ゴエモンのつぶやき

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「風俗」と「射精介助」、どう違うのか?  <障害者にとっての<性>と<生>を考える>

2016年07月22日 03時10分24秒 | 障害者の自立

障害のある人たちは、どのように自分や他人の性と向き合っているのでしょうか。それらの喜びや悩みは、障害の無い人たちと同じものか、それとも違うものなのでしょうか。
重度身体障害者の射精介助など障害者の性の支援に長年携わり、去年から今年にかけて『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』とベストセラーを連発した坂爪真吾さんの最新刊が、『セックスと障害者』(イースト新書)です。
今回、坂爪さんの東大時代の師匠・上野千鶴子さんをゲストに招き、フェミニズムの立場から見た障害者の<性>と<生>について、また弟子の言論活動についての評価など、縦横無尽に語ってもらいました。(2016年6月9日、八重洲ブックセンター本店)

「童貞喪失作」は推薦を頼まれても断ろうと思っていた

上野 私と坂爪さんはかつてのゼミ生とその教員という関係なんですが、今日は坂爪さんの新刊の出版記念トークですから、坂爪さんが主役で、私が脇役。今回、彼の本をこれだけ持ってきました(※坂爪さんの全著書5冊、『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館新書 2012)、『男子の貞操』(ちくま新書 2014)、『はじめての不倫学』(光文社新書 2015)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書 2016)、『セックスと障害者』(イースト新書 2016)を並べる)。この『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』が童貞喪失作?

坂爪 はい、童貞喪失作(笑)ですね。

上野 わざわざここで「ヘルパー」と書いてあるのは、誰かの手を借りないとセックスできない人たち、つまり身体障害者の性を…。

坂爪 そうですね。じつは「ヘルパー」という表現を自分は使っていなくて、編集の方が付けたタイトルではあるんですが。

上野 そういう舞台裏は言っちゃダメ、だって著者が同意しているんですから。

坂爪 ああ、そうですね、すみません。

上野 あなたは今度の新刊『セックスと障害者』で、初めて「障害」という言葉を本のタイトルに出したわけですね。
 ところで、あなたがつくったホワイトハンズというNPOは、まだみなさんもあまりご存じないし、興味があると思うけども、そもそも何をやるんですか? 

坂爪 いくつか柱がありまして、自力での射精行為が難しい重度の身体障害者への射精介助を、8年前から継続的に各地で実施しております。

上野 つまり、射精産業?

坂爪 介護という文脈でやっています。

上野 『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館新書 2012)の帯に、「東大・上野千鶴子ゼミ出身」って書いてあるのよね。この本が出る時に、もし推薦を頼まれたら断ろうと思っていたの。

坂爪 ……その心は?

上野 セックスというのは、すごく大きなジェンダー非対称性があるのね。だから男の射精にあたるものが女のオーガズムだとして、射精ヘルプの産業化はあったとしても、女性のオーガズムヘルプの産業化ってあるのかなって。ホワイトハンズさん、それについてはどうするの?

坂爪 基本的に女性のケアもしたいとは思っていまして、モニターは集めようとは思っているんですけど、なかなか当事者の方が声をあげてくださらなくて……。

上野 あなたのところにニーズは来ないでしょう。ということは、この『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』は基本、「男の、男による、男のための本」としか、読めなかったから。

坂爪 まぁ、それ自体は事実ですね。

上野 だから、偉そうに「性の公共」とか言うなよって(笑)。人口の半分が、抜けているんだからね。

射精介助はなぜ「異性」なのか?

上野 男性障害者対象に射精介助をやっているわけね。ただ、障害者介助の原則に「同性介助」というのがあるよね? ホワイトハンズさんは、原則それをやっておられると。

坂爪 基本は異性介助です。

上野 あ、基本、異性なんですか?

坂爪 女性スタッフが男性利用者にケアを行っています。一応は利用者の側が性別を選べるという仕組みにはしているのですが、ほぼ全員、女性を選ばれるので。

上野 男性も女性も料金が変わらない?

坂爪 基本的に一緒ですね、はい。

上野 なぜそこは同性介助じゃないんですか? 「マスターベーション介助」といったら、マスターべーションは自分の手なんだから、同性に決まっているじゃないですか?

坂爪 やっぱり、同性にされるのに抵抗があるという方がすごく多くて。同性でもいいという方も中にはいらっしゃるんですけど、やっぱり多数派は「女性のほうがいい」と。

上野 そこ、何だろうね? 私は、マスターベーションと性交ってまったく違うものだと思っているわけ。マスターベーションについては「自己と自己身体とのエロス的関係」、性交のほうは、「自己と他者身体とのエロス的関係」って定義している。
ここのところセクシュアリティ研究がずいぶん進んで、マスターベーションと性交というのはまったく別のもので、お互いに置き換え不可能なものだと。つまり、マスターベーションをさんざんやったら性交せずに済むとか、性交をさんざんやったらマスターベーションをしないとかいう類のゼロサムじゃないことが分かっってきました。データで見ると、セックスをやりまくっている人間ほど、マスターベーション頻度が高い。

坂爪 それはたしかにありますね。

上野 やっぱり社会学はエビデンスって大事です。だから、身体が全体にエロティサイズしていると、性交にもマスターベーションにもどっちにも向くというだけの話なんです。
ホワイトハンズは、デリヘルとは違うわけですよね?

坂爪 そうですね、趣旨的には。

上野 異性を介助に送り込んだとしても、その異性に、例えば風俗のような仕事をしてもらうわけじゃないわけですよね?

坂爪 そうですね。訪問介護という枠組みでやっていて。手袋つけて、ローションつけて……。

上野 それで、白衣を着て……。

坂爪 いや、そういうコスプレはしません。

上野 白衣もコスプレか(笑)。風俗系の射精産業とどこが違うんだろう?

坂爪 定義的な部分では、風俗は娯楽としてやっている部分が多いと思うんですけど、ホワイトハンズは介護という枠組みの中で、性の健康と権利を守るという立ち位置で行なっています。

上野 その「性の健康と権利」だけども、性欲を満たさなくて死んだ人はいないのよね(笑)。

坂爪 ただ、やっぱりQOLはガクッと下がると思うんですよ。

上野 そんなもんですか。

坂爪 はい、特に男性はやっぱりそういう方が多いですね。

上野 でも例えば、按摩さんとかマッサージに行くということであれば、基本は同性介助でもいいですよね? その時に異性を送り込むって、何なんだろう?

坂爪 たしかに、そこは突っ込めるかとは思うんですけど、逆に、「同性しか派遣しません」となっちゃうと、そもそも依頼が止まっちゃうと思うんですよね。

上野 そうでしょ(笑)。じゃあ、利用者の側には異性の介助者に対して、ある種のセクシュアルファンタジーがあってそれを利用してるんですね。

坂爪 そこは否定できない部分だと思います。

上野 私は、性欲と関係欲、つまり他者と関係したいという欲望は、区別したほうがいいと思っている。体のムラムラ感とか、緊張をほぐしたいという欲望であれば、本来、マスターベーションって自分の手でやるものだから、字分の手のエクステンションを使うというだけでしょ?

坂爪 そうですね、はい。

上野 そのうちロボットアームが使えれば、それでもいいの? それでもロボットアームなんか嫌だっていう人がいるの?

坂爪 TENGAなどのアダルトグッズを使うという案もあるんですけども、やっぱり普通に手のほうが手っ取り早いし、お金もかからないというのもありますね。

上野 それはロボットアームがまだローテクで高価だからというだけでしょ? やっぱりジェンダー非対称性を前提に、男向けの射精介助というところに特化しているので、最初の本(『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』)は、どうしても推薦する気にならなかった。
坂爪 ですよね、はい(苦笑)。

ジェンダー非対称性をどこまで意識しているか

上野 それから今回の『セックスと障害者』(イースト新書 2016)まで何年経ちました?

坂爪 えっと、4年ですね。

上野 この『セックスと障害者』はすごくまともな本だと思いました。今回、私に推薦のご依頼はなかったけど、もしあったら推薦してもいいなと思ったぐらい。

坂爪 ああ、そう言っていただければ光栄です!

上野 じつはその前にちゃんと推薦した本も1冊あるんです。『男子の貞操』(ちくま新書 2014)は、帯に「上野千鶴子氏推薦」と書いてある。これが、キミの書いた本の中で、いちばんまとも。

坂爪 いちばんまとも(笑)。

上野 うん、男の子の性教育に最適な教科書ね。性教育って、「自分の体とどう付き合うか」だけじゃないから。「相手の体を巻き込む時にどういう関係を作るか」という、すごくまともなことが書いてある。ちゃんと実践に裏打ちされている。坂爪君がどうやら妻という女性と愛し愛されていることがわかる、いい本だったわ(笑)。

坂爪 なんか、皮肉っぽいですけど(笑)。

上野 だけど、『セックスと障害者』も、あまりジェンダー非対称性を意識して書き分けられていないよね。

坂爪 そこまでみっちりとはやっていないですね。

上野 男の性と女の性、「違うものは違うように論じようぜ」って、基本、思うんだけど。

坂爪 たぶん、そこまで社会の認識が進んでないというか、まず障害のある人に性があると分かってもらった上で、話を進めたいっていう部分があって。

上野 だから、「ボクちゃん、男の性のことしかわからないから、男の性についてだけ書きます」って言えばいいと思うけど。

坂爪 もちろんそれでもいいんですけど、できれば議論の射程を広げたいという野心というか欲はあったので。

上野 射程を広げたいなら、違うものは違うものとして、ちゃんと論じること。ゲイ/レズビアン・スタディーズもそうなんだけど、差別発言だって言われそうだけど、ゲイだろうがストレートだろうが「男はしょせん男」って、私は思っているからね。だから、「ゲイの人たちがレズビアンのこともわかるみたいなふりをしないでほしい」と思っちゃうんだよね。

坂爪 それはありますね。代弁はできない。

結婚なんか推進してどうする?

上野 『セックスと障害者』(イースト新書 2016)の帯には、「愛される障害者から愛する障害者へ」ってあるでしょ。愛し愛される関係が障害者にもあって当たり前なんだという、そこをちゃんと書いたのはすごくいい。

坂爪 あ、ありがとうございます!

上野 そうなると、関係欲というものが出てくる。性愛とひと言で言うけど、性と愛って同じものじゃない。だから、関係欲の中で、他者身体と関係したいという時の関係の仕方が、「愛し合いたい」なのか「他者身体を支配したい、思うようにコントロールしたい」なのかは大きな違い。「他者身体を搾取したい」とか「虐待したい」とかなら、そんな欲望を介助する必要なんか何もない。

坂爪 それはまったくないですね。

上野 障害者だからって、そんな欲望を認める権利も必要もない。だから、その中で「愛し愛される」関係というのは、障害があろうがなかろうが、誰もが持っている欲望だし権利だっていうことが、ここで言いたかったわけ?

坂爪 基本はそうですね。「愛される障害者」になるべきという考えが今まで支配的だった。支援者側の家族・職員にとって管理しやすい従順な障害者像が理想とされてきた。ただ、それでは障害者が性愛になかなかコミットできない部分が多い。いろんなトラブルが起こるかもしれないけれど、これからは障害者が「愛する」存在として主体的に性に関わっていけるような支援に転換すべきだと言いたかったんです。

上野 能動的な愛する存在になるというのはもちろん、誰にとってもすごく大事なこと。でも、恋愛したりお付き合いしたりするというのは、「まっとうな対人関係のスキルを障害者もちゃんと身につけよう」ということになって、障害者の恋愛とか結婚とかが出てくる。でも、やっぱりもうひとつ分からないのは、なぜ結婚がゴールなわけ?

坂爪 あ、結婚がゴールじゃないとは一応書いてあるんですよ。共同生活も含めてですけど。もちろん結婚がゴールだということに異論がある人はいらっしゃるとは思います。

上野 でも、ちゃんと「障害者の結婚推進事業」に一章分、割いてあります。結婚を推進してどうするわけ?

坂爪 いやいや、結婚を否定的に見る方はそう思われるとは思うんですけど(笑)。

上野 こういう言い方をしたら、ただちに「障害者に結婚する権利はないのか!」って反発が来るんだけど。安積遊歩さんという車椅子の障害者の女性が、人並みになりたいと思って結婚したら、結婚制度の中で普通の女並みの抑圧を受けることと同じだと、やってみて気がついて、「やめた、あほらしい」って降りたのね。結婚する前に気がつけよって思うけど(笑)。だから、「結婚推進事業」とか言われると、すごく違和感がある。

坂爪 そこもたしかに分かるんですけど、そもそも結婚という選択肢がない状態よりもいいと思うんですよね。自分でするかしないかを選べる。やっぱり選べないというのはいちばん良くないことだなと思っていて。強制しているわけではまったくないです。

上野 それもわかるけど、当事者の側に「人並み思考」というのがあるだけじゃなくて、どうやらこういう推進事業をしている支援者の側にも、「結婚することが幸せだ」という思い込みから、障害者の女性に健常者女性並みの抑圧を経験するように勧める、っていう逆説もあるんじゃないかしら。

坂爪 それはあるとは思いますね、はい。

上野 もちろん選択肢があるというのは、すごく大事だけどね。

坂爪 それはみんなが結婚できるようになった後に出てくる論点だと思うので、順番の問題かなと思います。

上野 結婚してから気がつくって、そんなプロセスをたどらなくてもいいのでは。例えば、最近の発展途上国の開発ルートには、工業化して公害などを経験してから次の段階に行くんじゃなく、工業化をスキップして最初からクリーンな脱工業化に行くという発展の仕方もありますから。

坂爪 ああ、なるほど。

上野 それは、先に歩んだ人たちの背を見て学んでいただければいいと思うので(笑)。『セックスと障害者』(イースト新書 2016)には、最終的には誰にでも当てはまる、普遍的な対人関係のスキルが書いてあって、すごくまっとうな本だなって思いました。

坂爪 ああ、ありがとうございます、はい(笑)。

  • BLOGOS   2016年07月21日

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