「(ロンドン五輪の)パラリンピックのチケットは、オリンピックよりもずっと早く完売した。なぜだろう、と思ったのが取材の始まり」
と語るのは、ロンドン在住23年の松任谷愛介さん。日本と欧州でそれぞれの文化を紹介する、音楽・映像・イベントをプロデュースしている。
調べた結果、五輪開催に向けて社会基盤のバリアフリーが進んだことに加え、障害者とごく普通に接することができる"心のバリアフリー"が進んでいることが、パラリンピックへの関心の高さに現れたことがわかった。
ロンドンのバリアフリー事情について、松任谷さんにたずねた。
松任谷愛介さん
KING'S HEAD THEATRE PUB エンジェルのアッパーストリートにある歴史あるロンドンパブ。車椅子でも入店可能。手話スタッフや盲導犬も待機する障害者フレンドリーな店だ .
―バリアフリーが進むロンドンの様子を表現すると?
わかりやすいのは、五輪の開会式じゃないかな。
開会式の時にみんなで踊ったんだけど、北京の開会式のように振り付けがはっきり決まってなくて、みんなが自由に踊っている、そのなかに車椅子の人も入っていて、やっぱり自由に踊っている。その感じ。
ロンドン大会から、オリンピックとパラリンピックがまったく対等な扱いになり、テレビCMにも、両方の選手が一緒に出ていた。注目度も同じぐらい高い。
ブラインドフットボールの選手デイブ・クラークさんは「『サッカーできるんだって、すごいね』ではなく『メダル取れそう?』と話しかけられるようになった。障害者20+ 件に対する"同情"という要素が取り除かれたように思う」と言っていた。
こんな土壌の中で、パラリンピックを経験する。これからロンドンは相当変わるんじゃないかな。
| 「特別扱い」を無くす
--------------------------------------------------------------------------------
―今後の展開はどうなりますか?
2005年に五輪開催が決まって以降、ロンドンのハードとソフト面のバリアフリーは加速した。英国では5~6年前から障害者20+ 件と健常者が同じ社会の土壌に立つ"インテグレーション"という考えに取り組んできて、それはほぼ実現された。しかしその過程で、健常者が障害者20+ 件に気を使ってしまう「特別扱い」が問題になってきた。
これからは同じ土壌で扱いも同じにする"インクルージョン"に取り組んでいこうというのが、英国社会の大きな流れです。
―"扱いも同じ"とは?
2010年に平等法(Equality Act)が制定され、障害を理由にした扱いの違いを一切排除した。この法律は英国バリアフリーの最先端ですね。
この法律によって社会の負担は増えている。たとえば日本にある「特殊学級」という考え方を取れなくなった。障害があってもなくても、同じ教室で同じように勉強する。そのかわり補助教員を付ける。それも「クラスみんなの勉強をサポートするため」という名目になる。
<imgsrc="https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/36/1e30539165a05fc649f466f039046636.jpg" border="0">
右)女優のソフィー・パートリッジさん。骨形成不全症を持って生まれる。「スポーツも芸術も人々のバリアを無くすものとしてとても重要」と語る http://www.sophiepartridge.com/
―インフラ整備の面はどうですか?
英国は街並みを維持したいという気持ちが強いために整備が進みにくい。しかし平等法や五輪開催のおかげで、最近は進んできている。段差解消工事をして石畳をはがした場合は、後から石畳に見えるように復元するなど工夫してる。
障害者20+ 件のために行う整備は社会が負担するが、扱いも同じにしないといけない。たとえば、自分の店で脳障害のある人が大声を出していても「お引き取りください」と言うと基本的には違法。事業者にとっては設備投資をしたうえに、営業上も負担が増すことになるんだよね。
| 騎士道の精神
ロンドンの象徴「ブラックキャップ」。車いす用の傾斜台、回転座席、高視認性の操作パネル...など配備
―不満の声は上がらないのですか?
障害者に対して社会資本が流れすぎているのではないか、と批判する人はいるけど、「方向性が間違っている」という人はいない。
英国は騎士道があるから、お互いを尊敬し、強いものは弱いものを助けるという考え方が昔からある。アングロサクソンにはずっとある文化だと思う。
―障害者の家庭に日英で違いはありますか?
日本には"健常者以外の社会"に対する区別意識が、まだあるのかもしれない。それを察して、日本人は親が障害者の子供をあまり表に出さない。
普段から障害者と接していれば普通に話せるけど、そもそも日本では普通に生活していると、周囲に障害者がいない。言葉で説明してもピンと来ないからね。いざ障害者と接すると、どうしたらいいか分からなくなってしまう。
英国では障害がある子供も普通の子と同じように扱おうとする。外に出してあげたい。多少いじめられたとしてもそれに対して社会がセーフガードで救ってくれる、とポジティブに考える親が多い。
| 互いに努力して理解
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―英国人はどうして普通に接することができるのですか?
英国では子供たちが障害者をよく理解している。
障害者のダンスグループが学校など地域社会に出ていって、パフォーマンスをする。ごく普通の家庭でも障害者の催し物に足を運ぶ。パラリンピックのチケットが早々に完売したのも、地域や学校が買っていくから。
日頃から接していれば、お互いが理解できる。子供たちがおとなになった時に普通に接することができるんだよね。
家庭や学校生活の中でいかに多く障害者と接する機会があるか、それが"教育"だと思う。
photographs by Maximilliano Braun
*松任谷さんは英国のバリアフリー事情について、木楽舎発行の月刊「ソトコト」9月号に詳しい記事を掲載しています
HP: http://www.sotokoto.net/jp/
47NEWS - 2012年(平成24年)8月18日 [土曜日]
と語るのは、ロンドン在住23年の松任谷愛介さん。日本と欧州でそれぞれの文化を紹介する、音楽・映像・イベントをプロデュースしている。
調べた結果、五輪開催に向けて社会基盤のバリアフリーが進んだことに加え、障害者とごく普通に接することができる"心のバリアフリー"が進んでいることが、パラリンピックへの関心の高さに現れたことがわかった。
ロンドンのバリアフリー事情について、松任谷さんにたずねた。
松任谷愛介さん
KING'S HEAD THEATRE PUB エンジェルのアッパーストリートにある歴史あるロンドンパブ。車椅子でも入店可能。手話スタッフや盲導犬も待機する障害者フレンドリーな店だ .
―バリアフリーが進むロンドンの様子を表現すると?
わかりやすいのは、五輪の開会式じゃないかな。
開会式の時にみんなで踊ったんだけど、北京の開会式のように振り付けがはっきり決まってなくて、みんなが自由に踊っている、そのなかに車椅子の人も入っていて、やっぱり自由に踊っている。その感じ。
ロンドン大会から、オリンピックとパラリンピックがまったく対等な扱いになり、テレビCMにも、両方の選手が一緒に出ていた。注目度も同じぐらい高い。
ブラインドフットボールの選手デイブ・クラークさんは「『サッカーできるんだって、すごいね』ではなく『メダル取れそう?』と話しかけられるようになった。障害者20+ 件に対する"同情"という要素が取り除かれたように思う」と言っていた。
こんな土壌の中で、パラリンピックを経験する。これからロンドンは相当変わるんじゃないかな。
| 「特別扱い」を無くす
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―今後の展開はどうなりますか?
2005年に五輪開催が決まって以降、ロンドンのハードとソフト面のバリアフリーは加速した。英国では5~6年前から障害者20+ 件と健常者が同じ社会の土壌に立つ"インテグレーション"という考えに取り組んできて、それはほぼ実現された。しかしその過程で、健常者が障害者20+ 件に気を使ってしまう「特別扱い」が問題になってきた。
これからは同じ土壌で扱いも同じにする"インクルージョン"に取り組んでいこうというのが、英国社会の大きな流れです。
―"扱いも同じ"とは?
2010年に平等法(Equality Act)が制定され、障害を理由にした扱いの違いを一切排除した。この法律は英国バリアフリーの最先端ですね。
この法律によって社会の負担は増えている。たとえば日本にある「特殊学級」という考え方を取れなくなった。障害があってもなくても、同じ教室で同じように勉強する。そのかわり補助教員を付ける。それも「クラスみんなの勉強をサポートするため」という名目になる。
<imgsrc="https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/36/1e30539165a05fc649f466f039046636.jpg" border="0">
右)女優のソフィー・パートリッジさん。骨形成不全症を持って生まれる。「スポーツも芸術も人々のバリアを無くすものとしてとても重要」と語る http://www.sophiepartridge.com/
―インフラ整備の面はどうですか?
英国は街並みを維持したいという気持ちが強いために整備が進みにくい。しかし平等法や五輪開催のおかげで、最近は進んできている。段差解消工事をして石畳をはがした場合は、後から石畳に見えるように復元するなど工夫してる。
障害者20+ 件のために行う整備は社会が負担するが、扱いも同じにしないといけない。たとえば、自分の店で脳障害のある人が大声を出していても「お引き取りください」と言うと基本的には違法。事業者にとっては設備投資をしたうえに、営業上も負担が増すことになるんだよね。
| 騎士道の精神
ロンドンの象徴「ブラックキャップ」。車いす用の傾斜台、回転座席、高視認性の操作パネル...など配備
―不満の声は上がらないのですか?
障害者に対して社会資本が流れすぎているのではないか、と批判する人はいるけど、「方向性が間違っている」という人はいない。
英国は騎士道があるから、お互いを尊敬し、強いものは弱いものを助けるという考え方が昔からある。アングロサクソンにはずっとある文化だと思う。
―障害者の家庭に日英で違いはありますか?
日本には"健常者以外の社会"に対する区別意識が、まだあるのかもしれない。それを察して、日本人は親が障害者の子供をあまり表に出さない。
普段から障害者と接していれば普通に話せるけど、そもそも日本では普通に生活していると、周囲に障害者がいない。言葉で説明してもピンと来ないからね。いざ障害者と接すると、どうしたらいいか分からなくなってしまう。
英国では障害がある子供も普通の子と同じように扱おうとする。外に出してあげたい。多少いじめられたとしてもそれに対して社会がセーフガードで救ってくれる、とポジティブに考える親が多い。
| 互いに努力して理解
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―英国人はどうして普通に接することができるのですか?
英国では子供たちが障害者をよく理解している。
障害者のダンスグループが学校など地域社会に出ていって、パフォーマンスをする。ごく普通の家庭でも障害者の催し物に足を運ぶ。パラリンピックのチケットが早々に完売したのも、地域や学校が買っていくから。
日頃から接していれば、お互いが理解できる。子供たちがおとなになった時に普通に接することができるんだよね。
家庭や学校生活の中でいかに多く障害者と接する機会があるか、それが"教育"だと思う。
photographs by Maximilliano Braun
*松任谷さんは英国のバリアフリー事情について、木楽舎発行の月刊「ソトコト」9月号に詳しい記事を掲載しています
HP: http://www.sotokoto.net/jp/
47NEWS - 2012年(平成24年)8月18日 [土曜日]
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