I某 様
海坊主の御家人です。昨日はお忙しいなか御時間を割いて頂き誠に有り難うございました。
『F痛』 の台湾版、素晴らしいです。台湾市場で2万部、というのは出版社にとっては苦しい数字かも知れませんが、日本との同時発売は非常に価値ある試みというべきものです。お話を伺いながら以前の状況を回想しつつ、ただただ瞠目するばかりでした。【※1】
取材について無理な御願いをしてしまいましたが、同業他社ということでNG、というのは至極当然のことですので諒解致しました。【※2】
ただ一点、お話をお伺いしていて気になったことがあります。私がコラムを連載している『××』をはじめ香港のACG系週刊誌について、I様が御社・香港版月刊誌にとっては「ライバル誌」だとの表現で語られていたのは如何なものかと。【※3】
昨日申し上げたように、私は日中関係や台湾問題を含め現代中国の抱える諸問題がいつも頭の中を占めております。テレビゲームについては一種の総合芸術として高く評価してはいるものの、片手間ほどの興味すら持ち合わせていません。ただし副業とはいえ仕事には魂を込めているつもりですし、現地でも相応の評価を頂いております。
ですから私自身はどうでもいいのですが、香港のACG系週刊誌の編集者たちの気持ちを慮ると、鳴かず飛ばずで隔週刊から月刊誌に堕ちた翻訳雑誌にライバル扱いされるのは片腹痛く、連中は一種の侮辱とも感じることでしょう。「競合誌?おいおい冗談だろ(笑)」という言葉が返ってくるに違いありません。
いわゆる風馬牛、勝負している次元が全く異なるからです。香港市場に対しI様が如何なる認識をお持ちなのか理解に苦しみますが、競争関係すら存在しない以上、「同業他社の週刊誌」とでも表現するのが現状に対する正しい態度かと思います。【※4】
私とは旧知にあたるM様が御存知かと思いますが、香港・台湾在住時代の一時期、私はゲーム雑誌を擁する出版社の正社員で(『××』では昔も今も外注コラムニストにすぎません)、東京に出張してはソフトハウス各社を回って素材を提供してもらい、それによって編集部に誌面を作らせるというスタイルを頑に通しておりました。【※5】
ですから私個人は、『××』を含め香港のACG系週刊誌の編集スタイルには全く賛同できませんし、許せません。御存知のように、連中は知財を平気で無視しているからです。【※6】
それでも私がコラム連載の求めに応じているのは、私が非力だからに他なりません。オリジナルの記事を書くことで業界内の後進にある種のノウハウを伝えるとともに、多少でも範を垂れることで「編集者としての矜持を持て」というメッセージを示すことくらいしか私にはできない、といったところです。
一方で、日本側に諸事情があるであろうことは承知しておりますが、知財を踏みにじる香港のやり方に対する不作為にも私は歯がゆさを感じています。【※7】
極めて遺憾なことですが、日本側がアクションを起こさない以上、現地では「やったもん勝ち」という香港人独特の行動原理がまかり通ります。自浄作用などはまず期待できません。
まあ、日本にも過去に情報公開規制を無視した「◯ラゴンクエスト」のフライング攻略記事掲載という掟破りを敢えて犯して読者を集め、それが飛躍のきっかけとなったゲーム雑誌があり、かつ現存していることはI様も御存知かと思いますが(笑)。【※8】
ともあれ日本側から掣肘が加えられないため、頭に乗った連中による「やったもん勝ち」が横行し、「No money, no talk」というこれまた香港独特の価値観で全てが語られることになります。
雑誌の場合、その具体的表現は当然ながら販売部数です。この点において、御社の香港版月刊誌からライバル扱いされ、同列に論じられることに対して、香港各誌は侮辱を感じることと思いますし、地元ゲーマーは嘲笑を以てそれに報いることでしょう。【※9】
同じ理由から、私が香港のACG系週刊誌にコラムを書いていることは、香港ゲームメディア業界に僅かであれ好影響をもたらしているでしょうが、御社の香港版月刊誌にとって脅威になることは全くないであろうと確信しております。【※10】
I様のお仕事上、台湾及び香港のゲームメディアに関する現状把握は必要なものかと愚考致します。この点につき、香港市場の健康的な発展を促進する上でも地元読者のニーズをも含めたより広く深い情報収集に精励して頂ければ幸いです。【※11】
最後になりましたが、『F痛』 におけるH社長のコラムには啓発されることが多く、これからも毎号楽しみに拝読させて頂くことになると思います。ゲーム万歳に偏することなく、常識ある成熟した社会人としての分別がコラムの内容に反映されるよう、心より期待しております。【※12】
『F痛』台湾版の武運長久を心よりお祈り申し上げます。【※13】
頓首再拝
御家人
2007年7月6日
【※1】瞠目してる訳ねーだろ。公称2万なら実売は話半分の1万前後か、よくて1万5000部。コスト考えたら本当に2万部売っててもビジネスとしては赤字だろーが。でも努力は認めてやる。ひと昔前なら考えられなかったことだからな。快挙だと思うぜ。まあ結局は翻訳雑誌の限界を痛感することになるかも知れんが、台湾ならひょっとしたら大化けする可能性もある。ま、そのときまで現地の出版社が我慢できればの話だけどな。
【※2】ていうかそういう口実を設けて毒を吐きに行ったんだ。ごめんなー。だけどそうでもしないとお前らと仕事上の接点なんかないからな。実際6年ぶりだったし。だいたいお前らも考えればわかるよな、社長のHを筆頭にお前らの会社取材しても読者はちっとも喜ばねーことぐらいは。空疎だからなー。別の意味でならネタ満載なんだけどさ。(・∀・)ニヤニヤ
【※3】お前の頭のネジ数本飛んでんじゃねーか?ってことだよ。自己肥大もいい加減にしとけ。
【※4】ひからびた翻訳糞雑誌(しかも月刊)と同等に論じられるのは迷惑だし侮辱だってことだよ。だいたい数字を考えろよ。販売部数がひとケタ違うだろーが。
【※5】思い出したくもねー過去だな。あのころは日本側の香港に対する「海賊版天国」ってイメージを少しでも改善しようと随分無理したもんだぜ。わざわざ着たくもないスーツを着て(日本の業界じゃふだん着る必要ねーだろ?)、髪型整えてきっちり決めてな、要するにビジネスマンのコスプレだ(笑)。そうして素材をもらいにメーカー各社を訪ねては「いい人」「真面目な人」を演じてペコペコしていたもんだよ。いまはそのくびきから解放されているからスーツも着てないし海坊主だし、お前らの面前で遠慮なく毒を吐かせてもらってるって訳だ(笑)。
【※6】俺が台湾の出版社に引き抜かれて香港業界の渉外担当を辞めてから、香港の奴らはモラルがガタ落ちして日本の雑誌の記事をスキャンして丸パクリしたり切り貼りして編集するようになったからな。あとネット上のゲームメディアからも勝手に素材をコピペして使ってるし。ちょうど不景気に入ったばかりの時期で、コストがかからないから経営者がまたそれを後押ししてな。それを知って俺はもう外注コラムニストという形でしか香港の業界と関わらないことを決めたんだよ。
【※7】グタグタ御託並べていないで少しは取り締まれってことだよ。それができないなら既存の香港各誌を潰せるくらいの良い雑誌を週刊で出すことだな。まあお前らには逆立ちしても出来ないだろーが。そもそも香港で翻訳雑誌は糞扱いってこと知ってるか?タイムラグが大き過ぎるしニュースも新作紹介も攻略も内容が中途半端だからだよ。あと本当にコアな連中は和書専門店とかに行って原文版(日本語)を買うからな。試しに台湾版『F痛』を投入してみりゃわかることだ。
【※8】お前らの雑誌のことだよ。部長って言っても経験値の低いオサーンには初耳かも知れねーけどな。
【※9】嘘だと思うなら香港のアキバ系が集う掲示板のぞいてみな。ていうか中国語要員もいないのか、お前らの部署?じゃあ俺がせっかく準備して渡してやったコラムのサンプルとかも豚に真珠って訳か。まあニーハオから地道に勉強してくれや。
【※10】お前らの翻訳糞雑誌は元々売れてねーからな。香港に少しも貢献していないんだよ。真面目な話、赤字垂れ流して輪転機を回しても俺が週刊誌で書いている8頁(2頁×4)ほどのインパクトも与えられないっていうのは出版社としてどーよ?
【※11】お前の前任者も無知だったけどな。ところでお前らの月刊糞雑誌、歴代編集長はみんな香港にいたころ俺と苦楽を共にしていた若い衆なんだよ。だからお前がいくら取り繕ってもコストから実売部数まで情報筒抜けになってるぜ。あいつら今でも日本に来ると挨拶に来てくれるし、俺も一席設けて昔話に興じてるからな。そのときにみんな教えてくれる訳だ。色々な数字からお前らの無能ぶりに対する愚痴までな。
【※12】これについては面と向かって色々言わせてもらったから省略してやるよ。ま、現象の上っ面ばかりなぞっていないでもう少し洞察力持てとでも言っといてくれ。Hにとってはスキル的に無理な注文だろうし、業界の『人民日報』としては真実を書くなんざ出来ない相談だろうけどな。
【※13】これはマジでそう思ってる。一時期は台湾市場を相手にしてたから思い入れがあるんだよ。間違いなくお前ら以上にな。
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【※注】今回のエントリーの内容は全てフィクションであり、実在する組織や個人とは一切無関係です。呵々。