●重症心身障害児の一日
「あーちゃん、おはよう」。午前7時、静岡市駿河区の匂坂(さぎ・さか)昌子さん(49)が、介護ベッドの明日香さん(13)に声をかける。はっきりした反応はないが、昌子さんにしか分からない目の動きがある。
出産直前に胎盤がはがれ、低酸素状態で明日香さんを生んだ。脳が出血した影響で障害が残る。寝たきりで体重約22キロ。骨密度が低く、これまでに13カ所を骨折した。食事はおなかに開けた穴に通した管で栄養や水分をとる。胃ろうだ。
昌子さんの一日は長い。午前5時に起床し、隣で寝ている明日香さんの状態を確認する。胃ろうは1日に4回。整腸やけいれん止めの服用薬は10種類ある。
明日香さんが動かせるのは、まばたきだけ。その表情を見ながら家事をこなし、排泄(はい・せつ)を手伝い、発作に備える。
明日香さんは県立特別支援学校中等部の2年生。午前8時半、身長145センチの昌子さんが明日香さんを抱え、ワゴン車で送り届ける。迎えは午後4時。ベッドに寝かせ、最後の胃ろうは午後10時半すぎ。やがて寝息が聞こえ、寝入ったことに気づく。昌子さんも同じベッドで眠りに就く。
昌子さんは「親が一時的に休める仕組みや施設がもっとあれば」と願う。明日香さんと暮らしたい一方で、肉体的な負担はぎりぎりだと感じている。
●障害児の居場所
静岡市中心部から北へ約2キロの場所に医療型障害児施設「つばさ静岡」はある。重症心身障害児が通ったり、暮らしたりする。
午前11時。車いすに乗せられて、入所者が共有スペースに集まってきた。言葉は少ないが、職員に見守られ、安心した様子が伝わる。病院機能もある。入所定員は60人で満員状態だ。
市によると、重症心身障害児の入所施設は2カ所あり、定員は計220人。市外からも受け入れており、市内の重症心身障害児130人(昨年3月末現在)のうち、入所者は11人。自宅で一緒に暮らすことを望む家族もいる。特別支援学校を卒業すれば、一日の在宅時間はさらに増える。
厚生労働省は施設を増やすより、訪問看護などのサービスを拡充する方針。「障害の程度や生活状況により必要なサービスが異なる。多くの選択肢を用意することに努める」という。
しかし、市の担当者は「それぞれに適したサービスが必ずしも充実しているとは言えない」とする。
●「実態の把握を」
重症心身障害児が生きていくのに必要な支援は何か。それを把握する取り組みが県内で始まっている。
3月末、県総合社会福祉会館(静岡市葵区駿府町)。重症心身障害児の家族や行政、施設職員らが集まって意見を交わした。
会議は予定時間を超えた。家族は「障害児がどのように生きているのか、行政は実態を把握すべきだ」と訴え、行政からは「個々のニーズを拾う方法が難しい」との声があった。
出席した「市重症心身障害児(者)を守る会」の牧野善浴(よし・ひろ)代表は、特別支援学校卒業後の受け皿がない状態について「政策的な問題。行政に投げ掛けていく」と話した。
メモ)重症心身障害児
重度の知的障害と肢体不自由が重複する子。日常生活に医療ケアが必要な人が多い。医師や看護師が常駐する施設に通ったり、入所したりして支援を受ける。児童福祉法と障害者自立支援法の改正で、重症心身障害児に対応する施設は4月から、「医療型障害児入所、通所施設」に名称が変わった。

声を掛けながら、胃ろうの準備をする匂坂昌子さん=静岡市葵区
朝日新聞 - 16 2012年05月05日
「あーちゃん、おはよう」。午前7時、静岡市駿河区の匂坂(さぎ・さか)昌子さん(49)が、介護ベッドの明日香さん(13)に声をかける。はっきりした反応はないが、昌子さんにしか分からない目の動きがある。
出産直前に胎盤がはがれ、低酸素状態で明日香さんを生んだ。脳が出血した影響で障害が残る。寝たきりで体重約22キロ。骨密度が低く、これまでに13カ所を骨折した。食事はおなかに開けた穴に通した管で栄養や水分をとる。胃ろうだ。
昌子さんの一日は長い。午前5時に起床し、隣で寝ている明日香さんの状態を確認する。胃ろうは1日に4回。整腸やけいれん止めの服用薬は10種類ある。
明日香さんが動かせるのは、まばたきだけ。その表情を見ながら家事をこなし、排泄(はい・せつ)を手伝い、発作に備える。
明日香さんは県立特別支援学校中等部の2年生。午前8時半、身長145センチの昌子さんが明日香さんを抱え、ワゴン車で送り届ける。迎えは午後4時。ベッドに寝かせ、最後の胃ろうは午後10時半すぎ。やがて寝息が聞こえ、寝入ったことに気づく。昌子さんも同じベッドで眠りに就く。
昌子さんは「親が一時的に休める仕組みや施設がもっとあれば」と願う。明日香さんと暮らしたい一方で、肉体的な負担はぎりぎりだと感じている。
●障害児の居場所
静岡市中心部から北へ約2キロの場所に医療型障害児施設「つばさ静岡」はある。重症心身障害児が通ったり、暮らしたりする。
午前11時。車いすに乗せられて、入所者が共有スペースに集まってきた。言葉は少ないが、職員に見守られ、安心した様子が伝わる。病院機能もある。入所定員は60人で満員状態だ。
市によると、重症心身障害児の入所施設は2カ所あり、定員は計220人。市外からも受け入れており、市内の重症心身障害児130人(昨年3月末現在)のうち、入所者は11人。自宅で一緒に暮らすことを望む家族もいる。特別支援学校を卒業すれば、一日の在宅時間はさらに増える。
厚生労働省は施設を増やすより、訪問看護などのサービスを拡充する方針。「障害の程度や生活状況により必要なサービスが異なる。多くの選択肢を用意することに努める」という。
しかし、市の担当者は「それぞれに適したサービスが必ずしも充実しているとは言えない」とする。
●「実態の把握を」
重症心身障害児が生きていくのに必要な支援は何か。それを把握する取り組みが県内で始まっている。
3月末、県総合社会福祉会館(静岡市葵区駿府町)。重症心身障害児の家族や行政、施設職員らが集まって意見を交わした。
会議は予定時間を超えた。家族は「障害児がどのように生きているのか、行政は実態を把握すべきだ」と訴え、行政からは「個々のニーズを拾う方法が難しい」との声があった。
出席した「市重症心身障害児(者)を守る会」の牧野善浴(よし・ひろ)代表は、特別支援学校卒業後の受け皿がない状態について「政策的な問題。行政に投げ掛けていく」と話した。
メモ)重症心身障害児
重度の知的障害と肢体不自由が重複する子。日常生活に医療ケアが必要な人が多い。医師や看護師が常駐する施設に通ったり、入所したりして支援を受ける。児童福祉法と障害者自立支援法の改正で、重症心身障害児に対応する施設は4月から、「医療型障害児入所、通所施設」に名称が変わった。

声を掛けながら、胃ろうの準備をする匂坂昌子さん=静岡市葵区
朝日新聞 - 16 2012年05月05日
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