香港(香港行政特別区)のことです。
中共政権下にあって報道の自由、思想の自由、信教の自由、表現の自由などが保証され、立法機関である立法会全60議席のうち、わずか半分ではありますが30議席が直接選挙によって選出される。しかも現在、さらなる民主化である立法会の全面直選化や香港のトップである行政長官の直接選挙化、つまり普通選挙制度に向けた模索が公に行われている。
そんな場所は中国において香港しかありません。
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その香港でこの数カ月来、特にこの1カ月ばかり、政治改革に関する激しい綱引きが行われていたことは当ブログでも既報しております。
●「一二・四」民主化デモに中共は心臓バクバク。(2005/11/30)
●続・香港――中共必死だなw(2005/12/01)
●所詮は籠の中の鳥――それでも。(2005/12/06)
中共の意を受けた曽蔭権・行政長官が示した政治改革案はロードマップがあるものの、それにタイムテーブルが付随していませんでした。それに民主派が反発して市民を巻き込んだ議論が行われ、12月4日に行われた民主派のデモが予想以上の参加者を集めるという中共・曽蔭権政権にとって不測の事態となりました。
民主派の当初の主張は2007年(行政長官選挙)及び2008年(立法会選挙)時点での完全直選化でした。そういう具体的な時間表がついていなかったために、最終的には普通選挙制に移行させる、といってもそれがいつになるかという裏付けの全くない政府案は反発を浴びたのです。
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最初に説明しておきますと、現在の立法会は30議席が直選枠、残り30議席は「功能別」(業界別)の選出枠で、業界別選挙の有権者は限定され、事実上親中派が当選しやすい仕組みになっています。直選枠の30議席については常に民主派が圧勝していますが、親中派も獲得議席があり、結果として立法会の過半は親中派によって占められている状況です。
行政長官の選出はもっとぶっ飛んだシステムで、ほぼ親中派に独占された400名だか800名が有権者として投票し、中共のお望み通りの出来レースを完成させるというものです。人口700万人の香港にあって400名や800名が「民意の代表者」となってトップを選出するのですから呆れて物が言えません。
さらにいえば、そういう出来レースで当選した行政長官を、中共政権の立法機関である全人代(全国人民代表大会)常務委員会が承認して初めて選挙が有効となり、当選が認められます。……この部分は香港基本法(ミニ憲法)の附則に明記されています。
つまり、たとえ行政長官の直接選挙制が導入されたとしても、香港市民が選んだ候補者が中共の意に沿わなければ、当選は無効とされてしまいます。つまり「なんちゃって普通選挙制」であり、あくまでも籠の中の鳥に過ぎないのですが、それを知りつつ、それでもなお民主制度下の構成員たる権利を求めようとする香港人に、私はある種の切なさを感じるとともに、香港人が「植民地の奴隷」から「市民」へと確実に変貌しつつある姿を見てとるのです。
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さて懸案の政治改革案です。曽蔭権政権のタイムテーブルなしのロードマップに対し、民主派はタイムテーブルを付した独自の改革法案を準備しました。そして12月21日、立法会においてそれらに対する表決が行われました。結果は両案とも否決、です。
ところで、恥ずかしながら私は勘違いをしていました。過半数の賛成で法案が成立するものと思っていたので、現在親中派が多数派を形成している立法会で政府案が通過するのは容易だと考えていたのですが、実は3分の2の賛成票が必要だったのです。
ところが、そうなると親中派の票だけでは足りないため、民主派から寝返り議員を出す必要がありました。このため曽蔭権政権はこの一週間そのための工作に全力を挙げてきたのですが、民主派の結束は固く、寝返り議員はわずか数名。結局親中派も3分の2に届かず、少数派である民主派もこれまた票不足。そのために両案とも否決、と相成ったのです。
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さて、立法会での議決結果については姉妹サイト「楽しい中国ニュース」で速報した通りです。
◆香港立法会、中共推奨の政治改革案を否決。
http://hk.news.yahoo.com/051221/12/1js3b.html
謀反でござる。これによって民主化が加速されることもないが、中共も顔に泥を塗られた格好。普通選挙制先送りでも無問題。今後も一党独裁の弊害を象徴する孤塁として、欧米に民主化・人権問題で介入する口実を与え続ける、それが香港の存在意義。
このコメントに全てを凝縮させてしまったのですが、つまりそういうことなのです。両案とも否決で喧嘩両成敗のようでもありますが、実際には統治者たる中共の推す政府案が没になったことで、中共の面子が潰され、その威信に傷がついた格好です。それ故に実質的には民主派の勝利ということができるでしょう。……もっとも民主派の改革案も否決されていますから、これで民主化が加速する訳ではなく、政治改革についての議論は仕切り直し、ということになります。
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民主派はあくまでもタイムテーブルつきのロードマップを求めており、より現実的な案として次の次である2012年(行政長官選挙・立法会選挙)での普通選挙制導入を目指す形で固まりつつあります。対する曽蔭権政権にしても普通選挙自体に反対している訳ではありませんから、今後はロードマップの内容(例えば段階的にやるのか、一気に全面直選化とするのか)、それに具体的なタイムテーブルが焦点となってきます。
しかし現在の香港市民を「籠の中の鳥」と表現し得るように、香港は実質的に中共政権の植民地です。カギを握るのはやはり中共が今回の結果をどう捉えるかということになります。以前も書きましたが、中共の本音は普通選挙などもってのほか、というところでしょう。直接選挙で香港市民が選んだ行政長官候補者を承認しないことはできますが、それをやると国際的イメージに響きますし、民主化・人権問題で欧米が介入しやすくもなります。
そして突き放した見方をすれば、普通選挙制が導入されなくてもいいのです。天安門事件(1989年)追悼集会の開催や法輪功の活動が許されている現状を維持してさえいれば、香港は中共政権による一党独裁制という非道を際立たせる孤塁として、その存在自体が国際社会へのメッセージとなるのですから。
……もちろん、全面直選化が実現すればいよいよその存在が輝きを増すことになるでしょう。ただ中共もそうした香港の存在意義を失わせる手を打とうとするでしょう。具体的には香港基本法第23条に基づいた「国安条例」法案の再提出で、前回(2003年)はあまりにグレーゾーンに満ちた内容で政治犯を量産しかねないことに市民が反発し、歴史的な50万人デモでこれを廃案に追い込みました。もっともこの「国安条例」、曽蔭権行政長官は2007年までの任期中にこの法案の再提出は行わないと明言してはいます。
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ともあれ政府案が否決されたことで、翌日の親中紙『香港文匯報』『大公報』(2005/12/22)はいずれも脊髄反射して弾劾調の社説を掲載しています。民主派の動きを「民主化の進展を阻み、歴史を後退させるもの」と難詰しているのは、政府案のロードマップを否定したことで民主化が遅れることになるぞ、という恫喝めいた物言いですが、香港市民がタイムテーブルのないことを問題とした訳ですから民意に従わなければなりません。政府案に対する反対票は全て直選議席枠で当選した、つまり民意を代表した議員によるものです。
中共政権が香港の民意を汲んで譲歩するか、それともあくまでも我意を通そうとするかは胡錦涛政権の内政面でのスタイルを反映するものですから注目に値します。それを横からじっと眺めている台湾の存在も忘れてはなりません。庶民派を偽装していた温家宝の化けの皮がいよいよ剥がされそうで楽しみです。
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なるほど大陸CHINAそのものが共産党の植民地構造で有る上にすでに外資企業の経済的植民地と見ることも出来るわけですが、さらにその植民地の植民地である香港の立場はこれは世界的に見るとどういう立場なの??という無駄話を香港人としてきたところです。結論は巨大なエンジンとスクリューを作って香港島ごと移動しちまえ、ということでお開きになった夜でありました。駄文失礼致しました。
ちょっと興味あるかもw
愛国者同盟網が、日本の毒ガス問題のからんだ銭争いで民事裁判で負けたらしいのですが、BBSに判決文のスキャン画像がうpされています。
中国の裁判所のマークやハンコとかが見られて面白かろうかと思います。
ttp://bbs.1931-9-18.org/viewthread.php?tid=188605&extra=page%3D1
http://www.zaobao.com/gj/zg051223_508.html
確かに「籠の中の鳥」である香港人民主派の閉塞感や現状への不満が良く伝わってきました。
このような直接選挙制への攻防が香港で行なわれているという状況を本土の支那人はそもそも認識・理解しているのでしょうか?
本土の新聞やTVに出る類の話ではない(報道抑制の対象)ぐらいは容易に想像が付きますが、様々な噂が庶民の間で流布されている筈と推測します。
羨ましく(妬ましく)思っている、それとも「ふーん」と対岸の火事視して興味も無い、はたまた目出度くも愛国教育の成果で「民主主義」に反感を持っている、民度が低すぎて理解できない、どんな感じなのでしょうかね?
>巨大なエンジンとスクリューを作って香港島ごと移動しちまえ
それでは九龍と新界が可哀想です。それから水も電気も足りないですし親戚のいる広東省にも帰れなくなってしまいます。ここはひとつ超巨大エンジンとスクリューを造って広東省から香港島までを(以下略)
>>Nさん
移民先、という意味ならカナダ、オーストラリア、アメリカあたりが主流のようです。ただ思うように移民できる市民は限られていますし、香港で生まれた世代には香港こそわが故郷、という気持ちがあるでしょう。今回のような民主化運動も、そういう「香港人」意識がなければここまで盛り上がらなかったと思います。
>>通行人さん
香港の親中紙では定年と扱われていましたが実は失脚なんですか?これは興味津々。
>>河野羊平さん
リンク先拝見しました。「愛盟必死だなw」という感じですね。
>>Unknownさん
ロイター電ですね。香港でも報じられています。親中紙『香港文匯報』も掲載していたので信憑性は高いかと思います。上の熊光楷の失脚説と絡めると色々憶測できそうですね。
>>murunekoさん
すみません。勝手ながら次回のネタに使わせて頂きました。
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