率」は実に42.1%にも達しました。過去の数字、例えば2003年(1.8%)、2004年(8.4%)、2005年(2.1%)などに比べると、ゴボウ抜きで突如トップに躍り出た観があります。
「社会情勢の安定度のバロメータは何?」
という質問でも「物価が安定しているかどうか」という回答が多数を占めた点が以前と比較した上での歴然たる変化。前線指揮官たちにとって「物価高」はこれまで1位と2位を定位置としていた「収入格差」問題と「汚職」問題を差し置いて、最も懸念されるテーマになっていることが明らかになりました。
●「新華網」(2007/12/14/07:07)
http://news.xinhuanet.com/politics/2007-12/14/content_7246042.htm
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以前にも指摘しましたが、「汚職」というのはそれで潤う人と迷惑する人がある程度限定され、案件ごとに社会全体がグラグラ揺れるという性質のものではありません。そういう「局地戦」でも例えば都市再開発や農地収用問題にまつわるトラブルで連日のように暴動が頻発しています。
ところが、地方幹部がいまやそうした「汚職」や、
「仇富心理」(金持ちへの反感)
という言葉が定着するほど深刻になった「貧富の格差」よりも、「物価高」がまず懸念されると回答しているのです。これは「局地戦」ではなく、改めて大雑把にいえば「残り8割」の住民が迷惑を被る問題です。農村暴動のようにすぐ火がつくという可燃度の高さこそありませんが、もしいったん火がついてしまえば、「局地戦」とは比較にならないほどの炎上ぶりをみせることになるかと思います。
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……ちょっと時間的余裕がないので本日はここまでで御容赦の程を。主題に入る前にとりあえず現状紹介ということで。「物価高」が中国社会の不安定要因として急速に台頭し、いまや「貧富の差」「汚職」などよりも懸念されている問題だということは御理解頂けたかと思います。
これはひょっとすると、価格改革によってスーバーインフレが発生して趙紫陽・総書記(当時)が経済運営の主導権を手放さざるを得なくなり、保守派による引き締め政策に一転した1988年以来の事態かも知れません。
ひとつ余計なことをいうと、この保守派の台頭に懸念した改革派の政治家や知識人が挽回を図って東奔西走したことが、翌1989年の民主化運動~天安門事件が生起する上での重要な伏線、いわば舞台づくりとなります。
ハーフタイムです。m(__)m。
(「中」に続く)
エントリーに関係無い上に事件自体は古いので、もし御存知だったら、ごめんなさい。
http://duan.jp/link/20071010.htm
9月に大連の遼寧師範大学内に住む、日本から留学に来た在日華僑2世の女の子(18)が自室で68個所刺されて殺されました。自分は大連に住んでいますが、被害者の親族が犯人を極刑にするための署名活動をしていて、先日初めて知りました。
犯人は被害者宅のADSL工事に訪問しただけで、知り合いという訳じゃないみたいだから、どんな怨みでこんな無残な殺し方をするのか不思議です。
犯行後ネットカフェに行ったりしている所を見ると、もしかしたらネットかぶれの愛国青年が被害者を日本人だと思って、国辱を晴らすためになぶり殺しにしたのかと、薄ら寒くなりました。
大連では11月末にも路上で日本人が刺されたばかりです。中国に住む日本人のみなさま、十分に御注意を!
http://www.dalian.cn.emb-japan.go.jp/regionalinfo_76.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジニ係数
御指摘ありがとうございます。私の誤記でした。……なんか最近増えていますよね。タイプミスとかも結構ありますし。歳でしょうか。orz
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