春日部市の社会福祉法人「ともに福祉会」の第20回支援コンサート(毎日新聞埼玉東支局など後援)が10月31日、同市粕壁東2の市民文化会館大ホールで催される。今回は歌手歴50周年を迎える加藤登紀子さんが出演する。コンサートの副題は「終わりなき歌」。コンサートを前に、加藤さんと「ともに福祉会」の矢口幸一理事長が障害者福祉を巡って対談した(対談名は敬称略)。
◇利用者を主人公に運営 矢口幸一理事長
加藤 1979年が障害者福祉にとって大きな節目になったそうですね。
矢口 もともとは障害の重い人は学校に通いたくても通えなかったのです。それを改め79年から義務制がスタートしました。中卒まで学校に通えるようになりました。教育権は曲がりなりにも保障されたのですが、今度は卒業した後、働く場がないという問題にぶつかりました。行き場がない、と親御さんの不安は募ります。そこで私たちは、卒業後もみんなが通える施設を作ろうという取り組みを春日部市で始めました。
加藤 私も2011年から千葉で社会福祉法人を運営している方から声がかかり、ユニバーサルな社会づくりをする運動のお手伝いをしています。その一つが「うちの実家」という活動をしているグループです。使われなくなった民家を共同で借り、誰もがお昼ご飯を食べることのできる場を提供しています。地域のおかみさんたちが50人分ほどのカレーとか汁物を調理する。入り口の戸を開放しておきます。申し込みもいらない、ぷらっと来てお昼ご飯を食べていく。私が訪れた時、入り口に盲導犬を連れた人がいて、部屋のテーブルを囲んで脳卒中の後遺症で手足が不自由な人、ろうあ者や盲目の人、引きこもりだった男の子、いろんな人たちがいて、畳に座れない人は椅子に座ったり好きにしていていいんです。私が何かお話をすると、誰かが自動的に手話を始める。ご飯を自分で食べられない人には周りの4人が食べさせてあげている。なんとなく、障害を持っている人が一番偉いという感じなの。そこに不思議なコミュニティーが生まれている。
矢口 いいお話ですね。私が目指したいものとオーバーラップします。私も1984年に、いきなり施設づくりではなく、いろいろな市民が寄り集まって、「障害のある人の問題を考えていこうじゃないか」という市民の会を作りました。それが今の活動のベースになっています。そこでの理念は、利用している仲間たち一人一人を主人公にした運営をする、もう一つはどんな障害を持つ人も当たり前に暮らせる地域づくりを目指すというものです。「箱づくり」が目的ではなく、そこを拠点に障害者が自分の力を発揮して一人の市民として活躍する。加藤さんの活動は私たちの先を行っています。
加藤 障害を持つ人だけでなく、そこで支援活動する人たちも楽しそうなのよ。ここでなら自分も役に立てそうだと、進んで実行委員会に入った人やリタイアして暇を持て余していた高齢者が広報を担当、「うちの実家」に集まってくる人の写真を撮ったりしている。そういう姿を見て、本当に感動しました。
矢口 私たちもいろいろな人に支えられながら活動しています。私たちの取り組みは、多くのみなさんの理解や協力のもとで作り出されたものであり、みんなの共有財産だと考えています。
加藤 さまざまな違う個性の人が集まると、にぎわうんです。命の華やぎというのは、ちょっとずつ違う個性から生まれる。障害を持つ人と接していると、命が本来持っている可能性を発見でき、逆に勇気づけられます。障害者、健常者いろんな方が寄り集まると、命が華やぎます。
矢口 まったくそうですね。
加藤 コミュニティーって、そういうことで生まれるのよ。自分の子供が障害を持つことで苦しんできたお母さんが矢口さんの施設で、他のお母さんと一緒になって頑張る。そういうコミュニティーを持った人たちは人間としての存在感が違います。
矢口 私もそれを感じます。私たちの活動の基本スタンスは、住宅の販売に例えるならば、建て売りではなくて、注文建築なんです。障害を持つ人、ご家族の方のいろいろな願いを受け止めながら、みんなでそれにふさわしい場を作っていく。こちらが作ったものに「入ってちょうだい」ではない。ただ、多様な願いがありますので、それを全部かなえるのが難しい。一つのものを作り上げるには、みんなの力を集中しないと具体的な形になっていかない。ですから、自分の考えはちょっと違うと思いながらも、みんなで決めたことに歩み寄ることも必要です。今回はこの願いを具体化した、次はこちらの願いを実現しようとみんなが確認し合いながらやってきました。
加藤 大昔の社会では、障害を持った人は神さま、自分たちの守り神だと言われていました。障害者を真ん中に置いて、みんながまとまる。預言者とか、みんなを見守る、ある種の神様の役割を果たしていたのです。ところで、私は障害者の人たちとミュージカルを創るプロジェクトにもかかわったことがあります。そのミュージカルを見ていますと障害者のエネルギーがすごい。感動しますね。言葉でなく体で演じている。子供たちはステージにパーッと飛び出してきてリズムに乗って踊る。普通の子供たちは自在に動けるから、動くことに対する感動があまりないが、障害者たちは数十倍のエネルギーがほとばしる。身体的なそれぞれの特性が輝き出す。それが素晴らしい。表現の可能性が無限大にあることを感じます。このプロジェクトは、募金は集まるだろうし、公演する建物は建つでしょう。しかし、ずうっと運営していくためのビジネス・プランがまだできていなくて途中で止まった状態です。
◇障害者の方と歌いたい 加藤登紀子さん
矢口 加藤さんには9年前の私たちのコンサートに出演していただきました。加藤さんと言えば、ほろ酔いコンサートというか、大人のイメージが強いのですが、障害者が参加するコンサートはどのようなお気持ちで歌っているのですか。
加藤 それは楽しいですよ。喜びが表情豊かに伝わってきて、普通のコンサートよりずうっと楽しい。今回のコンサートも障害を持つ人たちの身体的動き、声を上げたりするのも抑制しないで自由にしていただきたい。一緒に楽しむと、私にとって音楽は信じられると感じる瞬間です。実はいま、相田みつをさんの詞に私が曲をつけている最中でして「人間だもの」というタイトルです。詞の一部はこうです。「つまづいたって いいじゃないか 人間だもの そのままで いいがな 人間だもの 弱きもの人間 欲深きものにんげん 偽り多きもの にんげん そして人間のわたし」。今度のコンサートで歌う予定をしています。このコンサートで、また新しいコミュニティーが生まれるような一日にしたいです。私は燃えています。コンサートのラストに障害者の方たちもステージに上がっていただき、一緒に歌いたいわ。
矢口 そうおっしゃっていただけると、本当にうれしいです。私たちが主催するコンサートは、地域のみなさんに私たちの取り組みを報告する機会ですし、ご支援いただいている皆さんに感謝の気持ちを表す場でありますし、もちろん施設を利用している障害者の人がいろんなパフォーマンスをする中で、それを見て、聞いて、知って、理解を広げていただく機会でもあります。そういう意味では非常にメッセージ性の高いイベントだと思っています。加藤さんが言われた「命の華やぎ」が感じられるコンサートになったらいいなあと思っています。加藤さんのお話を聞いて、こちらもリラックスして当日を迎えられそうです。
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コンサートは31日午後5時開演。S席6300円、A席5300円。問い合わせは「ともに福祉会」コンサート実行委員会(電話048・763・2570/月〜金の午前10時〜午後3時)
2015年09月30日 毎日新聞